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未来の教科書になりうるか?

大学生向け代替教材探しまたは作成他

Robert Martinengo
レコーディング・フォー・ザ・ブラインド・アンド・ディスレクシア(RFB&D)、アメリカ

項目 内容
発表年月 2004年9月
備考 英語原文:Robert Martinengo."The Next Textbook?:Finding-or Creating-Alternative Instructional Materials for College Students"Accessible Content.Vol.No.3,2005,P20-21
(c)Accessible Content Magazine

大学生向け代替教材探しまたは作成

大学は障害学生に対する教育設備の提供に関する多くの困難に直面している。大学の障害学生サービス事務所またはこれに相当する部門は、講師から要求されている教材に代わるアクセシブルな教材を学生に提供し、公平に戦える場を作る任務を課せられている。高等教育政策研究所が発表した2004年の報告「障害学生のための機会」では、大学当局、教職員、IT部門からの反対や、もちろん出版社や時には学生自身からの反対など、障害学生とそのサービス業者が直面している多くの課題が指摘されている。

これらの影響力がぶつかる中で、技術はある時は解決策として、ある時は問題として考えられ、常に、学生による代替メディアの利用の成否を分ける可能性を持つワイルドカードとみなされている。本論文では、大学が印刷教科書の電子版を出版社に求める傾向が強まっている点に焦点を当てた。

教科書の問題

教科書は、論争や議論の矢面に立たされることが多い。争点が内容であろうが価格であろうが、また、たとえ重さであっても、教科書に関する議論に事欠くことはない。これまで、標準印刷物を読むことができない学生に対し教科書がもたらす困難は、出版社の主要な関心事ではなかったが、それも変わってきている。大学は、学生が使用している教科書の電子ファイルの作成を出版社に直接要請している。この電子図書の草の根市場について、出版業界から発表はされていないが、無視されているわけではない。

Educational Marketer誌によると、Thomson Learningは、大学教科書出版業界第2位で、市場シェアは約25%である。同社のアウトバウンドライセンス部長Edie Williamsは、1999年以降の電子化要請のデータをとっている。同社は2004年、4,536件の電子ファイル作成の要請を受けたと報告している。その58%はマイクロソフトのワードファイル、39%はPDFファイル、3%はアスキーテキストファイルだった。Williamsは、「多くの場合、48時間以内に対応することが可能である。これからもDDS(障害学生サービス部門)の専門家と協力して、電子化要請への対応を改善していく。当社の中核商品は印刷図書ではなく電子図書であるため、アクセスはさらに簡単になるだろう」と語った。

教科書供給業者Bedford/St. MartinsのJane Smithは、2004年は要請を受けて422件の電子ファイルを提供したと述べた。この数は前年のほぼ2倍である。同社が1998年に6件の電子テキストの要請を受けて以来、大学と協力してこれに取り組んでいる同氏は「当社は、できる限り全てにアクセスできるよう努力している。ロックされていないPDFを第1のデフォルトとした。当社のソフトウェアとウェブサイトを外部機関に見てもらうという点で、過去1年間に長足の進歩を遂げた。」と語っている。

大学にはそれまで、出版社からの電子ファイルの入手を助ける集中化された情報供給源がなかった。カリフォルニア・コミュニティカレッジ・システムは2002年、同州の109のコミュニティカレッジのために出版社に対し電子化の要請を行う中央情報センターとして、この分野で初めての代替テキスト製作センター(ATPC)を開設した。ATPCは、様々な出版社約300社のファイル4,500件以上を保管している。ATPCは、また、点字版の作成の責任も担っていて、大学の外部に教科書のエンボス式点字版コピーを無料で提供することができる。

アクセシブルな出版センターは、電子ファイルの入手が困難なことに不満を持った1人の大学生が始めた新しい組織である。同センターはATPCに倣い、アクセシブル・テキスト・クリアリングハウスを運営していく。大学教科書の電子ファイル交換を行う大学と出版社は、同クリアリングハウス1ヶ所に連絡すれば済むことになる。

電子図書と電子テキスト、需要と供給

商業的な観点からは、ドットコム・バブルの絶頂期の電子図書に関する主張は実現されていない。すでに印刷版で入手できる図書のデジタル版に対する消費者の需要はほとんどないようである。しかし、印刷以外のフォーマットを使用する個人は、電子図書が支援技術に準拠している限り、その市場が拡大することを切望している。投資家は大げさな販売予測に目がくらみ、実在しない電子図書の量販市場を追い求め、その一方で、印刷物障害者という小さい市場であり非常に現実的なニーズを見落とした。しかし、時代は変化している。

オープン電子図書フォーラム(現国際デジタル出版フォーラム)が開催した最近の会議「教育における電子図書」におけるパネルディスカッションで、アクセシビリティへの支持について取り上げられ、これが、その日のハイライトのうちの1つであることが証明された。米国出版社協会も、アクセシブルな図書への需要の高まりを認め、2004年の権利および許可諮問委員会の会議ではアクセシビリティのテーマについて丸1日話し合った。

このようにアクセシビリティが商業的に注目されることは喜ばしい変化であるが、それ自体に課題がないわけではない。アクセシビリティ問題は技術によって解決されているという認識があるため、アクセシビリティが主流になるにつれ、障害学生と障害学生を支援する非営利団体、連邦プログラムおよび大学サービスの緩やかなネットワークがプログラム資金の削減について監視しなければならなくなる。課題は、アクセシビリティが後からの思いつきではなく、確実に学問的に重要な中核として採用されるようにすることである。

教育における電子テキスト

学生にとって、これらの問題は、当面の作業、すなわち教室での作業を行い、良い成績をあげることとは通常無関係である。大学の課題の多くのは、読み書きに基づいているので、身体障害か認知障害かに関わらず、これらの機能を制限するどんな障害も現実的な困難もたらす。電子テキストは2つの方法でこれらの問題に対処している。すなわち、別の感覚経路を通して情報を提示する方法と、その情報と学習および筆記の補助との統合の可能性を通した方法である。

電子テキストの使い方で最も一般的なものは、テキストの音声変換である。これは、Kurzweil 3000のようなソフトを使って、本のページと同期させることが可能である。音声をwavまたはMP3ファイルで保存し、安価な家庭用電子機器で再生することもできる。この2、3年で合成言語の質は劇的に向上し、MP3プレーヤーの普及により、テキストの音声変換は多くの学生にとって魅力的な選択肢となった。eClipseReaderやeClipseWriterなどの新しいソフトウェアを使えば、ユーザは、ページ番号と章見出しへのリンクにナビゲート可能な音声図書を作成することができる。

電子テキストのもう一つの利用法は点字変換である。Duxburyなどのメーカーはテキストファイルを短縮点字へ変換できるソフトウェアを作成している。短縮点字は特定の単語と文字の組み合わせの代わりに短縮形を使用するものである。これらの点字ファイルは、耐久性のある紙コピーを作成するために、再生可能な点字表示またはエンボサーに出力することができる。また、図形を触図に転換する方法もある。

電子テキストのもう一つの特性は、検索、強調、注釈、抜粋などができる点である。補助技術の供給業者は、障害学生の勉強を助ける強力なツールとしてこれらの特徴を売り込んでいる。障害者に認定されていない学生にとっても、このような電子テキストにアクセスできたら、これらのツールは同様に効果的だろう。アクセシビリティの機能は一部の学生にとって必要条件である一方で、他の者からも好まれることが証明されるかもしれない。それは市場が物語るだろう。

限界と合法性

電子テキストが、すべてのアクセシビリティの必要に対する答えであるというわけではない。これまでのところ、テキスト・ベースの教科以外への対応は限られていた。数学と科学の音声表現はたいていの補助技術の能力を越えていて、最新版の点字ソフトでも複雑な教科書を表現することはできない。印刷版に厳密に対応して変換するには、訓練された変換者が不可欠である。

ファイル形式に関しては、多くの課題が途切れることなく生まれている。プレーンテキストには、本を読むのにページをめくる代わりにスクロールを使うなど、実用性に限りがある。PDFは、視覚的な書式設定を正確に表現することができる複雑なフォーマットであるが、アクセシビリティ上、重大な問題が起こる可能性がある(PDFのアクセシビリティによる支援については、Accessible Content誌2005年夏号を参照)。デジタル録音図書の規格の作成を専門に行っている団体DAISYコンソーシアムはXMLのアクセシビリティに関し、注目に値する仕事を行い、連邦教育省は、K-12向け教科書に使われる全国指導教材アクセシビリティ標準規格としてDAISY 3仕様のサブセットを採用した。

大学が教科書をスキャナーで読み込むことと電子テキストへ変換することの法的根拠も明確ではない。1996年、連邦著作権法の修正案が議会を通過し、アクセス可能なフォーマットの作成については例外となったが、具体的に教育機関が出版社から許可を得る必要については免除されていない。どう議会の意図を解釈しようと、大学は数千冊単位の図書をスキャナーで読み込んでおり、まだ訴訟の根拠にはなっていない。

結論

障害を持つ大学生にとっては、実際に使用することができる形式の図書の入手が合否を左右する。教科書の出版業界にとっては、障害学生が将来の教材市場の基礎となるかもしれない。出版社がアクセシビリティ市場を受け入れれば、障害学生や繁栄している補助技術業界の創造力、独創力、機知に接することができるかもしれない。アクセシブルなデジタルコンテンツは、学生、教師、出版社の全部に利益をもたらす可能性がある。

著者について

ROBERT MARTINENGOは、ロサンゼルスのレコーディングフォーザブラインド&ディスレクシックのスタジオディレクターで、カリフォルニア・コミュニティカレッジ・システムに加わり、学生に代わって教科書出版社に直接接触を始めた。現在、カリフォルニア州ベンチュラの代替テキスト製作センターのスーパーバイザーを務めている。