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世界保健機関(WHO)国際セミナー報告書

各国報告4

リハビリテーションにおける 義肢装具活用の現状と課題

平成9年11月11日(火)13:30-14:40
D501 Conference room
座長
Nyunt Nyunt  国立リハビリテーション病院
山内 繁  国立身体障害者リハビリテーションセンター

Country report

中国における障害者に対する義肢装具ケアの展望
PERSPECTIVES OF PROSTHETIC AND ORTHOTIC CARE FOR
PEOPLE WITH DISABLED IN CHINA

ツアオ ダホン
Zhuo Dahong
WHO指定研究協力センター
孫中山医科大学 CHINA

[要約]
手術、機能訓練、義肢装具の供給が身体障害者のリハビリテーションにとって3つの重要な要素であるという観点から、中国では義肢装具(PR&O)の支給と普及という点において進歩がみられている。1996から2000年の間に、リハビリテーションを必要とする人々に対する良質の義肢装具の供給体制が進歩するものと予測されている。しかし、しばらくは、義肢装具の莫大な需要と限られた供給との間の乖離があるものと考えられる。義肢装具供給に関するWHOの政策はこの問題を解決するための助けとなる。この政策の特徴はCBRの中、で義肢装具供給を扱おうとすることにある。移動の容易さ、実現の可能性、受け入れ技術との適合性、地域のレベルに見合った義肢装具の適用など強調されている。

 この政策に沿って、著者は、中国の特殊情況に見合った適用可能と思われる積極的な行動を提起する。

[はじめに]
障害者のリハビリテーションの進歩に伴い、過去10年間に身体障害に対するリハビリテーションの分野における義肢装具の使用は増え続けている。質の高い義肢装具を生産する製作部の能力は高まっている。義肢装具供給の管理は改善されつつある。複雑で洗練されたものと単純で低価格のもの、両者に対する研究と開発は驚くべき進歩を遂げた。しかし、現状の義肢装具の供給と普及ではリハビリテーションを必要とする身体障害者を満足させることはできない。十分な技能を持った技術者が不足していることは明らかである。地域や草の根のレベルで可能であり、障害者に受け入れられるような義肢装具は殆どない。リハビリテーション専門家と義肢装具技術者との間の協力関係は満足すべきものではない。それ故、これらの問題を解決し、義肢装具を障害者によりよく供給できるような統合的なリハビリテーションの質の改善をもたらす方法が実行されねばならない。

[現状報告]

1.情勢分析:
中国では877万人の身体障害者がいるといわれ、40万人から80万人が義肢を使用し、250万人が装具を必要としているといわれている。
これらの莫大なニーズに応えるために中国はこの10年間多大な努力をしてきた。

2.義肢装具の生産:
最近、40の大規模製作所と中規模の製作所が各県に設立され、年間10万以上の義肢とおよそ5万の装具が生産されている。

3.技能を有する生産者の増大:
最近、およそ4千人の技術者が国立、県立の製作所や研究所で働いている。さらに、私的な小規模の製作所で多数の技術者が働いている。

4.新しい供給システム:
1991年から国家的な広がりを持つ装具や補助具を供給する人々のネットワークが機能し始めた。
その中に義肢を供給するものがいる。

 1991年から1995年の間、このネットワークはよく機能して47万本、90種類の装具や補助具を障害者に供給した。

5.研究開発:
デザインや製作が単純で低価格の骨格型モジュラータイプの義肢が成功を収めた。高度の技術を要する義肢がいくつかの有名大学で試みられている。その他、最新式の義肢の開発も行われている。
これらの成果にも関わらず、義肢装具の供給と普及の点に関して中国は弱点を多く抱えている。
その結果、リハビリテーションの進歩に後れをとっている。
効果的に義肢装具を利用できない欠点は障害者に統合的リハビリテーションを供給する点で障害となっている。

6.交通手段の欠如と高価格:
義肢を必要とする人の20~25%のみが義肢を使っているに過ぎないといわれている。北京郊外では、ポリオ後遺症に対し手術を受けた子供の6%しか必要な装具をつけることができないといわれている。
その理由は2つある。
1つは中国の障害者の80%が地方に住み義肢装具の利用できない環境にある。
また、地方に住む障害者の50%は貧しく、たとえ必要があったとしても高い義肢装具を使うことができない。

7.技能の高い技術者の欠如:
当局の予想によれば、発展途上国では人口100万人に対し熟練した義肢装具技術者が7人は少なくとも必要である。それに依れば中国では7千4百人の訓練された技術者が必要であるが今のところは4千人しかいない。
人材不足が義肢装具の生産と普及の拡大を困難にしている。

8.知識と理解の欠如:
義肢装具の機能と使用に関する知識は障害者自身やその家族を含む関係者や行政従事者に普及していない。
そのため義肢装具の利点が未だ十分理解され、利用されていない。

9.1996-2000年の計画
現在、中国では満足できる身体障害のリハビリテーションに、手術、機能訓練、義肢装具供給などが必要であると理解されている。障害がある人々に対するリハビリテーションの国家計画(1996-2000)では義肢装具の発展と使用が強調さている。

 今後、義肢装具の供給は極めて拡大すると思われる。30万人の身体障害者が義肢装具の供給を受けることとなるだろう。そのうち、5万人は貧しくて支払い能力がないと予測されるが、中国障害者連合会の助成によって無料か低価格で受け取ることができるようになるだろう。義肢装具の装着前後の機能訓練も現在以上に行き渡るだろう。

 整形外科的矯正術がポリオ、脊髄性障害、上下肢の骨関節障害に対しさらに頻繁に行われると予測される。手術は義肢装具の装着状態を考慮に入れてなされなけばならない。

 義肢装具に関する人材育成は強化されよう。210人の技術者が中国義肢装具技術学校、または、さらなる訓練のための特殊な製作所で育成されると予想される。

 義肢装具製品の質を高めるためパーツの標準化が進められよう。市民省の北京義肢研究所は義肢装具の技術の核となるべく作られた。この研究所は、標準化、質の管理、研究の推進などにおいて多くの各県の義肢装具製作所に対して技術開発の方向性を明らかにする責任がある。

 近い将来、義肢装具の研究所、製作所、工場は低価格で広く受け入れられる義肢装具の研究開発を行うようになるだろう。

 医学的、義肢装具リハビリテーションセンターと病院は、義肢装具の技術の革新を促進するために互いに協力し合うべきである。

[未来への提言]
中国においても他の西太平洋の開発途上国と同様、義肢装具の使用が障害者の統合的リハビリテーションにとって重要な課題である理解すべきである。

 以下の義肢装具に対するWHOの政策と方法は、他の開発途上国と同様中国にも適用可能である。

  1. 義肢装具の供給はすべてのレベルに於けるサービスと同様地域のニーズに焦点を当てたCBRの考えに基づいて行われるべきである。
  2. 義肢装具の技術の発展は、容易に着けられ、使い易く、妥当な価格で、地域に適合し、地域の障害者を満足させるようなものでなければならない。
  3. 義肢装具を供給できたり、その分野に於ける専門家を養成できる国連の機関、非政府団体(NGO)、供給国および機関、研究所、企業は義肢装具の普及に向けて努力しなくてはならない。

 上述したような基本的手引きに基づいて、以下のような方法が中国においてとられるべきであると提言する。

  1. 市民省、中国障害者連合会、公衆衛生省からなる国家的規模の指導的委員会の設立。この委員会は政策、計画の策定、実行計画の監視と評価、資源の調達に責任を持つ。
  2. CBRで使用可能な単純、低価格な義肢装具技術の研究と開発の推進。
  3. 研究開発、質の管理、技術開発と援助、情報収集と宣伝を目的とした国立義肢装具育成研究センターの設立。西太平洋地域の開発途上国の義肢装具技術者育成のための西太平洋地域育成センターを東京に設立することも同時に提起したい。
  4. 一般病院の整形外科、及び医学的リハビリテーションセンターに於ける義肢装具サービスの拡大と質の向上。義肢装具技術者と返しく協力できるリハビリテーション専門家が必要である。
  5. 義肢装具を効果的に使用するための医師とリハビリテーション専門家向けの義肢装具処方と適用に関するガイドラインと教科書の出版。

Country report

ラオスにおける義肢装具
PROSTHETICS AND ORTHOTICS THE LAO PEOPLES
DEMOCRATIC REPUBLIC

ソーパン インシラット
Souphan Inthirat
国立リハビリテーションセンター LAOS

[要約]
ラオスの義肢装具の供給は、今まさに新しい時代に入ろうとしているところである。ラオス政府とすべてのラオスにおける義肢装具に関わる国際団体は新しい合意に到達しようとしている。このユニークな合意は、国内的な一本化された義肢装具供給政府機関を設立することにより、これらの団体の意欲的な協力体制を形成することとなる。

 この合意は需要に応じた高度の専門的な供給体制を目的とする6個の主要なポイントを含むNational Planに基づいている。これらの6ポイントのうち2点が基本である。

 義肢装具を作製するためのポリプロピレンの導入はこの計画の鍵となるものの一つである。ポリプロピレンはその多くの利点故に、発展途上国において義肢を作製する際に広く使われている。ビエンチャンの国立リハビリテーションセンター(NRC)は既に1年以上前からポリプロピレンの使用に転換しており、まもなく国内全体で使われるようになるであろう。

 供給体制を維持するための適切な技能の確保は、ラオスの将来の義肢装具供給のための重要な要素の一つである。新しい、そして現在実践に従事している技術者のを含めた技能の向上を目指した2つの研修コースが計画されている。

[はじめに]
いずれの国も国民所得が少なく、その環境にあって障害者間題を抱えている。障害原因は、先天性、ポリオのような疾病、感染、循環障害、事故によるもの等である。ラオスではこれらのうちアメリカ-ベトナム戦争の際に撒かれた地雷に触れて怪我をしたものの割合が大きい。戦争終了後25年たった今でも国中に撒かれた地雷に触れて怪我をしたり死亡したりする事故が続いている。

 政府の2部門の責任の下に、国内に8カ所の義肢装具製作所、クリニックが置かれている。義肢装具に関わる補装具の政府機関は、短期間における研修コースと道具や素材の供給によってサービスの向上を試み、成功を収めてきた。しかしながら残念なことに、政府機関が引き揚げるとその成果が長続きせず、供給体制と道具や建物の維持費、貧困な患者の移送、食物、宿泊のための予算が尽きてしまう。資金の不足と次第に進行する技術水準の低下がラオスの義肢装具供給を蝕んできた。

 これらのジレンマを解決するため、新しい戦略が試みられようとしている。義肢装具に関わる非政府機関(NGO)と政府機関は単一の実行機関を形成して、協力しあって義肢装具に関する質の向上と専門性の維持に努めるよう努力している。

[現状報告]
 ラオスは東南アジアの陸に囲まれた国で、中国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ヴェトナムの5カ国と国境を接している。4千6百万人が23万6千8百平方kmに住み、87%が農村地帯に居住する。人口密度は低く、1平方kmあたり19人に過ぎない。主な都市は首都のビエンチャンで人口は18万人である。

 ラオスの人々の健康状態はアジアの中でも最悪に属する。平均寿命は50歳で、乳児死亡率は千人に対し125である。健康管理に携わる下部構造は限られており、わずかな地域病院とあまり機能していない保健所からなる。ラオスは、この50年間インドシナ半島を巻き込んだ戦乱を避けることができなかった。北ベトナムの南ベトナムに対する侵攻の間、米国はいわゆるホーチミンルートを抹殺すると称して200万トン以上の高性能爆弾をラオス国内に落とした。戦争の終結後25年経ち、夥しい爆薬が未だに都市部以外の地域を汚染しており、怪我と死亡の原因となっている。対人地雷は国内の至る所に埋められており、そのために怪我をすると体の部分、とりわけ上肢が吹き飛んだり失明したりしている。

 多くの戦禍を受けた国々と同様に障害者を援助する体制は作られた。しかし、ラオスは公式にはアメリカ-ベトナム戦争の間、”戦争状態”ではなかったので国際社会からの援助が受けられなかった。

 1963年切断者のニーズに応える2つの施設が作られた。1つは王道派のもので、現在、国立リハビリテーションセンターとなり厚生省(MoPH)の管轄下にある。もう1つは、国立愛国前線軍のためのものであった。後者は、元々ハノイに北ベトナムの手で設立されたが後にラオスに移され、現在、Banh Keunのリハビリテーションセンターとなっている。Banh Keunセンターは労働社会省(MLSW)の管轄である。

 MoPHはNRCのみならず、国内6カ所の県立義肢センター(Luang Prabang Xiang Khuang Khammouane Savannakhet Champasak Saravan)のネットワークを通じて障害者へのサービスを行っている。

 NRCで少なくとも3年間の義肢装具の研修を行った人材がMoPHで働いている。しかし、技術の到達レベルは高くない。学んだ技術を実践する機会が少ないことがその理由の一つである。これらの技術者の義肢装具の技能を高めるための短期講習は周辺の技術を高めるに過ぎない。これらのセンターは義肢を作るためにこれまで広い範囲の技術を駆使してきた。1960年代にはポリエステルリジンが木や金属のパーツとともに使われ、1980年代にはHandicap Internationalがソケットを作るための皮、木、竹、アルミニウムを紹介した。1990年代にはWorld Visionがポリエステルリジンの使用を始めた。1年前、POWER(Prosthetics And Orthotics Worldwide Education and Relief)が義肢を作成するためのポリプロピレンを紹介し、現在はポリプロピレンはNRCで使われているにすぎないが、将来はMoPHによって国内のすべてのセンターで使用されるようになるであろう。

[未来への提言]
POWERが最近MoPHと協力して行った調査によれば、国内には4千人の切断者がおり、その41%は上肢切断である。そして1万人ほどの足部、または下肢の変形をきたした人々がいる。

 技能と、時には意欲の問題から、これらの人々が必ずしも専門的な義肢装具サービスを受けられるわけではない。同様に必ずしもすべての製作所が適切に維持されているわけではない。

 過去には多くのNGOが来ては去り、それぞれが異なった考えのもとに障害者が必要とする義肢装具の供給を試みた。

 ここに述べたさまざまな問題から、義肢装具の供給体制は安定性と信頼性と一貫性に欠けたサービス体制となっている。

 ビエンチャンの国立リハビリテーションセンター(NRC)と非政府組織間の協力を促進しようとする努力により、最近、COPE(CooperativeProstheticand Orthotic Enterprise)を設立する合意が得られた。この組織は単一の活動組織で国際的な基金の運用を行う機関で、国際的に人材を雇用してこの国の義肢装具サービスを推進する実効機関となる。

 基金がおりたら、4団体、NRC,POWER,World Vision,Cambodian School of Prosthetic and Orthotis(CSPO)が合意書に署名することになっている。有益となればその他にCOPEも加わる可能性がある。理事会はそれぞれの団体の代表者によって形成され、全体を統括し、外国と地元の機関のスタッフの中堅のメンバーが形成する委員会が日常業務を行う。

 COPEの目標は、政府の義肢装具供給の考えに沿って必要とする人すべてに、無料で、義肢装具の国家的供給システムを作ることである。このサービスはNational Plan of Action for Prosthetics and Orthoticsに沿ったものである。このプランはサービスのニーズと供給の実際的なレベルの調査を行い、その詳細な分析に基づいて作られた。このプランには次の主要な6項目が含まれている。

  1. 現在の施設の向上。
  2. 2つの方法による現地義肢装具士の研修。
    1. 3年間の義肢装具コース
    2. 現在スタッフである義肢装具士に対する一連の短期講習
  3. 障害者に義肢装具供給に関して情報を与える宣伝活働。
  4. 義肢装具のパーツを作るためのポリプロピレンの技術の国内的普及。
  5. 供給の質に関し確実なものとするための監視と評価。
  6. 障害者の代表組織の設立、または強化。

 ラオスのポリプロピレンの技術は、国際赤十字が紹介し、普及させた世界の多くの整形センターの技術と同じである。ポリプロピレンは我が国にとって多くの利点を有し、推奨しうる適切な技術である。1995年にプノンペンで開かれた義肢に対するISPOコンセンサス会議においてポリプロピレンは発展途上国にとって、軽さ、耐久性、安価という条件を満たす将来の技術の基礎となるものとして確認された。

Country report

マレーシアにおける義肢装具の課題と問題点
ORTHOTIC & PROSTHETIC : A DILEMMA IN MALAYSIA

ザリハ オマール
Zaliha Omar
マラヤ大学 MALAYSIA

[要約]
義肢装具は1937年以来わずかであるが必要に応じて進歩してきた。近年の急速な工業化は公共部門のサービスの向上をもたらしたが義肢装具はその恩恵に浴していない。国際的な義肢装具の供給の自由化は、マレーシアでもみられる。しかし、理想的な供給には未だほど遠い。

[はじめに]
1994年の調査によると、マレーシアは151418平方kmの国土と1970万人の人口を持つ国である。1958年に唯一のサンプル調査が人口の1%に対して行われた。現在、国民の健康と疾病率の調査が行われている。この中に障害の項目も含まれている。現在までのところ義肢装具の正確な必要数に関するデータはない。

 マレーシアは2020年までの工業化を目指して敬愛する首相の下で働いてきたが、我々の社会責任は障害者に対するサービスを提唱する人々によって疑問視されてきた。彼らはマスコミやインターネットを通じて知る最新式の義肢装具の供給を含むQOLの基本的要求を行っている。

[現状報告]
歴史的には義肢装具は特殊な分野の要求を通じて発達してきた。1937年にイギリスのB.D.Molesworth博士が国立ハンセン病コントロールセンターに整形外科的用具の製作部を置いた。そこでは、ハンセン病の人々によって国内の各地から来る人々や地域に居住する人々に対し義肢装具のサービスが行われた。英国やオーストラリアから船で送られた体型に合わない義肢は、形を変えて患者に合わせた。1949年、同様の製作部がクアラルンプールのシェネラル病院に併設された。Mellowship氏はその制作をクアラルンプールから500km北にあるペナンから指導した。1951年、その施設はクアラルンプールジェネラル病院に吸収された。2人の技術者が英国のHangers義肢装具会社で2年間研修してその施設に従事した。1969年、この小さな製作部は国立クアラルンプール義肢装着センターとなった。1967年、クアラルンプール大学病院によって身体に障害のある人々やその他の人々に対し、医学的リハビリテーションサービスの一つとして義肢装具部門の活動が始まった。1970年代にはマレーシアに小さな個人義肢装具会社が乱立した。1980年、厚生省は障害者に低価格の義肢装具を支給することを目的とした独自の義肢装具部門を設立した。同時に、職業訓練を目的とした部門も同じ管轄下に置かれた。同年、仕掛け爆弾による多数の切断者をみてきた防衛省は2人の職員をオーストラリアと英国のHangers義肢装具会社に研修に送り出した。しかし、製作部は作らなかった。

 マレーシアで製作する義肢装具の種類は単純な既製品の装具から注文して作る義肢装具まで多様である。近代技術が浸透して患者に素材、形態とも良質なものを製作することができるようになった。モジュラーシステムや熱可塑性の素材が広く使われ適合性が改善し製作時間が短縮した。

 全体的な健康政策の発展、とりわけ人材の育成によってマレーシアの義肢装具サービスが発展した。マラヤ大学では医師に対する、医学的リハビリテーションカリキュラム、整形外科医学、スポーツ医学などあり、リハビリテーション医師に対しては義肢装具研修カリキュラムがある。これらの教育によって義肢装具のサービスは改善する方向へと向かっている。義肢装具の供給が上記の施設により可能であるとはいえ、総合的、全体的サービスは医学的リハビリテーションサービスを通じてのみ可能であるように見える。現在、国内でそのようなサービスのできるところは2カ所、すなわち国内の照会を受けるクアラルンプール病院の国立義肢装具装着センター(NLC)と国内の7つの教育病院の一つであるマラヤ大学医学センターだけである。NLCは、現在、医学的リハビリテーション部となりリハビリテーション技術部門と呼称されている。1996年には271個の装具と33本の義肢を製作した。

 1996年3月のマラヤ大学医学センターにおける義肢装具供給の研修が行われて以来、義肢装具の質と量に不安はあるが、リハビリテーション医学サービスは統合的なサービス提供に焦点を当てることができるようになった。1996年10月から1997年9月までにリハビリテーション部門を訪れた20万人の患者のうち23人が義肢部門、1077人が装具部門のサービスを受けた。

 ハンセン病は殆ど根絶されたので、国立ハンセン病センターは現在地域病院となり義肢装具製作部は作業療法士によって主に装具やその他のリハビリテーションに必要な用具を製作している。ハンセン病患者による製作はもはや行っていない。

 専門職の育成という点に関しては、マラヤ大学医学センターだけが唯一、義肢装具士、リハビリテーション医師、PT,OT,MSWを含む理想的なリハビリテーションチームを組み、整形外科、形成外科、その他の部門と患者資料の照会ができるところとなっている。3人の義肢装具士と多数の技術者が国内の移動義肢装具供給サービスを担っている。マラヤ大学医学センターは別として、国内の義肢装具サービスの指導は病院の整形外科医、地域のリハビリテーションスタッフによって担われており、その殆どは義肢装具について極めて限られた知識しか持ち合わせていない。マラヤ大学医学センターリハビリテーション医師は、義肢装具を必要とする患者に責任を持っている。彼らは医学的リハビリテーションのスタッフ(義肢装具士を含む)、整形外科医、その他のスタッフと密接な関係を持ちつつ働いている。

現在のマレーシアにおける義肢装具サービスにみられる問題点を掲げる。

  1. サービスを必要とする障害のある患者の疫学的データの欠如。
  2. サービスを提供する訓練を受けた専門職の不足。これには義肢装具士、認定された義肢装具技術者、リハビリテーション医師等が該当する。
  3. 訓練された専門職の受け入れ施設の不備。
  4. サービスそのものの不足。
  5. サービスの偏在。多くの患者にとっては来訪が不便。殆どは首都周辺のKlang Valleyにある。
  6. 現在ある施設間の協力体制の不備。
  7. 義肢装具製品の標準化され品質管理がなされていない。
  8. 義肢装具製品の価格管理がなされていない。
  9. 障害者にとって簡単に入手できる情報のネットワークの欠如。
  10. 義肢装具の研究開発に対する国家的方針の欠如。

[未来への提言]
これまで述べた問題点は、マレーシアの義肢装具発展を保証するために注目されるべきものである。以下、いくつかの提言を述べる。

  1. 義肢装具を必要とする障害者の疫学に基づくデータベースの作製。
  2. データベースに基づく、研究開発と国内におけるサービス網の計画。
  3. 義肢装具技術者の公的研修プログラムの策定。
  4. 国内におけるサービス箇所の増加。すべての病院に設備があり、小さい場合にはより充実したところへの紹介が可能であること。
  5. サービスの拡大。
  6. 国家政策を作り、製品の質を管理し、価格を管理するような共同機関の設置。
  7. 義肢装具研究開発の啓発。
  8. 障害者が容易に利用できる情報網の設立。

Country report

ミャンマーにおける義肢装具リハビリテーション
PROSTHETIC ORTHOTIC REHABILITATION IN MYANMAR

ニュン ニュン
Nyunt Nyunt
国立リハビリテーション病院 MYANMAR

[要約]
ミャンマー連合における組織化されたリハビリテーションサービスは1959年の障害者病院設立に始まる。この病院は義肢装具やその他の器具の障害者への提供を含むリハビリテーションニーズに応えている。障害のある市民には、切断者、ポリオ後遺症の子供、脊髄損傷、脳卒中、リウマチの患者等がいる。付属する義肢装具制作部は訓練された義肢装具士により必要なリハビリテーション機器を提供している。

 義肢装具とその他の器具の年間製作量は、370義肢、822装具、1032本の松葉杖と75本の杖である。1993年に国立リハビリテーション病院と改名されベッド数が100のセンターとなる計画がある。体の不自由な人のスポーツと競技会が体の不自由な人々の意識を高め、社会の関心を高めるために毎年開かれてきた。成績上位のものは海外の国際大会に参加した。

[はじめに]
国立リハビリテーション病院におけるリハビリテーションサービスこの障害者のための病院は、1959年に障害者雇用法に基づき、社会福祉省の管轄下に設立された。当時のベッド数は25であった。1963年にUNICEFの援助により50ベッドとなった。

 この病院は1968年に保健省の管轄下に移された。病院は障害のある市民、切断者、ポリオ後遺症の子供、脊髄損傷、脳卒中、リウマチの患者等を受け入れ始めた。付属する義肢装具制作部は訓練された義肢装具士により必要なリハビリテーション機器を提供している。

 現在病院は国立リハビリテーション病院と改名し、国内では唯一のものである。近い将来100ベッドとなる予定である。

[現状報告]

1.義肢リハビリテーション
国立リハビリテーション病院は国内のすべての障害のある人々に義肢装具を供給する唯一のセンターである。付属する装具の製作部は、1人の義肢指導者、4人の経験豊かな義肢技術者、装具、革製品、木工等の技術者からなる35人のスタッフがいる。製作部には、義肢装具供給を支える機械製作部、SACH足製作部、義肢パーツ製作部、ニッケル圧延部がある。

 1995年国際赤十字からポリプロピレンを使った新しい種類の義肢がもたらされた。

2.装具リハビリテーション
脊髄損傷、ポリオ、脳性麻痺者に対し、短下肢装具(FAO)、長下肢装具(FAKO)、その他の体幹装具が作製されている。装具に使われる材料は国産の鉄、輸入鉄、アルミニウム、ジュラルミン、皮革、ポリプロピレン等で殆どは輸入品である。頸椎カラーコルセットは頚椎症性脊椎症、腰痛症に対し製作されている。滑り止めのゴムを被せた松葉杖や杖のような歩行補助具は国内生産されており無料かあるいは廉価で配布されている。

[未来への提言]
我が国における将来的ニーズ技師の要求は義肢センターへの移動手段が容易となればさらに高まるであろう。近い将来さらによい義肢に対する要求が予想される。健康維持のための資金援助制度の変化につれて、義肢に対する支払いの可能な切断者によってリハビリテーションにかかる重荷は軽減され、支払えない切断者の面倒をみる財源の運用が可能となるであろう。しかし、価格の配分制度によって義肢を必要とするものはさらに国内外の市場において様々な種類の義肢を選択できるであろう。

 義肢装具製作部の義肢の供給は技術面、材料面に両者において最新化され改善されねばならない。そのためには技術を高め経験を積む訓練が必要である。

 さらに、義肢センターを国内の必要な地域へと拡大し義肢に対する要求を満たしていかねばならない。それぞれの地域に必要に応じた製作部を設置しなくてはならない。関係する教育機関も必要となっており、リハビリテーション病院は国内各地域の製作部に配置されている技術者の教育センターの役割も果たしているのが現状である。

 義肢装具供給の将来構想

  1. 国立リハビリテーション病院の義肢装具製作部の拡充と技能の向上
  2. 装具センターの設立による国内義肢装具供給の拡大
  3. 将来に備えた国立リハビリテーション病院における技術者教育
  4. 発展した義肢装具制度に見合う技術的要求に答え得る訓練を受けた技術者の準備
  5. CBRプログラムのニーズに応える義肢装具供給の現地派遣制度の確立
  6. 可能な範囲での義肢のモジュラーシステムの導入

Country report

日本のリハビリテーションと義肢装具
PROSTHETIC AND ORTHOTIC IN REHABILITATION IN JAPAN

飛松 好子
Yoshiko Tobimatsu
国立身体障害者リハビリテーションセンター JAPAN

[要約]

  1. 義肢装具は身体障害者によって広く使われ、またさらに普及しつつある。
  2. 資金的援助のシステムは確立されている。
  3. .義肢装具をリハビリテーションの過程において有効に利用するためにはリハビリテーション専門職の教育が必要である。しかしこの教育は十分とはいえない。
  4. 1987年に義肢装具士の国家資格制度ができ、高校卒業後3年間の教育を行う専門学校が同年発足した。しかし4年制の大学はまだない。義肢装具の研究開発のために4年制の大学設置が必要である。

[現状報告]
日本の障害者の総数は1991年度の厚生省の推計に依れば441万人であり、そのうち身体障害児者は294.8万人、67%、精神薄弱児者は38.5万人、9%、精神障害者は38.5万人、24.5%である。ここでいう身体障害者とは、運動、聴覚、視覚、内部臓器障害を含む。成人の身体障害者は約285.6万であり、そのうち四肢切断者は16.8万人である(表1)。この数は1987年の17.4万人に比べ減少している。切断者の内訳は、上肢が11.1万人、下肢が5.7万人である。その原因は外傷がもっとも多い。この3年間に国立身体障害者リハビリテーションセンター病院に入院した34人の切断者について調べた。そのうちの7例は糖尿病による切断で5例は自殺未遂によるものであり、3例は悪性腫瘍によるものであった。このように半数は十分な医学的管理、心理的ケアを必要とした。また、高齢者の割合も多く医学的管理を必要とする。

 日本では毎年およそ10000本の義肢が作られ、80%近くが義足である。義足のパーツに関しては、膝継ぎ手の遊脚制御はバネのような単純な構造が減り、空圧式制御が増加しつつある。足部についても多軸足継ぎ手が増加し、古典的なSACH足は減少の傾向にある。このような傾向はより歩きやすい高機能なものに変わりつつあることを示している。義足の目的としてもスポーツやレクリエーションを目的とするものが増えており、生活のニーズに合わせて多様化している。しかし、電動義手の作製は極めて少なく年間10本前後が作成されているにすぎない。

 義肢、装具は身体障害者のリハビリテーションにおいて極めて重要なものである。義肢でみられる傾向は装具においても同様にみられる。たとえば、脳卒中早期リハビリテーションにおいては下肢のコントロールの状況に応じた頻回のAFOの再調整が行われる。C6脊髄損傷の患者に対し訓練途上で回内装具を使用する。

 日本では、毎年医師を対象に義肢装具等判定医師研修会が開かれ、これまで3700人以上の医師が研修を受け各地で判定に携わっている。義肢装具士は1987年に国家資格と教育制度ができ、高卒後3年の教育課程がもうけられた。現在、2358人の義肢装具士がいる。しかし、大学はなく今後の義肢装具の研究開発という点からは問題である。

 国際協力としては、1981年から毎年4ケ月のJICAの補装具研修コースがセンターにおいて開かれている。1996年までに20カ国、76名が研修を受けた。また、1989年よりセンターが協力して作られた中国リハビリテーション研究センターにも補装具制作部門が置かれている。しかし、義肢装具の普及のためには多職種の教育と製作のために各国の国情にあったパーツの製作が必要であり、技術者研修のみでは限界がある。

[未来への提言]

  1. 切断者の健康管理、精神衛生管理が重要である。
  2. リハビリテーション過程において義肢装具を有効に活用するためにはリハビリテーションにおける多専門職に対する健康管理、精神衛生管理を含めた教育が必要である。
  3. 研究開発の視点からも4年制の義肢装具士の大学設置が必要と思われる。
  4. 義肢装具の普及のためには他職種の教育と製作のために各国の国情にあったパーツの製作が必要であり、技術者研修のみでは限界がある。リハビリテーション医学教育、義肢装具製作技術指導などともに実状にあったパーツの開発と製作が行えるような総合的なセンターが必要である。

各国報告5
感覚障害の予防とリハビリテーション

平成9年11月11日(火)15:00-16:45
D501 Conference room
座長
A.Periquet  WHO西太平洋地域事務局
簗島 謙次  国立身体障害者リハビリテーションセンター


Country report

バングラディシュの聴覚障害-知られざるハンディキャップ-
HEARRING IMPAIRMENT : AN UNSEEN HANDICAP IN
BANGRADESH

ハッサン サイディ カーン
Hasan Sayedee Khan
国立小児聴覚言語センター BANGLADESH

[要約]
聴覚障害は見た目にはわからない障害なので、バングラディシュでは栄養失調や下痢等に比べて重きをおかれていない。政府やいくつかの民間組織によってされている活動では充分とはいえない。それでも財政的、技術的な制約がある中で、これらの機関は2万人以上の聴覚障害のケアにあたっている。さまざまな活動の中でも僻地医療のキャンププログラムは大変効果的で、そこでは聴覚検査が行われ障害が固定する前に早期発見、治療がなされている。さらに、聴覚治療についての啓蒙、医療教育は僻地医療プログラムによって拍車がかけられている。1990年から1996年の間にこれらのキャンプで85,314名の患者をケアしている。国立聴覚言語障害センターでは、障害のある患者の精査、評価、適切な補助具の供給と聴覚教育を独自に行っている。他機関においてもそれらのサービスは拡がりはじめている。これらのプログラムを円滑にすすめるのに、熟練した人材不足が大きな問題となっている。「聴覚障害の子供を助成する聴覚障害予防」というプログラムのもとで、聴覚障害児支援協会(SAHIC)が僻地の病院医師、小学校教師、保健検査官のトレーニングをおこなっている。この水面下で問題化している現状を考慮しながら、私達は、やっとスタートラインに立ったばかりで長い道のりがある。

[はじめに]
一人当たりの平均収入225ドルで、125万人から100万人の人口が143,988平方Kmの貧しい領土で生活している。ほとんど毎年、様々な自然災害や苦難の犠牲となる事で我が国の経済発展は大きく阻まれている。現在、わが国は聴覚障害人口の増加を警戒しながら深刻な局面にむかっている。1986年版WHOの事務局長の報告によれば、バングラディシュでは中等度から重篤な聴覚疾患のある者が2万人以上いる。これはあくまでも予想数で正確な数はわかっていない。信頼すべき調査がされておらず統計データが有効ではないからである。我が国ではこれらの障害者の予防、発見、矯正、リハビリをする設備がないが、現状での障害をますます助長するような事は避けるべきである。

 障害の早期発見をする事で適切な処置を行い健常者と同じ生活に復帰させる事が可能となる。

[現状報告]
聴覚障害は見た目にわからない障害である。栄養障害や下痢等にかかっている何千、何万の子供達のいる状態ではかえりみられる事はない。政府レベルでは充分な活動は行われていない。ごくわずかな非政府機関が聴覚障害児の助成に積極的である。SAHICはそのリーダー的存在であり、様々なプログラムを通して活発に活動している。

  1. スクリーニング:最も広く効果的な検診プログラムの1つは、15才以下の小児の聴覚検査である。僻地のキャンププログラムは、村の居住者を主な対象とし国中至る所でおこなわれる。これらのプログラムの有効性は多種多様である。キャンプでは障害のスクリーニングの他に、疾患の早期発見にもつながっている。重篤な聴覚障害の予防に役だつ。
    一般の保健、栄養、公衆衛生の啓蒙がされている。SAHICは1996年12月までに143のキャンプ(362日間)で85,314人の患者をみている。
  2. 協会の設立:SAHICは国立聴覚言語障害センターを設立した。そこには、様々な耳、鼻、のどの病気の患者がやってくる。難聴を疑われる人は、難聴の検査を行う。もし必要であれば、補聴器をあわせ供給する。1992年から1996年の間に57,620人の患者が検査を受け、25,073人が経過観察を受けている。そのうち1,693人が補聴器を供給され745人が手術をうけている。
  3. 聴覚教育:SAHICは聴覚障害児のための就学前統合教育校を設立した。そこでは、グループや個別に補聴器をあわせて子供達の聴覚教育を行っている。3才以下の子供の親には、「ペアレンツガイダンス」という特別プログラムがおこなわれている。子供達は、未就学聴覚障害児協会(IPSHIC)が充分な言語能力が開発されたと判断すると、普通小学校ないし中学校にもどされる。
  4. 教育とトレーニング:WHOと協力してBiennium訓練プログラム「バングラディシュにおける聴覚障害予防」が行われた。僻地病院で働く110人の医師、106人の小学校教師、104人の保健婦が1997年1月から8月までトレーニングを受けた。その方向性としては、聴覚障害の初期段階の障害原因となる疾病予防、新生児の為の簡単な聴覚検査に限られている。
  5. アジア連合Laryngectomees協会の助成を受けてバングラデシュのLaryugectomeesの発声トレーニングコースがおこなわれた。JICAでもこのプログラムを助成している。SAHICの他にHI-CARE、特殊教育センター(政府)が活動している。僻地の人々に便利なサービスをおこなう為にそれらは違った地域に支所を作って活動をはじめている。

[未来への提言]
障害者の人口は、社会経済の成長と表裏一体のマイナス面に影響する。家族の働き手の人数が影響するので障害者がいると貧困の悪循環から逃れられない。それは、障害者を社会発展の数に入れていないという事である。聴覚言語障害を克服するためには以下の事が必要である。

  1. 国家機関:国家機関または聴覚を専門に扱う機関が予防や効果的な管理をする為に、この分野で活動する公的、私的機関を指導する。
  2. 調整:SAHICの他にHI=CAREやその他の非政府機関がある。しかしながらすべての機関は個別に活動している。1つの機関が優れたサービスをしても他の機関はその恩恵を受けられない。国家機関が全ての機関を包括調整する事で全体の努力が共生可能となる。
  3. 私達が抱えている最も大きな仕事は教育である。貧しい領土に膨大な人口、文盲率40%以上の現状において人々を教育する事は難しい。国家機関でミーティング、ワークショップ、ビデオ、広告他で非公式の健康教育を広げて行く責任がある。
  4. 専門家のトレーニング:この問題について真剣に解決しようとするなら、医師、聴覚学者、聴力検査士、スピーチセラピスト、教師、カウンセラー、ソシアルワーカーを含む専門家グループが必要である。このような専門家が大幅に不足している。
  5. 研究所:広範囲の障害者に対処するために国立聴覚言語障害センターのような使命をもつ施設を他にもつくるべきである。これらの施設が地方の出先機関を通してそれぞれの独自のサービスを提供する事になるであろう。
  6. 障害者の早期リハビリを確実なものにしなければ私達の努力は実を結ばない。障害者は他に頼って生きるのではなく自立するべきである。雇用の機会を与える事で障害者の隠された能力をひきだすべきである。
  7. 地域協力:最後に、地域的な問題だけではなく国家レベルでの努力が主要となる。国際的な協力も無視する事はできない。

Country report

インドネシアにおける聴覚障害予防とリハビリテーション
PREVENTION OF DEAFNESS AND REHABILITATION IN INDONESIA

ヘンダルト ヘンダルミン
Hendarmin Hendarto
インドネシア大学医学部耳鼻咽喉科 INDONESIA

[要約]
耳鼻科衛生の疫学的調査は耳の保健衛生を検討するとき必須の調査となる。それ故この種の調査を継続し、インドネシア本土以外の他の地域にも広げていくべきである。特に東インドネシア地方の特殊民族(Malanesian)に必要である。聴覚障害の予防と継続したリハビリテーションを始めることとインドネシアの施設をより充実させることが重要である。

[はじめに]
インドネシアは世界で最大のAchipelagoの国の1つである。13,667以上の島があり931の島に2百万人が住んでいる(1997,2月)。インドネシアでは慢性中耳炎(COM)に罹る率が比較的高い。限られた医療ケアと教育のために顔面マヒ、内耳炎、脳膜炎、頭蓋内膿腫のように様々に複雑化している。聴覚障害は人口増加と同様に大きく影響するだろう。耳治療の絶大なニーズに直面しながら、耳鼻咽喉科医は400名で、手術はほとんどおこなわれていない。

[現状報告]
世界が大きく発展する中で、聴覚障害によって引き起こされる問題は深刻な問題である。

 問題の大きさについては、信頼できるデータがないのでさておく。ほとんどの国が早期発見、両親の援助、適切な教育とリハビリテーションサービス等が不足している。耳衛生と良好な聴力は、人間の能力のQOLを発展させるのに必要な要素のうちの1つである。インドネシアで病院を中心におこなわれた統計では、我が国の4都市の主要病院のENTで17から46%の割合で中耳炎がみられた。24ヶ所で医学統計がなされており、そのうち14は政府機関でおこなわれ、10は私立医学部によってなされた。

地域 政府機関 私的機関
ジャワ
スマトラ
バリ  
スラウェシ  

ENTの多くはクリニカルオーデオメーカーで出されているMFに準じた。
(レベル3モデルIFO WHO grobal)

1.インドネシアの耳鼻科衛生の疫学的調査:1994年、インドネシアではじめての疫学的調査が3ヶ所ではじまった(南スマトラ、セントラルジャワ、南スラウェシ)。眼の健康セクターと共同してそれぞれの地域で平均3,000人のサンプルでおこなわれた。この調査に入る前に適当な調査表をつくるために西ジャワ地方のセツで事前調査をおこなった。同様の疫学調査が北スラウェシと西スマトラ地方で1995年、東ジャワと西ヌサテンガラは1996年に行われた。

2.調査結果結果:5つ地域の疫学調査結果は以下のようである。

疾患 調査結果[%]
1)耳鼻咽喉疾患 39.70%~51.98%
2)耳疾患 18.10%~28.97%
3)外耳疾患 6.00%~19.90%
4)中耳疾患 2.66%~5.70%
5)難聴
伝音性
感応性
3.26%~5.77%
4.90%~9.10%
4.20%~10.30%
6)急性中耳炎 0.14%~0.50%
7)慢性中耳炎 2.52%~5.10%


[未来への提言]
聴覚障害、聾予防とリハビリテーションプログラムについて、WHO西太平洋事務局と東南アジア諸国が協調して、IFOS,International Society Audiology(ISA)、Hearing International(HI)を一層発展させることが望まれる。

 インドネシアの他のセンターを促進させるため、シャカルタIFOS,ISA,HIセンターをWHOの協力センターに指定して、保健担当者として聴覚言語の患者を指導するシステム化が必要である。耳鼻科医に基本的なサポートを供給したり聴覚障害のマネージメントと周辺地域でのスタッフトレーニングを目的としたプログラムの開発とカリキュラムの準備を助けるコンサルタントが必要である。

 聴覚障害の子供と大人のリハビリテーションプログラムを強化するべきである。ごく少数のろうあ者だけがリハビリ教育、トレーニングを受けている。このような現実が、個人、家族、社会の経済的動向を悪化させている。

Country report

フィリピンの聴覚障害予防プログラム
PREVENTION OF DEAFNESS PROGRAM IN THE PHILIPPINES

クリスチーナ ロペス
Lopez,MA Cristina Santos
サント・トマス大学病院 PHILIPPINES


[要約]
聴覚障害は主に子供の人口の多い発展途上国の問題である。これら聴覚障害のある子供が明日のリーダーとなる事を考えると既存のプログラムは適切なものとはいえない。これらへ対処するのには難聴の早期発見が必要条件であり、これを受けてフィリピン政府は聴覚障害予防の政策を再考するために厚生省を通じて国立顧問協議会を設立した。リハビリテーションはEar Specialistや聴覚学者や基本的なヘルスケアワーカーらが直面する厳しい課題である。どこの国でも最終目標は、予防可能な聴覚障害の主な原因に対してなされるだろう。ここ数年、発展途上国の聴覚障害に対して地球規模で関心が高まってきている。

[はじめに]
かつて国の文化水準はその国の囚人と障害者の扱われ方でわかると言われていた。この20年間、フィリピンは悲惨な貧困に苦しみ障害者のニーズに注意をむけられず無視してきた。これは、選択したというより状況がそうさせたのである。それにもかかわらず国家レベルで聴覚障害をひきおこす疾患の蔓延を予防する地味な活動がなされてきた。難聴は人為的に引き起こされる一般的な障害である。すべての年齢層で教育的、経済的、社会的影響を考えるとこの問題を無視する事はできない。

[現状報告]
アジアは広大な海により分断されているが、医療ケアが十分行われない事を地理的な問題にするべきではない。我が国に耳鼻科医師は全部で216人、人口比1:338,000割合となる。同様に聴覚学者も少ないのでその仕事のほとんどは耳鼻咽喉科医師によってなされている。76地方のうち耳鼻咽喉科医師がいるのは24地方だけである。フィリピンの7~10人に一人の割合で身体的障害があると予想されており、概算で740万人の障害者がいるという事になる。これらのうちの約2~3%、14万から15万人がリハビリテーションサービスを受けているが、のこりの98%は放置されたままの状態である。全体の80%にあたる580万人は地方に住んでおり、残り20%、145万人は大都市に居住している(WHO,1990,Census)。問題が複雑化しているのは統計上の問題である。フィリピンでの聴覚障害予防で信頼のおけるデータは散在しており、ほとんどは特殊な地方のものである。障害者福祉国立会議で1995年におこなわれた報告では障害者全体で9,119,332人が登録されている。障害の種類は以下のようである。聴覚障害20%、視覚障害46%、肢体不自由15%、精神発達遅滞10%であった。1997年1月に出されたカトリックデフケアの報告によれば、難聴の原因としては77.8%が原因不明、17.65%が後天性、13.44%は二次感染、4.55%は先天性疾患である。概算50万人の聴覚障害者がいると言われているフィリピンで、就学している者は1万人たらずである。問題点は以下のことである。

  • 熟練した教師と言語訓練士がいないという問題
  • センターや健康サービスの分布が平均化していない
  • 専門的補助具が地方では、高価で不適切
  • 協会のサービスコストが一定でなく、ほとんどの障害者の支払い能力を超えている
  • 雇用の問題で障害者は健常者と競合しなければならない難しさがある

1994年現在で第一レベル、第二レベルの聴覚障害者に特殊教育をおこなっている66の学校がある。補聴器は政府の援助はないが、無料で補聴器を支給する財団や私的機関があり、毎年9千人未満の障害者に経済的自立プロジェクトに従事するための職業トレーニング等の助成をおこなっている。障害者大憲章リパブリックアクト7277が承認され、障害者の権利が守られるようになった。CBRは障害があるすべての人々にリハビリテーションを受ける機会を保証し、社会参加のできる共同体づくりを目指す構想である。

[未来への提言]
オーディオメーターが不足している為、スクリーニングテストは代用品を使って工夫して行われている。ボールペンクリックテストは耳から1インチ離してボールペンをクリックする音を使って難聴のスクリーニングをおこなうという簡便なものである。本来のオーディオ測定と比較すると、その検査結果は大変良く約1万耳のうち73%が感受した。98,6%の特定率、95%POSITIVE,92%NEGATIVE,98.9%の精度であった。その結果、このテストはバランガイヘルスセンターと同じく学校で行われる主要なスクリーニングテストとして推薦されている。保健担当者は、自分の地域の中で難聴を発見するための教育をうけている。ボールペンクリックテストをパスしなかったものは、我が国の76地方を回っている耳鼻科医師によって正式な聴覚検査をうけるようになっている。耳衛生をおこなうだけで聴覚障害児の数を劇的に減らす事ができるのでプライマリーイヤープログラムをプライマリーイヤーケアーに統合するべきである。わが国では、出産の60から70%は病院外でおこなわれており、伝統的に助産婦が出産の大半をとりおこなう。酸素欠乏、外傷、早産等の周産期の要素が考慮すべき危険因子となる。健康省では、中耳炎プログラムと協力して無料の抗生物質(Co-Trimoxazole)を支給する急性呼吸器感染プログラムを行っている。僻地の医療関係者は耳だれの症状の理解、トイレ設置、必要に応じた患者への助言を継続しておこなうべきである。用具は多く望まれているが産業ノイズコントロールは法律に管理されている。聴覚障害者の為の補償はかなり貧弱である。聴覚障害者は両眼や両足欠損等の全身的障害が原因となるもののリストには入っていない。両耳が完全に聞こえない場合でさえ永久部分障害としてリストにあげられるだけである。私達は雇用者補償活動を再考し難聴を当然の事と考えるべきではない。

Country report

フィリピンにおけるロービジョンの現況
THE CURRENT STATUS OF LOW VISION IN THE PHILIPPINES

カブレラ ベンジャミン
Cabrera Benjamin Gerardo
フィリピン総合病院眼科 PHILIPPINES

[要約]
過去10年間フィリピンでは失明予防プログラムが静かにしかし徐々に改善されてきている。両眼失明は1987年の1.07%であったが、1995年には0.7%に減少した。白内障は失明原因の第一位のままで、網膜黄斑変性症、視神経疾患と続く。ロービジョンの患者の管理については微々たるものであるが次第に啓蒙されてきている。ロービジョンの為の補助具が充分でない事と視覚障害者の総合的リハビリプログラムのない事が状態を悪くしている。これらの問題をふまえて、カブレラ等は、ロービジョンの理解とマネージメントに必要な事を確立するのに大変な努力をおこなっている。購買可能な製品、現地で調達した補助具でいろいろ試みている。さらに重要な事は、フィリピンロービジョン協会がこれを契機にロービジョン財団の中心的な核として引き継がれることが明らかとなった。リハビリテーションセンターのように、障害予防とリハビリテーションと研究所を兼ねたWHO協力センターのような国際機関によって保証された事務局が、フィリピンロービジョン協会の成功と理解の中枢となる。

[現状報告]
1987年人口調査を元にランダムサンプリングを行い両眼失明は全体の1.07%で57万8千人だった。主な原因は、白内障(87.2%)網膜黄斑疾患(7.9%)視神経疾患(5.1%)であった。失明は50才から79才の年齢群で最も高かった。しかしその内87%は治療可能であった。これは記述的な報告で疫学的な傾向は説明できていない。

 1995年失明調査について二度目の国勢調査をおこない、両眼失明は全人口6千840万人のうち0.7%にあたる478,968人に下がった。白内障と緑内障が共通する失明原因としてランクされた。両眼のロービジョンは1.95%で130万人以上の数であった。しかしながら、この統計には欠点があってBCVAは数に入っていない。

 WHOで定義されているロービジョンは良い方の矯正視力が0.05以上0.3未満である。ロービジョンの割合を過大評価しているとすればかなり良い結果になる。

 いくつかの問題が障害予防とリハビリテーションを悩まし続けている。現在ロービジョンにおいて疫学的な統計はない。カブレラ等はマニラにあるフィリピン総合病院で出されたものが唯一この国のロービジョンクリニックの統計であると考えている。その報告は、BGC,PGH-LVCと個人クリニックで調査したものである。ロービジョンに関しては全国調査がされていないので、私達はこの結果が3つの紹介されたセンターでみられたケースを反映しているものとして採用する。実際、国中から言われているような厳しい、末期の疾患に対してゆがめられた結果となっている。

 1992年1月から1997年8月の間に全部で345人の患者が受診した。ロービジョン者と全盲の主な原因は網膜・黄斑変性症(55.6%)、前房疾患(25.8%)、視神経疾患(16.2%)であった。網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、老人性黄斑変性症は最も共通する網膜疾患である。緑内障と視神経萎縮がその他の疾患の中では高率であった。

 過去5年間、保健省ではフィリピンの失明問題をよびかける為に国家レベルで公衆衛生プログラムに乗り出した。全盲予防プログラム(PBP)とコミュニティを基盤としたリハビリテーションプログラム(CBRP)がすすめられた。標準のCBRP方式では、単にソーシャルワーカー、OT,PTを含むだけである。現在の所、視覚リハビリテーションをすすめる予定はない。フィリピン眼科医会では活動が不十分な地域を優先してCATARACT MISSIONの調整をし、糖尿病性網膜症のような主な眼科疾患について公共情報活動を通して失明予防の啓蒙を始めた。

 視覚障害者用のサービスは欠如している。フィリピンではロービジョン患者が誤解されており、残存視機能が残っているにもかかわらず、全盲者の管轄機関におかれている。視覚障害者のサービス機関は33ヶ所あり、このうちマニラ中心部に23ヶ所、地方に8ヶ所がある。視覚障害者協会13ヶ所のうちマニラ中心に10ヶ所ある。視覚障害者の為の学校29校のうち23校がマニラ中心部にあり、これらのほとんどは小学校レベルである。

 ロービジョン補助具の保有数は明らかに少ないのでカブレラ等(1994)は文字を読むのに便利で高価ではないものの中から卓上ルーべと単眼鏡を準備した。また家庭のTVセットにホームビデオカメラを使ってCCTVとしての機能を果たさせようとしている。最後に、私達が現在直面している問題は視覚障害者を含むすべてのサービスを監督する中心団体がいないという事である。

[未来への提言]
理想的にはロービジョンの疫学的調査はロービジョンサービスの適切な方向性を見いだすためにおこなわれるべきである。主なカテゴリーはロービジョンと全盲である。ロービジョン患者は全盲と分類され彼等の残余視機能を活用するような援助を受けられない。以前おこなわれた全盲についての国勢調査では、全盲者の中からロービジョン者を見つけようとするものであった。これでは、政府レベルでも民間団体でもこの問題の適切な予想をする事ができない。

 この調査からロービジョンの存在と重要性を実証した後次に大切なのは、中心的な調整機関をつくる事である。これは、既存の団体の能力を充分ひきだすものとなるだろう。そのような機関がない状態が続くとフィリピンの視覚障害の予防とリハビリの発展を阻害する事になる。私立の機関はお互い協力して行う事はなく基本的にはそれぞれが独立しておこなう事を望んでいる。

 フィリピンのロービジョン協会は当初から非利益団体で、ロービジョンケースの管理に伴う私立の為の調整機関として活動する事を目的としている。政府や私的セクターと共に活動するだけでなく同様に国際的なコミュニティをもその動力としようとしているのが私的機関である。その最終目標は、全体を包括するまうなロービジョンセンターを、主にマニラ中心部、そして最終的には国中のいたるところに設立する事である。フィリピンロービジョン協会の設立の努力が報われたあかつきには、WHOやNRCDのような国際的公的機関の協力を得ることが必須となるであろう。WHOやNRCDからの国際的承認によりロービジョン協会の信頼を獲得しその意義ある活動を大きく広げる事になるであろう。

 私達には、永年にわたって補助具の経費の問題とその数を確保できていない事をここで述べておかなければならない。ロービジョン患者に補助具のセットを使って彼等の視機能を使わせるというような事もなくクリニックから送り出すのは、挫折感で意気消沈する。我が国には効果的な社会的ヘルスケアシステムがないので、フィリピンロービジョン協会のような財団の必要性を強調する。その資金がこれらの特別なニーズに向けられるだろう。

 最後に私達の国は視覚リハビリテーションの分野の専門家から恩恵を受けている。トレーニングと教育は、将来のための優先事項である。私達はその必要な専門技術についてNRCDを尊敬している。NRCD研修を受けた事を誇りに思いその意見を聞きながらフィリピンにもNRCDに続くロービジョンセンターを設立する事が夢である。将来、この夢が実現する事を切に願うものである。
Country report

タイのロービジョンプログラム
PREVENTION OF BLINDNESS PROGRAM OF THAILAND

ポーンチャイ シマロー
Pornchai Simaroj
マヒドン大学医学部眼科 THAILAND


[要約]
1990年から1994年にラマチボディ病院眼科ロービジョンクリニックを訪れた245人の視覚障害者のデータについて検討した。男性147人、女性98人、年齢は3.5才から89才までであった。

 視覚障害の原因は、網膜疾患(33.1%)視神経疾患(17.6%)黄斑部疾患(15.9%)であった。ほとんどの患者の視力は0,075から0.025の間であった。眼鏡と拡大鏡が、比較的受け入らられやすい補助具であり、これらの補助具を使うと近方視力が0.4以上の患者の割合が35.9%から65.7%に増加した。

[はじめに]
タイのロービジョンサービスは、1990年にラマチボディ病院でスタートした。当時様々な問題を抱えており、特に視覚的補助具が充分でない事が大きな問題であった。国外の物は高価で患者が手に入れる事は難しいからである。また残存視機能のある患者についてもはっきりつかめていなかった。1991年に「障害者のリハビリテーションAct1991」と、1994年に4項目の行政規定施行が立法化されてから、1994年にシリントン国立医療リハビリセンターが設立され技術的サポートと補助具を供給する調整拠点として活動している。これによって、登録された視覚障害者は、適当な補助具を無料で供与されるようになった。1993年に、眼科医と特殊技能者の為のロービジョントレーニングコースがラマチボディ病院で開かれ、その後全国6ヶ所で開催されている。現在、33ヶ所でロービジョンサービスが行われている。1990年から1994年の間にラマチボディ病院ロービジョンクリニックを訪れた245人の視覚障害者のデータを検討した。(表1)
男女比1.5:1.0、年齢3.5才~85才であった。

表1:ロービジョンの原因

原因 件数[件] 全体に占める割合[%]
網膜疾患* 81 33.1
視神経疾患# 43 17.6
黄斑部疾患 39 15.9
白内障 19 7.8
近視性変性 16 6.5
緑内障 13 5.3
その他 34 13.8
合計 245 100.0

ただし、
*:網膜色素変性症26件(10.6%)、網膜剥離19件(7.8%)、糖尿病性網膜症14件(5.7%)
#:視神経萎縮33件(13.5%)、視神経炎7件(2.8%)を示す。

[現状報告]
過去15年間、白内障は視覚障害の主な原因であった。全盲者の全国調査では、白内障は1983年に27万件、1987年には22万件であった。先の国家プランでは、白内障治療に重点がおかれ1994年の調査では、白内障は13万4千件に減少していた。年間手術件数6千件をこなせれば、1997年までには白内障を削減できると見積もっている。「障害者リハビリテーションAct1991」と1994年の4項目行政規定の立法化に伴い、手術不可能な全盲者とロービジョン者により注意がむけられるようになった。また、全国的に医療リハビリサービスと障害者の登録が実行可能となった。1994年11月から1996年11月までに101,472人が障害者として登録されている。

表2:登録されている障害者

障害の種類 人数[人] 全体に占める割合[%]
視覚障害者 13,134 12.9
聴覚言語障害者 12,595 12.4
肢体障害者 50,847 50.1
精神障害者 1,993 2.0
精神発達遅滞 14,183 14.0
重複障害者 8,720 8.6
合計 101,472 100.0

 タイでは、1997年の経済危機により予算がかなり削減された。このため、リハビリテーションプログラムは全体的に沈滞化している。1997年内に予定していた7件の新しいロービジョンサービスの計画は延期せざるを得ないだろう。

[未来への提言]

  1. 全国的なロービジョンサービスの増加。
  2. コミュニティを基盤としたリハビリテーションの増強化。
  3. 外国製の視覚的補助具と白杖の税金免除。
  4. 人権、平等、教育、リハビリテーションサービスプログラムヘのアクセス技術の促進。
  5. 様々な教育の中で知識と経験の交換を促進。

Country report

日本の視覚リハビリテーションの現在と未来
THE PRESENT AND FUTURE OF VISION REHABILITATION IN
JAPAN

簗島 謙次
Kenji Yanashima
国立身体障害者リハビリテーションセンター JAPAN

[要約]
日本で身障手帳取得している視覚障害者の主な原因疾患は、糖尿病性網膜症、白内障、緑内障、網膜色素変性症、高度近視などである。更生訓練所入所者を対象とした失明原因では、網膜色素変性症、視神経萎縮、糖尿病性網膜症などの疾患に集中している。光覚無しで更生訓練所に入っている視覚障害者はこの10年間で減少し、現在では多くの訓練生は残存視機能を有する。これらのロービジョン患者の社会復帰を援助するために、私達は国立身体障害者リハビリテーションセンターの眼科外来にロービジョンクリニックを開設した。また、ロービジョン患者の為のリハビリテーションの重要性を日本の眼科医に啓蒙する事を目的としたトレーニングコースを開設した。

[はじめに]
日本の視覚障害者の主要原因は、糖尿病性網膜症、緑内障、網膜色素変性症等である。緑内障のような疾患は予防が可能であるけれども、その他のほとんどの病気は遺伝性疾患であり治療が難しい。残念な事に、私達には現在遺伝性網膜疾患の治療方法がない。あたらしい治療法が見つかるまで、私達は治療不可能な患者を視覚リハビリテーションを通じてケアしなければならないだろう。しかしながら従来の日本における視覚リハビリテーションの主な目的は視覚障害者に新しい仕事を覚えさせる事であった。最も一般的な職域は、あんま、マッサージ、針、灸である。私達の調査によると、障害手帳取得している視覚障害者の多くは残余視機能がありこれを活用しようとしている。これに答えるべく私達は、リハビリセンター眼科外来にロービジョンクリニックを開設した。また、ロービジョン患者の為に視覚リハビリテーションの重要性を日本の眼科医に啓蒙する事を目的としたトレ
<以下 原稿欠落>

[現状報告]
日本眼科医会(JCOS)は日本に100万人以上のロービジョン者がいると概算している。私達の調査では、病気の進行パターンが変化し全盲患者が減少している事を示している。1986年から1996年の間、失明原因は網膜色素変性症が22%の割合でいつもトップであった。緑内障は減少しているが糖尿病性網膜症が急増しており、1997年現在日本の最大の失明原因は、(身障手帳取得者の中で)糖尿性網膜症である。

 主にロービジョン患者は病気の様子をみてもらうために医師に相談しようとする。残念なことだが医師はロービジョンクリニックの重要性を理解しておらず患者にその存在すら説明する事はない。治療不可能な疾患のロービジョン者は、治療が役に立たないと思うと医師に診てもらう事をやめてしまう。この状態をみて、1992年にリハビリテーションセンターでは日本の眼科医師のためにロービジョントレーニングコースを開設した。眼科医がコースに積極的に参加するように厚生省に終了証をだしてもらい、このプログラムを支援してもらう事となった。5日間のロービジョンコースは、眼科医がどのように患者の相談にのったらいいのか、ロービジョン患者のケアについて教育するものである。光学の理論と実践、医療的に用いる光学、視覚障害者の公的助成のプログラム等も含んでいる。すでに日本中から60人の眼科医がロービジョントレーニングコースに参加しその重要性は広く理解されつつある。ロービジョンは眼科医にとって比較的新しい分野で、ロービジョン患者に新しい境地をひらいてさまざまのサービスをおこなっている。ロービジョンクリニックのプログラムが日本中に広がって、また既存のロービジョンクリニックがさらに発展していく事が医療的に重要な課題である。

[未来への展望]
リハビリテーションセンターの更生訓練所に入所している全盲の糖尿病患者の割合は、急減し、現在糖尿病患者の多くは残余視機能を維持している。これは、糖尿病の管理が最近になって成功してきているからである。他の視覚障害者にも残余視機能を有する者が多くなってきている。その結果、これからの視覚リハビリテーションの対象はこのような残余視機能のある患者に向けられなければならない。ロービジョン患者のリハビリテーションは視覚リハビリテーションセンターでなされるだけでなく一般の多くの病院でPT,OT,ORT等や他の医療スタッフの協力のもとで広く行われる事が必要である。特に、眼科の患者は彼等の”障害”についていろいろ聞いてもらいたいと思っている。患者は医師がその主訴を解決してくれる事を期待している。しかし、多くの眼科医は眼の病気だけを診ようとして患者の主訴を解決しようとする事に興味を示さない。病院の医師は視覚障害者に眼を向けず障害のある患者に時間をさく事がないのが常である。このトレーニングコースを受けた眼科医師が視覚障害者の話しを聞く事を重要視する事は喜ばしい事である。こうして病院での視覚リハビリテーションが確立し始め、広くその重要性が知れ渡るようになってきている。リハビリテーションの本当の意味を理解し、パラメディカルスタッフと協力して病院における医療リハビリテーションは展開していくであろう。さらに私達は視覚障害者の多くが時間を無駄にせず出来るだけ早期に社会に戻れる事を切に願う。


主題:世界保健機関(WHO)国際セミナー 報告書  61頁~101頁
発行者:国立身体障害者リハビリテーションセンター
財団法人日本障害者リハビリテーション協会
発行年月:平成9年11月
文献に関する問い合わせ先:国立身体障害者リハビリテーションセンター
国際協力事業推進本部事務局
電話 0429-95-3100
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国立障害者リハビリテーションセンターホームページ
http://www.rehab.go.jp/