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スウェーデンにおける印刷字を読むことに障害のある人々への図書館サービス-ディスレクシアとDAISYを中心に-

美術館で用いるデイジー
マーリン(Malin)は美術を見て聴いて楽しむ

文:レーナ・ブークヴィスト(Lena Boqvist)

説明を聞き、ほんのわずか見ただけで裸の女達や花瓶が目の前に来てくれるようなことが起こるだろうか? 答えはイエスでもあり、ノーでもあると、マーリン・グスタブソン(Malin Gustavsson)は思った。彼女はDAISYによるガイドを提供する、イェーテボリィ(Göteborg)の二つの美術館に行ってみた。

12時直前にイェーテボリィにあるイェータプラッツセン(Göplatsen)を横切って自転車でやってきたのは銀髪の女性だ。彼女は自転車を停めると美術館の階段を軽快なリズムで上った。彼女の目はサングラスで隠され、紫色のトップに、白と黒のスカートを身につけている。ここにいるのは、私達のテストパーソン、マーリン・グスタブソンだ。彼女はメルンダールス市立図書館で読み書きに関する技術者として勤務している。彼女は視覚障害者向けのデイジーガイドのテストモニターとしてふさわしいだろうか? 洗練された女性のようだが。

見えるのは5~10%

デイジーガイドの創始者でありSRFの代表、アンダーシュ・ヨスビィは、マーリンを最高のテストモニターだと思っている。

「彼女はほんの少しだけ見ることができる視覚障害者という大きなグループを代表しています。この中で完全に見えない人々はほんの10%にすぎません。それにも拘らずこれらのガイドは、対象の美術品の説明をする際に、聞き手がまったく見えないことを前提にしているのです。」彼は言った。

「私に見えているのは(通常の人々の)5%~10%程度だと思います。私の視覚障害は幾つかの色素が欠けていることによるものなのです。説明は少し難しいのですが。」マーリンは言った。

マーリン・グスタブソンは色素欠乏症なのだ。多くの色素欠乏症の人々が、色が薄く日光に弱い皮膚を持っており、視覚に問題がある。

美術館の有名な美術家達

イェーテボリィの美術館のフルステンベリィスカ・ギャラリー(Fürstenbergska galleriet)には常設展示品が並べられている。そこには世紀が変わる数十年間の各作品がある。展示されている有名な美術家達は、カール・ラーション(Carl Larsson)、ブルーノ・リリェフォッシュ(Bruno Liljefors)、カール・ノルドストレーム(Karl Nirdströ)、アンダーシュ・ゾーン(Anders Zorn)、ニルス・クレウゲル(Nils Kreuger)等である。

マーリンはガイドによって自分だけで美術品を見て回るという任務を負った。彼女はプレクスタープレイヤーにはほとんど慣れておらず、(ガイドを)注意深く長い間聞いている。

「それではあの向こうの絵から始めるわ。」彼女は突然そう言うと、部屋を大またで横切った。彼女は、カール・ラーションの「フルステンベリィスカ・ギャラリーのインテリア」という絵の傍に立ち止まった。

マーリンは全て一人でやってみせた。外から見ていると、彼女の目が悪いなど見てとれる者はいないだろう。プレイヤーは約20×15cmで、小さな皮のバッグに入っており、肩から提げる。

各段階において、よくできている

「この絵には少し面白い説明がつけられています。」彼女は自然の中にいる8人の裸の女達の、大きな絵の前で言った。「私達は、晴眼の人々が気がつかないような事柄を知ることができるのです。例えば女達は皆同じような形に成型されているように見えます。恐らくは影が同じように落ちるようなスタジオで描かれたのでしょう。」

「DAISYガイドで説明される各絵画の縁の下には大きな数字が並んでいます。」彼女はそう言うとほぼ10cmの高さの場所にある数字を脚でさした。「つまりCDの説明箇所を、好きな作品の場所へ移動できるのです。」

マーリンが試した結果は上々だった。彼女はわくわくし、楽しんだ。

「ガイドについていくのはとても簡単です。私はどこにどの絵があるのか見えます。これは各段階において、とてもよくできています。まず始めに絵についての説明を聴き、その後次の段階で美術家について説明を聞き、その後もし望めば、より詳細な説明を聴くことができるのです。

レースカ美術館(Röhsska museet)のデザイン

レースカ美術館では1851年から今日までの造形史を展示している。ここにあるのはフェルディナンド・ブーベリィ(Ferdinand Boberg)作の棚、カール・マルムステン(Carl Malmsten)作のウィンザースタイルの椅子『小さなオーランド(Lilla Åland)』、色とりどりのプラスティック容器、それに幼少時代にあったようなラジオ等である。

細長い展示ケースには椅子が周りに並べられた食卓が入っている。そのテーブルの上には幾つかの花瓶がのっている。食卓の後ろの方には中にも上にも物が乗せられている棚がある。少し離れた左のほうには、また別のテーブルと棚がある。

「ここがこんなに暗いのはつまらないですね。それに展示品の前にガラスがあるしね。ここはそれほど面白いとは言えません。」マーリンは言った。

「私には見えない物がこんなにあることにはいらいらします。この展示ケースがかなり深くて、展示品に指で触れてみることができないことも、不満です。まったく見えない方がいいくらいです。」

さわる美術品(Taktila)の展示

来館者達が楽しめる為に、レースカ美術館はいくつかさわる美術品を展示し、触れることができるようにしてある。例えば各時代の代表的なデザイン等である。彫刻の花々がついた棚の傍には、花のさわる絵がある。

「これは気に入ったわ。こういうさわる展示品はとても素敵。DAISYガイドがあった方が判りやすいけれど、こういうものを分かり易くすることはなかなかできないものね。よけいな細かい機能が増えてしまうもの。」

グラスと陶器のみが飾ってあるショーケースの傍で、マーリンの顔が輝いた。

「ここにきて、やっと(説明に)ついていきやすくなったわ。自分が何を期待していたのか分りました。」

その後私達はプラスティックの家具のある幾つかの部屋を見て回った。

「ここも面白いところですね。もう一度70年代に戻ったような気がするわ。」

まとめ

「本当にDAISYガイドはすばらしいアイデアだと思います。こんなガイドがあったら美術館へ来る事が、絶対に通常よりもずっと実り多きものとなります。」

「美術館でとっても居心地よく過ごすことができました。このDAISYガイドを私は強く推薦できます。もう一度あの美術館に行ってみるつもりです。」マーリンは述べた。

レースカ美術館に関してはマーリンはDAISYガイドがうまく機能しているかどうかに関し、ためらいがちだった。

「出だしがあまりよくありませんでした。ここに来てもプレイヤーがアップロードされていませんでした。また鑑賞している間に、突然バッテリーが切れてしまいました。それに展示もなんだか乱雑な感じがしました。」

マーリンはそれでも尚、DAISYガイドで鑑賞できるより多くの展示があることを望んでいる。

「もし自分で見て回りたいと思うなら、これは本当にすばらしい選択肢です。もちろん面白く語ってくれる職員がついているガイドツアーもいいですけれど。」

『みんなの図書館』, スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)発行, 2007年第4号, p.14~p.15より翻訳