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平成19年度パソコンボランティア指導者養成事業

セミナー
障害者IT支援とパソコンボランティアの展望
報告書

医療・福祉制度の変化によるPVのニーズと育成

松本●

講演する松本氏

こんにちは。はじめまして。神奈川県の総合リハビリテーションセンターの作業療法士、松本と申します。ちょっとパソコンをつなぐ間、自己紹介を兼ねてお話ししていきたいと思います。つながるかなという午前中からの不安がまた出てきましたが、たぶんつながると思います。

今年は日本障害者リハビリテーション協会主催の「パソコンボランティア指導者研修会」で全国6か所でお話をさせていただきました。作業療法士の研修会というのは、いろんなところでやっているのですが、こういう一般の方に対しての講習というのはなかなか少ない機会の中で、貴重な経験をさせて頂きました。どう見ても私より年上の方が多いという講習会も、なかなか不慣れなのですけれども、頑張ってやっていきたいと思います。関係者の席には畠山さんとか河村先生、三崎先生、石川さんという超ベテランの方がいる中で進めていかないといけないという、「すごく辛いな、胃が痛いな」と、午前中からずっと思っていたんですよ。皆さん、温かい目で見ていただいて、やっていきたいと思っています。どうかよろしくお願いいたします。

今日の私はリハビリテーションの現場に携わる作業療法士として話したいと思います.私の職場は神奈川県の総合リハビリテーションセンターといいます。見て分かるように神奈川県の厚木市の丹沢山麓の麓にあるリハビリセンターです。二つの病院、四つの福祉施設,あと地域支援部門があります。医療と福祉が連携して総合的にやっていこうということが私たちのセンターのコンセプトです。近年,医療と福祉制度の変化がすごく多く起こっています。その変化から、私が考えるパソボラさんへのニーズと育成に関して、お話ししたいと思っています。

皆さん、最近のニュースとかテレビとか、いろいろ話は聞いていると思います。一つは医療制度が破綻してくるのではないか。高度医療、最近の救急医療ってすばらしいものがあって、どんな方でもかなりの可能性の中で生存されていきますけれども、そこには高額な医療費がかかってきています。そこで、高額な医療費で治る、治していく一方、病気や怪我が治ったとしても障害が残ったまま生活されている人もやはりいます。そういった意味では、高度な医療や救急医療で医療費が莫大にかかってきていること、障害を持つ方が増加しているということで在宅医療や福祉政策費がかかります。あと、これから加速度的に迎えていくであろう高齢化社会という問題では、医療福祉の予算に関する問題ともいえます.2055年には65歳以上の方が40%、10人に4人は高齢者ということになります。2055年では若年者1.2人で高齢者1人を支えるような時代が来るということです。

ということで国はどういうことをやっていこうかというと、医療費を適正化しようよ。「医療費の適正」というと聞いていると分かりやすいのですけれども、裏を返せば医療費をどういうふうに抑制していこうかということがターゲットになっています。その中では一応三つの柱で医療費を抑制していこうという国の方向が見えてきています。一つは病院を統廃合していこう。もう一つは入院日数を短縮していこう。もう一つは病院ではなくて在宅医療へシフトしていかない。ということで病院や医療費がパンクしてしまうことを防がなくてはならなくなっています。

「病院の統廃合」でどういうことが起こっているか説明したいと思います。病院の機能分類には,(1)救急車で運ばれるような急性期の病院、(2)リハビリテーションが行われるような急性期回復期の病院,(3)静かに病院の生活を暮らされる慢性期病院(療養型病床)というふうに三つに分けています。それに合わせて入院費が設定されました。急性期の医療はすごく医療費がかかるから入院費は高く設定しましょう。リハビリテーションが必要なときはリハビリテーションの入院費設定をしていきましょう。慢性期には、だんだんそういった医療が少なくなっていくからちょっと安めにしましょうというものが行われています。

それで「病院の統廃合」として、療養病床に関してはすごく減らしていこうという傾向があります。今36万床あるところを20万床にしていこうとしています。入れない方に関しては、老健施設とか、いろいろな福祉施設を作っていこうじゃないか。あと最近また問題になっていますけれども、小児科医と産科医が減ってきています。減ってきているというよりは勤務地に偏りがあります。大きな病院にはいるかもしれませんけれども、町のほうにはいなくなってきた。もしくは手術をする際に大事になってくる麻酔ですね。麻酔をするためのお医者さんが減ったために手術ができない病院が増えてきています。そういった意味では益々統廃合が進んできています。あと一番大事である看護師が不足しています。そういった意味では看護師確保がすごく病院の存続に対してはとても大事になってきているところもあります。あと患者さんのモラルの低下。クレームを付けたり暴力を振るうようなモンスター患者が増えてきています。また子どもを産んでも医療費を払わず帰宅してしまう患者もいます。そういう、種々の問題があって経営破綻をして閉業してしまう病院も増えてきています。

あと入院日数の短縮に関しては、病院の平均入院日数によって入院費が決められています。例えば、救急処置や手術対応が多い大学病院は平均入院日数が短く、とても医療費が高い状況であります。それからリハビリがおこなわれる急性期回復期の病院は中ぐらいの医療費収入になり、慢性療養期になるともっと下の医療費収入になってくるということになっています。そのため医療費収入が下がる時期、急性期の病院であれば2週、4週で、大体退院を勧められ、次の病院を探すようになります。私たちのやっているリハビリテーション病院では3か月、6か月で医療費収入が変わる時期であります。慢性療養期になってしまうと医療費収入が得られないので、退院を薦められることが多くなります。退院しても、同居家族がいない、介護者が高齢であるなどが理由で、行き場がなくなってしまう患者もいます。退院しても老人ホームやケア付き住宅は、高額であるため経済的な理由で在宅しか選択肢がない方も実際いらっしゃいます。今後、益々こういった状況が多くなっています。

現在は在宅医療の方向に進んでいますが、以前は日常生活の介助が多い重度の障害者の方でも、入院ができていました。先ほど鹿児島の轟さんの話が出ていましたけど、本当に医療的にケアが必要な方は残っています。そのため、医療的なニーズが少ない方に関しては在宅に移行する方向になっています。そのため在宅の方は、どんどん重症化・重度化しているのが今の現状だと思っています。

あと在宅での医療体制ですけれども、いろいろな問題がある中で、私たちの立場で言うと、私たちリハスタッフが在宅に回る機会というのが、地域的には横浜リハとか神奈川リハビリとか、何人か回るスタッフはいるのですが、全国的なことを言えば、なかなかPT(理学療法士)、OT(作業療法士)が在宅に回って、こういったコミュニケーションの支援をすることというのは少ない現状です。というのは在宅に戻ったとしても、身体機能的なこと、もしくは身の回りの着替えとか食事とか、そういう切迫したことをどうにかしてほしいという要望への対応に終始しています。もし在宅にITを導入してみようとしても、実際なかなか人材やサービスが少ない現状だと感じます。しかし、病院はどんどん退院させますが、在宅までフォローできるということはなかなか少ない現状にあります。

福祉の制度もどんどん変わっていますね。2006年には障害者自立支援法ができています。その中ではサービスの原則1割負担ということですから、重度で介護ケアが必要な人ほど自己負担が増えます。経済力がない方に関してはケアができない、自立しようにも経済力がないということになっています。あともう一つ福祉施設の運営状況から言うと、かなり厳しい施設基準になっています。そのため経営を圧迫したり、職員の待遇が悪化してきているため、施設規模を縮小傾向にせざるを得ない所もあります。だから障害を持たれた方の中でも、介護サービスとか福祉施設に入ることがすごく難しくなっている現状です。そういったことから、「障害者自立支援法は、本当は障害者の自立を阻害している法律なのではないか」という在宅障害者の声も実際にあります。

そういった現状の中で、重度の患者さんほど、自分たちで福祉サービスの情報などをどんどん集められるようになってほしい。自分が自分の在宅サービスをコーディネートしていくような形で、福祉サービスの利用を進めていかないと上手に活用していけない時代になっています。自分自身や家族がパンクしたり、それに近い問題があるのではないかと感じています。そういった意味では、情報を収集して情報をうまく利用するということが在宅の方には大事になってきています。

障害者自立支援法の改正についても今年の秋ぐらいからという話が出てきています。この改正に当たっては、今在宅にいらっしゃる障害を持った方たちが、こういうところが使いにくい、こういうところは変だと訴えていくことが必要となります。皆さんのように障害者を支援している方や障害を持たれた方からどんどん情報発信をしていかないと、本当に良い法律になっていかないのではないかと思っています。

私たちの病院では、作業療法士が辞めるとすぐに補充されなかったり、臨時職員で補充される時期がありました。病院の看板になっているリハビリテーションが、どんどん質が落ちてくる心配があった時もあります。何とか歯止めを効かせないかということで、私の担当している患者さんの中で、当院のあり方委員会の委員をしている方がいるので、「作業療法士の現状をどうにかしてください」ということを理事長に伝えてもらったところ、次年度から正規職員の補充が増えたことがあります。そういった意味では職員が提言しても全然聞かない。やっぱり障害を持った方たちがどんどん提言していかないと、よりよくなっていかない現状が、医療に関しても福祉に関してもあるのではないかと思っています。

午前中から話がありました人間の権利、自分のことを自分で決める権利と、自由を保障するための手段、情報収集が大切ですね。あとはそういったニーズがありますよ、福祉制度をこういうふうに変えてほしいですよ、というニーズを顕在化させるためにも、あらゆる場を利用して啓蒙・啓発していくための情報発信が大事だと感じています。また、在宅障害者を支援する、皆さんのような人材を養成する支援体制を整備していくことが大事かなと思っています。

私たちがどのようなIT支援者を期待しているかと申しますと、畠山さんもおっしゃっていましたけれども、生活全般を見られる人材が必要です.どうしても話題がIT機器に集約されがちなので、全体を見て優先順位を決めていけるようになってほしい。あと作業療法士の立場から、「どんな格好でもいいからIT操作ができればいい」というのではなくて、IT操作後には体が疲れていないかどうか、体に痛みが生じていないかどうか、操作の質を見られるような、もしくは見られない場合には「ちょっと大変そうだから、誰か見て」と言えるような連携ができることが大事であると感じます。

あと利用者の状況とか変化やニーズに対応できる。IT支援だけというのではなく、それから発展的に進むような内容についても対応できて、もしくは対応できなければ相談できるネットワークを持つ方が必要だと思っています。

利用者の立場に立って話を聞いてみると「支援者ってどんな人か分からない」「どの程度知識があるかも分からない」「障害を理解されているかどうかも分からない」ということを聞くこともあります。利用者からすると冒険的な面もあり、「どこかが品質保証をしてくれれば良いのだけど、結局は家族とか親戚とかになってしまうよね」ということを聞きます。自分のスキルを資格で保証するということで言えば、福祉情報技術コーディネーターの資格を取るための勉強とか資格を取っていただくとか。あと、利用者さんに選ばれるように支援技術を高めておくということも大事だと思います。それにはやはり日々の自己研鑽しかないのかなと思っています。

日々の自己研鑽に関しては,障害を理解することが大切だと思います。頭で理解するだけじゃなくて、本当に体として共感できることが必要です。IT支援をしている現場だけではなく、日常生活を一緒に過ごしてみるとか、一緒に外出してみるとかということも一つの方法だと思っています。もう一つは,最新の知識とか情報を得るために勉強会とか講習会、展示会への参加もあります。ほかはインターネットで検索したり、メーリングリストもあります。私からお願いしたいのは、独りよがりにならない、一人で自己満足にならないためには、やはり自分の支援を客観的に見る「利用者から学ぶ姿勢を持っていてほしい」ということです。あともう一つは同じ支援者グループの中で、ぜひ一人の利用者さんに対して検討会をしてほしいと思います。視点を変える意味でも大事ですし、専門性を高める上でも大事だと思っています。あともう一つは利用者に関わる複数の違う支援者との検討です。

スライドは、利用者に対する支援者のネットワークを挙げています。パソボラ、ヘルパー、養護教員、セラピスト、医者、保健師、訪問看護師、エンジニア、メーカー、行政の担当者の方もいるでしょう。このような支援者たちが一堂に会して、利用者の状況をお話しする会というのは、非常に貴重だと思っています。利用者の生活の中で、自分のIT支援がどこの位置づけに当たるものなのか、全体像を知ることで新たな発見があります。また他の支援者から、新しい発想をいただけることもあります。これは医療職でいうと、カンファレンス、ケース会議、事例検討会といったものに当てはまることだと思っています。

最後のまとめとしては、やっぱり皆さんの役割は非常に大きいと思っております。医療職の立場から言うと、早期退院したあと在宅フォローが少ない現行制度の中、どうにか協力してやっていきたいと感じています。それにはちょっと声をかけてもらって一緒に訪問させていただいたり、病院に来ていただいて相談にも乗れるようになることが理想です。スライドの写真は、病院に来て車いす形状を決めているところがあります。あともう一つの写真は、私と保健師さんが訪問してパソコン支援をしている現場に、パソボラさんにも来ていただいます。このように一緒に見ていくようなことが、これから活発になることを願っています。私たちは、病院で担当患者を抱えていると、なかなかこういう機会が少なくなってしまうので、IT支援者と協力しながら協働していきたいと思っています。以上です。ありがとうございました。