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国連障害者の権利条約

セミナー:権利条約制定への世界の最新の動き-国連特別委員会作業部会の報告-

主催者挨拶

(財)日本障害者リハビリテーション協会 会長 金田 一郎

本日はご多用の中にもかかわらず、多くの皆さま方にご参集を賜り、誠にありがとうございます。国会開会中の公務の間をぬって駆けつけていただきましたご来賓の八代英太衆議院議員をはじめ、UNESCAP代表代理の長田こずえさん、ならびに特別報告をしていただく外務省の角茂樹参事官にお礼申し上げます。

最近、障害者をめぐる国内外における議論が活発に展開されていることは皆さまご承知のとおりです。特に国連の障害者の権利条約制定に関しましては、2003年6月の第2回国連特別委員会における条約制定に向けた作業開始の決議以来、UNESCAP主催の地域セミナーが2回開催されましたほか、本年1月早々には、権利条約の草案作成にあたる国連特別委員会作業部会がニューヨークの国連本部で開催されるなど、急速に議論の展開が進められています。

このような状況を踏まえ、本日の国際セミナーは「権利条約制定への世界の最新の動き」のテーマで、権利条約に関するこれまでの経緯から現段階における国連での議論内容を十分に掌握し、その評価を行うとともに今後の障害者の権利における国内法の実現など、取り組むべき課題を明らかにし、議論を深めていただきたいと考えています。

本日はこのセミナーのために、国連特別委員会作業部会委員でありますタイ代表のモンティアン・ブンタンさん、ならびに国連機会均等化標準規則特別報告者アドバイザーでありますヨルダンのモハメド・タラウネさんのお2人を招き、国内学識経験者の代表、及び障害当事者代表の方を交えて意見交換を行っていただくことになっています。このセミナーが国連の障害者の権利条約制定に向けての新たな展望を開くきっかけにでもなれば主催者として、このうえない喜びです。

本日のセミナーの開催にあたっては、ご後援ご助成をいただきました全国生活協同組合連合会、共催団体である日本障害フォーラム準備会、また、ご講演をいただく演者、パネリストの皆さまに対し、深く感謝を申し上げまして、開会のご挨拶とさせていただきます。

共催者挨拶

JDF準備会代表・日本身体障害者団体連合会 会長 兒玉 明

開会にあたり一言、ごあいさつ申し上げます。本日は全国から多数の皆さま方にお集まりいただき「国際セミナー 権利条約制定への世界の最新の動き」がかくも盛大に開催されますことを心からお喜び申し上げます。

先月5日から16日までの約2週間にわたり、ニューヨークの国連本部で権利条約特別委員会の作業部会が開催されました。そこでは条約草案ができています。本日はニューヨークでの作業部会でご活躍された外務省の角茂樹参事官をはじめ、タイのモンティアン・ブンタンさん、DPI日本会議の金政玉さんをはじめ、多数の関係者にお集まりいただいています。また、作業部会の冒頭に提出された議長草案は、2003年10月にバンコクで開催されたアジア太平洋地域ワークショップで採択されたバンコク草案の内容が色濃く反映されていました。このことからもアジア太平洋地域における関係者の皆さまの貢献が非常に大きいものとおわかりいただけるかと存じます。

また、11月に北京で行われた地域セミナーを含め、中心的な立場でご活躍されたUNESCAPの長田こずえさんをはじめ、日本政府、各国政府代表、NGOの代表の方々の並々ならぬ努力に改めて敬意を表したいと思います。

本日のセミナーでは今一番ホットな話題である障害者権利条約の基本的な部分からご講義いただくとともに、先月の作業部会の報告、そして5月と8月に予定されている第3回、第4回の権利条約特別委員会に向けた検討など、価値ある内容でプログラムが組まれています。権利条約の制定、そして差別のない社会の創造のための、差別を防ぐ国内法整備が私たち障害当事者の悲願です。

本日は、参加の皆さまに、世界的な潮流となっている権利条約制定へのダイナミックな息吹を感じ取っていただければ共催団体JDF準備会の代表としましては、大変うれしいことです。

最後に、本日のセミナーが障害者権利条約制定、そして、障害者への差別禁止に対する法整備の実現に向けた大きな起爆剤になることを心よりお祈り申し上げましてごあいさつに代えさせていただきます。

来賓挨拶

衆議院議員 八代 英太

八代氏の写真

今日は、権利条約の早期制定に向けての国際セミナーをご案内いただき、大勢の方のご参加に、心強く思います。

私も先の国会では、障害者基本法の10年ぶりの改正に取り組みましたが、国会日程上、廃案となり、今回の国会では、なんとしても各党の力添えをいただきながら、障害者基本法の改正作業と法案を成立させるため、野党第一党の民主党と、毎日のように協議しているところです。新たな法案の提出となるので、ここはもう少し、踏み込んだらどうかとか、この文言は削除してはどうか、新たにこういうテーマを盛り込んでは、などご意見をいただいています。再度見直し、進むべきものは進め、権利条約の国連における作業も進んでいるので、この権利条約の制定と、私たちの改正する障害者基本法とが、違和感のない形になるよう、先を見越した努力も必要と思います。

また、この障害者基本法は、5年後見直しの期間に制定しますので、物事の流れの早い今日においては、法律ができあがると、とかくそのままにされてしまうのが常ですので、世界の動きに目を向けながら、日本の障害者基本法をつくり上げたいと思います。

協議のなかでは、国連での権利条約の議論もあり、障害者の権利、さらに自立への保障、差別してはならない、ということを中心に盛り込みながら、基本法の見直し作業をしています。日本の福祉には、財源の切れ目が縁の切れ目という誤解がありますが、新しい予算では6.7%ですが、障害者の皆さんの社会への自立の意識が高くなっており、介護ひとつをとっても、大きく数字がふくらんでおります。それでもなかなか国の当初見込みには追いつきません。年度末には、いろいろトラブルが起きるという現実もあり、障害者福祉の問題も、トータルな意味で、この際きっちり整理する必要があると思います。

私は自民党の障害者問題特別委員長ですので、各団体代表、専門家、委員、厚労省担当部の皆さんと一緒になってプロジェクトチームをつくっています。今までの厚生省型福祉と障害者の職能訓練を含めた労働省型福祉が、今もなお二分されたままなので、一本化することが大事だと思います。自立や就労、介護など我々が生きるうえで、何が必要で、トータルな流れが必要か見極めたうえで考えていくことが、我々の権利につながり、自立の意欲に大きなインパクトを与えるということを考えながら、旧厚生省の流れと旧労働省の流れを太い幹に育てる作業に取り組み始めたところです。障害者基本法もそれを視野に入れながら努力しています。たとえば、障害者の自立に必要な作業所は全国に約7,000か所あり、そのうち4,000か所は無認可です。無認可の作業所に対して、都道府県や地方自治体はどんな責任をもつかを、障害者基本法で取り上げるべきという意見が出ています。できるだけはやく、障害者基本法の成案を得て、国会で成立させたものは、障害者の権利条約と比べて、齟齬のないようにしていくつもりです。

皆さまにはいろいろご意見があろうかと思います。積極的に提案いただき、また、議論をいただき、10年ぶりに大改正する基本法なので、いろいろご意見をたまわりたいと思います。先般、外務省の角さんには国連で議論していただき、ESCAPの長田さんからは、タイで開催されたESCAPのアジアにおける障害者の貧困問題、権利問題のセミナーにも招待いただきました。私はあさってからラオスに行きます。社会主義国ですが障害者の組織化が許された国です。現在、日本がアジアにおける障害者問題のリーダーになっているのは事実です。今後、日本はアジア各国で権利条約をテーマに各国の啓発、障害者指導者の養成にも大きく国際貢献する重要な時期だと思います。紛争が起きていて、障害をもつ人が戦火から生まれているといういまわしい現実もあります。日本が、紛争で障害をもつようになった人の後見を率先して行うのが重要だと思います。

これから私に残された人生がどれくらいあるかわかりませんが、一生懸命アジア太平洋に力を注いで、二国間協力やアジア太平洋全体の協力、タイに新たにできるアジア太平洋障害者センターを手始めにネットワークをつくり、各障害者団体の皆さんが中心となり、一緒に活動ができればと考えています。本日のセミナーが有意義なものになることを期待しております。
ありがとうございました。

UNESCAP 代表 テルマ・ケイ

(代読 UNESCAP社会開発局障害専門官 長田 こずえ)

長田氏の写真

アジア社会太平洋委員会、経済社会委員会を代表して障害者の権利及び促進、国際条約セミナーがつつがなく開催されるにあたり、皆さまにお祝いの言葉を申し上げます。

UNESCAPは、本セミナー開催の準備された障害者リハビリテーション協会、日本の市民組織、またNGOなどが障害問題に特別な関心を向けられたこと、国連社会開発委員会障害問題特別報告者シェイカ・ヘッサ・アルタニ氏に深い感謝の意を表する次第です。本日はアルタニ氏に代わり、モハメド・タラウネ氏が報告をしてくださることであらためてお礼申し上げます。

アジア太平洋地域の各国政府により「アジア太平洋障害者の十年」を2003年から2012年までさらに10年延長することが宣言されました。こうしたなかでの本セミナー開催は、時宜を得たものです。新たな10年に向けた主要な地域政策指針として、アジア太平洋障害者のための、インクルーシブでバリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた「行動のためのびわこミレニアムフレームワーク」が2002年10月のハイレベル政府間会合において採択されました。これはBMFという略称で呼ばれ、会合は2002年10月に大津市で行われました。

最初の「アジア太平洋障害者の十年」は大きな成果をあげましたが、政府間会合参加者は、2003年以降もアジア太平洋地域で、障害者に影響を及ぼす諸問題に取り組むとともに、障害者の完全参加と平等をさらに促進する必要があるとの認識をもつに到りました。   

本セミナーがまことに時宜を得たものであることには、もう1つ理由があります。昨年、15年にわたる議論を経て、国際社会はようやく新たな「障害者の権利及び尊厳の保護および促進に関する包括的な国際条約」の起草を決定しました。2003年6月16~27日にニューヨークで開催された、第2回特別委員会において国際条約に関する案に加盟国は合意し、草案をまとめるための作業部会ができました。ここには日本政府を含む27の政府とRI、DPIなど12のNGOで構成されています。

UNESCAPは昨年、条約の骨組みと要素を検討するワークショップを開催し、UNESCAPとアジア太平洋地域の専門家とで、「バンコク草案」と称する草案を作成しました。この草案は今年1月にニューヨークで開かれた第1回作業部会で、議長草案のたたき台として採用されたと私は確信しています。また、国連特別事務所は、2003年12月にカタールのドーハで条約案のセミナーを開催し、UNESCAPもこれに参加しました。

現在の「アジア太平洋障害者の十年」の主たる目的は障害者のエンパワメントを目指して、権利に基づく開発アプローチへのパラダイムを促進することです。私のごあいさつの締めくくりとして、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会、すなわちさまざまな能力とそれぞれの多様性をもつすべての人が、平等を基本として、その権利を十分に主張し、そして享受することができる社会をともに願いたいと思っています。

特別報告

障害者権利条約起草作業部会結果概要

外務省国際社会協力部 参事官 角 茂樹

角氏の写真

2003年8月にもセミナーにお招きいただき、障害者の権利条約についてお話をさせていただきました。そのときにはいくつか問題となるべき点について述べましたが、それを踏まえて、1月5日から16日まで、ニューヨークの国連で行われた障害者権利条約起草作業部会についてご報告します。

この作業部会には日本からは外務省の私が団長となり、外務省に加え、内閣府、文部科学省、厚生労働省、総務省の担当者、それからNGOの代表として本日も出席されている金さんが代表団顧問として正式に参加しました。今日ここに来ておられる長瀬修さんとタイ代表のブンタンさんも来ておられました。

作業部会の案はまとまり、これが今後行われる国連の国際会議に正式に提出されることになりました。その内容について詳しくお話しさせていただきます。障害者の権利をどうとらえるかについては、いくつかの意見があることが分かりました。

国連のこれまでの人権に関する条約は大きく分けて、2つの条約があります。1つは、政治的市民的権すなわち、言論の自由や迫害をされない権利で、人間が生まれながらに持っているとされる権利です。さらに、その権利はいつどんな状況でもすぐ実現しなくてはいけません。いかなる理由があっても、言論の自由は圧迫できないし、人を勝手に拘禁はできないのです。それが国連でいう自由権規約です。

もう1つは、経済的・社会的権利です。これは人間が生活していくうえで、社会保障、健康を含む文化的な生活をできる権利などで、その国の状況によっても、社会の発展によっても違うので、早急な実現は難しく、1つの努力目標として各国が進めていく条約で、通常社会権規約と呼ばれています。障害者の権利条約はこのどちらに当たるのかが大きな議論になりました。障害者の権利は今までは、社会的、文化的権利が中心で、障害者の方々が非障害者と同じように暮らせるようにすぐ整備すべきであると考えられてきました。

それに対して、もう少し積極的な、政治的・市民的権利も入れるべきという議論もでてきています。たとえば、職場では平等にしなければならないということは努力目標ではなく、法の下での平等という自由権としてすぐに実現しなければならない差別禁止の考え方です。今回の条約においても、この両方の考え方が出てきています。 

これは言い換えれば、差別禁止の意味からとらえていくのか、それとも、一つの奨励措置としてとらえていくのかということです。

どこがどんな考え方を述べたかというと、大きく分けると先進国の政府、発展途上国の政府、先進国のNGO、発展途上国のNGOの大きく4つに分けられると思います。ただあらゆる場合において、この4つが同じ組み合わせになるのかというと、そうでもないし先進国の政府、NGOグループ内でも意見の相違は見られる等、単純な事ではありませんでした。 

今、申し上げた大きな2つの考え方があることに立って、各論についてご説明したいと思います。2003年8月のセミナーで、私は、障害者の定義をどうするかが大きな問題になっていると申し上げたと思います。今回の作業部会で、ニュージーランドの国連大使である議長は、あえてこの課題は最後に議論することにしました。ただ、一般的な議論では、先進国の政府の例では、日本は必ずしも定義することに反対ではないとし、ヨーロッパ(EU)は、障害者の範囲をどこまでとするのかは非常に難しいことで、定義すべきでないとしました。 

たしかに障害者の範囲には、長い間にわたって障害を持っている人は当然入りますが、たとえば一時的に私が1週間で治るようなけがをして、身体が不自由になったときに障害者と認定して障害手帳までもらえるのかという問題から始まり、妊婦も障害者に入るのかという議論も出てきます。これは国によっても違い、1つの定義にまとめるのは難しくなるので、定義すべきでないとEUから出されました。これに対して一部のNGOは、定義すべきであると主張しました。

WHOのICF(国際生活機能分類)では障害者が定義されていますが、実際に用いるのは難しいので、その定義についても議論はあります。いずれにしても、今回の会議では定義に関する意見は交わされましたが、実際の案文にはありません。

 次に議論となったのは、身体の自由と特に精神の障害を持っている方々を施設に収容する問題です。特に西側のNGOの中には、たとえ精神に障害があっても、本人の同意なくしては施設に入れられないという強い権利があると主張しました。これに対して、西側の政府からは精神に障害のある人々は自傷、他傷のおそれがあるから、例外的措置として、施設収容は強制的にされるべきという意見が出ていました。もちろん救済措置はあって、施設に入れられるべきでないのに、入れられてしまった場合には、それを救う措置がとられるべきだということは条件として出されました。しかし、例外を除いては強制的な収容措置は必要である、という意見が西側政府の多くから出されました。

 次に教育の権利です。これは、障害者の教育を一般教育とどこまで一緒にし、どこまで別にするか、特に特殊教育諸学校の必要性についてです。 

これにも、いろいろ意見があり、NGOのなかでもろうあの方々は特殊学校の必要性を強調していました。それに対して、特殊教育諸学校というのはよくない、通常の学校で行うことが原則であるとするNGOの方もいました。これも、NGOのなかでも必ずしも意見は1つではなく、意見が分かれたところです。 

では、特殊教育諸学校か、通常の学校かどちらかを選ぶ権利はだれにあるのでしょうか。一般的には本人、保護者とする意見が多く出されています。

 次に雇用の点です。私は国連やジュネーブの勤務が長かったので、外務省でも人権について長く関わってきました。今回、そんな私にとっても初めて聞く用語がありました。「合理的配慮(reasonable accommodation)」という用語です。障害者の方が仕事をする場合、「雇用割当制度」という考え方があります。もう1つの考えとして出されたのが、この「合理的配慮」です。私がもし足に障害をもっている場合にも、コンピューターの技術に関して優れていれば、コンピューターについては、他の人と一緒に入社試験を受けます。結果、会社に採用されたとします。会社に行く時は、私は足が不自由なわけですから、他の人と比べると設備などが必要です。事務所にエレベーターがなければ設置してもらわなければなりません。このようにコンピューターの専門職として採用されたのであれば、業務をするときに他の人とまったく同じようにコンピューターの仕事ができるようにするというのが、合理的配慮の考え方です。 

女子差別撤廃条約のときには「積極的政策(affirmative action)」という言葉が使われました。女子に対する差別をなくすために、女性に対して積極的な政策をとることは差別ではない、という意味で使われました。しかし、この「合理的配慮」という言葉、考え方はこの積極的政策とも異なる人権関係の条約では初めて使われた言葉です。 

合理的配慮という考え方と日本がとっている雇用割当制度という考え方は、個人的には相反する考えとは思いませんが、これに関しては、いろいろ議論がありました。特に合理的配慮を条約に入れる場合、条約は法律文書なので、条約を承認した場合は実現しなければなりません。何が合理的配慮なのか。たとえば足の不自由なコンピューターの専門職に、どこまで会社が配慮しなければならないかは、なかなか難しいところですし、会社が合理的配慮をしていなければ、どこに訴えるのか、だれがそれを判断するのかということも問題になってくると思います。

 国際協力についてどうするかも課題としてあがりました。条約はややもすると発展途上国が先進国から資金援助を得るための手段として使われてしまい、そうなると収拾がつかなくなると2003年8月のセミナーでお話ししました。これについては先進国政府、特にEUから警戒されています。最初はEUは国際協力という言葉は使わないようにと言いましたが、日本からみても少し行き過ぎかと思います。国際協力は資金援助だけでなく、情報の交換などで助け合うことはできます。そういう意味で、国際協力は可能であると思います。

 もう1つ、モニタリングについて議論となりました。まず、他の人権条約はモニタリングの条項が入っています。これは専門委員会がつくられて、それぞれに対して、条約によって違いますが、定期的に国がその委員会に自国の措置を報告し、その報告に基づいて、委員間と国の代表との間に質疑応答があり、勧告を提出するというやり方です。人権関係の条約で日本が入っているのは6つありますが、その報告だけで、日本だけでなく各国も手いっぱいです。実際に3年ごとに報告をと求められてもできないでいて、3年ごとの報告が4年、5年、6年と延び、報告までの期間が長くなってしまって、機能しなくなっています。これをどうするかは今後の課題ですが、大きな議論になると思います。
 それから国内におけるモニタリングについてはいろいろな意見が出されましたが、まとまった意見にはなっていません。

 以上がニューヨークで行われた議論の内容です。ニューヨークで1月に開かれた障害者権利条約起草のための作業部会では、各国の地域別に選ばれた27名の政府代表、12名のNGOの代表者、それから1名の国内人権機構の代表で議論がされました。NGOの代表が入って議論したのは、政府間でつくる条約としては例外的なことでした。 

条約の草案ができましたが、それには多く脚注が付いています。その脚注には、こういう意見には、こんな反対もあったなどと書いてあるのです。各国代表とも、脚注がついているので、5月に行われる政府間交渉にこれを草案としてあげることを了承しました。その意味で、草案はできているが、必ずしも1つの考え方にまとまっているという訳でないことに留意する必要があります。

 2週間前にワシントンに行く用事があり、その途中にニューヨークに立ち寄って、1月の作業部会議長のニュージーランド国連大使、それから5月と8月に予定されている、政府間交渉会議の議長となるエクアドル国連大使と会って話をしてきました。特にエクアドル国連大使は、今後の議長となるので、どういう形で会議を進めるのかに関して、次の2つのことを述べていました。 

まず、エクアドル国連大使は、2回の会議でほぼ取りまとめたいと述べました。取りまとめられれば、国連の条約としては早いスピードで進むと思います。それから1月にできた草案では、1つの考え方にまとまっていないので、最初に説明した問題点についても話し合いましたが、エクアドル国連大使は、この間の草案はNGOも加わっていろいろな意見が含まれているけれど、政府間交渉となると、あまり細部に入らないものになるのではないか。そうであるなら、まとまるのは早いのではないかとしていました。本当にどうなるのかについては、私は5月の会合を見ないと分からないと思います。 

5月、8月の会合は、政府間交渉になるので、NGOはオブザーバーで、正式メンバーではありません。そういう意味ではある程度、スピードを加速して取りまとめることもできますが、他方NGOは、正式に発言ができなくても、各国の政府に「こういう発言をしてください」と働きかけます。1月の作業部会にはヨーロッパのNGO代表が出ていましたが、政府の代表もそれほどNGOの意見を汲み上げないで、部会では政府の意見を述べたのだと思います。しかし、次の会合に出てくる時は、政府はNGOと話をして出てくるので、1つの考え方に取りまとめられるとは簡単には言えないと思います。 

いずれにしろ、5月の会議が終わり、その次の8月の会議でまとまるのか、まとまらなかったとしたら9月からは国連は総会が始まって忙しくなるので、8月以降に会合を開くのは無理なので、次の会合は来年になると思います。そうすると、まとまるには数年かかるかという気がします。これがニューヨークに出張して議長と話した時の感触です。  5月は政府間交渉になりますが、代表団の数も検討しなければならないので、確約はできませんが、少なくともNGOから1名は入っていただいて、一緒にがんばりたいと思います。もう少し5月に近づけば、政府の対処方針も固まると思いますので、また密接に協議したいと思います。

《堀利和参議院議員より届けられたメッセージ(当日は司会代読)》

参議院議員 堀 利和

国際セミナーの開催、心よりお喜び申し上げます。我々障害者にとって積年の課題である障害者の権利条約も1月、報告がされました。5月に歴史的な交渉が始まりますが、周知のとおり、楽な交渉ではなく、非常に厳しいものとなるでしょう。そこでの焦点には障害の定義や精神障害者の強制的治療、入院といった論点、インクルージョンを原則とするか、盲・ろう学校をどうするかといった教育の論点など、日本国内でもこれまで障害者基本法など、積み残しとされてきた重要な課題が含まれています。交渉に参加する日本政府の動きをポジティブに働きかけていくことが我々に課せられた役割でしょう。5月までの限られた期間ですが、全力を尽くす決意です。

講演

  • 講師  新潟大学法学部 教授    山崎 公士
  • 国連機会均等化標準規則特別報告者アドバイザー   モハメド・タラウネ
  • コーディネーター 日本障害者協議会 常務理事    藤井 克徳
                日本障害者リハビリテーション協会    上野 悦子

藤井:2001年にメキシコ大統領の発議によって、障害者の権利条約の議論が始まりました。2002年、2003年にアドホック委員会を2回開催しました。そして、本年1月、アドホック委員会のなかの作業部会が開かれて、いよいよ佳境に入りつつあるという感じがしています。アジアでも一つの動きができあがってきています。  今日はこの権利条約の採択、制定に向けて、特に日本政府や、日本のNGOの役割を論じ合っていこうと考えています。午前中のプログラムの狙いは、大きく2つあります。1つは、障害者の権利条約も含め、国際人権条約の大きな流れ、系譜、あるいは到達点が、これらがどうなっているかです。2つ目は、この権利条約を後押しするさまざまな動きの1つとして1993年にできあがった障害者の機会均等化に関する標準規則の新しい動きはどうなっているかです。この2つを午前中に押さえていきながら午後のプログラムの障害者権利条約に関するディスカッションにつなげていきます。

国際人権のしくみ–人権条約の効用

新潟大学法学部 教授 山崎 公士

山崎氏の写真

 専門は国際法、国際人権法とご案内いただきましたが、一昨年あたりから、人権政策学も若手研究者仲間と研究しつつあります。その意味でも、今日のような、国際セミナーでお話する機会をいただき、私自身も勉強の機会と思い、ありがたく思います。

はじめに  

まず、「条約」という言葉を聞いて、「条例」とどこが違うと思われますか。1字しか違いませんが、1字違いで大きく違います。条約とは、国と国との約束です。条例は自治体の立法です。グローバルレベルが条約で、ローカルレベルが条例でということです。  

条約は国と国との国際約束です。外務省は条約の総称として、「国際約束」という言葉を使っていますが、とてもわかりやすい用語で私は好きです。要するに国と国とが、お互いに守りあうということを約束するのが条約です。通例、二国間で約束するのが、二国間条約、これから議論する障害者権利条約のように、おそらく100以上の国で議論して結ばれるのが多数国間条約です。   

これらは国と国の約束なので、一般市民にはあまり関係ないというイメージが大きいと思います。私は法学部で勉強し、教えてきていますが、法律を勉強している人の間でも、法律学といえば国内法の研究が中心という認識があります。しかし、時代は21世紀に入っています。国と国との約束ごとでも、その中身、そこで約束した実体は、一人ひとりの喜び、哀しみ、人権救済、教育など市民レベルの生活実態レベルまで、大きく関わってくるものです。これはなぜかについてはこれからお話しします。条約と聞いて、それは国際約束だから私たちには関係ないとは思わないでいただけるようになれば、今日の私の話は、それだけでも成果があったといえるかもしれません。

国際人権とは

私どもは、ここ20年くらい、「国際人権」という言葉を国内外で使うようになりました。「国際人権」とは「国際的人権保障」の省略形です。世界にはいろいろな文化、歴史、宗教をもつさまざまな人が住んでいますが、背景が違っても絶対に侵してほしくない中心的権利、自由があります。その共通項を第二次大戦後に、いろいろな国が関わり世界人権宣言などをきっかけとし、少しずつルール化してきました。それが国際人権です。ルール化したことをまつり上げておくだけではなく、それを一人ひとりの生活実態のレベルにまで当てはめようとすることも含めて、「国際人権」という言葉で語ろうとしています。

国際人権のこれまでの進め方は、背景が違う世界中の人々が、これは絶対に守るべき、あるいは失ってはいけない権利、自由の基準を確かめあって確立すること、難しくいえば、国際人権基準の設定作業です。角参事官もおっしゃいましたが、国際的に一つの決めごとをすればきちんと守らなくてはいけないという気持ちがあるので、守れそうもないことは約束したくありません。また約束ごとを本当に守っているかを確かめる手だても、最初から厳しい制度をつくると、国家はその約束に縛られるのをためらいがちです。

国際人権基準 「宣言」から「条約」へ

宣言というのは、いわば政治的、国際的、道徳的、倫理的な合意です。世界人権宣言は、その典型です。ここに盛り込まれた、生命、身体の自由、集会結社の自由などは、人類のこれまでの活動から出てきた基準ですが、宣言にとどまる限り、国家を代表する政府からすると、法的な縛りの力はもちません。ハードな法的縛りの力をもつのが条約ですが、これを最初からつくるのはなかなか勇気がいることで、ホップ・ステップ・ジャンプの表現にたとえると、いきなり「ジャンプ」に同意しましょうということです。ですから、とりあえず法の縛りはないが、合意できるという約束をつくろうというのが宣言です。  

障害者権利条約の関連でいうと、1993年の障害者の機会均等化に関する基準規則は、名称は「規則」となっていて条約の一歩前の段階です。障害者の機会均等についてのグローバル・スタンダードを国連で考えようというものです。それから10数年経ち、基準規則として政治的、倫理的な合意があるのは非常に尊いことですが、ここに留まっている限りは、政府に対しての強い物言いはできません。  

そこで宣言に留まらず、条約がほしいという話になります。これは自然の流れです。思い起こせば、子どもの権利条約にしてもまず宣言があり、条約ができました。女性差別撤廃条約の場合もそうでした。人種差別撤廃条約の場合も、いきなり条約ができたわけではなく、宣言があって、しばらくして条約ができました。先ほどの角参事官のお話ですと、宣言から条約へ、いわばホップからジャンプへ移るのに相当時間がかかりました。しかし、今回の障害者権利条約については、それほどかからないのではないかと思います。私の個人的な感触として、5年から10年の間に、条約化が実現するとみています。その背景にはもちろん世界的な当事者の運動があることは申すまでもありません。

人権条約に入ると政府は何を約束するのか(何を義務づけられるのか)

世界人権宣言が、自由権規約、社会権規約という形で条約化されました。こうした一般的な条約ができて、子どもの権利、女性の権利、移住労働者の権利、そして障害をもつ方々の権利を条約化しようというところまで人類がやっと到達しました。   

条約は国際約束ですから、障害者権利条約ができると政府はどんなことを義務づけられるのでしょうか。障害者をめぐる諸権利、あるいは障害者が直面するさまざまな不利益、不都合な環境をいかになくしていくか。そういうことをただ単に宣言ではなく、国家間で守る約束ごととして文面化していく。これが障害者権利条約の実体規定に当たるものです。この条約ができ、この条約に入った国は、他の国に対して、条約に書かれていることはきちんと守り、実施するということを、国民にではなく、他の締約国に対して約束する。これが条約の法的な意味です。  

自由権規約や社会権規約の第2条には、「非差別原則」と呼ばれる一般原則が規定されています。「規約上の権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的権利その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしに」国内で行使されることを、条約に入った国は他の締約国に対して約束します、ということです。この原則は、国際人権の中心となっている価値観です。たとえば、自由権規約に入った国は、この約束をしたわけですから、国内では不当なレッテル張りはしないし、しないために国内の法を整備する、しかし、もし差別が起きた場合は救済も約束するということです。この約束は他の締約国に向けられてはいますが、その効力は、当然ながら、国内の個人、あるいは集団にも関わってきます。

人権条約を締約国に守らせる仕組み(条約実施機関による実施手続)

条約が規定する内容は、価値観としては美しいもので、国としては入らないよりは入っていたほうがかっこいいし、すてきな国に見えます。しかし、格好をつけて条約に入ったものの、約束内容をあまり守ろうとしない国も、残念ですがあります。  

こういうシステムづくりでは、性悪説をとらないとうまくいきません。そこで、格好をつけたいから入ろうという国を許さないためにも、入った国に条約を守ってもらうための仕組みを、条約自体の中に規定する必要があります。障害者権利条約の守らせる仕組みには、国際版と国内版とがあり、まだ議論の余地があってはっきり確定はしていないようです。この点は午後のパネルディスカッションで議論になると思います。  

条約を守らせるために、まず政府報告を条約のなかで義務づけます。社会権規約では、規約が定める経済的、社会的、文化的権利が締約国内できちんと実施されているかを定期的に報告する義務を締約国に課しています。こうして規約の国内での実施状況が監視(モニター)されます。この政府報告は、独立専門家18人から成る社会権規約委員会で監視されます。これは、大学で単位をもらうためのものと同じで、レポートのできが悪いと、赤点がつきます。レポートが提出されると、18人の専門家はその国の外務省や厚労省などに、「そんな説明では足りない」「言い訳がましい」などと意見を述べて、最終所見を出し、「よくできました」「まあまあです」「来学期はもっとがんばりましょう」といった通信簿のようなものをつくります。次に、これまでどんな評価が日本に下されてきたかを振り返ってみましょう。

社会権規約委員会からの日本に対するコメント

2001年8月30日に社会権規約委員会に日本が提出した第2回政府報告については、たくさんのコメントがつきました。そのなかから今日のテーマに関わるものを2つだけご紹介します。  

「社会権規約委員会は障害者に対して、特に労働及び権利に関連して、法律上及び慣習上の差別が依然として存在することについて懸念をもって憂慮する」。日本語にするとさっぱりわかりませんが、国連用語で「懸念がある(concern)」というのは、俗に言うと「怒ってる」ということです。そう言うと上品ではないので「懸念がある」という言葉を使います。日本国内で、法律上、慣習上、障害をもっている方々に対して、差別が依然としてあるのは非常に困ると、指摘のなかの第25項目であげられました。

第52項目では、「委員会は締約国が法令による差別的な規定を廃し、障害者に関連するあらゆる種類の差別を禁止する法律を制定することを勧告する」と指摘されました。先ほども開会のごあいさつで差別禁止法が必要だという貴重な提言がありましたが、まさにこれに関連することです。「さらに委員会は、締約国が、公的部門における障害者法定雇用率の実施における、進展を継続し、かつ早めることを要求する」とあります。DPIの方々をはじめ、日本のNGOの方々がこの18人の独立専門家に丁寧に説明されましたが、その結果この第25項目、第52項目が勧告として示されました。  

日本政府は、国際法的にはこの最終所見には法的な縛りがない、と理解しているようです。しかし、対外的に日本政府は条約に入って、条約に書いてあることは守ると約束しています。それをきちんと守らせるための委員会から懸念を示されたわけですから、これを無視してはいけないと思います。  

1998年に自由権規約委員会が出した最終所見の冒頭に、その前の1993年の審査で勧告を示したことが、5年後にもほとんど無視されてしまったことへ怒りに満ちた懸念が示されていました。その時点の日本外交と、今日とはかなり変わってきていますから、過去の話だと私は受け止めたいと思います。  

日本政府が出した報告の、日本国内の障害のある人をめぐる人権状況に対して、ジュネーブにある社会権規約委員会が、公平・客観的でグローバルな観点から、こういう形で見解を示しました。これは当事者をはじめとして日本社会に生活する私どもとには大きなポイントになると思います。  

個人通報制度

条約を守らせるための仕組みはあと2つあります。国家通報制度はあまり使われていないので、省略します。個人通報制度について一言だけ触れます。これは日本では当面使えない制度です。使えるようにするには、自由権規約でいうと第一選択議定書にさらに日本が入らないといけません。  

たとえば身に覚えのない冤罪を理由に、日本で逮捕・起訴され、最高裁判所で有罪が確定した人は、現在の日本ではそれ以上法的に闘うことはできません。しかし、もし日本が第一選択議定書を批准していれば、個人通報制度が日本で使えることになり、この件をジュネーブの規約人権委員会に申し立てることが可能になります。最高裁で確定した事柄でもジュネーブの委員会でもう一度、規約というものの見方から、再検討が可能になります。しかし、日本政府は、国内で起きた人権問題について個人通報が作動することをプラスに受け止めていないので、第一選択議定書に入るという決断にまではまだ至っていません。  

オーストラリア連邦で、麻薬所持で有罪判決を受けて、冤罪として争っている日本人がいます。このケースではオーストラリアで有罪が確定しても、ジュネーブの規約人権委員会で再度検討が可能になります。日本国籍をもっている人が日本で起きた事件では使えませんが、オーストラリア、フランス、ドイツは政府が個人通報を認めているため使えます。今後、個人通報制度は日本でも道を開くべきだと、私は思っています。

人権条約の国内での活用法

条約については対外的に国が約束するので、外向きだけ格好つけて自国の人には人権を保障しないということは、あり得ないわけです。外向きに約束したということは、そのことを法律の整備も含めて、行政でも受け止めるという意思表示になるはずです。それを使えば、行政、国、自治体に対する交渉の場で大いに活用できると思います。法定雇用率をめぐる行政交渉でも先ほどの第52項目の最終所見は大いに勇気づけられるポイントになると思います。  

差別禁止法が必要との話がありましたが、さきほど述べた最終所見の第52項で差別禁止法が必要だと言われ、また人種差別撤廃条約の委員会でも同様の指摘を受けています。条約に入っていて、指摘を受けているのに日本政府は、そんなことは知りませんというわけにはいきません。こういった国際的見解を対行政、対立法府に対して、活用すべきだと私は申し上げたいと思います。

冒頭で言いましたが、条約には外務省の偉い人が関わっているので、一般市民には関係ないというわけではないというのは以上の理由からです。いろいろな条件が整えば権利救済を根拠づける条約の条文を使うことが可能になります。司法に対しても権利主張、権利救済を求める場合の大きな根拠、砦になるということは、ぜひご認識ください。  

条約には社会的な意味もあると思います。人権条約では、個人の権利や自由が規定されているわけですから、行政、立法、司法に対してうまく使えばとても有効な道具になります。そのようなとてもよい道具をもちながら、宝のもち腐れではいけません。日本政府が入った条約の内容を市民全体で共有し、自分たちが人権問題に直面したり、人権救済が必要とされることになったとき、条約をうまく活用することが必要です。それは、21世紀は人権の世紀だということを国内で具体化する一つのやり方だと思っています。ありがとうございました。

上野:続いて、次の講師、モハメド・タラウネさんを紹介します。国連機会均等化標準規則特別報告者にカタールのシェイカ・ヘッサ・アルタニさんが就任された後、特別報告者を支えるスペシャルアドバイザーに任命されました。スーダンのジューバ大学で、平和外交で修士号をとられ、現在はアメリカでアクセシビリティ建築会社の社長となり、1997年から2003年まで広域アンマン市建築特別局の局長を務められるなど、バリアフリーの専門家でもあります。本日は、国連機会均等化標準規則に関する最近の発展及び障害に関する国際的な動きに関して、シェイカ・ヘッサ・アルタニさんからのペーパーをもとにお話しいただきます。

国連機会均等化に関する標準規則に関する最近の発展

国連機会均等化標準規則特別報告者アドバイザー モハメド・タラウネ

はじめに

皆様にお話をする機会をいただき、感謝申し上げます。国連のアルタニの代理として、今日は障害者の人権条約に向けてのさまざまな動きについての報告をしたいと思います。  障害者はさまざまな偏見や差別を受けているだけでなく、基本的サービスへのアクセスがありません。これにより障害者だけではなく家族やその家族、社会にとっても経済発展への影響が出てきます。つまり、すばらしい人材が無駄になるということです。基本的サービスへのアクセスができない理由は、活動やケアが不足しているからです。われわれは国際的な援助がこの問題解決に必要と考えています。国連は、障害者の地位と生活の質を向上するためには、基本的な原則が必要であると考えています。これは基本的人権や自由、そしてすべての人間の平等によるべきです。  

タラウネ氏の写真

われわれには国連憲章、人権宣言、それに関する人権規約があります。こういったものをもとに、障害者も、社会的、政治的、文化的権利を非障害者と平等に行使することができるはずです。「国連・障害者の十年」の結果、機会平等の規則ができました。これは国連の総会によって、1994年に承認されています。法律としての拘束力はありませんが、この規則は各国政府が道徳的、政治的な責任をもち、障害者の権利を保護しなくてはならないという枠組みを提供しています。

障害者の機会均等化に関する標準規則

そこで、障害者の権利保護の国連の基本規則について述べたいと思います。1993年12月20日に「障害者の機会均等化標準規則」ができました。「国連・障害者の十年」を受けてできたものですが、法的拘束力がなく、政府が責任をもって、障害者の機会平等の活動をする道徳的責任を負うと記載されています。この規則には障害を特定し、除去するプロセスが書かれています。障害者に力を与えて、アクセシブルな社会を実現のために特に強調されているのが、国の政府が活動をして障害の除去をしなくてはならないということです。

障害者の機会均等化に関する標準規則には、22の規則があり、世界行動計画に対応した形になっています。標準規則には人権の観点が組み込まれており、4つのセクションに分かれています。4つのセクションは、(1)参加の前提条件、(2)平等な参加のためのターゲット、(3)実施導入の方法、(4)モニタリングの仕組みとなっています。

1番目のセクションの参加の前提条件には、たとえば、医療ケア、リハビリテーションなど、さまざまなサポートサービスが含まれています。これは個々の機能的な限界を減らすためのサービスです。  

2番目のセクション、平等な参加のためのターゲットのエリアは、特に社会のなかで重要な要素で、たとえば、生活の質、アクセスに関する基本的規則、特に物理的環境へのアクセス、サービスへのアクセスが保障されなければなりません。そのなかでも特に重要なのが、教育、雇用、文化、レクリエーション施設などへのアクセスを保障するということです。  

3番目のセクションの、実施導入の方法には重要な措置が含まれ、たとえばソーシャルエンジニアリングに関する情報、リサーチ、計画、法律、経済政策などが入っています。  

4番目のセクションがモニタリングの仕組みです。特に、特別報告者のオフィスではこのモニタリングの機能が重要です。これは各国がこういった規則の実施を評価するためのもので、どういう問題点があるか、改善が必要なのかを特定するフレームワークになります。モニタリングには、国連の社会開発委員会の後援やその他にも国際障害同盟などのような国際的な組織の後援が重要になってきます。  標準規則の目的は、子どもや障害者のある人たちが社会の一員として、非障害者と同じように、権利と義務を履行することにあります。というのも、障害者にこうした権利の行使を阻む障害があり、それによって社会に十分に参加することができない状況だからです。各国の責任として、障害を取り除き、さまざまな組織がパートナーとして、積極的にこのプロセスに参加する必要があります。

国連機会均等化に関する標準規則の進捗状況

今から標準規則の進捗状況を報告したいと思います。特に標準規則補足案について説明します。ここ10年ほどの間に、国連総会でこの標準規則が採択されました。そして実行のためにさまざまなツールが導入されてきています。この規則は障害者の人権を守り、保護するためのもので、障害者が社会参加していくための1つの基準となっています。

国連の下にある機関では、非障害者、障害者もすべての人々の生活の質を向上させようとしています。そのなかでも努力しているのが、標準規則の導入と実施、そしてモニタリングです。これは社会行動計画の原則にのっとったものです。国連経済社会政策部の統計局などもここに参加しています。障害者の人権についての決議を特に採択したことは、各国が障害者の人権侵害をとらえて、国連の障害者の平等の社会参加・機会に関する規則に対する違反を認識しなければならないということです。すなわち、この標準規則に違反するものは、人権侵害に当たるとして扱わなければならないということです。  

1981年の国際障害者年をきっかけとして、障害に対する考え方が、医学モデル、慈善モデルから権利に基づいた考え方に変わり始めました。障害をもつ人たちは普通の市民であり、完全参加と平等な扱いを受けなければならないし、機会も均等に与えられるべきだという考え方が出てきました。このように障害の新たなパラダイムが生まれ、これを促進するための運動が人権問題として扱われるようになりました。  

国連の人権委員会では1998年から2003年にかけて、さまざまな決議を採択しました。そのなかの一つ、決議2000/51は標準規則を取り上げたものですが、障害者に対してのすべての不平等や差別について、撤廃すべきであると文書に述べています。  

障害をもつ子どもたちはとかく教育の機会などを奪われる傾向があり、その家族についても同様です。自分たちの財産を守る権利や法的な権利などが阻害され、最終的には彼らの人権が損なわれていることになるのです。したがって、これらを防ぐために人権問題としてもっと現実的な行動で問題を明らかにし、解決していこうという動きが出てきました。国連の特別報告者ベングト・リンドクビスト氏も機会あるごとに、この標準規則が最先端の文書として使われるべきであると言っています。テーマ別の障害に関する条約、またはこれらを通して実際に行動して報告し、モニタリングする必要があるということも述べています。  

もちろん、標準規則にも弱点はあります。たとえば子どもに関する問題点や性をめぐる差別、あるいは発達障害や精神障害をもつ人、難民の問題などについては十分な記載がされていないかもしれません。しかし、これまでこういった問題にふれたものはあまりなかったので、そういう意味では意義が大きいと言えると思います。

標準規則補足案

そして、この標準規則に関しては、補足がつけられ、ベングト・リンドクビスト氏からの最終的な報告書にまとめられ、2002年2月に発表されています。  

このなかで各論として述べられているのは、障害者の生活の質を向上させるということです。そのために必要なのは次の領域です。第1に貧困の緩和と生活水準を十分なものにする施策、第2に住居の問題、第3に医療と保健の問題、第4にコミュニケーションの問題、第5にジェンダーの問題、第6に障害をもつ子どもや家族の問題、第7に暴力や虐待の問題、第8に高齢者の問題、第9に精神障害者、発達障害の問題、第10に目に見えない障害をもつ人たちの問題、以上のことが取り上げられています。

障害者の権利に関する特別条約の制定

私の前に講演された山崎さんもおっしゃっていましたが、この標準規則をさらに強化するために今度は、国際的な人権条約が必要になってくるわけです。この考えは国際的な障害者団体によって促進されました。  

2001年12月、国連総会では特別委員会を設置する決議案を採択しました。そしてすべての国連加盟国、またオブザーバー国がオープンに参加できるようにしました。そして、これによって包括的な国際条約をつくり、これが障害者の権利と尊厳を守り、促進するということにつなげることにしました。この包括的アプローチ(Holistic approach)を元に最終的に差別を撤廃し、社会開発、または人権的な問題をすべて網羅していこうとしたわけです。  

障害者の権利に関する特別条約の制定を求める主要な理由は4つあります。まず1点目は、これまであった標準規則が法的に拘束力をもっていなかったからという理由です。組織の代表者の多くが、条約は法的な拘束力をもつべきであるとの見解をもっていました。第2点目の理由は、国連のモニタリングシステムを利用して、障害をもつ人たちの権利が保護されているかどうかを確認していくべきという考えからです。3点目としては、国連のモニタリングシステムでなんらかの進展があったとしても主要な部分だけでは十分ではないという考えからです。4点目として、標準規則の影響力、認識度について論議があるからです。

多角的アプローチ(Multi-track approach)

今のいろいろなニーズ、勢いを利用して、「国連・障害者年の十年」から飛躍することも必要だということになりました。そこで国連人権高等事務所が音頭をとって行ったのが多角的アプローチです。それでさまざまな障害者をめぐるニーズ、または権利の問題などを組み合わせ、そして全体的な障害者のためのエンパワメントにつながるものとして、作業することになりました。最終的には地域社会全体が恩恵を受けられるようにと考えました。  

多角的アプローチによっていろいろなことが改善されました。まず、国連の各組織との間の協力関係が向上しました。さらに障害者をめぐる環境が向上したとも言えます。障害者権利条約が批准された暁には、障害者の社会への参加、正当なサービスの提供につながることは明らかです。

障害者権利条約の目的

この条約の目的は次の6つにまとめられると思います。1つ目は世界人権宣言で基本的に保障され、6大人権条約で規定されるあらゆる権利を障害者が享受できることを認識すること。2つ目に、昔ながらの慈善モデルアプローチから障害問題に対するアプローチへのパラダイムシフトを明示すること、3点目は権利に基づく開発を確保するということ、そして4点目は、障害者をめぐるあらゆる差別を撤廃していくということ、5点目は、自立生活と完全参加を促進すること。第6点目としては、地域連携の新たなあり方をつくることです。  

慈善モデルから権利に基づくすべての利害関係者を含めたアプローチにシフトされて、条約が施行されれば、人権システム全体が大きく変わると言えます。この条約は公正を旨とし、社会全体の質的向上を図るものです。障害をもつ人たちは、政治的にも社会的にも経済的、知的、文化的に社会に寄与できる能力を備えています。障害者の完全参加をうながすことで、私たちの社会がより豊かで生産的なものになります。

すべての人が対等なパートナーとして生きていける社会の実現のために

国連の標準規則は非常に役に立つものであることは間違いがありません。各国政府、地域社会、NGOは手に手を取って、連携し実施するようにがんばっていかなければなりません。もちろん、標準規則と施策の間にはバランスが必要です。標準規則は一種の微妙なバランスとして存在しています。  

人権を主眼とした見方へのシフトは、世界中の人権擁護、人権促進を目指す国内組織が重要視しています。これらの国内組織が国際人権法と国内の障害者法や政策改革の間の橋渡しをすることになるので、このことは重要です。これは私たちの将来にとって、非常に励みとなる変化であるということを認識すべきです。さらに、障害をもつ人たちは、社会正義や市民権、民主主義、開発の規範を問い直す貴重な機会を与えられたことを理解していただきたいと思います。その意味で障害は、変革への一手段であるという考え方もでき、そのためにこの国際条約は、非常に有効な選択肢と考えます。今のこの勢いを維持するために寛容で、客観的見方をすることが重要となります。それはバリアフリーで権利を基本にした社会の実現につながっていきます。こういった社会は、人間的で文明化された社会であり、障害者も非障害者も、高齢者も若者も、女性も男性もすべての人が対等のパートナーとして共に生きていくことのできる社会です。ご静聴ありがとうございました。

藤井:山崎さんからは条約が行政、立法、司法にどんな影響を与えるか、わかりやすくお話しいただきました。モハメド・タラウネさんからは、機会均等化に関する標準規則の系譜や新しい補足の話がありました。標準規則は国際慣習法になりうるが、政治的合意、道徳的合意の点からいうと拘束力に課題がある。したがって、これからは人権条約に進んでいき、その原則や動きについても説明がありました。最後に新しい社会の質を変えるパラダイムシフトというお話がありました。

質疑応答

中西:山崎先生からは条約ができてからの大切さということで、その話を受けてのタラウネさんの講演でした。条約になっていない標準規則は、どのようにモニタリングするのか興味があります。前の特別報告書と同じようにパネル形式や特別報告者が各国を回るといった方法のモニタリングになるのですか?

長瀬:東京大学先端科学技術研究センターの長瀬です。タラウネさんに質問です。条約をつくることは、その批准を開発援助、貧困撲滅戦略と結びつけることとおっしゃったと思いますが、条約のなかで、国際協力は非常に重要だと考えますが、批准と開発援助を結びつけるということについて、もう少し説明いただければと思います。

タラウネ:標準規則のモニタリングを終えたとき、特別報告者ベングト・リンドクビスト氏が、モニタリングして弱点があることがわかったので、そこを強化すべく補足規則を設けることが必要であると報告しました。  第43回委員会がニューヨークで開かれ、この補足規則が協議されましたが、一部加盟国の反対で採択にはいたりませんでした。次の総会での採択を願っています。障害者権利条約はまだできあがっておらず作成の過程にあります。特別委員会の作業部会が1月に会合をもちました。そこで起草された草案が5月及び8月の特別委員会で前進することを祈っています。  

モニタリングは、特別報告者がさまざまな国を回り、障害者の問題をどのように取り扱っているのか審査します。政府だけではなく、市民社会、NGOも調査します。特別報告者は政府と政府間団体、NGO間に対して重要な役割を果たします。}

次に条約批准と開発問題の結びつきですが、バンコク草案では開発問題と条約を明確に結びつけています。EUはそのアプローチには反対しています。北では社会システムが整っていますが、発展途上国においては、社会的な問題がまだあるわけです。これを条約に盛り込みたいという意見があります。いくつかの条項にそれを入れたいということです。そういった意味でも条約制定への過程で、最終的な草案は出ておらず調整中だと言えます。

藤井:1点目の質問ですが、条約までまだ間があり、新しい補足が加わった標準規則、新しい特別報告者が誕生して、前任者同様に、精力的なモニタリングが続けていかれるのかという内容です。  もう1点は条約ができる間、この標準規則の徹底という点での特別報告書の役割、新しい戦略はあるかという内容です。

補足規則の4つのテーマ

タラウネ:この特別報告者の義務として、標準規則を実施するモニタリングをすることがあります。この補足規則にも弱点を補うという規則があります。シュイカ・ヘッサ・アルタニ氏が2月に委員会でスピーチをし、そのなかで政府が補足規則を採択するよう勧告していますし、また、補足規則に対して4つのテーマを掲げています。障害をもつ子ども、女性、精神障害者、高齢者の4つです。標準規則でもこの4つに焦点を当てていますが、補足規則でさらに強調しています。条約制定の過程で、特別委員会でも議論が出ていましたが、この4つが重要だとわかったからです。  メキシコ政府の団体が特別報告者に対して、この条約制定の過程でも、積極的な役割を担ってもらい、条約のモニタリングをしてもらうという決議を出しました。これは採択されるでしょうし、そうなると特別報告者はより仕事が増えるわけですが、今後は標準規則、補足規則、条約制定までの過程のモニタリングも行っていきます。

長瀬:今のタラウネさんのお話では、機会均等化に関する標準規則の補足規則が社会開発委員会で採択されなかったと理解できますが、日本の外務省からうかがった話では、社会開発委員会で補足規則は採択されたということでしたが、それは違うということでしょうか?

補足規則は未採択

タラウネ:補足規則はまだ採択されていません。加盟国のなかで反対がありました。標準規則があり、条約成立に向けてすでに始まっているので、必要ないという加盟国がありました。条約、標準規則、補足規則の3つを扱っていくのは多すぎるという意見です。そこで2つ決議が委員会に対して提出され、2つとも採択されました。その1つはメキシコの代表団が出した決議で、特別報告者が条約への過程においても役割を担うということです。よって特別報告者の仕事が増えるということです。

藤井:先週の20日に補足規則に関する決議が通ったとうかがいましたが、通らなかったということですね。これは大きなニュースだと思います。  

では、以上で午前中のプログラムを終わります。どうもありがとうございました。