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1980年から1989年まで

1980年代には、それまであまり重視されていなかった、図書館利用において不利な立場にある人々(具体的には、受刑者、聴覚障害者および読みやすい出版物を必要としている人々)への図書館サービスに対する国際的な関心が明らかになったことを受けて、分科会は再び規約の見直しを行った。最初の改正案は1981年に出されたが、それは受刑者に対する図書館サービスに関する提案であった。(77) 専門理事会は、対象を追加する必要があることに同意したが、関心の拡大を反映するために、分科会は名称を変更しなければならないと考えた。名称は変更され、「図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)」という新しい名前が選ばれた。(78)新規約は次のようになった。

  • 地域社会で他の人々が利用できる図書館サービスを利用することができない人々(例 入院患者や刑務所入所者)に対するサービスの促進
  • 利用可能な図書館サービスの利用が難しい人々(例 家から外出できない人々、センターを利用している高齢者や老人ホームで暮らしている高齢者)に対するサービスの促進
  • 地域で暮らしている障害者(例 知的障害者、聴覚障害者を含む身体障害者)に対する図書館サービスの促進
  • 病院内の図書館の改善と、この分野における専門技術の促進
  • 障害者の読書に関する問題を討議する会議の開催(79)

刑務所図書館について、分科会では、利害関係をまとめたり、評価したりする作業部会の設立を投票により決定した。設立後すぐに作業部会は、1985年のIFLA年次大会でオープンセッションを開催し、(80)その翌年には大会前に合同事前セミナーを開催して、作業部会が実施した調査の結果を配布した。(81) 驚くべき行動力をもって、作業部会は次に1988年のシドニーにおける会議で公開会議を開催し、半日のワークショップと刑務所図書館のスタディツアーを実施した。翌年には、大会に先立ち刑務所図書館サービスに関する事前セミナーを開催し、設立からわずか5年後の1990年には、『受刑者のための図書館サービスガイドライン(Guidelines for Library Services to Prisoners)』の最終原稿を作成した。また、「子供の人格を育てよ、そうすれば成人後更生させる必要はない」と謳った刑務所図書館の運営に関するワークショップを共同開催し、各国の事例を取り上げた。(82) 1980年代末には、作業部会の絶え間ない努力の結果、受刑者に対する図書館サービスは、分科会において発展の可能性を秘めた中心的な活動となり、この分野専門の国際ガイドラインがその後まもなく出版されることになった。

聴覚障害者に対する図書館サービスの提供に向けた組織的な取り組みは、1980年代初期のIFLA年次大会で定着していった。当時分科会は、聴覚障害者が「おそらくこれまで図書館司書によって無視されてきた、障害のある読者の大集団である」ことに同意していた。その後、分科会ではこの問題に取り組む作業部会を設立し、作業部会の設立後すぐに1983年のIFLA大会で公開会議が開催された。翌年分科会は、情報誌『聴覚障害者ニュースレター(Deaf Newsletter)』(83) を発行し、その後すぐに研修マニュアルの原稿を作成、コメントを得るために回覧した。さらに、「閉ざされた耳のために扉を開く」と題された会議を開催した。1988年3月にニューサウスウェールズ州立図書館で開催されたこの会議には、145名の参加者が集まった。そして同年IFLA年次大会にて、世界ろう連盟(World Federation of the Deaf)に対し諮問資格を与える決議の草案を作成することを、分科会全体の投票により決定した。 (84)最後に、非常に歴史の浅いこの作業部会の重要な成果として、『聴覚障害者のための図書館サービスガイドライン(Guidelines for library services to deaf people)』の作成があげられる。このガイドラインはその後承認され、発行された。(85)

1980年代後半に、分科会では、読みやすい図書の利用者のニーズに専心する作業部会を設立した。分科会委員長は、次のように述べた。

…読みやすい図書の出版の促進は何よりも重要である。言葉を習得する前に聴覚障害者となった人は、読みやすい図書を必要としている。知的障害者や失語症、ディスレクシアの人、病気や薬の服用、疲労、あるいは高齢が原因で集中困難に苦しんでいる人、新たに到着した移民、半文盲の人など、その他の多くの障害者や不利な立場にある人々も同様である。(86)

作業部会は設立後間もなく、「読みやすい図書(ER)」の出版に関する情報交換のためのセミナーを開催した。 (87)また、IFLA年次大会で最初の会合を開き、その目的を正式に文書にまとめた。その後間もなく、国際セミナー(オランダ、ティルブルフ)を開催し、そこで「読みやすい」資料の製作と配布のさまざまな局面に関する論文が発表された。(88)この活動すべてが、「読みやすい図書」資料のためのガイドラインの作成へとつながり、ガイドラインは1990年代に発行された。

分科会は、支援対象である、図書館利用において不利な立場にある利用者の範囲を拡大すること以外にも、2つの重要な活動を成し遂げ、これらについてIFLAでは、専門報告書シリーズの第1号および第2号として発行した。第1号は『知的障害者のための図書:選択の手引き(Books for the mentally handicapped: A guide to selection)』で、児童図書館分科会(Section of Children’s Libraries)と共同で制作された。第2号は、分科会の主導のもと、作業部会によって作成された、『入院患者および地域の障害者にサービスを提供する図書館ガイドライン(Guidelines for libraries serving hospital patients and disabled people in the community)』である。(89) 作業部会は分科会が従来作成していた基準ではなく、ガイドラインを開発することを選択した。なぜなら、この分科会特有の柔軟性により、さらに多くの状況のもとで一層役立つガイドラインにすることができると判断したからである。理想としては、ガイドラインが先進国と開発途上国の両方に対し、地域の状況に合わせて調整できる手段を提供することが期待された。(90)LSNもこのやり方を継承している。

最後に、分科会は、入院患者および障害者に対する図書館サービスに関する2回目の国際研修を、今回はストックホルムで開催した。北欧の図書館協会および図書館センターの後援を受け、15ヶ国から40名が1週間のプログラムに参加したが、その中には「第三世界」諸国から参加した4名の図書館司書も含まれていた。(91)