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ディスカッション

コーディネータ

寺島 彰 (日本障害者リハビリテーション協会参与/放送・通信バリアフリー委員長)

 

パネラー

高岡 正(全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 理事長/放送・通信バリアフリー 副委員長)

野々村 好三(全国視覚障害者情報提供施設協会情報アクセシビリティ検討プロジェクト委員長)

浅利 義弘(全日本ろうあ連盟 理事)

大嶋 雄三(CS障害者放送統一機構 専務理事)

 

コメンテーター

吉井 勇(月刊ニューメディア 編集長)

 

寺島 連休の初日にも関わらすご参加いただきましてありがとうございます。よほど関心のある皆様だと思いますので、ぜひ議論に参加いただけるようお願いいたします。

このシンポジウムは、私ども障害者放送協議会の放送・通信バリアフリー委員会が企画をしておりますが、どうして今年は、この「障害者の放送の将来」ということをテーマにしたのか、少しだけ説明させていただきたいと思います。

シンポジウムの趣旨

本日の開催要項の中にも書かれていますように、今年、通称「デジ研」呼ばれております「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送の充実に関する研究会」が開催されました。私もその委員なのですけども、そのあと、その研究報告書に基づきまして、「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」が出されました。この指針の中には、例えば、字幕放送を100パーセントの番組に付けるとか、あるいは音声解説を10パーセントに付けるとか、そのようなことが書かれているわけです。私どもの期待としましては、手話放送についても、何パーセントかの数値目標が挙げられるのだろうと思っていたのです。ところが、結局、放送事業者なのだろうと思いますが、強い反対がありまして、数値目標は出ずに終わってしまったということがありました。

今日、吉井さんのお話しの中で、太陽政策なのか北風政策なのかという話がありましたけれども、今まではどちらかというと太陽政策で来たのです。放送協議会は、年に1回か2回、放送事業者の方と話し合いをしてきました。その中で、私が準備したのですけれど、ガイドラインみたいなものお渡ししまして、緊急時には、視覚障害の方は画面が読めないので、ニュースキャスターやアナウンサーの方は、視覚障害の方がテレビを見ていることを意識していただいて、文字などの部分を読み上げていただけませんかというようなこともお示ししているのです。

それを何年か前にお渡しして、さらに毎年そういう話し合いをずっと続けてきたんですけれども、結局3.11の大震災では、そういう配慮はなされませんでした。このことから、今のやり方でいいのだろうかとちょっと今迷っているといいますか、われわれがやってきたことは、人の役に立っていないのでないのかという、そんな思いがあります。どうもわれわれは、放送事業者といいますか、放送業界の内情に疎いのが問題なんじゃないか、それについて少し詳しい方にお話をしていただいて、われわれの運動といいますか、やり方を見直す機会にしたいと思ったのが、本日の「放送の将来」というテーマの理由なわけです。

先ほど、高岡さんからもお話しがありましたけれども、障害者関係者と、放送事業者あるいは行政の方たちとの認識ギャップというのを、これまで感じざるを得ません。やはりマイノリティとして障害者を見ているというところもありますし、浅利さんが言われたように、命に関わるような、そういう場面でさえ、放送事業者の論理を優先するみたいで、必要な配慮がされなかった事実があったわけです。そこのギャップをどう埋めるかという、その辺がこれからの大きなテーマになるんじゃないかと考えているわけです。

そのギャップを、具体的にどう解消するかということですが、例えばさっき吉井さんの話の中にありましたように、運動の作戦を変えていくこととか、あるいは、野々村さんの話にありましたように、モニタリングの機能をどう活用していくかということもあるでしょう。例えば、障害者基本法に基づいて、障害者政策委員会というのが新たに作られたわけなんですが、そのモニタリング機能を活用していったらどうかとか、あるいは目標値をどこか行政機関に設定していただくとか、そのモニタリングの当事者参加をどうに進めていくかとか、そんな取り組みを進める中で、このギャップを解決できるんじゃないかということには、ふわっと分かってはいるんですけども、これもひょっとしたら、私のひとりよがりかもしれません。そこで、今日はパネラーの皆様、それから会場にいらっしゃる皆様からご意見をお聞きして、ご一緒に考えていきたいというのが、パネルディスカッションの目的だと考えています。吉井さんは、今まで残っていただいていますが、放送の事情に詳しい方ですので、いろいろお答えいただきながら、ぜひそういった議論を深めていければと思います。

では、障害者、障害者関係の人たちと、一般の方、特に放送事業者、それから行政の方々とのギャップをどう埋めていったらいいかということについて、それぞれのパネラーの皆さんから、まず口火をきっていただければと思います。

最初は高岡さんから、先ほどの報告ではちょっと言い足りていないかもしれませんので、どうぞお願いします。

認識のギャップをどう埋めるか

高岡 私も聴覚障害者制度改革推進中央本部の調査団の一員として、韓国の放送状況を聞いてきました。すごくショックだったのは、韓国では放送番組に字幕がほぼ100パーセント付いているのですが、それは時間帯とか、生放送、録画放送など目標が別々にあるのですかと聞いたのです。すると、そんなことはない、生だろうが録画だろうが字幕が付いていなければ、それが聴覚障害者の差別にあたってしまうので、24時間全部字幕を付けるんだという考え方が説明されたのです。それは誰がどういうふうに考えたのですかと聞いたら、放送事業者が自主的に考えたというのです。私たちは、日本であれこれ話し合って、これはできない無理だ無理だという話を聞いています。しかし韓国では障害者差別禁止法ができて、字幕が付いていないテレビは差別になるから何とかしなさいというので、全部リアルタイムで字幕を付けます。つまり放送されると同時に全部字幕を付けるので、報道番組も生放送も関係ないんだというのです。それを聞いて、すごくショックを受けました。字幕を付けることは当たり前だという、そういう発想の転換があって、政府が字幕制作をきちんと補助していることも聞きました。それで先ほどの報告の中でも、放送事業者と私たち障害者の意識の差ということを話したわけです。ですから韓国の考え方を見ていると、これは障害者差別禁止法の成立を何としてでも勝ち取らなくてはいけないと思ったりしました。でも、日本ではそんな状況があるので何とか合議をしながら決めたいというふうにも思います。東京で韓国の障害者協会の理事長さんが来て講演されたのを聞いて、また私はぶったまげました。韓国では視聴覚障害者が普通に税金も払って、テレビも買っているのに、テレビに字幕がない、手話がないということで猛烈な抗議運動を起こし、日本で言うとNHKみたいなところに集まって、たくさんのテレビをぶん投げて壊したのだそうです。大変激しい抗議活動を経て放送法の改正を勝ち取ったということも聞いたので、日本の視聴覚障害者はおとなしいなと思ったりしたのですが、日本では日本のやり方でなんとか理解を得ていきたいと思いました。

 

寺島 どうもありがとうございます。では、野々村さんお願いします。

 

野々村 1つは、高岡さんのレジュメの中で、障害者の解説放送、字幕放送、手話放送はマイノリティサービスだという意識が放送事業者にあると書かれていましたけれども、ここの部分が大きいんだろうなと思うんですね。誰もが必要としている公共性のある重要なサービスだと捉えるのか、マイノリティへの特別なサービスという位置づけになっているのかが、まず大きな問題点なんだろうなと思います。

それと吉井さんも言っておられましたけれども、よかったという評価を放送事業者に返していくのは、すごく大事なことだと思います。私自身も先日、日本テレビさんで「20世紀少年」の音声解説の付いたものを見たのですけれども、あの映画は音だけの部分が多くて、解説が付いていないと本当に何が何だか分からなかったと思います。やはり解説放送のパーセンテージを上げるうえでも、映画に音声解説を付けていくことが大事だろうと思いますし、また多くの視覚障害者が望んでいることだろうと思うのですが、今回解説が付いていてよかったよという声を返していくのは、大事だろうなと思っています。

 

寺島 ありがとうございました。次に浅利さんお願いします。

 

浅利 高岡さんから報告のあった韓国の話を聞くと、ショックというよりは何でしょうね、本当に恥ずかしいという思いがあります。日本といえば、アジアの中でも経済大国と言われていましたよね。ところが、福祉行政の発展を考えると、日本は先進的どころか、今は逆転現象になっているというような話で、非常に驚きがありました。日本は、法的な整備の中での何がネックになっているのか、それをどう乗り越えて解決していけばいいのか、その方策が大切だと思います。

2つ目として、先ほどは触れませんでしたけどやはりちょっと申しあげたいことは政治のことです。やはりわれわれにとって、政治に関する情報へのアクセスが不足しています。例えば、国会中継がありますが、皆さんはその審議内容が聞こえるわけですけれど、聴覚障害者はまったく分かりません。手話も字幕もないので、ろう者も難聴者も分からない、結局は国会中継の画面だけ見えるという現状が今も起きています。ぜひ、情報をもっときちんとした形で付けていただくような取り組みをしなければいけないと思っております。

 

寺島 どうもありがとうございました。では、大嶋さんお願いします。

 

大嶋 韓国の状況が少し分かるようになったので、私も述べたいのですが、やはり基本は、障害者基本法と差別禁止法の違いですね。これは決定的です。差別禁止法があるということ、そしてそれに基づく実施状況から、大きな差が生まれてしまったと言えると思います。例えば、障害者向けのテレビを作って配布するなんていうことは、日本のメーカーは絶対にしません。なぜかというと、儲からないからです。韓国でもそれは同じなんですね。しかし韓国では政府が法律を作り、ちゃんとお金を出してメーカーが作り配布しているんですね。だから企業も採算が合うわけですし、国の保障の下に行われているという点が非常に大きな差だと思います。ここを日本の場合もしっかり確立することが大事だなと強く感じました。

もう1つは、日本の閉鎖性ですね。その閉鎖性というのは放送局の閉鎖性につながっています。いわゆる放送局の下請け制度というのは徹底したものです。これが再三やらせ問題などを引き起こす原因になっているんですが、これは追及されて改善されたということはあまり聞きません。やはり開かれた放送局といいますか、広く意見を聞くことは大切です。ただ、聞くだけではだめなんです。放送するんだから聞くのは当たり前です。聞いてその運営に生かすための具体的措置を実際に取るということ、例えば放送の経営委員会や運営委員会、番組編成の場に、きちんとその立場を明確にした障害者を加えるということをしなければ、なかなか解決していかないだろうと思いました。

あともう1つ、最後に技術的な問題ですが、手話がクローズドサインとして放送できない、音声解説は5.1サラウンドのときは放送できない、結局できないというのが日本のデジタル放送なんです。これも閉鎖性と関わりがあるのですが、吉井さんが触れられましたように、日本には世界に名だたる基準というのがあって、外国メーカーが日本に入り込めない基準を作ることによって、日本の家電メーカーやそういうものを守ってきたという経過があります。この基準があるために障害者向けのいろんなことができなくなってしまったということが言えます。この問題も、それを決めていく段階で障害者の声を届ければ、技術的には何も難しいことじゃないです。6チャンネルを8チャンネルにするということも、何も複雑な技術はいりません。あるいはクローズドサインを実施することも、何も難しい技術ではありません。目で聴くテレビは、クローズドサインでやってるわけですから。NHK技研も認めていますが、日本でクローズドサインができるのは目で聴くテレビです。われわれができるのですから、日本の放送技術ではそんなことは簡単にできるはずです。どうしてできなくなってしまったのか。やはり障害者の要望が、準備の過程で反映されなかった。そういう意見を聞こうということにはならなかった。ここに問題があるということだと思いますね。だから今後の課題としては、いろんな場所に障害当事者が参加をして平等に意見を述べていく。その中で障害者対策も進んでいくという実態を作っていかなければならないと思います。

 

寺島 どうもありがとうございました。

ちょうど3.11の少し前だったでしょうか、総務省が窓口となって、「全文字協(全国文字放送・字幕放送普及推進協議会)」という放送事業者の集まりと、私たち障害者放送協議会との意見交換の場がありました(2011年2月4日に開催)。その中で、冒頭に申しあげように、私から放送のガイドラインをお示しして、対応をお願いしたことがあります。そのガイドラインの1つを読み上げますと、「緊急放送が流れたとき:一般の番組が流れているときに、チャイムが鳴って、ニュース速報や地震速報が流れるときがありますが、画面上には字幕や図形で現れていても音声にならず、視覚障害者には、何がおこっているか分からません。解決法:このようなとき、アナウンサーやキャスターが『ただいまのチャイムは、三陸沖で地震が発生したことをお知らせしたものです。』など、肉声で簡単に説明することはできますか。」というものがあります。偶然にも、「三陸沖」という例を挙げて、そのように具体的にお願いをしたんですけど、結局、相手にされていません。その後も、今でもそうなんですけど、L字型画面の中で文字が出たときに、たとえ緊急放送であっても、アナウンサーの人は読み上げないですよね。どうしてそうなのかよく分かりません。予算がないということをよく言われますけども、この場合は予算は関係ありません。アナウンサーやキャスターの方が読み上げればいいだけのことですから。でもそれをしてくれない。どうも放送事業者の中に、それを否定するような文化があるんじゃないか。それを覆すにはどうしたらいいかということを思い始めています。それを今日のディスカッションのテーマにしたいと思ったわけです。さて、そのような認識のギャップを、どんなふうに解決したらいいか、今までの発言を受けて、吉井さんからコメントをいただけますでしょうか。

 

吉井 その前に、1つすみません。韓国で障害者向けテレビを配っているということですが、それはどういうテレビですか。具体的に教えてください。

 

浅利 「デジタル放送時代の視聴覚障害者向け放送の充実に関する研究会」のホームページにアップされています。そこを読んでいただければ分かると思います

 

吉井 具体的にどういう機能を持っているテレビなんでしょうか。

 

大嶋 韓国で配布されているテレビは、一般に市販されているテレビと基本的にはあまり変わりません。一般の店頭では2万円で購入できます。政府が配布したのは6万台で、自主的に購入されたものが何台かは把握していないというふうに報告されています。一般のテレビと違うところは、1つは解説放送がきちんと受信できる独自の回路を持っているということ。もう1つは字幕のサイズを個人で決められ、また色分けができるようになっていることです。

これは現在配布されているものなんですが、もうすでに第二バージョンが考えられていて、このバージョンは、いわゆる障害者の専用放送が受信できるものと、その専用放送と一般放送とのいわゆる字幕合成ができるような機能を付けていることが、現在の新しい開発段階だと説明を受けています。障害者にとって必要な機能をさらに加えていくということになっていますが、それも一般の店頭で販売ができるものとされています。22インチのデジタル薄型テレビなんですけれども、22インチの一般のテレビを買うのと同じ値段で誰でも購入できます。障害者の人はそれを選んで購入すれば、さっき言ったような特別な機能を利用することができます。

日本で進み始めているいわゆるIPテレビと、少し技術的には似通ってきています。今の普通のデジタル放送に、IPテレビ受信機能がついているというものですが、これは日本でも売り出しています。

 

吉井 大嶋さんちょっと質問なんですけども、韓国で字幕のサイズが決めれるとか色分けができるというのは、日本の字幕のアライブ規格とイコールですね。ナブ(NAB)規格ではなく。

 

大嶋 そうです、ナブ規格ではありません。韓国にアライブ規格はありませんが、基本的な機能として言えば、同じようなところがありますね。

 

吉井 それでは寺島さんがおっしゃったギャップの問題について、お話をさせていただきます。

まず、韓国の話がいろいろあったんですけども、韓国は、法律だとか放送における障害者のサポートの問題について、実は日本のこともいろいろ研究をしたんです。まあ世界のことも研究したんですけども、韓国の政策を立案する若手のスタッフの人たちは、世界で一番進んだものを実現しようという考えでやったんです。だから、日本よりはるかに進んでいるのは当たり前だというのが1点目です。

2点目ですが、韓国から日本語の非常に堪能な調査員の人がうちの編集部に来て、障害者の例えば字幕放送をどうするんだというヒアリングをしました。それで、日本では研究会が行われてこういう議論あるんだよというようなお話をしました。その調査員の人は、政府が法規制をして義務化すべきなのか、あるいは日本のように放送局の自主的な取り組みに委ねるのがいいのかは、非常に大きな懸案事項として自分は考えています、という話をされていました。

私はどっちがいいのかは分かりません。アメリカは強制的にやっていますが、アメリカの場合は手話放送はないんです。規制に入ってないんです。字幕は100パーセントという話です。アメリカに住んでいる英語の堪能な知人に言わせると、ひでえ英語だよ誤字だらけだということです。じゃあ、誤字だらけだからだめかというと、アメリカの人間は、誤字でもあった方がいいという考え方だと言っていました。

私は放送局との意識のギャップについて、こういう具合に考えています。まず放送局には放送局の論理があると思うんです。平等に公共放送としての役割を果たすということと、もう1つは民間事業としてどう成立させるかということだと思うんです。

花王さんがCMに字幕を付けるのは、花王という企業がもともと宣伝をすごく大事にしてきたということがベースにあるんです。要するに生活用品ですから、こんな新しい製品ができたということをよく知ってもらわないと売れません。ライオンに負けちゃいけないというのがありますから、そのために宣伝をいろいろ使うわけです。100パーセントの人に届けたいっていう思いです。CMというは100パーセントの人に届いて、初めて買っていただけるという判断をしてもらえるわけですから。だから障害をもっている人たちにも届けるということですね。

アメリカの場合、IBMが最初にCMに字幕を付けたと聞いています。その次はP&Gが付けました。さっき高岡さんが、日本の聴覚障害者の運動はやさしいのかなとおっしゃったんですけども、アメリカの場合は、P&Gの商品を買うという運動をやったんです。商品を買うという、非常に資本主義にのっとった運動です。実はそういうあたりってすごく大事だなと思います。字幕付きCMを放送したことによって、商品の売れ行きが変わった。だから自分はこの放送に字幕を付ける。あるいは解説を付ける。それはスポンサーとしての要望である。そういう考え方に持っていくためには、どういうやり方がいいのかということだと思うんです。

誰も権利を否定はしないです。君たちには権利はないんだって、真っ向から言う勇気のある人がいるかというと、今の日本にはいないです。

もう1つ重要なのは、放送局の人たちはエリートですからね。東京大学だとか、日本の有名私学を突破して、難しい競争を勝ち抜いてきた人たちですから、彼らを揺さぶるのに権利ですっていう言い方をしてもなかなか難しいです。頭では分かっちゃうんですけど、でも行動にならない。彼らの最大の弱点は、例えば野々村さんと一緒に食事をしたことがないんです。平たく言うと、視覚障害の人はどういう具合にご飯を食べてるのかっていう体験がないんです。

スウェーデンのサムハルという、障害者就労では世界でナンバーワンの企業のトップの人が来たんです。この人は、若くして日本でいう厚生省の事務次官をやられていた人なんですが、こういうことを言っていました。今、スウェーデンの障害者の施設や、老人ホームの施設に行くと、大きな木槌が置いてあるそうです。なぜかというと、スウェーデンはかつて貧しい国でしたが、その時代には、障害のある人や年寄りをこれで殺していたんだそうです。自分たちが食えないから。それで、自分たちの考え方の基本をそういう時代に絶対に戻してはいけないんだということを強く意識するために、木槌を置いてあるそうです。

スウェーデンでは、第二次大戦後に何をやったかというと、障害をもっている人も健常の子どもたちも一緒に勉強するということから始めました。するとどうなるかというと、例えば職場の中に聴覚に障害のある人や、目が不自由な人がいても、一緒にコミュニケーションするすべを持ってるって言うんです。そういうことで、自分たちの事業が成り立っているのだそうです。

このサムハルの面白いところは、他の一般企業よりもちょっと月給が安いんです。するとそれがインセンティブになって、うんと技術を身につけて、他の一般企業で就労します。そこで働いて自分はだめだと思ったら、そのサムハルに戻ってくることができるという、循環型をやっているんだそうです。

スウェーデンの障害をもっている人の中で、一番多いのはどういう障害だと思いますか。アル中なんです。進んでいる社会とは言われながらも、アル中の人が多いんです。つまり非常にさびしい人たちが多いっていうことだと思うんです。

という具合に考えると、やっぱりいろんなところにギャップがある。

個人ベースでもそうです。これが組織対組織であっても、やはり個人の上で成り立っているという側面を考えると、前に進んでいくためには、運動の仕方も含めて、相手の理解を求めたり、いろいろな方策がもっとたくさん考えられてもいいのかなって思います。

ギャップをなくせと言ってギャップがなくなるんだったら、もう日本はもっとフラットな社会になっていると思うんです。しかしそれができないわけです。僕は雑誌を作って、皆さんを取材させていただいたり、放送局を取材していて一番思うところはそこです。ギャップがあることはみんな知っています。それをどうやってなくすか、どう解決していくか、そのためのいろんな具体的な方策を、もっと作っていくことじゃないかなと僕は思っています。

 

寺島 どうもありがとうございました。今日のテーマもそのとおりだと思います。ギャップをなくすために、今までの話の中で出たご意見としては、1つは、障害者差別禁止法の下で法的に枠組みをはめてしまえばこういった問題が解決できる可能性はあるということ、もう1つは、個人的な関係に落としてしまう方がいいんじゃないかということです。大きく言うとこの2つぐらいが出てると思うんですが、ここで会場から、今までのコメントを聞いてぜひ発言したいという方がいらっしゃいましたら、ぜひご発言ください。

フロアからの発言

会場 今までの議論を拝見していて、ろう者の視点から、抜けている問題があるのではないかと思います。テレビ番組には苦労して字幕を挿入しているわけですが、字幕が付いているにも関わらず、見られないという問題が今起こっています。何かと言いますと、ホテルのテレビで字幕が表示できないところが多いのです。ホテルに宿泊するのは旅行中です。旅行中にも関わらずテレビが見られない。ニュースが情報として入ってこない。大変問題だと思います。

実際に去年の話なんですけども、尾瀬に行ったときに、大雨になりました。旅館に泊まってテレビを見たのですが、その旅館では字幕を見ることができたので、その地方で集中豪雨という情報が分かり、助かりました。しかし、もし字幕がなければ、結局情報が分からないという状況にあります。

6月に、全国ろうあ大会が京都で開かれました。参加者が5,000人にのぼりまして、全国からたくさんのろう者が集まりました。当然ホテルに泊まります。結局字幕がないと問題になります。ろうあ連盟の立場から、テレビに字幕をつけてほしいと要望を出したという話を聞きました。やはり断ったホテルもあるようです。

この問題は、苦労して字幕を付けても、結局それ見ることを妨害してしまうということです。これは人権問題になるのではないかと思っています。今までこういう問題は特に意識していなかったようですが、ぜひこういうことも含めて考えてほしいと思います。

 

寺島 どうもありがとうございました。時間がどんどんなくなってきてしまいましたが、ほかに会場の方で何かご意見がありましたらどうぞ。

 

大橋 日本盲人会連合の情報部に所属しております大橋です。
聴覚障害者の方の発言が続きましたので、視覚障害の立場でも一言触れたいと思います。
この通信放送に関する問題は、もう少し障害者団体のほうも技術革新に対応した現実的な要求をまとめ、ときには大きな発想の転換をしないといけないかなと、最近考えております。各種行政指針を見ても非常に細かくあるべき方向性なども示されてはいますが、障害当事者の実感としましては、隔靴掻痒の感があって、私たちが望む実態をあまり反映していないと感じています。一方、障害者団体のほうも残念ながら後追いの要求が多い気がします。たとえば、5.1サラウンド放送などに関しても、解説放送が技術的にできないことがあとから分かったので、じゃあ他の方法で解説を付けるよう何とかしろ、みたいな、そういう後追いの運動になっています。これからは、僕は視聴覚障害者というよりももっとハードルを高くして、デジタル放送時代においては、盲ろう者の、見えない聞こえない人たちの放送通信をどう保障するかという、そのくらいの視点を全面的に出して議論をしていかないと視覚障害者が満足できる放送にはならないと思います。今のままでは、この点とここのところをちょっと改善してくれたらいいみたいな議論に終始して、改善された頃にはソフトもハードもバージョンアップすることによって、また新たな不都合を感じるというように、常に後追いになっています。ユニバーサルデザインとか、バリアフリーとか、耳障りのよいキーワードに私たち自身も過大な期待を持ちつつ、現実問題は鬼ごっこみたいな状況を繰り返してきたわけです。くどいようですが、今後は、放送通信に関する目標のハードルをもっと高くしない限り、今までの努力目標的な開発指針などでは、解決は難しいんじゃないかと思います。それから、韓国の例が出ましたけれども、
今まではバリアフリーとかユニバーサルデザインとか、一般の放送などに視覚障害者への配慮がなされるよう期待を持っていたんですけれども、3.11の大災害時における非難情報や避難誘導の不備などの現実を考えると、むしろこれからは国が積極的に、視聴覚障害者向け、盲ろう者向けの機器などを開発して特別に貸与するような、そういう形も検討していかなければならないのではないかと思っています。視覚障害者団体としても、発想の転換が必要な時期に来てるのではないか、と感じています。以上です。

 

寺島 どうもありがとうございました。障害者運動の方か先行する、それから国に対して働きかける。そういったことがご意見だったと思います。

 

井上 井上と申します。障害者放送協議会の委員をしています。

午前中に高岡さんのご報告の中で、今回の研究会では、視聴覚障害者以外の、例えば知的障害の方、発達障害や学習障害の方のたちのニーズが把握されていないというご指摘がありました。

そのことに関してちょっとお話しいたしますと、そもそも知的障害は、学問的には発達障害にくくられることになると思います。でも日本の法律制度体系では知的障害と発達障害は分けています。発達障害というのは、いわゆる知的な発達には全般的には遅れがないんです。しかし部分的に、例えば読むとか書くとか話すとか推論するとか、読み書き算数と言ってもいいのかもしれませんが、そういう能力、あるいは習得する力などに、部分的な困難があるとされます。それぞれの方がそれぞれ違う困難を持っています。総人口のうち、これは見積もり方によって多少違いますが、少なくても5パーセントはいると言われています。多い方の見積もりですと10パーセントです。文部科学省では、今から何年か前に、義務教育にいるお子さんだけですが約4万人規模の調査をやり、6.3パーセントの出現率という数字を出しています。5パーセントと10パーセントの間ぐらいということが言えます。

要するに何を申しあげたいかというと、テレビ放送のいわゆるバリアフリーの問題ですが、実は発達障害や知的障害の方にも当然大きなニーズがあるということなのです。例えばNHKの「手話ニュース」や、「週刊こどもニュース」これは放送終了してしまい残念ですが、発達障害の方や知的障害の方が、ご家族と一緒に見たり、あるいは録画取りして学校の先生が授業で活用したりという、そういう使われ方をしていたんだそうです。

なぜ、これらの番組がよく見られていたのかと言うと、「手話ニュース」の場合は、全般的にアナウンサーがゆっくりしゃべりますね。字幕も付いています。しかもただの字幕ではなく、難しい漢字にルビ振りしてあり、文字も大きく、読みやすいです。知的障害や発達障害の方にも理解しやすくなっている。ただし字幕が縦書きなのは、一部の発達障害の方にとって苦手かもしれませんが。それから、「週刊こどもニュース」では、番組の作りそのものが、当然子ども向けですから、分かりやすくなっています。実は私なんかでも、見ていて非常によく分かります。

仮に全人口10パーセントの出現率としますと、これはとても大きい数です。それから高齢者の数も大きいです。私も高齢者になってきていますが、そういう方のニーズまでひっくるめますと、これはぜひテレビ局の方や、コマーシャルを作っている方も、考えてみる必要があると思うんです。全人口の10パーセントのビジネスチャンスを失うことになるんじゃないかということなのです。

ただ、残念なことに、発達障害や知的障害の方たちは、自らがそういうニーズがあることを発言することがなかなか難しいんです。中には、自分自身でも気づいてない方もいらっしゃいます。そのあたりがすごく悩ましいところなんです。高岡さんの発言に補足と言ったら失礼なんですが、そういうことでお話しいたしました。

一つ言い忘れましたが、発達障害者支援法という法律があります。そこに定義ですとかいろんなことが謳ってあります。また、つい最近改正された障害者基本法での定義には発達障害の文言が入ったのですが、「精神障害(発達障害を含む)」という書き方がされています。よく誤解をする方がいます。このことについての経緯は、長くなるので省略します。国会での議員さんたちの質疑においても、精神障害と発達障害が混同されている場合があります。ただし、両者のニーズには多くの共通点があることは確かですが。

 

寺島 どうもありがとうございました。発達障害や知的障害を含む、他の障害者も対象にしていくことが必要だろうということすが、先ほど大橋さんのご意見の中には、盲ろう者も含めていくべきだということもありました。他に意見などお願いします。

 

矢澤 障害者放送協議会の災害時情報保障委員会の委員長をしております矢澤です。今日のシンポジウムでは、今まで分からなかったことがずいぶん分かったし、問題点も明らかになりました。5.1サラウンドで解説放送ができないことについては、実は地デジの音声には8チャンネルあるけども、5.1以外の残りの2チャンネルを活かせる形を作っていないからだということや、先ほど会場の大橋さんは、やっぱり障害者側が先行して要求や提言をしていくべきだと発言されましたが、それはまさにそうだと思います。浅利さんからは、アナログ放送時代から要求の声を上げているのに、地上デジタル放送になっても問題が解決されない、これからは当事者がどんどん参画して声を上げていく形を作るべきだとの発言もありました。そういう視点はとても大事だと思うんです。

私が放送と障害者に関して一番感じましたのは、昨年の3.11で多くの方が亡くなりました。その原因の1つが、津波の情報を正確に聞くことができず、逃げ遅れて亡くなったということです。一方、車の中で津波の情報を聞いて、避難する方法を変えて逃げ延びた人もいました。そういうことを考えると、やはり誰でもアクセスできる放送というものが、今後とても大事だと思うんです。

今後の技術の進歩に向けて、やはり障害者団体全体として要求をしていくことが、非常に大事ではないかと思います。今日、皆さんのお話し聞いて、そういうことを痛切に感じました。どうもありがとうございました。

 

寺島 どうもありがとうございました。

 

会場 日本映像翻訳アカデミーという映像翻訳者を養成する学校の小笠原と申します。われわれのところでは、映像翻訳者を対象に、聴覚障害者用の字幕制作をする人、解説放送のガイドを作成する人の養成を、今、メディアアクセスサポートセンターというNPO法人の指導を仰ぎながら取り組んでいます。そこで感じたことをいくつか、ちょっとお話しさせていただきたます。

いろんなテレビ局から字幕制作のお仕事をいただいていますが、その中でテレビ局によってすべて字幕制作のルールが違うことに、この仕事に関わるようになって初めて直面しました。そのことは、当事者の方々にとっても、見るテレビごとにルールが違うことになるので、どうなのだろうと思いつつ、テレビ局からこのルールでやってくださいというものをもらってやっています。

われわれも、できれば統一したルールがあった方が、当事者にとってもやさしいのではないか、もしくは字幕ライターを養成するにあたって、1つのきちっとしたルールがあれば、もっと広く教えることができるのではないかと感じております。さらに、先ほど大嶋さんがおっしゃっていた字幕の品質についても、1つのルールが確立されれば、それにしたがって向上していくのではないかなと、今も感じながらやっております。

もう一点は、放送局の下請けという話が先ほども出ましたが、テレビ局からの直接の仕事というわけではなくて、たぶん、下請けの下請けの下請けぐらいから、あなたのところで字幕ライターを養成しているようだから、仕事を請けませんかという話が来る場合もあるし、翻訳者/字幕ライター個人に対して話が来ることもあるようです。そこで、実際に字幕を作っているライターたちが、大体どれぐらいの時給で仕事をしているかという現状は、ご存じでしょうか。先ほど、1時間の生番組の字幕を作るのに、10何万から20何万という話がありましたけども、それに対して、番組の原稿を作っているライターたちが、どれぐらいのコストでやらされているのかという、そういう現状も評価しないと、今後品質の高い字幕を作っていこうという人たちが間違いなく必要になってきますので、その人たちが育っていくうえでの障壁になっていくのかなと感じています。

 

寺島 ありがとうございました。大体いくらぐらいなのか、差し支えない範囲で、言っていただくことはできますか。

 

会場 いろいろありますが、1つ最近聞いた話では、ある翻訳者/字幕ライターは10分ぶんの素材を、1,000円でやってくださいと言われたそうです。大体10分ぶんの素材を作るのに、その数倍の時間がかかります。1時間番組というと、民放の場合、コマーシャルがあるので、45分ぐらいです。それを作るのに、ある程度熟練した方でも、丸1日はかかります。それだけかけて、4,000円ちょっとにしかならないという現状があります。もちろん、もっと高い単価でやっている場合もありますけれど。

 

寺島 どうもありがとうございました。やっぱり関係者の方が来られると、よく事情が分かっていいですね。なにか業界としての文化があるんですかね。私たちが、上の立場の人に、こういうふうにできませんかと言っても、ずっと下までの組織があって、なかなかそうはいかないんでしょうね。

 

会場 目で聴くテレビにリクエストがあります。目で聴くテレビはいつも同じ番組が繰り返していて、昼のニュース、夜のニュースと同じものが流れたりします。ニュースの内容はちょっと分かりにくいので、高齢者や主婦の人たちの意見なども取り入れながら、分かりやすいニュースを作っていただきたいと思います。

 

寺島 どうもありがとうございました。大嶋さん何かありますか。

パネリストからのコメント、総括

大嶋 まず、先ほど字幕の制作費用のことでご発言ありましたが、現在は、放送局出しで1分1,400円~3,000円が基本です。現在この値段はだいたい1,000円以下に落ちてきていると言われています。しかし基本的にキー局では、品質を確保しきちんと作る立場から基本価格はキープされています。

私ども「目で聴くテレビ」では、字幕の基準やルールをしっかり確立しなければならないということで、字幕編纂者を責任者にして字幕オペレーターの研修を始めています。この研修では、障害者権利条約の内容や、障害者問題をしっかり理解していただいて、障害者向けの字幕というものに誠実に取り組む人を育てながら、基本的なルール作りも始めております。字幕のルールを確立することと、検定試験も行い、障害者にとってよい字幕を誠実に作る人たちが育つことが重要と考えています。

手話については、全国手話研修センター・日本手話研究所との協力で、ノーマル手話という放送に対応した手話を普及するということで研修をしています。

手話の場合は責任の所在はあいまいにされています。それでも、できたものは放送される。これは大きな問題だと思うんです。検証してみたら間違っている。間違ったまま放送されたら、これは放送事故です。ところが、手話については放送事故ということが言われない。字幕で放送事故を出さないよう慎重に行うなら、すべてにおいて慎重にすべきではないか。手話でも字幕でも解説でも、すべてにおいて誠実に作っていくという立場を貫く必要があるんじゃないかと私は思います。

最後に、目で聴くテレビへのご要望をいただきありがとうございます。私どもも、もうできるだけ障害者の皆さんの要望に応える番組にしていこうと、ずいぶん努力をしております。まさに財政的な問題を含めて、大変苦労もしていますが、随時改善はしていっております。さらに改善を進めて行きたいと思っておりますし、いよいよ字幕、手話から、音声解説の開発を始めました。

私どもの放送の受信機は行政が給付をしております。聴覚障害者だけに限定するということではなく、障害者全体の活用に広がるよう目指していきたいと考えていますので、皆様のご協力をお願いします。

 

寺島 どうもありがとうございました。字幕放送に関しては、各放送局が独自のルールを決めてしまっているというお話がありましたが、解説放送については、これから始まるわけですから、統一ルールを作ったらいいんじゃないかということを、1年ぐらい前に言い始めたんですけども、なかなか難しいようです。その辺が、今大嶋さんが言われたとこに結びついてきたわけですね。

 

大嶋 字幕の基準とルールについては、基本的に確立しています。キー局では、すべてこんな分厚い、しっかりしたマニュアル本を作っています。しかしこれは共通していません。各局ごとに持っているんです。ですが、見ていただいたら分かりますけど、おおむね共通しています。というのは、この十数年にわたって字幕の研究開発が行われてきて、当事者から見てよく分かる方法を採用しながら、試行錯誤を繰り返して今日に至っているからです。

ですから、これは活用していくべきだし、私どもとしては、その中から良いものを整理をして1つのものにしていきたいとも考えております。

解説放送については、やはり5.1サラウンド放送時にはできないのが現状です。解説放送を増やすこと、一定条件では解説放送ができない現状を解決することが引き続き課題です。

 

吉井 5.1サラウンドと解説放送の関係なんですけども、先ほど申しあげたように、テレビの受信機の対応は、もうオッケーなんです。現在BSデジタルで放送しているものは、受信機で表示できることになっています。受信機はアライブの規格で作られているので、地上波であっても対応する規格です。そこの認識をリセットしていただくと大きいかなと思います。

 

大嶋 以前から8チャンネル問題ははっきりしていますし、その解決を要求していますが、吉井さんの話からも、現状は何も変わっていません。

 

高岡 ピンクのネクタイの高岡です。吉井さんのお話された「太陽政策」についてですが、これは、放送局内で字幕制作している方々にもっと温かい声をかけてほしいということですね。それは当然で、私たちもしてきたつもりです。

放送事業者にも、太陽政策はずっと続いてきました。字幕放送が始まったときから、2分の1の補助が出ています。手話放送にも解説放送にも出てるんです。2000年のときに、総務省は、ミレニアム・プロジェクトで、字幕の送信システムの開発を1億円だか2億円かけてやったんです。それは、現実には各局でそんなに普及してないということが報告書にも書いてあります。視聴覚障害者にどれだけ太陽が当たっているのか、ということですよね。

字幕放送はどんどん普及してきました。しかし手話放送、解説放送はずっと少ないままです。これはやはり、もっと太陽を当てる必要があると思いますよね。

それから、放送局の人はエリートばかりだから、権利という言葉を出しても通じないというお話もありましたが、中にはなかなかいい人もいらっしゃいます。確かもう10年前かな、ここで放送シンポジウムをやったときに、当時の郵政大臣の野田聖子さんが、すごく温かいメッセージをくださって、放送行政局長以下幹部がずらっと来ました。そういうふうに理解のある行政の人もいらっしゃる。

今の障害者向け放送を取り巻く現状は、やっぱり利益優先の社会、利益優先の企業の考え方があることが問題ではないでしょうか。そこが変わらないと障害者のための施策も進まないような気がするんです。本当は、3.11の大震災でその視点は変わったはずなんです。国民の多くは考え方が変わっています。でも企業や放送事業者はそう変わりきれていなくて、そういう多くの企業のスポンサーでテレビ番組が製作されているところに関係があるんではないでしょうか。

障害者側から、解決策は何かちゃんと提起しています。いろいろな研究会や施策を検討するところに障害者を参加させてほしいと思います。障害者はそれほど専門的な問題は知らないかもしれません。でもどういう話し合いがされて、何が問題かということを学ぶわけです。学んだ障害者が、自分の団体の会員などにそれを知らせることで、また新しい発想や提案が出てきます。そうして施策を作る側、企業の側との交流が生まれるわけですね。ですから、障害者を各種の研究会や検討の場に参加させてほしいですし、そこから始めたらどうかと思います。

 

野々村 やはりあらゆる場に障害者が参画していくためには、いろいろな政策決定の場に当事者が入るシステムが大事だと私自身も思うんです。

それから「ギャップ」の話に少し戻りますけど、やはり放送事業者にとっては、放送法の中で、ちょっと文言をはっきり記憶していませんが、間違ったことを伝えてはいけないとされている部分が、やはり1つネックになっているのではないかと思います。さっき吉井さんから、アメリカの字幕は間違いも多いという話もありました。それから今後、自動音声認識でやっていこうという話もありますけど、音声認識の場合にどうしても読み違いになる場合もあったりすると思いますが、何と言いますか、正しく伝えなければならないけれども、がちがちに考えられすぎると字幕付与自体が難しくなってしまうので、そういった部分でも、放送法の改正も含めて考えていく必要があるのかなと思います。

日本は自主的な努力を進め、韓国は法の中に落とし込むという話もありましたけれども、やはり法律の中に書き込んでいくことで、そこから常識になっていく部分があると思いますので、仕組みに落とし込んでいくということを、今後は考えなければいけないのかなと思います。障害者差別禁止法の中でも、どこまで記述されるかも含めて、法律をどう生かしていくのかを考えなければいけないと思います。

 

浅利 先ほどフロアの方の発言にもありましたとおり、ホテルでの情報アクセスの問題があります。ホテルに宿泊したときに、テレビの字幕が付いていない、情報がきちんと保障されていないという事実が、実態としてあるわけです。今年の全国ろうあ者大会でも、ホテルを利用したのですが、字幕が出ない、情報が分からないということが実際に起こりました。安心して宿泊できないということについて、現在われわれはどのように考えるかということで、今後の取り組みが必要だと思います。

井上さんが「週刊こどもニュース」のお話をされましたが、NHKの「こども手話ウィークリー」は、聴覚障害の子どもが見て楽しんでいます。そのほかにも、例えば「おかあさんといっしょ」という番組がありますが、やはり字幕が付いていないので、ろうの子どもとお母さんが一緒に楽しめないということもあり、幅広く字幕を付けてほしいという要望もありました。そういった形の情報アクセスの整備ができる体制を作っていく必要があると思っています。※

 

〔※注:2012年10月1日から「おかあさんといっしょ」に字幕が付いています。これは視聴者からの要望で実現しています。また、「いないいないばあ!」という乳児に人気の番組にも字幕が付いています。これも聴覚に障害のあるお母さんからの要望で、健聴の子どもが何を楽しんでいるのかを知りたいという強い声に応えたということだそうです。〕

 

 

寺島 どうもありがとうございました。私の個人的な感想では、やはり放送法の制度改正に力を入れたほうがいいんじゃないかという、大方の意見があると思うんですが、吉井さんいかがでしょうか。

 

吉井 今回の総務省の研究会に出て、すごく変わったなと思ったことが、一点あるんです。高岡さんや野々村さんがおっしゃった、放送の間違いがあった場合については、前回の研究会の報告書では、放送法第9条に触れるという記述があったんです。僕はあれを読んだときに、えっ、障害者団体の皆さんも委員として出ているのに、何でこの記述が残ってるんだよと思っていたんです。今回の研究会では、第1回目から、高岡さんが、それを免責事項として扱うことによって、生字幕放送だって、もっと前に進むんだという発言をされました。放送法第9条というのは、事実と異なる放送内容によって誰かの利益が損なわれたりした場合、訂正義務があるという条項なんです。だから高岡さんが指摘された問題はすごく重要だなと思って、これで議論が前に進むなと期待しましたし、野々村さんのおっしゃったこともそのとおりだなと思います。

あともう1点は、5.1サラウンド放送と解説放送について、皆さんの中にものすごく誤解があるのがちょっとさびしいです。規格上は、5.1サラウンドで解説放送はできるんです。ただし放送局からの放送設備が、まだ6トラックのレベルのもので、それを8トラック化するための設備上の改造をしなければいけない課題が残っているということです。

放送局は、民放で言うと2015年前後に、放送設備のマスター送出をする設備の更新時期を迎えますので、多分そこで、8トラック化をやると思います。

NHKの場合は、全国に約50局の放送の親局っていうのがあるんですが、放送センターが大きく変わっていく中で、同じように、それを更新することに乗り出していくということです。

ですから、間違った解釈をベースに議論をしていると、もう時間が無駄になりますので、この点だけは、やめちゃいましょうというのが私の意見です。

 

寺島 時間が残り少なくなりましたが、最後に言い忘れたことがありましたら、どなたでもどうぞ。

 

吉井 ではもう一言だけ。僕は、この勉強会に毎年は来ていないんですけども、できる限りスケジュールが空いてるときはお邪魔させていただいています。そこで思うことは、これだけ放送や通信の技術が面白く大変化しているときに、もっといろんな切り口があってもいいかな、というのが1つです。例えばスマートフォンや、タブレットというのが出てきて、アプリで言うと、この中でLINEを使っていらっしゃる人いますか? 結構いますね。LINEなんかは、もうアプリからのメッセージがどんどん来るんです。公式アプリが。僕は年寄りなもんで、うるさいくらいに、いろんなサービスをやってみろっていうように、押しつけてくるんです。そういう時代の変化の中ですから、じゃあ放送だけの議論じゃなくて、もう少しサービスとして、通信を飲み込もうっていうことも含めて、もっと幅広い議論があっていいかなって思うんです。

そのための場となるには、ちょっと会場を見ると、平均年齢45ぐらいですかね、これを、あと15歳ぐらい下げないと、面白い議論にならないです。影響力があるのは、やはり面白い議論のあるところです。あるいは、面白い技術を使ったサービスを生み出していくエネルギーが、あるところだと思うんです。やっぱり、そういう場に変わっていくと、僕も毎年来ようかなと強く思うし、今日いらっしゃってる、放送局関係の周辺で頑張っておられる人も、あそこは欠かせないぞ、と感じると思うんです。寺島先生頑張ってくださいよ。

 

寺島 どうもありがとうございます。これからどうしていくか、どう変わっていくか、われわれも考えなくてはいけません。今までは、先ほど申しあげたように、「太陽政策」だったんです。それをどうするかという瀬戸際にあるのかもしれませんが、今日の話の中では、やはり障害者権利条約がキーになるという意見が、どうも大勢を占めているなという感じは受けました。

もう1つ感じたことは、私は以前ソーシャルワーカーをしてたのですが、放送業界の従事者が、例えば障害者になったときどうなるのか、ということです。放送事業者の有名どころの人はすごく優遇されていると思いますが、それを取り囲むというか、もっと下請けの人がたくさんいて、そういう人たちの福利厚生って、ひどい状態ではないかとうかがわれます。社会保険や年金などにさえ加入していない人がたくさんおられるのではないか。先ほどのお話でも、字幕の制作経費が、放送局と下請けの間で14分の1ぐらいになってるわけですね。放送局が1分間1,400円払ってるのが、10分間で1,000円ということは、要は、14分の1です。それぐらい叩かれてんだっていうことですね。上の人だけがいい思いをしてる業界って、あまりいい業界じゃないんじゃないかと僕は思うわけです。

そういう状況を変えるにはどうしていったらいいか、いろいろ今日は教えていただきましたので、そのことを活用しながら、障害者放送協議会の放送・通信バリアフリー委員会も、今後の方向を決めていきたいと思っております。

 

高岡 テレビを見ている当事者として、やはりテレビ局にお礼を言っておきたいことがあります。それは先ほども話に出た、ロンドンオリンピックについてです。ロンドンオリンピックでは、朝から夜まで字幕が付いてました。NHKも民放も字幕を付けていただいたので、私たちは日本の選手の活躍も世界の選手の活躍も一緒に楽しむことができ、とてもうれしかったです。これを機会にお礼を言っておきたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

 

寺島 では、時間になりましたので、これで終わります。どうもありがとうございました(拍手)