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■質疑応答・ディスカッション

 

沼田/では、これから質疑応答に入りたいと思います。

今回のプログラムは、すべての障害に関する支援活動ということでしたが、知的障害、精神障害のプログラムのお話があまり含まれていないということで、主催者から知的障害関係のプログラムについて、私から話してほしいという要望がありましたので、私どもの活動について少しお話をいたします。

知的障害関係プログラム

私は、日本発達障害福祉連盟からきました。発達障害は、知的障害、自閉症、アスペルガー症候群など、発達期に起きる障害の総称のことで、その中の大きなグループの中の一つが知的障害です。

私どもはJICAの研修コースを1980年から行い、今年で28年目をむかえ、修了者は約250人になります。この研修コースは1回が2か月半にわたるものです。

下のほうの写真は、このフォローアップコースをコスタリカで行った時のもの、そして右はフォローアップ事業の一つとして知的障害のある子どものお母さんのうつについて研究したものです。研究の過程で、約半数50%のお母さんたちがうつ傾向、またはうつ病があることがわかりました

これはフィリピンでの活動です。知的障害福祉コースの帰国研修生の一人とのタイアップで行われたものです。ご存じの方も多いと思いますが、フィリピンは、公立小学校は4,000~7,000人ぐらいの生徒数で大規模です。そこには給食の設備がなく、子どもたちは休み時間に外にパンを買いに行ったりしてお腹を満たしています。これに目をつけ、小学校の中にパン屋をつくって、知的障害者をパン焼き職人として訓練し、そこで働いて給料を得ることになったわけです。知的障害のある子どもたちが各クラスを回ってパンを売っています。

次の写真は、CBRのコーディネーターたちに知的障害の知識をもってもらうためのコースです。

これはカンボジアでの事業です。知的障害は外からわかりにくい障害で、問題やニーズが見えにくく、また、障害の中でも特に差別がされやすい障害です。これを改善するためには、地域の人々に知的障害者のニーズを理解してもらい、また、一緒にやっていけるようにしなければなりません。そのために住民参加型支援(PLA)手法を使い、地域の人たちに知的障害のことを考えてもらおうという活動をしています。

では質疑応答に移りたいと思います。ご質問はありますでしょうか。

 

障害を含む開発

質問者/秦さんにご質問があります。

障害者支援で活動していくなかで、最近特に、障害と開発の視点が重要視されています。障害者支援は福祉サービスや社会サービスというよりも開発の問題としてとらえて、貧困削減、教育支援の中に障害者を取り入れていく視点が、徐々に広がってきています。秦さんのプレゼンテーションを聞いて、まさにそのアプローチを実践していると思いました。

シャンティ国際ボランティア会の名前は以前から私もよく聞いてはいましたが、農民支援、教育支援、貧困削減などが中心であって、あまり障害者支援は聞いたことがありませんでした。活動の中で障害者を含んでいったのは、非常に先行的な事例なであると思います。こういった障害者を教育や貧困削減に取り入れていく活動は、シャンティ全体で行われているのでしょうか。それと、障害も含んだ開発を行っている他のNGOがあれば、参考事例として教えていただけますか。

 

/正直申し上げて、このシンポジウムのパネリストを受けた時に大変なことを受けてしまったと思いました。それぐらい、私自身の中にも障害のことが意識化されているわけではないのかもしれません。

当初から、各国の事務所にもこちらから働きかけたわけではありませんが、障害をもつ人も入って職員として活動する状況になっていました。難民キャンプや農村、スラムでも、「障害者だから」という意識ではないのです。貧困の状況にある方々や災害時に困難な状況にある人たちを自然に受け入れていくというところを意識化することが重要だと思います。

だから、障害のある人をカテゴライズしてしまわないように、たまたま障害があったということでいいのではないかと思っています。会でもそういうところを押さえつつ、今後もできる限りやっていきたいと思っています。他のNGOの方々も共通したところがあると思います。

シャプラニール、日本国際ボランティアセンター(JVC)、幼い難民を考える会など、いくつかの団体は、当然活動対象地域や受益者の中に障害者がいらっしゃるので、提言活動についてもそういった人たちと一緒に行っていくことが大切かと思います。

特にアジアにおいては、これまで長い間「開発」という意味で活動に取り組んできているので、その点を意識して関わっていく必要があると思っています。

 

沼田/障害者だからというわけではなくて、困難な状況にある人がたまたま障害をもっていたので、その方たちへの支援もするということでした。

他に何かご質問はありますか。

 

パソコンの指導

質問者/私はネパールからきました。加藤さんに質問をしたいと思います。障害者に対する活動の中で、収入が低いのでパソコンを学習したいという希望で指導しているということでしたが、パソコンの指導というのは具体的にどういったことでしょうか。収入を上げるための指導はどういうことでしょうか。

 

加藤/写真にあった女性のお話ですね。

 

質問者/そうです。

収入が低くても政府からの支援はなく、しかし娘を養うために働かなければいけません。そのあたりの活動はどうなっているのかを教えていただきたいと思います。

 

加藤/写真でご紹介した車いすの女性は、今はカンボジアの伝統的なお菓子を庭先で売って生計を立てています。私どもの活動では、そういった小さな商売を始めたい人にお金を貸すということはしていません。そうしたい場合は他の団体を紹介しています。

もしも彼女が縫製、バイク修理、テレビ・ラジオの修理、パソコンの勉強といった希望があれば聞いて、私どもの職業訓練校で行っているので、トレーニングを受けてもらうことはあります。

 

沼田/他の方で何か質問はありませんか。

 

ベトナムでの点字図書

質問者/ベトナムでは、視覚障害者の点字図書は初めて聞きました。それはどういった方法で支給しているのでしょうか。

 

田中/私がお話ししたのは、盲学校や普通の学校で学んでいる、視覚障害のある生徒、児童に点字の教科書をどのように供給しているかというお話です。

ベトナムでは、ホーチミンにグエン・ディン・チュー盲学校という学校があり、そこが点字プリンターをたくさんもっていて、点訳したデータを点字プリンターで打ち出し、それを全国の盲学校に配っています。それ以外の大人が読む小説など楽しみで読む本については、まだ十分に供給されていません。

 

沼田/では、次の方お願いします。

 

点字について

質問者/フィリピンから来ました。田中さんに質問があります。日本の視覚障害者はすべて点字を習得されて使っていらっしゃるのでしょうか。日本では、視覚障害者はすべてパソコンが使える状態なのでしょうか。

というのは、フィリピンには点字の図書館自体は設備としてありますが、あまり利用されていません。フィリピンではみんなが習得して習得して読めるという状態ではないからで、むしろパソコンのほうが利用しやすいのでより利用されています。

そして、皆さんの団体では、点字についてこれからどのように戦略的に考えていらっしゃるのかもお聞かせいただきたいと思います。また、必要性を考えて、点字をもう少し研修したり教育したりすることは考えていらっしゃるのでしょうか。点字については勉強したくてもなかなか難しい面があります。私の個人的な経験として、日本語での試験用紙は、読むことはできますが、点字訳自体があまり正確ではないこともあり、過去に試験に失敗してしまったことがありました。

 

田中/日本では、普通の字が読めない視覚障害者が約16万人います。その中で点字が読める人は3万2,000人という数字が出ています。ですから残りの13万人ぐらいの人は、点字を読んでいません。その一番大きな理由は、年齢が高くなってから目が見えなくなったので、指先で点字を読むのが大変難しいという理由です。

しかし日本では、司法試験、国家公務員の試験などさまざまな公的試験が点字で受けられるようになっています。その他大学入試センターの試験も全部点字で用意されています。ですから、若い人は点字をしっかり勉強してそういった試験に挑戦することが非常に大切だと思っています。

それからコンピューターについて、確かに、点字を勉強して指先で一生懸命本を読むことよりもコンピューターの画面読みソフトを使って、人工音声の読みを聞いて本を読むほうがずっと楽です。ですから、日本の場合も視覚障害者でパソコンを使う人たちはたくさんいます。統計はまだありませんが、たとえば日本点字図書館は1万1,000人ほどの読者がいます。その中で、コンピューターで点字のデータや録音のデータにアクセスする人たちは4,500人ほどです。ただ、この人たちは本を読みたいという強い意欲がありますから勉強しているのかもしれません。先ほど、点字が読めない人たちがたくさんいるという話をしましたが、それと同じようにコンピューターにアクセスできない視覚障害者もたくさんいると思います。

 

質問者/点字が読めない人、そしてコンピューターを利用できない人に対してはどのような支援を提供するのでしょうか。

 

田中/私どもは点字図書館ですので、本に関してだけいうと、録音した本を提供しています。今はまだカセットもありますし、CDの図書も提供しています。

 

活動を現地に渡すには

沼田/本日は質疑応答後の30分はディスカッションをしようと考えていました。しかし私の不手際でディスカッションの時間がなくなってしまいました。申しわけありません。実は、このディスカッションについては先週の金曜日の夜に、ご登壇いただいた皆さんにお集まりいただき、予行演習をしました。その時に大変盛り上がったのですが、時間の関係から途中で打ち切り、討論の先に来るであろう結論については宿題とさせていただきました。

それは、外部者である私達が始めた活動をどのように活動を現地に渡していくかということです。現地に渡していかないとそのプログラムは続いていきません。予行演習の最後に、この回答を皆さんにお聞きしますので用意してください、と申し上げましたので、今ここでその宿題の回答をお願いしたいと思います。

では、加藤さんからお願いします。

 

加藤/実際にカンボジアで現地の人に渡す作業をして、いろいろなことが大切だとわかりました。まずは、事業を始める前から、渡していくという気持ちを、駐在する人、事業を担当する人がもって活動することが一番大切だと思います。日本から支援者が行けば、現地の人と話し合うなかでいろいろなことをお互いが学べるので悪いことではありませんが、一方的に押しつけることをやめ、計画的にマネジメントや事業の運営資金獲得を伝えていけかなければいけないと思っています。

 

沼田/田中さん、お願いいたします。

 

田中/私どもの場合には、すでにマレーシアで技術移転は完全に行われていますが、マレーシアの人たちが指導した先で技術が定着するのに一番大切なのはハードなのです。

たとえばコンピューターの知識、技術を教えても、コンピューターをもたないで帰ってしまう。帰ってしまえば、2、3週間で教わったことを全部忘れてしまうので何のために技術指導しているのかと思ったことがありました。そういったことは絶対にやめるべきだと思っています。ですから最初から、周辺の国々の人たちを呼んだ時に、必ずパソコンと点字プリンター、点訳ソフト、それから、若い盲人の指導の時にはコンピューターと「Jaws(ジョーズ)」という画面読みのソフトは必ず渡して帰ってもらうことを大原則にしています。今までずっとそのようにしてやってきているので、講習で受けた人たちはそれを活用し続けていると思います。

 

沼田/では、中村さんお願いします。

 

中村/私のプレゼンテーションの中でも申し上げたのですが、まず一つは、最初から大きい事業にしない、彼ら自身でやっていけるぐらいの規模にしておくということがあります。

政府職員レベルに対しては、こちらの考えを押しつけるのではなくて彼ら自身に考える力をつけてもらい、どういった段取りをしていったら実際に事業が動いていくのかという能力向上を支援するということが一つあります。それから、彼ら自身のお金で行うのは限界がありますから、いろいろなドナー、あるいは政府部内の財務省に対して事業の必要性を説得できる説明能力、企画能力をつけてもらうことだと思います。

草の根レベルについていえば、彼ら自身の活動の中から運営資金が得られる仕組みを何とかしてつくっていくことと、障害者が他の障害者をケア、訓練、教育できる仕組みをつくっていくということです。

現地の人をもっと信用して、彼ら自身に運営してもらうようにしてもよいのではないかと思います。

 

沼田/ではベンジャミンさん、お願いいたします。

 

ベンジャミン/先ほどのプレゼンテーションで、お見せできなかったスライドがまだたくさんあります。そこに今ここで議論されている点が書いてあったのです。

重要な点としては2点あると思います。まず1つ目は、金銭的な面です。これはいろいろなシステム、あるいはサービスというもの自体がもともとは先進国のマニュアルに沿って実施されていくということです。その先進国でつくられたシステムやサービスをもってくるわけですが、たとえば、カンボジア、ラオスの作業所で義肢を製作していますが、それに必要な部品は大体ドイツ製や日本製の2,000ドルもする非常に高価なものです。義肢の技術者の給与の6か月分以上の金額です。したがって、国民の平均的な収入と比較して、これらの備品にかかるコストが全くマッチしていないのが現状です。皮肉にも、現在何百万ドルものお金が使われてハイテク技術が開発されていますが、実際には、世界の人口の95%ぐらいの人たちは、一般的なテクノロジーですら享受できないのです。ですから、実施国の経済能力に担ったサービスコストにしていかなければなりません。

もう一つの課題は、資金確保のメカニズムという点だと思います。ここがやはり本質的な問題となります。人権問題に関わってくるからです。各国を訪れて感じたことは、障害者の権利に基づく法律は人道的ではありますが、政府が資金を確保し運営し続けなければ善意だけで終わってしまいます。コスト効率のよいサービスが、ただのチャリティーとして終わらせるだけでなく、開発という意味での真の目的に近づけなければなりません。

よって、開発をからめたアプローチにおいては、官と民とで取り組むことを基本的なアプローチとしなければなりません。これは議論して理解してもらうといった類の問題以前のことであり、こうしたアプローチでやっていくべきだと思います。フィリピンでも話す機会がありましたが、そういった強い意思をもってやっていく必要があると思います。そうでないと資金自体がむだに終わってしまいます。

 

沼田/最後に秦さん、お願いいたします。

 

/3点ほど、貧困開発的な視点からということでお話ししたいと思います。

まず一つは、国、地域、あるいは町、村などの状況によってアプローチが変わってくるところがあると思います。今日もいろいろな国々のお話が出ましたが、それぞれのおかれている状況によって政治、経済、社会的な背景が違うので、それを見極めて私たちは関わるべきかと思いました。

2つ目は、コミュニティを意識することです。日本でも同じだと思いますが、都市であれ、農村であれ、お互いが助け合う地域社会がないことには、障害者の問題以外のさまざまな問題を含めて、解決はできません。包括された問題だと思いますので、強いコミュニティをつくっていく。そのコミュニティづくりとは人づくりだと思うので、リーダーや当事者などによって、さまざまな人たちが助け合うコミュニティがつくれるアプローチが持続可能な発展につながると思います。

そして3番目は、厳しい状況にある場合は障害者を優先して支えていくということを、まず第一に意識化していくことが大切だと思います。

2年前に20か所ぐらいのタイのスラム街を調査したことがありました。コミュニティの中での活動がいろいろありました。環境改善のごみ拾い、立ち退き問題に対するか関わり、麻薬撲滅に関する住民の取り組みといったさまざまな活動の中で一番参加率が低かったのが、障害者の活動でした。これは活動そのものが少ないこともあるし、なかなか意識化というところまでいっていないという理由があります。住民の人たちがそういった地域の問題を意識化することによって、国の発展の度合いにより、当然お金もついてくるでしょうし、人も育っていくことになります。それが大切かと思いました。

 

沼田/ありがとうございました。まとめさせていただきます。外部者がその地域に入っていく時に最初から活動を渡すことを計画に入れて活動を始めること。そして大きなお金をもって入るのではなくて小さな事業で始めること。これはその国の力に合わせた事業にすることに関連があります。また、コスト効率のよい事業であること。そしてまた、その国、地域、町、村に適合した事業であること。コミュニティ自身を力づけて、その後コミュニティ自身が障害者の活動をやっていけることをプライオリティとすること。

また、先ほどの最初のご質問にあったと思いますが、開発プログラムの中に障害を入れるためにはどうしたらいいのか。秦さんのご経験から、開発プログラムの中で障害の問題はやはりプライオリティが低い。それは外部からの支援者が入る時に、プライオリティを上げることが必要ではないかというご発言でした。

では、これで質疑応答、ディスカッションを終了させていただきます。