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DAISYの活用事例を中心にして(第12回LD学会自主シンポジウム)

DAISY(Digital Accessible Information System)の活用事例を中心にして

田中 裕美子
国際医療福祉大学

田中氏が講演を行っている様子

国際医療福祉大学の田中でございます。私の専門はもともと子どもの言語発達とか、子どもの言語発達障害が専門で、しばらく特異的言語発達障害をやっておりましたが、だんだんその子たちが学童になって、今度は読んだり書いたりするのが難しいということを併発するという症状を見まして、私も読みの問題というのをやらなくちゃいけないなと思っていたところに、まだ1年たっていませんけれども、DAISY のお話をしていただきました。実は、私自身、読み障害を一番最初に学んだのがアメリカでした。日本語というのは言語学的にはディスレクシアが出にくいという、客観的なデータが出ているということです。日本ではディスレクシアという言葉はずいぶん表に出てきたんですけれども、実際そういう子ってどんな子だろう?ディスレクシアも含めて日本における学習障害の子どもたちって、どんな子をいうんだろう?というのを一番疑問に思っておりました。3年前から聞かれたんですけど、日本で。それで現在、普通の学校にお願いして、非常に寛大な学校なんですけれども、スクリーニングをさせていただきました。2年生全員をスクリーニングをかけてその中で、こういう読みの問題を持っている子を、通常学級なんですけれども、見つけることから始めました。その子たちも紹介しながら、今、私がDAISYをこれから使っていくとしたらどういう方法があるかということを、まだ理屈の上ですけれども、考えていることを皆さんに話したいと思います。ですから、「こういうふうに役立ちます」という話にはならないんですけれども。まず、最初私がDAISYの話を聞いたときに、それからしばらく考えてこの図(田中プレゼンテーション資料「読みの問題の原因とDAISY」参照)を考えついたんです。実は、地球上、全世界で字が読めない、書けない子ってたくさんいるんですね。その原因の一番大きなのが環境とか教育なんです。学校がないとか学校があっても貧しくて行けない。それで読んだり書いたりできない子ってたくさんいるんですよ。その次にディスレクシアとか学習障害も入る、高次脳機能障害。それから知的な低さがあって字が読めない。

あのトム・クルーズもというところから始まって、P がD に見えたり、M がNに見えたり、視覚性の問題。そういうふうに字が見えるから、そういうふうに字が読めないんだ、あるいは読み間違いをするんだということが非常に主流だったんですけれども、ここ十年くらい、英語圏では視覚性の問題というよりは音韻性の問題、言語の中の音韻性の問題がある。その音韻性の問題は、たとえば「サクラ」という言葉の中に音がいくつ入っていますか。「サ」と「ク」と「ラ」と3つ入っているってことがわからないと、それぞれひらがなで表せないわけですね。そういうふうに音韻性の問題だというふうに、今、捉えています。失読症は、ディコーディングに問題が出て、音韻性に障害がある。ですから読ませると、読みの正確さ、ちゃんとしっかり読めないんですね。あるいはすらすら流暢には読めない。だけど、いったん聞いたりある程度飛ばし読みでも、内容はすぐ分かるんですね。これがディスレクシアの典型的というか、純粋なディスレクシアの特徴と言われています。もう一方に、言語・学習障害という子どもたちがいます。これは、そもそも幼児期から言語の発達が遅れていたり、話し言葉の発達障害があるんですね。学校に入ると、さっき言いましたように、読みの障害も併発するということがあります。この子たちは、残念ながら実はディコーディングの問題もあるんですね。それと、今度は内容の理解もうまくいきません。この子たちの方が二重苦を背負っていて、私は日本語はディスレクシアは少ないけれども、下のタイプは多いと思います。実際。それで、今それぞれの子どもたちのタイプ、たまたま先ほど言いましたスクリーニングをして、見つけてきたんですけれども、その中でわかりやすい子どものビデオを見せます。この子(生徒A)が失読症、小学校2年生の夏休みです。通常学級にいます。

ビデオ
田中氏:「これ何て読むの?」(「あ」の文字を指差して)
生徒A:「うぇ」

最初、「うえ」って言いましたよね。あんまりひらがなが読めないんですね。でも文字を提示されて、何か読んでごらんと言われると、声を出そう、出すものだと思っているので声が出るんですけれども、非常に不正確です。

ビデオ
田中氏:「次は? これ」(「きっぷ」のかな言葉を指差して)
生徒A:「き、つ、ね」)

これ、いま下にテロップが出ているのは、読んでいる文字です。これはK-ABCという検査です。1ページ目。

ビデオ
田中氏:「これは?」(「きょ」のかな言葉を指差して)
生徒A:「き、よ」

次のカタカナはぜんぜん読めません。次の漢字も。ですから1ページで終わっちゃったんですね。
今度はちょっと酷でしたけど、文を理解してもらおうとしました。

ビデオ(「くちをあけなさい」の文を読ませる)
生徒A:「う、ろ、わ、あ、け、け、け、わ、う、ろ、わ、あ、け、わ、き、い」
田中氏:「できた? ちゃんと読めるじゃん」)

だからこの子は、ディコーディングに問題があって、文字を音に替えるんですけど、一生懸命意味を考えながら読むから、余計時間がかかるんですが、基本的には意味がわからない。だから次のページはやらないんですね。でも、一生懸命取り組んでくれると思うんですけど、小学校2年生の、これ夏休みなんですけど、この段階でここまでひらがなが読めないんです。先ほどお母さん(堀田氏)がおっしゃっていたように、教科書を全く読もうとしません。授業中はずっと、皆が音読しているときは全然、違うことをしたりしているそうです。このスクリーニングの結果が出るまで、担任も変だなとは思っていましたけれども、よくわからなかった。なぜかと言うと、授業中、聞いて分かるから。すぐ手を挙げるんですって。授業中の反応はすごくいいわけです。だから、むしろ出来るんですね。内容をよくわかっているから。だから、何か変だなとは思いながら、まさか失読症だとは思わなかったといって。今回この子をどうするかということに取り組んでいったわけです。

次、この子(生徒B)は、言語・学習障害の一つのタイプだと思ってください。4年生の3学期になっていたんですが、ほとんどひらがなが読めない。うまく読めません。だけど、読んでもらったら、しぶしぶいい子だから読んでくれるんですけど、声が聞こえないようにしてボソボソするから、録音できないんですね。そのボソボソを聞いてほしいんですけれども、みーちゃんが出てくる「はじめてのおつかい」という、非常に簡単な開きの2ページを読んでもらいました。

ビデオ
田中氏:「じゃ、ちょっと読んでください」
生徒B:「  ……(ボソボソ)   」)

さっきの子よりはまだ、音をディコーディングするのにあまり問題がないように聞こえますが、正確には読んでいないんですね。助詞をとばしたり言葉をとばしたり。この後、主人公の名前が間違っています。それから主人公が何を買いに頼まれたの?って言ったら全然わかっていなかった。ですから、ディコーディングも一応やっているんですけれども、中身が全然わかっていないわけです。ということで、私は言語・学習障害のタイプだと思っています。今のああいうタイプの子は、絵で判断しているんですね。だから、絵を見て質問に答えたりするから、絵に入っていないものはなかなか質問に答えられないし、私がこのタイプで一つ覚えているのは、”ありの行列”という単元(ありは何故、エサと巣の間で正しく迷わずに行き来することが出来るのかを説明した単元)がありましたよね。ご存じでしょうか。ありがひとつまみの砂糖、ウィルソンの実験で教科書の下に絵が書いてあるんです。ありの行列があって。で、教科書の大きさはこんなんで、砂糖はこうなんですよね。で、このタイプの子と一緒に読んでて、「ひとつまみ」って砂糖が出てきて、「ひとつまみの砂糖ってどのくらい?」って言うと手でこうするんですね。これが教科書の絵なんです、最後の。だから、一つは言語発達障害の場合は、語彙もちゃんと入っていないということなんですね。ですから語彙の問題もあるし、ディコーディングの問題もあるし、それで結果的に文の理解が上手くいかない。大きいと、ちょっと単純すぎるんですけども、読みのプロセスの中に、音と文字を変換するディコーディングのプロセスと、それから文を理解する2つの側面に分けて、それで今の失読症を考えますと、文字と音の変換は非常に苦手だけれども、文の理解は問題ないんです。ところが、LLD、言語学習障害の場合は、ディコーディングでまあまあなんとか回るんですけど、両方持っている子がいる。で、文の理解もうまくいかない。こういうふうな整理ができるんじゃないかなと、いま考えています。このような整理をした上で、ではDAISY をどんなふうに活用できるかなと考えたときに、このかいり読みのプロセスについて、本当にこの2つというのはそれほど乖離するもの、別々のプロセスなんだろうかということを、少し考えるために、私は他の子どもたちに、そのスクリーニングに引っかかった子どもたちに色々やってもらってわかったんですが、この子(生徒C)はディコーディング、音と文字の変換に問題がある。非常に難しさがあります。

ビデオ
生徒C:「こ、の、さ、か、ちいさな、ち、り、お、お、こう、か、き、お、お、……」

読んでもらうのが本当にかわいそうな。2行くらいしかまだ読んでいないんですけれども。次、同じところをこの子(生徒D)が読みます。

ビデオ
田中氏:「この小さい魚が大きな魚のなかに」
生徒D:「入ってね」「入っていくのを見ると、びっくりしています」)

この2人を比べると、最初の子(生徒C)っていうのはすごく読むのが大変で、読みに問題があるように見える。こっちの子(生徒D)は、まあ漢字が読めないところもあるけれども、2年生だったらこのくらいの子はいるから大丈夫かなと一般的には思うんですけれども、内容の理解を見た時に全く逆だということがわかりました。

ビデオ
田中氏:「それで、ワケベラってこの写真の中のどれかな」
生徒C:「これ」
田中氏:「何してるのかな」
生徒C:「えーと、魚を、きれいに掃除している」)

これ、正解なんですね。小さな魚が口の中に入ってお掃除をしてるというのが、あのとつとつで読みながらわかっているのがまた逆に不思議なんですが。今度は、比べるとまだ上手に読んでいた子どもです。

ビデオ
田中氏:「ホンソメワケベラってこの写真の中のどれ?」
生徒D:「ん」

大体、名前からして変になってる。中身をあんまり読んでない。

ビデオ
生徒D:「この小さい魚」
田中氏:「じゃ、ホンソメワケベラは何をしているの?」
生徒D:「わかんない」
田中氏:「入っていくの? 入ってどうするの?」
生徒D:「違うな」

この子は写真で判断しているんですね。口の中に入っていて、でも入ったら食べられるしなと考える。だから読んだ中身とぜんぜん関係ないことを考えているんです。ですから、ディコーディングと中身を理解するということは、ある程度独立しているという可能性があるなと。違う子ですけど、こういうような状態を見ました。それで、失読症についてもうちょっと問題を整理しますと、言葉、言語というのはいくつかの構成要素からできています。それで、失読症はその言語の構成要素の中の音韻の部分に問題があるんですね。あとの意味だとか文法だとか、ディスコース(談話)、あるいはプラグマティクス(語用)の側面は基本的にオッケーなんです。ここで彼らは理解をしているわけです。ですから、音韻のところのディコーディングがうまくいかない。こういう比較的独立したところで障害が起こっているということが言えます。そうすると、DAISY をこのディスレクシアに応用した場合、DAISY がこのディコーディングを保障するというか、代わりにやってくれて、言葉の認識、そして意味理解に結びついてくれる。そういうふうな図式が成り立つかなと。ですから、ディスレクシアの人が自立した内容理解をDAISY が支援していくことが可能だろうと思います。ただ私たち、言語の障害、発達障害とか言語の指導をする者にとったら、この出来ないディコーディングはどうするんだと。この子たちはここに置いておくのかと。実は、アメリカでは英語を指導します。指導方法があるんですね。音韻意識って、最近言葉がでていますが、音韻意識の指導。それから日本の場合はたぶん、意味との関係を使ったりとか、いろいろ方法はあると思うんですけど。こういうDAISY を使いながら、私はやっぱりここのアプローチもしていくというのが、子どもへの指導じゃないかなと考えています。で、言語・学習障害の場合ですけれども、さっきと同じようなプロットを使いますと、彼らは言語のほとんどの構成要素でうまくいかないんです。ですから、理解もディコーディングもなかなかうまくいかない。

そうするとDAISYの利用法としてどうかなと思ったら、まったく同じなんですけれども、実は、この子たちは、ディコーディングもそうなんですけど、もっと意味理解を助けるような語彙だとか、文脈間の推理だとか、言葉による概念形成とか、そういうところを助けていってあげないと、実際に読むことが彼らのプラスにはつながらない。ですから読むという作業そのものをDAISY に何かプラスをしていかないと、この子たちの意味理解にはなかなかつながらない。むしろ難しい子どもたちだなと考えます。最初に言いました、80人の小2の子どもたちをスクリーニングして、10人引っかかりました。そのうちの1人がディスレクシアで、あとの3人が学習障害。言語発達障害って、話し言葉の方の遅れはあるんですが、読み書きの問題はでていないとか。あと境界線知能という子どもも。こうなると、6%というのは嘘じゃないな、通常学級にいるな、数字が合っているなという感じです。ただ、DAISYにプラス、では私たちに何がしてあげられるかなというのがこれからの課題だと思います。今日の話をまとめますと、少なくとも、読んだり書いたりすることには2つのタイプがあるだろうと。で、読みのプロセスの中でディコーディングと内容理解というのは比較的独立しているんですけれども、DAISYは主にそのディコーディング部門から内容理解を促進するというのが大きな。簡単に言えばそういうことだと思います。ですから、それプラス、人間が何を、あるいは先生が何をしてあげられるかというのが、今後の検討点だなと思います。