序論
2008年末IFLAは、「図書館利用において不利な立場にある人々へのサービス分科会(LSDP)」という名称を、「特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会(LSN)」へ変更するという、LSDPによる提案を承認した。前回の名称変更と同様に、新名称が分科会の現在の活動をより反映しているだけでなく、その関心領域をめぐる専門用語に再び重大な変化が見られたこともあり、変更の必要性が感じられたからである。*
名称は新しくなったが、この分科会が1931年までさかのぼるIFLA最古の分科会の1つであることに変わりはない。分科会は同年、病院図書館(患者図書館)小委員会(Sub-committee on Hospital Libraries)として創設され、その使命は、入院中の人々、つまり病院に閉じ込められているがために、通常の図書館資料を利用できない人々に対する、専門的な図書館サービスの促進であった。本と読書を治療を助ける手段として利用する読書療法は二の次だった。しかし小委員会はすぐに、入院の直接的な原因ではないことが多いさまざまな障害のために、感覚補助具・運動補助具などが使用できる特別な資料や特別なサービスを必要としている患者がいることに気づいた。このようなニーズはまた、さまざまな理由により外出ができない、地域の人々にも認められることが明らかになった。このニーズを憂慮し、多種多様な委員を抱えているがために問題解決に取り組みやすい立場にあった小委員会では、理由は何であれ従来の図書館や資料、サービスを利用できない人々を対象として含めるべく、長い時間をかけて焦点を拡大していった。
LSNは、その長く、実り多き歴史全体を通じて、その使命に驚くほど忠実であり続け、それゆえに今日も、地域において従来の図書館資料が利用できない人々のために支援活動を続けている。そのような人々の中には、入院中あるいは服役中の人々、介護施設にいる高齢者および障害者、家から外出できない人々、聴覚障害者、身体・認知・発達障害者などがいる。各分野で幅広い専門知識を持つ常任委員に、常に恵まれているおかげで、LSNはその活動の中でも特に、特別なニーズのある人々に対する図書館サービスのガイドラインの開発を続けている。これらのガイドラインは、これまで全部で15ヶ国語に翻訳され、世界各地で使用されている。本概観執筆時点で、それらはIFLA専門報告書(Professional Report)の50%近くを占めている。(専門報告書シリーズの刊行が1984年に開始されたとき、分科会がその最初の2つの出版物を作成したことを考えれば、これは驚くべきことではない。 (1))
*注:歴史的正確性を期するために、本概観では、分科会の発展に伴い、さまざまな時 代に使用されていた、特別なニーズのある人々に関する専門用語をそのまま使用し、 また再現している。