平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会
第12分科会
事例発表
高齢者への図書館サービス
高島 涼子(北陸学院短期大学教授・図書館長)
1.高齢者:前期高齢者(65歳以上75歳未満)および後期高齢者(75歳以上)と団塊の世代
現在75歳以上の高齢者と65歳以上の高齢者とでは、下記の表に見られるようにその体験には大きな違いが見られるが、65歳以上の人々と団塊の世代と呼ばれる人々との体験は全く異なる。
|
85歳以上 1912(大正元)年 以前に誕生 |
75歳以上 1922(大正10)年 以前に誕生 |
65歳以上 1932(昭和7)年 以前に誕生 |
団塊世代 1947-50(昭和22-25) 年に誕生 |
---|---|---|---|---|
1910年朝鮮総督府設置 | × |
|
|
|
1914年第一次世界大戦勃発 | × |
|
|
|
1923年関東大震災 | × | × |
|
|
1929年大恐慌 | × | × |
|
|
1931年満州事変 | × | × | × |
|
1937年盧溝橋事件、日中戦争 | × | × | × |
|
1941年太平洋戦争 | × | × | × |
|
1945年日本敗戦 | × | × | × |
|
高齢者サービスにまず必要なことは、サービス対象となる高齢者についての知識である。どのような時代に育ち、どのような教育を受けてきたか、どのような体験を、社会全体として、また個人として、してきたか、どのような価値観が社会を支配してきたか、といった点について、また、現在どのような社会的地位を占めているか知ることが大切である。
従来、高齢者問題としてまず挙げられてきたのは、医療費の増大、収入の減少、介護といった社会保障の面での事柄であった。これらは確かに現在も大きな問題であり、先進諸国で最も早く人口の1/4が65歳以上に達する日本はその対策を早急に実施していかなければならない。介護保険が導入され、介護施設も多様化し、健康に対しての認識も深まっているが、十分とはいえない。
一方、団塊の世代と呼ばれる約700万人の人々が今年2007年に60歳を迎え始め、高齢者像を大きく変えようとしている。この人々の中には経済的には裕福であり、健康であり、知的欲求が強く、また多様な娯楽を求める人々が存在する。こうした様々な高齢者のニーズに応えることが高齢者サービスである。
2.具体的なサービスの例
2.1 学習プログラム
- 文章創作教室
- 語学教室
- コンピュータ教室
2.2 娯楽プログラム
- 映画上映会
- コンサート
- 落語会
2.3 問題解決プログラム
- 税金対策
- 健康維持対策
- 運転技術対策
- 投資対策
2.4 その他のプログラム
- 回想
- 読書会
- 歴史探訪
- 家系調査
3.高齢者の使いやすい図書館
3.1 資料、情報
資料を読んだり見たりするためには視力が最大の障害である。わずかの例外を除いて一定の年齢になればだれもが老眼鏡を必要とする。日本では欧米と比較して大活字資料が不十分である。また、活字以外の媒体による資料提供も不十分である。
- 参照
- Angelou, Maya, Even The Stars Look Lonesome, Large Print Edition, New York, Random House Large Print in association with Random House, c1997.
- Angelou, Maya, Even The Stars Look Lonesome, Random House Audiobooks, New York, c1997.
なお、高齢者が利用する資料は多様であって、内容や主題は全く利用者による。児童コーナーやヤング・アダルト・コーナーと同様に高齢者コーナーを設置することは不要である。また、和室は膝や足、腰に痛みがある人々には使いづらい。
3.2 建物、施設、家具
基本的に、特定の障害に対応するのではなくすべての人々に使いやすさを提供するユニバーサル・デザインの推奨するものが図書館に必要である。たとえば、ドアはノブではなくハンドルが望ましい。これは荷物を抱えて幼子の手を引いている親にとっても使いやすい。滑りやすいもの、まぶしさ、段差(わずかなものでも)、不十分な照明、騒音、不安定な椅子、小さな、あるいはコントラストが不鮮明な文字、使い勝手がわかりづらいトイレや洗面台は避けなければならない。詳しくは下記の図書を参照。
メイツ、バーバラ T. 『高齢者への図書館サービスガイド 55歳以上図書館利用者へのプログラム作成とサービス』高島涼子、川崎良孝、金智鉉訳 京都大学図書館情報学研究会 発売 日本図書館協会 2006年
4.高齢者のニーズ
4.1 知的ニーズ
高齢者の知的欲求や学習意欲についての最新の研究成果に図書館はさらに関心を払うべきである。退職後自由な時間を得た高齢者、特に前期高齢者は多様なニーズを持っていることは、近年高齢者の来館者が増加していることからも十分推測可能である。新聞や雑誌の閲覧を目的としての来館から資料や情報の入手、さらに集会室や展示室の利用、地域での催し物に発展していく潜在的なニーズを掘り起こしていくことが図書館の使命であろう。
退職して年金生活に入った高齢者にとって無料で利用できる公共施設は公立図書館である。図書館はすべての住民に資料・情報提供の責務を負っているが、このことは高齢者にとってより重要である。
4.2 社会貢献
高齢者が図書館で高齢者サービスの担当者となることが可能であれば、社会との関わりを保持し続ける一つの手段となり、また高齢者サービスが高齢者のニーズに応えるものとなり得る。職員としての雇用が困難であれば、ボランティアとしてでも高齢者サービスに関わることが望まれる。日本においては安易にボランティアを推奨することは避けなければならないが、受け入れ体制が十分であれば、高齢者サービスを真に高齢者自身のものとし、また高齢者に社会貢献の絶好の機会を提供することが可能となる。
参考文献
- 『図書館界』vol.59, no.2 pp.66-93 《第48回研究大会シンポジウム》2007年問題と図書館の今後
- 『現代の図書館』vol.44, no.3 pp.119-163 特集:高齢者と図書館
この記事は日本図書館協会発行「平成19年度 第93回 全国図書館大会 東京大会要綱」より 転載させていただきました。