スウェーデンにおける印刷字を読むことに障害のある人々への図書館サービス-ディスレクシアとDAISYを中心に-
財団法人日本障害者リハビリテーション協会 翻訳/編集
2008年6月
はじめに
(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センター
野村美佐子
(財)日本障害者リハビリテーション協会情報センターが「DAISYを中心としたディスレクシアキャンペーン事業」を行う上で、1996年から1997年にヨーロッパでのディスレクシアキャンペーン(注:1)を行い、成功を収めたスウェーデンに学ぶために筆者は2008年1月にスットクホルムにある国立点字・録音図書館(以下TPBという)や公共図書館を訪問した。
TPBは、1980年に設立されて以来、文化省管轄の国の機関である。2008年には、文化省から約10.5百万ドルをそして教育省からは4.5百万ドルの補助を得て、年間にスウェーデンで発行される出版物の25パーセントの製作をDAISY図書、点字、E-テキストなどアクセシブルなメディアでの製作を目指しいている。職員数は現在、88人である。
TPBは、大学図書館、公共図書館、学校図書館、患者図書館、国際図書館など450の図書館がTPBのサーバーからDAISY図書をダウンロードするシステムが構築し、2007年には総数で、6万件がダウロードされた。2006年には2.5万件であったことを考えるとダウンロード数がかなりの伸びを見せたことになる。現在、50,300タイトルが用意されているとのことだ。
2008年の予定としては、6,500タイトルのアナログのカセットテープからからデジタルへの変換を行うこと、秋には大学生に対してダウンロードとストリーミングサービスを行うとのことだ。またDAISY図書の外部との契約に関して入札方法を考えている。また次の世代のスウェーデン語スピーチエンジン(TTS)の開発、テキストと音声のシンクロ(同期)をおこなうソフトと製作方法の開発を行うなどが考えられているという。
フルテキストのDAISYを製作する上では、テキストを作成するという作業が発生するが、TPBは、その作業をインドに発注することでコストダウンを図っている。またデンマークや自国の企業に発注も行い、TPB内での作業を少なくしている。
日本では、フルテキストのDAISY化については、著作権の問題が生じるが、スウェーデンでは、EU指令(注:2)ができたことで著作権法が変わり、必要ならオリジナルから改変が認められている。スウェーデンの著作権法(注:3)17条では、次のように規定されている。
「機能障害を持つ人々が、公表されている文学的、音楽的作品、または発表されている絵画芸術の作品を楽しむことができるように、誰でも音声の録音以外の方法で、必要な複製を作成することができる。またそれらの複製を対象の人々に配布することができる。」(注:4)
この著作権法を利用して、TPBは視覚障害者にわかりやすいさわる絵本を製作している。その製作についてはパンフレットを作成しているが、今回の翻訳の1つとして掲載してあるので、参照してほしい。また1年に4回、『みんなの図書館』という雑誌を発行している。DAISYをキーワードにいくつか掲載記事を翻訳しているので読んでほしい。
ヨーロッパでのディスレクシアキャンペーンは、1996年から図書館を通して行われたが、スウェーデンではその中核的な役割を果たしたのがTPBである。録音図書がディスレクシアにも有効であることがわかり、積極的に録音図書の提供を公共図書館と連携の中でディスレクシアに対して行っていた。
ディスレクシアを含め障害者に対しては、公共図書館はどのようなサービスをおこなっているのだろうか。スットクホルム市立中央図書館を訪れてみた。
録音図書のコーナーがあったのでDAISYについてたずねてみたところ、2001年頃からDAISYの提供を初め、7,000タイトルを所蔵しておりそのタイトルの殆どが音声のみである。今後カセットの図書17,000タイトルがすべてDAISY化されるとのことだ。対象者について質問すると登録している視覚障害者やディスレクシアを含む印刷字を読めない障害(print disability)のある人々だそうだ。具体的な数字を聞いてみるとスットクホルム市にある44の図書館に登録しているのは9,000人だそうだ。その内訳はわからない。再生機の必要な人にはVictor Readerを3ヶ月間借りられるようになっている。
ディスレクシアについては、ディスレクシア協会FMLSから提供された新聞、ディスレクシアに関するリーフレットが図書館内の目立つところに置かれている。どのようなサービスを行っているのかをたずねたところ、週に1回、図書館利用者向けの相談サービスなどを行っているそうだ。また読みやすい(Easy-to-read)図書の貸し出しなどを行っているとのことで、そのコーナーに案内をしてもらった。
そこには、りんごの絵が描かれた棚があり、この棚をりんごの棚と読んでいるそうだ。この棚については1993年に導入されたもので、公共図書館の1つが児童図書コーナーに大きなりんごを作り、障害児のための特別なフォーマットの図書資料を展示したことに始まる。その後、事実上すべての図書館が、録音図書、Bliss記号や絵文字を取り入れた本、聴覚障害者のために手話をつけたビデオブック、そしてさわる絵本などを備えた本棚を設置したそうだ。中央図書館でも点字の本、手話をつけたビデオブック、読みやすい図書(DAISY本付き)などがあった。
りんごの棚については、市内にある子ども図書館でも見つけたが、そこにDAISYの図書、読みやすい図書などがあった。そのコーナーの近くには、子どもが居心地良く読めそうな場所の工夫がなされ、読みの障害のある子も読みたいなと思わせる場所であった。図書館は、ディスレクシアに対して特徴を理解し、魅力的な環境づくりをするべきだと思った。
今回の訪問の際に、その際収集した資料のなかで特にディスレクシアとDAISYに関する資料の翻訳を特集としてホームページに掲載することにした。少しでもディスレクシアに対する理解とDAISYの広がりに役に立つことを願っている。
注
- ヨーロッパのディスレクシアキャンペーン関連情報
「ディスレクシアの人々のための図書館サービス」
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/info/ifla2006/lsdp_gyda.html
「ディスレクシア・キャンペーン:意識改革はゆっくりと」
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/dc/dyslexia.html - 著作権に関するEU指令、通称"EU Copyright Directive(EUDC)"の原文
"Directive 2001/29/EC of the European Parliament and of the Council of 22 May 2001 on the harmonisation of certain aspects of copyright and related rights in the information society"
http://eur-lex.europa.eu/smartapi/cgi/sga_doc?smartapi!celexapi!prod!CELEXnumdoc&lg=en&numdoc=32001L0029&model=guichett - スウェーデン著作権法の原文
"Lag (1960:729) om upphovsratt till litterara och konstnarliga verk"
http://www.notisum.se/rnp/SLS/lag/19600729.htm - 著作権法第17条
機能障害を持つ人々が、公表されている文学的、音楽的作品、または発表されている絵画芸術の作品を楽しむことができるように、誰でも音声の録音以外の方法で、必要な複製を作成することができる。またそれらの複製を対象の人々に配布することができる。
また政府が特定の場合において認可した図書館または団体は、以下を遂行することができる。 1.第1段落で述べているような作品の各複製を、作品を楽しむ為にその複製を必要としている機能障害を持つ人々に、送信することができる。 2.機能障害を持つ人々が出版されている文学作品を楽しめるように、彼らが必要としている作品の複製を音声の録音により作成することができる。またそれらの音声録音による複製を対象の人々に配布、送信することができる。 3. 音声ラジオまたはテレビ、または映像作品で放送された作品を聴覚障害者または視覚障害者が楽しむことができるように、彼らが必要としている複製を作成することができる。またそれらの作品の複製を対象の人々に配布、送信することができる。
各複製の作成および、公共への各複製の配布と送信は、この条項に基づき(それらの複製の)保有の目的で行ってはならない。またそれらの複製は、当条項で述べている以外の目的で使用してはならない。
機能障害を持つ人々が作品の複製を保有できるような方法で、図書館及び団体が複製の配布及び送信を行った場合、著作権保持者は著作権料の支払いを受ける権利を有する。第1段落第2文に則り、誰かがある数以上の複製を、機能障害を持つ人々に譲渡した場合も同様である。
法律2005 年第359条
訳:(財)日本障害者リハビリテーション協会
目次
学校での支援についてのチラシ
ディスレクシア児童の親の会(FDB)発行より
雑誌『ニュース(NYHETER)』
ディスレクシアの児童の親の会(FDB)発行,2007年第3号より
新聞『読み書き(LAS & SKRIV)』
スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行,2007年5月号,2007年6月号より
- 研究者達は何をしなければならないかを知っている
- すばらしい研究が進んでいる
- マッツ・ミィルベリィが語るディスレクシア研究
- それぞれの所見を合わせる
- ディスレクシアの人々は論理的思考が得意である
- エリックは研究したいと願ったが、ディスレクシアが障壁となった
- ディスレクシア週間‐マルメーで加えられた一撃 作文は困難である
- 「書かない」という選択には、(その他の)才能が要求される
- この学校では誰もが読もうとする意欲に満ちています
- 秩序性とはこういうことである
- FMLSはディスレクシア協会FMLSと名前を変える
- グニッラは言語サービスのおかげで何が起きているのかを知ることができる
新聞『聴いて!(HOR UPP!)』(新聞『読み書き』付録)
スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行より
- 学校における学習法
- 全てがディスレクシアのせいというわけではない
- 学びにおける挑戦
- 適切な手当てを受けることにより、勉強することは面白いと思えるのです。
- 補足か訓練か
- 数学と自然科学系科目の知識
- テープ録音からDAISYへ
さわる絵本の利用案内
スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)発行より
『みんなの図書館(Bibliotek for alla)』
スウェーデン国立録音点字図書館(TPB)発行,2007年第3号,2007年第4号,2008年第1号より