音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

基調講演「インクルーシブな雇用の実現」

炭谷 茂
日英高齢者・障害者ケア開発協力機構副委員長
ソーシャルファームジャパン理事長
恩賜財団済生会理事長

講演要旨

1.日本の就労状況

(1)日本全体の雇用状況の厳しさ

  • 高止まりの完全失業率
  • 雇用調整助成金の対象者が200 万人
  • 新卒予定者の就職内定率の低さ
  • 非正規雇用が3 分の1
  • ホームレス問題は新しい局面へ入る

(2)社会的にハンディを持った者には一層厳しく

障害者、高齢者、難病患者、ニートや引きこもりの若者、母子家庭の母、被差別部落、ホームレス、刑余者、在日外国人など
少なくとも2千万人以上

2. 働くことの意味

  • 経済的な自立
  • 人間としての自尊心
  • 規則的な生活による心身の健康維持
  • 社会とのつながり
  • 社会からの排除、孤立が日本において急激に進行
  • 多くの社会問題の発生(例えば障害者への差別、自殺、孤独死、児童虐待など)
  • この解決のためには仕事などを通して社会とのつながりを
  • →ソーシャルインクルージョンの具体化

3. 第3の職場が必要

  • 公的な職場 … 社会的な目的のため、税金が投入されて作られる職場
  • 一般企業  … 大企業には障害者雇用率が適用
  • 社会的企業 … 社会的な目的
  • ビジネス的な手法
  • 利益を外部に出さない
  • 就労者の状態に合った生きがいを感じる仕事
  • 住民参加も

4. 第3の職場の一つとしてソーシャルファームが重要

  • 障害者を対象として発展してきたが、近年対象の範囲を拡大
  • ヨーロッパで定着、各国によって特徴がある
  • 日本にも有効
  • 日本で2千社作るべく、それを支援するためソーシャルファームジャパンが 2008年12月発足、活動
  • 昨年6月厚木市、9月新宿区でソーシャルファームを推進するためのサロンを開催
  • 今年3月7日茂原市・茂原駅前学習プラザでサロンを開催、沢山の人の参加を
    (ソーシャルファームジャパンのホームページに掲載予定)

5. 日本におけるソーシャルファームの展開

(1)未来の日本を担う分野に進出

  • 今後の成長産業 … 政府の成長戦略分野
  • 他との競争に勝てる

a. 環境

  • 3R … 秦野市の弘済学園の古本販売
  • 西尾市の「くるみ会」の食品廃棄物のコンポスト化
  • ヨコタ東北の支援によるNPO等による廃プラスチックのリサイクル
    回りの物すべてが3Rの対象になる
  • 地球温暖化対策につながる
  • 玉野市の「のぞみ園」の竹を伐採し、竹炭作り
  • 北海道芽室町による障害者の木材ペレットの製造
  • バイオマス分野なども可能
  • 北陸グリーンエネルギー研究会による廃アルムニュームによる水素製造
  • 生物多様性にも
  • 北海道のNPOアウルスによるエゾシカの皮の活用

b. 農業、酪農

  • 日本の需給率の向上が食料安保から絶対的に必要
  • 北海道新得町の共働学舎のチーズ作り
  • 飯能市のたんぽぽによる自然農法等による野菜栽培
  • 岡山県美咲町のホームレスによる農業

c. 福祉

  • 高齢者等の多様なニーズの急激な増大
  • 豊島区の豊芯会による高齢者向け宅配弁当
  • ワーカーズコープのホームヘルパー派遣

d. 健康

  • 自然環境の活用
  • 愛媛県愛南町の御荘病院の活動
  • ヘルスツーリズム

e. サービス業

  • 労働集約で有利に
  • 特産物の販売
  • 芸術作品販売
  • ホテル、コンビニも

(2)発展していくためのポイント

a. 商品・サービスの開発

  • 皆で考える(サロンの効用)
  • 需要がある
  • ニッチなもの
  • 独自性
  • 労働集約的
  • デザイン力

b. 販売力の強化

  • ソーシャルファームのネットワークの形成
  • アンテナショップ
  • 商品カタログの作成
  • ソーシャルファームブランドの確立
  • 今後ソーシャルファームジャパンで検討

c. 経営資金の確保

  • 国、地方自治体の助成
  • 民間助成団体
  • 探せば必ず見つかる
  • ソーシャルファームのスピリットは、税に依存せず、自主独立が基本
  • 篤志家の援助
  • ソーシャル・ファイナンス
  • 少人数私募債(縁故債)の活用

d. 支援者の確保

  • 資金
  • ボランティア
  • 消費者として

e. 健常者とのコラボレーション

  • それぞれの特徴を発揮

f. 国際協力

  • ヨーロッパ
  • 途上国

g. 経営主体

  • 現行法制下では一般公益法人、NPO、社会福祉法人など
  • 特例子会社も活用可能

6. 新しい福祉国家として

  • 新しい「公」の形成
  • これからの人間としての生き方の一つ

講演

今日このセミナーで取り上げる内容について、アウトラインを皆様方にご理解いただくと いう役割を私は担っていると思っております。これからイギリス、ドイツ、日本の方々にソー シャル・ファームについていろいろとご説明いただきますが、その基礎的な知識は、既にこの セミナーでも何回か取り上げましたのでご理解をいただいている方は多いと思いますけれど も、そのアウトラインについてご説明するとともに、日本におけるソーシャル・ファームはど のように進んでいるのかご説明していきたいと思っております。私のお話しする内容は皆様 方のお手元にお配りしております冊子に、レジメとして載っておりますので、それに即しなが らお話をさせていただきます。

1.日本の就労状況

(1)日本全体の雇用状況の厳しさ

まず日本の現在の雇用情勢ですが、皆様方ご承知のように、大変厳しい状況がございます。 失業者は300 万人を超え、最近の失業率は5.1%。さらに企業では雇用調整助成金という制 度を使って、本来は解雇しなければならないが、この助成金を使って引き止めている、それが 200 万人くらいいらっしゃる。ですからある意味では、失業もしくは失業の予備軍という方は 500 万人を超えているというのが日本の現状ではないかと思います。さらに、この春に大学や 高校を卒業する人で就職が決まらないという人が3割近くいらっしゃる状態です。さらに非 正規雇用の人が雇用者の3分の1を占めているという大変厳しい状況にあります。

(2)社会的にハンディを持った者には一層厳しく

実は昨日、私は大阪にいたんですけれども、大阪でホームレスを支援している人の話により ますと、どうも最近、ホームレスの状況が変わってきたと言います。以前の日本のホームレス は、50 歳以上の人が多かったわけですけれども、今は20 代、30 代の人が占めるようにな ってきたということを話してくれました。ここ数ヶ月の話です。これは、仕事がなくて解雇さ れた人がホームレス化しているということではないかと思います。
このように、一般の雇用情勢が大変厳しいので、より弱い立場の人、例えば障害者の人、高齢 者の人、難病患者の人、また母子家庭の人、刑務所から出所してきた人など社会的に弱い立場 の人については、なお一層雇用が厳しくなっています。仕事が見つけられない、仕事に就いて いても真っ先に解雇されてしまう、そういう状況が今、続いているのではないかと思います。 そのような大変厳しい方々が日本の中には、ざっと2,000 万人くらいに上るのではないか と思っております。その2,000 万人の方々すべてが仕事がないという状況ではなくて、仕事 に就いていても、どうも自分に合った仕事ではない、もっと違った仕事をしてみたい、そうい う方々も含まれていると思います。

2.働くことの意味

仕事が大変厳しいわけですけれども、仕事というのはいろいろな効用を持っています。もち ろん一番基本的な目的は経済的な自立を得るということだと思います。それから規則正しい 生活によっての健康の管理にもよいでしょう。それから働くことによって自尊心が得られる。 人間としての尊厳性が確保されるということもあるでしょう。そして第4番目には、今日のテ ーマである、社会とのつながり。それが得られるのが仕事だろうと思うわけです。でも障害者 などの方々は仕事が得られない。そのために社会とのつながりが切れてしまう。それによって 例えば孤独死という問題、また自殺といった問題、それからホームレス化してしまう、そうい う問題が生じているのではないかと思います。そのために私は、ソーシャル・インクルージョ ンという考え方をもっと広めなければいけないのではないかと思っています。そのソーシャ ル・インクルージョンを達成するためにも、仕事というものは一番基本になると思います。

3.第3の職場が必要

しかし残念なことに今、障害者の方々の仕事の状況を見ると、私は現在、第一の職場、第二 の職場、というように考えております。第一の職場というのは、いろいろな法律などの制度に よって税金によって維持されている職場です。例えば障害者で言えば授産施設のようなもの が代表的だと思います。残念ながらこの第一の職場、財政上の制約によって定数も限られてい る。また仕事の種類も限られている。そしてさらに言えば、働いてもなかなか満足な給料を得 られない。1ヶ月1万円届くか届かないかという状況だろうと思います。これをさらに伸ばし ていくということはもちろん必要ですけれども、なかなか限界があるというのは皆さん方、共 通した認識だろうと思います。
「第二の職場」、これが一般企業です。一般企業は、大企業であれば1.8%雇用しなければい けないわけですけれども、これもなかなか達成できない状態です。1.8%自身が大変低いんで すね。今日いらっしゃっているドイツのほう、またフランスのほうでは、4%とか5%とか、非 常に高い法的な基準を作っている。日本の1.8%は大変低いわけですけれども、それさえも達 成できない。私の勤めております済生会は、現在4 万7,000 人の雇用者ですから、大企業です けれども、かろうじて1.9%達成している次第でございます。
そうすると、第一の職場、第二の職場だけでどうもうまくいかない。それも充実させなけれ ばいけないのですが、私はここで第三の職場、これが必要ではないかと思っております。第三 の職場、これは社会的企業と呼ばれているものでございます。その中の一つに、今日の議論の 主なテーマになります、ソーシャル・ファームというものがあるわけでございます。

4.第3 の職場のひとつとしてソーシャルファームが重要

ソーシャル・ファームについては、既にこのセミナーに何回も出ていらっしゃる方がほとん どですから、若干復習を兼ねて整理をしておきますと、一つは障害者などの社会的に一般の労 働市場ではなかなか雇用が見つからない、働く場所がないという人たちに対して仕事場を提 供するという、社会的な目的、公益的な目的を有する、これが第一の要素です。いわば第一の職 場と共通するものでございます。
第二の要素は、だからといって税金をあてにはしない。税金による制度があるわけではな い。もちろん税金による援助を拒むものではありません。もちろんそれがあれば大変ありがた いわけですけれども、税金による制度があるから始めようというものではない。あくまでビジ ネス的手法を基本として進めるというものです。これはある意味では第二の職場と同じよう な性格を持っています。したがって第一の職場と第二の職場の共通の要素を取り出したハイ ブリッド型の職場だろうと思います。
そして第三の要素そして、そこで行う仕事自身が、ここで働く人にとってやりがいのある、 働きがいのある仕事であるということも必要でしょう。
そして第四には、できればそのような仕事に対して、働いている人が経営に参加する、運営 そして最後には、その地域住民の方々と一緒になってやる。住民が支えていく。そういうこ ともソーシャル・ファームの特徴としてあるだろうと思っております。
今日もこれまでこのセミナーで何度もお話をしましたけれども、ヨーロッパ、特にイギリ ス、ドイツ、イタリアなどでは、このソーシャル・ファームは大変普及しております。もう1万 社以上あるわけでございます。日本ではなかなか育たないということでは、私は3年前から皆 さんと一緒に2,000 社作っていこうじゃないかと呼びかけてまいりました。そのために2年 前の12 月に、ソーシャルファームジャパンという組織を作ったわけでございます。幸い、こ のソーシャル・ファームについては皆さん考えていらっしゃること、問題に思っていらっしゃ ること、同じなんですね。みんなで日本にもソーシャル・ファームを2,000 社作ろうというで、 非常に意見が一致し、みんなそういうものに熱い夢を寄せていらっしゃるということがわか ってまいりました。
このソーシャルファームジャパン、実は先月、池袋で集まりをやりました。70 名近い方が、 北海道、九州、全国から集まっていただきました。着実にソーシャル・ファームが伸びているな ということが実感できたわけでございます。

ソーシャル・ファームは一挙にはなかなか作れません。そこで、各地でどうしたら作ったら いいかということで、この1年間話し合う場も設けてまいりました。去年の6月には神奈川県 の厚木市で知的障害の方々や、部落解放同盟の方々と一緒に厚木市でサロンという形で開き ました。また、9月には東京の新宿で、刑務所から出てきた人に対する支援を行っている更生 保護法の関係者の方、また新宿でホームレスの支援活動をやっている方々などと一緒に、どう したらソーシャル・ファームが作れるのか話し合いをしてまいりました。 近く3月には千葉県の茂原市で3 月7 日に行うことにしています。主に千葉県の場合は、 今度はターゲットとして高齢者を中心にしてソーシャル・ファームをどういうふうに作った らいいか話し合うことにしております。
このような形で徐々に、日本においてソーシャル・ファームが育ってまいりました。それで はどのように展開をしているのか、ご報告をさせていだたくとともに、どういう問題点がある のかということについて、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

5.日本におけるソーシャルファームの展開

(1)未来の日本を担う分野に進出

まず、仕事です。どんな仕事をやるのか。日本がこれから必要となってきている、そういう分 野の仕事がまさにソーシャル・ファームの仕事として一番適当です。その代表例が環境です。 アメリカでオバマ大統領がグリーン・ニューディール政策を取り上げました。そこに何百万人 の雇用を生み出すんだというのが、オバマ大統領の一番大きい政策の一つだったと思います。 それと同様に、現在の民主党政権も、環境によって仕事を生み出すということを打ち出してい ることはご案内のとおりだと思います。

環境

具体的に環境と言っても大変広いわけですけれども、まず3Rについて見ていきたいと思 います。
3R、Rは「リデュース」、「リユース」、「リサイクル」。この3つのRで3Rです。その3Rも、 我々ソーシャル・ファームに大変いい仕事の分野になっています。

神奈川県の秦野市に弘済学園という、今日は福祉の関係の人が多いですからほとんどの人 がご存じの、私は日本で最も優れた障害者の施設の一つだと思いますが、鉄道弘済会が財政的 なバックアップをし、障害者の対策について、日本のリーダーとしてやってきた施設がありま す。その弘済学園の父兄の方が、去年の10 月からソーシャル・ファームとして古本の販売を始 められました。全国に呼びかけて、各家に本が余っている、なかなか処理できない、捨てるのも もったいない。街の中古本屋に持っていけば買い取ってくれるわけですけれども、それも面倒 くさい。それであれば、この弘済学園の方に古本を寄付してほしい。そしてその古本を知的障 害の方、弘済学園を利用されている方が、きれいにゴミを落としたり磨いたりする。そしてそ れを売り出す仕事を始められました。これはあまりリスクを伴わない仕事だと思うんですね。 かなり順調にスタートしていると伺っています。 これが広がっていけば、弘済学園の方は、秦野市だけではもったいない、できれば全国いろ いろなところでこういうものをやってもらえればありがたいなと言っております。

またこれは今年の4月、2ヶ月後にスタートしますが、ヨコタ東北という会社があります。 これは山形県の新庄が本社で、そこはプラスチックの容器を作っているわけですけれども、例 えば皆さん方、お豆腐の容器がありますが、その容器を作って、大変大きい会社に成長してお ります。そのプラスチックの容器の中心部分に廃プラスチックを利用する。ただこの廃プラス チックを利用する際は、汚れたもの、違った種類のものをよけなくてはいけません。その選別 作業を知的障害者の仕事作りとして活用する。そして廃プラスチックをペレットという小さ い粒状に加工するという仕事までやってもらう。その機械についてはヨコタ東北が無償で提 供するというやり方をしています。この手法は、地元の新庄市だけではなく、京都、三重県、愛 知県、神奈川県などで既に設置されて、障害者の仕事場作りとして大変役に立っております。 今年の4月からは東京の江東区で新しいものがスタートします。これを実施する団体は NPO 地球船クラブというところですけれども、私もそこのNPO の顧問という役割を担って おります。今年の4月に大変大きい施設として地元の区も財政援助するという形でスタート します。ソーシャル・ファーム的な運営ということで、大変私も期待しているところでござい ます。

古本がリユース、廃プラスチックはリサイクルという形になっているわけですけれども、私 は、周りのものがすべて3Rの対象になるのではないかと思っています。皆さん方の周りで不 要のものがいっぱいあると思います。それは捨てれば単なるゴミですけれども、うまく利用し ていけば資源になる。実は一昨日、金曜日ですけれども、徳島市にある「太陽と緑の会」の代表 の人にお会いしました。佐藤さんという方なんです。徳島市の田舎の方にあるNPO 団体です けれども、お話を聞くと、これも一つのソーシャル・ファームだなと思いました。もう既に歴史 が20 年近くある団体ですけれども、何をやっているかといえば、家の中で不要なものをすべ て引き取る。そうすると、佐藤さんという理事長がおっしゃるには、いいものは現在徳島市で もリサイクルショップがたくさんあるから、そこに出す。そのリサイクルショップでも引き取 ってもらえない、限りなくゴミに近いものは有償もしくは無償で引き取っている。本来、ゴミ に出せば粗大ゴミとしてお金がとられるかもしれない。でも「太陽と緑の会」に頼めば、無償も しくは場合によってはお金をもらえるかもしれないという形で成り立っている団体でござい ます。例外なくすべて引き取るというやり方をしているんですね。というのは、私と同じ、すべ てのものが3Rの対象になる、資源になるという形で販売する。そして「太陽と緑の会」では知 的障害もしくは精神障害を持っている方々が働いているわけでございます。

また、地球温暖化問題もあります。今現在、地球がどんどん暑くなっている。21 世紀末には 7度近くになって、人類が滅んでしまうのではないかということですけれども。地球温暖化問 題についても我々ソーシャル・ファームがやれることがかなりあります。例えば先月のソーシ ャル・ファーム・ジャパンの集まりのときに報告していただいたんですけれども、北海道の根 室町では障害者によって木材のペレットを作っている。これは石炭や石油を使えばCO2 が増 える、しかし木材のペレットはCO2 は増やさない。再生産が可能ですので増やさないという ことになっています。これも地球温暖化に貢献することだろうと思っています。
また、岡山県の玉野市に「のぞみ園」という障害者の施設があります。かなり有名な施設です から、行ったことがあるという人もいらっしゃると思います。日本でだんだん竹が増えてきて います。竹というのは京都のお寺にあるときは大変清楚できれいだなと思いますけれども、西 から迫ってくる竹というのは、自然体系を壊してしまう。竹は大変生命力が強くて、日本の在 来の樹木を枯らしてしまうという凶暴な力を持っています。岡山県の玉野市も同様なんです。 玉野市の「のぞみ園」の周りで竹がどんどん増えている。そこで理事長の浜川さんという男性 が僕のところに2年前に来まして、炭谷さんは「炭谷」だから炭に詳しいんだろう、と。私は名 前だけで、炭の専門家ではないと言ったんですけれど、炭谷さん、我々の周りは竹で覆われて いるんだと。単に切るだけではおもしろくないと言うんですね。竹の炭を作りたいと。誰かい い人いないかと。たまたま日本で竹の炭を作っては第一人者の大迫さんという方を知ってい たので、彼に電話をして、「玉野市で困っている施設がある、何とかボランティアで行ってく れないか」と言ったら、「それじゃ行きます」ということで、指導をしてくれた。竹の炭を作っ ています。竹の炭は大変高く売れます。また、竹を切ることによって日本の自然が守れる、森林 が守れる、それによってCO2 が吸収できるという形になっているわけでございます。

生物多様性、バイオダイバーシティということですけれども、生物は1種類だけじゃなくて いろいろな種類があることによって自然が守られる。今年の10 月には名古屋でCOP10 と いう、生物多様性の国際的な集まりがありました。この生物多様性についても、我々ソーシャ ル・ファームがやれることがあるんじゃないのかなと思います。 この試みをやっているのは、今日も来ていただいていますけれども、ソーシャルファームジ ャパンで事務局的な役割を果たしてくれています北海道の「あうるず」です。北海道にはエゾ シカが蔓延しているんですね。エゾシカがいるために、例えば北海道の現地の植物を食べてし まう。他の生物を駆逐してしまう。生物多様性にとって害があるということで、これを適正管 理をしなければいけないということで、エゾシカを駆除しています。単に駆除して殺すだけで はエゾシカに申し訳ない。その皮をいかに利用するか。あうるずでは、その皮でハンドバッグ を作っています。これもソーシャル・ファームとしてこれから伸びていくことが期待できる。 生物多様性ということに役立ちながら、鞄を作ることによって障害者の仕事場作りに役立て ていこうという試みだろうと思っています。

農業、酪農

次に、農業や酪農です。これも大変有望だろうと思います。というのは、日本は自給率は40 %いかないという国でございます。今日来ていらっしゃるイギリスは日本よりも高くて、食料 自給率は70%くらい。ドイツに至っては90%、ほとんど国内で食料を賄っている。日本は40 %。過半数以上を海外に頼っている。食料安保からいっても大変心配な状態です。こういうと きこそ我々ソーシャル・ファームの出番ではないのかなと思います。 今日、午後から新得町の共働学舎のチーズ作りというものもお話ししていただきますし、ま た去年から始められた飯能市のNPO たんぽぽの自然農法に基づく試み、これも今日午後お話 ししていただきますけれども、これも農業・酪農の例だと思います。 そこでもう一つをお話ししますと、岡山県の山奥に、知っている方はどなたもいらっしゃら ないと思いますけれども、美咲町という鳥取県との県境にある山奥の町があります。そこに去 年の4月で代わりましたけれども、奥村町長という方がいらっしゃいました。その方が今から 4年ぐらい前に私のところにいらっしゃいました。うちの美咲町は山奥で学校も廃校になっ て、小学校が空いているんだと。また農業も畑を耕作する人がいないんだと言うんですね。私 が活動している大阪のホームレスの方で、何かこの山奥で仕事をしたいという人がいれば、ぜ ひこの校舎に住んでいただいて、何も手をつけていない畑を耕してみてはどうだろうかとい うお話を聞きました。早速大阪でホームレスの方々に何人か行っていただきました。その後ど うなっているのかなと、関心を持っていましたが聞くチャンスはなかったんですけれども、き ちんと数名の方がそこに定住されているということを聞きました。これもうまくいけば、まさ にホームレスの方が仕事を持つ、そしてそこでソーシャル・ファーム的な活動をしていく。ま だ団体としては成り立っていませんけれども、一つの方向性が見えているのではないかなと 思います。

福祉

三番目の分野として、福祉の分野も大変有望なんですね。今日、午後から上野容子先生に話 していただきますけれども、そこの団体でも福祉について高齢者向けの宅配弁当という形で 豊芯会で出されています。それからこれは全国的に展開していますけれども、ワーカーズコー プという方々がホームヘルパーをはじめ、高齢者介護に全国的に大変活動されている例も成 功事例としてあるのではないかなと思います。

健康

それから健康分野。これもいろいろと起こっています。愛媛県の高知県の県境に、愛南町と いう小さい町があります。そこは大変気候がいいわけです。人はあまり行きません。でもそこ に御荘地区というところがあります。御荘地区に精神病院があるんですね。その精神病の患者 さんの治療に大変いいという地域です。でも精神障害の方々の治療だけではなくて、一般の 方々も来て、保養するには大変いいところだと思うんですね。まさに保養基地としてのソーシ ャル・ファーム。これが現在、御荘地区の方々、御荘病院を中心にして活動されている。大変期 待される分野だと思います。このようなヘルスツーリズム、これもソーシャル・ファームとし て今後、将来性がある分野だと思います。

その他、サービス業もあります。ドイツの方では以前、この場で勉強しましたけれども、コン ビニやホテルもソーシャル・ファームとして経営されていると聞きました。日本ではまだそこ まではありませんが、きっと日本でもできてくるのではないかなと考えています。

(2)発展していくためのポイント

次に、発展していくためのポイントについて皆さんと一緒に考えてみたいなと思います。

商品・サービスの開発

まず一番重要なのは、一般市場として戦っていかなければいけない。勝ち抜いていかなけれ ばいけない。そうなると、商品・サービスがポイントです。これも今年の6月、神奈川県の厚木 市、また新宿で、また3月には茂原市でサロンを開く。そしてみんなで70 人、80 人の人で一 緒になって考える。何がいいのかなと考えるんですね。70 ~ 80 人の方が話し合うと、いい アイデアが浮かびます。大体人間というのは、同じことを考えるんですね。それだとあまり発 展性がありません。でも2人、3人、4人、たくさんの人がみんな同じことを考えているんだけ れども、ちょっと違った考え方を言う人が1人でもいると、それが新しい独自の考え方になる んですね。そして、それは必ず需要があるものでなければならないと思います。よく障害者が 作られるものは大体三つあるといつも思っています。一つはクリーニング業、二番目には印刷 業、三番目には中小企業からの下請けの、例えば箱詰めのような仕事。この三つが代表例です。 でも三つとも今、需要がなくなっています。クリーニングは大きい企業によって市場が占めら れるようになった。印刷はパソコンの発達によって需要が少なくなった。中小企業の下請け は、むしろ東南アジアの安い労働力のところへ持っていった方がいいだろうというふうにな っています。
ですから、そういうものではない。ではどういうものがいいのか。この場でも教えていただ きましたけれども、ニッチなもの、また他にないもの、独自的なものを選ばなければいけない のではないか。そして、ソーシャル・ファームの一つの特色は、労働集約的にできるということ があります。まさに労働集約的な代表は3Rなんですね。先ほど言ったヨコタ東北は、プラス チック容器を丹念に根気よく分けなければいけません。まさに労働集約的なんですね。そうい うものは日本にはできるところはなかなかありません。まさにソーシャル・ファームの特色だ ろうと思います。
そして、デザイン力です。どうも障害者の授産施設で作ったものはデザインが今一つだと。 どうも手が伸びないというものがかなりあります。私どもソーシャルファームジャパンでは、 武蔵野美術大学の教授が協力をしてくれました。日本の工業デザインをリードしている日本 の最先端の人たちです。彼らが協力をしてくれていますから、これからソーシャルファームジ ャパン、もしくはソーシャル・ファームで作るもののデザインを磨き上げていこう。それにつ いては世界のルイ・ヴィトンなんかにも負けないような立派なデザインというものを考えて いかなくてはいけないのではないかと思います。

販売力の強化

次に、販売力の強化です。まさにソーシャルファームジャパンは、いろいろなソーシャル・フ ァームのネットワークを作りたい。例えばカタログを作る、インターネットに載せていく。さ らにはアンテナショップみたいなのもやってもいいんじゃないか。これは実は6月の神奈川 県の厚木市の集まりのときにも出た意見です。そういう全国のものかそこに集まれば、あそこ に行けばソーシャル・ファームはどんなものかな、注文してみたいなというものが、できてく るのではないかなと考えています。 そして先ほどの商品開発、サービス開発ということで、ソーシャル・ファーム・ブランドとい うものを確立する。決して障害者が作っている、高齢者が作っているというだけではなくて、 大変いいものだから買う。買う人は障害者のためになるというだけで買うのではなくて、それ が品質もいい、デザインもいい、価格も安い、そういうソーシャル・ファーム・ブランドという ものを確立していく必要があると思います。そしてソーシャルファームジャパンのマークを ソーシャル・ファーム製品につけていくということも、今後検討していきたいと思っていま す。

経営資金の確保

次に、経営資金力。これはどなたも悩まれるところです。でも、先ほど私は、ソーシャル・ファ ームの神髄は公的な資金をあてにしないといいました。あてにしないけれども、もしそういう ものを見つけて支援をしていただければ、なおありがたいわけです。それを拒むものではあり ません。いやむしろ積極的にそれを見つけていかなければいけません。でも、そういうソーシ ャル・ファームをやりたいなと思って国の助成、地方自治体の助成、民間の助成団体、そういう ものを探せば必ずあります。それをうまく利用するんですね。政治家に頼んで口を利いてくだ さいというのはもう通用しません。地道に、担当者に会って、ソーシャル・ファームの精神を説 明して助成をしてもらう。これがスタートだろうと思います。これは必ずあるわけです。そし て、ソーシャル・ファームの理念が高ければ、それなら支援してやろうという篤志家や、ソーシ ャル・ファイナンスというものもあるわけです。そして商法の改正によってできた縁故債の活 用もこれから考えられるのではないかなと思います。

支援者の確保

次に支援者の確保ですけれども、これは今のお話と同じです。支援者を見つけなくてはい けない。ソーシャル・ファームはやはりハンディキャップを背負っている。できればお金を支 援してほしい。しかしお金はない人がほとんどです。それであれば、土日は助けてほしい。でも 暇もない人も多いと思います。でも暇もなくお金もない人であっても、消費者としてソーシャ ル・ファームの品物を買っていただく。決して品質では他の商品に絶対に負けない。価格も、他 の一般の商品には負けない。そういうものを消費者として買っていただく。そういう支援の仕 方があるのではないかなと思います。

健常者とのコラボレーション

次に、健常者とのコラボレーションですけれども、ソーシャル・ファームといっても障害者 や高齢者のように社会的に何らかのハンディキャップを持っている人だけでやるものではあ りません。ここが重要なんです。イギリスでは大体、障害を持っている方でソーシャル・ファー ムで働いている方は、25%以上が基準。ヨーロッパの他の国でも半分を超えるということは ないと思います。日本の場合も、ソーシャル・ファームだから全部障害者でやろうとすると成 功しません。やはり健常者の人が一緒になってやれることが重要です。場合によっては、家庭 の主婦で時間が余ったという方、また高齢者で民間企業で働いていたけれども技術が残って いる。そういう方も参加していただく。それが成功のポイントだろうと思います。

国際協力

国際協力ですけれども、例えばヨーロッパの方々と一緒にやっていく。幸いソーシャルファ ームジャパンには今日お話しいただくゲーロルドさんやパービスさんが我々の名誉顧問とな っていただいて、いろいろと知恵を貸していただいています。

経営主体

そして最後に経営主体。日本にはまだソーシャル・ファームという経営主体はありません。 ですからNPO や社会福祉法人や、場合によっては株式会社、それを今、ソーシャル・ファーム という形、精神で運営をしていくということになろうかと思います。

6.新しい福祉国家として

最後に、これは結局新しい福祉国家を作っていくことだろうと思っています。今日のテーマ はインクルーシブな雇用を目指しているということですけれども、新しい公、新しい人間との つながりをつけることができる。これが我々ソーシャル・ファームだろうと思っております。 ご清聴ありがとうございました。