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講演2「ソーシャル・ファイナンス-社会貢献活動のための財源-」

英国のソーシャル・セクターの動向 寄付金依頼から収益獲得へ」

フィリーダ・パービス
リンクス・ジャパン会長

講演要旨

ソーシャル・エンタープライズにはさまざまな解釈があるが、そのすべてが、世界各地で広 がりつつある現象である。ソーシャル・エンタープライズの定義は多様である。(英国の定義 とソーシャル・ファームの法的形態についてはプログラムを参照してほしい。)現在英国のソ ーシャル・エンタープライズの数は62,000 社で国内生産高の240 億ポンドを計上している。 従来のビジネス同様、事業の立ち上げと成長に財源が必要であるが、社会資本および社会資産 の価値を評価する方法を知らない商業的供給源から財源を確保することは難しい場合が多 い。ロンドンは、未公開株式投資の先導者であったように、社会投資という新たなアセットク ラスの運用でも先駆者である。
ここ何年かにおいては、英国の国内および世界において、社会問題の悪化や環境問題が増 加している。そうした問題に立ち向かうためには、重税による富の再分配があるが、リスク負 担と技術革新を抑制し人々を無力化する上、非効率的である。唯一の解決策は、地域の課題を もっともよく理解し、地域の人々の活力と労働力を下から活性化できるソーシャル・セクター (NPO セクター)にある。しかし国への過剰依存により自立した活動が脅かされている。持続 可能な財源が必要となってくる。

この緊急に必要とされる社会的財源( ソーシャル・ファイナンス) は、株式市場に見られる ように、確固たるシステムを備え、税制上の優遇措置により促進され、適切な法律によって支 持される市場のメカニズムから得るしかないという認識が英国内で浮上している。商取引に よる収入のない慈善団体から、利益の一部またはすべてを、使命を果たすために再投資できる ソーシャル・エンタープライズ、および社会的目的を掲げた営利事業にいたるまで、あらゆる 発展段階にある組織に資本を提供するホールセラーの設立を支持する政治的合意がある。英 国は、間もなく社会投資銀行が主流の金融市場に社会投資を導入し、革新的な形態の融資を促 進するという重要なステップを歩んでいくことになるだろう。
既に利用可能な倫理的投資、社会的責任投資(SRI)のように、財務リターンだけを追求して いるわけではない投資もある。現在ヨーロッパだけで2 兆7000 億ポンドの SRI ファンド が運用されている。財務面、社会面および環境面のトリプルボトムラインリターンが求められ る。そして社会的リターンを追求する投資家のための評価指標- SROI(社会的投資収益率) がある。市場から疎外されることの多い人々の価値など、社会的インパクトに経済的価値を与 える。

ロンドンの貧しい人々に対する小規模金融業者のフェアファイナンスは、公正な利率で多 重債務者に貸し出しを行っている非営利社会貢献企業である。地域金融サービスの主力は信 用組合で、英国信用組合協会には346 の信用組合、490,000 人の会員が参加している。
ソーシャル・セクターの財政では、個人富裕層による投資が増加している。持続可能な社会 貢献活動のために、ビジネスライクな方法で確実に資金が利用されるよう、スキルでも貢献が できる。ベンチャー慈善家による能力構築も考えられる。慈善活動の文化がない日本ではどう か。英国の経験を共有できるのではないかと考える。


講演

ご親切なご紹介ありがとうございました。タイトルにありますように、今日はソーシャル・ ファイナンスということでお話をさせていただきます。
最初に、ソーシャル・エンタープライズについて簡単にお話をし、シュワルツさんがおっし ゃったことに続いて簡単にお話をさせていただきます。それぞれの国でどんな定義がなされ ているかというお話をさせていただきます。

スライド1
(スライド1の内容)

ソーシャル・エンタープライズの定義

スライド2
(スライド2の内容)

ソーシャル・エンタープライズと言いますと、多くの人たちが社会的に責任のあるビジネス だとお考えになっていらっしゃると思います。しかし例えば韓国のようにソーシャル・エンタ ープライズ法というのを作っている韓国やフィンランドでは、障害者や労働人口の中で長期 にわたり不利な立場にある人々を雇用する企業という意味で使っています。これはイギリス のソーシャル・ファームの定義であり、また炭谷先生のソーシャル・ファームの定義であると 思います。これは雇用創出に関わるものです。それから他にギリシャやイタリアなどのヨーロ ッパの諸国では、ソーシャル・エンタープライズというのは実際は精神病や障害に苦しむ労働 者によって運営されている協同組合ということになっています。アメリカはと言いますと興 味深いことですが、革新的で持続可能な収入源を持つ慈善活動を行っているところという定 義をしています。
日本の場合はさまざまな解釈があるのではないかと思います。日本の政府はソーシャル・ビ ジネスという言葉、社会事業ということで社会的な責任を果たすビジネスという意味で使っ ていらっしゃると思います。しかし社会的な結果を評価するということは、政府では難しい状 況だと思います。しかし、若い人、あるいはソーシャル・エンタープライズの分野で働いている 日本の方々は、やはり英国で採用されている解釈を好んでいると思います。それは社会的目的 のための商品あるいはサービスの販売で、収益の全部あるいは大部分は外部の株主には分配 されず、社会的な目的のために再投資される企業というふうに見ていると思います。

これは皮肉だと私は思います。なぜかと言うと、恐らく最も優れた世界のソーシャル・エン タープライズのモデルは何かと言えば、「ゆりかごから墓場まで」、労働者のニーズを気にか けてくれていた、昔ながらの日本の系列会社です。おそらく系列会社は、廃止ではなく改革を 必要としていたのではないでしょうか。

英国のソーシャル・エンタープライズ
法的形態

スライド3
(スライド3の内容)

英国にはソーシャル・エンタープライズが約62,000 社あり、国内生産高の240 億ポンド を計上していますが、その広範な法的形態には、まったく法人組織ではないものも含まれてお り、公認慈善事業団体、協同組合、コミュニティ組合(BenComs)および信用組合(今月、法律 が制定されるまでは、産業共済組合と呼ばれていた)、トラスト、有限会社、公益法人組織(昨 年導入された公益会社のための新たな法的形態で、チャリティ委員会と会社登記所への二重 登録をしなくて済む)、そして2005 年に政府によって導入され、昨年改正された、特にソー シャル・エンタープライズのための法的形態であるコミュニティ・インタレスト・カンパニー (CIC)などがあります。これらの会社は、地域に利益をもたらすことを証明しなければなりま せんが、収益を上げ、株主に配当金を支払うことができます。ただし、これには上限はあり、ま た事業税は全額支払わなければなりません。しかし目的は、これらの組織の社会的成果を投資 家が容易に確認できるようにすることで、この結果投資家は、ソーシャル・エンタープライズ 向けの資金援助や助成金支給を申し出たり、Enterprise Capital Funds(エンタープライズ・ キャピタル・ファンド)を通じて好ましいエクイティ・ファイナンスを利用したりすることが できます。このようにして、イングランド銀行のバックアップを得た大手金融機関が、小規模 の有限会社よりもソーシャル・エンタープライズに、進んで融資をする傾向を強めることに成 功しました。

社会的経済に関する用語

スライド4
(スライド4の内容)

これらの社会的な動機付けを得た企業は、どのような形態をとるかに関わらず、従来の企業 とまったく同様に、立ち上げと成長のための財源を必要としています。しかし、一般に、銀行や 住宅金融組合などの従来の資金源から財源を確保することは難しくなっています。銀行や住 宅金融組合などは、貸出の際に、昔ながらの形態の担保を必要とします。なぜならこれらの機 関は、ソーシャル・エンタープライズのことを良く知らず、そのためソーシャル・エンタープラ イズの基盤であるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とソーシャル・アセット(社会的資 産)の評価方法がわからないからです。これらの用語を知らない方々のために、少しご説明し ますと、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とは、人々がお互いにどのようにかかわりあ っているかということと、その社会的関係から得られる情報、影響および連帯です。ソーシャ ル・アセット(社会的資産)は、従来の収益価値以上の、社会的関係の結果価値を持つようにな った属性で、資格や正規の仕事の経験があまりない、地域の人々のアイディアやスキル、活力 や関与、あるいは空きビルなど、あまり使用されていない、もしくは未使用の不動産で、地域の 目的のために使用できるものなどです。これらのどれ一つとして、貸出銀行のチェックリスト には見つけられません。

スライド5
(スライド5の内容)

これから、英国のソーシャル・エンタープライズが利用できるさまざまな形態の財源につ いて、特に開発が進められている社会投資の新たなモデルを中心にお話しし、日本で社会的大 義に役立てるために応用できるもの、興味深いものがあるかどうか、また共有できる情報があ るかどうかを検討して行きたいと思います。私はソーシャル・ファイナンスについてお話しす るのが楽しみです。というのは、英国におけるこの分野の発展を見て行くことは、とても面白 いからです。世界的経済不況を引き起こした債務担保証券とクレジット・デフォルト・スワッ プの運用に失敗した銀行に対し、現在、敵対的な態度が流行していますが、ロンドンの評判は 上々です。ロンドンは、未公開株式投資の先導者であったように、社会投資という新たなアセ ットクラスの運用でも先駆者なのですから。

英国は日本と同様に、過去数年間にわたり国内の社会問題の悪化を経験してきました。失業 者の増加と貧困は、世界的な景気の低迷により深刻化し、ますます多くの人々が社会から取り 残されてしまいました。同時に、気候変動と環境への関心が高まり、それらの問題への取り組 みが社会にもたらす重大な影響を、私たちはかつてないほど意識するようになりました。私た ちは重税による富の再分配に立ち返ることもできます。しかし、この繰り返しを経験し、それ がリスク負担と革新を抑制するだけでなく、地域の人々を無力化し、より高いコストで、より 満足度の低い成果を上げることしかできないことを見てきました。今では多くの人々が、唯一 の代替解決策は、地域の課題をもっともよく理解し、地域の人々の活力と労働力を下から活性 化できるソーシャル・セクター(NPO セクター)に見出せると認めています。残念ながら、ちょ うどそのニーズが最大であるときに、公共サービスを提供する契約への過度の依存による国 への過剰依存のために、ソーシャル・セクターの自立が脅かされ、その使命が損なわれている ことに私たちは気づきました。ソーシャル・セクターは、革新のための自由と、私たちの社会の 根深くかつ深刻な社会問題に対する新たな解決策考案の自由とを必要としています。だから こそ、規模の拡大と模倣のために、単に十分なだけでなく、持続可能でもある財源を持たなけ ればならないのです。

英国では、この緊急に必要とされる社会的財源(ソーシャル・ファイナンス)は、株式市場に 見られるように、確固たるシステムを備え、税制上の優遇措置により促進され、適切な法律に よって支持される市場のメカニズムから得るしかないという認識が浮上しています。どの政 府機関も、社会的志向の企業を増やしたいと考えていますが、このたび政治の場では、商取引 による収入のない慈善団体から、利益の一部またはすべてを、使命を果たすために再投資でき るソーシャル・エンタープライズ、および社会的目的を掲げた営利事業にいたるまで、あらゆ る発展段階にある組織に資本を提供するホールセラーの設立を支持する超党派的合意が得ら れました。長期にわたる協議の結果、英国では間もなく、この役割を担う社会投資銀行が設立 される予定です。2009 年12 月の予算前報告書で発表された大蔵大臣の声明によれば、同銀 行設立のためにまず7500 万ポンドが準備されますが、その大部分は、英国の銀行預金や住宅 金融組合預金の内、15 年以上取引がなく、預金者が確認できない休眠預金が当てられるとの ことです。社会投資銀行は、新旧の金融小売業者に資金を供給し、その後これらの金融小売業 者が、慈善団体に金融パッケージを提供する予定です。

倫理的投資と社会的責任投資

スライド6
(スライド6の内容)

さらにもう一つ、既に積極的に運用されているんですけれども、別の投資形態があります。 これは倫理的な形態と言われるもので、その前提は、利益を上げるに当たって何かを犠牲にし てはならないということです。イギリスでも日本でも、他の先進国でもこの倫理的な投資とい うことは行われていることです。多くの投資家が倫理的な投資を通じて、単に社会や環境への ネガティブなインパクトを避けるだけではなく、そこから一歩進んだ社会的な道義という原 則に基づく利潤追求ということを信条として、ポジティブなインパクトを与える投資をさら に追求、推進しています。社会的な責任投資= SRI と呼ばれるもので、倫理的な投資が含まれ る場合もあります。
難しい時代ですけれども、ヨーロッパでは2 兆7,000 億ポンドのSRI ファンドが現在運 用されています。これらの投資家はいわゆるトリプル・ボトム・リターンの確保を追求してい ます。再生可能なエネルギーによる発電、新技術、環境関連のベストプラクティス、有機農産物 の生産、熱帯林の再生、ソーシャル・エンタープライズ、フェアトレード商品及びサービス、倫 理的に運用されている不動産、そして革新的な新事業など、財政面、社会面そして環境面のト リプル・リターンを求める活動をしています。

社会的投資収益率(SROI) の原則

スライド7
(スライド7の内容)

ここで投資家と社会貢献活動に参加している機関のために、社会的なインパクトを評価する という活動についてお話ししたいと思います。 社会的な投資収益率= SROI という指標が使われています。関係者によって確認された市 場価値のない社会的なインパクトに経済的な価値を与えるというものです。それには市場か ら疎外されることの多い人々の価値も含まれます。重要な点は、それが単なる数字ではなく、 生み出された価値とその価値をどのように運用できるかを実際に示すものであるということ です。
このSROI というものには7つの原則があります。関係者を参加させること、変化するもの を知ること、大切なこと、関連事項を評価すること、重要なものだけを含めること、過大申告を しないこと、透明性を確保すること、そして結果を検証することです。

情報源

スライド8
(スライド8の内容)

他にも別の評価方法を開発している機関がありますが、現在ではそれらがすべてSROI ネ ットワーク内で連携しています。これに対してはイギリス政府も昨年、指針を出していまし て、ウェブサイトからダウンロードできます。英国で最も優れている銀行、アドバイス、それか ら倫理的な金融商品の情報源を紹介しています。これらは既にソーシャル・ファイナンス活動 の要として用意されています。また「グッド・ディールズ2009」、社会投資年鑑という題名の 社会投資に関する最近の動向の総合的なガイドブックをはじめ、数多くの役に立つ情報源が あります。
ソーシャル・ファイナンスという組織は、社会投資の開発促進において仲介役を果たしてい て、ソーシャル・ファイナンスの財源や、アドバイザリー業務、実用的な情報、及びマーケット 情報に関する検索可能なデータベースを作っています。また、UK Sustainable Investment and Finance Association(UK サステナブル・インベストメント・アンド・ファイナンス・アソ シエーション)というのも、持続可能で責任ある金融サービスを提供しています。

英国のベストプラクティス
倫理的投資・SRI 実施金融機関とアドバイザー

スライド9
(スライド9の内容)

2002 年に設立されたBridges Venture(ブリッジズ・ベンチャー)という組織は、革新的な 民間投資会社で、イギリスの25%に当たる最も貧しい人々を再生したりしています。これは 政府の多重貧困指数によって貧困とされた人たちで、医療や教育、環境などの分野で社会的な 利益を提供しています。
それからCo-operative Bank(コーポラティブ・バンク)は、イギリス最大の社会的責任銀 行と呼ばれるもので、イギリス最大の消費者協同組合であるコオペレティブ・グループの一部 門となっています。ここは積極的に社会や環境のためになるような活動を推進しています。そ して社会的・環境的な面で無責任な事業をしているところに対しては、投資やサービスを提供 していません。すなわち武器取り引きや石油産業には投資をしていません。 Equfund(エキューファンド)という投資会社は、コミュニティ・ベネフィット・ソサエティ、 コミュニティ組合と呼ばれるもので、ホームレスの予防に取り組んでいます。持ち家や安価な 住宅の購入資金の援助をしたり、ソーシャル・エンタープライズへの資金援助をしたり、自立 に必要な金融サービスについての啓蒙活動、それからコミュニティのための活動などをして います。環境に優しく多目的に使用できる共同住宅を設計したり建設する際に、そこに直接投 資をすることで、Equfund というのは社会的な弱者に最高水準の安全と自立を提供する住 宅を供給しています。
ラスボーン・グリーン・バンク・インベストメントは、環境・社会・倫理的な投資をしたいとい う個人や専門家にサービスを提供しています。そして企業がどのように倫理的な行為を実践 しているかを調査して、必要に応じて改善を促すために企業の株式を購入します。Rathbone Greenbank Investments(ラスボーン・グリーンバンク・インベストメント)は、炭素公開プロ ジェクトなるものを支援していまして、世界の企業が気候にどのような影響を及ぼしている のか公表するように促しています。

スライド10
(スライド10の内容)

Investing for Good(インベスティング・フォー・グッド)という組織は、望ましい社会的・環 境面の影響をもたらすような投資を専門としています。そしてこのInvesting for Good とい う組織は、ダイナミックに変化する新しいマーケットを開拓していくために、資産運用機関や 金融仲介機関とも協力しています。
Omni Worldview Ltd(オムニ・ワールド・リミテッド)は、新しいファンドで、資本市場と法 人・個人・起業家を一つにまとめて、債券を発行して低炭素プロジェクトに資金提供していま す。5,000 万ポンドからスタートして、収益はプロジェクトの推進のために再投資されてい ます。
Resonance Limited(レゾナンス・リミッテッド)は、イギリス各地のソーシャル・エンター プライズと協力し、彼らの戦略立案を支援し、持続可能なよく計画された価値観に基づくプロ ジェクトへの投資を希望する大小の投資家を引き合わせています。こういった会社はすべて、 投資家のために資金を調達したり出資に関するアドバイスや機会を提供しています。

スライド11
(スライド11の内容)

このように政府が非政府組織による社会的な投資を促進してきたという点をお話しして きました。これらがより効果的で信頼できる資金源になっていると申し上げました。それから 他にも政府は融資活動を行っています。2007 年の終わりにイギリスの首相がCouncil on Social Action(カウンシル・オン・ソーシャル・アクション)というものを新たに設立しまし た。これはあらゆるセクターから革新的な活動をしている人たちを集めてアイデアを出して もらったり、イニシアティブをとってもらって社会貢献活動を促進していくというものです。
この中から出てきたアイデアで、Social Impact Bond(ソーシャル・インパクト・ボンド) =社会インパクト債券というものがあります。この元となった考え方というのは、早い段階で 問題に介入しないと社会の負担するコストが増大してしまうというものです。例えば刑務所 を運営するときに、年間2 億1,300 万ポンドの税金がかかりますが、短い刑期を終えて出所 した受刑者は、社会復帰のための支援を受けていません。そうしますと出所者の73%が2年 以内に再び犯罪を犯してしまいます。21 歳未満の出所者では92%が再犯します。
また、政府の医療予算は920 億ポンドですが、病気の予防に費やされるのはたった3.5% です。また成人の精神保健関連の予算として毎年100 億ポンドの給付金が支払われますけれ ども、精神衛生を高めるための活動、例えば自尊心を高めるとか、問題処理能力を高めるとい った活動の予算はたった200 万ポンドです。また不登校への対処に6 億5,000 万ポンド。ま た退学問題への対処に8億ポンドの予算をかけますが、予防の取り組みはわずか1 億1,100 万ポンドしか使われていません。

この組織は、Social Impact Bond を実験的に実施しています。こちらの方にリンクが書い てありますのでご参照ください。慈善信託、慈善基金といったもの、組織も、早期予防活動に対 して予算を上げています。毎年44 億ポンドを早期予防活動に充てていますけれども、政府が 630 億ポンドも予算を組んでいますので、それに比べますとやはり微々たるものです。
このSocial Impact Bond というのは、根深い社会問題への投資であって、緊急サービスの 予算が減ることそのものが投資のリターンだと言えます。言い換えるならば、社会状況が改善 することで浮いた政府予算を早期予防活動へ資金提供してくれた民間の投資家へ還元すると いうことです。これは非常に革新的な考えだと思います。

その他にも開発された債券としましてはEast London Bond(イースト・ロンドン・ボンド) というのがあります。これはオリンピック会場が建設される予定地に近いイースト・ロンドン に非常に貧困地域がありまして、これを変えていこうという個人投資家が債券を買っていま す。最低100 ドルから買えまして、安価な住宅を大規模に開発していこうというものです。債 券は5年で償還され、その時点で住宅は社会住宅経営者に販売されます。彼らはあらかじめ購 入するという約束をしていました。投資家にとっては大きな社会的成果を上げられるという ことと、低金利の時代ですから投資の見返りを諦めるだけでいいということで、投資家にとっ てもいいですし、また企業にとっては資産をバランスシートの上に記載したままでいられる ということで、非常に革新的な方法を、企業の社会的な責任を果たすことができると言えま す。

Community Development Finance

「発展の可能性はあるが、まだ銀行からの融資は受けられないソーシャル・エンタープライ ズ」を支援

スライド12
(スライド12の内容)

その他にもさまざまな政府の直接支援の方法があります。今日はゲーロルドさんがドイ ツの事例をいろいろと話してくれましたが、イギリスでもヨーロッパレベル、あるいは国家 レベル、地域レベル、地方レベルでいろんな財政支援があります。ソーシャル・エンタープラ イズに資金を提供している組織があります。特に極貧の地域で活動している機関としては、 Community Development Finance Institutions(コミュニティ・ディベロップメント・ファ イナンス)というものがあります。この組織は、可能性はあるけれども銀行融資は無理だとい う、そういうソーシャル・エンタープライズに資金を提供しています。私どもはこういったも のがドミノ効果のように地域全体に恩恵を波及していくことを期待しています。 London Rebuilding Society(ロンドン・リビルディング・ソサエティ)という組織は、大 ロンドン地域で活動していまして、2001 年の創業以来、クリエイティブな産業から産業廃 棄物の処理に至るまで、あらゆる産業部門で300 万ポンドを貸し付けてきました。ロンド ン開発庁によるソーシャル・エンタープライズ向けの小口融資の資金、Social Enterprise Loan Fund(ソーシャル・エンタープライズ・ローン・ファンド)の運用も行っています。 Cooperative and Community Finance(コオペレティブ・アンド・コミュニティ・ファイナン ス)というものも非常に重要なものです。
Community Development Finance Institutions に加えてイギリス政府は最近、第三セク ターの能力を強化しています。彼らが公共事業の受注を受けられるようにするためで、先ほど 申し上げましたように、第三セクターというのは単なる安上がりの下請けとならないように 気をつけなければなりません。自立や革新、活力、能力がそがれないように注意しなければな りません。

英国政府による支援

スライド13
(スライド13の内容)

昨年設立されたSocial Investment Business(ソーシャル・インベストメント・ビジネス) は、それまでのベンチャー・キャピタル・ファンドに取って代わるもので、専門家による指導 や支援サービスを融資とともに提供します。提供先の組織がビジネスライクに仕事をし、社 会的・財政的な見返りの両方を得られるようにします。Social Investment Business では、 4億ポンドの資金を運用し、第三セクターの共同企業である3SC を運営しています。3SC は第三セクターのサプライヤーだけを使って大規模公共事業契約の入札を管理しています。 Communitybuilders Fund(コミュニティ・ビルダーズ・ファンド)というのは、多目的でイ ンクルーシブなコミュニティ主導型の組織に対する融資をしています。そして3つの分野に 関わっています。すなわち開発、実現可能性、投資の3分野です。 それからFuturebuilders England(フューチャー・ビルダーズ・イングランド)はイングラ ンドの第三セクター機関に融資、助成金、ビジネスサポートを提供して、公共事業の契約の入 札を応援しています。
Modernisation Fund(モダナイゼーション・ファンド)は、無利子のローンを3万ポンドか ら50 万ポンドの範囲で慈善団体や地域のグループ、ソーシャル・エンタープライズに提供し ていて、不況に負けないような抵抗力をつけるように助けています。彼らは保健省と協力して Social Enterprise Investment Fund(ソーシャル・エンタープライズ・ファンド)を運用して、 医療や社会サービスに関わるソーシャル・エンタープライズを支援しています。組織を立ち上 げたり、成長、個別化をする上で助けています。ケアの個別化ということが行われて、個別化予 算を管理するサービスの開発に投資するようになっています。つまり資金というのは特定機 関によってまとめて支給されるのではなくて、個別に支給されています。 それからNESTA(ネスタ)というのがありますが、ソーシャル・セクターも対象とした革新 を支援するイギリス最大の基金です。英国科学技術芸術基金というもので、初期段階にある企 業に投資し情報提供し、経営方針をまとめ、将来の大きな課題の解決へと意欲をかきたてる実 践的なプログラムを提供しています。

非政府系ソーシャル・ファイナンス提供機関

スライド14
(スライド14の内容)

政府以外で最も有名なソーシャル・エンタープライズ向けのソーシャル・ファイナンスの提 供機関は3つ大きなところがあります。
Triodos Bank(トリオドス銀行)とthe Charity Bank(ザ・チャリティ・バンク)、そして Unity Trust Bank(ユニティ・トラスト・バンク)の3つです。
Triodos(トリオドス)はこのセクターで30 年の経験を持ち、過去2年間だけで5,300 万 ポンドをイギリスの慈善団体とソーシャル・エンタープライズに貸し付けました。Triodos はイギリスの他にオランダ、ベルギー、スペインにも支店を置いています。預金者数は22 万 5,000 人で、文化的な価値を生み出す機関や、人や環境に利益をもたらす団体にだけ貸し付け をしています。昨年の末には持続可能性と透明性の人気を証明するかのように9,000 万ユー ロの追加予定投資を遥かに上回る1 億200 万ユーロを調達し、さらに多くの社会的な組織を 支援することができました。これは証券取引所への上場によって行われたものではなく、独自 の株式預託証書の発行を通じて行われました。このことはこの銀行の自立性を保証していま す。昨年度の貸付総額は2 億1,000 万ポンド、そのうち9,000 万ポンドは慈善団体とソーシ ャル・エンタープライズに対する融資でした。また同じ年ですが、ソーシャル・エンタープライ ズに対するベンチャー・キャピタル同士を促進するために(Triodos Opportunities Fund)ト リオドス・オポチュニティズ・ファンドというものを設立しました。これはその後、Triodos Social Enterprise Fund(トリオドス・ソーシャル・エンタープライズ・ファンド)になったん ですけれども、強い影響力を持つソーシャル・エンタープライズへの投資と専門知識や技能の 提供によって、その成長を支援しています。

Charity Bank は世界初の、そしてイギリスで唯一の公認慈善事業団体でもあります。もち ろん正規の銀行でもあるわけですが、預金者から寄せられるすべての資金を社会のニーズに 取り組むソーシャル・エンタープライズやボランティア機関を支援するために使用していま す。Charity Bank はソーシャル・エンタープライズやその他の第三セクターの機関にとって サービスを提供する能力を変えてしまう可能性もあります。財源確保における真の障壁は情 報不足であることを理解しています。これらの機関は貸し付けによりプロジェクトを達成で きる資金を活用できているんです。預金者は金利0.3%の普通預金口座に最低10 ポンド、日 本円で1,500 円ぐらいという小さな金額から預金することもできますし、金利1.75%の固 定金利の口座に大きな金額を入れることもできます。チャリティ・バンクは慈善セクターへの 資金の流れを促進するために存在する慈善団体であるチャリティーズ・エイド・ファンデーシ ョン= CAF によって2001 年に設立されたものです。いろんな初めての試みを数多く実施し ています。例えば2008 年には初の、そして今のところ唯一の非課税預金口座で資金の100% が慈善目的に使用されるチャリティISA という個人口座が設けられました。ソーシャル・エン タープライズ、慈善団体、あるいは営利企業で貸付金の使途が完全に慈善関連であればどのよ うな機関でも融資を申請することができます。チャリティ・バンクは多くの場合、担保付きで も無担保でも融資をしますが、貸し倒れ率は非常に低くなっています。ソーシャル・エンター プライズ以外の買い手としては、フェアトレードを進めている機関や有機農業などがありま す。チャリティ・バンクでは期限が12 ヶ月から36 ヶ月で最低購入金額1,000 ポンドのコミ ュニティ・ポンドも発呼しています。

Charities Aid Foundation では、2 万ポンドから20 万ポンドのローンやその他のタイ プの投資を、英国国内あるいは開発途上国で強い社会的インパクトを与えている慈善団体や その他の社会組織に提供し、持続可能性を向上させつつ前進させるVenturesome(ベンチ ャーサム)という社会投資基金も設立しました。金利はケースバイケースで決定され、融資の 取り決めには個人的に緊密に連絡を取り合う必要があります。Venturesome は現在CAF と12 人の外部投資家のために1000 万ポンドを運用しています。2002 年の設立以来、 Venturesome は250 を超える機関に1500 万ポンド以上を提供してきました。そして10 機関の内9 機関が、投資の結果、能力構築に成功しました。Venturesome は、今では国内で最 大の民間社会投資機関です。

それからUnity Trust Bank(ユニティ・トラスト・バンク)は、労働組合が74%、the Cooperative Bank が26%を所有していますが、利益の一部を将来さらに多くの機関を支援す るための事業に再投資し、残りを第三セクター機関である株主に分配している点で、それ自 身、ソーシャル・エンタープライズと言えます。Unity Trust Bank は社会的責任を持つ機関 と組合労働者の支援機関だけを援助しています。この銀行は従来の銀行業務に加えて特に第 三セクターを対象とした金融商品を提供しています。例えば、土地開発のための融資、資金調 達中、あるいは助成金を待っている間のつなぎ融資、政府も熱心に進めていることですけれど も、地域財産を地域に委託するための融資やソーシャル・モーゲージなどの商品を持っていま す。ソーシャル・セクターの機関、特にソーシャル・エンタープライズは従来の慈善寄付提供者 を除けば、他のどんなところから資金を求めることができるでしょうか。いろんな情報源があ ります。最新のものはソーシャル・セクターが利用できる新たな財源について定期的にニュー スを配信しているオンライン・プラットフォームです。j4bcommunity.co.uk というような ものがあります。それからCAN Social Investmen(t キャン・ソーシャル・インベスティメン ト)というのがあります。これはソーシャル・エンタープライズ向けのさまざまな資金援助と ビジネスサポートを展開しており、それにはブレークスルー・プログラムの開発も含まれてい ます。CAN は企業パートナーと協力して大手のソーシャル・エンタープライズに基本と戦略 的な支援を提供しています。

その他の非政府系ソーシャル・ファイナンス提供機関

スライド15
(スライド15の内容)

その他の仲介機関も、ソーシャル・セクターの機関による持続可能な混合財源の開発を支援 しています。The National Council for Voluntary Organisation の「持続可能な財政支援 プロジェクト」は、Centrica plc(セントリカ社)、the Big LotteryおよびCharity Bank(www. ncvo-svp.org.uk)による援助を受けています。The Social Enterprise Loan Fund(www. tself.org.uk)は、経営計画と組織開発の促進を目的とした融資を提供しています。

Clearly So( www.clearlyso.com)は、投資家と社会企業を結びつける、社会企業のための 革新的な市場です。

Foundation East(www.foundationeast.org)は、イングランド東部で活動する非営利流 通機関で、銀行から融資を受けられない、あるいは銀行貸出に匹敵する額の追加資金を必要と している、新旧の企業に融資を行っています。また、住宅協会やその他の社会住宅供給組織と 提携した個人向けローンも提供しています。さらに地域の人々が地域の資産を所有し、管理で きるようにするCommunity Land Trusts も開発しました。このイニシアティブは、特に農 村地域において、安価な住宅と管理の行き届いた作業環境を作ることを目的としています。

The Ashden Trus(t www.ashdentrust.org.uk)は、環境、気候変動、持続可能な再生、危険 な状態にある人々への支援に関わっている機関を対象とした小口のローンや投資を提供して います。

The Funding Network(www.thefundingnetwork.org)は、多様な経歴を持つ個人の緩や かな連携機関ですが、他の人々と協力し、社会変革のための資金として物質的繁栄を利用する という共通の目的を持っています。小額の年会費を支払う会員は、自らの個人的な資金を差し 出す個人や、募金イベントに参加できる自由裁量権を持った慈善信託の受託者などです。

もう一つ、革新的な資金調達方法が間もなく始まります。それは、SellAVenture(www. sellaventure.co.uk)と言われ、立ち上げや成長のための資本を求めているソーシャルベンチ ャーと、小額の資金の提供に非常に意欲的な、同じ志を持つ人々とを一つにまとめる、オンラ イン・クラウドファンディング・プラットフォームです。SellAVenture を通じて、ソーシャル ベンチャーは支援者グループと結びつき、忠実な信奉者を得られるとともに、認識を高め、資 金を調達できます。SellAVenture は、クラウドファンディングのテクニックと、製品/ サー ビスの現物支給を含む一連の魅力的な利益、そして融資や収益獲得への参加により、ソーシャ ルネットワーキングとインターネットの力を活用しています。
それでは、個人を支援しているのは誰でしょうか?

Big Issue Inves(t www.bigissueinvest.com)はソーシャル・エンタープライズで、ホーム レスの経験のある人々を支援しているthe Big Issue にすべての配当金を支払っています。 Big Issue Invest は、貧困地域で活動しており、3 年間の取引経験と25 万ポンド以上の売り 上げのあるソーシャル・エンタープライズや慈善団体の商取引部門、そしてときには強力な経 営計画を持つ新規事業にも、5 万ポンドから25 万ポンドを非常に低い金利で融資します。ま た、既に確立しており、持続可能な収入の流れと成長の可能性を実証することができる、確固 たるビジネスモデルと役員会および経営陣を持つソーシャル・エンタープライズに、長期の成 長資本を提供するSocial Enterprise Investment Fund を立ち上げようとしているところ です。繰り返しになりますが、投資に対する財務リターンが、社会的リターンあるいは環境的 リターンと合わせて期待されます。

The Bright Ideas Trus(t www.brightideastrust.com) は、若者に資金とガイダンス、そし てアドバイスを提供します。

UnLtd-The Foundation for Social Entrepreneurs(www.unltd.org.uk)は、個人社会起 業家に、助成金と非金融コンサルティングによる支援を提供します。非常に初期段階の社会起 業家には5000 ポンドの助成金と支援を、第2 段階として、確立してはいるが、まだ初期段階 にある社会起業家に、1 万5000 ポンドの助成金と支援を提供します。

多くの個人を支援しているもう1 種類のコミュニティは、Zopa と呼ばれるものです。個 人が銀行との関係を断ち、四大銀行で通常利用できる融資条件よりも公正な条件で、資金の貸 し借りをすることができます。貸し手は平均して7.3%の利益(Zopa の会費を差し引いた後、 税込み)を受け取ります。貸し倒れ金は0.04%発生します。ローンは安全のために多くの借り 手の間で分割されます。興味深いことに、今後Zopa ジャパン設立の計画があると聞いていま す。(http://jp.zopa.com/)

マイクロファイナンス、信用組合とベンチャー慈善活動

スライド16
(スライド16の内容)

私たちは皆、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス氏の話を聞いて感銘を受けました。 彼のグラミン銀行は、開発途上国で疎外されている貧しい人々に融資をするマイクロファイ ナンスを開発しました。同じようなことを、私たちの国の貧しい地域でも実行しようではあ りませんか。主流の資金供給者から融資を受けられずに(英国では1000 万人が銀行口座を 持っていない)、ときには1500%にもなる法外で搾取的な金利で貸し付ける高利貸しのと ころへ行かなければならない人々のために。Fair Finance(フェア・ファイナンス)(www. fairfinance.org.uk)は、ロンドンに拠点を置く非営利社会企業で、この難題に立ち向かい、経 済的に疎外されている人々のニーズを満たすことを目的としたさまざまな金融商品とサービ スを、公正な金利で提供しています。顧客の65%は失業者で、20%は低賃金者、あるいはパ ートの仕事をしている人々です。また15%は自営業で、65%は女性、70%はシングルマザ ーです。Fair Finance では無料の資金・借り入れ相談サービスを実施しています。また、家賃 や消費者金融からの借金、公共料金を滞納している顧客に、これまで200 万ポンドを支援し てきました。設立から2 年の間に、社会の底辺で多重債務に苦しむ800 人のロンドンの人々 に100 万ポンドを貸し付けてきました。さらに150 人の起業家に資金援助してきました。「貧 しい人々のためのプライベートバンク」と呼ばれているFair Finance を設立した先見の明の ある資本家は、彼自身バングラデシュ系イギリス人で、グラミン銀行と世界銀行で働いた経験 があり、昨年の世界経済フォーラムでYoung Global Leader(若き世界指導者)に選ばれた、 フェイゼル・ラーマン氏です。英国は、経済的疎外の問題に取り組むことなくして、貧困の問題 を解決することはできません。にもかかわらず、国はそれを民間セクターの問題であり、慈善 セクターには複雑すぎると考えています。ラーマン氏は、もっとも貧しい地域で最大の困難に 直面している人々の一部を支援し、尊重する、模倣可能で発展的な、かつ持続可能な解決策を 提供しています。

地域の金融サービスの真の主力は、日本同様英国でも、当然のことながら信用組合です。英 国信用組合協会には、346 の信用組合と49 万人の組合員が参加しています。そしておよそ 2 億5000 万ポンドの組合員の預金を運用し、同額の融資をしています。組合員は、共通のつ ながりのある人たちです。たとえば、警察官、造船業者、地方自治体職員など、特定の職業に携 わる人々の信用組合や、労働組合などの団体や協会区に所属している人々の組合、そして同じ 地域に居住し、勤務している人々の組合などがあります。

社会全体にとって社会的経済が持つ意味についてお話しし、英国におけるソーシャル・フ ァイナンスの提供をめぐる進展をいくつかご紹介してきました。私が取り上げました機関の 多くは、昔ながらの慈善寄付によって資金を調達しています。しかし、ソーシャル・セクターで は、その収入基盤の多様化をますます進めており、寄付金依頼から収益獲得へと移行しつつ あり、不干渉主義の慈善寄付ではなく、投資を財源とするようになってきています。ウォーレ ン・バフェット氏やビル・ゲイツ氏など、世界的に有名な人々をはじめとする欧米の個人富裕 層が、今では、さらなる支援に活用できる新しい方法でお金を役立てたい、そしてそれだけで なく、持続可能な社会貢献活動のために、ビジネスライクな方法で確実に資金が利用されるよ う、自らの資金とスキルをもって貢献したいと考えています。彼らは、民間セクターのベンチ ャー投資家のモデルをもとに実践しており、適切な法的構造を持つ社会企業に、成果主義のロ ーンと株式を取り入れています。この新世代のベンチャー慈善家は、貸付金融には財務規則が 必要であると信じており、将来、組織が商業融資を受けられるよう準備をしています。投資の 焦点は通常、被投資者が経済的に持続可能となると同時に、規定された社会的成果を達成する 能力を構築することに当てられます。起業家は、社会的リターンおよび財務的リターンを提供 できるビジネスモデルを考案しますが、ベンチャー慈善家は、その富が世界でもっとも根強い 社会問題や環境問題に対処する手段であると考え始めるとともに、目的を持って利益を生み 出していきます。彼らの心は大義によって動かされていますが、それ以前にまず頭の中では、 差し迫ったビジネスの状況を見て納得しているのです。ベンチャー慈善活動では、時間や専門 知識と合わせて、無制限の資金援助が行われますが、これらはあらゆる規模の会社の専門家か ら提供されます。英国のthe Impetus Trus(t インペタス・トラスト()www.impetus.org.uk) は、戦略的資金援助と専門知識とを結びつけ、野心的な慈善団体やソーシャル・エンタープラ イズが、より多くの人々の生活を変えられるようにする素晴らしい機関です。The Acumen Fund(アキュメン・ファンド)(www.acumenfund.org)は、別の組織の一例ですが、国際的に 活動しており、慈善活動のための小額の資本を、多数のビジネス手腕と結び付け、革新的な市 場志向型のアプローチにより、膨大な数の貧しい人々に、医療、水、住宅およびエネルギーなど 緊急用の商品とサービスを安価で提供するエンタープライズを確立し成功を収めています。 New Philanthropy Capita(l www.philanthropycapital.org)は、資金提供者がより大きな社 会的インパクトを実現できるよう支援しているシンクタンクです。

スライド17
(スライド17の内容)

日本では、なぜ本格的なベンチャー慈善活動が行われていないのでしょうか?慈善目的の 寄付について話をするとき、私はよく、ここには慈善の文化はありません、と言われます。最近 の統計から、日本の家庭は、貯蓄額が14 兆US ドルなのに、社会的大義への寄付金額は年間平 均3000 円であることがわかっています。日本はGDP に占める慈善寄付の割合でも、世界の 上位9 ヶ国にすら入っていません。確かに、政府への強い依存と、寄付に対する税制上の優遇 措置がないことは障害となっています。しかし、日本には確固たるビジネス文化があり、非常 に裕福な人々が数多くいます。そして日本のすべての都市で、深刻な社会問題が明らかに増え ています。マッキンゼー・クオータリーの記事によれば、日本の個人富裕層の数とその合計資 産は、世界第2 位だそうです。今こそ、世界でも有名な日本のビジネススキルを利用し、豊かな 日本人と協力して、日本のベンチャー慈善活動を活性化し、社会変革をもたらす革新的なアイ ディアを持つ、ここにいる多くのエネルギッシュな人々に、投資とビジネスサポートを提供す るときではありませんか?政府は、資金援助や国が所有する膨大な資産の民営化により、個人 が参加できるイニシアティブを開始することはできないのでしょうか?
私たちはいつでも、イギリスの経験を役立てていただけるよう、このような目的のために、 ソーシャル・インベストメント・ファンドの設立の手助けをしたいと考えております。