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今後の課題

上記の事例の数々には非常に勇気づけられるが、その一方で、今後の課題もまだ残されている。ウェブアクセシビリティは1990年代後半から大いに注目を集め、障害者が直面する問題に対する認識の向上と、ウェブサイトをよりアクセシブルにする方法に関するガイダンスの提供を促進してきたW3C/WAIの活動には、特に関心が寄せられている。しかし、報告や研究が引き続き実証しているのは、ウェブサイト全般は今なお、最大限可能な限り(あるいは最大限そうしなくてはならない限り)アクセシブルであるとはいえないということである。たとえば、イギリスのある研究からは、「FTSE100社の75%が、ウェブサイトのアクセシビリティに関する最低限の要件を満たしていない」ことが判明しており(ノメンザ 2006年)、『2007年MeACレポート ヨーロッパにおけるeアクセシビリティの進捗に関する評価』(欧州委員会2007年)では、ウェブアクセシビリティの大幅な改善がまだ完全には達成されていないにもかかわらず、新技術が障害者に新たな難問をもたらしているという懸念を表明している。

新技術には、携帯電話技術のさらなる進歩、ウェブにアクセスするための機器(たとえばPDA、スマートフォン、ゲーム機、音楽プレーヤー、デジタルTVなど)の選択肢の増加、そしてFacebook およびMySpaceなどのソーシャルネットワーキングサイトの利用、Second Lifeなどのオンラインバーチャルリアリティ環境などがあげられる。これらの技術(しばしばWeb2.0と称される)が新たな課題を提示しているのである。最近のソーシャルネットワーキングツールの研究からは、数々のアクセシビリティに関する問題が露呈した(アビリティネット2008年)。たとえば、ログイン時のCAPTCHA(セキュリティ確保のための質問、あるいはユーザーの「人間」がコンピューターではないことを判断するために使用されるテストの一種。通常、歪んだテキストによる一つの単語や行の解読を求める)の使用は、視覚障害者も、ディスレクシアや学習障害のある人々も皆、閉め出してしまう。多くのソーシャルネットワーキングツールでは、レビューの投稿や友人の追加、ビデオの視聴および写真の共有などのインタラクションが可能であるが、それが画面読み上げソフトなどの支援技術を使用している人々にとって問題となっている。

それでは、アクセシビリティはなぜ今なおこれほどの難題なのであろうか?そして、この状況を改善するためには何ができるのであろうか?本論文の残りの部分で、困難な課題に対処するための数々の提案をさらに検討していく。

課題への対応

アドバイスとガイダンスの改善

WAIウェブコンテンツアクセシビリティガイドライン(WCAG)は、現在バージョン1.0(1999年以来利用されてきた)からバージョン2.0に更新中である。この改訂版では、ウェブアクセシビリティに関する考え方を大きく変えることではなく、バージョン1.0に記されている規範的なチェックポイントのリストよりも理解しやすく、一層柔軟性のあるガイドラインを提供することを目的としている。

WCAG2.0では、ウェブアクセシビリティに関する問題を扱うが、ユーザビリティの問題がアクセシビリティに影響する場合は、これにも取り組んでいく。WCAG2.0では、ウェブアクセシビリティの4つの原則が提案されており、POUR原則といわれている。

  • 知覚できる(Perceivable):コンテンツは、各ユーザーにとって知覚可能でなければならない。
  • 操作できる(Operable):コンテンツのユーザーインターフェースの構成要素は、各ユーザーにとって操作可能でなければならない。
  • 理解できる(Understandable):コンテンツおよび操作は、各ユーザーにとって理解可能でなければならない。
  • 持続できる(Robust):コンテンツは、現在および将来の技術と連携できるよう、十分な互換性を備えていなければならない。

W3CおよびWAIは、アクセシブルなウェブデザイン、開発と評価、アクセシブルなオーサリングツール、そしてアクセシブルなウェブブラウザ作成のためのガイダンスを確保するための重要な枠組みを提供している。

イギリスでは、イギリス規格協会(British Standards Institution)が、アクセシブルなウェブサイトの調達あるいは開発において、各機関が規範とすることができる標準規格の策定を進めている。そして技術標準委員会が、『PAS78アクセシブルなウェブサイトの発注における優れた実践ガイド(前述)』にもとづく標準規格の開発を監督する。これとともに、PAS78が初めて開発されたときには利用できなかった新たなタイプのウェブサービスについても、いくつか考慮することを目的としている。新たな標準規格は、2009年に公開されるものと期待されている。

アクセシビリティへの全体的なアプローチ

ケリーら(2004年)は、ガイドラインだけに大きく依存するのは十分ではなく、また、ユーザーの特性やニーズが多様なので、「すべての人のためのデザイン(Design for All)」的なアプローチは、完全には達成できないという考えを示した。それよりも、できる限り多くの人々にとってアクセシブルなウェブサイトを作成できるように、数多くの問題を考慮する、より全体的なアプローチが必要なのである。このアプローチでは、ガイドラインと最も優れた実践(WCAGなど)に加え、ユーザビリティガイドライン、相互運用性のための標準規格、フィードバックを通じたユーザーとの連携、フォーカスグループおよびアクセシビリティ作業部会を利用する。このアプローチの目的は、「限定された一連のガイドラインの強制的な適用を促進する現在のWAIのアプローチとは逆に、エンドユーザーの実用性を最大化するソルーション」を提供することである(ケリーその他 2007年)。

支援技術の開発

支援技術開発者は、新技術を考慮した上で、Web2.0によってもたらされる新機能、インタラクションおよびチャンスに、うまく対処できる支援技術(AT)ソフトを開発する必要がある。結局のところ、今ではATを使用したナビゲーションが大幅に改善されたとはいえ、画面読み上げソフトで理路整然と表を読み上げたりフレーム間を移動したりすることができなかったのは、そう遠い昔のことではないのだ。それゆえ、優れたデザイン原則と追加されたナビゲーション機能とを組み合わせ、適切な研修を行うことにより、ATソフトを使用して、ウェブサイトにアクセスし情報をやり取りしたり、ウェブコンテンツを作成し共有したりするための、一層効果的かつ柔軟な手段をユーザーに提供できるようにしなければならない。多数の支援技術アプリケーション(たとえばThunderというスクリーンリーダー(www.screenreader.net)や、Natural Readerという音声出力ソフト(www.naturalreaders.com/download.htm))が無料で利用できるが、当然のことながら、ATを手ごろな価格で入手できるかどうかという問題もある(ドラファン2008年p.7-23も参照)。

アクセシブルなオーサリングツール

アクセシブルなコードを作成するオーサリングツールは、オプションとしてではなく標準規格として提供する必要があり、またそれは障害者が使用できるものでなければならない。アクセシブルなオーサリングツールのためのガイドライン(WAIオーサリングツールアクセシビリティガイドライン:http://www.w3.org/TR/WAI-AUTOOLS/など)は、ウェブコンテンツアクセシビリティガイドラインと同様に重要となりつつあり、しかるべく開発されなければならない。これは、現在では、ウェブ開発者が手作業によるコンテンツのコーディングよりもオーサリングツールに依存する傾向が非常に強いことに加えて、ブログやWiki、Flickrなどの写真の共有サイト、およびMySpace などのソーシャルネットワーキングサイトの新設に伴う「ユーザーコンテンツ」の大幅な増加により、ウェブユーザーが「ウェブコードをまったく理解していないウェブ開発者」となることが許容されるようになったからである(ハウエル2008年p.64)。W3Cの作業部会は現在、ATAGガイドライン(オーサリングツールアクセシビリティガイドライン)のバージョン2.0の作成に取り組んでおり、最新の草案が2008年3月に発表された(http://www.w3.org/TR/ATAG20/)

教育研修

教育研修は、アクセシビリティがあとから考えられたアドオンではなく、規範となる文化の創造に役立てられる。このような文化が生まれるまでは、ウェブサイトやオーサリングツールおよび支援技術の開発者に、アクセシビリティの重要性を指摘し続ける必要があるだろう。ウェブアクセシビリティ分野における教育研修を通じて、現在および将来のウェブマネージャー、デザイナーと開発者、そして政策決定者の世代に影響を与えることができる。イギリス内閣府による2005年の研究では、ヨーロッパの公共セクターにおけるウェブアクセシビリティ研修計画を検討し、以下の勧告を行った。

公共セクターのすべての機関のウェブマネージャーおよび開発者に対して:
すべてのコンテンツ発注者および作成者が、アクセシブルなコンテンツの重要性と、その達成のために利用可能な手段に関する十分な研修を受けられるようにする。
ソフトウェア業界のウェブデザイナーに対して:
すべてのウェブデザイナーに対し、完全にアクセシブルなウェブサイトの要件と、その達成のための技術の両方に関する研修を行う。
ウェブアクセシビリティを含む、ウェブデザイナーの能力基準を開発し、個人の能力開発計画や採用キャンペーンに使用する。
EUレベルの公共政策決定者に対して:
実現可能性を調査する…開発者、マネージャーおよびコンテンツプロバイダーを対象としたアクセシブルなウェブサイトに関する適切な資格の開発(おそらくはヨーロッパコンピューター運転免許証と連携させることになるであろう)
(内閣府2005年)。

MeACによる研究では、教育におけるICTを政策の一つとして認め、「eアクセシビリティに関する今後のEUレベルの政策では、教育環境におけるeアクセシビリティに広く注目と関心を集める必要がある」とした(欧州委員会2007年)。

ウェブアクセシビリティ問題とデザインについては、さまざまな研究分野において学生に対する指導が行われている事実を認めることができる。図書館情報科学(LIS)を例にとると、エスキンズ(2008年)の短い論評から、ウェブデザイン基礎講座(イギリス マンェスターメトロポリタン大学(Manchester Metropolitan University, UK))、利用可能なウェブサイトのデザイン(イギリス シェフィールド大学(Sheffield University, UK))、電子出版(イギリス ウェールズ大学アベリストウィス校(University of Wales, Aberystwyth))、およびマルチメディア(ギリシャ イオニア大学(Ionian University, Greece))などの授業やコースを通じて、ウェブアクセシビリティに関する指導が行われていることが明らかになった。

オーストリアのリンツ(Linz)にあるヨハネスケプラー大学(Johannes Kepler University)で開発、提供されている、バリアフリーなウェブデザインによるオンラインコースは、現在、ウェブアクセスプロジェクト(www.bfwd.at/webaccess)のもとで、国際的なオンライン共同学習プログラムへと開発が進められている。同プロジェクトには、欧州委員会生涯学習プログラム(European Commission Lifelong Learning Programme)から資金が提供され、リンツのヨハネスケプラー大学(Johannes Kepler University, Linz)(オーストリア-主導的機関)、マンチェスターメトロポリタン大学(Manchester Metropolitan University)(イギリス)、ダブリンシティー大学(Dublin City University)(アイルランド)、パンノニア大学(University of Pannonia)(ハンガリー)、カールスルーエ大学(Karlsruhe University)(ドイツ)、およびバオバブ協会(Baobab Association)(スペイン)の6つの提携機関が参加している。同プロジェクトでは、新たなモジュールを開発するとともに、提携機関(およびその他の機関)によって提供された既存の資料を、アクセシブルなウェブデザインによる国際的なオンライン共同学習プログラム上で再度配信している。ウェブサイトは、正規の学校教育を受けている人、継続的な専門能力開発(CPD)活動や再就職イニシアティブに参加している人など、できる限り多くの人々がアクセスできるように、アクセシブルな方法でデザインされている。全体的な目的は、アクセシブルなウェブデザインの分野に関わるすべての人々の現状を認識し、その地位の向上を図りつつ、広く認められる学術賞へとつながる公認のプログラムを提供することである。