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緊急レポート 安間 敏雄

災害時における情報アクセシビリティの確保に向けた取組について

安間 敏雄

総務省 情報流通行政局 情報通信利用促進課長

はじめに

震災から3か月以上たちますが、数多くの方が犠牲になられ、多くの方々が行方不明という状況にあります。また、多くの方が被災されて、ご自分の家も失くされ、いまだに避難生活を強いられている状況にあることに、改めてこの場をお借りして、お悔やみとお見舞いを申し上げます。

本日は、このような形でお話する機会をいただきありがたく思います。

これまでに4方のご説明がありました。障害をもった方が、震災でどのような苦労をされたのか。それぞれの団体の方々がどのような取組をされたのかについて、具体的なお話がありました。恥ずかしながら、初めて知ったこともありました。大変勉強になりましたし、今後にぜひ生かしていきたいと思った次第です。

今日はお時間をいただいて、行政の取組について紹介します。まだまだ取組として不十分と思われる点もあるでしょう。決して胸を張れるものでもありませんが、とにかく現在における状況、今後に向けた方向としてご理解いただければと思います。

大きく2つの点をご紹介します。

1点目としては、災害時における緊急情報、放送の提供についてです。

2点目としては、放送に関わらず、様々な情報に対するアクセシビリティをどのように確保していくかをお話しします。

放送における対応

1点目に関しては、改めて申し上げるまでもありませんが、放送は、視聴覚障害者に限らず、健常者にとっても大変重要な情報源です。災害時のみならず、日常生活における情報収集手段として、また、娯楽としても、非常に重要であることは改めて申すまでもありません。障害の有無、種類にかかわらず、テレビ放送が、多くの人の情報源になっていることは、調査結果から明らかになっています。とりわけ災害時においては、情報が生死を分ける大きな鍵となります。今回の震災でも、被害を受けた比率を見ると、障害をもたれた方の割合が健常者の倍というデータもあります。

そういった面で、いかに情報が大きな役割を果たしているか、改めて認識しています。その点の拡充は大きな課題だと思っています。

このため政府としても取組を行ってきました。

昨年6月29日、障がい者制度改革推進会議で取り纏められた基本的な方向が閣議決定されました。その中で、特に災害に関する緊急情報の提供について、放送事業者に対する働きかけの措置を平成22年度内に検討することとされています。

ただ、単に検討するだけでは、具体的な形になりませんし、他方、放送事業者が実現できないものをいくら申し上げても意味がありません。そこでまず、NHK、民間放送事業者に、これまでどういう対応をしてきたか、また今後どういったことに対応する予定なのかについてお尋ねしました。

全部が全部、満足のいく回答というわけではありませんでしたので、さらにどこまでの対応ができるか、10月以降、ご相談してきました。

当初、放送事業者からは、現状でできる限りのことをしているので、これ以上の対応は難しいとの話もかなり出ました。これに対して、今後さらなる取組が必要なので、もう一段上の対応をお願いしたい、と交渉をしてきた中で、3月11日を迎えました。

その際には、NHKにも民間放送事業者にも、予想をはるかに超えた形で取組をいただきました。

NHKについては、詳細な説明がありましたように、従来の2倍以上の対応をいただきました。

民間放送事業者でも、局によって取組には差がありますが、ある局では、NHKよりも多く、1日のコアな時間帯では10時間を超え、皆さんが主に視聴される全時間に字幕があるという状況でした。

事前に放送事業者に話を伺ったときには、どこも精一杯対応しているので、これ以上は難しい、字幕用の収入があるわけでもなし、既存の予算からのやりくりになるため、経営にも影響するとの話もあったのですが、実際には、本当に多くの取組をしていただきました。これについては、感謝を申し上げます。また、これらに対して皆様からも、一定の評価を受けていることは、ありがたいと思っています。

放送事業者への要請

一方で、今回の震災は未曾有の規模で、多くの被害者が出ました。さらなる取組が必要になることは、もちろんです。

このため4月1日、大臣から、東日本大震災による災害に係る情報提供について、NHK及び民間放送事業者(民放連)に対して、正確かつきめ細かな情報を迅速にいただくよう要請をしました。全体として4項目あり、その1つとして、視聴覚障害者に対する災害にかかる情報提供への配慮を、という内容があります。

これは大きな観点からの要請ですので、これらの内容を具体的にお示しすることとして、別途、4月28日、私の方から各放送事業者の担当部長に対して、緊急情報の提供の充実をお願いしました。大きく4項目あります。1点目は、緊急度・重要度の高い情報への字幕付与等の実施。2点目は、災害時における緊急情報への字幕付与拡充。3点目は、放送番組を通じて文字や音声等による情報提供を行う際の視聴覚障害者への配慮です。これは字幕や音声等による情報提供をしたとしても、実際には図表を使ったりする場合、「ご覧のとおり」「ここからここまで」といった表現では、視覚障害者には意味が分かりません。音声を頼りにしている方に対しては、図表の中身の説明がなければ理解できないので、ご配慮いただきたいとお願いしたものです。4点目には、データ放送やインターネット等による緊急情報の配慮をお願いしました。

行政指針の見直し

総務省では、災害に関する緊急情報の充実を含めて、平成29年度までの字幕・解説放送の普及目標を定めた指針を定め、これに基づいて民間放送事業者、NHKの取組を促しています。これは10年間をタイムスパンとした指針ですが、5年目の24年度に見直しを予定していますので、現在、そのための準備を行っています。

この指針を策定する際には、国内外の状況についての調査や、また関係の方々からの意見の聴取、さらにはパブリックコメントを行いました。今回の見直しに当たっても、そうした対応を行っていきたいと思っています。

現在の指針を策定する際も、有識者の方による研究会を開催し、笹川会長、高岡理事長などにも様々な意見を賜りました。今回の障害者基本法改正や、障害者権利条約には、障害者抜きに障害者に関することを決めるなという基本原則があります。その原則に基づき、皆様方の様々なご意見を聞きながらやっていきたいと思っています。研究会のみならず、パブリックコメントに対しても、皆様方からの幅広い意見をいただければと思います。

様々な情報アクセシビリティの確保

2点目は、放送のみならず、様々な情報アクセシビリティの確保についてお話しします。

具体的には、2つの観点から取組を行っています。1つは、役務、つまりサービスの提供です。障害のある方々は、日常生活で健常者には分からない苦労があります。そうした点の解消に向けたサービスを行う事業者に対する助成を行っています。

一方で、まだサービスの形にはならないが、その前段階である新しい技術の開発を行い、それがひいては具体的なサービスになるということもあるかと思います。そういった技術開発面での助成も行っています。

事業支援の事例

いくつか例をご紹介します。いずれもサービスに関する助成です。1つ目の例は、プラスヴォイスという仙台の会社で、電話リレーサービスを行っています。ここには16年度から20年度まで助成しています。今は、助成を機に自立的に電話リレーサービスの事業をされています。今回の震災では、避難所にプラスヴォイスを通じてiPhoneが100台無償配布され、それを通じた情報伝達も行っています。さらには、例えば東京電力の計画停電などインターネットを通じた様々な情報について、これらの情報をなかなか入手できない方に対して情報確認の代行サービスをしたり、災害情報のデータベースの公開などを行っていただきました。

2つ目の例は、CS障害者放送統一機構です。皆様よくご存じかと思います。

3つ目は、レスキューナウです。平成13年度に助成したものですが、災害情報をメールで配信するサービスです。災害情報と言っても非常に幅が広いのです。震災のような大規模災害から、火災といったものや、電車の事故・遅延、食品事故というようなものまで、様々な災害情報を収集され、それらの中でどういう情報を知りたいかという要望を設定した条件に応じて、個々の方々に情報を電子メールで配信します。登録制ですが、視聴覚に障害をおもちの方々の利用は無料です。

研究開発においても、震災に関わる事業が行われていまして、私どもの助成を通して、こういったサービスが広がっていくことを心から願っています。

当事者、関係者の意見を反映

他方、こういったサービス、役務提供については、まだニッチというか規模が小さいところもあります。単独での事業継続が難しいこともありますので、効果的な対応を考えていきたいと思います。

一方、いろいろな事業に取り組まれていながら、まだ助成をご存じでない方も多くいますので、周知・広報も徹底したいと思っています。

また、事業者がサービスを考えるときに、それが本当に障害をもたれた方のニーズに合うものなのか、もう1回整理する必要もあります。助成事業の申請の際には、その点についても、関連団体の皆様のご意見を反映しながら、評価に生かしていきたいと思っています。中身の点検や改善にも努めます。

字幕についての対応と同様に、これらについても、皆様からの様々なご意見を伺いながら、事業の充実・拡充に反映したいと思っています。

今後とも、皆様方の日頃のご苦労にお役に立てるようにと思っています。これからも様々な面でご意見・ご要望をお聞かせいただきたいですし、私どもとしては真摯にお聞きして対応したいと思っていますので、よろしくお願いします。

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