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世界保健機関(WHO)国際セミナー報告書

各国報告3:脊髄損傷の予防とリハビリテーション

平成9年11月11日(火)10:00-11:45
D501 Conference room
座長
A.Periquet   WHO西太平洋地域事務局
木村 哲彦    日本精神病院協会


Country report

オーストラリアにおける脊髄損傷の管理
SPINAL CORD INJURY MANAGEMENT IN AUSTRALIA

ルース マーシャル
Ruth Marshall
王立アデレード病院 AUSTRARIA

[要約]
オーストラリアにおける脊髄損傷の管理は特典あるサービスを実施している。我が国は総合的にみれば優秀な設備と訓練されたスタッフがおり、研究および共同訓練を受ける機会に恵まれている。オーストラリアでは6つの脊髄損傷ユニットが、リハビリテーションを行っている。1995/1996年には350人以上の新患があり、6千人から1万人の長期脊損患者をフォローしている。プログラムは脊髄損傷のマネージメントの訓練をうけた医師によって行われ、リハビリテーションはリハビリテーションナースと高度な技術を持った各療法士によって補助されている。オーストラリア脊髄損傷者登録(ASCIR)システムは長期的にみると利益をもたらしているようである。一方で、アボリジニ人地域の障害のケアは多くの困難が残されている。また、政府の予算削減の問題や、地域の介護、住居の確保などにも、人工呼吸器に依存している四肢麻痺の対策などに引き続き問題をかかえている。

[はじめに]
脊髄損傷はオーストラリアでは比較的稀ではあるが、重要な公衆衛生上の問題を残している。広大な領土を持った国がこの問題を扱うために、国は脊髄損傷ユニットをすべての州に設立した。それらはおおむねよい施設であり、よく訓練された専門的な職員がいる。

[現状報告]
過去10年間の統計学的調査では、脊髄損傷の原因は変化してきている。以前は若い男性で交通事故やスポーツ事故などが主たる原因であったが、最近は主として高齢者の外傷によるものと医学的疾病によるものとが主たる原因となってきている。1995/1996年のASCIRにおいて、オーストラリア脊髄損傷新規の国内登録では、外傷性の脊髄損傷が262例で、非外傷性が100例となっている。数千の慢性的脊髄損傷患者が外来で診察を受けた。オーストラリアで1995/1996年における脊髄損傷の人口を基にした発生率は少なくとも14.7%と推定される。

 今日の脊髄損傷に関する重要な論点は以下の事柄である。それは病院の基金の変化、退院の困難さ、人工呼吸器を必要とする四肢麻庫患者の増加、そして、オーストラリアに潜在する第三世界の問題、すなわちアボリジニ人に関する問題で、彼らが社会に復帰するためには特別なプログラムを必要とする。オーストラリアのすべての脊髄損傷ユニットは納税者の基金で建てられた公立病院に設置されている。 病院の基金が減少し、さまざまの基金が混在している問題が現実的になるにつれ、特殊なプログラムのための基金の持ち出しが困難となっている。このような状況で我々はより賢明に対応しなくてはならない。

 オーストラリアにおける脊髄損傷サービスの特徴は、全領域のプログラムを提供するところにある。急性期病棟やICUでの初期のマネージメントは、整形外科医や神経外科医や脊髄損傷リハビリテーション医が密接した連携のもとに行う。移動訓練が開始されると直ちに患者はリハビリテーション部門に移される。例外は人工呼吸器を必要とする四肢麻庫患者で、彼らは長期間にわたって急性期の病棟に残る。

 完全対麻痺のリハビリテーション入院期間は3~4ヵ月である。 完全四肢麻痺のリハビリテーション入院期間は4~8ヵ月である。しかし、医学上の合併症や退院すべき場所を得ることが困難な場合はさらに入院期間がのびる。入院中のプログラムには理学療法、作業療法、関連する患者の教育が含まれ、リハビリテーションナースのケアとリハビリテーション医による密着した指導が行われる。ソーシャルワーカーや精神科医や臨床心理士によるカウンセリングも提供される。栄養士や言語療法士も必要に応じて提供される。泌尿器科医や形成外科医や慢性疾痛ユニットからの往診、それに整形外科医の往診も提供される。同じ障害者のカウンセリングやリクリエーションプログラムそれにスポーツプログラムは病院と社会との溝に橋渡しをすること目指している。

 退院で患者との接触が終わるわけではない。退院は計画された過程であり、地域における個人的な介護や器材の供給を含んでいる。地方の患者の場合には引き続き治療も行われ。 しかし、都市部の患者は早期に自宅に帰り、外来患者としてより少ない頻度ではあるが引き続き治療を受け、リハビリテーションを達成する。治療終了後、多くの患者は地域の施設に参加するか、あるいは、特殊なプログラムたとえば体力を維持するための研究的プログラムに参加する。患者はそれらの施設で年に一度医学的あるいは治療的な検査を受ける。特に腎臓尿路系の検査は終生行われる。

 続発性の障害を予防するため、療法士や看護婦が一対一の教育プログラムを実施する。しかしながら、褥瘡予防の教育は難しい状況にある。リハビリテーション期間中、脊髄損傷患者は車いすスポーツ活動や特殊技術やレクリエーション活動を退院時のプログラムとともに紹介される。州のリハビリテーションサービス(CRS)を通じての職業的カウンセラーは労働年齢で障害を受けた人々に次のようなサービスを行う。もとの職場に復帰するか、あるいは、若い人には職業を紹介されたり、第三の教育施設に入ったりする援助を行う。 交通機関はタクシーやバンそれに最近はバスにおいても改善されてきている。すべての新しい建物は車いすで利用可能で、トイレ施設も車いすで利用可能なように州や連邦政府の法律で定められている。

 オーストラリア全ての州で看護婦、理学療法士、作業療法士、理学教育、ソーシャルワーカー、言語療法士の学位取得の教育コースを持っている。そして、臨床心理士と臨床栄養士にはさらに高位の学位を得られる。リハビリテーションの技術は卒後のリハビリテーションカウンセリングの履修証書と全ての療法の修士号によって達成される。メルボルン大学の義肢装具学部の卒業生はオーストラリア全土で雇用されている。リハビリテーション医の訓練はオーストラリアの新しい専門職となっている。オーストラジアンリハビリテーション医科大学は1990年に設立され、それは1993年に王立オーストラジアン医科大学リハビリテーション医学部に引き継がれている。3年の教育課程で整形外科学や切断学や慢性疼痛管理を含む筋骨医学の全ての領域を学ぶことになる。そして、脳卒中や脳外傷脊髄損傷管理を含む神経学的分野の履修も行われる。

[未来への提言]
将来的には臨床的および疫学的研究双方を行う基金が今以上得られる可能性がある。ASCIRを利用することによって、外傷性および非外傷性双方の脊髄損傷の研究を行うことが可能になる。IMSOPのオーストラリア支部の発展により、脊髄損傷に関する全ての療法分野のスタッフのネットワークが形成され、将来的に共同研究が可能となるであろう。しかしながら、今なお直面している問題点はいかにアボリジニ人社会における外傷をよりよく予防するかである。また現在はしばしばみられる、長期にわたる医学的合併症を持ったまま、アボリジニ人の患者が故郷に帰すことを防ぐことにある。ASCIRを通じてこれらの人々を追跡することは、取り上げるべき課題である。他の大きな問題点は人工呼吸器を必要とする四肢麻痺患者数の増加である。彼らは地域において分時にわたる介護が必要である。そのような介護に必要とされる費用の持ち出しの問題は、患者の側の問題ではないが、同様に費用に悩んでいる他の人々や施設居住者の介護費用を分割することになる。それ故、我々はこれらの人々を家庭に復帰させるにはその介護のレベルが受け入れ可能であり、その生活の費用を地域が進んで支払うことが可能であるべき新しい道を見いだす必要がある。最後に、財政的環境は改善されそうにないので、我々はこのプログラムを維持するため、従事するスタッフや関係する基金の増加をひたすら期待するだけでなく、そのプログラム自身を改善すべきである。これらの問題を達成するため、我々は入院期間を短縮し、適切な場所に早く送り出す運動を推進している。

 最後にオーストラリアのリハビリテーション医学の研修はどの国の医師にもその機会が与えられている。そして、他の関連職種にも脊髄損傷マネージメントの分野における専門的技術を獲得する研修の機会がある。

Country report

脊髄損傷者の反復性緊張症候群に対するリハビリテーション
REHABILITATION FOR REPETITVE STRAIN SYNDROM IN
PARAPLEGIA

ジャンジュン リー
Li Jianjun
中国リハビリテーション研究センター CHINA

[要約]
この研究は1976年のTangshan地震の際に受傷した112例の対麻痺患者の遡及的研究である。Repetitive Strain Syndrom(反復性緊張症候群:RSS)が重大な問題として見いだされた。その発生率は38.4%(43/112[例])であった。その患者の多くは肩のRSSを発症した。それは全日の労働とか旅行や挙上といった肩を強く長時間にわたって活動させることによって発症した。43症例のRSSのうち16症例だけ、レントゲン所見上の退行変性や病理学的変化がなく、他はすべてそのような所見があった。この研究は性差がRSSの発症に重要な因子であることを明らかにした。女性は肩のRSSの発症率が高かった。(49.1%、26/53[例])。同時にまた、この研究はRSSの発症と年齢とは相関がないことも明らかにした。

[はじめに]
Repetitive Strain Syndrom(反復性緊張症候群:RSS)あるいはRepetitive Strain Injury(反復性緊張外傷:RSI)は、筋肉や腱の疼痛、圧痛、腫脹、機能障害の症状を特徴とし、繰り返す、重い、不慣れな作業によって発症する症候群である(McDerott1986)。RSSは特殊な疾患ではない。RSSの用語は続発する外傷のメカニズムとして記載され、反復する刺激が筋や腱、神経、血管に外傷を引き起こすものと予測されている。多くのRSSは疼痛の訴えによって診断される。患者はしばしば特異な臨床検査上の所見がなくても、疼痛を訴える。この理由から、RSSの病理学的実体は疑問がもたれている(Bammer1988)。しかしながら、ある研究者は軟部組織に組織学的変化が生じたと主張した(Dennett1988)。他の研究者はRSSの症例には筋肉内血行が安静時、反復性の仕事後、軽度の運動後に減少していることを示した(McLean1988)。脊髄損傷による対麻痺に陥った患者には、RSSが高い頻度で発症するようである。それは上肢の過度の使用で反復性の負荷がかかるためであろ。しかしながら、その知識、原因、診断、管理、予防といった一連のアプローチは驚くべきほど欠けている。この研究はこの状態を探究するための第一歩を踏み出すものとして企画され。現在この研究はTangshan地区で行われている。Tangshanは中国北部の産業都市の一つである。1976年7月28日、世界の歴史上最大の地震がこの地区に起こった。その地震により、数千の人々が死傷した。公式の発表では、3,817人の脊髄損傷者が地震の1年後にTangshanに戻った。このうち31.4%は1988年までに脊髄損傷の合併症で死亡した(Zhouet al.,1988)。この合併症を研究することは意義深い。この研究の目的は一群の対麻痺症の特徴を記載することにある。それはRSSの発症やその重傷度を決定し、その機能上の効果やその発症に関連する因子を決定することになるからである。

[現状報告]
中国における脊髄損傷のリハビリテーション

 北京における脊髄損傷の発生率は、年間百万人あたり6.7人で、上海は13.7人である。そして近年は中国で交通事故が増えてきているので、急激に増加してきている。脊髄損傷の発生には明らかに職業と性差によって違いがある。男性の脊髄損傷の発生率は年間百万人あたり10.3人に対して、女性は3.0人である。坑夫は職業的に最も危険性の高い群で、年間百万人あたり78.9人である。二番目に高いのは建設労働者で年間百万人あたり38.9人、三番目は農民で年間百万人あたり16.8人である。脊髄損傷の主たる原因は転落(36.1%)で、交通事故(10%)は中国では西欧諸国に比してあまり多くない。23%の症例は一時的救急処置の特別な知識の不足から移送中に外傷を悪化させている。脊椎の脱臼に対する手術的整復や脊柱管の前方および後方の除圧や様々な器械を用いた脊椎固定術が普及してきている。中国では3千以上の外傷性の脊髄損傷患者に腹部大網の移植手術が行われている。臨床的観察、フォローアップ、実験的研究すべてが手術の効果を確認している。知覚や運動、括約筋や植物神経、さらに男性の性機能について効果を確認している。50症例の対麻痺に対して、肋間神経の腰椎仙椎神経への移植術が行われたが、満足すべき結果は得られなかった。胎児の脳や仙骨の筋の脊髄への移植術は有意の効果がなかった。包括的な脊髄損傷プログラムの確立や脊髄損傷リハビリテーションシステムの管理の強化は最も重要な因子である。

[未来への提言]

  1. 中国において脊髄損傷の救急治療のネットワークを確立することが次の数年間にとっては最も重要なことである。
    脊髄損傷の悪化の発生率を下げることや初期治療の特殊な知識不足からくる完全麻痺の発生率を減少させることである。
  2. 脊髄損傷のリハビリテーションセンターを設立することは大きな社会的利益になる。
    -QOLの改善や自立の促進
    -不要な障害の予防
    -脊髄損傷による時間的損失の減少
    -脊髄損傷による入院期間の短縮
    -長期の介護施設の必要数の減少
    -障害者の雇用と生産性の増加
    -障害の状態による福祉と年金支出の減少
  3. 脊髄損傷における基礎的研究プログラムを強化する必要がある。

Country report

インドネシアにおける対麻痺
PARAPLEGIA IN INDONESIA

ソプランジョノ
Supranjono
ソエハルソ教授記念整形外科病院 INDONESIA

[要約]
インドネシアにおけるリハビリテーション活動や対麻痺のリハビリテーションは数年前に開始されたばかりで、その進歩は満足すべきものではない。我々は一般的リハビリテーションを行う2,3のリハビリテーションセンターを持っているだけで、対麻痺のための特別なリハビリテーションセンターを持ってはいない。我々はもっとセンターを必要とする。そのようなセンターを作るためには沢山の資源、特に質の高い人的資源を必要とする。

 対麻痺患者の問題を解決することは、脊髄損傷の予防や医学的リハビリテーションや職業的リハビリテーションや雇用や社会復帰の問題を解決することである。これには政府や非政府組織や地域の参加が必要である。

[はじめに]
R.Soeharso教授が指導するリハビリテーションセンターはSalaにあり、対麻痺の統合したプログラムをもつ。その職員の質的向上を行うことによって、インドネシアのリハビリテーションセンターとして発展することになろう。

 インドネシアにおけるリハビリテーション活動は1948年に開始された。そして、1951年にSalaにリハビリテーションセンターが開設された。それは職業リハビリテーションセンターと医学的リハビリテーションセンターとしての整形外科病院である。

 対麻痺の統合的リハビリテーションは主としてこのセンターで行われているが、対麻痺の医学的リハビリテーションは、ジャカルタのFatmawati病院やスラバヤのSoetomo博士病院のような、いくつかの大きな総合病院の脊髄損傷ユニットで行われている。

[現状報告]
R.Soeharso教授が指導するリハビリテーションセンターの対麻痺リハビリテーションはR.Soeharso教授が作った統合的リハビリテーションプログラムにしたがって行われる。それは4つの段階に分けられている。

  1. 救命期:患者が外傷や事故、重篤な侵襲にさらされる時期である。
    病院到着前の時期を含み、救命活動を行い、続発性脊髄損傷を防がなければならない。
    入院後は患者の全身状態を改善し、合併症を予防する。
  2. 身体的調整期:医学的リハビリテーション期である。
    それは医師や看護婦、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー、心理士のチームで行われる。
  3. 職業訓練期:社会省管轄の職業リハビリテーションセンターで訓練する時期である。
    主たる役割は職業指導官、職業教育官それにソーシャルワーカーによって行われる。
  4. 社会復帰期:職業リハビリテーションセンターで訓練を受けた後、患者が新しく生活を始める時期である。
    訓練によってもとの職場に復帰するか、新たな普通の職につくか、保護された職場に行くか、決める。
    この時期の役割はソーシャルワーカー、雇用官、CBRワーカー、および、患者自身が参加する地域社会によって達成される。

 対麻痺のリハビリテーションプログラムの結果について述べる。対象はR.Soeharso整形外科病院に1994年1月から12月までに入院した患者で、病院退院後6ヵ月から18ヵ月フォローアップした。そして現在JavaとYogyakartnに住んでいる58例の患者である。そのうち、7例は死亡した。

  • 事故時の年齢-多くは生産年齢(16~45歳が92%)。
  • 雇用-事故以前はすべて雇用されているか学生である。リハビリテーション後50%近くは職を得た。
  • 事故の種類-多くは高所からの転落、第二は交通事故。
  • 平均入院期間は3ヵ月。
  • ADL能力の状態-多くは幾分の介助を必要とする車いすの生活、約16%が完全自立(データは医学リハビリテーションのDr.Ahmad Fuathシニアレジデントにより収集解析された)。

[問題]
インドネシアは発展途上国であり、約2億人の人口を持ち、数千の島に住んでいて、沢山の種類の文化をもっている。一般的な健康問題や社会経済的問題はもちろん対麻痺患者にあるが、それ以外にも対麻痺患者がもつ特殊な問題がある。我々のリハビリテーション活動は数十年前に開始された。しかし、なおその進歩は不十分であり、今日までに対麻痺の国家的統計を持っていない。対麻痺の問題は多面性をもつ。

[医学的側面]

  • 事故防止の問題。登山者が使う安全ベルトのような安全具を用いて、人々に自らの安全を確保する大切さを教えることが難しい。
  • 入院前の処置の問題。我が国の人達は強い協力的精神をもっているので、もし誰かが事故に遭遇するとすばやく助けにやってくる。
      しかし、どのように助けたらよいか、正しい知識がないために、障害を悪化させる結果となる。
  • 入院中の問題。対麻痺のリハビリテーションは長い時間を必要とし、多くの献身的で質の高い人的資源と予算を必要とする。

[職業的側面]

  • 我々は対麻痺患者の特別な職業訓練センターを持っていない。
    彼らは一般の障害者の職業訓練センターで訓練を受けている。そこは他の障害者で混みあっている。
  • 対麻痺患者にとって職や雇用を得ることは困難である。
    その原因は障害者のための法律が制定されていないからである。

[社会復帰の側面]

  • 今日まで我々は対麻痺患者が以前から住んでいた自分自身の家に帰る以外に選択の余地はない。
    その理由は我々は対麻痺共同体のような地域を持たないからである。
  • 雇用されず、自立していない対麻痺患者は生産性が低く、家族や地域社会や国の負担となっている。

[未来への提言]
対麻痺の問題や対麻痺によってもたらされる問題を解決するためには対麻痺の全ての面に関係のある全ての人の参加を必要とする。

 予防は、すべてにおいてリハビリテーションより高い次元の活動である。インドネシアでポリオの予防接種のような活動が可能ならば、事故を予防することも国家的運動として強調されなければならない。

 さらに、事故の犠牲が地域社会に広がらないように正しく指導する課題は、運転免許の試験に含まれなくてはならない。

 医学的リハビリテーションの問題を解決するために、我々は現存するセンターの機能を向上させ、さらに各州毎に新しいセンターを建設しなければならない。

 R.Soeharso教授により作成された対麻痺患者の統合的リハビリテーションプログラムは、医学的リハビリテーションの発展の礎として使用されるであろう。

 雇用と社会復帰の問題を解決するために、政府は直ちに障害者のための法律を制定しなければならない。そして、地域社会やCBRワーカーや家族福祉運動(PKK)、非政府組織のソーシャルワーカーは、対麻痺リハビリテーションに含まれる内容を理解するように、自らの意識を変革しなければならない。そして我々は対麻痺の公的な統計を整備しなくてはならない。

Country report

韓国における脊髄損傷の予防とリハビリテーションの現状と将来計画
CURRENT STATUS AND FUTURE PLANS FOR THE PREVENTION
AND REHABILITATION OF SPINAL CORD INJURIES IN KOREA

チャン イル パク
Chang Il Park
延世大学医学部リハビリテーション部 KOREA

[要約]
1995年の政府統計では、韓国の身体障害者に占める対麻痺の割合は9.2%(67,204人)で、四肢麻痺は4.5%(32,827人)である。最近の研究において、脊髄損傷の原因、発生率および合併症が過去数十年の間に変化したことを明らかにした。

 本文では、韓国における脊髄損傷による障害者の現状とリハビリテーションのための将来計画について論じ、次のいくつかの点に触れたい。

  1. 交通や労災事故による脊髄損傷の予防。
  2. 疫学的研究とデータベースシステムの確立。
  3. 脊髄損傷の正しい一次的な救急治療。
  4. 全国をカバーする脊髄損傷のリハビリテーションセンターのネットワークの設立。
  5. 環境制御ユニットの設立とコンピューター技術の適用。
  6. 社会的、環境的バリアーの解消への努力。
  7. 職業的リハビリテーションと雇用の推進。
  8. スポーツと余暇活動。
  9. リハビリテーション専門家の教育。
  10. 地域リハビリテーション(CBR)活動計画とボランティア活動計画。

[はじめに]
韓国において脊髄損傷の数は急激な産業化と交通事故の増加により増え続けている。1991年Naらの報告によると、韓国では不完全脊髄損傷よりも完全脊髄損傷のケースの方が多数を占めている。しかし近年、1990年代の半ば以降、完全脊髄損傷よりも不完全脊髄損傷が増大しつつある。脊髄損傷の主な原因は交通事故(59.8%)、落下(24.8%)、である。

 朝鮮戦争中にリハビリテーション医学が最初に導入されて以来、リハビリテーションの専門家や専門的施設が質的にも量的にも向上してきている。しかし今なお、特に、全国をカバーする脊髄損傷のリハビリテーションセンターのネットワークの設立に関しては改善の余地がある。脊髄損傷の予防運動は現在交通や労災事故を減少させる運動によって推進されている。この論文では、韓国における脊髄損傷による障育者の現状とリハビリテーションのための将来計画について論じたい。

[現状報告]
韓国は急激な産業化と増大する交通事故のため、脊髄損傷患者が増加している。 韓国保健社会研究所Korea Institute ForHealth and Social Affairsの1995年の統計データによると、韓国には1,053,468人の身体障害者がいて、そのうち728,740人が肢体不自由である。韓国保健社会研究所のデータによると肢体不自由の内訳は、切断が12.0%、麻痺は50.5%、運動障害25.7%、変形11.4%である。後天的障害の原因は交通事故が11.4%で、労災事故が8.1%である。

 肢体不自由のうち、対麻痺が9.2%(67,204人)、四肢麻痺が4.5%(32,827人)である。1991年のNaらの報告によると韓国では不完全脊髄損傷よりも完全脊髄損傷のケースの方が多数を占めている。しかし、近年、不完全脊髄損傷のケースが増大しつつある。我々の病院に入院した患者の1987~1996年の追跡調査では、不完全四肢麻痺と不完全対麻痺の患者数が、1990年代半ば以降に完全脊髄損傷の患者数を超えた。外傷性脊髄損傷の主な原因は、交通事故(59.8%)、転落(24.8%)、スポーツ外傷(4.8%)、貫通創(1.5%)である。外傷以外の脊髄損傷は主に腫瘍、脊髄動静脈奇形である。手術を受けたものが73.5%で、保存的療法を受けたものは26.5%である。 脊髄損傷の合併症は尿路感染、褥瘡などである。脊髄損傷後のリハビリテーション部門への平均入院期間は、1987年から1991年の間は113.6日であり、1992年から1996年までは92.8日である。発症からリハビリテーション施設に入院するまでの平均期間は、1981年から1991年の間は874.5日であったが、1992年から1996年には220.1日と短縮した。我々の病院に入院した患者のうち35.8%は直接来院した患者であり、64.2%は他の病院や他科からの紹介で入院した患者である。急性期に続いて積極的にリハビリテーションを開始する時期に至ったとき、神経性直腸膀胱障害の訓練、日常生活動作の訓練、車いすや装具を使用した移動訓練を行う。神経性膀胱の訓練の平均期間は102日である。それに加え、リハビリテーション管理には職業リハビリテーション、性的問題のリハビリテーション、患者の状態によっては自動車運転についても含まれている。最近の臨床分野での治療には機能的電気刺激療法があり、高位頸髄損傷に対してはヘッドコントロールを用いた環境制御装置や電動車いす訓練なども行われている。韓国における身体障害者の雇用率はまだ十分高いとは考えられない。身体障害者の輸送システムも多くの改善を必要としている。しかし、韓国では現在、身体障害者の環境を改善するために多くの努力がなされている。健康な人々のほとんどがリハビリテーションの重要性を認めているが、韓国における脊髄損傷マネージメントの主要な問題は、十分機能する脊髄損傷センターがないことである。結果として多くの患者が専門化されていない施設で治療を受けている。この状況が長期の入院、多くの合併症、乏しいリハビリテーション成果を生み出している。脊髄損傷の予防は交通事故や労災事故の減少のための運動によって推進されている。

[未来への提言]
韓国における脊髄損傷の予防とリハビリテーションのための将来計画については次のようである。

  1. 交通事故や労災事故からの脊髄損傷の予防
    運転手や産業労働者の教育プログラムの発展と改善の計画、それに、交通の改善計画や交通事故や労災事故を減少させるための産業環境の改善計画がある。
    そのためには、交通や産業の安全性を確保する正しい規則と規制が必要である。
  2. 脊髄損傷の疫学的研究とデータベースシステムの確立
    これは脊髄損傷のための社会経済的計画やリハビリテーションの推進計画にとって基本的な課題である。
  3. 脊髄損傷の正しいプライマリーケア
    プライマリーケアに従事するメンバーの正しい訓練計画と、プライマリーケアのプロトコールが必要である。
    そして、脊髄損傷が正しく管理できる救急外傷センターが必要である。
  4. 全国をカバーする脊髄損傷のためのリハビリテーションセンターのネットワークの確立
    救急外傷センターでの管理がうまくいった脊髄損傷患者はつぎに脊髄損傷リハビリテーションセンターに送られるべきである。
    脊髄損傷の誰でもがこれらのセンターに入れるようにこれらの施設のネットワークが全国をカバーしていることが大切である。
  5. 環境制御ユニットとコンピューター技術適用の確立
    環境制御ユニットとコンピューター技術の急激な発展は、世界をめざましく変化させている。これらの高度な技術を脊髄損傷に有効に適用することは、今日最も重要となっている。そして我々はそのニードに焦点を向けた研究や臨床活動を行うべきである。
  6. 社会的あるいは環境的バリヤーの解消への努力
    韓国のこの地域において多くの努力が成功を収めている。この目的のために新しい規則と規制が作られたが、なお多くの改善の余地はある。
    我々は引き続きそのバリヤーの解消のために努力をしなければならない。
  7. 脊髄損傷者のための職業的リハビリテーションと雇用の推進
    脊髄損傷者が自立した生活をして社会に復帰することが大切である。脊髄損傷者のためによりよい職業的リハビリテーションプログラムとその施設が必要である。
  8. 脊髄損傷者のスポーツと余暇活動
    スポーツと余暇活動は脊髄損傷者にとって必要な分野の一つである。
    脊髄損傷者がこれらの活動に参加し楽しむことができるように、より多くの機会を与えるべきであろう。
  9. リハビリテーション専門家の教育
    脊髄損傷の数が増加するにつれて、さらに多くのリハビリテーション専門家とリハビリテーション専門施設が将来必要となろう。
  10. 脊髄損傷者のための地域リハビリテーションプログラムとボランティアプログラムの活動
    韓国には地域リハビリテーションプログラムを確立するためにいくつかの試みがなされている。しかしまだ多くの検討すべき課題が残されている。

Country report

タイにおける最初の脊髄損傷ユニット
THE FIRST SPINAL UNIT IN THAILAND

チョラベチ チャバシリ
Cholavech Chavasiri
マヒドン大学医学部シリライ病院整形外科 THAILAND

[要約]
タイにおける最初の脊髄損傷ユニットは、バンコクのMahidol大学、Siriraj病院に設立された。救急治療部門の広範囲にわたる臨床のデーターべ一スプログラムがあり、その他に急性リハビリテーション部門の進歩において活発なデーターべースプログラムが設置されている。この論文で提供される情報は、1995年2月から1996年12月の間に急性脊髄損傷でSiriraj脊髄損傷ユニットに入院していた150人全ての患者の医療記録からとられた医療管理とその成果に関する統計を表している。この医療記録は、2歳から70歳まで平均34.4歳の男性90人、女性60人からなる、この150人の患者に対して研究、分析されたものである。この調査は、交通事故(自動車、バイク)が脊髄損傷の主要な原因であり(69.3%)、次に転落による外傷(17.3%)が挙げられる。脊髄損傷は、神経学的な欠損によって(完全神経学的な欠損の割合は38%である)だけでなく、障害の位置やレベルによって(頚髄損傷が首位を占め、全体の50%である)も分類される。さらに、症例のこれらに関連する問題は尿路感染(22.1%)、筋痙攣と疼痛(12.2%)、胃潰瘍(9.1%)、褥瘡(7.6%)、心理学的問題(3.0%)である。完全損傷の患者は不完全損傷の患者に比してより長い入院期間を必要とする。このことはまた入院の平均コストにも反映し、完全損傷では患者一人あたり1800ドルであるのに対して、不完全損傷では1500ドルであり、神経損瘍のないものは520ドルである。臨床的に収集されたデータベースを使用したこの研究で導かれた成果は脊髄損傷で入院した患者の治療過程で医療関係者により正確な情報を提供している。最も重要なことは、患者と医者相互の利益のため、よりよい治療を促進するためのより組織的な方法を確立して、医療関係者が脊髄損傷患者の治療や計画の推進を可能にすることにある。

[現状報告]
バンコクの脊髄損傷ユニットの設立の考えは、1973年にAmaunaUnnanantana博士によって最初に提案され、1995年2月1日に実現した。最初の脊髄損傷ユニットは、Mahidol大学、Siriraj病院、医学部整形外科に設立された。それはSalakkinbang整形外科棟にある。急性治療ユニットとして建てられた病院の2階は、急性脊髄損傷患者のための13ベットと、より重症の障害患者のための2つの完全装備の集中治療ベットを備えている1階には6つのベット、会議室、管理オフィス、理学療法や作業療法のための260平方メートルの部屋を持つ回復期患者用のユニットがある。

 開院以来、この脊髄損傷治療ユニットは医療ケアを改善し、患者の神経学的回復を促進するため脊髄損傷の学問的な研究を続けている。

 この研究によってSiriraj病院は、効果的な緊急医療サービスシステムと、外傷や神経損傷に対するサポートシステムを改良改善することができた。さらにこの研究は、移動障害患者の依存性を最小限にする、優れた包括的な急性の外科医療ケアとリハビリテーションサービスをサポートしている。これによって患者は、自立した生活や、順次複雑な仕事を行う能力を獲得することによって、地域社会に復帰することができる。

 脊髄損傷ユニットの医療スタッフは、部長であるAmnuay Unnanantanaが率いる6人の整形外科的脊椎外科医からなる。それに加えて医療サポートチームがある。それはリハビリテーション指導者、医療看護部長、10人の正看護婦、16人の准看護婦、ソーシャルワーカー、心理士、栄養士、数人の作業療法士と理学療法士からなる。さらに、研修医と他の医学生のトレーニンクプログラムはこのユニットでトレーニングされている。多くの訓練チームと共にユニットを構成することによって、患者の治療が再検討、議論され個々の医師によってではなくチームによって導かれる。つまり、チームのすべてのメンバーが初めから日々の回診や週一回の会議に参加している収集された全てのデータは一、入院期間中だけでなく退院後の外来通院の間に、医療チームが患者の治療に利用する目的と、サポートする研究の目的のために、すぐに利用できるよう、コンピューターの中にデータベースとして蓄えられている。

 1996年7月の時点で脊髄損傷ユニットは、効果的な整形外科のトレーニングや研究を通して、脊髄損傷の患者のケアをさらに改良するため活動している。さらにこのユニットが、Siriraj病院のこのモデルに続いてタイの各地に脊髄損傷ユニットを設立するため、Siriraj病院整形外科と共同して1年の脊椎研修プログラムに着手した。

1.対象と方法
1995年2月から1996年12月の間にSiriraj脊髄損傷ユニットに入院していた脊髄損傷患者の医療記録や科学的資料は、この研究のデータ源として役に立った。獲得された情報は、障害の原因学、患者の年齢分布、治療の性質、脊髄損傷の部位、神経学的な状態、患者の入院期間の観点から分析された。

2.結果
調査対象となった全患者数は150人で、男90人(60%)、女60人(40%)である。

 1)脊髄損傷障害の原因
交通事故(自動車とバイク)が障害の主要な原因(69.3%)であり、次に転落(17.3%)である。下の表1に示す。

表1:障害原因の分類
障害原因 自動車 バイク 転倒 殴打 切創 銃創 船舶事故 航空事故 列車事故
患者数 69 35 26 13 2 2 1 1 1
患者数に占める割合[%] 46.0% 23.3% 17.3% 8.6% 1.3% 1.3% 0.7% 0.7% 0.7%

 2)患者の年齢分布
この調査対象の中で最も多い年齢は、16~25歳と26~35歳でそぞれ27.3%である。

 次に多いグループは36~45歳で22%である。障害の発生率は年齢の増加と共に著しく減少している。全体の平均年齢は34.4歳である。

表2:患者の年齢分布
年齢[歳] 0-15 16-25 26-35 36-45 46-55 56-65 66-75
患者数 5 41 41 33 12 12 6
患者数に占める割合[%] 3.3% 27.3% 27.3% 22.0% 8.0% 8.0% 4.0%

 3)損傷の部位
150人の患者のうち、75人の患者(50%)が頚椎の損傷で、53人の患者(35.3%)が胸腰椎損傷である。残りの14.7%は胸椎か腰仙椎の損傷のどちらかである。

表3:損傷の部位の分類
損傷レベル 頸椎の損傷 胸腰椎の損傷 胸椎の損傷 腰仙椎の損傷
患者数 75 53 16 6
患者数に占める割合[%] 50.0% 35.3% 10.7% 4.0%

 4)入院時の神経学的状態
入院時の検査で神経学的障害の程度がそれぞれの患者毎に決定される。調査している患者のうち57症例が完全損傷で、35症例が不完全損傷である。12症例は脊髄神経根損傷(根損傷)で、残りの46例は神経学的欠損はなかった。(表4)

表4:神経学手の欠損の程度
損傷の部位とレベル 完全損傷 不完全損傷 根損傷 無し
頸損 30[例] 17[例] 5[例] 23[例]
胸腰椎 18[例] 13[例] 2[例] 22[例]
胸椎 9[例] 5[例] 0[例] 1[例]
腰仙椎 0[例] 0[例] 5[例] 0[例]
合計 57[例] 35[例] 12[例] 46[例]

 5)医学的合併症
尿路感染(22.1%)は脊髄損傷の治療中カテーテルを入れている患者の大きな合併症である。筋の痙攣と疼痛は12.2%が経験した。他の大きな合併症は胃潰瘍(9.1%)、褥瘡(7.6%)、心理学的問題(3.O%)、である。(表5)

表5:医学的合併症
合併症 尿路感染 筋痙攣/疼痛 胃潰瘍 褥瘡 心理学的問題
発生率[%] 22.1% 12.2% 9.1% 7.6% 3.0%

 6)治療のための入院期間
脊髄損傷障害のための完全な神経学的欠損を持つ57人の患者において、平均の入院期間は62.3日である。不完全な脊髄損傷患者においては、平均40.9日である。

 7)治療の費用
完全神経損傷の患者は長期の入院期間を要するしその結果治療にかかる費用も大きい、平均すると一症例あたり1800ドルである。神経学的に正常である患者にかかる費用が少ないのは驚くべきことではないが、一症例あたり平均約500ドルである。この統計は発症時に医療関係者が患者やその家族に予想される治療期間と費用を説明するのに有用である。(表6)

表6:治療の費用
神経学的欠損の程度 完全損傷 不完全損傷 根損傷 損傷無し
平均の費用[$] $1,825/[例] $1,543/[例] $1,143/[例] $524/[例]

 3.考察
1995年2月から1996年12月までに脊髄損傷障害の治療のためSiriraj脊髄損傷ユニットに入院していた150人の患者に対するこの研究は、障害の大多数が16~35歳の最も活動的な年代の男性に起こったことを示している。この年齢層は仕事の性質、ライフスタイル、交通機関を通した旅行の頻度、アルコールによる交通事故の可能性のために障害の危険がより高くなる。

 頚椎は最もありふれた障害の部位であり、次に胸腰椎の損傷である(それぞれ50%、35.3%)。これは頚椎が脊椎の中で最も可動性のある部位であるという事実による。

 さらに、胸腰椎は胸部の脊柱後湾と腰椎の脊柱前湾の連結部であり、この位置でのエネルギー吸収は他の位置より高い。

 完全な神経学的欠損の発生率は、障害が頚椎部や胸椎部に起こったときが最も大きい。これは、脊椎の運動が頚部の位置で最も大きいという事実によると考えられる。胸椎部における発生率は脊柱管と脊髄の大きさの比によって説明できる。

 完全な神経学的欠損の患者は、不完全な脊髄損傷障害の患者よりも、リハビリテーションのためにより長い入院を必要とする傾向がある。この時間の延長は、障害後の日常生活を回復させるのに必要な時間である。

4.結語
脊髄損傷ユニットが治療の良いシステムを考案し、医療チーム間の共同した複合的訓練を確保することは非常に有益である。そしてそれにより、治療後の患者の身体的限界を最小限にして、障害後の家庭、仕事、地域社会での日常活動を再開するための患者の能力と自立を最大限にすることができる。

Country report

国立身体障害者リハビリテーションセンターにおける
脊髄損傷のリハビリテーション
REHABILITATION OF SPINAL CORD INJURY IN THE NATIONAL
REHABILITATION CENTER FOR THE DISABLED OF JAPAN

木村 哲彦
Tetsuhiko Kimura
国立身体障害者リハビリテーションセンター JAPAN

[要約]
国立身体障害者リハビリテーションセンター(NRCD)は1949年に設立された。病院、更生訓練所、研究所、学院の主要四部門から構成されており、脊髄損傷部門はすべての部門と有機的に連携を維持しながら機能している。1980年より1994年までの15年間に1047例の脊髄損傷(SCI)を治療してきた。

 内訳は924例の男性(88.3%)、及び123例の女性(11.7%)より成り、原因別分類によれば、44.9%の交通事故、14.7%の転落事故、6.7%のスポーツ事故、及び他の原因にもとづく脊髄麻痺10.5%となっている。損傷脊髄のレベル(高位)は、頸髄;372(35.5%)、胸髄;547(52.2%)、腰髄以下;128(12.3%)に分類される。このうち完全麻痺を示す者の割合は、頸髄損傷では68.8%を示し、胸髄及び腰髄の損傷では、両者共に79%に至っている。日常生活上のゴールに到達するに必要とした期間は、頸髄損傷で12.0±1.54月、胸髄、腰髄の損傷では5.6±1.71月であった。職を得て社会に再度復帰した者の割合は頸髄損傷で59%、胸髄損傷、腰髄損傷共に74%であった。

[はじめに]
通常、日本において脊髄損傷が発生した場合には、救急病院あるいは大学病院等の救命救急センターに先ず入院することになる。次いで総合的に脊髄損傷の治療を行える病院に転院する。国立身体障害者リハビリテーションセンターにおいては、亜急性期から慢性期にかけての患者が治療を受け、集中的にリハビリテーション訓練を受ける。

 日本国厚生省における身体障害者実態調査の結果に基づくと、人口における高齢者の比率は高くなりつつあり、併せて高齢障害者の数も増加しつつある。実体に呼応して対麻痺及び四肢麻痺の高齢者数も増加しつつあり、中でも平坦なところで転んで生じる不完全損傷の四肢麻痺は顕著に増加している。

 国立身体障害者リハビリテーションセンター病院入院中の脊髄損傷は、大きく分けて二つのグループに分けられる。若者のグループ及び高齢者のグループである。不完全四肢麻痺者の数はますます増大しつつある。

[現状報告]
厚生省の統計によれば、日本国における18歳以上の身体障害者数は、285,600人であり、その発生率は2.8%である。

 全身体障害者の1.2%が対麻痺であり、1.1%が四肢麻痺である。日本パラプレジア医学会で行った調査によれば、概算、外傷性脊髄損傷者発生数は、1990年4872名、1991年4986名、1992年5110名と漸増している。1990年より1992年までの3年間の発生率は、概算で人口百万人当たり、40.2であった。

 日本における外傷性脊髄損傷の中で、最も頻度の高い原因は交通事故(44.6%)である。次いで高所からの転落(29.2%)、床面、地面における転倒(11.7%)、衝突(6%)、及びスポーツ活動中の事故(5.3%)となっている。交通事故によって外傷性脊髄損傷に至った者の年齢分布は幅広く、高所からの転落及び平坦部分での転倒は、高齢者に多く、スポーツ損傷は若年者に頻度が高い。

 国立身体障害者リハビリテーションセンターにおける最近三年間(1993~1996)の218人の脊髄損傷者のデータを調べると、病院入院患者の発症後入院までの日数は平均34.2週であった。14.7%の患者は、NRCD入院前に最初の病院で褥瘡の手術を受けており、33.0%の患者は入院時に褥瘡の治療を要する状態であった。141名の患者は完全損傷の診断で入院している。このうち20%の患者が入院前に褥瘡の手術を受けており、42.6%の者が不幸にも入院時に褥瘡を有していた。

 脊髄損傷者の日常生活について。同じく厚生省における実態調査の報告によれば、希望するところは、滞在施設、医療のほか金銭的な援助である。しかし、1991年に金銭的援助を希望した者の割合は、1987年に比較して減少している。そしてほぼ20%の者は、地域において利用できる適当な社会施設のあることを期待している。

受傷年齢の分布
年齢 19未満 20-29 30-39 40-49 50-59 60以上
25 52 21 25 29 17
受傷年齢の分布表

[未来への提言]
脊髄損傷のリハビリテーションを考えるとき、これからの課題として3つのことが考えられる。
1.若年者に発生するダイビングや交通事故による頸髄損傷の予防と、その予防の重要性を啓蒙する教育:これらの外傷は近い将来に完全に予防されるべきである。国立身体障害者リハビリテーションセンターに入院した大部分の若い対麻痺や四肢麻痺の患者は、ここに述べた2つの事故が原因であった。プールで起こるダイビング事故の予防のため、日本パラプレジア医学会は、学童期の少年少女とスイミングインストラクターに対して、この事故を撲滅するキャンペーンを展開している。また警察庁は交通事故、特にオートバイ事故を撲滅するために、関係する公的機関を通じて啓蒙活動を起こし、これを続けている。
2.高齢者の在宅生活で発生する転落事故による不完全四肢麻痺の予防と、高齢脊髄損傷者の治療方法の確立:転落事故を予防するため、はじめに家屋を安全な構造に改善しなければならない。次に、高齢者のための補助用具、たとえば、壁に手すりを取り付けるようなことが必要である。最近我々は、頸椎変形症に陥った高齢不完全四肢麻痺患者を多く経験している。この治療は容易なことではない。なぜならばレントゲン所見から外傷に起因する異常所見を見つけることが難しいからである。今日でもなお、手術をするにせよ、保存的治療をするにせよ、いずれの方法も良い結果を得ることはできない。
3.コンピュータシステムを使った規格化されたデータベースを構築するための、国際的な評価スケールの製作:国際的に通用する評価スケールを製作すれば、治療に携わる者の間で相互に信頼することができるようになるだろう。
約20年前、日本パラプレジア医学会のもとに津山教授が編成したプロジェクトチームは、脊髄損傷の記録用手帳の配布を行うことを試みた。しかしながら、その試みは今日でも尚、手帳を常時携帯する脊髄損傷者がほとんどいないという状況にあり、その試みがあまりにも先駆的な計画であったためか、成功しなかった。しかし今こそ国際機関であるWHOのもとに、その企画を起こすべき絶好の時期が到来している。
脊髄損傷の健康管理に従事する医師、研究者、ケア・ワーカー、そして、地方自治体や国々の専門家が、脊髄損傷の予防とリハビリテーションに対して共通の理想と哲学を持つようになることを期待したい。


主題:世界保健機関(WHO)国際セミナー 報告書  35頁~60頁
発行者:国立身体障害者リハビリテーションセンター
財団法人日本障害者リハビリテーション協会

発行年月:平成9年11月
文献に関する問い合わせ先:国立身体障害者リハビリテーションセンター
国際協力事業推進本部事務局
電話 0429-95-3100
ファックス 0429-95-3661
国立障害者リハビリテーションセンターホームページ
http://www.rehab.go.jp/