講演2 フィリピンの全国障害者協同組合連合(NFCPWD)について
全国障害者協同組合連合 マネジャー ジョニー・ランション
司会 ジョニーさんからは全国障害者協同組合連合(NFCPWD)における、障害者の雇用の実情についてお話しいただきます。
ジョニー まず、障害のある人のリハビリテーションを終えた後、次はどうなるのかを考えるのが重要かと思います。私の所属するNFCPWDは、この問題に対して努力をしています。
本日は6つの項目についてお話をしたいと思います。1番目は、障害のある人の社会への平等なアクセスについて、2番目は収入を伴う雇用について、3番目は私の所属するNFCPWDでの経験について、4番目は法的な枠組みについて、5番目は協同組合の資金調達について、6番目は作業所と協同組合の比較についてです。
障害のある人の社会への平等なアクセス
では1番目の、社会に対して、障害のある人に同等のアクセスを確保することについてお話しします。
まず考慮しなければいけない点はエンパワメントです。障害のある人も権利があり、社会に対して自らのもつ権利を主張することができることがエンパワメントだと思います。日本では障害のある人たちはすでに社会に対して自らの権利を主張されています。
次に重要なのは人格形成ですが、エンパワメントを受け、自分をもつようになる、そして自分らしさ、品格、自尊心がさらに高められ、育成されるのが人格形成です。
そして、次には持続性が重要です。障害のある人がエンパワメント、人格育成に取り組んでも、それは持続可能性がある形でなければなりません。そうでなければ、エンパワメントをとりあげても何も意味のないことになります。障害のある人が社会の中で活動をし続け、エンパワメントと人格育成をもちながら、それを持続可能な形で実現することが重要だと思います。
収入を伴う就労
リハビリテーションを提供し、エンパワメントをすると、次の段階として、就労、仕事をすることが関わってきます。エンパワメントしていくためには障害のある人たち自身の自立も重要です。
就労のための最初の項目として、リハビリテーションがあげられます。障害のある人にとって、リハビリテーションの中でも、まず身体的、次に精神的な意味合いでのリハビリテーションが必要です。
そして、リハビリテーションを受けたうえで、今度は研修が必要になってきます。知識、技能を習得するための準備の研修を行うのです。その研修はもちろん市場需要主導型のものでなければなりません。市場需要がない技術、技能を研修しても意味はありません。
その次に、生産をする施設が必要になってきます。生産をする施設は低コストで機能的でなければいけません。フィリピンでは、ハイテクな作業所はありませんが、機能的ではあります。
作業所では、多くの人々が雇用されなければいけません。我々の場合は協同組合なので、メンバーが仕事を継続でき、作業ができるような製品をつくることが望ましいのです。
それから、製品面ではデザインの一貫性も重要です。組合員は学歴が低い人が多く、小学校も出ていない人も多くいます。ですから製品のデザインを頻繁に変えると、それにとまどってしまうことがあります。先ほど申し上げたように、低コストの技術でつくれるもの、そして、つくりやすい製品が求められるのです。
NFCPWDでは、ロビー活動をして、政府に対して働きかけ、政府機関における物資の調達では、教育省の予算のうち学校で使われる椅子の10%は、障害者協同組合に割り当てられることになりました。この考え方を、たとえば、教育省以外の政府機関やフィリピン以外の途上国に対しても、特に貧困問題に取り組むために応用できるのではないかと考えています。
製品のことを考えると、次に必要なのは運転資金です。協同組合の会員には、特に極貧の人が多いので、事業を興すための資金、そして、運転資金が必要になります。運転資金をつくるためには融資が必要になりますが、それは手が届く金利でなければなりません。先ほど岡本さんもおっしゃっていましたが、金融機関によっては金利が高いところがあるのです。高金利ではうまくいかないので、低金利の融資が必要になってきます。
そして、当然、協同組合としての事業体制も必要となってきます。事業体制としては、会員総会、理事会、経営陣などがあります。
NFCPWDの経験
まず私どもの製品を紹介します。これは木材とスチールを組み合わせたテーブル付きの椅子です(写真1)。これをフィリピン政府の教育省に納入しています。これ以外にも写真のようなオフィス家具、テーブル、椅子、棚、コーナーに据えつける棚もつくっています(写真2)。
(写真1)
(写真2)
NFCPWDの沿革を紹介します。1993年にバギオ市で最初の椅子がつくられました。1994年には、マニラ首都圏の教育省の中央オフィスに、これらの椅子を初めて納入しました。1996年に教育省と5つの協同組合が関わる最初の契約を交わし、その額はで20万米ドルでした。
1998年から現在までの経緯では、1998年7月10日にNFCPWDは、政府機関の協同組合開発庁のもとで承認登録されました。その時は一次協同組合として6つの障害者協同組合が登録されました。その後、1998年から2007年にかけて、協同組合の数は15に増え、組合員数は1,500人になりました。組合員は知的障害者を除き、四肢を失った人、視覚障害者、聴覚障害者となっています。
1999年から2000年にかけ、教育省から2回目の契約を受託しました。金額は50万米ドルでした。2005年にはさらに教育省から110万米ドルの受託をしました。2007年には200万米ドルの契約を獲得しています。金額だけ申し上げると非常に大きな額と思われますが、一次協同組合が複数あるので、そのなかで分けてしまえば小さな額です。
なぜ協同組合の形態を選んだのか、よく尋ねられます。1つの理由は協同組合になると法人格をもつことができるからです。また協同組合は事業組織を備えることができます。組合員の間で責任を共有して、収益が上がれば、それも共有することができます。一つひとつのリソースとしては非常に小さくても、協同組合形態をとることにより、それをひとつにまとめ、大きなリソースとして生かすことができます。
7つの基本原則
協同組合に関連して、7つの原則があります。1番目に自発的で非常に開かれた組合員組織を目指すことです。協同組合のメンバーには、どんな障害のある人でも歓迎しています。
2番目として、協同組合に出資し、所有している個々の組合員が直接参加し、民主的に意志決定ができる組織であることです。つまり、協同組合のことを決定するのは、オーナーである組合員であって、第三者ではないということです。
3番目に、資本金を出資金で増加させていくことです。組合員個々の出資金は、少ない額であっても、それを合わせることによって、組織の土台となり得るのです。
4番目に、自立と独立性が保たれていることです。誰も他者から指図されることなく、メンバー自ら決定していきます。
5番目に、常に継続して教育、訓練を研修の形で行うことです。組合員は常時、研修に参加して、経営や事業の運営方法を学ぶだけでなく、それに加えて、自らの技能を向上させていけます。これによって、新しい社会の要請や課題に組合員が取り組むことができます。
6番目に、協同組合間で協力することです。我々の協同組合だけでなく、他の組織とも幅広く協力することが必要と認識しています。いかなる協同組合も孤立して存在することはできません。組織として、他の組合などの支援も受けながら活動していくことが必要です。
7番目として、組合内部にだけに目を向けるのではなく、地域社会での位置づけを意識して活動して、配慮していくことです。
組織構成
これが第一次協同組合の組織図です(図1)。一番上が個人の組合員で、個々の組合員が出席して、年次総会が行われます。総会は最高の意思決定機関として、いろいろな事柄を決定していきます。第一次協同組合の基本原則は、1人が1票をもって参加することです。たとえリソースの20%を、ある1人のメンバーが保有していたとしても、重要な意思決定や選挙の時には1メンバー1票制が守られます。
それから、総会に付随する形で理事会があります。理事会が運営のスタッフを任命し、業務を行っています。
これは、我々の全国組織である連合の組織です(図2)。今紹介した第一次協同組合の場合、メンバーは個人組合員でしたが、この第二次協同組合と呼ばれる連合では、メンバーは複数の第一次協同組合によって構成されています。そして、それぞれの第一次協同組合から代表として代議員が派遣され、連合の年次総会に出席し、そこでいろいろな意志決定がされたり、理事が任命され、理事会が構成されます。そして、理事会が運営のスタッフを任命するという流れになります。
法的枠組み
それでは、我々の組織の存在を裏づけている法的な土台についてお話しします。まず、フィリピン協同組合法という、共和国法第6938号があります。この法律では、フィリピン国内の協同組合の基本原則が規定法的に、法律面から記載されています。次に、マグナカルタ障害者権利章典があり、これによって、障害者の権利や機会が規定されています。この権利章典は共和国法第7277号で、現在は第9442号として改正されています。
我々は教育省に対して年間一般予算法をめぐるロビー活動を行ない、学校の椅子を製作する予算のうち10%を障害のある人たちのために確保することに成功しました。この10%の割り当ては、フィリピン政府からの障害のある人に対するアファーマティブ・アクション(積極的是正措置)です。
この10%の割り当てが非常によい成果をもたらしたので、それによって今度は大統領令417号、すなわち経済自立法により、あらゆる政府機関の物資の調達において、10%は障害者協同組合から調達されるようになりました。
協同組合の資金調達
協同組合は、社会的な企業なので、資金集めを当然していきます。その資金調達の1つが運転資金の融資です。障害者自身は最初は資金をもっていないので、契約を実行できるためにも、融資を受けることが必要になります。
それ以外にも研修・トレーニングのための助成金がありますが、この助成金は運転資金のための融資とは全く別で、運転資金の融資は契約を履行するためにのみ、使われるものです。
研修・トレーニングのための助成金が必要なのかという質問を受けることがあります。契約によって利益を得ているので、必要ないのではないかと言う人もいます。しかしまだ経験のない新しい障害者にはトレーニングが必要です。熟練した技能をもった障害者は、組合以外の作業所でも仕事をしたりしますので、組合の活動を維持していくためには新人に対する研修が常に必要です。その意味でも、研修のための助成金が必要になってきます。
さらに製品開発や技術の向上のための助成金も集めようとしています。
資本投下は、出資金として設備の改善や新規の協同組合の設立をしていくものです。フィリピンには72の州があり、私どもの協同組合はまだ18州にしかありません。ゆくゆくは1州に1つの協同組合をもつことを目指して、資本投下をしていきたいと考えています。
作業所と協同組合との比較
まず研修においては、作業所でも協同組合でも同じで、資金は外部および内部から調達します。しかし設備面では違いがあります。まず、作業所の場合はかなり高額になりますし、外部資金によるものです。たとえばタハナン・ワラン・ハグダナンという組織には、非常に高額な作業所があります。ところが協同組合は低コストで、かつ内部資金によるものです。
意思決定は作業所の場合は職員が障害者の代わりに行います。しかし協同組合は障害者自身が組合員であり、事業を所有し、マネジメントしているので、組合員によって民主的に決定されています。
次に役員について比較してみます。作業所は普通、役員が任命されますが、ところが協同組合は通常、組合員総会で、組合員によって役員が選出されます。
所有権に関しては、作業所では、労働者は事業を所有していませんが、協同組合は、組合員が所有しています。これが作業所と協同組合の大きな違いです。
純利益、剰余金の面では、作業所では利益が増え、剰余金が出たとしても、労働者に分配されることはありません。しかし、協同組合の場合は剰余金がある時は、組合員に割戻金として還元されます。一般企業の間で、利益が労働者に還元される場合があるのと同様に、純利益や剰余金があれば、協同組合の場合も還元されます。
これが、我々の組合員です。このように働いています(写真3)。この方は聴覚障害のある方です。非常に騒音が激しいところでも、聴覚障害者であるがゆえに、騒音が耳に入ってこないので働けます。
そして、こちらが全盲と弱視の視覚障害者です(写真4)。視覚障害者をやすりがけの作業に配置することがあります。なぜなら視覚障害があるゆえに、触る感覚が鋭く、表面がまだ粗いのか、つるつるになったのか、よくわかるからです。
次は肢体不自由者で、このように製品をつくっています(写真5)。
最後になりましたが、リハビリテーションの本質は、障害のある人たちをエンパワメントして、人生のあらゆる面において完全参画を実現していくことにあります。
この図では「disabled」という単語から「dis」の部分を取り去り、「these」という語をつけて「these abled」としています(写真6))。つまり、障害のある人に、能力ある人として、参加を実現してもらうことを意味しています。
どうもありがとうございました。