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平成27年度パソコンボランティア指導者養成事業
盲ろう特別研修
盲ろう者の知識・情報・コミュニケーションのアクセスへのICT活用

平成28年2月8日(月) 戸山サンライズ2階中会議室

福田暁子氏(世界盲ろう者連盟事務局長)の講義より

講義1:「盲ろう者と会う時のルールを知る」

「福田暁子(ふくだ・あきこ)です。おはようございます。女性です。世界盲ろう者連盟(WFDB:World Federation of the Deafblind)の事務局長をしています。

今日はICTについての活用というテーマですが、具体的に触れるのではなく、パソコンボランティアとして活動される上で、盲ろう者支援の基本となる非常に大切なことについて触れておきたいと思います。特別研修、つまり、スペシャルだということでよろしくお願いします。

私は武蔵野市でひとり暮らしをしています。「ひとり暮らし」と言ってもヘルパーが入っている時間が結構あります。ですから、「ひとりぼっち暮らし」ではありません。そこは重要なポイントです。盲ろう者は、たとえ他の人と一緒にいても、孤立していることが多いのです。なぜかというと「盲ろう」という状況で生み出される特殊な難しさがあるからです。視覚障害と聴覚障害の両方を併せ持つことを「盲ろう」と言いますが、だからといって、視覚障害者のニーズと聴覚障害者のニーズを足せば、盲ろう者のニーズになるというわけではありません。

「盲ろう」は日本語でも英語でも一語です。英語だとdeafblindです。Word等で文章を書いていると、たいていスペルチェックでひっかかります。しばしば、deaf and blindと書かれたりしますが、盲ろう者について知識があれば、スペルチェックの方が間違っていることに気づけるかと思います。

先ほど、挨拶をするとき、まず名前を先に言いました。盲ろう以外の世界(通常の世界?)では、「こんにちは、福田さん」と言われることがあります。私には、誰が「こんにちは」と声をかけてきたのか分からないのです。ですので、まず、名前を先に言ってから、「こんにちは」を言うとよいかと思います。今、自分に触れてきた人が、男なのか女なのか、どういう手話を出す人なのか、はたまた、障害があるとかないとか、情報がない状態で、いきなり「こんにちは」と言われても、読み取れないことがあります。警戒もしてしまいます。

また、初めて会う盲ろう者の場合、どのぐらい、どういう方法で「こんにちは」というあいさつを受信しているか、伝わっているか、わかりにくいこともあります。「こんにちは」という挨拶が読み取れないまま、名前を言われても、当然なんだか分からないわけで、会話としては「ゲームオーバー、はい、残念」ということになってしまいます。

まず名前を言って、誰が話しかけてるのか、というのがわかってから、次に挨拶をします。盲ろう者としては、「あ、誰と話を始めるんだな」とわかります。ここは視覚障害者や聴覚障害者とは違うところだと思います。視覚障害者の場合は、声を聞いて、男性か女性か、どのくらいの年齢か、あらかた予想を立てられると思います。聴覚障害者の場合は、視覚的情報から、わかりにくい人もたまにいるようですが、どんな人と自分が会話を始めるのか判断できます。

手から入ってくる情報が、自分で得られる情報のほとんどです。指点字を打ってきた人が、アラブの石油王であったとしても、それは判断できません。掘りが深い顔をしているだとか、どんな身なりをしているかとか、手からでは分からないです。分かるとしたら、日本人ではあまり感じない体臭とか、指が太くてむちむちしているから、体格が小太りかもしれないとか、そのぐらいの情報量になります。男性か女性か判別しにくい手もあります。年齢の高い場合は、手のシワシワ具合がだいぶ違うかな、とは思います。また、手は若いけれども、年齢詐称みたいな人もたまにいます。世界的に言うと、アフリカの人の手は、なんとなくわかります。てのひらが厚いというか・・・。

自己紹介をするときに、何を伝えればよいか。初めて会うときは、基本的な情報として必要なのは、名前とか性別とか、障害があるかないかとか、自分が何者か分かるような情報を加えるとよいかと思います。たいていは一緒にいる通訳介助者が予想してくれますけれども。

講義2:「盲ろう者の世界に触れる」(インタビュー形式)

3つの質問項目にお答えします。

  1. どういう過程で盲ろうになったのか。現在の見え方、聞こえ方。
  2. コミュニケーションはどうしているのか。
  3. どんな支援を受けてきたのか。

1.どういう過程で盲ろうになったのか。現在の見え方、聞こえ方。

盲ろう者という見方もできますが、視覚と聴覚以外にも、上肢障害、下肢障害、呼吸器障害、内部障害、学習障害があります。電動車いすと呼吸器を使っています。

生まれたときから弱視でしたが、墨字(一般の文字)も点字も勉強しました。文章になると全く読めないというタイプの学習障害です。私が小学生の頃には、発達障害については現在ほどよくわかっていなくて、一般校在籍で通級指導を受けました。小学校1、2年生の時は3日間以外全部遅刻していました。日本語の他に、放課後にフリースクールみたいなところで英語での教育を受け始めました。英語はアルファベットの26文字しかないので、たくさんの日本語の文字を覚えるよりも楽だったといえます。小学校高学年からは、一般のカリキュラムでの勉強で、文字も小さくなり、文章も長くなったこともあるかと思いますが、追いつくのが難しかったです。

高校は自宅から歩いて通える県立高校に入学しました。高校受験の勉強はとても大変でした。高校に入ってから、視神経障害のためさらに見えにくくなりました。後に多発性硬化症とわかりました。一般校に在籍したまま、盲学校の支援も受けていました。コピー機や拡大読書機で、文字を拡大して読んでいました。大学受験と入学の準備は、筑波大学附属盲学校(現・筑波大学附属視覚特別支援学校)にお世話になりました。余談ですが、高校時代にクラスメートから手話を学んだことが、後に盲ろうになってから役に立っています。

大学から上京し、点字と拡大文字で勉強しました。当時は点字ディスプレイがとても大きく、背中にパソコンと一緒に背負って白杖を持って歩いていました。大学時代に歩行が少しずつ難しくなってきていましたので大変でした。大学の勉強はあまり興味が持てず、大学院は本当に学びたいと思っていたソーシャルワークの大学院に進学しました。相談した先生からのアドバイスもあり、結局奨学金をもらうことができたアメリカの大学院に進学しました。アメリカの大学の障害学生支援室(Disability Resource Center)から、様々なサービスを受けました。電動車いすも使い始めました。日本では視覚障害があると電動車いすは原則支給されませんが、アメリカでは自力移動が原則です。どうしてこんな便利なものをもっと早く教えてくれなかったのかと思いました。呼吸器や嚥下障害などのほかの障害も少しずつ出てきました。

大学院を卒業したあと国際機関に就職し、その後、タイのNGOで働きました。その頃から耳鳴りがひどく、聞こえ方もおかしくなり、日本に帰って治療を受けましたが回復せずに他の障害も重くなりました。いわゆる弱視難聴ということになります。補聴器を使いながら、いったん障害関係から離れて、大学、そしてその後、医療機器メーカーに就職しました。通勤は、駅員にサポートしてもらっていました。補聴器もだんだん使えなくなり、全く聞こえなくなって弱視ろうになりました。「弱視ろう」になると、がっくりコミュニケーション問題に直面します。そのときは、自分が盲ろうだということは知りませんでした。

その後、視力がほとんどなくなって全盲ろうになりました。現在は、耳は全く聞こえなくて、自分の声の一部は聞こえるのですが、聞こえない音もあります。左目がほんの少しだけ光を感じるかもしれない程度です。

他の盲ろう者からも、よく聞くのですが、見えなくて聞こえなくなるとか、聞こえなくて見えなくなるとか、こんな状態は自分だけかと思う人はすごく多いです。私も「盲ろう者」とは全く見えなくて、全く聞こえない人のことだと思っていましたので、まだ盲ろう者ではないけれどもコミュニケーション面で参考になることがあるかもしれないと、東京盲ろう者友の会に相談のメールをしました。そこで、初めて自分は盲ろう者であることを知りました。

「盲ろうになって何が一番ショックだったですか」とよく聞かれることがありますが、他にもたくさん盲ろう者がいるということがショックでした。それと同時に非常に安堵感を覚えました。居場所がなくて、「盲ろう」という言葉が自分にはまったとき、ホッとした気持ちもありました。盲ろうの世界は多様性に富んでいるので、柔軟性が非常にあります。それは素晴らしいことだと思います。ただあまりにもみんながバラバラすぎて、まとまることが難しいという面もあります。「全会一致の意見」というのは非常に難しい。かといって、多数決の意見も難しい。でも、その中でなんとかかんとかやっています。

用語の整理

  • 弱視難聴:少し見えて、少し聞こえる。
  • 弱視ろう:少し見えて、全く聞こえない。
  • 全盲ろう:全く見えない、全く聞こえない。
  • 全盲難聴:全く見えない、少し聞こえる。

2.コミュニケーションはどうしているのか。

聴力が残っていたときは音声で会話をしていましたが、弱視ろうになったとき、弱視手話があることを知りました。「この手話は見やすいな」と思いました。また、情報量が多いことにもびっくりしました。視覚障害がさらに進んで、触手話の訓練も受けて、触手話を使い始めました。高校時代に手で覚えていたことを思い出す作業に近く、情報をきちんと得られることが嬉しかったです。

私は基本的に、盲人の世界から盲ろう者になりました。盲ろう用語で言うと、「盲ベースの盲ろう者」と言います。ろう者で目が見えなくなって盲ろう者になった場合は、「ろうベースの盲ろう者」と言います。盲ろう者で多いのはろうベースです。弱視ろうの人が多いです。盲ベースの中では、全盲難聴、弱視難聴の人が多いです。生まれつき、または言葉習得以前の幼児期に盲ろうになった場合は、先天性の盲ろうと言います。たまに、視覚と聴覚を同時期に失って突然盲ろうになる人もいます。

盲ろう者のコミュニケーション方法は、たくさんあります。傾向としていうと、点字の読み書きを習得している盲ベースの場合は、習得のしやすさから点字をベースにしたコミュニケーション方法を使うことが多いです。指点字などはこれに含まれます。私の周りには、盲人が多かったので、私は指点字を使うこともあります。また、手話を自分の言葉として習得している、ろうベースの盲ろう者は、手話をベースにしたコミュニケーション方法である弱視手話や触手話を使うことが多いです。そういう意味では、盲ベースで触手話を使う私は珍しいかもしれません。ろうの友人も盲ろうになってから増えました。弱視手話、触手話にもバリエーションがあります。弱視といっても見え方が違いますので、視野が狭い人に対しては、狭い範囲で手話を出したり、視力の低い人には接近手話といって近い距離で手話を出したりする方法があります。視野が狭い人の場合は、近ければいいのではなく、出すときは逆に1m程度離れると、手話がその人の視野の中におさまりやすくなります。触手話も、両手の場合もあれば、片手の場合もあります。

他に手書き文字という方法があります。ひらがなだけ、カタカナまで読める、さらに漢字まで読めるすごい人もいます。基本的には手のひらに指で「あ」「い」「う」などと書いていきます。盲ろう者と話をするときに使うのに手っ取り早い方法だと思いますが、盲ベースの人で墨字を使う経験のあまりない人は読めないこともあります。書き順で混乱することもあります。世界の「せ」などは結構困ります。初め縦棒から書いてしまうと、混乱して、世界の終わりみたいになってしまい、会話も終了してしまうかもしれません。他にも、数字の「「0」か「6」か読み取りにくい。6は上から書き始めるし、0は下から書き始めるなどの工夫ができます。

他にローマ字式指文字もあります。「か・き・く・け・こ」は「KA・KI・KU・KE・KO」と出します。日本式の指文字を使う人もいます。

海外ではもっとあります。これは、盲ろう者が孤立した中で、人とつながりたい葛藤の中で編み出されたものが点在しているからなのだろうと思われます。指点字も日本で生まれたもので、日本語では使いやすいコミュニケーション方法です。

ブラジルでは、「タドマ法」という、通訳者ののどと顎に手をあてて、振動と口の形で読み取る方法です。実用的に使われています。

また、盲ろう者が通訳者の手の上に手をのせて形を読み取るのではなく、盲ろう者の手を他動的に動かして伝えるという方法もあります。

盲ろう者の世界の多様性を少し理解いただけたらと思います。コミュニケーション方法は「盲ろう者の数だけある」ということです。

用語の整理

  • 盲ベース
  • ろうベース
  • 先天性
  • 弱視手話
  • 触手話
  • 指点字
  • 手書き文字
  • 指文字
  • ローマ字式指文字

3.どんな支援を受けてきたのか。

盲ろうという意味では、通訳介助者(通訳介助員)派遣制度があります。通訳介助者は盲ろう者のニーズに合わせて、通訳と移動支援を行います。都道府県で通訳介助者の養成は必須事業となっています。盲ろう者向けの通訳というのは、音声情報だけでなく、視覚的な情報も状況説明として行います。

盲ろう者の世界は不連続なのです。通訳介助者はそれをつなげる重要な役割があります。目が覚めて、時計を触って6時のとき、朝の6時か夜の6時かわからなくて戸惑うこともあります。盲ろうの世界は、前兆がなくて余韻がないです。全てのものがニュッとあらわれ、全てのものがパッと消えていきます。連続性がありません。突然現れて突然消えていきます。その中に連続性を求めていき、瞬間瞬間を通訳介助者からの情報と想像でつなげています。

通訳介助者でなくても一緒にいる人が手を離すと、そこがカレーの臭いが漂っているとかで嗅覚的な連続性がある場合はともかく、「私は今どこにいるんだっけ?」という感覚に陥ります。ですから、盲ろう者と接するときには、名前を名乗ってすぐに手を離してしまうと、みなさんは、盲ろう者の世界からいなくなってしまうので、気をつけてほしいと思います。

同じことは、「別れの挨拶」をするときにも言えると思います。次に会えるかどうかの保障がないこともあるので、「今生の別れだ」と思うぐらい30分ぐらいかかることもあります。「これで終わりです」と言って、4時で終わっても4時半ぐらいまでかかることもある。「またね」と手を振りながら余韻を残しながら去ることもできないので、ひとしきり挨拶をしたら、きびすを返して「さようなら!」となります。盲ろう者が「さようなら」といって、ささっと向きをかえて去ってしまっても失礼だとは思わないでください。そういうものなのです。

講義3:「さまざまな生活場面でのICTの利活用」(インタビュー形式)

私の日常生活を紹介しつつ、こういう使い方もあるのだなと、あくまでも1人の盲ろう者の一例として、理解していただければと思います。

標準装備の機器

まず、ICTに入る前にどのような機器を常に使っているか紹介します。

足の代わりをしている電動車いすは中輪駆動の車いすです。中輪駆動が後輪駆動の車いすと違うのは、動きの支点がおしりの真下に来るので、目が見えない場合は自分の身体の軸に、より近い動きができるのだと思います。後輪駆動でも、通常、車いすの動きは自分の動きになりますが、それは視覚や聴覚からの情報で補正ができて獲得していく感覚だと思うのです。視覚と聴覚からの情報がない場合は、中輪駆動の方がより楽に使いこなせるようになるというのが私の持論です。盲ろう者、または重複障害者で車いすが必要になった方への車いす選びの参考にしてください。

次に呼吸の代わりをさせている人工呼吸器ですが、私は室内では1人で動きますので、基本がぶつかり走行です。激しくぶつかるわけではなく、あたって確認しながら動いているイメージです。ぶつかって初めて物があることを知るわけで、命を守るものは一番安全なところに置いておく。私は、フットレストを加工して座面の下に置いています。この位置だと呼吸器の回路が背中から来ないので比較的安全です。

持ち物

体温調節が難しいので、氷水を常に持ち歩いています。私のように、視覚・聴覚に加えて他の障害を持っている人は結構います。情報が入ってこないということは、限られた中での処理になります。どうしても二次的に、知的障害を持つ可能性があるだろうなと思われる人はいます。それが理由かどうか、はっきりはしませんが、リスクがあります。時代後れになる可能性はいつもあります。

盲ろう者の視点?から、持ち物をみてみると災害時に応用できるものが多いかもしれません。たとえば、自分が「盲ろう者である」ということを必要なときに示す札みたいな物を持っていたりします。視覚障害は白杖があれば認識してもらいやすいですが、視覚障害がある人がまさか耳が聞こえないとか、車いすに乗っている人がまさか盲ろうだとかいう状況はいまいち理解してもらえないことがよくあります。

相手に気づいてもらえるようなサイズ(葉書よりもやや小さくて、キャッシュカードよりもやや大きい、iPhone 6 Plusぐらいの大きさです)で、「盲ろう者です」とか。「盲ろう」という言葉を知らない人もいるので、「話しかけるときは、トントンとたたいてください」とか。コミュニケーション方法は触手話ですが、大体の場合は手書きになります。「トントンと叩いてください」と、「手に指で書いて会話できます」、みたいなことが書いてあります。

裏にはヘルプカードも一緒にしていて、このカードは自治体によって少し違います。武蔵野市の場合は、初めは、切欠きをつける予定でしたが、最近は、カードは切欠きだらけでどれがどれかわからなくなるので、穴を開けることにしました。穴も使えた方がいいということで名札を通して首から提げられるような、社員証のような形状の穴にしました。はじめは点字をつけるという話もありましたが、ヘルプカードを使うとき、ヘルプカードを見せて点字が読める盲人が気づいてくれるかというと、あまりないだろうし、制作コストも余計にかかります。盲人でもわかりやすい穴にして、武蔵野市の当事者部会で提案して実現しました。裏に「○○に情報シートが入っている」と書くようになっています。情報シートは、武蔵野市のマークをエンボス加工しています。点字を打ち込もうと思ったのですが、点字を読める人はあまりいないことと、武蔵野市が障害関係のものを送るとき、エンボス加工の封筒を使っているので、それで市役所からの手紙を判別していることも多く、エンボス加工をつけることにしました。情報シートには、私のニーズが書いてあります。連絡先とか、医療機関とか、電源が必要だとか書いてあります。

他には、ゴミ袋、おやつ(キャンディやクッキーみたいなもの)などが入っています。自動販売機を見つけるのも難しいし、すぐにお腹がすいたといっても、コンビニで会話して買うのも難しいからかもしれません。

ゴミ袋もゴミ箱がどこにあるのかもわからないし、自分のカバンの中をゴミ箱にするのもためらわれることが理由でもあります。結構ものをよく触るので、ウエットティッシュを持っているのですが、使用後、そのままカバンに突っ込むのもためらわれるので、ゴミ袋は大切です。同様に、傘をもって情報保障を受けようとしても、手が足りません。何をするにも手が必要なのです。白杖を小脇にかかえて、傘をもって情報保障を受けるのは相当大変な状況になります。なので、傘袋をカバンに入れていたりします。レインコートやちょっとした防寒具も持っていることが多いです。

日常の過ごし方

私の日常ですが、「三障害(身体・知的・精神)」というくくりがありますが、他に福祉サービスの対象になっている難病や、対象になってはいないが障害として大きな発達障害とかもあります。規則正しい生活を送るのが非常に難しいのですが、その理由は、体調というよりも、朝と夜がわからないことが大きいです。自分の体内リズムにあわせて生活すると夜中起きています。昼夜逆転しがちです。盲ろう者に多く見受けられるように思います。特に先天性の盲ろうの子どもの中には、昼間寝てしまう子もいます。

でも、基本的には朝8時に起きます。なぜかというと、8時に朝のヘルパーが来るからです。 朝8時~11時がヘルパーの朝のコアタイムと呼んでいます。その間に絶対生存に必要なことをします。薬を入れたり、バイタルをはかったり。自分でやらなくても、寝ていてもヘルパーがやります。でも「朝が来た」ことを知るサインにはなります。だいたい外出がないときには、11時から夜6時から6時半ぐらいまでは家の中で活動しています。仕事をしていることが多いです。

自分自身で情報を得るには、点字を読むしかなくて、一日中、ひたすら点字を触っています。たいがい、夕方には、点字を読むのもあきてきますが、かといって、外に出て散歩をするとか、走るような、そういうことができないので、家の中でひとり遊びをすることになります。

できる遊びが結構限られていて、私の場合は、キッチンに向かって料理を作るのが気晴らしになります。食べなくてもいいので、何か作ったりします。夜8時になると夜のコアタイムで忙しくなります。毎日お風呂に入ることは決めています。汚くても汚くなくても、具合が悪くなければ入ります。そうすることで「夜が来るんだな」と自分の身体に教えています。これは盲ろうが理由なのか発達障害が理由なのかちょっとわからないのですが、生活の中で毎日同じことを同じ時間にやると決めていないと生活のリズムがおかしくなってしまうことかあります。

仕事とICT

仕事の内容を紹介しつつICTに触れたいと思います。以前会社に通勤して働いていたときは、パソコン2台を立ち上げていました。1つは自分の作業用、もう1つはコミュニケーション用のパソコンです。どちらも会社が準備をしていました。はじめは自分のパソコンをコミュニケーション用に使っていましたが、壊れたら大変だということに気づいた会社がもう1台、準備するようになりました。どちらも点字ディスプレイがつながっています。 作業用では、メールやインターネット、会社の独特な管理システムみたいなものを使います。ベースが英語なので、基本的には同じとはいっても、日本語とはシステムがちょっと違います。日本語の方が英語よりも難しいのだと思います。AppleのiOSなどは、点字だけでは日本語は使いにくいです。英語であれば、かなり使えるのですが。

コミュニケーション用パソコンでは、パソコンから外付けキーボードと点字ディスプレイをつなげて、同僚がパソコンに打ったものを点字で読んで、声で返していました。

もちろん、パソコンなどを通さない直接のコミュニケーションも必要です。それが通訳者、通訳介助者を通してやる方法になるかと思います。しかし、予定が合わなかったり、急には探せなかったりと、最低限のコミュニケーションはサインと筆談とで乗り切ったりしていました。

在宅勤務に移行してからは、直接の人と会うことは少なくなりました。ただし、壁の向こうにはたくさんの同僚がいます。リアルタイムでやりとりをしなければいけません。チャット機能などをフル活用しています。

その他、盲ろう関係の仕事(活動)では、基本的に通訳介助者が介在することも多いですが、外国語を扱うときなどは、直接メールやチャット機能を使ってやりとりして、進めていくことも多いです。

また、地域での障害関係の活動をするときは、基本的には地域の手話通訳者にお願いすることも多いです。もちろん、盲ろう向けの通訳介助者にお願いすることもあります。

パソコンを使う時に必ず必要となる点字ディスプレイですが、非常に高価です。盲ろう者は日常生活用具として給付されますが、点字ディスプレイ以外にも必要なソフトなどへの支援は自費になってしまう現状があります。自治体によっては、聴覚障害がなくても視覚障害者に点字ディスプレイを給付してくれる所もあり、地域格差があります。

点字ディスプレイといっても、ざっくり2つに分けられるかと思います。パソコンとつなげるものと、それとは別にマシン単体でパソコンが内臓されていて、1台だけで機能するものとあります。パソコンとつなげるタイプのものは、壊れたらパソコンか、点字ディスプレイか、どちらかを変えればよかったりしますし、価格帯も低くなります。

一体型のものは、より高価になり、日本の盲ろう者が一番よく使っているものは、製品名でいうとブレイルセンスという物があります。

通訳介助者より補足説明:ブレイルセンスは、一般的には点字情報端末と呼ばれるもので、40マスと18マスがあります。現在販売されている18マスの物の商品名は「ブレイルセンスオンハンドU2ミニ」。それを支援するための講習会も、盲ろう者や通訳・介助者、その指導者に対しても行われるようになっています。ちょうど日常生活用の給付金内でできるということで、これが一番盲ろう者に使われていますし、かなり購入数も多くなっていると認識しています。38万3,500円です。

点字ディスプレイの難しいところは、私の場合は手の可動域や動きに制限があることですが、盲ろう者の中には、点字は音声ベースのシステムで、点字自体の習得が難しい人もいます。そうなると、点字ベースの機械にたどり着くことが非常に大変です。まず指が点字を読めるようになるには、かなり苦労がいります。でも、できないわけではないです。ただ「無理強い」させるのはどうかと思います。概して、いったん「イヤだ」と思ってしまったものは、永遠に拒否し続けるという人が結構います。

人間関係もそうですが、「この人、嫌だ!」と一瞬でも思ったら、その後、ずっと拒否されることもたまにあります。情報量が限られているので、オールorナッシングが、盲ろう者の世界にはあります。支援のなかで、自分が拒否されるかもしれませんが、「そういうもんだ」と思われていたほうがいいかなと思うときがあります。ただし、そこであきらめずに関わり続けていくと、非常に時間はかかりますが、最終的には信頼関係が作られている方向になることもあります。時間が盲ろう者の場合は余計にかかると思っていただけるとよいです。

また、何をするのにも手を使うので、複数のことが同時にできないという難しさもあります。パソコンの場合も、例えば、作業中は手を使っているので横から声をかけたり注意をひいたりすることができない場合も多々あります。だから、いったん間違いをした後で、「間違えました、こうしてください」と指摘しても、すでに過ぎてしまったことなので、どこで自分が間違えたのかわからないことも、伝えられないこともあります。

私の手に向いている小さな点字ディスプレイを使うこともあります。ただし、一体型ではないので、何かにつなげる必要があります。商品名は、Focus14Blueです。同じ会社が作っているスクリーンリーダーとの相性、また、iPhoneとの相性も非常によいのが特徴です。先ほど紹介したブレイルセンス本体でもFacebookやTwitterとかできます。LINEはできないのですが。ブレイルセンスは「乗り換え案内」などもあり、点字のスマホみたいなとらえ方もできますが、本物のスマホを点字で使いたい場合は点字ディスプレイが必要になります。ブレイルセンスにはカメラ機能などがありません。盲ろう者専用の機器はなくて、ほとんど視覚障害者用に作られた機器から使っています。ラジオなどは使わないのですが。ビデオチャットの機能などがあれば、手話が見える人とのやり取りもしたりします。こちらは手話で出して、相手は文字で返してくれますが、2台以上の機器を同時に使う必要があります。

国際関係の活動で、ICTをどのように使っているか。

世界盲ろう者連盟の役員は、メールでやりとりするのが基本です。直接会う役員会の時などでは、いろいろな種類のコミュニケーション方法と言語と機器が使われています。確かに、それ自体も非常に面白いと思うのですが、盲ろう者にとって、「楽しい」ということが最低条件で優先されます。楽しくないと何事も進まないような向きがあります。

グループでの話し合いを進めるときは、達成すべき目標がはっきりしていて共通認識があることが大事です。時々目標を見失う人もいますので、都度都度で確認が必要になることもあります。また、やり始めて流れがわからなかったり、時間の経過がわからなくなったりするので、その辺もサポートが必要になることもあります。役員会などのとき、一般的には時間どおり、アジェンダどおりに進行すると思いますが、世界盲ろう者連盟の役員会では大分違います。まず、はじめに、みんながいるかどうかから、確認がはじまります。そして、食事の確認。これが結構重要です。そんなことは休み時間に適当に話してくれとなるかもしれませんが、盲ろう者にとって、食の重要性を損ねることほど大変なことはありません。世界盲ろう者連盟の事務局長になって学んだことの一つでもあります。

通常、一日でやる議題は、大体3~4日はかかります。それが盲ろう者の世界です。24時間しかないのが、そもそも不平等だと思うのですが、そればっかりは合理的配慮はされないので。24時間の中で工夫するしかありません。

それ以外の国際的活動では、直接会って話す必要がない場合は、メールやチャット機能をフル活用しますが、点字の処理速度も求められます。点字の読み速度には限界がありますので、忍耐が求められます。待つ能力が求められるところです。盲ろう者の世界では待つ忍耐力は、非常に求められます。サポートにあたる通訳介助者も、じっと見守る能力や手出しをしないで、これといったところまで頑張る、こらえる忍耐力が求められます。手出しをしてしまえば、非常に簡単なことですが、手出しをしてしまうと盲ろう者の主体性を失うことになる場合もあります。

レクリエーション的なことでICTをどのように使っているか。

1つだけ言うのであれば、アルバムというのが非常に難しいのです。どういうことかといと、思い出を録音しておくとか、写真で撮っておくとか。どちらも役に立ちません。 思い出をどう記録するか。私の場合は、はじめはブログみたいな感じで始めて、今は、Facebookを結構使っています。使えない機能がとても多いですが、基本的なところは使えます。具合が悪いときもいいときも、そのとき思ったことや思い出したことなど、記録的に使っています。写真をあげて、その私の写真に反応してくれたり、コメントをもらったりして、直接会ったときに、「Facebookで読んだよ」と言われると、自分で覚えておかなくても、ほかの人を外部メモリ的に使うべく、便利に利用しています。

ヒューマンリソース、人材のコーディネーション

盲ろう者向けの通訳介助者制度以外のヒューマンリソース、人材のコーディネーションに関してはいろんな制度やサポートを駆使しています。私の生活課題を解決する制度が存在しないので、組み合わせてなんとかやっています。

盲ろう者向けの通訳介助者制度、通訳介助員派遣制度は、予算の関係で自治体によってばらつきはありますが、非常に足りません。地域の手話通訳者に触手話を覚えてもらう。ですが、地域の手話通訳者は派遣できる目的が限られています。盲ろうの通訳介助者制度のように友だちと会うとか、女子会の通訳や旅行などでは使えません。あと、礼拝に行くのにも使えません。情報保障の意味ではそういったものがあります。

その他、盲ろうとは別に挙げておくべき制度に、重度訪問介護者派遣制度があります。いわゆる介護保険のホームヘルプサービスとはちょっと違って、常時見守りが必要な障害者を対象とした制度です。私の所に派遣されるヘルパーは、初めは「盲ろう」についてなんの知識もない人がほとんどですが、研修と経験を重ねて、コミュニケーション方法を覚え、徐々に私が過ごしたい生活を支えてくれる大切な存在になります。


この講義は、パソコンボランティア指導者養成事業の一環として行われました。

「パソコンボランティア指導者養成事業:障害者へのICT活用研修会」は、 平成28年度も開催予定です。
http://www.jsrpd.jp/ic/pcv/