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障害者にとって今後の放送のあるべき姿~当事者・関係者からの提言~

全国視覚障害者情報提供施設協会 情報アクセシビリティ検討プロジェクト委員長 野々村 好三

 

障害者にとって今後の放送のあるべき姿というテーマですが、まず、テレビが公共的なものであるということについては、今日ご参加の皆様共通の認識だと私は思っています。この「テレビ放送が公共的だ」という言い方の中に、どれだけ障害者の視点、あるいは高齢者を含めての視点が入っているのかが、大変重要だと思っています。

障害者権利条約における放送の位置づけ

障害者の権利条約は、もう皆さんご存じのとおり、障害者に特別な権利を付与しようというものではなくて、障害のある人が障害のない人と同じ権利を持つということを、きちんと位置づけていこうというものです。今の放送の、字幕、手話、解説放送の状況を見ておりますと、まだ大きな課題があると感じています。

障害者権利条約の中で、放送、情報に関する項目を、レジメの中でざっと挙げてみましたけれども、これ以外にもあるかもしれませんが、やはりたくさんのものがあります。そして第30条では、テレビ放送についてもきちんと明記しているということがあります。

2006年に国連総会で採択され、2007年に日本が署名し、2008年に発効した障害者の権利条約、その批准に向けて現在国内法の整備が進んでいるわけですけれども、この障害者権利条約の理念に合致する放送のあり方が望まれるところです。

第30条の条文を資料にも示しておりますけれども、障害がある人が他の障害のない人との平等を基礎とするということですから、情報や文化的な作品・サービスの利用についての権利性が示されているという関係です。ここに流れている考え方は、同じ文化を共有できるようにしなければいけないということです。

高齢化社会と障害者

そして、障害者にとって利用しやすいテレビ放送というのは高齢者にとっても有効なわけです。高齢者人口が24.1パーセントというふうに、日本のほぼ4人に1人、3000万人以上が高齢者という時代を迎えている今、その高齢者の中にも目が見えにくい、耳が聞こえにくい等の状況の方が多くおられます。その中で、解説放送や、字幕、手話を充実していくことが、今後の高齢化社会の中にも大きな意味があると考えています。

例えば、視覚障害者は厚生労働省の推計では30万人ほどだと言われていますが、日本眼科医会の推定では、アメリカの基準に照らしてみると、視覚に何らかの障害がある人は164万人だというふうに発表されています。そして色覚障害のある人は、一般に300万人以上だと言われているわけです。視覚障害だけでも、それだけのたくさんの人が該当することになりますし、これを障害全分野にわたって考えれば、当然、障害者手帳を持っている人以外にも、障害のある人はたくさんいるわけで、その障害のある人の視点が、今後の高齢化社会の放送のあり方にもつながってくると思います。

私の職場の後輩に20代の者がいますが、彼は障害がないんですけれども、学生のころからずっとテレビは見ないんだと言います。若い人の中にはそういう人もいるかもしれませんが、高齢者になれば家にいることも多いでしょうし、高齢者にとって放送というのは大きな楽しみの1つだと思うのです。そうなると、やはり障害者が楽しめる放送の研究というのは、高齢者が楽しめる放送にもつながっていくのではないかと思うわけです。

視覚障害者の立場から

そうした中で、今後の放送をどう考えていくかについて、視覚障害者の立場からお話しさせていただきます。

昨年地デジ化されてから、大きく2つの動きがあったかな、と思っています。

1つは電子番組表についてです。画面に表示された番組の一覧表を、音声で読み上げるテレビを作っているのは、現状では三菱電機さん、パナソニックさんの2社あるわけなんですけども、この2社のテレビの機種、リモコンのパターンの配置、操作方法といったものを紹介するホームページが、今年4月に開設されたということです。これはすごく大きなことだと思います。企業の立場でこういう取り組みをしていただくのは、大変ありがたいことだと思います。

もう1つは、テレビの音声が聞けるラジオが販売されたことです。実は、これまではラジオでテレビの音声を聞いていた視覚障害者がたくさんいました。ところが、地デジ化されてからラジオでテレビを聞くことができなくなりました。そういう中で、テレビを聞くことをあきらめた視覚障害者もたくさんいたわけなんですが、今年の夏以降、テレビが聞けるラジオが開発されて市場に出回り始めました。これは大きな意味があることだと思っています。今、複数の会社から、テレビが聞けるラジオが発売されています。このうち、私ども全視情協では、アステムさんから発売されたラジオの開発に、1年ほど前から関わらせていただいて、より視覚障害者の声が反映されたものにしようと取り組んでいたところです。

ただ、こうしたラジオはまだ値段が高いということがあります。私自身、8月31日に行われた情報コミュニケーション法を巡ってのシンポジウムでも同じこと申しあげたのですが、テレビの音が聞けるラジオが開発されたとことは、ある意味、視覚障害者にとっての地デジ化の始まりと言えるのではないかと思うんです。ラジオでテレビ放送を聞いていたけれども、地デジ化によってそのテレビ放送から締め出された人が、それだけたくさんいるわけです。その人たちにテレビによる情報をきちんと保障していこうというのが、このラジオの開発だと思いますので、それが高い値段を負担しないと買えないということではいけないと思います。ぜひ行政的な対応も期待したいところです。

一方、課題としてもたくさんあります。データ放送が利用できないこと、緊急放送が音声化されないこと、外国人の発言に付けられた日本語訳の字幕が音声化されていないこと、等々の問題があります。これらの課題については、本当に何年も前から同じこと言い続けていますが、実現に至らないことがすごく残念です。

データ放送については、技術的には可能だということですけど、値段が100万以上するような状況の中で実用化に至っていません。実用化されなければ利用者にとってはないのも同じですので、早く実用化していただきたいと思っています。私は京都からまいりましたが、例えば関西ですと神沼恵美子という元気のいいエンターテイナーがいまして、彼女の番組で、料理のレシピなどをデータ放送で見ることができます。それから星占いなどもデータ放送で見ることができます。データ放送というのは地デジの大きな部品のはずなのに、それを享受できないのは大きな問題だと思います。総務省から出されたテレビについての大切なお知らせの中にも、地上デジタル化されればデジタル放送が聞けますよ、解説放送が増えますよ、ということが明記されているにもかかわらず、それらの恩恵に浴せていないのは、大きな問題だと思っています。

こうした部分が、今回の「視聴覚障害者向け放送普及行政の指針」の見直しにどれだけ反映されるのか大変期待を持っていました。見直し案が示されたときのパブリックコメントにおいても、全視情協として、今申しあげたデータ放送や、緊急放送や、外国人の発言の字幕のことなどを意見に書いたのですが、現状では無理だということが示されていました。この指針は5年後が目標地点ですので、現状では無理だという言い方ではなく、もう一歩踏み込んで、5年後にはこうあってほしいということが、いくらかでも書きこまれたらいいなという思いを持っていたので、すごく残念です。

やはり、日ごろの取り組みの中で、こうした障害者の思いを、国や放送事業者の皆さんにお伝えしていくことが、すごく大事だなと思っています。

テレビ放送への期待

最後に少し本論からずれるかもしれませんが、私自身はテレビ放送には大きな期待を持っています。それは、テレビで障害者のことを取り上げていただくということに関してです。

今から30年前に国際障害者年があって、そのころの障害者の報道のされ方というのは、お涙ちょうだい的な感動を誘うようなものしかなかった面もありますけれども、ここに来て、やはり障害者の実態に近いような報道がされるようになってきたと思います。

私の資料の最後の方に、内閣府の障害者に関する世論調査を載せていますが、障害者権利条約を知っているかという質問に対して、一般の人たちはほとんど知らないという数値が挙がっています。知っている割合は18.0パーセントで、これはかなり低いと思います。

また、例えば障害者団体でグループホームを建てようというときに、住民の反対が起きたりもします。それはやはり、まだまだ障害のことが知られていないということだと思います。

障害者の生活の実質的な部分を含めて、テレビ放送によって伝えていただければありがたいと思います。それがやはり、障害者権利条約を法律だけではなくて、その実質を支える部分としての国民の共通認識に変えていくのではないかと思っています。そうした今後の放送への期待を込めて、発表を終えたいと思います。ありがとうございました。