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国際セミナー報告書「ヨーロッパとアジアのソーシャル・ファームの動向と取り組み-ソーシャル・インクルージョンを目指して-」

話題提供1:「ミャンマーにおける障害者の現状とソーシャル・ファームの可能性について」

ミヤッカラヤ 長崎短期大学 講師
長崎国際大学大学院 人間社会学研究科 地域マネジメント専攻 博士後期課程

ミヤッカラヤ氏の写真

ミヤッカラヤ:こんにちは。ただいまご紹介いただきましたミヤッカラヤと申します。

本日はミャンマーにおける障害者の現状と、ソーシャル・ファームの可能性についてお話をしたいと思います。

はじめに

ミャンマーの概要を簡単に説明しますと、ミャンマーは人口5,300万人で、面積は日本より1.8倍大きいです。国民の約90%は上座部仏教を信仰しておりまして、その他にキリスト教、イスラム教などを信仰しております。

ここで上座部仏教のことを簡単に説明いたしますと、テーラワーダ仏教、南伝仏教、小乗仏教とも呼ばれております。仏陀の教えを忠実に守る伝統的な正統派で、個人の救済を目指すことが大きな特徴となっております。そのような仏教の世界観では、ミャンマーのほとんどの仏教徒は輪廻転生の思想が浸透しておりまして、現世障害を持つ人々は、前世において悪行をしたから、と考えているのですね。

そういうことがありまして、障害を持つほとんどの仏教徒は、来世より良いところに生まれ変わるために、今を大事に生きようとしております。

ミャンマーは7管区、7州から構成されておりまして、ビルマ族、シャン族などをはじめ135族の民族が居住しております。

1886年にイギリスの植民地になり、第二次世界大戦期には日本軍の侵攻を経て、1948年には独立しましたが、しかし独立後には国内政治が反乱しているため、政府の財政事情は非常に厳しく、教育、福祉などといった市民の生活に不可欠なサービスは十分に行われていないのが現状です。

ミャンマーにおける障害者の現状

ミャンマーの障害者は、障害者自身が背負った一時的障害のほかに、社会的に作られた二次的障害も抱えております。その原因に、ポリオ、地雷による損傷、事故、先天性脳性マヒが挙げられます。

ミャンマーには障害の特定の定義はありませんが、上級医療職員によりますと、障害者には身体障害者と知的障害者がある、と簡単に説明されております。その職員によりますと、ミャンマー人口の約3%から5%を占める障害者がいると推定されていますが、その内訳は、視覚障害者が約25%、聴覚障害者が約20%、四肢障害者が約20%から25%で、知的障害者も20%から25%で、残りはその他となっております。

それらに関して、政府が障害者支援のための施設、医療の支援、教育を中心に援助を行ってはいますが、しかし障害者がその後の人生を生きていくためには技術、雇用、事業の運営などの面での支援は十分とはいえないのが現状です。

国家による障害者支援

それでは、国家がどのように支援をしているかを簡単に説明しますと、国内で特殊な教育を受けられる学校は、社会福祉省の管轄下に置かれております。ここでは、その数、障害者の施設や職業訓練校の数が記載されていますが、数的には決して多いとはいえませんが、このカッコのなかにNGOやNPOの支援校がありますが、そういうNGOやNPOにも積極的に政府が支援しております。

本日は、私が去年の12月に約10日間ミャンマーに行って調査をしまして、その調査をした施設校の現状を紹介したいと思います。

一つ目は、ヤンゴン市にある精神障害者のための職業訓練校ですが、1954年に戦争負傷兵のために職業訓練の学校として設立され、4年後には一般の障害者を受け入れ始めました。そして1965年には社会福祉省の管轄下に置かれています。

そのような歴史的な背景がありまして、その校に入校してきた生徒の約8割が国防省の紹介で入校してきた負傷兵だそうです。

コースは6コースが用意されていまして、1番の電化製品の修理のコースは1年間コースで、その他は3か月間コースになっています。校長は元負傷兵で、大尉だそうで、今32歳なのですが、4年前に負傷した負傷兵です。スタッフが32名おりまして、その半分以上、大半が四肢障害者です。卒業生の就職先は自主開業するケースと、政府関係の機関に就職するケースがあるのですが、就職率は100%と言えないのが現状です。

次に、盲学校について簡単に説明します。盲学校は、国立盲学校2校に加えて、全国で地方にNGOやNPOの盲学校、全部で7校あります。そのNGOやNPOの5校のうちに、マンダレイ管区に、ミャンマーの真ん中にあるマンダレイ管区にあるピンウールイン市の学校は僧侶によって設立され、僧侶自身も障害者です。

本日は私がヤンゴン市で調査した盲学校を紹介したいと思います。

その学校は、どこの盲学校もそうですが、初等・中等教育と、職業教育という2つのコースが用意されておりまして、前者は他の学校と同じように小中学校の教育内容が教えられております。卒業した学生は、近くにある学校で健常児とともに授業を行うようになっております。後者の場合は、4つのコースが用意されております。

これが盲学校の授業風景ですが、これは中学校の授業風景で、ここの教師は四肢障害者です。他にも日本の指圧のマッサージの技術をとりいれている教室もあります。

生徒の数が約108名いて、校内には生徒のための校舎があり、教職員の住宅もあります。

運営費としては、食費と生活費に相当する金額はミャンマー政府によって援助がされておりますが、それでは十分ではないので、盲学校の空き地を利用して、自動車修理工場や、観葉植物栽培をしている業者に貸しております。

また、レース編みや棒編みの教室もありまして、自分たちが作成した商品を販売する、というのもあります。

そういうことで、盲学校といいながら、雑然とした小さなコミュニティを形成しているともいえます。

マッサージの部屋も準備されておりまして、治療費は1時間3,000チャット、日本円で約300円くらいなのですが、それは一般のマッサージ師より安いこと、そして彼らに依頼すれば盲学校への献金にもつながり、社会貢献もできるということから、利用者が増加しているそうです。最近はマッサージ師としてだけではなく、演奏家として、そしてプログラマーとして活躍している方が増えているそうです。

他にも、国立リハビリテーション病院もありますが、それは保健省の管轄下に置かれておりまして、整形外科および医療リハビリテーションを主体としています。これは一般人を対象としておりまして、回復期にある患者を対象に、義肢装具の提供やトレーニングも行われております。

これまでは国家による支援の施設を紹介しましたが、次はNGOやNPOによる支援を簡単に説明したいと思います。

NGO・NPOによる障害者支援

ミャンマー国内には約30団体のNPOやNGOがありますが、ただしそれは障害者の職業訓練とか障害者を支援する団体が非常に少ないですね。その中で、皆さんもご存知とは思いますが、AARという日本の難民救済の会がすごく成功しているのですが、そのAARさんのお話をしたいと思います。

2000年に四肢障害者のためにできた職業訓練校で、ミャンマー政府によって土地を無料で提供されております。その他は日本政府からの援助を受けているのですが、ここの日本人スタッフが1人と、ローカルスタッフが約30名くらいいます。3か月間のコースで美容・理容コースと、洋裁コースが用意されています。なぜそのコースを用意しているかというと、そのコースは障害者が対応しやすいということ、そして元手をあまりかけなくても事業ができるということで、用意されているそうです。また、卒業生の技術向上と収入を得るためにも応用コースが準備されており、校内にモデルショップがあります。そのモデルショップで顧客のニーズに応じたものを作ることによって、さらなる技術の向上を目指しております。

考察

従来は、障害者は家の中で家族の世話になりながら生活するのが当然である、と一般的に考えられているのですが、そのために教育に対する関心は非常に低いのです。ただ、現政権はそういう面では非常に教育に力を入れておりまして、その政策の一つとして「全ての人に教育を」というスローガンのもとで、積極的に障害者の教育を推進しているという動きも見られます。また、障害の予防策としては、ポリオとその他の病気に対する予防接種が積極的に行われておりまして、実績をあげています。

ただ、障害者の分野においていろいろな動きがあるのですが、その動きの状況をまとめますと、まず一つ目は、障害に関する情報が非常に不足していること。定期的に行う指導者養成研修会の数が少ないこと。職業訓練の機会や施設の数、指導者や専門家が限られていること、障害者の社会福祉プログラムの雇用機会が少ないこと。CBRの取り組みが非常に小規模で少ないこと。そして、視覚障害者に対してはサービスがとても進んでいるのですが、その他の障害者に対してはサービスが進歩していないことがみられます。

障害者というのも、ミャンマーでは「障害があるからできない人」という意味があるのですが、その彼らを「障害があるが仕事ができますよ」と周辺に納得させるためには、まず自立して収入を得るようになることが重要であるのは言うまでもありませんし、そうすることによって自信にもつながってくるのですが、しかし障害を持つほとんどの者は低所得者なので、開業するのには資金が不足しているのが最大の問題です。

また、指導者や専門家の充実や周辺の理解も十分ではないというのも一つの問題です。

福祉環境を充実するためには、今の政権もできるだけ力を入れていますが、政府だけではなく国民一人一人の力、周辺国の指導や援助、理解や協力が必要です。

終わりになりますが、障害者の雇用を増加させるニーズは高くて、関係省庁の調整と協力を通じて対応が必要とされてきました。職業訓練と雇用に関しては、いくつかこれまでも試みがなされてきましたが、いずれも小規模で、数的にも少ないのですね。

それでは、ミャンマーにおいてソーシャル・ファームの可能性を考えるときは、いくつかの問題をまずクリアしなければなりませんが、その一つ目は、ソーシャル・ファームの目的や目標、必要性、障害者の雇用形態などを関係者にしっかりと理解させなければなりません。二つ目は、政府や関係諸団体の協力、理解が不可欠です。私のインタビュー調査にもよく見られるのですが、ミャンマーにおいてソーシャル・ファームが成功するかどうかは、政府の対応にかかっていると見なす人が一番多かったのですね。3番目は、先ほどの炭谷先生のお話にもありましたように、活動資金の調達も必要とされます。そして人材確保が必要なのですが、先ほども申しましたように、ミャンマーは約90%は仏教徒と申しましたが、その仏教の世界観である功徳の傾向性を、寺院やパゴダを購入するだけではなくて、福祉に対しても向かわせる活動が必要ではないかと思われます。

簡単ではございますが、以上で終わりたいと思います。ありがとうございました。