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パネルディスカッション
「日本におけるインクルーシブな雇用の実現」

コーディネータ:

寺島 彰 (浦和大学総合福祉学部教授)

パネリスト:
宮嶋 望 (農事組合法人共働学舎新得農場代表 NPO共働学舎副理事長)
桑山 和子 ( NPO法人 ぬくもり福祉会たんぽぽ会長)
上野 容子 (東京家政大学文学部教授)
炭谷 茂 (社会福祉法人恩賜財団済生会理事長、ソーシャルファームジャパン理事長)
ゲーロルド・シュワルツ (MDG・F(国連ミレニアム開発目標達成のための基金)とセルビア政府に よる共同プログラムコーディネータ)
フィリーダ・パービス (リンクス・ジャパン会長)
デビッド・バーカー (ホワイトボックス・デジタル社創設者)

パネルディスカッションの様子

寺島:それではただいまからパネルディスカッションを開始させていただきます。このパネ ルディスカッションのテーマですが、少し絞らせていただきまして、今朝ほど炭谷先生の方か らインクルーシブな雇用の実現ということで、今後ソーシャルファームジャパンが発展して いくためのポイントを指摘していただきましたけれども、このパネルディスカッションでは ソーシャル・ファームを日本で2,000 ヶ所創設していくために、どのような課題があるかと いうことと、それに対してどんな解決法があるのかということを炭谷先生の資料などを参考 にさせていただきながら、課題と解決方法について、先達であります外国の方々からのコメン トや日本の経験に対して経験者からコメントをいただくという形にしたいと思います。
ご質問につきましても、そういうテーマで主にご発言をお願いいたします。具体的に言いま すと、商品・サービスの開発のようなことでありますとか、マネジメントのことでありますと か、経営資金の確保、財源の問題、そういったところに絞って検討させていただきたいと思っ ております。ご質問は1人1回1問ということでお願いします。それから質問の時間は1分以 内にお願いいたします。どうぞお手をお挙げください。午前中の講演や午後のご講演に対して 何かご質問があればどうぞお願いいたします。

会場:炭谷先生にお伺いしますが、国の税金はあまりかけない方がいいようなニュアンスで お話をされていたんですが、先ほどのドイツの事例を聞きますと、新規設備事業、事業拡大な どで、2万人の障害者に3億4,200 万ユーロという国からかなりの支援を受けています。私 は沖縄でA型に近い就労事業をしている。30 人の主に精神障害の方が働いていているんで すが、経営的にとっても苦労しています。大げさですが私財を投じて、しかも企業のリスクを 背負っているわけです。例えば今、お菓子とかいろいろなものを作っているんですが、もしお 菓子に異物が混入すれば、それで施設がつぶれるかもしれないんです。賠償とかいろんな問題 が起こりますよね。とてもじゃないが、僕らは国の支援がないとやっていけない。特にドイツ の事例はすばらしいなと思いました。経営資源とかいろんな意味で国の支援を必要としてい ます。今、我々は最低賃金を払っています。減額申請もしています。最低賃金で雇用して30 人 の主に精神障害の方々を雇用しているんです。もしも何かあった場合は、明日から家族も含め て路頭に迷うんじゃないかとか、そういう不安の中でいます。どうしても国の支援が必要で す。特にドイツがうらやましいので、それについて先生、どう思われるか、お願いします。

炭谷:ご質問ありがとうございました。今のご質問、本当にソーシャル・ファームの一番の ポイントをついたご質問だったんじゃないのかなと思います。実はソーシャル・ファームの特 質として私が言ったのは、一つは社会的な目的を擁するということ、そして第二番目にはビジ ネス的な手法を駆使するということです。その関連で、私は非常に表現を注意して使っていま す。税金を「あてにはしない」という言い方をしています。これはどういう意味かというと、社 会福祉をやっている人間は、こういう制度があるから始めようとか、こういう予算措置ができ たから始めようという発想をします。しかしこのソーシャル・ファームのスピリットというの はそうではなくて、あえて歯を食いしばって、まず独力でやってみようと。これをビジネス的 手法でやってみようというところに本質があるわけです。でも、今お話ししていただいたよう に、実際は非常に難しいと思います。経営的に大変難しい。ですからその難しい部分は、やはり 公的な支援があれば、それはそれで大変ありがたい。しかし精神としてはそういうものに依存 すると、これは持続可能的な発展はしませんし、また、ソーシャル・ファームの精神というのは 独力で自分たちで築いていこうというところに精神があるわけですから、それでも矛盾をし てしまうというところです。

ただ、そうは言っても、当初の立ち上がりは大変苦しいんですね。ですから、例えばドイツの 方式も、シュワルツさんがご説明されたように、ずっと支援されるわけではなくて、立ち上が りの3年間を80%、60%、40%という形で、そのうちに一人立ちしてくださいといううま い誘導の仕方。一つは参考になると思います。
これからこの中でもソーシャル・ファームを立ち上げたいという人はいらっしゃると思う んですけれども、やはり正直に言えば、何とか財政的な援助がどこかにないかなといって探し てみる。それが一つのきっかけにはなると思っています。ヨーロッパにはたくさんソーシャ ル・ファームがありますけれども、ドイツが一番手厚いんですね。ドイツほど手厚い支援をし ているところはあまり聞きません。イタリアは財政援助ではなくて入札制度等において有利 に取り扱う。イギリスでもそういう手厚い財政援助は行われなくて、いわば情報提供や研修と いう形で支援するというやり方をとっている。これは、いわばソーシャル・ファームの特質か ら来るものではないのかなと思います。その分の折り合いをどうするか。ソーシャル・ファー ムを進める上で一番難しいというか、一番のポイントだろうと思っております。

寺島:どうもありがとうございました。よろしいでしょうか?

会場:今後、ソーシャルファームジャパンとしてとして政府に支援を要請するつもり方針 はおありですか? ソーシャル・ファームを立ち上げる人たちの生活とか、いろんな意味で守 られないと、とてもじゃないけど普及しないと思います。個人の犠牲が伴うような福祉とか、 あり得ないと思います。ソーシャル・ファームとして支援をどういう形で要求していかれるの か、お聞きしたいと思います。

炭谷:県や市のレベルでは、大変だろうから、例えば滋賀県とか大阪の箕面市とか、そういう ところは国に先立って財政措置を長年とってくれています。そういうところはうまく育って いるのは事実です。ですからそれを全国的に広めるためには、いろいろな財政支援措置があっ たらありがたい。ただし、これは非常に難しいところで、それに依存しきるとソーシャル・ファ ームとしては難しいところですから、兼ね合いが難しいんですね。ですから、先ほどもシュワ ルツさんのお話にもありましたように、諸外国の経験例も参考になると思います。そういうも のも踏まえながら、みんなと一緒に検討していって、必要に応じて制度を作ってくれと言って ロビー活動をやるということも、これからの検討の課題じゃないかなと思います。

寺島:ゲーロルドさん、アドバイスはありませんでしょうか?

シュワルツ:炭谷先生がおっしゃったことに対する追加ですけれども、政府に対して支援を 求めるというのは、ドイツでもいろんな議論がありました。一方において、私もそうでしたけ れども、たくさんの人たちがリスクをとらなければならない。投資をしてもらうというのは非 常に難しいですよね、リスクを伴いますので。したがって政府は支援をすることもできますよ ということになったわけで、ある意味ではそれは非常によかったのですが、その一方で政府が 恒久的に資金を出してくれると、制度に依存してしまうということがあります。20 年くらい の議論が実は行われてきたんですけれども、その中で、いわゆるシェルタード・ワークショッ プと言いますか、福祉工場とか、そういうような経験と同じようなことにならないように、そ の一方でソーシャル・ファームを始めたいという人たちが支援を受けられるように、いかにバ ランスをとるかということが非常に難しいところだったんです。

そこで最終的にはスタートアップとして最初の数年間はサポートする、数年たったら自立 をして、大体のところですけれども、独自の収入で運営をしていってくださいということにな りました。ドイツにおいては、例えばすべてのソーシャル・ファームに対して、突然明日から支 援が来ませんよということになりますと、例えば100 人の人が働いていたとしたら5人は辞 めていただく、あるいはトレーニングができなくなるというようなこともあり得る。しかしな がらビジネスのコアの部分は危険が迫らないようにしようということも考えられているわけ です。ですから長期的に見ていくということが必要だと考えています。

それからもう一つ申し上げたいのは、ソーシャル・ファームをスタートするというのはリス クが伴います。これはどんなビジネスでもそうだと思います。いろんな人に会いましたし、い ろんな状況も見てきました。個人的にお金を出す、あるいは家族がお金を出す、障害を持って いる方々の親御さんがお金を出すと。このお金は恐らく企業はうまくいかなくて戻ってはこ ないだろうというふうに思いながら出してきたというケースも少なくありません。それはソ ーシャル・ファームのこれまでの側面の一つだったと思います。政府がこれを救済することは なかなか難しかったのです。しかしながらそういったリスクをできるだけ小さくするという 努力はされてきました。ただもちろんリスクをゼロにすることはできません。

お菓子を作っておられるとおっしゃいましたけれども、恐らくそれは難しいビジネスです よね。収益率も少ないと思います。そういう意味では、どのような分野で活動をするかという ことも問題になると思います。お菓子だったら一体どれくらいの量を作らなければ儲けにつ ながらないのか、収益につながるのか、そういったようなことも考えなければならないでしょ う。ですからどんな製品を作っているか、あるいはどんな市場でビジネスをやっていくかとい うことによって、リスクのレベルも違うと思います。

寺島:ありがとうございました。すごくいいご質問でしたのでバーカーさんにも少し、コメ ントがありましたらいただけますか?

バーカー:ソーシャル・ファーム、ソーシャル・エンタープライズがイギリスにはたくさん ありますけれども、一番大きな問題はサービス、そして製品に対する価格設定がきちんとでき ないということだと思います。いわゆる非営利であるという頭があるわけです。ですからとて も低価格で提供する。でも実際にそれでビジネスが安定するのかというような問題が出てき ます。一番大きな問題は、多くのソーシャル・エンタープライズが結局、仕事が続けられなくな る。つまり製品の価格設定に失敗して続けられないというようなことがあるわけです。日本に おいても同じようなことが言えると思います。新しい企業を立ち上げるときには、その製品の 価格設定ということですよね。ただ単にコストとそれ以外の費用を足して計算するというだ けではなく、やはりきちんとした価格設定を勉強する必要があると思います。

寺島:ありがとうございました。他にも何かご質問は?

会場:東京で社会福祉士として株式会社を起業しております。今のお話はいつも考えさせら れているところで、私たちは知的障害者のいろんな施設といろんな強みを作って物を売るこ とによって、しっかり物が売れて最低賃金が保証される仕組みを作っていくために、必死に動 いているところです。その中で、いろんな社会福祉法人と話をするのですが、どうしてもリス クの部分で、背負いきれないというお話があったりします。販路はどうやって確保するんだと かいう話があるんですが、それは背負うべき部分なんじゃないのかなということでいつもお 話をしています。というのは、私にしてもその部分をイーブンにするために、私たちの報酬は 成功報酬にしているんですけれども、持ち出しでやっています。そのリスクは背負って必死で やっています。大きな民間企業も小さな民間企業も、結局のところは、売れなければお金は入 ってこない。だから必死にプランニングをして、強みを作って、いいものを作って、商品の価値 を高めて売っていくことによってお金を入れていくわけです。やっぱりそれは同じ土壌に乗 っていかなければいけないのではないか。今までの社会福祉の専門職がその部分を受け止め るようになっていかなければ、多分変わらないんじゃないかというふうに思ったりするんで すね。

最近行ったところでよく思うことなんですけれども、障害者の人と一緒に物を作る、インク ルーシブな労働環境を作るというよりは、彼らを指導するだけだからという感覚でいること が多く見られます。それでは結局何も変わらないと思います。やはり行政からいろんな補助金 を受けたり、さまざまな法律の枠組みの中でやることによってお金を確保して、自分たちの給 料は賄われている。でも彼らの授産施設自体は1万、2万の工賃しか出せない。それはどうか なって本当に思います。こんなこと言ったら半数の方はうなずいてくださって、半数の人は何 言ってるんだって言われるかもしれませんけど。でも、今ここで本当に変わるべきなのじゃな いかなと思いながら、日々、仕事をしています。
例えば炭谷先生にしても、バーカーさんにしても、リスクという部分についてどう考えてい けばいいかということを、少しお話しいただけたらなと思います。よろしくお願いします。

炭谷:普通の民間企業の企業経営で一番難しいのは、価格づけが一番難しい。それはバーカ ーさんがおっしゃった点と同じすね。高いものにすれば利益は大きいけれど消費者が集まら ないという矛盾に常にぶつかるわけでございます。
そこで、リスクをどういうふうにしてソーシャル・ファームが負うべきかということになれ ば、大体ソーシャル・ファームをやろうとする人というのは、そんなに資金力のない人が大半 であります。そして何らかの問題を抱えている人が集まってやるというケースが大変多いん ですね。ですから、できる限りリスクは負わざるを得ないんですけれども、リスクをできるだ け低くしていくということが重要ではないのかなと思います。

このセミナーでも、実は2年前にイギリスから来たソーシャル・ファームを実践している人 は、こういう助言をしていただきました。ソーシャル・ファームの場合、イギリスでもやはり失 敗する場合があると。ですからソーシャル・ファームをやろうとする場合は、できるだけ一つ のかごにたくさん卵をのせるのはやめた方がいいと。できるだけ多品種、少量のニッチなもの を狙っていくというのがソーシャル・ファームの進み方じゃないのかなと。大きい一つのもの にかけると、やはりリスクが伴うというところがあります。幸い、ソーシャル・ファームという のはいわば家庭内産業のようなもので、こういう少量・多品種の仕事か向くんじゃないか。む しろそれに特性があるわけです。ですからそういうものを通じてリスクをできるだけ軽減を していくということも一つだろうと思います。
それとともに、ビジネスの世界では消費者さえあればリスクはかなり低減できるわけです。 そのためにも、ソーシャル・ファームに対するサポーター、消費者を用意していく。有機農法は ほとんど失敗をする。大体有機農法をやっている人は、大体9割がた、これはソーシャル・ファ ームでなくても失敗をするわけですけれども、それはなぜかと言えば、消費者をつかまえてい ない。ですからソーシャル・ファームをやる場合には、消費者をサポーターとして確保してい くということが、リスクを軽減させる手段ではないのかと思います。またその他にいろいろと リスクを軽減させる方法というものを、ソーシャル・ファームを設立するときに用意していき たい。それがまた今日お話をしたソーシャルファームジャパンの使命の一つではないかなと 思っております。

寺島:バーカーさん、特にリスクをどう負うかというところを中心にお話をいただけます か?

  バーカー:私がそれにお答えできるかどうかわからないんですけれども、私はもちろんリス クは引き受けています。もう5回くらい失敗をして、自分自身もホームレスになりかかったり しているわけであります。やはり自分がやっていることを完成させるということです。私が始 めたときには、社会部門の支援をしてくれるような人たちと全くコネクションがありません でした。ですから政府とのつながりというものが重要だと思います。そういうつながりを大切 にする必要があると思います。政府の支援を受けながら、もう一つは市場を開発することが大 切です。ビジネスとして考えるというとこです。政府の支援を受ける場合、それは一つの契約 に反映されなければなりません。例えばビジネスケースとして、契約として扱うことが必要だ と思います。ビジネス契約であるという考え方をすれば、多分ビジネスとして立ちゆくのでは と思います。ですから政府の役割はどういうものであるのか、どうあるべきかということを考 えなければならないと思います。イギリスにおきましても、ソーシャル・ファームは同じよう な問題を抱えております。自分たちでやっていかなければいけないことがあるわけです。です から、フランチャイズとかビジネスを拡大するというような努力があってこそ、立ちゆくんじ ゃないかなと思います。

  宮嶋:僕はすごいリスクを負いましたね。1年で1億1,120 万を使って、そのうち6,800 万は僕自身の借金。僕、一銭も金を持っていなかった。だけれども、一緒に生活をしている人た ちの隠れた能力を引きだして、そしてやっていけると思ってしまったんですよね。それまでに 支えていてくれた人、寄付で支えていてくれた人たちがいたからできたんです。やるぞと言っ て、借金をしたときに、じゃ、共働学舎本体は債務保証をしてくれたのか。いえ、拒否したんで す。そういった福祉的な考え方でいったら、そんなに借金をして返せるわけがないじゃないか と。ところが、ずっと近くで見ていた新得町の町長と議員さんたちが、お前の親父が保証しな いんだったら町がしてくれると言ったんです。それは、町の人たちを僕らが受け入れて、てん かんの人とか自閉症の人を受け入れて苦労をしていることを知っていたからです。そしたら、 その人たちの心が動いて、債務保証をしてあげると。町としてはすごいリスクを負ってくださ ったんです。そこでやっぱり人の心が動くことで、僕の事業が可能になった。

一番思ったのは何かと言ったら、この人たちはいろんな悩みを持って社会参加ができない。 社会参加ができるようにしたいと思ったわけです。そこに対して周りの人たちが応援をしま すよと動いてくださったんです。僕らは予期していませんでした。だからバーカーさんがすご いリスクを背負っていたと聞いて、僕は握手をしたいくらいです。事業をやる、事業部門を持 つということは、社会に対して自分たちが供給できるものがあり、まだ隠されている需要を満 たすことで、人がやっていないんだからこれは絶対にリスクを伴います。でもそれをやって、 成功したときに、そこから可能性が広がっていくと思うんですね。それを、いろんな悩みを持 っている人たちと一緒にやろうと。お前たちと一緒にやるんだぞ、お前たちが仕事をしなかっ たら、俺はもう破産よっていうことを、ひしひしと感じる仲間なんですよね。彼らは、生活保障 は年金をもらっていますから牧場で生活していればオッケーなんですよ。でも僕らは年金は ないんですよ。それで言ったんです。「お前は給料と小遣いが現金で欲しいんだったら、その くらい稼げ」。全員に言っています。やり出しますよ。数字の計算ができないと言っても、後ろ に円をつけたら計算しますよ。絶対する。勢い出てきますよね。それでうまくいかないのは、確 かに、それは別の方向からケアすればいいんです。そういうことで勢いが出だすと、一つのち っちゃなサイクルが動き出すと、だんだん広がってきますから。一番動きにくいところに力を 注いでいくということで、全体が動き出すという。これそのものがビジネスの手法じゃないか なと思うんです。そうやって、考えられないと言われているんですが、チーズが世界一になっ た。これは何かといったら、手しか使えない人たちの能力を生かそうと思って、機械を極力外 したから、生き物としての、生きてる命のエネルギー、素材ですよね、それを機械で傷めないで 加工できるわけです。そしたらその味は世界レベルですよと言われた。これはトリックではな くて事実です。だから皆さん、ここに目をつけるべきだと思います。ものづくりするときに、機 械でやる、その機械のお供をやらせるんじゃなくて、手でやらせる。そこに新しい付加価値が つくよと。それが今、すべて機械化されてしまった世の中のものづくりの中で、いや違う、本当 に根源的に求めているものができるんだということをもっとアピールすべきじゃないか。そ うしたらリスクがだんだん減っていきます。でもリスクは最初、背負わなきゃいけない。でも、 最初から僕みたいにバカみたいに全体に1億円なんてどーんと使わないで、小さな部門でビ ジネスを起こさないと、本当に家族に逃げられますよね。僕は逃げられてないけどね。

  寺島:ありがとうございました。桑山さん、いかがでしょうか?

  桑山: 実はもう23 年ぐらいで、介護保険制度が始まって10 年ですから、その前、たんぽぽ は、困ったときはお互いさまというときは、事務費が100 円でした。協力していただく方に 700 円、ありがとうという有償のところを800 円。100 円が事務費のところからスタートい たしました。やっぱり宮嶋さんと同じです。人が人を支えてくれたんです。地域の中で一生懸 命、みんな回ったりとか、地域の中で社会参加していたりして、「たんぽぽさん、困ったときは 自分もお互いさまの中で、今は力は出せないけど、ちょっと賛助会費を出すよ」。「せっかくお 世話になったから、新しいものを建てるときにお金を出しましょう」。だからこの柱は何とか 柱だという名前もつけました。やっぱり、人が支えていって地域が支えてくれる。本当にこれ がそうだと思います。そうしていると行政も支えてくれたり、いろんなところで支え合いで、 今でもそうです。野菜も、さっき加工と言ったのは、賞味期限があると野菜も腐ってしまうか ら、それを例えば今、職員が一生懸命切り干し大根を作ったり、障害のある皆さんにとっても らったり、洗ったりして、切り干し大根を手で切って天日で干すとおいしいおいしいと。やっ ぱりそういったところで評価が高まってきます。そういうことでしょうか。

  寺島:ご紹介が遅れましてすみません。上野先生は東京家政大学の教授をされていますけ れども、もともと社会福祉法人を立ち上げられて、今も豊芯会の理事長をされています。退職 金を注ぎ込んだりと、そういうお仲間がおられるそうですので、上野先生にもお願いいたしま す。

  上野:炭谷先生が全国のソーシャル・ファームの展開を毎回お話ししてくださるんですが、 今日の発表を聞かせていただきまして、お話ししていただくたびに全国の展開の数が、いろん なところのビジネスが花開いているのが聞けます。いつもどこか増えています。いろいろなリ スクや、もちろんいろいろな問題や課題、たくさんありますけれども、ソーシャル・ファームの 大事なところの一つは、働く機会を失っている、何らかの理由で奪われている人たちが、やっ ぱり働く機会を得るという、そういう権利をちゃんと持っているということ。権利を誰かに要 求するんではなくて、自分たちでその権利を行使していく機会になっている、すごく貴重なも のではないかと思っております。

それから、今日たくさん話題が出ていますが、ビジネスを展開するということですね。障害 をお持ちの方だとか、病気の方だとか、いろいろな方が参加してくれていますけれども、訓練 が先にあるのではなくて、もちろん仕事を覚えていくためには結果的に訓練が必要な場合も あるんですが、障害をお持ちの方々の就労支援というのは、先に訓練ありきの歴史ではなかっ たかなと思います。まず企業のビジネスの内容、仕事の内容にそのかたが合わせていく。こう いう形で企業に就職したりしている方、今でもたくさんいるのではないかなと思っておりま す。障害者自立支援法は、ややもするとその傾向が強いのではないかなと私は感じておりま す。でもそれを望んで働きにいこうとしている当事者の方たちには、もちろんどんどん企業で 働いていっていただきたい。私は精神保健福祉士なんですけれども、そのための支援もできる だけしていきたいと思います。でも、それがすべてではなくて、私は精神障害者の方とお付き 合いして、もうかれこれ35 ~ 36 年になります。そうしますと、何度も何度もお仕事にチャレ ンジしてきてはいろんな理由で入院をしてしまったり、仕事を離職せざるを得なかった人た ち、こういう人たちともたくさんお付き合いをしてきました。そういう方たちは、もう無理し て企業へ行って働くというのではなくて、自分がこの仕事をしたいんだよ、この仕事をみんな でやらない? という、お仕事そのものですよね、それをやりたい、やっていこうという人た ちが集まってきています。

そういう方たちと私たちは、豊島区という池袋に近い地域ですので、いわゆる都心に近い地 域ですので、食事サービスのお店を作って、そして高齢者や障害をお持ちの方で食事作りに不 自由な方たちに食事を配達するというお仕事を始めました。始めてかれこれ15 年ぐらいに なります。最初は30 食お弁当を作るのでヒーヒーハーハーしていたんですけれども、今は大 体、何事もなければ200 食は普通に作れる。それからその他にパーティー食だとか、特別弁当 なども作らせていただいて、今、約7,000 万近い事業収入を得ることができるようになりま した。
この仕事をするときに、まず作業所の補助金があるから始めましょうというところで始め たのではないんです。先ほどフロアからお話がありましたけど、この仕事をしたいと、この仕 事をするために作業所の補助金を活用させてもらおうということで、でもそれでも足りず、た またま違う職場から退職をしてきた方が700 万の退職金を持っていらっしゃいまして、銀行 からこれを担保にお金を借りましょうと言ってくれて、5年間でそれを返すために必死にな ってみんなで働いて、結果的にはそれがエネルギーになりまして、返すことができました。そ うやって、まず何をしたいかということが先にあって始めてきました。

いろんなリスクもあり、もちろん苦労もありましたけれども、私たちはやりたいなと思うこ と、それから生きていく上で、働く上で大事にしていきたいなと思うことを、まず一番先に優 先してやってきた。苦労はあまり苦労とは私は感じませんでした。それがとても生きがい、や りがいでした。今でもそうです。働いている人たち、今日、何人も来てくれていますし、あと、精 神の障害をお持ちの当事者の方が、非常に今、一生懸命自分で課題を作りまして、例えばクッ キーを作るとかケーキを作るとかということなども含めて、その方なりに自分でいろんなビ ジネス展開を考えて、それに挑戦をしています。
それを、支援するというスタンスではなくて、一緒になってやっていきたい、そういうふう に思っています。それがビジネス展開を進めていくということなのかなと思っています。理念 をしっかり持つということと、ビジネス展開をしていくということが、ソーシャル・ファーム にとってはとても大事なところ。そこをぜひ皆様方と共有をしていって、そしてソーシャルフ ァームジャパンがさまざまなこれからの課題を現実的にどう解決していくかということに向 かって、みんなと協力をして進めていけたらいいかなと思っているところです。

  寺島:どうもありがとうございました。
ご質問の中で、最初に立ち上げるときの資金のことがやはり問題になっていたと思うん ですけれども、パービスさんから、ソーシャル・ファイナンスという新しい概念がイギリスで 登場しているということですが、それを例えばソーシャル・ファームの立ち上げのときに、こ んなふうに活用できるとか、もし具体的な例がありましたら教えていただけませんでしょう か?

  パービス:ソーシャル・インベストメント・ファンドというのがイギリスでありますが、その 場合、投資家は新しいアイデアがあって、社会的な変化をもたらし得るという見通しが立った ならば投資をしてくれます。日本でもそうではないかと思いますが、パネルの方々は様々な経 験をしてこられました。リスクを負って、そして新しいソーシャル・エンタープライズを作る という経験をしてこられたわけですから、私以上にいろんなお話をおできになると思います。 例えば先ほどお話に出ましたようなお菓子作りですね。お菓子作りに人を雇いたいというこ とになれば、もちろん雇ってもらう人はうれしいかもしれません。しかし、お菓子を作るとき に、クッキーにしても、マーケットでは本当にそれを買ってくれるのか、幾ら払ってくれるの かということを考えなければいけません。時には売れないようなものになってしまうかもし れません。ですからデビッドさんのようにIT を使うという新しいアイデア、これはすばらし いアイデアだと思います。それからまた北海道でなさっているということも非常にすばらし いことだと思います。チーズを作っていらっしゃる。これは他ではやられていない新しいこと で、そして他にはないアイデアです。目に見える社会的な変化をもたらし得る新しいことを始 めることができたとしたら、それはビジネスにつながっていくと思います。

  例えば皆さんの中で、銀行家に話をしたという人は何人いらっしゃいますか? あるいは 投資家と話をした、あるいは株式市場で投資をしてくれそうな人に話をしたということはあ りますか?例えば外国人の投資家でも、こういうアイデアがあるんだ、これを支援してくれな いかとリスクの一部を担ってくれないかという話をしたことがありますか? あるいはま た、今のビジネスプランはこの段階なんだけれども、次の段階にいきたいんだけど、ちょっと 助けてくれないかというような話を、誰かにしたことはありますか? 炭谷さんの方からも、 ビジネスの多様化だけではなくて、資金の多様化も重要になるわけですね。デビッドさんのよ うに政府の契約を取り付けるということも可能ではないかと思います。お金を持っている人 でいいアイデアだったらサポートするよという人がいるんじゃないかと思います。そういう 人に話をするということも一つの手ではないかと思います。

  質問の中に最初に出たように、政府というのはもちろん補助金を出してくれるかもしれま せん。しかしながら法律とか税制上の枠組みが、ソーシャル・ファームにとってもプラスに働 くというところがあるのではないかと思います。政府に対しては、一般市民のソーシャル・フ ァームについての認識を高める、あるいはソーシャル・ファームの社会的な効果、どんなもの があるのかということを知ってもらう。そのために良い制度を作ってもらう、法律を作っても らうために、政府にそういう制度作りをしてもらう。また、支援を必要としている人たちがい るということを理解してもらうための努力を政府にもしてもらうというところでも、働きか けが必要だと思います。
ソーシャル・ファームの開発ということに関しては、そういうことも必要でしょう。それか らまたビジネスプランを作ったり、新しいアイデアを実際に社会投資家と言われる人のとこ ろに持っていって説得をすることもできるでしょう。それからその一部分としてなすべきこ とは、市場調査ですよね。いずれにしても次の段階にいくためには、リスクを負わなければな らないのです。リスクを負うつもりがなければ最低賃金も払えないし、自分自身の給料も払う ことができないということになってしまうでしょう。やっぱりリスクはつきものだと思いま す。

  寺島: ゲーロルドさん、ご発言お願いします。

  シュワルツ:今のソーシャル・ファイナンスについての付け加えたいのですが、ドイツにも ソーシャル・バンクというものがあります。1870 年代の終わりぐらいからでしたから、長い 歴史があります。ソーシャル・バンキングというのはドイツでも非常に発達しています。最初 のソーシャル・ファームの段階では、そういうところの関心をひくために努力したんですけれ ども、あまりうまくいきませんでした。 今はちょっと時代が変わって、公的な議論もできるようになりました。ソーシャル・ファー ムとかソーシャル・エンタープライズというのは、こういう価値を生むんだということが認識 されるようになってきましたけれども、ソーシャル・コオペレティブのベンチャー、あるいは ソーシャル・キャピタル・バンクというようなものがあるわけです。彼らは資本を提供してく れました。しかしながら、それに対してはきちんと結果を出さなければいけない。これは他の 民間の銀行にも同じことが言えるわけであります。

10 年から15 年くらいしまして、このセクターがかなり確立された会社になりました。そ ういうことがあると、次にまた成長のための資金も集めることができるということになるん だと思います。私ども、ソーシャル・バンクと非常に強い関係を持っているようなところもあ ります。でも最初はなかなかうまくはいきません。最初は寄付で賄っていかなければならな い。そして、うまくいかなくなった場合について、ファンドとして確立されたものがあります。 例えば、消防署のファンドというようなもの、ファイヤー・ブリゲイド・ファンドというような ものができています。これはソーシャル・ファームに対して、例えばビジネスの危機に陥った ときに使えるようなものということで考えられています。あるいは危機から脱するためのプ ランを作るのに使えるというようなものがあります。問題を抱えてしまったソーシャル・ファ ームに対して、そこから抜け出すためのものということで、立て直るための資金援助というよ うな性格のファンドもできています。

  宮嶋: 資金について、僕はいろいろ農業資金とかずっと使い回してきていて、低利のものも いっぱい使って返して、5.5%のものを15 年で返してってやってきました。それは本当にリ スクで苦しかったですよね。去年、ファンドという言葉を使ってしまったら僕は大失敗をしま した。金融側の人が、特にうちのチーズに関してファンドを組みませんかと来たんです。絶対 失敗しないと読んだのかもしれません。こういった社会的な価値ある仕事をしているところ に融資をしたい、だけどちゃんとお金は返してもらいますよと。利子はチーズでいいよと言う んです。これおいしいと思ったんです。組んでみようかとシミュレーションの案を出したんで す。勝手なことはできないので共働学舎の運営理事たちに説明をしたら、ダメだったんです。 なぜダメだったか。ファンドという言葉を使ったのが大失敗だったと思うのですけど、ものす ごく悪いイメージを持っています。お金を貪欲に追求していくイメージがある。でもファンド って、もともとの言葉はファンデーションです。ソーシャル・ファイナンスという言葉を使う べきだったなと思いました。でも金融側にも、そういった関心がとても高まっています。そし て若い人たちがやっている小さな会社が、自然保護の森林を守るファンドを組んだり、古酒、 日本酒の古い消えそうなものにファンドを組んで継続、立ち上げさせたりということを、小さ く始めているんです。ですからそういったことも含めて、低利の農業資金を借り入れるので す。まとまって政府から借りてしまうと、そのことを知る人の数は増えません。どういう仕事 をしているかということを、本当に理解しようとする人の数は増えないんです。多少利子を払 っても、返せるビジネスの部署を持っているのであれば、その利子分は広告費として考えてや っていけば、本当の意味でお金を出した人が自分のお金を出してどうなってどう運営されて いるのか、真剣になりますから、そこにちゃんとお金を返すためには、こういうことをしてい ますと。そこにいろんな負担を抱えた人たちが一生懸命に生きています、一生懸命この生産に 関わっていますというメッセージをのせていきたいんです。でも、まだ日本ではなかなか理解 されていないと思います。外国の方では、進んでいると聞いてうらやましい。イギリスから借 りようかなって、思うくらいですよね。ですから、日本も突破口はできると思うので、リスクを みんなで背負いましょうという話ができないかなと思います。

  寺島:どうもありがとうございました。よい質問をいただきまして、財源問題、リスクの問題 がかなり深まったんじゃないかと思われます。最後に炭谷先生、ソーシャルファームジャパン 理事長に何かコメントをいただいてこのパネルを終わりたいと思います。

  炭谷:今日はどうもありがとうございました。大変有益な集まりだったと思っております。 私自身、ソーシャル・ファームを進めるためにはどんな仕事がいいのかということを常に考え ています。今日はバーカーさんからIT を活用した大変魅力的な話、何かすごいなということ を体で感じました。こういう仕事づくりがあると理解したのはよかったなと思います。

それから二番目には、資金の問題。ソーシャル・ファイナンス、SRI とか、そういう言葉が今、 いろいろと出てまいります。こういうこともこれからソーシャル・ファームを進めるためには もっと勉強して、取り入れていかなくてはいけないなと思っています。それと最近ちょっと似 ているのは、レジュメに書きましたけれども、少人数の私募債というものが、商法の改正であ ります。これはある東京のパン屋さん、具体的に言えばスピカという、女性が始めたパン屋さ んは、友達からお金を出してもらって、利子は宮嶋さんと同じようにパンで返していったんで すね。それでパンを食べてもらうというやり方で500 万円借りたと聞きましたけれども、そ れがうまくいったというような話も聞いています。
いずれにしろ資金をどういうふうにして集めるか。今日、イギリスの20 か30 ぐらいの代 表例を教えていただきましたけれども、いいヒントをいただいて、こういうのもこれから追求 していかなければいけないと思います。
そして何よりも、日本側から宮嶋さんと桑山さんにお話していただき、一つ非常に共通した ものは、両方とも住民の方々、また町長さんなどに助けてもらっているということなんです。 実はソーシャル・ファームが普通の民間企業と違うのはこの点なんです。つまり、企業だけが あるのではなく、周りの住民に助けてもらう、参加してもらう、そこに一つの特色があるので はないかなと思います。そして宮嶋さんがおっしゃったように「メッセンジャー」、いろんな問 題点を、そこの中で解決をしていくという機能というのは、ソーシャル・ファームならではと いうふうに思っております。

そして最後に、シュワルツさんにソーシャル・ファーム法を2000 年に作るまでの過程を 詳しく説明していただきました。その過程において政府や社会に対して訴えると。私どもも今 度、これは日本労働者協同組合という団体が主催し事務局として、私と上野先生が呼びかけ人 という形で、他の人も入りますけれども、これはソーシャル・ファームを中心としたソーシャ ル・インクルージョンというものを世の中に訴えるために、東京と大阪で数百人の規模の大集 会を開く予定にしております。これは3 月9 日、東京で、3 月14 日、大阪でと予定しており ます。この場では行政の人、また国会議員の人も呼んで、ぜひソーシャル・ファームをはじめ社 会とのつながりをどういうふうに作ったらいいかということを訴えていきたいという努力を してまいりたいと思っております。これはソーシャルファームジャパンと直接関係はござい ませんけれども、そういうことも考えております。ぜひ時間のある方は、ご出席いただくと幸 いでございます。

最後に、私どもソーシャルファームジャパンというものを作りまして、3年目に入りまし た。ソーシャル・ファームの製品についてロゴマークを貼ってもらったらどうだろうかという ことを議論をしております。ソーシャル・ファームのものをよりたくさんの人に買ってもら う、たくさんの人に知ってもらう、そうすると自分のところのソーシャル・ファームで例えば クッキーを作った、自分のところでハンドバッグを作った、そういうところにソーシャルファ ームジャパンのロゴマークを貼っていただければ、みんなが、こういうものがあるのか、障害 者や高齢者が作ったのかということで、広がっていくのではないかなということも、現在、検 討しております。
そういうことで、今日はたくさんのヒントいただき、皆様方もたくさん学ばれたと思ってお ります。

寺島:どうもありがとうございました。それではこれでパネルディスカッションを終わらせ ていただきます。どうもありがとうございました。