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講演②
「障害者権利条約とCBID」

高嶺 豊(琉球大学教授)

高嶺豊氏の写真

司会:それでは次の講演者です。高嶺 豊さんです。ご存じの方、たくさんいらっしゃると思います。

 高嶺さんは、現在沖縄にある琉球大学で教授をされていますが、その前、2003年3月まではバンコクにある国連ESCAP、アジア太平洋経済社会委員会において、第一次国連アジア太平洋障害者の十年の事務局担当者として推進に努められました。

 そして、続く第二次アジア太平洋障害者の十年の枠組みでありますびわこミレニアムフレームワーク(BMF)の作成に中心的に関わられました。

 本日は、「障害者権利条約とCBID(コミュニティベースのインクルーシブ開発)」というタイトルでご講演をいただきます。よろしくお願いいたします。

高嶺:今ご紹介にあずかりました高嶺です。

 今日は、「障害者の権利条約とCBID」というテーマをいただいて、お話をすることになります。今日のアウトラインとしては、このようなことになります(図1)。

図1スライド
(図1)

(図1スライドの内容)

講演の概要

 障害者の権利条約に関しては、既にいろんなところで発表があって、中身が多くの方に知られていると思いますので、特に条約の中身にはお話は触れません。

 1つは、まず障害者問題をお話しする時に、少し大きな視点から見る必要があるということで、今回は、国連のミレニアム開発目標(MDG)を見て、それからその開発部門で中心的な活動をしている世界銀行の最近の動きなどを少し振り返って見てみたいと思います。

 それから権利条約については、それが追求された過程、それから開発途上国がその中心を担ったということも含めて、少しお話ししたいと思います。

 それからこの2つ、開発と権利条約の流れを受けて、アジア太平洋地域では、第2の十年の枠組みとしてびわこミレニアムフレームワークが設定されていますけれども、その当時、私が中心にこのフレームワーク作成に関わりましたけれども、この中で、この2つの要素、開発の要素とそれから権利というのを、そこに取り組んで枠組みを作ったという流れがあります。それを少しお話ししておきます。

 それから、もちろんこのCBRの流れということで。これも既にマヤ・トーマスさんが具体的にお話ししましたので、詳しくはお話ししませんが、最近の開発との関わりで少し触れたいと思っています。

 私のメインのテーマとしては、南インドの障害者自助グループの構築というのが今、行われていますけれども、それに関しては私も、この3年間、現地を訪れていろいろ調査研究していますので、それについてお話をしたいと思います。これは去年、インドから担当者が来てお話をしましたけれども、それらも含めてお話ししたいと思います。

 それからまとめとしては、権利条約とCBR、CBID、さらには障害者の自助グループがどういうふうに関わり合っているかというのを、少しお話をしていきたいと思っています。

ミレニアム開発目標

 国連のミレニアム開発目標というのは、2000年に国連のミレニアムサミット、これは2000年ですから21世紀初めの会議ということでミレニアムサミットが開かれて、そこで採択された開発目標です。その中心、大きな目標が貧困削減という問題を、大きなテーマとしています。

図2スライド
(図2)

(図2スライドの内容)

 中身はこのような形で(図2)、2015年までに1990年のレベルの貧困率を2015年までに半減しましょうというのが大きな目標になっています。この目標の中には、女性と児童は中に含まれておりますけれども、障害者が含まれていない。そういうことが指摘されています。

 そういう大きな流れの中で、実は世界銀行がこのミレニアム開発目標の前から障害者問題を開発の中に取り組もうという動きが出されております。皆さんご存じのように、1995年には、世界銀行も貧困削減という目標に大きく舵を切ったと言われますけれども、その時の総裁が、ウルフンソンさんという方で、彼は総裁になる前に、障害者の国際団体、多発性硬化症の国際団体の理事をされていたという経歴があって、貧困削減の中に障害者問題を包含したいという希望を強く持っていた方だと言われています。

 彼が2002年に障害者の課題別グループを銀行内に設立して、さらには障害と開発のアドバイザーを任命し、本格的に世界銀行の活動の中に障害者支援を取り組む活動を始めたと言われております。

図3スライド
(図3)

(図3スライドの内容)

 これ(図3)は2002年の障害者の日に、ウルフンソンさんが障害者問題を貧困問題の中に含まなければ、貧困問題自体が解決しないだろう、それから教育問題も、万人の人を教育するという目標も、これも障害者をきちんと包含しなければ達成できないということを宣言して、世界銀行の取り組みをアピールしたスピーチの抜粋であります。

 そのようなわけで、世界銀行の流れというのは、そのほかの開発銀行にも影響を与えて、アジア開発銀行、米州ですかね、ラテンアメリカの開発銀行、さらには日本国際協力銀行などの開発銀行の中にも障害者支援を包含しようという流れが進んできています。

国連障害者権利条約

 もう1つの流れとしては、権利条約の制定でありますけれども、この権利条約の最初には、国連の特別委員会の設置を提言した決議文があります。これを提案したのはメキシコ政府であります。

 これまでの国際条約と変わって、途上国が中心となってこの条約を提言したということは、すごく意義のあることだと言われております。その議論の中で、途上国の障害者問題をきちんと条約の中に入れようという試みがなされていたと聞いております。

 その現れとして、第32条に国際協力というものが入っております。そこでは、国際協力のためのプロジェクトは、途上国に対する支援の場合は、障害者支援を含めるようにという提言がされております。

 実は、障害者の権利条約を策定しようという動きがあった時に、私はまだ国連のほうにおりましたけれども、1つの不安があったんです。権利条約ができても、果たしてどれだけ途上国の障害者の支援につながるかということが、大きな懸念でありました。生活もままならないところで権利だけを主張しても、なかなか生活が向上しないのではないか。そういう不安が大きくありました。

 だけども、結果的には途上国諸国がこの条約の策定の中心になったことで、その辺も少し、心配も薄れてきたのではないかと思います。

 それからもう1つ、この条約ができたメリットは、国連機関の中で障害者条約が制定されたことによって、国連機関の事業の中で、障害者に取り組むことが義務づけられたことではないかと思います。国連の中ではいろいろな国連機関が各国で支援をしておりますけれども、その中では国連開発計画(UNDP)がよく知られています。UNDPの活動の中に女性や児童というのはきちんと取り込まれています。それはなぜかというと、既に女性と児童に関しては国際条約があるからです。

 だけども、障害者問題は、その「他の社会的に不利な人」というカテゴリーに含まれているものですから、障害者に対する対応が明確にされていないのです。

 今回、障害者条約ができたことによって、国連の国への支援の中に障害者問題がきちんと含まれることが期待されております。

アジア太平洋障害者の十年

 アジア太平洋地域では、障害者の十年が行われておりましたけれども、2003年から第二の十年が実施されることになりました。そこで、第二の十年の枠組みとしてできたのが「びわこミレニアムフレームワーク(BMF)」であります。これは、皆さんもご存じのように滋賀県大津市での政府間会合で採択された、そのために「びわこ」の字がかぶされた枠組になっております。

 この枠組みを作る際に、すごく大きな課題があって、それをできるだけ取り込んだ枠組にしたいという思いがありました。

 その1つが農村地域の障害者の生活改善を目指すことですね。アジア太平洋地域では、障害者のだいたい8割が途上国の農村地域に生活しているという統計が出されていますが、そういう人たちが最初の十年では、十分に国の政策の中に取り込まれていないということが反省としてありました。

 これまでの障害者問題を見ていると、障害者はどうしても障害の関係する部局だけでの議論にされていて、そこからなかなか枠組みを超えた取り組みがなされていなかったのではないか。その1つの大きな領域としては、開発の分野です。

 障害者が生活する農村地域では、今、さまざまな開発プログラムが実施されていますが、障害者は基本的には、その中に含まれていないという大きな問題があります。ですから、障害者の支援者と、例えば農村開発の問題を扱っている人が、どのようにしてコミュニケーションを深めていくかということが、課題として上がっておりましたので、このBMFを作るときに、そのことを念頭に入れて作成が進んでいきました。

 BMFに7つの重要な優先領域が設定されましたが、その1つに、農村地域に住む障害者への支援というのが入っております。これまでにはない項目でして、この中には、国連ミレニアム開発目標を、障害者分野も含んだ活動にしようということが、意図されておりました。

 これまで、障害と貧困ということが語られてきましたが、なかなかそれを正面切って発言する場がなかった。最近では世界銀行の調査とか、あるいは中国や他の国での調査では、貧困者のだいたい2割から3割は、何らかの障害があるだろうということで、障害と貧困という関連が、すごく強調されるようになっています。

 そういう流れから、世界銀行も、貧困問題を解決するには、障害者問題にきちんと対応しなければいけないという流れができてきていると思われます。

 開発問題と権利条約の流れの次の流れとしてCBRの流れであります。

 マヤ・トーマスさんが歴史的なお話をされましたが、2004年のWHO、UNESCO、ILOによるCBRのジョイントペーパーと言われていますけれども、合同政策指針が大幅に改正されて、発表されました。このタイトルが、「CBR、障害をもつ人々のリハビリテーション、機会均等、貧困削減、社会的インクルージョンのための戦略」という題になっています。CBRの概念の中に人権とか、貧困削減、インクルーシブ・コミュニティ、当事者参加が重要な概念として取り込まれていることになります。

CBRの流れ

 これまで医療、リハビリテーションが中心だった流れが、障害者が地域の中での生活を支援する流れとして幅広く戦略が立てられたことがこちら(図4、5)で伺われます。

図4スライド
(図4)

(図4スライドの内容)

図5スライド
(図5)

(図5スライドの内容)

 CBR戦略の中では、障害者権利条約が実現されれば、その条項を実施するために理想的な枠組みを用意することができる、と宣言をしていて、CBRが権利条約が途上国で実施されるためのツールとして十分に通用するということが宣言されているわけです。

 CBRとCBIDの関係は、これもマヤ・トーマスさんが、CBIDはCBRの目標だと定義されていました。おそらく途上国においては開発の概念、それ抜きでは様々な事業が展開されないという状態になっているのではないかと思います。

インドにおける障害者SHGの構築

 そういう中で、私が2004年頃から関わっている研究活動として、南インドのアンドラ・プラデシュ州にある障害者自助グループの構築プログラムの調査・研究があります。

 これは先ほどもお話ししましたが、障害者年、国連の十年、それからアジア太平洋障害者の十年、こういう20年以上も障害者問題が国で進められてきていますが、それがまだ大多数である途上国の農村地域の障害者には、なかなか浸透していない。そういうのが大きな懸念としてありました。そのための効果的な仕組みはないかということで探していたところ、この南インドのプロジェクトが私の視野の中に入ってきたわけです。

 ここでアンドラ・プラデシュ州(図6)の自助グループの構築についてお話をしたいと思います。実はこれは障害者のプログラムとして始まったわけではなく、アンドラ・プラデシュ州の貧困削減の事業として進められた事業であります。アンドラ・プラデシュ州の人口は、だいたい7,500万人といいますから、日本人口の大体半分です。1つの州で日本の人口の半分ぐらいですから、規模がだいたいわかると思います。

図6スライド
(図6)

(図6スライドの内容)

 その最も貧しい州の1つと言われている州が、貧困削減事業として、2000年から実施しているものです。

 貧困削減の1つの戦略として、貧困者の特に女性に特化していますけれども、女性の自助グループの構築によって貧困削減を進めようという大きな取り組みであります。

図7スライド
(図7)

(図7スライドの内容)

 これ(図7)がアンドラ・プラデシュ州で、南インドにありますけれども、フェーズⅠとフェーズⅡに分かれて実施されております。その規模が、最初は100万世帯を対象にやっています。第Ⅱフェーズで、200万世帯ということで、すごく大規模な事業になっております。

 世界銀行の融資を半分以上いただいて、それとインド政府の資金で進められたプロジェクトであります。

 この図(図7)だと、緑色の濃い部分が最初のフェーズⅠで取り込められた地域で、うすい灰色が第Ⅱフェーズで行われたものです。地区と言いますか、ここは日本で言う「県」にあたります。

 実はこれ(図8)は、今日、皆さんのスライドにはないのですけれども、少し全体像を見ていただくために紹介したいと思います。これで見ると、女性の自助グループの数が80万9000という数なんです。自助グループの数でも80万以上あって、実際にメンバーになっているのは960万の会員がいるわけです。

 障害者は2003年から含まれておりますけれども、この数字によると、2万3000の自助グループがあって、そこには243万のメンバーがいるということです。

図8スライド
(図8)

(図8スライドの内容)

 実はこの(図8)パイロットマンダルというのは、世界銀行が直接関わっているグループで、これは他にもNGOが中心になっているグループもありますので、州全体では、こういうふうになっているということです。

 では次にいきたいと思います。この事業を実施しているのは、州から委託をされたNGOといいますか、おそらく半NGOといいますか、でもって実施されております。25名の理事がいて、そこを中心に運営されているということになります。目的は、先ほどお話したように、自助グループを構築することによって、様々な自助グループを中心にした活動を通じて、貧困削減を目指しているということです。

 障害者に関して言えば、障害者のリハビリテーション、あるいは、国の様々なサービスを入手できるかどうか。それから、教育とか、保健とか、そういうサービスにきちんとアクセスできるか。そういうことをきちんと検証することが1つの大きな目的になっています。

 特徴としては、障害者は最貧困層であるというふうに位置づけて、貧困の削減の中に取り入れていることが大きな特徴ではないかと思います。この流れの中ではフェーズⅠ、Ⅱ、Ⅲということで、現在も障害者プログラムは進められています。

 このへんは、もう少し流れを見てみますと、自助グループが最初に作られて、それが次に小地域連合体を作っておりまして、それがさらに、地区、いわゆる県の連合体まで、ピラミッド式になっているということがわかると思います(図9)。

図9スライド
(図9)

(図9スライドの内容)

図10スライド
(図10)

(図10スライドの内容)

 それから、これ(図10)は障害者の自助グループですけれども、それと同時に女性の自助グループがあって、そこともリンクをしているというのがわかると思います。女性は女性の自助グループを作っています。地域や村ではお互いに協力しながら活動をしていると聞いております。

 障害者のプロジェクトの主な介入として4つ挙げられております(図11)。1つは、障害者のエンパワメント。これは自助グループ構築を支援することによってメンバーのエンパワメントをはかろうということです。

図11スライド
(図11)

(図11スライドの内容)

 2つ目に生計支援です。所得の創出を含めた支援をやっています。

 それから地域に根ざしたリハビリテーションによる、リハビリニーズをきちんと満たすサービスを提供できるようにする取り組みです。

 それから、インクルーシブな取り組みとして、たとえば保健とか、教育とか、関連したサービスがきちんと取り組まれるような介入です。この4つの視点で事業が進められています。

 自助グループの構築ですけれども、これは村で、大体8人から15人程度のメンバーで、1つの障害者の自助グループを作ります。そして毎週会合を持ちます。そのたびに100円とか200円を持ち寄って、自分たちで貯蓄活動をして、必要な人がそれを借りる、そういう相互扶助の仕組みもあります。これはマイクロファイナンスという仕組みにもちょっと近いですけれども。

 それから、グループが共同で話しをすることによって、自分たちの問題を、1人で解決できなくてもグループで解決していく。

 それから障害がありますので、リハビリテーションのニーズがあります。福祉機器に対するニーズもありますので、それについても話し合って、必要な人はそれが入手できるようにしています。

 それから単に自分たちの問題を話し合うのではなく、その村の活動に対して、自分たちが何か貢献できないかどうかも含めてディスカッションしています。

 それから民間銀行などから融資を受けて、グループで事業ができないかどうか、そういうことも含めて、融資を受ける1つの単位としても存在していると言われています。

 この仕組みの重要なところは、幾つかの自助グループが、実はその上の小地域レベルの連合体を作っているわけです。自助グループメンバーの450から700人が1つの連合体としてつながっていて、そこでは毎月、代表者のミーティングがあります。また、連合体には実行委員会があります。それは、次の4つの委員会に分かれています。自助グループの強化委員会、リハビリテーション委員会、生計委員会、そして社会活動委員会です。

 ですから自助グループという1つの単位が、さらにその上の大きな組織を構築しているということです。それがさらに県レベルの大きな組織になりますと、政治的に大きな力にもなると言われております。

図12スライド
(図12)

(図12スライドの内容)

 この実績(図12)として今までに世界銀行の事業として、障害者自助グループが7695形成されていて、そのメンバーが8万人。それから小地区レベルの連合設立が128。それから地区レベルといいますか、3つの県ではすでに県連合体が設立されているということになります。

写真1スライド
(写真1)

(写真1スライドの内容)

 これ(写真1)は、連合体の県レベルの総会になります。こういうふうに、おそらく1000人規模の障害者が集まって、総会をやっているわけです。そこには県知事とか、保健部長、その他の県の代表の方とか、主なNGOの代表者とかが来て、障害者団体の要求を聞いたり、行政の支援を約束するわけです。

 それから重要な機能として、いろいろなレベルで訓練が行われていることがあります。

 このプロジェクトを立ち上げる時に、重要なのは、障害者の自助グループというのは自然発生的にはできないということです。農村地域の貧困な障害者であれば、ほとんど家の中で孤立をしているわけです。ですから、自分たちで隣の障害者に声をかけてグループを作ろうということは、ほとんどできない状況です。

 最初にこのプロジェクトでやったのは、障害のある方を、その地域から発掘して、彼ら、あるいは彼女らに3ヶ月程度のさまざまなトレーニングをやって、その後、彼らが自分の地域に戻って各家庭を訪問して、障害のある人がグループを作るように支援していく。そういう取り組みから実は始まっています。

 私が調査したところでは、村のだいたい8割、9割の障害者が、こういう自助グループに属していました。

 また、グループを作っても、それをきちんと運営するためには様々な訓練が必要だということであります。

写真2スライド
(写真2)

(写真2スライドの内容)

 この車いすの方(写真2)、スダカラさんといって、彼が世界銀行の障害者プロジェクトのプロジェクトマネージャーです。彼本人が重度の障害者で、恐らく筋ジストロフィーのような感じですが、彼が一番トップマネージャーとしてこのプログラムを切り盛りしているということです。

写真3スライド
(写真3)

(写真3スライドの内容)

 様々な自助グループの研修(写真3)。これは連合体の実行委員の研修です。

 それからCBRに関して言えば、障害者の証明も国の方で発行しているので、それをできるだけ取得してもらうためのキャンプをしたり、補助具や器具の提供をやったりしておりますけれども、重要なのは、これは行政、自治体が地域におりてニーズを掘り起こすのではなくて、障害自助グループが、誰が何が必要かということを調査して、それを連合体に上げていく。そして、連合体は、それらのニーズを自治体に伝えて、矯正手術や補装具が必要な場合は、それらのサービスが必要な手配をし、自治体と一緒になって実施することになります。ですから、その連合体が基本的には障害者と自治体の中間で、その取り付け役をやっているという構図があります。

 それから障害問題で、例えば、知的障害の専門機関とか、あるいは精神障害者の研究機関とかに連合体を通じて連携がとられていくということになります。

 では実際にどういう活動が行われているかというと、近隣センターという、その地域の中にセンターが設置されて、そこで障害のある方に対してリハビリテーションサービスを提供しているということです。

写真4スライド
(写真4)

(写真4スライドの内容)

 この方(写真4)は、知的障害児ですけれども、そこには障害当事者、それと女性の自助グループのメンバーが一緒になって、このセンターを運営していると聞いております。

 CBRに関しての研修も草の根レベルのワーカーに提供しているということであります。

 手術が必要な人がいれば、それに対しても、この連合体を通じて、手術ができるような提携をされているということです。

写真5スライド
(写真5)

(写真5スライドの内容)

写真6スライド
(写真6)

(写真6スライドの内容)

 それから母親に対する訓練とか、こういう義肢、それから補助具の提供(写真5)ですね。それから特別支援校や近隣センター、こういう仕組みの中で、様々なサービスが提供できるようになっています。これ(写真6)は車いすの提供ですね。

 このようなプログラムを通じて大勢の方が、きちんとしたリハビリを受けて、あるいはリハビリの機器を入手したり、あるいは必要な矯正の手術を受けることが可能になっているということになります。

写真7スライド
(写真7)

(写真7スライドの内容)

 これ(写真7)が生計手段ですね。グループによって機織りをしたり。これはグループの連合体からも資金を借りて、それで様々な生計活動を行っております。

 このプロジェクトは、まだ今評価が実施されているところですけれども、その地域社会、あるいは障害者にとって様々な変化が現れてきていると言われております。

 障害者が今まで、村の中でほとんど自尊心もなく生活していたのが、エンパワメントされて、自尊心や自信が高まっているということです。さらに、社会的な差別が減少したと言われております。

図13スライド
(図13)

(図13スライドの内容)

 このCBRマトリックス(図13)が紹介されましたけれども、今まで見た自助グループの仕組みの中で見ていきますと、5つの項目を恐らくすべてを含んでいるのではないかと思われます。

 このアンドラ・プラデシュのプログラムが最初に発案された時は、こういうCBRマトリックスはまだできていなかったと思いますけれども、このマトリックスに適用するような形で、この事業が現在進められているのです。

 CBRマトリックスの1つの目的としては、貧困の削減、それから人権の尊重、さらには家族の生活の質と幸福を促進するということで作られたマトリックスですけれども、このように1つの仕組みだけですべてをまかなうということではなくて、CBRマトリックスで強調していることは、様々な機関と連携して、障害者の地域生活を支援しようということではないかと思います。

図14スライド
(図14)

(図14スライドの内容)

 こちら(図14)で言われているのは、障害の問題を直接具体的なニーズに焦点をあてる前に、いわゆる基本的なニーズですね、貧困からの脱却、あるいは保健、あるいは教育をきちんと受ける。そこを最初に優先的にやって、その上で障害に対するニーズにきちんと対応しようということではないかと思います。

図15スライド
(図15)

(図15スライドの内容)

 このへん(図15)は、去年発表されたWHOのチャパルさんの発言であります。

 まず、権利条約があって、それを基本的に途上国の農村地域で実施するためには、こういうCBR、あるいはCBIDの取り組みが本当に必要になってくる。そういうことで、このCBIDの目標をきちんと推進することによって、障害者の権利及び地域生活をする権利が保障されるのではないかと思われます。

 私がすごく懸念しておりました、権利条約ができても、途上国の農村地域の障害者の権利が単に絵に描いた餅にならないために、きちんとしたCBIDの目標を持ったCBRの取り組みが必要じゃないか、その1つの例として、今回紹介したアンドラ・プラデシュ州の障害者の自助グループの構築の取り組みが、1つのモデルになるのではないかと思います。

 これが、日本の状況にどのような示唆を与えるかというのは、まだ分かりませんけれども、文化の違いや、生活の状況やレベルの違いとかありますけれども、これがCBIDの取り組みの1つの重要なモデルを提示しているのではないかと思っております。

 ちょうど時間になりましたので、これで終わりであります。どうもありがとうございました。(拍手)

司会:高嶺さん、多岐に渡るご発表、ありがとうございました。

 権利条約は農村に住む障害のある人にこそ届くべきであるというメッセージも含んだご発表でした。

 マヤさんからも、証拠に基づく活動が非常に不足しているというお話がありましたが、高嶺さんが関っていらっしゃいますインドのアンドラ・プラデシュ州での障害者自助グループ構築の仕組みというのが、CBID、Community Based Inclusive開発を実践されているということは、今後私たちも、ずっとその活動の発展を見守って、学びながら、その証拠がどういうふうに現れていくのかということを見ていきたいと思います。

 今一度、高嶺さんに大きな拍手をお願いいたします。(拍手)

 それではここで休憩を取ります。10分間の休憩を取らせていただきます。