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スウェーデンにおける印刷字を読むことに障害のある人々への図書館サービス-ディスレクシアとDAISYを中心に-

エリックは研究したいと願ったが、ディスレクシアが障壁となった

スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行
新聞『読み書き』2007年5月号, p.10
編集:エヴァ・ヘドベリィ

大学で学ぶディスレクシアの人々はどんどん増えている。良い支援機器と彼らに支援を受ける権利を与える法律のおかげで、機能障害を持つ学生達が学びやすくなったのだ。相変わらずディスレクシアの人々はクラスメート達よりも、努力を重ねなければならないだろう。しかし学業を修めることは、大いに可能なのだ。

教育課程の上級に行くと、より高い要求をされる。博士課程にいき、博士号を取るにあたっては、内容においても文体においても質の高い学術的な文章が書けることが期待される。 周囲の理解や良い支援機器があれば、それも可能である。しかし望んだことが常にその通りになるわけではないのも、また現実なのだ。

この記事は、論文を終えることなく、博士課程を退学してしまったエリックについて書いてある。エリックはディスレクシアが、この失敗に大いに影響を及ぼしていると述べる。彼は今、他の人々が同じ道を歩むことがないように、自分の体験を世間に広めたいと望んでいる。

エリックは挑戦を好む、好奇心の強い青年である。彼は治療の中で全日の勉学と平行して、自分の学びを長い間続け、多くの科目単位を集めた。いくつかレポートを書き終えた時、彼の興味は研究へと向いた。彼は博士課程に志願し、受け入れられた。

「僕はこのチャンスに大喜びしました。面白い学問にどっぷりと浸る時間を得て、様々な問題をじっくりと考察し、その様々な過程を理解しようと努めるなんて、考えてもみてください。僕は本当に研究がしたかったのです。その上僕は長い間あこがれてきた、有名な研究者を指導教授に持ったのです。」

エリックはこの論文を書く作業は、規模が大きいだけで、修士論文を書くのとほぼ同じようなものだと考えていた。エリックの以前の指導教授は批判と共に励ましの言葉もかけてくれる教師であり、しかも熱心に校正を行ってくれた。しかし博士課程の指導教授は違っていた。彼はエリックの物を書く能力や、独自で研究をする能力に対して、これまでとはまったく違う要求をしてきた。

エリックは博士課程に入ってすぐに、その指導教授に会うことになった。ところが次に指導教授に会ったのは、その一年後のことだった。エリックは自分が何をしてきたか、概要を見せた。指導教授はエリックが書いたものに対して、厳しい批判を向けた。

「教授は、僕がもう既に高い学術段階の文章を書いていることを望んでいました。しかしまだぼくは探求の段階にいたのです。ぼくは正しい方向に進んでいるという承認が必要でした。ぼくにとっては物を書くとは、大変な努力を要するものであり、うまくいくかどうかも分からないものに関して文章を組み立てることにエネルギーを注ぐことはできませんでした。しかしぼくはとうとう承認を得ることはできませんでした。教授は決してぼくの書いた概要を受け取ろうとはしませんでしたし、様々な問題に関して口頭でディスカッションをする時間もありませんでした。」

この段階で道は閉ざされてしまった。エリックは指導教授からの承認を待ち、指導教授の方はエリックが清書された文書で自分の研究を示すのを待っていた。

エリックはとうとう指導教授に自分の困難について話すことができなかった。エリックが、自分に必要なのは誰か別の指導教授なのだと理解した時、もう年月がかなり過ぎてしまっていた。彼は博士課程を中退した。なぜならば博士課程期間終了までに論文を書き上げるのは、もう間に合いそうもなかったからだ。

「ぼくは皆さんに、研究を始めないようにと忠告しているのではありません。その反対です。けれどもそれを望む人は、高い要求に応える準備をしておかなければならないのです。」

エリックは仮名を望んだ。自分の在籍した大学機関の職員が、名指しをされていると感じることがないようにだ。現在彼はストックホルムのある研究機関で働いている。彼は新たなチャンスを夢見ているが、それがほとんど不可能であることを知っている。彼が諸外国で研究することを志望するならば、チャンスはあるかもしれない。

博士課程に進む予定ですか?

  • 間に合うように支援機器の申し込みをしましょう。
  • 大学の障害者担当者に連絡を取りましょう。
  • 指導教授にあったらまずあなたが必要としていることや、あなたの知力及び困難について話しましょう。指導教授が何を期待しているのか、また指導教授やその機関からどのような支援を受けることができるのかを質問しましょう。
  • もしその指導教授があなたの必要性を理解しないならば、それを理解でき、 よりよい支援を与えられる指導教授に代えてもらうように取り計らいましょう。
  • あなたの指導教授と定期的に口頭であなたの考えについて話し合えるように、取り計らいましょう。

新聞『読み書き』, スウェーデンディスレクシア協会(FMLS)発行, 2007年5月号, p.10より翻訳