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万人のための情報:
ESCAP(アジア太平洋経済社会委員会)- CDPF(中国障害者連合会) アジア太平洋地域の障害のある人のためのアクセシブルな知識、情報およびコミュニケーションに関するワークショップ

2015年12月15日-17日
中国 上海

ワークショップ開催の背景

知識、情報およびコミュニケーション(KIC)へのアクセスは基本的人権であり、個人と社会の両方が発展するための前提条件である。知識と情報の自由なコミュニケーションは、社会発展の基礎を成す。KICのネットワークによって初めて、人は教育を受け、技術は革新され、ビジネスは推進され、コミュニティはさらに繁栄し、団結を強める。KICサービスへのバリアフリーなアクセスを促進する政府は、全国民の社会、経済および文化の進歩への貢献を可能にする。

多くのアジア太平洋諸国において、KICサービスがアクセシブルな形式で提供されていなかったり、利用できなかったり、あるいは、手頃な価格ではなかったりするために、障害のある多くの人が自立し、他の人との平等を基礎として生活することができずにいる。KICへの権利の否定は、教育を受ける権利、働きがいのある人間らしい仕事に就く権利、政治的なプロセスに参加する権利、医療サービスを利用する権利、法的権利を行使する権利など、他の多くの人権の実現を制限する。感覚器官の障害や知的障害のある人は、特にこの点で取り残されている。なぜなら、文書資料、電子機器、視聴覚メディア、基本的な通信形態、公共情報など、多くのKICサービスは、彼らのニーズを統合していない形式で作られているからである。

アジア太平洋地域だけで、6億5千万人の障害のある人がおり、これは世界の全人口の15パーセントに当たる。この数字は、高齢化などの要因により、増加傾向にある。このため、障害のある国民がコミュニケーションをとり、知識と情報にアクセスできるようにすることが、ESCAP加盟国にとって、今かつてないほどに重要となっている。障害のある人の権利を守ることに加えて、全国民へのアクセシブルなKICサービスの提供を支援する政府は、労働力参加率の上昇といった経済的な利益や社会保障サービスの需要の低下を見ることになり、その結果、GDP成長率も高まる可能性がある。

ESCAP地域の加盟国は、世界および地域レベルで、この問題に関して行動を起こすと約束した。国連障害者権利条約(CRPD)は締約国に対し、「障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすること」を要求しているが、その中でも極めて重要なのが、「情報を利用する機会を有することを確保する」という部分である。また、同条約を批准したアジア太平洋地域の39の加盟国は、障害のある人が「人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値」のみならず、「自由な社会に効果的に参加する」自由をも発達させることを支援すると約束した。アジア太平洋地域で独自に定められた障害インクルーシブな開発目標であるインチョン戦略では、「知識、情報およびコミュニケーションへのアクセスは、障害者がインクルーシブな社会においてその権利を実現するための前提条件である」ことを再確認している。一方、最近採択された持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年以降のグローバルな開発に向けて、明らかに障害インクルーシブで、包括的かつ人中心のアプローチをとっており、障害のある人の権利の実現に新たな弾みをつけるものである。

アジア太平洋経済社会委員会と中国障害者連合会(CDPF)による「万人のための情報:ESCAP-CDPFアジア太平洋地域の障害のある人のためのアクセシブルな知識、情報およびコミュニケーションに関するワークショップ」の開催には、このような背景がある。この地域ワークショップは、2015年12月15日から17日まで、中国の上海で開催され、権利擁護活動をしている障害のある人々、政府専門家および技術専門家らによる実のある対話を通じて、各国政府のアクセシブルなKICサービス提供能力の構築を図る。

なぜ「知識、情報およびコミュニケーション」なのか?

「情報が与えられなければ、世界は一層暗く、息が詰まるような所になる。情報がなければ、つまり、記録、報告書、本、ニュース、教育…そういったものがなければ、経験可能な範囲が次第に狭められ、無知の暗がりの中に入りこんでしまう。」1)
インディアナ大学  ルイス・M・ロチャおよびサンチアゴ・シュネル

インチョン戦略は、各国政府に対し、「知識、情報およびコミュニケーション」(KIC)へのアクセスを高めることを求めている。KICは、より一般的な「情報通信技術」(ICT)よりも、明らかに広義の言葉である。ICTは、一般にコンピューターやスマートフォンなどの電気システムと関係があるが、KICは、複雑なプロセスと基本的なプロセスの両方を表すことができる。KICは、人間の髪の毛の10分の1の太さの光ファイバーを高速で伝わる1千万件の電話のように高性能の場合もあれば、逆に、ある人が別の人に一番近いトイレへの道を教えるといった単純明快な場合もある。点字と手話は一般にICTとは関係ないが、それらは間違いなくKICの一形態である。

知識、情報およびコミュニケーションは、相互に非常に関連が深い概念で、それぞれ定義が難しいことで知られている。これは、KICが、私たちが周囲の世界とかかわり、これを理解するための手段そのものであることを考えれば、それほど驚くことではない。これらの言葉の複雑さをものともせず、不完全ではあるが、その定義を簡潔に試みた。それらを以下に示す。

知識―経験または教育のいずれかによって得られる、事実、情報およびスキル

情報―「受け手にとって意味のある刺激」 2)情報は伝達され、保存・処理され、画像、音声、言語などのさまざまな形式で表示される。3)

コミュニケーション―情報、ニュース、アイディアや感情を、意味を共有するためにやりとりすること

上記の定義は、抽象的に思えるかもしれない。しかし、ここでは、KICが世界とかかわるための最も重要な手段であり、他者とつながり、学び、人間の潜在能力を発達させ、生活を豊かにし、創造するために不可欠な手段を提供するものであるということを理解することが、極めて重要なのだ。さらに本項の冒頭にあげた引用文で示唆されていることだが、例えばアジア太平洋地域の何百万人もの障害のある人のように、KICに自由にアクセスできない場合、人生における機会が厳しく制限される。つまり、各国政府は、アクセシブルなKICサービスの提供により、障害のある何百万人もの国民の生活を変える機会を手にしているのだ。

基本原則

以下の「5つのA」は、これらの地域全体でアクセシブルなKICサービスを生み出そうと取り組んでいる各国政府、技術専門家およびその他の重要なステークホルダーに対し、有用な指針となる枠組みを提供する。4)

アクセシブル(Accessible)
アクセシビリティとは、可能な限り幅広い層の人がサービスを利用したり、これにアクセスしたりできる程度を言う。KICサービスは、さまざまな障害のある人の要求に応じたアクセシブルな形式で提供されなければならない。

例:点字、DAISY、EPUB、理解しやすいバージョン、その他のアクセシブルな形式による文書の作成。

利用可能(Available)
KICサービスは、それにアクセスしなければならないすべての人が利用できるようにしなければならない。

例:あらゆる都市における手話通訳サービスの提供

手頃な価格(Affordable)
障害のある人は貧困に過度にさらされていることを考慮し、KICサービスは、可能な限り手頃な価格とすることが極めて重要である。

例:DAISYコンソーシアムの点字変換プロジェクトでは、現在、点字ディスプレイの価格を下げる取り組みを進めている。点字ディスプレイは、現在、多くの施設や個人にとって高額で購入できない。5)

適応可能(Adaptable)
可能な限り、KICサービスは、さまざまなユーザーのニーズに適応できるものでなければならない。

例:EPUBは、読者がテキストのサイズ、色および形式を自分のニーズや好みに合わせて変更できる、電子文書のフォーマットである。

受け入れ可能(Acceptable)
KICサービスをよりアクセシブルにする目的は、障害のある人の体験を向上させることなので、これらのユーザーがサービスを確実に受けられるようにすることが重要である。したがって、サービス提供者が開発のプロセスにおいて障害のある人に助言を求めれば、製品の需要が増加する可能性がある。

例:知的障害のある人と相談しながら作成した、わかりやすい防災情報の資料。

5つのAによって表される一般原則に加えて、以下の概念も、KICサービス提供者の視点から検討する際に有用である。

再現可能(Replicable)
成功すると証明されたKICサービスやプロジェクトは、さまざまな状況において再現することができれば、より一層価値あるものとなる。

例:無料でダウンロードできるスクリーンリーダーのNVDAは、当初英語で制作されたが、その後、49の言語と方言でも制作された。6)

拡張可能(Scalable)
KICプロジェクトおよびサービスは、さらに多くの人に影響を与えるスケールアップが可能な場合、これまで以上に大きな可能性を持つ。

例:ウェブアクセシビリティ国際基準を満たす政府のウェブサイトの作成から得られた教訓は、政府のすべてのウェブサイトのアクセシブル化を確保することに利用できる。7)

ユニバーサルデザイン
最後に、ユニバーサルデザインの概念も、アクセシブルなKICサービスの創造に極めて有用である。障害者権利条約(CRPD)では、ユニバーサルデザインを「調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計」と定義している。この概念は、ありとあらゆるものを、多様な障害のある人だけでなく、最大限可能な範囲で人類がより一般的に使用できるように設計しなければならないと主張するものである。

例:最初から字幕付きで制作されるテレビ番組は、ユニバーサルデザインの一形態を成す。なぜなら、ろうの人や難聴の人だけでなく、騒がしい環境の中で視聴している人や、ある特定の言語が流暢でない人にとっても、字幕があれば番組のアクセシビリティが高まるからである。

知識、情報およびコミュニケーションにかかわる分野

1. 対面コミュニケーション―障害のある人とそれ以外の人との間の直接的なコミュニケーションを促進するサービスと技術。優れた取り組みとして、手話通訳に関する研修、認定制度およびプロジェクト、盲ろうの人の触覚によるコミュニケーションの通訳、知的障害、心理社会的障害、言語障害のある人のコミュニケーション支援などがあげられる。

2. 公共の環境―障害のある人も含めた一般大衆に開かれたサービスと施設の特徴。これには、公共交通機関、警察署、病院、裁判所、銀行、店舗、トイレ、公園、学校、投票所、博物館、図書館などのサービスがある。優れた取り組みとして、デジタル表示と音声案内、点字ブロック、音声および振動触覚サービス、音声ATMと障害のある人にアクセシブルなサービスを提供している文化施設または選挙プロセスなどがあげられる。

3. 文書資料へのアクセス―図書、文書およびその他の文書資料を、障害のある人のニーズを満たす形式で提供するサービス、プログラムまたは技術。優れた取り組みとして、EPUB、DAISY図書、点字、わかりやすいバージョンなどがあげられる。

4. メディアのアクセシビリティ―障害のある人も対象に含めた音声メディア、視覚メディアおよび視聴覚メディア。優れた取り組みとして、手話通訳、TV・映画およびオンライン視聴覚コンテンツに付けられた字幕や音声解説、アクセシブルなコンテンツを提供している民間放送事業者に対する賞や報奨金を与えるイニシアティブ、アクセシブルなメディアの提供を義務付ける政策や法律などがあげられる。

5. ウェブのアクセシビリティ―障害のある人も対象に含めたウェブサイト、アプリケーションおよびその他のオンラインプラットフォーム。優れた取り組みとして、ウェブアクセシビリティ国際標準規格(WCAG.2.0など)を満たしたウェブサイトを作成するイニシアティブ、ウェブアクセシビリティに関する国内標準規格、アクセシブルなオンライン資料を促進するための技術革新、民間セクターにおけるオンラインアクセシビリティを奨励するイニシアティブなどがあげられる。

6. 電話および電子機器―障害のある人も対象に含めた機能を備えた携帯電話、スマートフォンおよびタブレットコンピューターなどの電気通信サービス。優れた取り組みとして、障害のある人のユーザー体験を強化するために設計されたアプリケーション、スマートフォンやスマートデバイスのアクセシビリティ機能、電話リレーサービスなどがあげられる。

7. 防災と緊急対応―災害や緊急事態の発生前または発生時に、障害のある人が重要な情報を伝えたり受け取ったりしやすくする計画、サービスおよび技術。優れた取り組みとして、アクセシブルな避難訓練計画と資料。アクセシブルな緊急時通信サービス、アクセシブルな形式の警告シグナル、緊急救助隊員に障害認識に関する研修を行うイニシアティブなどがあげられる。

結論

現在、アジア太平洋地域ではアクセシブルなKICサービスの重要性に対する認識が欠けているため、この地域の何百万人もの障害のある人は、教育を受け、働き、他者とコミュニケーションを取り、文化的・政治的プロセスに参加し、自立した生活を送る機会を奪われている。CRPDの批准により、アジア太平洋地域の39の加盟国は、障害のある国民のニーズに対応した知識、情報およびコミュニケーションサービスを提供するという約束を示した。しかし、条約の批准と国内法の可決、そして方略の策定それ自体が目的ではないことは明らかである。この地域の各国政府は、ターゲットを絞った政策を策定し、対応する法律を可決し、その後、重要なことだが、それらを実施するための手段とメカニズムを確立することによって、国民の権利を実現しなければならない。このために今度は、障害のある人のニーズに関する知識と、計画のための資金援助、そして、これらのサービスの提供を支援できる技術専門家とのパートナーシップが必要となる。「万人のための情報:ESCAP-CDPFアジア太平洋地域の障害のある人のためのアクセシブルな知識、情報およびコミュニケーションに関するワークショップ」では、この地域の各国政府がKICを実施する能力を構築できるよう努める。優れた取り組みの共有、技術専門家や権利擁護活動をしている障害のある人との対話を通じて、政策立案者は、先駆的プロジェクトに関する専門知識を得、この分野の専門家とのネットワークを作り、将来の連携に向けたパートナーシップを築く機会を得る。


注釈

1)Rocha, L. M. and Schnell, S., (2007)

2)http://searchsqlserver.techtarget.com/definition/information

3)国際電気通信連合(ITU)1993

4)アジア太平洋障害センター(APCD)およびハンディキャップ・インターナショナル(2014)

5)DAISYコンソーシアム(2015)

6)NVDA, (2015)

7)W3C, (2012)