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日英セミナー「障害者のためのソーシャルインクルージョン」

意見交換

炭谷 茂環境省事務次官
マリリン・ハワード英国社会政策アナリスト
山内 繁国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所長
寺島 彰浦和大学総合福祉学部教授
野村 美佐子日本障害者リハビリテーション協会情報センター次長

意見交換の様子

大山: それでは、これから意見交換に移りたいと思います。今お話を伺ったマリリン・ハワードさんの講演をうけて、今日こちらに並んで頂いているパネリストの方々にコメントを加えて頂いて、さらに、会場の皆さん方からもご質問等をお伺いしたいと思います。これからマリリン・ハワードさんの講演を受けまして、お一人あたり短い時間でコメントを頂きながら多少議論をし、その後、皆さん方からのご意見等を伺いたいと思います。それでは最初に炭谷さんからお話を伺いいたしたいと思います。先程河村さんの方からご紹介ありましたように、このあと炭谷さんは所要がありますので4時前ぐらいに退席されますことをあらかじめご承知おきいただきたいと思います。それでは炭谷さん、お願いいたします。

炭谷: マリリン・ハワードさん、本当にすばらしいスピーチをありがとうございました。まず、私自身の感想として受けましたのは、英国においては大変きめの細かい障害者の社会進出の手段が次々と考えられ、そして実行に移されているという点について、大変感銘深く思いました。たぶんマリリンさんは時間の制約上、省かれたのではないかなと思うんですけれども、私自身ができればさらに教えて頂きたいと思っていることについて何点かお話をさせて頂ければと思います。一つは、この制度の対象になっている障害者の方々は大変範囲が広いのではないかなというふうに思います。果たしてどの範囲の障害の方がこの対象になっているのか。私の知っている範囲内では、例えば、慢性病、慢性疾患を持っているような方も幅広く障害者として組み入れられているというふうにも承知していますし、またおそらく知的障害者、精神障害者という方々も、このような障害者の雇用政策の中に組み入れられているんじゃないか思うんですけれども、それぞれ入れられている障害者の範囲と、またそれぞれの障害者の特性をどのように限られているのかお聞きしたいと思います。日本にとっても大変関心のあるところじゃないのかなというふうに思っています。それとともに、どんな仕事についていらっしゃるのか。日本の場合では、障害者の授産施設に行きますと、クリーニングと印刷と箱詰めという三点セットが非常に多いんですけれども、もう少し障害者の仕事の幅にバラエティ、またはいろいろな程度の高い仕事といいますか、そういうものがあってもいいんじゃないかなというふうに思っているんですけれども、そういう点について何か情報を教えていただければ大変ありがたいというふうな感想を持ちました。また、雇用と共に福祉施策との連携、また住宅施策との連携ですね、障害者が働きに行くためには当然適切な住宅というものが必要だと思うんですね。そういう住宅施策との関連とか、福祉施策との関連、例えば、歩けない人にとっては移動手段が必要でしょうし、そういうものはどうなっているのかなということ、時間の関係で省略された点だと思うんですけれども、ご教授いただければありがたいなという感想を持ちました。

大山: どうもありがとうございました。続きまして、山内さん、お願いします。

山内:私自身はずっと身体障害者のための福祉機器の研究開発ということをやっておりました。その立場から眺めて、そういう専門家の立場として、2、3教えていただければ非常にありがたいなということに気がつきました。
 一つは、最後の方で、「パスウェイ」に関連してバイオ・ソーシャル・モデルということをお話になりました。ICF(国際生活機能分類)ができて以来、日本でもメディカルモデルとソーシャルモデルの問題が非常に議論されておりまして、メディカルモデルは古すぎるという批判もあり、両方必要なものをどう統合していくかというのが、我々の問題だというふうに思っていたのですが、そこでこういう新しい言葉を聞きますと、一体どういうことかと、ぜひ教わりたいなというふうに思っております。

 それからもう一点は、今の炭谷さんのお話にも多少関係あるかもしせんが、プライベート・セクターをどんどん組み込んで行くと、例えば福祉機器について言いますと、どうやって安全性を保証するのかが非常に大きい問題になります。そうすると、プライベート・セクターからのサービスのクオリティのアシュアランス(保証)といいましょうか、あるいは物であれば標準化というようなことである程度できるわけですが、そのクオリティをアシュアランスすることと、それをモニターする仕掛けが、これが片方にないと、プライバタイゼーション(民営化)だけだとやはり具合が悪いことが起こるんじゃないかなという思っているのですが、その辺でいくつかの点がございましたら、教えていただければというふうに思います。以上です。

大山: はい、どうもありがとうございました。それでは続きまして、寺島さん、お願いいたします。

寺島:はい、マリリンさんありがとうございました。この全訳をしたのは私ですので、相当誤訳がありまして、何を言っているのか分からないような所がありますので、もしありましたらご自身でマリリンさんにこの後、お聞きいただければ内容がわかるんじゃないかというふうに思います。私自身は、リハビリテーションセンターに以前いたということもあって、リハビリテーション関係のことについてもう少し知りたいなというふうに思いました。

聴講者の様子

一つは先程山内先生が言われましたように、民間事業者に任せた場合、質が落ちるのではないかという気がするんですけれども、そういうことはないのかどうか。それから、もしあるとすれば、どういう形でそれを保障しているのかということが一つです。

 それから、同じくリハビリテーションについてなんですが、最後の方に、お話しの中にはなかったんですけれども、最初のペーパーの中に、予防とリハビリテーションを強調すると政府が言ってるというようなことを書いてあったんですけれども、それは何か最近の傾向から言うとリハビリテーションは旗色が悪いんですけれども、その辺、イギリスにおいてはどのような考え方といいますか、常識といいますか、共通認識をリハビリテーションに持っておられるかというのをもう一つ聞きたいということです。

それと最後に、以前、DDA(障害者差別禁止法)ができたときに、統計をとっておられて、障害ゆえにどのくらいの費用がかかるのかというようなことを調査さてると思うのですけれど、それに対して障害者団体の方々から、障害ゆえにかかる費用の見積もりが低すぎるというようなことを言われているということを聞いたことがあるんですけれども、その話しは決着がついたのでしょうか。よろしくお願いします。

大山:はい、どうもありがとうございました。それでは続きまして野村さん、お願いいたします。

野村: 日本障害者リハビリテーション協会情報センターの野村と申します。普段ですと、私はオーガナイザーですが、なぜかこのように前の方に出てきましたが良い機会を与えられたと考えたいと思います。

 1999 年に、この日英高齢者・障害者ケア開発協力機構が立ち上がりましたが、その組織として多くの方々を英国からお呼びしまして、英国の事情などを聞いてきたわけです。やはり炭谷さんがおっしゃっていた、「ソーシャルインクルージョン」ですか、「全ての人のためのソーシャルインクルージョン」というコンセプトに関わる方をお呼びしていたわけです。その中に特に、社会起業家、ブレア首相が推進する「第三の道」それはもしかしたら一番良い政策として考えられるのではないかと思いました。それというのは、民間と政府と、ボランティアセクターというのが一緒になって地域のまちづくりというのを行っているからです。私たちは、1999 年から毎年、このようなセミナーを開きまして、英国から学んで、日本でどういうふうに応用したらよいかということを学んできたわけです。先程、マリリンさんのお話がありましたけれども、ソーシャル・アントルプルナーと呼ばれる社会起業家の実態がなかなかまだないが、これからますます広がりがあるというふうにおっしゃっていましたけれども、実際的には今どういう状態にあるのか、これから今後どのようにその社会起業家という役割が地域福祉の中で果たしていくのかということをお聞きしたいと思います。

 それからもう一つ、社会起業家の話のなかで、パーソナル・アシスタントサポート・スキームについてお話しがありましたが、その実践を障害者に近いボランティアセクターにやってもらいたいというお話しだったように思います。ボランティアセクターというのはなかなか政府のサービスを補完するほどのキャパシティがあるとは、特に日本では思えないんですね。そのためには支援システムというもの必要だと思うし、支援システムを政府の方に考えてもらわなければいけないかと思うのですが、そういう点についてコメントをお願いしたいと思います。

大山: はい、どうもありがとうございました。各パネリストの方からいろいろとご質問等が出ておりますけれども、これについて、少しまとめようと思いましたけども、特に山内さんのお話はかなり専門的で、私も聞いたことがない言葉が出てきて、まとめようがないというふうな思いがしました。これはむしろマリリンさんの方から、ストレートに答えていただいた方がよろしいかと思います。炭谷さんの方からは、これは非常に皆さん方もお聞きしておられて、非常に関心を持っておられるかと思いますけれども、特に障害者の特性だとか、このソーシャルインクルージョン等の対象の範囲だとか、それからこれもやはり重要なことだと思いますが、障害者の人達がどんな仕事をしているのか、社会企業だとか、あるいはNPO だとか言っておりますけども、どんな仕事をやっておられるか、これも大変重要なことだと思います。さらに、福祉や住宅政策との関連。これもやはり日本でも、言うは易く行うは難しで、大変連携が遅れているのではないかと思いますが、この辺イギリスではどうなっているのでしょうか。山内さんの質問は、ちょっと私もよく理解できませんでしたので直接お聞きしたいと思いますが。それともう一つ、これは寺島さんと共通のものですが、特に民間に委譲した場合、サービスの質が落ちてくると、これに対してどう保証したらいいのかということ。それから寺島さんの質問の中で、予防とリハビリテーションと、これからのリハビリテーションは日本でも非常に旗色が悪いというようなことをおっしゃいましたけれども、むしろこれからリハビリについてどういう考え方を持っておられるかということですね。それとこれも寺島さんから、日本でも重要な問題だと思いますが、障害者にかかる費用を調査されており、障害者団体から、低すぎるということもあって、論争もあったようですけれども、その後決着はどうついているかと。それと野村さんからは、これも日本でも関心が高いんですけれども、特にボランティア団体やNPO だとかいろんな民間の団体もでておりますけれども、やはり財政的な困難な問題があったり、いろいろな情報の不足というようなこともあって、なかなか補完的な役割を果たそうとしても、できていないと。こういうものについての支援システムはどうなっているか。会場の皆さん方からもいろいろと関心があることだと思いますが、これらをまとめてマリリン・ハワードさんからお答えいただきましょうか。よろしくお願いします。

ハワード: ご質問ありがとうございました。なるべく多くの質問に答えられるように努めてみたいと思います。

 まず炭谷さんから、イギリスではどのように障害者を定義づけているかという点についてお話がありました。障害者差別禁止法の中では、次のように言っています。障害者はまずその人達の日々の生活に障害がある、或いは支障をきたしている、また最低でも一年間はそういった不便を被っている、それが障害者であるというふうに言っています。例えば感覚の障害、知覚障害、また精神障害こういったものもいわゆる障害というふうに捉えています。またHIV、エイズにかかっている人、それから、これまで障害を被っていたと言っていた人達、過去に障害のあった人達もそれに含まれます。それから、イギリスの場合は現在800万人を超える障害者がいまして、これは人口の7人に1人であります。ですからこれらがこの障害者の定義にカバーされている人達です。

雇用のサポートにつきましては、授産所での仕事、それからレンプロイ、先程おっしゃっていましたね。レンプロイでの仕事も含まれます。それから保護労働、そのほかの種類もあります。雇用主が例えばオープンな形で一般雇用するという場合もありますし、それからレンプロイのような障害者の雇用に特化したような、或いはサポートを提供している事業体に雇用されるケースもあります。また、サポート付きの支援雇用、支援付き雇用プログラムといったものもあります。実際にその人達がどういう仕事をしているかですが、イギリスの場合は、例えば授産所ですとおそらく日本と同じで、クリーニングですとか、いわゆるマニュアルの仕事、手作業などですね、それからもう一つアクセス・トゥ・ワークスという考え方がありまして、専門的、或いは管理的な仕事についている人達もいます。例えばコンピュータの研修を受けて、それを使った仕事をするとか、あるいは手話通訳を使って行える仕事についている人達もいます。アクセス・トゥ・ワークというプログラムを経て仕事を得た人達というのはより高レベルの仕事についているケースが多いです。このプログラムを使っているのは3万人を超えています。

 そしてイギリスにおきましては、障害者のための支援として、住宅支援というものも行っております。つまり助成金というシステムでありますけれども、障害者ファシリティ助成金になっておりまして、定職者の人はそれに申請をするということができます。必要な変更を住宅に対して加えることができる場合にも申請することができます。それから英国においての標準というのがありまして、これは新規住宅のために新しくモビリティアクセスを保証するという標準であります。これはどれだけのリソースを使えるかということにも依存しますけれども。

そして山内さんのご質問の中に、パスウェイ・パイロットというのがありました。そしてバイオ・ソーシャル・モデルということをおっしゃっておりましたけれども、これはイギリスにおいても新しい考え方です。このパスウェイ・パイロットという実験的な試みは7つの地域ですでに実施したものでありまして、目的は、まず初期の段階の人々を助けるというものであります。これは就労不能という申請をした人達のための助けということになるわけですけれども、まずジョブセンター・プラスのアドバイザーの面接を受けるということになりまして、そこでコンピュータ・プログラムを使って、一人ひとりの障害者が例えば支援付き雇用といったプログラムに紹介されるべきなのかどうかという査定を行うわけです。そしてまた新しいリハビリテーション支援というものを受けるべきなのかどうかという選定も行うことができます。これで彼らの今の状態を管理するという助けをするわけです。

また、労働年金局というのがイギリスにはありまして、このアプローチをベースにモデルを作りました。これはバイオ・サイコ・ソシアルと呼ばれているわけですけれども、これは新しい国際的な定義というものと一致していると思いますし、この中で重要なのは、一人ひとりの個人というものを考えているということであります。また、障害に対する人々の態度というのもこれは中身に入っておりますので、比較的考え方としてもまだ新しいものでありますし、これがどのように機能するのかというのはまだ今のところははっきりしていないわけです。8週間助成金を受けないで、面接を受けるという段階になるわけですけど、この新しい評価がどのように機能しているか、もしうまく機能していったならばこれが将来のイギリスにおけるモデルになるのではないかと思われております。

それから、もう一つご質問の中に、民間のセクターによるサービスの質ということがありました。イギリスでの考え方は、どうかと申しますと、サービスを提供する側、それを政府に提供するという場合には、定期的にレビューを受ける必要があるというふうになっております。つまり、新しい形のサービス、例えばコミュニティ・オーナーシップという場合には、これを規制して監視していく団体を作るということになるわけです。この団体がサービスをモニターしていくのです。そして国レベルの最低の標準を作る。これが民間のセクターもしくはボランティア・セクターによってなされるということになります。まだまだここでは、やっていかなければいけないことが多いわけですから、こういった機能がどれだけ良い結果をもたらすかどうかというのは、まだはっきりわかりませんが、この民間、或いはボランティア・セクターに頼むのがいいのかどうか、そして人々が機会をさらに増やしていくということ、これが肯定的に働くのかどうかということも、まだまだこれから監視をしていかなければいけないというふうに思います。

そして寺島さんのご質問ですけれども、予防とリハビリということがでたと思いますけれども、イギリスにおきましては、まずこのリハビリテーションを日本の皆様がどういうふうにして今使っていらっしゃるのかというのを学ばなければいけないと思うんです。つまりイギリスにおいてはこれまで、過去におきましては雇用によるリハビリと、医学的なリハビリというのは別に考えていた節がありました。そしてこの二つをうまく統合するということは今までできていなかったわけです。そして全国レベルで見た場合にも、これがまだまだ足りないということですから、リハビリテーションといった意味でのヘルプというのは全員に適用されているというわけではないわけです。そしてまたこのプログラムは、パスウェイ・パイロットという実験的な試みを通して、更に発展していく可能性もあります。つまりこの中でどんなニーズがあるのかということを割り出して、リハビリとの統合をよりうまく図っていくことができるというふうに願っております。ただ、イギリス政府では、このプログラム、例えば、労働に対する保証、また災害労働などに対する支払いという中にリハビリ等も入るというふうにしたいと思っているわけです。これまでは、リハビリに対してのインセンティブはなかったわけですね。つまり、もしリハビリを受けていけば、ヘルプに対してはインセンティブがほとんどないということになりました。ですから民間の保険会社と一緒になって、あるいは労組などと一緒になって政府が考えたのはインセンティブを入れていこうということです。そして、なおかつリハビリを提供していくという考え方であります。この予防というお話ですが、パスウェイ・パイロットという試みでは、障害の危機を申請してくる人たちの早い段階に対して、より革新的なものを盛り込んでいこうという考え方ですから、たくさんの実験的なプログラムがありまして、まず仕事を維持していくための支援、或いはリハビリテーションといったヘルプを通じて、6週間は疾病手当てというものを出すということを行っております。これは、今年始まった試みでありますから、まだ全く新しいものです。

そして障害者差別禁止法というお話も出ましたが、たくさんのキャンペーン運動が生まれました。この法律をぜひ導入しなければならないというキャンペーンが生まれました。そこで政府がその当時心配しておりましたのは、雇用主に対するコストであります。また、サービス・プロバイダーにとっての費用というのが膨大になるのではないかというふうに心配していたわけです。一方で障害者団体はこういうふうに言っていました。つまり、いろいろな場所を使うことができる、例えばお店に行ける、レストランに行けるといった人が増えれば、この法律を制定した結果として企業にとっての利益にもつながるんじゃないかというふうに言ったわけです。障害者団体はそれを目指しました。現在も議論はイギリスにおいては継続中であります。つまり、コストを心配する事業主がいるわけですね。障害者を雇うことによってコストが増えるのではないかと、一方で、障害者団体は障害者を雇うためのキャンペーンを続けている、これは最終的に企業にとっての利益になるという訴えなのです。現在の論点というのは、人々に機会を、就労の機会を与えるということです。そして雇用主は、仕事に不適切な人を雇ったという考えをしないように、つまりこの仕事にとって最適な人を雇ったんだという考え方をしてもらおうということなのです。ですから、より創造的な選択をして、必要な調整をしていくことが事業主に求められているわけです。調整を行うのに必要なコストは少なくてすむというふうにも言われています。また、その範囲としては0 ~ 500 ポンドと非常に広範になっています。

それから野村さんからの質問は、社会起業家についてだったと思います。確かにおっしゃるように、まだこれからの道のりは長いということは言えます。通産局は、ショービジネスを奨励し、また社会起業家をどんどん奨励しています。しばしばイギリスの場合、今でも全く別の論議として挙がってくるということが多いのです。つまり一般的な政策とそれから障害者施策というのは全く別物だというふうに取られることがあるのですけれども、そうではなく障害者施策もメインストリームの一部なんだということを理解してもらうように働きかける必要があろうかと思います。イギリスでは、社会企業とそれからソーシャル・ファームが関与して、より多くの障害者の雇用にプラスになるのではないかというふうにも思われています。サービスを提供するという意味でも同様のことが言えます。イギリスの南部のあるソーシャル・ファームは障害者も雇用し、さらに障害者のためのサービスも提供しています。目の不自由な方達のための聞き取りを行っています。そしてこれらの企業用の健全な資金調達が今後、さらに必要になるってくるでしょう。

 また、パーソナルアシスタントのスキームというのも今後さらに重要になってきます。障害者が自分たちが必要としているケアを選べる、或いは買うことができるようにならなければいけないからです。しかし、イギリスでは最近いろいろな変化も見られています。例えば地方自治体は必要であると欲している人達に対して、それが若い人であろうと、或いは65 歳であろうと年令にかかわらず、ヘルプが必要な人達にはそれを提供しなければいけないという傾向になっているわけです。より良い雇用主になるためにはどうしたらよいのか、また、国民保険の中からそれをどのようにあてがっていくかということを、今後考慮していかなければいけないでしょう。

 さて、地方政府なんですけれども、その他の障害者によって運営されるものもあります。このような組織をつくるための助成金というのもあります。ですから将来は地方政府がより大きな役割を果たして、障害者が自分の選択を購入することができるようになるというふうに思っております。これで皆さんのご質問に答えられたかと思いますけれども。いかがでしょうか。

大山: 大変重要な論点が入っていると思いますけれども、さらに、パネリストの方からお聞きしたいことがありましたらご自由にご発言いただきましょうか。

炭谷: 私、そろそろ次の会合がございまして、立たなくてはいけないので、最後に一つだけ。今のマリリンさんの回答にもあったのですが、集中してお聞きしたいのは、障害者が自ら事業を興す、企業を興す、自営ですね、そういうものがイギリスでは活発に行われているのかどうかですね。やはり障害者の方々が生きがいのある仕事というのは、自分で事業所を起こすというのは非常に良い方法じゃないかなと思うのです。もちろん雇用されることを否定するわけではありません。そういう状況、ニーズではどうなっているのかということ。これに対する具体的な公的な支援策がどうなっているのか、わかる範囲内で教えて頂くと大変参考になると思います。

大山: いまの質問について、炭谷さんはこれから退席されることになっていますので、マリリン・ハワードさん、お答え頂けますか。

ハワード: 障害者がいわゆる自営という形で自分達でビジネスを行うということももちろん奨励されています。そのケースは比較的多いです。非障害者と比べても割合としては多いです。ただ職業の種類としては、専門的なものもあるのですけれども、非常に立場が低く、企業などにおいて障害や障害法に対しての認知度を高めることも重要であります。政府からの資金が提供される場合もありますけれど、通常ですと、ビジネス・スタートアップ・ペイメントということで、事業立ち上げに対する助成金というのが存在しています。しかし最近の調査によりますと、障害者は今でもやはり問題を抱えているということが明らかになっています。適切な情報を得ること、適切なアドバイスを得ること、また適切なアクセスを得るということ、また或いはサポートを得るという面でまだまだ不利益を被っているわけです。とはいえ、自分達でビジネスをスタートするということはもちろん可能です。パーソナル・アシスタント・サポート・スキームの一つ例を申し上げますと、障害者自身が自分達で発言し、そして現金支払いも申し入れる、その他の自分たちのケアを買いたいという人達にサービスを提供するとか、そういうことは既に行われています。非営利ではありますけれども、きちんとこの政策が成功できるように、またダイレクトペイメント、直接手当がなくてもいけるようにいろいろな施策がとられています。障害者がビジネスを行う場合は支援、或いは補助は今ありますが、まだ不足しています。また支援や補助があればもっと多くの障害者がビジネスをスタートできることになると思います。そういう意味で来年、障害者差別禁止法が完全に実行されるわけですが、サービスによりよいアクセスができることになるのではないかと思います。

大山: 今の問題も含めまして、かなり重要な問題が出ておりますので、その他の方、いかがでしょうか。はい、寺島さん。

寺島: 障害者の数のことについてなんですが、障害者数が860 万人となっているのは、ディスアビリティ・ディスクリミネーション・アクト(障害者差別禁止法)の対象者と考えていいのでしょうかということと、労働年齢の270 万人がインキャパシティ・ベネフィット(就労不能給付)(注)を受けているということは、この人達がある意味日本で言う障害年金に相当するようなものを受けている対象者であるというふうに考えていいでしょうか。

山内: 今の寺島さんの質問との関連で、日本では高齢者は介護保険、障害者は障害の制度という形で、障害者に対する、お年寄りに対する制度と比較的若い人の制度が違うものですから、そこのところがイギリスの事情が同じなのか、違うのか、その辺を含めて、今の寺島さんの質問に答えていただけると誤解がないんじゃないかと思います。

大山: それでは今のお二人の質問に対して、マリリン・ハワードさんお願いいたします。

ハワード: そうですね。この就労不能の年金が、どういう人に支払われるかというと、まずテストというのがありまして、これに通った人ということになるわけです。どういうテストなのかと言いますと、つまり彼らはいろいろな条件から就労ができないのでその手当を受ける資格がある、ということです。そして、今までの国民保険に対して支払いをしてきたということがありますから、その手当を受ける人達というのは、仕事をしていないといけない、という新しい考え方がでてきます。つまり、障害を持って生まれた人というのがあるわけですけれども、もう一つ、その人達というのはこの年金に対して申請をするという権利があるということです。これはもう一つ新しい考え方なわけです。そしてその270万人と言いますと、申請をしてこれを受けている人というお話がありましたけれども、この人達は、失業手当というのをもらっております。正確な数字はわかりませんけれども、これは100万人以下だというふうに思います。つまりイギリスの経済がちょっとよくなってきて、新しいプログラムが入ってきまして失業率もだいぶ下がってきたということがあります。しかしながら、調査によりますと、仕事についている人たちの3人に1人は障害を持っていると言われております。これはDDAの定義による障害ということになります。ただイギリスにおきましては、受けている手当というのは、雇用プログラムにとって非常に重要なわけです。今後も継続していけるかどうか、つまり就労不能の手当をうけている場合、メインに障害者のためのニューディールによってカバーされているわけです。障害者はその他の手当というのも受けております。これはいろいろ他のプログラムによって制定されている手当であります。さらに、保険による手当て、これは就労不能によるもの、また失業によるものですけれども、これは今、イギリスにおきましてはジョブ・シーカーズ・アローアンス(求職者給付)というふうに呼ばれております。仕事を探すための手当ということで、社会的なアシスタント、社会のセーフティネットとして、収入をサポートしようというものです。つまりこれを申請してきた人達というのはほとんど収入がないか、或いは非常に限られた収入しかないということが条件になっております。ですから、障害者の両親や家族が収入サポートを申請することができるわけです。もちろん、これは収入のレベルに応じてということになります。就労不全の手当てというのは、もし年金を、以前の雇用主から受けていれば、或いは失業手当を受けているのであれば、減額されるということになります。270万人が就労不能の手当てを受けているわけですけれども、仕事につきたいという意思があるということが重要になっております。ですから障害者のための新しい目的というのは、彼らを助けて、3人に1人の人たちを洗い出していこうということです。そして、もう一つの年金、例えば、生活手当てというのがあるわけですけれども、これによって障害に関わる費用を賄います。例えばモビリティのニーズなどでありますけれども、これは今までの就労の記録、或いは収入の記録にのっていまして、課税対象外となっておりますので、労働人口の200万人以上の人達がそういった支払いを受けたいと思っております。これを受けながら仕事に行くという形になるわけです。

大山: はい、どうもありがとうございました。そのほかには。いかがでしょうか。はい、野村さん、どうぞ。

野村: もう一度、ボランティアセクターというところに戻るんですけれども、先程私は、ボランティアセクターのキャパシティ・ビルディングというのがなかなか難しいという話をしたように思います。政府のいろいろな障害者に対するサービスの補完をするということができるようなボランティアセクターのキャパを増大させるためには、やはりある程度、政府における支援システムというのが必要だと思いますし、また、サービスの提供をプライベート・セクターに持ってきた場合、プライベート・セクターがそれなりにサービスをできるような、向上させるような方法というのも必要だと思いますが、そういった点をどういうふうにお考えになっているのでしょうか。

大山: はい、マリリン・ハワードさんお願いします。

ハワード: イギリスにおいては、いくつかのボランティアセクターの組織がありますが、そういうところが雇用、そしてケアサポートなどを障害者に提供います。ただ、多くは、それぞれ違った政府との契約で動いておりますので、たくさんの書類の手続きをして契約を結んでいかなければいけないという仕組みになっております。また、一年ですとか、二年といったような短期的な資金繰りなっております。ですから、多くの組織が感じているのは、自分たちが実施したいと思っているサービスのレベルが実施できない、或いはこのサービスをこのまま継続していくことはできないと思っているわけです。つまりこの資金調達というのが非常に限られているからです。

そして民間のセクターにおきましては、イギリス政府は、民と官のパートナーシップを実施しております。より長期的な資金調達に基づいております。ですから病院ですとか、これは民間セクターが病院を開発していくのにまず頭金を払うわけですけれども、長い期間にわたって、そのお金が政府から支払われるということになっております。いくつかのそのボランティア団体におきましては、1~2年といった短期的な資金繰りではなくて、25 年のファンディングが欲しい、もっと長い期間で自分たちの能力を作っていくプログラムが欲しいというふうに言っているところもあります。ただ、現状では組織によってはこのような財政的な問題で苦しんでいるところがあります。つまり、政府との契約の取り交わし方による様々な問題というのを抱えているわけです。ただ、来年、地方自治体で、ボランティアセクターと協力してこのような問題を解決するプランづくりをしていこうとしております。パートナーシップを通じて仕事をしていこうという考えです。地方自治体がボランティア団体と契約を結んでサービスを提供し、新しいルールが導入されれば、より幅広い考え方によるボランティアセクターとの契約づくり、そして地方のコミュニティにおける活動がサポートされるのではないかと思います。ただ今現在はそのボランティアセクターとの協力体制というのはまだまだ脆弱なものがあります。

大山: ありがとうございました。他の方、よろしいでしょうか。河村さん。

会場: 国立身体障害者リハビリテーションセンターの河村です。今日のお話で、かなりきめ細かくやっておられることがわかったんですが、もう一つ、障害者差別禁止法の関係で、例えば国でこれから放送の規格を決める時などに、どのように障害をもつ様々な人達が参加して、そこに要求を出して反映させて規格を決めていくか、デジタル放送がもうイギリスでも一部始まっておりますし、本格に導入されると2011年までに現在の放送はすっかり変わります。そこで、差別禁止法がどのように働いているのか、是非教えて頂きたいと思います。

大山: ありがとうございました、時間の関係もありますので、ここで一括して、一問一答形式ではなくて、皆さん方から質問をお受けしたいと思いますので、いかがでしょうか。

会場: はい、どうもありがとうございます。870万の人たちが障害を持っているということなんですけれども、いろいろなサービスなどに対してのアクセスについてお伺いしたいと思います。ギャップをどのように埋めていこうとしているのか。また経済的にみて、社会的なポリシーをどのように考えていらっしゃるのか教えて下さい。私はネパールからまいりましたカマルと申します。日本には研修のために来ています。

大山: よろしいでしょうか。それでは、今のお二人のご質問にマリリン・ハワードさん、お答えして頂けますか。

ハワード: やってみましょう。 まず放送の問題ですね。何点かあります。障害者差別禁止法では、プロバイダーに対して、次のようなことを述べています。障害を持つ人達に対しての商品、或いはサービスを提供する上でそのニーズをちゃんと満たしていかなければいけない、サービスをしなくてはいけないと言っているんです。ということは全ての人がアクセスできるものに障害者も同様にアクセスできるようにしなければいけないということです。だからといって、そのプロバイダが必ずしも自分たちの制作、或いは自分達のサービスを実行する際に、障害者を考慮しなければいけないというわけでもないのです。先程申し上げましたように、イギリスの雇用主フォーラムというのがありまして、ここで調整を行い、サービスを障害者にとってよりアクセスしやすいようにしようということを言っています。この中にはメディア組織からの参加者もありまして、例えばイギリスの4大チャンネルとか、BBCとかの団体からの代表者も入っています。障害者問題に非常に知識を持っている人達の参加もあります。したがって彼らとともに障害者の考え方とか、障害者に対する考え方というものが取り上げられているのです。私自身は放送の専門家ではありません。しかしイギリスでは、ある論点があります。全体的なテクノロジーに対してのアクセスに関するものです。貧困にある人達、あるいは失業中の人達、或いは障害のある人達、彼らがきちんとそのようなテクノロジーにアクセスできているかというと、そうではありません。そこで雇用主のグループ、或いは雇用主の人達がこのことについてより理解をし、そして状況が遅きに失するということがないようにアクセシブルな方法を考えなければいけないというふうに言っています。

それからもう一つの質問は、障害者の雇用についてだったかと思います。870 万人というのは、就労年齢にある障害者の約半分です。そして失業中の人です。イギリス政府は二つのターゲットを設けています。つまり、ジョブセンター・プラスと、そしてそのジョブセンター・プラスが契約をする組織のターゲットですが、まず一つが障害者の雇用率をアップさせること。そして二つ目は障害者の雇用率と全体的な雇用率とのギャップを埋めるということです。1997 年以降、障害者の雇用率はほんの数%でありますけれど若干アップしました。そして雇用率のギャップですけれども、25%だったのが、若干縮小しつつあります。ただこれはイギリスが比較的順調な経済状態なのでギャップも縮まっているということは言えるかもしれません。もしも経済が、景気後退になってしまえば、障害者の雇用率はやはり低いまま、さらにもっと低くなるかもしれないということが言えます。

大山: その他にはいかがでしょうか。ではパネリストの方はいかがでしょうか。それでは私の方から一つ。先程から質問したかったんですけれども。一つはソーシャル・ファームについてですね。その概念はどういうことなのかということとですね。それからもう一つ、これは寺島さんの質問にお答えになったときに、雇用主のコストの問題ですね、政府等も雇用主のコストについていろいろキャンペーンをしているということですけども、企業の利益につながるというような事をキャンペーンしておられるということですけれども、これは一般雇用の場合ですね。不適切な人を雇用したというよりも最適な人を雇用したとこういうふうに考えたらどうかと。しかし、お話の中で、企業の側は障害者を雇用することは企業のイメージの改善につながるからと、こういう意識を持っているというわけですね。果たしてそういう企業のイメージを考えている事業主に、不適切な人と思わないで、適切な人を雇用したと思いなさいという考え方が説得力があるのかどうかという点についてです。その2点についてお伺いしたいと思います。

ハワード: まず一つ目の質問にお答えしてみましょう。ソーシャル・ファームについてですね。ソーシャル・ファームは、まず従業員の4人に1人が障害をもっている、あるいはなにか不利益を被っている人であるという事業です。また、収入の面では、オープン市場からの売上がベースになっています。つまり政府の助成金によって収入を得ているだけの所ではないという考え方をしています。支援付き雇用の場合には助成金が主になっているわけですが、ソーシャル・ファームは政府からの助成もあるかもしれないけれども、売上が主な収入源です。ソーシャル・ファームで働いている多くの人達は精神障害を抱えている方達、あるいは学習障害を抱えている方達です。まだまだ発達の段階では初期なわけですけれども、このソーシャル・ファームというのは、障害者のためのプログラムとしてはおそらく支援付き雇用から一歩進んだ形になると思います。というのは、こういったファームで働く人達というのは、一般の障害を持っていない人達と一緒になって毎日の実際の仕事をしていく、仕事の現場にいるというわけです。例えば、イギリスにおいて非常にうまくいっているソーシャル・ファームには、リサイクル事業、特に環境のための廃棄物のリサイクル事業、或いはホテルなどのケータリングのサービスをやっているところもあります。また、在宅ケアを必要とする人たちのケアを提供しているところもあります。地方自治体と契約して、こういったものを提供している場合もあります。ですから大変考え方としておもしろいと思うわけですけれども、まだまだイギリス国内においても議論の余地ありということで、全体の雇用政策の中でどういったところにこのケースをあてはめていったらいいのか、また社会企業というポリシーとどう折り合いをつけていくのかというところも研究が必要ではないかと思います。

もう一つの質問といたしましては、政府のキャンペーンというお話がありました。つまり、企業に対して企業イメージを上げるということが目的であるのか、障害者を雇用するのが目的であるのか。企業によっては確かに、宣伝をするような形で、自分たちが正しい雇用主であると言っている所もあります。特に障害者のための雇用主フォーラムというのがあるわけですけれども、こういった所の大手の企業というのは、自分たちのメンバーシップというものを促進していくわけです。イギリスの大手の企業がこういった中にも入ってきているわけです。中小企業というよりは、大手企業の参加が主なわけです。確かに、企業の心情としてこれを実行していくというのは、差別禁止法に適応するためというのも一つの理由であります。以前のシステムは割り当て雇用制度というのになっておりました。そしてこれがあまり功を奏しなかったのです。つまりイギリスの企業は、少なくとも全体の3%は障害者を抱えなくてはいけないという割り当てだったわけですけれども、実際にはこれを無視していた企業がいたわけです。障害者というのは、公的な雇用サービスに登録をして、雇用されるということだったのですが、その登録をしたがらない障害者がおりました。これをすると明らかに障害者であるということがわかってしまうので、やりたくない人がいたわけです。さらにこの割り当てを実施していない所があったわけです。50 年間で10 くらいの実施例しかなかったわけです。ですから、差別禁止法が96 年にできたときに、この割り当て制度は廃止されました。そしてイギリスは企業の心情として障害者を雇うという考え方から、法律で企業の意識を高めていくというふうに変わったわけです。そして最悪の場合、これを実施していない雇用主を裁判にかけるということになったのです。ですから、差別禁止法をツールとして認知度を高める、そして雇用主、サービス提供者の認知度を高めるという考え方なのです。ですからまだまだ初期段階ということで、完全に差別禁止法が実施されるまでには時間がかかると思いますが、またしばらくしてから私を呼んで頂ければ、どれくらいの効果が出ていのるということをお話しできると思います。

会場: 千葉からきました大屋といいます。自閉症協会の会員です。先程からもう出ている質問で繰り返しになるような気がして申し訳ないのですが、確認したいんですけれど、障害者の定義というのも法律で決まっているのはわかったんですが、これは誰が認定するのか。自己申告でいいのか、企業が申告すればいいのか。そこの点を教えていただきたいということが一つ。もう一つは、私は本業が医師なものですから、どうしてもメディカルという言葉に親近感があるんですが、例えば新しい障害と言われるものでなくても、日本では比較的新しく脚光を浴びている、自閉症、ADHD、学習障害、知的障害も一部含まれると思いますが、そういう方に対する具体的な支援の仕方自体がイギリスに比べて日本ではまだ遅れているように思うんですね。ですから社会参加する場所をつくったり、制度をつくって頂くのはいいんですが、その場合、その場の中で教育も含めてですけども、一人一人に合った具体的な支援やっていく為には、まだメディカル・アプローチが果たす役割が残っているのではないかと思いますし、イギリスはその役割がもうないというふうに考えていらっしゃるのかどうか、そこを教えて頂きたいと思います。

大山: はい、どうもありがとうございました。もう時間の関係もありますので、その他に、ご質問されたい方いらっしゃいますでしょうか。一括してお受けしたいとおもいますけれども、よろしいでしょうか。それでは、今のご質問についてマリリン・ハワードさんちょっとお答えになります。

ハワード: いくつか、ご質問の中に含まれていた点があると思いますけれども、まず一つは、自分たちで障害者として定義するのか、登録するのかどうかというお話だったと思います。イギリスにおきましては、何らかの支援、或いは年金を受けたいという人達、それから差別禁止法によってカバーされる人達というのは違うアプローチをしています。つまり、その定義にあてはまるかどうかということです。差別禁止法でもってこれを謳えるのかどうかということにもなると思いますけれども。一般的に広く言われている定義と申しますと、雇用主、サービス提供者というのが人々のニーズをあらかじめ鑑みるべきである、つまり理論的には、障害者として考えられている人たち全部をカバーするべきであるということになります。ということは政府のサービスに対して、障害者差別禁止法のもとで、どういった具体的なアプリケーションをしなければならないかという決まりはないわけです。それからもう一つソーシャルケアとか、年金とか、手当てというシステムがあるわけですから、それを受ける人たちというのは、その定義の中に含まれるべきであるというふうになるわけです。そして自閉症の方々ということになりますと、イギリスにおきましては、認識されていない障害がありました。地方自治体がケアを提供する対象となっていない人達だったわけです。ただ最近になりまして、学習障害のための戦略というのが出されました。我々は学習障害という言い方をしていますが、皆さんの場合は知的障害という言い方をなさっているかもしれませんけれども、これは基本的には同じことです。そして地方自治体は今そういった人達のニーズをはかって、そして機会を提供するということが求められています。学習障害を抱えた人たちが仕事に就ける、或いは教育を受けるという機会を提供するということです。これが戦略の一部になっているわけです。

医療モデルのお話が出ましたけれども、イギリスにおきましては、先程のバイオ・サイコ・ソーシャル・モデルという考え方が出てまいりましたから、理論的にはもちろん医療モデルというのは依然として重要でありますけれども、より全体的なアプローチの中の一部が医療モデルという位置づけになっています。それで一人一人の、また一つ一つの家族のニーズに応える、そしてさらにそれを社会的な環境の中で捕らえていくということなのです。政府の政策というのがまだそういった意味では、こういった幅広い範囲にわたって一貫性があるというわけではありません。ただ全体的な動きとして、より総合的アプローチを長期的な視野で実行していこうという考え方になってきています。

大山: はい、どうもありがとうございました。そろそろ時間がまいりますので、これで締めたいと思いますけれどもよろしいでしょうか。はい、どうぞ寺島さん。

寺島: 今の定義のところについてなんですけれども、差別禁止法、DDAの場合は定義があるけれども、どこかで、何か認定しているわけではないと思います。要は例えば、求職したときに、正当な理由なく差別されたりすると、裁判になるというような形でその定義が生きてくるだけで、どこかで認定しているわけではないというふに思います。それから、インキャパシティ・ベネフィット(就労不能給付)などの認定は、デパートメント・オブ・ソーシャル・セキュリティ(社会保障省)でやっているというふうに思いますけれども、それで正しいでしょうか。

山内: ついでに、例えば特定のベネフィットで、私に下さいと言って申請書を出した時に、それを審査する人のクォリフィケーション(資格)はどうなっているのか、もしわかったら教えてください。

大山: マリリン・ハワードさんお願いします。

ハワード: 異なるルールがあります。就労不能手当についても違うルールが適用されています。その他の例えば生活手当とかそういったものについてのルールと、就労不能手当についてのルールは違います。プロセスはほぼ共通で、まず非常に長い調査票に答えなければいけません。そして多くのケースでは、医療チェックを受けなければいけません。自分たちの障害がどういったものなのか、それが医学的に見て実際にその通りであって、その障害の内容、或いは中身が実際に正確であるかを確認します。社会保障事務所はいまやその雇用サービス、つまりジョブセンター・プラスの一部として機能しています。従って障害者の医療アドバイス、どういう障害を持っているのかということをベースに資格チェックをし、そして給付をするかどうかというのを決めます。ジョブセンター・プラスの事務所、こちらもやはり障害者法ですね、或いは障害者差別禁止法にのっとって申請に対してイエス・ノーを言うわけです。この医学的な審査は、現在は民間の会社が行っています。以前はこれを政府が行っていました。今はそれが民間に委託されているという状況です。

大山: ありがとうございました。では時間がまいりましたので、今日のテーマ「英国における障害者のためのソーシャルインクルージョン」をこの辺で締めくくりにしたいと思います。またマリリン・ハワードさんからは非常に丁寧な、またいろいろなデータを盛り込んだレジュメを提供して頂きまして、我々にとっても非常に勉強になったと思います。テーマの一つ一つが非常に大きな問題で、福祉と経済の統合と、ディスカッションをすればこれ一つだけで延々と時間がかかるような、テーマだったと思います。今日頂いた資料等をもとにして、さらに本日のパネリストの方々のご意見等も踏まえて整理していただければと思います。マリリン・ハワードさん、今日は大変貴重な資料とまた適切なお答えとを頂きまして、どうもありがとうございました。感謝の意味もこめて盛大な拍手を送りたいと思います。また、パネリストの方々、本日はありがとうございました。

事務局注:インキャパシティ・ベネフィット(就労不能給付)
参考資料「英国の主な障害関連制度」参照