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分科会SA-4 9月5日(月)14:00~15:30

リハビリテーション工学の新たな動向

NEW TRENDS IN BIOMEDICAL TECHNOLOGY

座長 初山 泰弘 国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所長
副座長 Ruza Acimovic‐Janezic Medical Director,University Rehabilitation Institute Ljubljana [Yugoslavia]

リハビリテーション工学の新しい動向

THE NEW TRENDS OF REHABILITATION ENGINEERING

初山 泰弘
国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所長

20世紀後半の科学の進歩,特に高性能コンピューターの開発と光ファイバーシステムの実現は,大量の情報処理を可能とし,現代の社会生活を根底から変革しつつあると言っても過言ではない。
1970年代にはいり世界各国においてリハビリテーション工学と呼ばれる活動が活発となったのは,このような先端技術開発の基盤の上で行われたものである。
リハビリテーション工学の目的として土屋和夫氏は次の4項目を挙げている。

  1. 身体上の欠陥を補足可能な,義肢・装具などの機器を作る。
  2. これらの機器を自己の意志に基づいて自由に制御できる能力を付与する。
  3. これら新しい人間一機械系の挙動が正常人間の挙動とあまり変わらないよう訓練する。
  4. 身体障害者が社会環境に溶け込み得るように両者の協調を計画する。(1973年)
 また,リハビリテーション工学は次のような内容を含んでいると考えられている。
  1. 補装具工学(義肢・装具,車いす,動力源,人工関節など)
  2. 運動工学(計測,評価,モデルなど)
  3. 筋神経系工学(制御,人工神経など)
  4. 環境および教育工学(訓練機器,リハ管理,移動システムなど)

わが国においても,1986年にリハビリテーション工学協会が設立され,毎年カンファレンスが開かれている。また通産省,厚生省,科学技術庁などを始め各大学,研究機関等がプロジェクトを作り福祉機器研究開発に積極的に取り組み幾つかの成果を挙げている。
しかし,このような先端技術を利用して開発された機器が,障害者のニーズに応え彼らの実生活の中で用いられるためには,まだいくつかの問題が残されている。その一つはハード面の開発が先行しソフト面の開発の遅れが目立つことである。例えば開発された機器が評価改良を繰り返し障害者の生活の場に活用されるシステム作りも大切である。
本分科会は,リハビリテーション工学の各国の状況を紹介すると共に,以上の問題解決のためどのような努力が払われているかお話頂く予定である。さらに福祉機器の現実的対応に向ってどうすべきかについても討論したいと考えている。

各省と福祉機器研究開発関連団体との関係

リハビリテーション工学の新たな動向

THE CONTRIBUTION OF ADVANCED TECNOLOGY IN THE FIELD OF REHABILITATION AND WELFARE

斎藤 之男
東京電機大学教授

はじめに

今日,リハビリテーション工学を支える理工科系大学の学科はますますその境界領域が広がってきた。従来までは単に電子工学,機械工学,精密機械工学などの各学科が,リハビリテーション工学に比較的関係が深かったが,情報工学,システム工学などが加わり,その結果,新たに機械システム工学,情報システム工学,機械電子工学などの学科が新設されてきた。
一般にリハビリテーション工学は,具体性と医学的機能を求める工学だけに難しい分野である。
境界領域の研究が基礎よりも実用的な研究が多くなりつつあるように,境界領域を超えた異種技術の交流が持たれてきている。例えば,コンピュータは計算機能より判断機能の利用へと移り,その結果人工知能化への道をたどっている。ロボットは,繰り返し作業から人間の日常生活をサポートする介助ロボットへ,マイクロコンピュータは小型化によって携帯化され,人間の機能を直接補う役目を持つようになった。リハビリテーション工学分野は,以上述べた境界領域の発展に伴ない,新たなコンビネーション技術により人間に直接的効果を持たらしつつある。

ロボットの応用

最初のコンビネーション技術として,まずロボットの利用を紹介する。社会生活とロボットのかかわり合いについて,日本ロボット学会誌(Vol。3。No。1)では,(a)医療補助,(b)生活補助,(c)レクリエーション補助,(d)教育補助,(e)福祉補助,(f)各種サービス,(g)点検修理代行,(h)悪環境作業代行に分類し,ロポットの役割りを検討している。例えば,寝たきり障害者の介助ロボットに期待する動作とは,1水を飲む,2特別な食器による食事,3受話器を取る,4環境制御装置の利用などがある。一般に介助用ロボットの制御は産業用ロボットの制御と同様に固定プログラムによりもっぱら行なわれている。このような理由から生じる問題点として,ロボットは,障害者の体幹と独立した座標系をもつために,障害者の体の変化に追従することはできない。図1は,介助用ロボットとリクライニングベッドに仰臥する障害者との位置関係を示したものである。すなわち,寝たきり障害者はリクライニングベッドを任意に動かし,体幹を左右に動作するので,ロボットはその動きに合わせ順応的に追従しなければならない。そのために,この研究では,障害者の躯幹に電子式傾斜センサを取付け,体幹の 動作角度を検出し,一方,同様のセンサをロボットにも取付け相対角度から追従する新しいシステムを確立したものである。ロボット・アームとベッドに電子式傾斜計を取付けることによって,ロボット・アームの適応制御の容易性と固定プログラムに加えた適応制御の可能性を得たものである。

図1 介助用ロボット図
図1 介助用ロボット

メカトロニクスの応用

我々には,二つの姿勢問題がある。その一つは,同じ姿勢を保つことが難しいことであり,もう一つは,姿勢や動作の変化の時にバランスを保つことが不可能なことである。例えば,歩行時とか椅子から立ち上がる動作である。この研究の対象者は,歩行訓練を必要とする障害者達である。このダイナミック姿勢の研究は,可動プレート上に立った時にバランスを失うために,姿勢維持するための能力を取りもどすために開発されたものである。図2はポスチャー・コントロールシステムを示すものである。

図2 ポスチャー・コントロールシステム図
図2 ポスチャー・コントロールシステム

可動ディスクは一体となったローリング,ピッチングの動作を行なう二つのモータにより駆動される。それらは,コンピュータプログラムにより任意の組み合わせ動作が可能であり,試験的に,みそすり運動がプログラムされている。マイクロコンピュータによって動作するこれらのモータは,二つの機能を持っている。一つは,プラットフォームを動作させること,他の一つは,速度,位置,トルクのフィードバック制御により同時にプラットフォーム上の体幹の変化をモーメントとして,反力を検出するものである。その結果,厳密な体幹の重心点の動作を投影したトルク,単位kgf-m を得ている。角速度は初期条件として重要であり,起動時は特に非障害者と患者との差を決定づけている。しかしながら,ゆっくりしたディスク動作に見られ,連続的にバランスを保つ障害者とは違うものである。また,このポスチャー・プラットホームは,トレーニング機器としても用いることができる。

マイクロコンピュータの応用

一般に携帯型マイクロコンピュータ制御システムは,動力義手や環境制御システムとして開発されてきた。すなわち,このシステムのハイブリッド化は,小型化を進めることで安全性と信頼性の向上を行なったものである。たとえば,我々は7自由度の全腕式電動義手を開発してきた。それは,3自由度の剛性のある肩機構と日常のいろいろな作業に利用できる手機構とコンパクトで高い信頼性のあるコントロール装置を開発する必要があった。この肩機構の利点は,上肢の日常動作角度おおよそ50度において最大のトルクが得られることである。そのために,肩部のマイクロモータは小型でよい。障害者は,環境と障害の程度に差があるためにいろいろなニーズがある。短期間で義手を利用するために,開発全体に渡って義手支援システムを導入した。
数年間にわたって,我々はいろいろなタイプの義手を開発してきたが,我々の問題は,いかに義手を選択し,マイクロ的にモジュール化した制御プログラムをアレンジするかである。操作コマンド装置とコマンドの内容は,障害者の能力と人工知能のテクニックで知られるIF THENのルールの繰り返しによって希望する仕事に従って決定される。

CAD/CAMの応用

従来,ヒトの体の精巧な自動計測は技術的に不可能または極めて難しいと考えられていた。しかしながら,測定と情報処理技術が進歩し,生体の各部位の細かい測定が行なわれるようになった。我々はマイクロコンピュータと結合した3次元測定機を設計し,そして自動的にヒトの手の測定を行なったものである。さらに,測定データを同じコンピュータで処理し,義手に用いる一対のグローブを製作した。図3は,非障害者の測定例である。約5000点の測定と3~8mm間隔で1点当り0。8秒で自動計測したものである。

図3 測定結果
図3 測定結果

結 語

 リハビリテーションを支える技術は次の点で有利になるであろう。
  1. 障害者の障害の差に合わせた技術的支援が可能である。
  2. CAD/CAMで述べたように,生体形状を一度測定すれば,任意の生体形状をシミュレーションすることができる。例えば,石膏モデルは義肢部品の製作に対し繰り返し用いられている。
  3. コンピュータ利用によって,判断機能,比較機能,計算機能など障害者にとって難しい機能を補助することができる。
  4. 境界領域の活用は新たなリハビリテーション機器の開発に期待できる。

〔参考文献〕

  1. Y。Hasegawa,“Themes of robotics to be dis cussed social stand point of view。" Journal of the Robotics Society of Japan,Vol。3,No。1,pp。 22-29,1985
  2. Y。Saito,“Robot manipulator aids syncronized with reclining bed" 2nd ISBMRE'86,pp。319-325,1986
  3. T。Higashihara,et al。 “The development of a microcomputer‐controlled electrical prosthesis with six degrees of freedom" IFTOMM 7th World Congress,Vol。3,pp。1841-1844,1987
  4. 斎藤之男他「CADによる機能的装飾用義手の開発に関する研究」バイオメカニズム8,No。24,pp。 265-273,1986

西ドイツにおける被災労働者の就業を促進するための 近代機器の発展

THE EVOLUTION OF MODERN EQUIPMENT TO FACILITATE WORK FOR INJURED PERSONS IN FRG

Dieter Greiner
Permanent Committee on Insurance Against Employment Accidents & Occupational Disease,FRG

被災労働者の就業を促進したり就業を可能にする機器は,基本的には傷害を受けたり失ったりした身体上の機能の補助や代替のための整形外科用のエイドである。整形外科的な支援は被災者のリハビリテーションにおいて重要な位置を占める。義足,支持機器,車いすやその他のテクニカルエイドは,職業上の再統合だけでなく社会的な再統合になくてはならないものである。個々のケースにおいて,仕事時や社会の中での統合あるいは再統合の成功の程度がこれらのエイドの質に依存しているのが実情であろう。
産業は絶え間なくこれらのエイドを開発し,改良している。多数の供給者間の競争は技術の絶え間ない発達のために重要な刺激である。

 整形外科的補助機器の分野における最近の次のような重要な開発品は西独から始まったものである。
  • モジュラーシステム(「れんが造りの理論」に基礎をおいた管状骨格システム)
  • 材料としてチタンを用いた義肢の部品の製造
  • 筋電義手

材料の問題としては,チタンが補助機器として使用された場合,いくつかの点で不利益があると証明されたことが興味深い。またこれは相対的に高価な材料である。一方,新しい宇宙工学で開発された,チタンよりかなり良い性質をもつアルミ合金があり,これらは最近補助機器としてますます使われて来ている。
整形外科エイドの品質を保証する特別な制度がある。公共資金により運営されているセンターであるTechnical University of Berlinにおける試験センターの外に,労働社会省における整形外科技術委員会がある。これは,社会的補償に使われる新しいエイドの使用上,あるいは安全上の適切さについて試験するもので,その結果に基いて労働社会省が使用を推薦する。

エイドの品質の他に,西ドイツにおける整形外科的支援を最高の状態にしている基盤は,関係者すべての協力が考慮されていることである。関係者とは,処方医,製作責任者,PT,OT及び障害者自身である。この最もよい例は,法令の傷害保険の責任機関で行われる事故の犠牲者の切断後の第1次看護である。
再就業の前提として必要な義足の支給等の専門的なケアと同じように重要なことは,障害者に適したように働く場所を適応させることである。これは働く場所や仕事のやり方,仕事場の環境や仕事が組み立てられる方法などである。基本的な要素は第一に人間工学的改善であり,これは仕事をより簡単にするような規則やデータや参考資料の形態で得られる。単に障害者だけではなく非障害者においても同じである。しかし,障害者に適応するように仕事場を変える場合は,これとは別に,仕事を容易にするのと安全性についてのより広範囲な考慮が要求されることが多い。障害の種類や程度,仕事場所の要求の程度に応じて特別な手段がとられる。例えば視覚障害者は音による信号に頼らなければならない。この場合,障害のない人の場合より,より低い雑音状態に仕事の場所を保つ必要がある可能性があることを理解する必要がある。一般的に言えることは,特定の障害者の仕事のためのエイドがとりわけコミュニケーションと情報の分野において成功して使われたときには,仕事を容易にしようとして開発された大部分のエイドと同じく,障害者の従業員と同様に障害のない従業員に対しても利点がある 。負傷した者のための伝統的な「仕事用エイド」の利点は,その仕事場が明らかに「障害者のための仕事場」とは見えないことである。
仕事場における仕事用のテクニカル・エイドの他に,車いすの人や視覚障害者のためにドアや廊下,エレベーター,共用の部屋などの改築が必要になることもある。また防音や空調など,環境からの影響をコントロールする特別な方策も必要な場合がある。
1987年にテクニカル・エイドの仕事場におけるレイアウトに関するハンドブックの第4版がthe Federal Institute for Labour Protectionにより,シリーズ物の本の1冊として,出版された。タイトルは“Arbeitsplat ze fur Behinderte”である(障害者の仕事場という意味)。政府からの補助により実施されたこの企画は,特別なシステムの使用により個々のケースに合わせて仕事場に要求される設備の位置の選定を可能にした。
負傷した人に適した仕事の場所は,関係者(人事部,医師,保安担当者,管理者)と障害者自身の緊密な協力のもとに場所が選択され,設備が備えられる。この他,戦争犠牲者のための関係当局や職業安定所,労災保険当局もまた援助,助言を行っている。
受傷者の就労援助は,長期にわたるリハビリテーション担当者の援助がなくしては考えられないものである。障害者は,就労のために必要なすべてのサービス,および給付を,リハビリテーション機関から受ける権利を,法律で保証されている。労災保険を担当する機関は,“あらゆる手段”を用いて給付およびサービスを行うことが義務づけられていることをここで特に強調しておく。
ドイツと外国の科学者,整形外科エイドの製造者,ハンディキャップのある人々の団体の代表者,疾病保険機関,専門家団体や戦争犠牲者のための関係当局に対して行われた1986年におけるドイツ連邦共和国の下院の労働社会問題委員会のヒアリングは,過去数十年来ドイツ連邦共和国の,整形外科的な援助が世界のトップの位置を占めていることを認める結果になった。
対麻痺者や精神障害者,多肢切断者や視覚障害者のような重度障害者においても,仕事における再統合の可能性が高いのは,高い水準の整形外科的ケアと,障害のために必要となる仕事への適応を援助するサービスによる。労働災害による重度または最重度の受傷者の96%以上が,リハビリテーション医療の終了にひきつづいて仕事を再び始めることができる。

〔参考文献〕

Bundesarbeitsblatt 1986, magazine No。3;“Arbeits platze fur Behinderte‐Handbuch technischer Arbeit shilfen zur Arbeitsplatzgestaltung" (Work Places for Handicapped Persons―a handbook of technical working aids for work place layout), 4。 revised edition, series by the Federal Institute for Labour Protection in Dortmund (ISBN 3-88314-661-7)

障害者のためのコンピュータおよび
エレクトロニクス・サービス

―イギリスからの概観―

COMPUTER & ELECTRONICS FOR THE SERVICE OF THE HANDICAPPED:AN OVER VIEW FROM THE U。K。

Geoffrey Busby
The British Computer Society,UK

障害者に役立つコンピュータや電子機器補助具の開発はイギリスではかなり進んでいる。しかし,それらの機器の支給体制はそれほど進んでいるとはいえない。もし支給を得ようとするなら申請者は職場を得て,仕事を遂行するためにその機器を必要とすることが条件である。ところが多くの雇用者は,必要な機器を入手する前に重度障害者を雇うというギャンブルはあえて冒さないのであるから,これは理不尽な状況といってよい。現状の支給方法は,障害者の人生と彼らの社会的ニーズを考慮にいれていないという,より大きな欠点をもっているのである。
このような支給体制は今年の6月以降,多少改善されている。なぜなら,機器を揃え,建物を改造するのに利用できる資金は,以前は六千ポンドが上限であったのに対して,今後は無制限になったからである。しかし当然のことながら,そのような援助を受けるには非常に良好な状況である必要があり,雇用者はコストの一部をすすんで支払わなければならなくなる。したがって“雇用のための機器”の支給体制は理想的なものではなく,まだ容易に改善できる点を含んでいる。

イギリスにはどんな機器があるか? 実際,我々障害者が利用できる多くの技術がある。しかし,ここでは語る価値があると思われる機器についてのみ紹介することにしよう。第一に,雇用の場でもっとも潜在力があると思われるものは,ビット32社(Bit 32)で開発された“ヘッドスタート”(Head Start)であろう。このシステムは,アップル社(Apple)のマッキントッシュ(MacKintosh)というパソコンで動くすべてのデスクトップ用ソフトウェアを以下の操作方法で使用することができる。

  1.  超音波の基準周波数が“位置検出制御装置” (View Control Pack Unit)から発射され,その信号はヘッドフォンの3つの位置で検出される。
  2.  使用者の頭が動くと,ドップラー効果によって,各検出器の受信周波数は変化する。
  3.  ヘッドフォンからの3つの信号は制御装置に戻され,使用者の頭がどのように動いたかが解析され,その結果に基づいて制御装置はマウス信号と同等の信号をコンピュータに送る。 マッキントッシュのすべての標準的なアプリケーション・ソフトは,このような位置の指定(ポインティング)と口でスイッチを操作すること(クリッキング)で動かすことができる。
  4.  “ヘッドライン”(Head Lines)キーボード・エミュレータとしても動作が可能で,通常のキー操作に加えて,電話のダイヤル,キーポード・レイアウトの変更,アラームの音表示といったことも可能である。

“ヘッドスタート”装置の欠点は,頭の動きを随意に制御できない障害者にとっては適していないことである。この欠点を解消する試みの一環として,我々は最近,ビット32社を訪問した。ある日,技術者と相談しながら,先端にプラスチックのチューブを取り付けることによって,痙性がかなり強い動きでも無視できるほど十分にクッション効果のあるジョイスティックを開発することにした。この結果は,私がいつも心がけてきた“最終的な使用者を常に念頭におけ”という点を強調したことになっている。イギリスではこのことが,しばしば忘れられているようだ。

コミュニケーションは誰にとってももっとも重要な機能で,これが欠けているということは重度な障害である。音声合成装置は,いまではイギリスではかなりの数のものがあり,最良のものを選ぶのは難しい。次の3つのシステムがよいと考えている。
最初のシステムはトビー・チャーチル社(Toby Chur chill)のライトライター(Lightwriter)SL4aである。これは2個のディスプレイ(ひとつは自分用,もうひとつは相手用)と内部または外部用プリンタ(メート,メッセージ,手紙,エッセイなどを書くために用いる)をもった音声合成装置である。ライトライターは非常に小型で携帯可能である。このシステムは手の動きが良い人にとっては優れたものである。
他の二つのシステムは,動作が制限されていたり,制御が十分でない障害者に適したものである。いずれもリベレイター社(Liberator Limited)が製造しており,タッチ・トーカー(Touch talker)とライト・トーカー(Light Talker)と呼ばれている。タッチ・トーカーは指やマウス・スティック,ヘッド・スティックなどでキーボードを押すことのできる障害者用の装置で,ライト・トーカーはキーボードを駆動するために光センサを利用している。このライト・トーカーはキーに触ることはできないが,体のどこか一ヵ所,すなわち頭の動き,眉の動き,呼気・吸気,または制御可能ないずれかの筋肉などが利用できる障害者のために設計されている。
障害者がコンピュータ技術を利用しようとするときの最大の問題点は,常にインターフェイスをいかにするかということである。私見によれば,もっとも高い潜在力をもっている技術は音声認識である。スコットランドのエディンバラ大学にいる音声言語技術グループのヘッド,Laver教授は,この領域の革新的な研究開発を数多く行っている。彼の先駆的な研究が障害者にまで恩恵を与えることになるのを期待したい。
この場で,私がもっとも重要であると考えていることを主張したい。それは,たとえ修正が一部必要になろうとも,利用できるハードウェアやソフトウェアは,なにはともあれ利用すべきであるということである。

イギリス・コンピュータ協会(The British Computer Society BCS)はイギリスの情報技術の専門家集団である。近年,人手不足が生じている情報産業の分野で労働力を増やし,彼らの専門知識を障害者のために役立たせたいという道義的な責任を認識した結果,最近2つの活動を率先して開始している。
私の主張を力説すると,イギリスにおける最近の失業指数は8。4%,つまり237万5千人であるが,一方 25万5千人の欠員もある。情報産業では約5万人の熟練労働者が不足している。この異常さは,多くの知的職業ではある程度まで間違いないと,私は推測している。コンピュータを道具として使用するコンピュータ会社や知的職業は,特に障害者に適していると考えられる。したがってこの点を強調しておくことは,BCSの人間としては当然といえようか。専門知識を欲しいという希望が,雇用者に重度の障害者を快く引き受けさせるもっとも大きな要因であるという体験とともに。
BCSはこの仕事をどのように実施しているのか?
まず第一に,BCSは専門知識を持つ特定グループから構成されており,1975年に障害者用のグループが作られ,私自身はその初代議長である。協会の上層部の会員の理解を得て,もっとも盛況なグループになった。

 このグループの基本目的は以下のとおりである。
  1.  障害者に対する雇用の機会を一層増やすこと
  2.  障害者の特別なニーズと特別な能力について,潜在的な雇用者と一般大衆を啓発すること。
  3.  コンピュータ技術が教育,訓練,雇用の面で障害者を助ける方策を研究,開発すること。
  4.  障害者のニーズを十分考慮に入れて,製品の市場性が増すようにメーカーを援助すること。
  5.  コンピュータと障害者に関する情報の最大の収集者と宣伝者として活動し,その結果,広く散逸しているこの分野のリソースと成果を集め,より効果的に利用できるようにすること。
  6.  同様な組織との国際的な連合をつくり,育てること。

七番目は当然のことだが,障害者自身や障害者を介助している人々に,コンピュータが持っている潜在力を認めさせることであり,この点に関するこれまでの誤りを是正させようと努力している。信じられないことだが,英国の障害者の大多数と障害者に援助と助言を与える立場のほとんどの人々がコンピュータの潜在力についてまったく無知であることを,私はよく知っているからである。
第二に,当協会は最近,“情報技術は障害者を支援する”を旗印にしたプロジェクトを創り,さらに一歩前進した。そして私はGECコンピュータ・サービス会社(GEC Computer Services Limited)からこのプロジェクトの責任者に移った。このプロジェクトの主な目的は,ハイテクを利用すれば,障害者をもっと雇うことができるのだ,ということを雇用者に一層理解してもらうことである。それゆえ,“情報技術は障害者を支援する”という標語は,雇用についての私の前言と直接結び付いてくるのである。
責任者として私の関心は,特別に設計された機器からは離れて,すでに述べたような方向に移行しつつある。特別な機器はその性格からして高価になりがちであり,普通の機器を利用できる方向にもっていく必要がある。障害者のニーズをメーカーにきちんと知らせて,機器設計の初期段階から障害者の使用を考慮するよう働きかけていきたい。障害者の要望を取り入れて修正することは通常の使用者にとっても有益となるため,メーカーがそのような行為に取り組めば,市場の拡大につながるからである。
このプロジェクトは,工業界で4万5千部の発行部数をもつ季刊誌,集会,カンファレンスなどを通して宣伝されることになろう。このプロジェクトと一心同体である機関誌Technology Supportは工業界に対して配布される。というのも,考えを改める必要のある工業界には障害者についての知識が徹底的に不足しているからである。英国ではすべての雇用者は,労働者の3パーセントを登録された障害者から雇うという法的義務がある。これはまだ満たされていないし,このシステムは,最近政府の特別委員会で“実行不可能なもの”という烙印を押されてしまった。

私は,科学技術が障害者のすべての問題に対する万能薬にはなりえないと知ってはいるが,障害者の生活の質,尊厳,自尊心を増すうえに大いに役立っていることを強調したい。
要約すると,コンピュータと電子機器は,車いすの出現以来,最大の解放を障害者にもたらすことができる。しかしながら,私見によれば,機能が優れ価格が妥当な機器を開発するには,例えば光学やロボット工学をひとまとめにした科学に取り組むといった多方面からのアプローチが必要である。
そのようなプロジェクトは,私が音頭をとり,ブリストル大学(The University of Bristol)のKoorosh Khodabandehloo教授によって進められている。このプロジェクトは食物を認識し,障害者の口元に食物を運ぶロボット・アームを開発するものである。これは世界中の何百万という障害者と介助者の生活に強い影響を与えるであろうと私は考える。
このプロジェクトや私の仕事のすべてはチャリティに依存している。この会議で論議されている仕事のほとんどは,同じような依存をしているであろう。もしわれわれが4年間でそのような依存から離れることができるならば,それは一つの成果の証拠となるだろう。あらゆる人間の生活の質はチャリティという気まぐれに依存してはいけない,と私は深く信じているからである。

重度障害者が7千以上もの標準的なマッキントッシュ用プログラムやユーティリティを動かすことのできる“ヘッドスタート”の操作方法

ヘッドスタートの操作方法図

  1. 1超音波の基準周波数が“位置検出制御装置”から発射される。
  2. 2その信号はヘッドフォンの3つの位置で検出される。使用者の頭が動くと,ドップラー効果によって,各検出器の受信周波数は変化する。
  3. 3ヘッドフォンからの3つの信号は制御装置に戻され,使用者の頭がどのように動いたかが解析され,その結果に基づいて制御装置はマウス信号と同等の信号をコンピュータに送る。マッキントッシュのすべての標準的なアプリケーション・ソフトは,このような位置の指定(ポインティング)と口でスイッチを操作すること(クリッキング)で動かすことかできる。
  4. 4“ヘッドライン”キーボード・エミュレータとしても動作が可能で,通常のキー操作に加えて,電話のダイヤル,キーボード・レイアウトの変更,アラームの音表示といったことも可能である。
  5. 5制御装置(VCP),ヘッドライン2。0,マッキントッシュ・コンピュータの本来の能力の3種類の組み合わせにより,重度障害者でも,非障害者と同じように,自由に日誌や電卓,メモ,住所録,電話などにアクセスできる。そのうえ強力なワードプロセッサやスプレッドシート,データベース,グラフィックス,その他のビジネス用アプリケーションにアクセス可能なおかげで,ヘッドスタートを利用している障害者は,似たような仕事をしている非障害者よりも効率のよい仕事ができる。

レーザーの利用

―拡大する分野―

LASER APPLICATIONS―A GROWING FIELD

John Evans
Rehabilitation Engineering Institute,Hong Kong

25年前には,レーザーはただ目新しく,胸をわくわくさせて,利用法を模索するだけの機器だった。その後研究の甲斐があって,今では利用の道も数多く,これなくしては何もできないほどのものとなった。しかし,ごく初期には,外科手術と医学的リハビリテーションに使う程度だったと記憶している。その効果は眼科におけるように,きわめて良好なものもあったが,その他の場合は,悪いどころか目も当てられないものもあった。そのため,悪いものときめつける悪評や,当時適用の仕方が非常に実験的だったことも手伝って,なかなか医学器械としては用いられずにいた。だがこの10年で,多くの新しいレーザーが開発され,人体組織に強い光線をあてる効果がよく理解されるようになった。それにつれて再び関心が高まり,国際的なスケールで,重要な用途に当てられている。
新時代の夜明けを迎えた今,私達はレーザー装置が,実用的な技術を開発するうえに役立つであろうという知識をもとに,組織反応を予測したり,促進させたりすることができる。この報告を述べるにあたっては,リハビリテーション医学の分野で,新しい利用が促進されることを願うものであり,レーザーが提供するものに新しい目を向けてもらうには,またとない機会であると思う。まず最初に,体内に発生した変化に関するメカニズムの幾つかを見てみよう。

細胞組織に見られるレーザー照射の効果予測

レーザーは単色の強力な光を継続的にも瞬間的にもつくり出すことができる。これを利用するほとんどの場合,周辺の組織に起る妨害の発生を最少限に抑えながら,目標とする組織に必要な反応を誘発させるには二つの重要な要素がある。つまり“波長”と“パルス幅”である。適切な波長の場合には,反応の質は,大体において加えられたパワーの強さによってきまる。
考慮にいれておかなければならない四つの異なる反応がある。つまり,電気機械的反応,溶発反応,熱反応,化学反応である,実験によって観察される反応域に,強度と相互作用時間が異なる領域を作ると,四つの反応が適宜に分離しているようにみえる。それらは1平方センチメートルあたり1から103ジュール(Jcm2)の一定したエネルギー誘導の間にある。最高のパワー密度に対応する短かい相互作用時間が電気機械的効果を作り出し,一方光化学反応は非常に長い露光時間を必要とするのであろう。光熱反応は,熱の“側面効果”(side effect)が長短両方のパルス幅で認められているが,基本的には1ミリ秒から1秒の範囲内にとどまる。
以上の多くの反応は組織に固有のものではないので,周囲の組織と対照させて“ターゲット”組織のみと選択的に相互作用を起させることが肝要である。各組織,または組織の構成要素には,吸収スペクトルの反射による固有の色がある。例えば赤い血液は418nm (nanometers)で最大の吸収をするし,青い血は577nm で,吸収度はやや少ない。だが,もしターゲットとする組織が周囲の組織と適度な対照をしていないときには発色団(chromophore)で人工的に着色してもよい。
可視スペクトルの全領域と同じように今は紫外線や赤外線の領域でも多くの波長のレーザーエネルギーを発生させることができる,問題は最適な波長を認識することと,伝達システムの技術である。光ファイバーが光の伝導に用いられることも多いが,それにはどうしても限界がある。
ほとんどの場合,ターゲットの物質は身体の表面に出ていないので,ターゲットに届かせるため,レーザー光線を表面の組織から浸透させなければならない。一つの組織に入り,そこを通過すると,光は反射,屈折,散乱して,最後に吸収される。一般に取り扱われる器官の好例は皮膚である。これは,表皮の内部に繊維―蛋白質の皮膚や血液など,いろいろ異なった散乱・吸収係数をもつ多構成要素の組織である。
比較的単純なモデルには,光分散の問題に対する分析的な手法があるが,皮膚のように複雑な器官に対しては,われわれはモンテカルロ方式に基いた統計学的なモデルを用いている。これは照射光を光子が無数に集まったものと考え,照射から吸収の状態を計算するのである。それぞれの状態は擬似乱数を用いたシミュレーションで作るのだが,これによって確率に支配される光子の状態―たとえば散乱方向や距離など―を決定している。
吸収の範囲は最初のエネルギー分散によって決まり,同質のものでも,吸収及び散乱係数が相対的に大きなものに強く依存していることがわかる。

レーザー応用に見られる近年の進歩

この比較的新しい技術の活用範囲と実用性を証明するのに役立つ今後の可能性と確立した応用例はかなりある。
レーザーで角膜を細工することによって目の焦点を変えることができる。紫外線を発振するエキシマ・レーザーを使用し,1ミクロンの単位で角膜を再構成することができるわけである。組織が光溶発し,極小の熱が発生するだけなので,まったく無痛の整形―永久のコンタクトレンズと同じ―が,コンピュータ・コントロールで二秒以内に完了する。
同様に,腎臓結石もそのままで安全に粉砕できるし,冠状動脈に詰まったプラクの除去もできる。
現在,レーザーは内出血,特に胃の出血を止めるのに安全で有効な手段であるとされているが,さらに血管や他の組織との“縫合”または接合にも利用されている。
特殊な光化学反応が引き出されるおかげで,レーザーと光の伝達システムには,肺,肝臓,脳などの器官にできる悪性腫瘍を破壊するものも開発されている。応用する基本的なテクニックは“光力学療法”で,加えられた発色団によって異常細胞を分類し,次の段階で適正な波長を照射するものである。
残りの二つの応用例は,皮膚に関するものである。複雑な多構成組織に対し,非常に異なった応用を可能にするために,レーザーの出力特性を最適にするモデリング・テクニックの有効性を示すことにしよう。

皮膚に対する応用

皮膚のエネルギー分散は,照射するどんな光の波長に対しても計算することができる。この分散は多次元的であるが,組織の切断面に対してはエネルギー強度をパラメータにとって二次元的に描くことができる。
皮膚のモデルが,適切な大きさと見なされ,レーザー光線が外部,つまり表皮への正常照射と考えられるとする。その結果として現れたエネルギーの強度は,その高さが局部的なエネルギーの強度に相当する図形となる。
医療の分野でもっとも一般に用いられているレーザーは,おそらく炭酸ガスレーザーとアルゴンイオン・レーザーであろう。
アルゴン・レーザー光線は緑青色だが,表皮の色素によってきわめて多く吸収され,血管にまで滲透する。ただしこの場合は,拡散しながら吸収されるのであって,必ずしももっぱら血液によって吸収されるのではない。
これに反して,炭酸ガスレーザーからの赤外線照射は,ほぼ完全に表皮部分で吸収される。その効果は,主として熱になるので,ある種の含水化学組織の表面に限られている。
二つの特別な応用例はこのモデルの有効性を示している。赤アザ(Port Wine Stain)と入れ墨の除去である。
Port Wine Stainは,ある種の血管腫で,異常変形が伴なう。皮膚の内部で毛細管が膨張して,赤く盛り上っているのが見え,一般に頭や首に多い。望まれる対症療法は,変形した血管を破壊し,脈管周囲にある結合組織の損傷と収縮を適度な状態にしたうえで,再疎通の可能性を減少させることである。
血管壁は,見た限りでは周囲のものと区別がつかないので,直接目標を定めることができない。目標を選択するには,発色団を加えて血管壁と周囲の組織を分別するか,視覚的なターゲットとして血液を使うことである。
血液には,418nmと577nmで吸収がピークに達するという特質があり,どちらかというと,418nmの方が吸収率が高い。だが皮膚内では光の散乱があるため,理論上は577nmという波長が好ましいにすぎない。この波長における臨床実験では,100ms(microseconds) のパルス幅と10Jcmのエネルギー誘導が最適条件とされている。
医療では,ダイ・レーザー装置のフラッシュランプとマイクロプロセッサ・コントロールのビームスキャニング・システムの使用が定着している。
カーボン主体の入れ墨は,標的物質がデザインによって,周囲とはっきり見分けがつくだけでなく,吸収周波数帯が広範囲な発色団を含んでいるので,光線療法としては,可能性が明白である。
入れ墨の色素とその周囲や表面の組織との対照を最適にするために,自然発光する発色団の吸収スペクトルにおける最少値に合った波長が選ばれる。皮膚に生じる有効な“小孔”は約700nmと近赤外線で現れる。使用するもっとも好ましいレーザーは,694nmの発振周波数をもつルビー・レーザーと近赤外線領域に発振周波数のあるネオジウム・ヤグ・レーザー(Nd:YAG)である。さらに多量に染色された皮膚ではNd:YAGレーザーの方が理論的には有効性はあるが色の薄い皮膚にはあまり効果がない。
入れ墨の照射療法にルビー・レーザーが使用されることはすでに定着しているが,専門家による入れ墨には治療効果があっても,若年成人層に見られる,素人の入れ墨に試みる場合は特別の注意が必要である。この治療の基本的な反応は,主として機械的なもので, 30ns(nanoseconds)間隔の短いパルスを必要とする。

まとめ

比較的短かい歴史のなかで,レーザーはわれわれの福利にすばらしい貢献をしている,概して医学の分野における貢献が急速に広がっているのは,初期の熱烈な経験主義とは対照的に,合理的で予測性のあるアプローチが採用されるようになったからである。
レーザーの技術は,現在リハビリテーションの過程にも利用されているが,今までのものより,はるかに早く,清潔で,しかも正確であり,大体において,操作者と“患者”の双方にかかる負担がきわめて少なくなっている。

分科会SA-5 9月5日(月)14:00~15:30

らい:障害予防とリハビリテーション

LEPROSY:DISABILITY PREVENTION AND REHABILITATION

座長 Dr。Sharad D。Gokhale Chairman,Rehabilitation Co-ordination India
副座長 犀川 一夫 沖縄県ハンセン病予防協会理事長

らいによる身体障害の予防

PREVENTION OF PHYSICAL DISABILITIES DUE TO LEPROSY

中谷 親弘
国立療養所星塚敬愛園

日本のらい患者数は年々減少しつつあり,現在,約 8,000人の患者である。その患者さんの多くは60歳以上の高年齢者であり,その80%が全国13カ所の国立療養所で生活している。最近では,らいの身体障害に対する再建術やリハビリテーションを受けることは,きわめて少なく,むしろ一般老人と同じ病気のために,その治療を受けているのが現状である。すなわち,心臓病や癌などである。
らいの身体障害は一次障害と二次障害に分けられる。一次障害は神経麻痺(知覚神経麻痺,運動神経麻痺,自立神経麻痺)と皮膚の炎症による顔面などの変形である。二次障害は1視力障害,2四肢の拘縮・変形,3四肢の潰瘍などである。これらの障害に対して,現在日本でおこなわれている予防について報告する。
一次障害の神経麻痺に対しては,患者に激しい労働を避けるように指導している。不幸にして,急性神経炎が生じた場合には局所の安静,すなわちスプリント装着をおこなう。
進行性,疼痛性神経炎に対しては,進行を予防する目的で顕微鏡下での神経剥離術をおこなっている。すなわち著明に肥厚した神経幹内の減圧を目的としている。時に神経束にも切開し,減圧させることもある。現在若い患者が少ないため,このような症例数は少ないが,術後神経痛などはただちに消失する。
臨床的に運動神経麻痺の改善はないが,他覚的検査で改善がみられた。この神経剥離術は神経麻痺の進行予防に有効な方法と思われる。二次障害のうち重要なものは視力障害,時に失明である。
(1) 視力障害は主に兎眼による角膜の炎症,潰瘍,混濁などによっておこる。患者はその他に眼の痛み,流涙,整容的なことを訴える。不幸にして失明した患者にも同様な主訴が多く認められた。この予防には,兎眼の再建がおこなわれる。兎眼再建術では,これまで植皮,皮弁,筋膜によった挙上術がおこなわれてきたが,いずれも,再発を来たし,良好な結果を得ていなかった。最近では側頭筋を用いたJohnson法がおこなわれている。この再建術では角膜の病変および眼瞼挙筋の筋力により手術々式を変えている。再建術後には患者の主訴はすぐに消失し,3週間後には開眼,閉眼可能となる。また中には,不完全な閉眼機能の老人もあったが,いずれも良好な結果であった。すなわち,角膜,眼球粘膜の症状も良好となり,視力障害の進行を予防することができた。中には,視力の改善がみられた症例もあった。
(2) 拘縮の予防では,1拘縮のない四肢には理学的療法を用いる。皮膚および腱の短縮予防,間接拘縮予防をおこなう。2軽~中等度の拘縮には,手術的療法を用いる。主に足に手術をおこなってきた。
(3) 四肢の潰瘍発生予防について 神経麻痺域の皮膚の血管は内腔狭小化し,ラットの坐骨神経切断においても同様である。すなわち,皮膚の血流は不良となっている。
したがって,皮膚はわずかな外的刺激や熱などに弱く,ビラン,潰瘍,熱傷を生じやすい。四肢の潰瘍発生の予防には,血流の改善と免荷を主体に考慮する必要がある。
すなわち,患者教育である。1手・足の点検,2理学療法,3履物,まず皮膚の末梢血流を改善するためには,手・足の温浴,およびパラフィン浴をおこなう。特に温浴は創の治療にも最良である。このことにより二次的におこる皮膚の創や胼胝の発生を予防できる。つぎに,荷重を軽減するため,厚いソックス,およびクッションのある靴(テニスシューズなど)を履くことである。サンダルや踵の高い履物は禁止する。膝・肘・足の外果には,保護するためパッドなどを用いる。
再発生,慢性足穿孔症はときに足の変形,切断へと発展してしまい,一般社会生活での最大の障害となっている。このような足には,免荷を目的にした足底板,下腿補装具,PTB装具などを装着し,炎症,変形を予防している。足穿孔症には,潰瘍,瘢痕,骨突出部などへの免荷を目的とした足底板を用いる。日本では,室内で靴をぬぐ習慣があるため,難治性足穿孔症には足底板を常に装着させている。下垂足は趾の創,変形を,また足関節の破壊(Charcot関節)を生じやすい。
高年齢者の下垂足では:単なる下垂足にはら線状ポリプロピレン製下腿補装具や短ポリプロピレン製下腿補装具を使用する。創および変形のある下垂足には,足底板を用いたポリプロピレン製下腿補装具を使用している。最近では階段,坂道,和式トイレなどでも使用しやすい下腿補装具を使用しはじめている。重症な内反足,足関節のCharcot関節では,以前切断になってしまうことが多かった。しかし現在ではPTB装具を装着することにより歩行しながら節の炎症,潰瘍が治療可能となっている。したがって下腿切断にいたることはきわめて希となっている。
このような足変形著明な患者でも,PTB補装具を装着することによって,一般日常生活も可能となり,旅行なども楽しめるようになった。

以上,現在日本で実施されている,らいの身体障害に対する予防について報告させていただきました。

らいによる障害の予防とリハビリテーション

LEPROSY DISABILITY PREVENTION AND REHABILITATION

Sharad D。Gokhale
Rehabilitation Co-ordination,lndia

背景

らいおよびその結果としての変形や障害は,人の性格や人格に,戦争や天災,あるいは貧困などよりも深く根本的な変化をもたらす。このような変化は病気が治った後まで尾を引き,今は治っていても以前“その病気”だったというだけで,患者の生活をまったく違ったものにしてしまう。それは,不信,怒り,恐怖,自己嫌悪など発病当初患者に起こりがちな反応とは比較にならない。すなわち,複雑な生身の人間に起こる変化,態度の変化をはるかに超えた,魂の変化なのである。
らいを理解するにはらいになってみることだ。次善の策としては,らい患者とともに暮らしてみるがよい。私には,何年間もらい患者と暮らした忘れがたい経験がある。患者達一人ひとりの人生にとって,らいを病んだ時期が己の人生の分岐点であったのだ。
現在私が活動している地域にはさまざまな樹木が生えているが,憂欝な気分のときなど,かつて出会った患者たちを思い出させる。温和な患者がいた。そこここに枝を伸ばしているタマリンドの木のように屈託のない人物だった。またある患者は背の高いモミの木のように孤独でむっつりしていた。繊細なプランテーンの木のように感受性の強い患者もいれば,悲しみを知り尽くして,陰気をよそおう夜中のマングローブのように気むづかしい人もいた。人は人間の形をした木なのではないだろうか。木の死に方はさまざまである。嵐によって根こそぎにされてしまうものもあれば,病気のため空になりひと枝ひと枝ゆっくり枯れていくものもある。しかし一本の木の寿命は簡単にあきらめられるものではない。闘うのである。木は粘り強い。強い意志をもち,母なる大地に深く根を張っている。人間も木と同様である。すべてを失ってしまったように思われても,命はまだある。命への愛と希望はまだ残っているのだ。
らい患者はあまり見栄を張らない。世慣れていないし,嘘もつかず,隠しごともしない。らい患者と接すると,このように生命の根底を流れる生の人間の感情に触れるのである。

現状

WHOの推定では,世界中のらい患者数は 1,000~1,200万人で,少なくともその4分の1は身体的変形を伴っている。
らいは実際の患者数が示す以上に深刻な問題である。というのは,この病気に対する社会的偏見が多くの地域社会に広がっており,その結果として,病気により容貌が損なわれると,患者は深刻な心理的・経済的・社会的困難を被ることになるからである。
MDT(らいの多剤併用化学療法)には確かに高価な薬が使われるが,dapsoneが使われていた頃,人によっては一生かかっていたのに比べれば,治療期間は相当短縮されている。
さらに近年らいに対するワクチンの開発も非常な進展をとげ,現在ベネズエラやマラウィでフィールド・トライアルが行われている。この大変見通しの明るい開発は,Immunology of Leprosy(IMMLEP)の活動の成果である。

障害者の権利

1975年の第19回国連総会において,障害者の権利に関する宣言が採択された。これは“障害者は生まれながらにして自らの人間としての尊厳に対し敬意を払われる権利を有する”,すなわち,彼らは“他の人々と同様の公民権および政治的権利をもち”,“経済的・社会的安全保障と適切な生活レベルを保つ権利をもつ……さらに雇用の確保と有益で生産的,かつ報酬を受けられる職業につき,あらゆる職業組合に参加する権利を有する”ことを宣言するものであった。残念ながら,障害者にこのような平等を認める法律をもたない国があまりにも多いのが現状である。
障害者リハビリテーションへの機運は,ハンディキャップを背負った人でも人間としての完全な権利をもち,自国から可能な限りの保護政策と援助とリハビリテーションを受ける機会を認められている,という理解から生まれている。

リハビリテーションの2つの目標

(1) すべての人に障害を起こす可能性のある条件の出現の予防を目的としたサービスを受けさせ,同時にどんな障害も軽減し,患者に残された能力を最大限に発展させるのに必要なあらゆる治療を受けさせること。
(2) 障害者が再び経済的に社会に貢献できるような手段を確保し,さらに施設ケア,医療給付,障害年金等の経費を削減する方策を考えること。

開発途上国の現状

悲しいかな,開発途上国にみられる障害の大多数は予防可能なもので,一般に貧困や病気,栄養不良,無知などに起因する。このような国ではほとんどの人は農業中心の農村に住んでいる。予防や治療のための資源が不十分なために,感染や疾病率が高く,らいの場合にみられるような肉体的・精神的損傷や障害を引き起こす結果となっている。
これまで行われてきたリハビリテーションには,障害者を隔離する傾向がみられた。すなわち,特別な施設,特別教室,特別な職場などいわゆるリハビリテーション・メソッドを適用して障害者を地域社会から追放してきた。これに加えて,我々の日常の生活態度は障害者など存在しないとの仮説に基づいている。公共の交通機関,建物,ショッピング・センター,道路,歩行者用横断歩道などは,うまい具合に障害者が利用できないように,少なくとも障害者にとって利用しにくいように設計されているではないか。この種の偏見は内部からなくしていかなければならないが,口コミを含むあらゆるメディアを利用してうまく計画された情報活動が地域社会内に展開されて初めて,このような変化がもたらされるのである。
欧米では,従来,社会環境から問題と当事者を引き離し,閉鎖的な状況の中で解決しようとしていた。しかし我々は遅まきながら,障害をもった人も一人の人間であることを学んだ。従って障害者をその家族から引き離すのは,彼の将来を危うくするようなものである。

らいと障害に関する無知

障害とその因果関係,そして我々がこのことに関連してなしうることについての正確な情報がひどく不足しており,それに比例するように,間違った情報や偏見,迷信,恐怖などはうんざりするほどに蔓延している。こうした状況が,この種の問題が発生したときに家族が不適切な反応しかできないことの主要なファクターとなっている。いいかえれば,これが,らいによる障害をもつ個人やその家族を地域社会が村八分にする根本的な理由なのである。このような間違った情報は,村長から各大臣にいたる政府のあらゆる階層に存在し,開発の優先順位について助言したり,国際援助を管理する国際機関の代表の間にも蔓延している。

リハビリテーションのらいへの適用

リハビリテーションという言葉は,従来,らい以外の原因でハンディキャップを負った人々に関して使われていただけであったが,比較的最近になってこの言葉がらいにも使われるようになった。しかし,“リハビリテーション”をらいに適用する場合,らいによる障害者とらい以外の障害者の差異は見過ごされてきた。多くの障害者が通常,社会の部外者とはみなされないのに対し,らい患者の場合は社会的に追放されることが多い。そのため,視覚障害者,聴覚障害者,整形外科的障害者のリハビリテーションにおいては社会への受け入れという問題は起こらない。このような障害者たちは,普通は自宅にいて,職業をもち,社会に受け入れられている。ところがらい患者は,社会から追放されないまでも,受け入れられないことが多くリハビリテーションに逆行する「デハビリテーション」の過程は病状とともに進行していくのである。

スティグマ―その意味すること

スティグマとはある人から完全に社会に受け入れられる資格を奪う印もしくは特徴のことである。E。Goff manはこの烙印を押された人を「人格をだいなしにされた」人であるといっているが云い得て妙である。スティグマという語の本来の意味は,ある人が道徳的に何か異常なあるいは邪悪なものをもっているということを示す肉体的な印である。すなわち,特に公の場には招かれるべきでない欠点をもつ人のことなのである。
スティグマには3つのタイプがある:第一は身体的嫌悪,すなわちさまざまな肉体的変形を忌み嫌うこと;第二は精神病,拘禁などの経歴がわかっているため性格の異常が推測される場合;第三は人種,宗教,皮膚の色などがスティグマに結びついている場合である。こうして結果的に,二重三重にスティグマの烙印を押される人たちもできてしまうことになる。

スティグマの程度

社会や国,地域のタイプにより,らいに対する社会・経済的なスティグマの強さには差があるようである。たとえばインドのように一国の中でも,地域によって社会的スティグマの現れ方は異なっている。村八分も患者の病状によってさまざまであろう。重度の変形をもつものだけが村八分にされる国もあれば,皮膚に初期の斑点があるだけでも,それと分かれば差別の対象になる国まである。
スティグマがあるとされる人々の間にもそうでない人たちの場合と同じく,ヒエラルキーが存在する。たとえば,身体障害者は精神病者に比べるとまだましであるとされる。社会的階級もこれを左右する要素である。一般に,戦争による障害に付されるスティグマは病気によるものより軽いとされている。
我々がスティグマに関心をもつのは,これが「デハビリテーション」の過程の始まりになるからである。矯正手術により,スティグマの原因は取り除くことができるが,社会に受け入れられるようにするには,保健教育を行い,一般の受け入れ体制を整え,障害者を再訓練するとともに,ケースワーク,グループワーク,カウンセリングなどのソーシャルワークの技術を効果的に活用するしかない。

らいの矯正手術

らいによる変形には2つのタイプがある。一つは病気の進行中に起こるもので,病気の進行状況と直接の因果関係がある。これを一次変形とよぶ。
これとは逆に,第二次変形は,病気が完全に治癒し,もう病気を進行させる要素がなくなってからでも起こりうる。その一般的原因は,感覚を失い危険な外力に対する保護防衛力のない手足の指のけがである。このような傷から感染し,それが深く侵入して骨を侵すことも多い。こうして感染した骨は,たいてい手の指先の骨であるが,壊死に到り,つき出たりするため,指が短くなってしまう。
一次変形の部位は,矯正手術の対象となる。
一般に,すべてのらい患者の20~25%が手や足や顔の変形に悩んでいることがはっきりしている。推定によれば,今日インドにはおよそ300万人のらい患者がいるのだから,60万人の患者が見た目に明らかな変形をもっていることになる。

容貌の変形

らいはまず神経を侵す。神経細胞には再生力がないので,神経障害は治らない。その結果手や足に障害が現れるのである。
顔面の変形には次のものがある。1眉毛,まつ毛の脱落,2顔面神経障害の結果としておこる鼻中隔の骨および軟骨の破壊による筋肉の麻痺,3口の周りの皮膚のたるみおよび耳介の垂れさがり。

スティグマと変形

らいに対するスティグマは変形に対するスティグマである。多くの場合極度の変形を来すことなく病状の阻止や治癒が可能であるにもかかわらず,らいという病名そのものが醜く変形した顔や手足を思い起こさせてしまう。このような変形さえなければ,らいも他の皮膚病や神経障害と同じように考えられるはずである。ところが,このようなスティグマがあまりに根強いので,患者は社会からのけものにされてしまうのである。したがって,らいは内科・外科的問題というばかりでなく,社会的問題でもある。
A。H。Antia博士の研究は次のように指摘している。

顔面変形

らいによる変形は主に顔,手足に限られている。外見を良くすることは身体の機能を良くすることと同じくらい大切だというのは多くのらい患者の認めるところである。
らいによる変形のうち最も顕著なのが顔面変形である。幸い顔面の変形は非常に外科的矯正に適しており,変形がどれほどひどいものであっても,(再建)手術により復元できない顔はない。らいのリハビリテーションは変形に対する人々の気持ちと極めて密接なつながりがあるので,形成外科医にとって大変やりがいのある分野となっている。
これまでの分析をまとめると以下のようになる。

  1. らいによる変形の発生率は高い
  2. 顔面変形は手足の変形より多い
  3. 類結核型らいは手足の変形を伴うものが多かったが,らい腫型らいは比較的顔面変形が多い。

変形のタイプ

  1. 鼻の陥没
  2. 兎眼
  3. 眉毛の脱落
  4. 顔の皮膚のたるみ
  5. 耳の変形

鼻の陥没はおそらくらいによる変形のうちで最も悲惨で,最も衆目を集めやすいものである。顔面変形を伴う症例の25%にみられる。
顔面変形のリハビリテーションへの影響について細かく説明する必要はあるまい。外科治療がうまくいけば,患者個人が完全に社会に受け入れられることも可能であろう。
このようにリハビリテーションは,人科的治療,作業・理学療法,看護,ソーシャルワークなどの助けを借りて障害や変形を克服することができるのである。職業訓練やカウンセリングは次の段階である。

インドにおけるらい対策の教訓

インドにおいて全国的ならい対策が実施されたこの 20年間にらいの全体の状況がどれほど変わったかをみるのは有益である。1961年には250万人であった推定患者数は1981年には395万人となった。全国的な罹患率は1961年には1000人中5。7人,1987年には5。1人となった。らい対策の実施機関も1961年の134から400 近くに,また検診,教育,治療にかかわるセンターの数は194からざっと7,000にまで増えた。
まず,感染は食い止められること,変形や障害は防げること,そして病気自体は,いくらか用心しながら定期的に治療をすれば,自宅で,しかも家族や近所の人たちにはなんの危険もなく治せることがわかってきた。第二に,ある忍耐強い人たちは,果敢にも治療の枠を越えてらい患者の生産活動を組織し,社会から否定されていた患者の尊厳と平等を勝ちとる,という不可能と思われたことを実現した。経験がいくらかでも指標となりうるなら,病院から家庭へ,療養所から地域社会への移行は,政府の政策というよりは,公衆の意見と集団行動によってのみもたらされるのである。

ガンジー記念らい財団(GMLF)の活動

一般大衆の態度や地域社会の行動が変化してはじめて,ガンジー記念らい財団(GMLF)のような組織がある役割を果たして目標を達成することができる。GMLF がこの36年間,全国的に果たしてきたユニークな役割とその経験は,インドのたどるらいの征圧という試みへの曲がりくねった道のりに,有益な光を投げかけている。ガンジーにささげる多くの記念事業の中でも, GMLFの活動は彼の真意に最も近いものであるはずである。ここでガンジーの精神的後継者であるVinova Bhaveの“この財団(GMLF)は,その使命ができるかぎり短期間に終了することを念じて活動することを目指す。”という言葉が思い出される。
将来の可能性に関する明白な展望は罹患率が高く,活発ならい対策の機関や治療施設も多かったWardha 県の経験に見い出すことができよう。この県には村が 960あり,人口は約90万人である。GMLFはそのうち 30の村で活動している。
GMLFのある村では検診,治療,保健教育,地域住民の意識化といった活動を通じて1980年には1,000人中10。43だった罹患率を1984年には3。75にまで引き下げた。新たな患者の発生率もこの間に2。24から1。63 に減少した。さらに,感染は抑えられ,変形の出現も 10年間停止している。らいによる離婚や遺棄は極めてまれになった。1981年から83年にかけて全住民に対する集団検診を行ったのちに,政府の支援でMDT(多剤併用化学療法)がスタートした。WHOとマスメディア,政府や専門家の代表団体の協力によるMDTの結果,感染の怖れのある患者の90%以上が治癒した。いまでは焦点は非感染性患者の治癒と伝染経路の遮断に向けられている。
GMLFは検診・保健教育・治療センターの設立と,医師,保健教育者,ソーシャルワーカーのための1年間の訓練計画の作成にも貢献し,さらに,インド政府の保健教育の基本計画も提示した。らいの社会的側面を研究する社会科学研究所を設立し,国際ガンジー賞も創設した。今年は組織病理学センターが設立されることになっており,また目下障害者のための在県リハビリテーションセンターが計画中である。
同様に,らい対策活動には,人間の発達に関するその他の関心と同じく広範にわたるアプローチが必要であるということも経験上分かってきた。村のレベルでの活動が空白なために,らいに侵された人たちを見捨てられたままにしてしまわないためには,敏感な感受性をもった地域の人たちが,ボランティア機関と連携し,現実的なグループ活動を展開して空白をうめるしかない。このことを実現するには,らい対策活動を村が意識し,村の発展の一部として位置づける必要がある。10年にわたる無言の無償行為によっていくつかの GMLFのある村がその可能性を全国に示してくれた。

社会的および経済的要因:障害予防とリハビリテーション

SOCIAL AND ECONOMIC FACTORS:DISABILITY PREVENTION AND REHABILITATION

Ram Belavadi
Center of Research and Development,India

社会科学者や医療専門家が,らいの社会・経済的側面についても関心を持ち始めたことは喜ばしい。私個人としては,らいを根絶し,らいに伴って生ずる問題を解消させる良い出発点であると思う。最近までらいを全体として専門にしている人は誰もいなかった。ある意味で,ソーシャルワーカーや宣教師は,医療専門家の担当と思っていた。医療関係者は,ソーシャルワーカーのかかわるべきことであると思っていた。医療関係者は,らいの疫学とその伝搬に関するすべての要因を理解し,治療によって問題を処理しようとする。ソーシャルワーカーは人道的立場で,社会に対しらい患者への同情を呼びかけ,社会に受け入れるよう訴える。このようにして,ケアを必要とする人達がケアや思いやり,コミュニケーションを一番必要とする時に無視されたままであった。したがって,WHOが率先して,らいとらいを病む人々の問題解決のために社会科学者,ソーシャルワーカー,医療専門家を共通の基盤のもとに集めたことは,良いスタートであり勇気づけるものであった。
らいは,人間のかかわる他のどのような問題よりも社会的,経済的要因に関係するところが大きい。これはらいが,宗教,社会,医療,経済,政治,教育,コミュニケーション等広範囲の問題にかかわるためである。

  1. 宗教問題
    病気と診断されると,人は一般に(とくにらい患者の場合は),らいになったのは過去または現在の罪のためであるという根強い確信を抱く。インドの仏典や宗教的文献の中にのろわれてらいに苦しむ人々(Mahar og)が書かれているために,この病気の根源を宗教の領域に見つける。その結果らい患者は医療よりも宗教的行為を頼みとする。
  2. 社会的問題
    患者は家族,親類縁者を含む社会から追放される。社会の中で生活し社会的活動に参加することが許されない。本人と本人の家族の両方が影響を受ける。
  3. 経済的問題
    患者は稼得能力や就労の機会を失う。職を持っていても追われ,自営でも商品が売れなかったり,市場に出荷できない。
  4. 政治的問題
    らい人口がインドだけで400万人いる。インドは民主主義国家であって,投票が考えよりも大きな力を持つ。人々はこの病気をそれぞれの考えにしたがって,政治問題化することができる。
  5. 教育問題
    らい問題の解決には,一般大衆,らい患者,政府や社会的組織への適切な教育が重要である。らい根絶計画では,多くの誤解,偏見,信条が障害となっており,教育が大きな役割を担っている。
  6. コミュニケーション
    インドのような大きな国ではコミュニケーションの不足,不適切さのためにこの病気がますます広がる。

したがって,らいとその問題の理解のためには,より徹底した広範囲に及ぶ研究が必要となる。
世界のらい患者は1,200万人と推定されており,その内訳は下記のとおりである。
アフリカ―350万,アメリカ―40万,アジア――535万,ヨーロッパ―2。5万,東地中海―25万,西太平洋―200万
そしてインドは,約400万と推定される。らい患者の約15~20%は身体的変形をもつ。
加えてインドは人口8億,300万平方マイルに広がる大きな国で,識字率は,36。17%(男46。74,女24。88)である。道路やコミュニケーションの発達は十分ではなく,財源は不足している。これらの条件のもとで,らい根絶の目標を達成するためにはいろいろな方策を検討しなければならない。

いろいろな方策の中で,障害予防は第一の方策である。かつてはリハビリテーションがらい根絶計画の目標とされていたが,実際には問題の大きさや広がり,財源,国土の広さ,未発達のコミュニケーションなどを考え,予防と治療に重きが置かれるようになった。患者発見調査,コミュニティの教育,発見されたすべての患者の治療(SET)は始めガンジー記念らい財団 (GMLF)が主張し,後に中央および地方の政府がこの方法を大々的に受け入れた。最近はMDT(らいの多剤併用化学療法)がSETやリハビリテーションプログラムとともに支持されている。インドの48県でMDTが実施されており,140万人のらい患者に適用されている。
同じくSETプログラムは,6,000万人の人口をカバーしている。全国らい根絶計画(NLEP)のもとでは 75の形成外科/再建外科ユニットと11のらいリハビリテーション促進ユニット(LRPU)が活動している。 LRPUは,らい患者の変形や障害を外科的に矯正するための設備の他に,職業リハビリテーションの提供も目指している。このようなリハビリテーションセンターでの一人当たりの年間費用はおおよそ625ルピーと推計される。インドのような貧しい国では不可能な額である。変形のある人は約80万人いる。Poona県らいユニットがリハビリテーションに関して行ったもうひとつの試みがある。

リハビリテーションは,始めは障害者,特に戦傷による身体障害者のために行われた。後には難民が加わり,現在我々は,らいに関してリハビリテーションを考えている。身体障害に関するリハビリテーションは医学および職業リハビリテーションに限られていた。しかしらいに関しては,リハビリテーションは社会的リハビリテーションなくして完全とはいえない。つまり,リハビリテーションは障害を持つ患者を通常の経済活動に完全に復帰させることだけではなく社会の本流の中に戻すことを意味している。医学的治療や再建手術は,患者の身体的リハビリテーションに必須のものではあるが,それは同時に社会経済上のリハビリテーションへの努力を伴うものでなければならず,患者がコミュニティの中にふさわしい場所を得ることが含まれる。患者が経済的に役に立つことができ,自活できることが確実になれば家族が患者を拒否することは少なくなると見込まれる。職業的,経済的リハビリテーションは,社会への再統合を促進する。統合をはかるためには,長年の拒絶で損なわれた患者の自尊心や労働に対する価値を築く必要がある。障害やスティグマのために生計の手段を失った人には,職業 訓練が必要である。
Poona県らいセンターは,この問題にユニーくな取り組み方をスタートさせた。障害者を対象とする共通職業訓練プロジェクトが1977年に始められ,らい患者だった人,整形外科的障害者,身体的に健全だが社会経済的には不利な立場にある人々に対して統合方式で一つ屋根の下で工業分野の職業リハビリテーションを行った。これによって社会統合のプロセスが早められた。

トルコなどで行われた試みによれば,患者の社会的経済的状態が,地域社会への統合をはかるプログラムの効果に著しい影響を与えることがわかっている。初等もしくは中等程度の教育があって村の世話役,羊飼い,郵便配達,訪問販売者などの単純な仕事につくことの出来た患者またはその妻が患者である場合,あるいは農場主,商人など収入の多い患者もしくはこれらの人々の妻が患者となった場合,このような人々は指示にしたがって定期的に投薬を受け,障害予防についての本なども読むことができる。結果として,障害も身体的変形も少なくてすむ。障害が残らなければ,スティグマの問題も起こらず,地域社会にも受け入れられる。
逆に,気候が厳しく不毛な土地で生産量も低く所得も少なく文盲率も高いような地域では,継続的治療も,障害予防のためのリハビリテーションを行うことも難しい。患者は若い時は,先のことも身体のことも考えず金持ちの農場で長年にわたって働き続け,将来の生活を支える十分なお金も得ず,重度の障害だけが残る。このような地域の患者の場合変形もひどくなり,それに伴って面倒なスティグマの問題が起こってくる。同じような状況はインドにも見られる。

経済的要因が社会的要因を決定するのなら,患者の変形が進まないうちに経済状況を改善することを目指すべきである。変形が起きないよう早期診断,治療を確実に受けられるようにすれば,患者は社会的スティグマにも直面しなくてすむ。治療終了後のリハビリテーションの方が困難も多く費用もかかる。
すでに述べたように,患者がプライドを保って生計がたてられるようにする職業訓練や商取引の訓練を再建手術の後に行わなければならない。職業訓練では,手,足,目等で残されている能力,訓練コースについてゆく知的能力,コース期間,学歴,社会的地位,心構え,適性を考慮する必要がある。職業訓練センターには,安全で適した機械装置を備えるべきである。本人には,足,手等の扱い方や,それらを痛めないようにすることを指導する必要がある。

らい対策専門の組織によるらいコントロールのコスト有効性を調べる必要がある。また,プライマリー・ヘルスケアによってらいのコントロールを行う場合のコストも検討の要がある。らい根絶のためのさまざまな方策,リハビリテーション,MDT,入院治療,コロニーなどについてコストの低減を計りながら効果を上げる利用法を考えるべきときである。インドには世界のらい患者の3分の1がいる。財源は非常に乏しい。この事実をふまえて,らい患者に,らい根絶計画に影響している経済的要因を検討することが必要である。

らい患者用の日常生活用具の開発生産も必要である。患者が自分の務めを効率良く行うのに妨げとなるのはどの程度の変形であるのか,また職業や社会的な関係を確立したり維持するのに,外見的な容貌がどの程度の影響があるのかも調べなければならない。こういった用具は患者が務めを果たしたり,それ以上の変形を防いだりするのに大きな助けになろう。
用具製造分野では多くの研究と企画が必要である。農村や工業地帯における各種職業用の用具,若い人や老人の習慣的行為に合わせた用具,開発の進んだ地帯や未開発の地帯で役に立つ用具。この研究には,さまざまな人々の個人的ニーズに合わせたさまざまなタイプの用具に関するもの,農村や工業化されている都市等の状況,そのような用具のコスト,これらの用具の利用の仕方や取り扱い方等を教育するためのコスト等が含まれるであろう。

最後に,一般大衆に大きな影響力を持つ宗教的リーダーや寺院当局を教育し訓練しなければならない。この人たちのらいに対する信条あるいは誤解が,らい根絶計画に多大な影響を及ぼす。らい患者の自分の人生や病気に対する心構えは,治療プログラムへの本人自身の協力という点で大切なことである。本人の心構えが大切なのと同じように,その家族や地域社会の態度を知り,必要とあればそれを変えることも大切である。宗教書や教典類も,社会が平和に発展することができるよう正しく解釈されなければならない。

分科会SB-1 9月5日(月) 16:00~17:30

法制

LEGISLATION

座長 Dato。E。J。Lawrence Malaysian Leplosy Relief Association 〔Malaysia〕
副座長 佐藤 久夫 日本社会事業大学助教授

法制

LEGISLATION

Dato。E。J。Lawrence
Malaysian Leplosy Relief Association。Malaysia

障害者関連法制に関する第一回国際会議が開催されたのは,1971年ローマにおいてであった。この時,社会を構成するすべての人々,特に直接関係のある人々の,リハビリテーション―現在“機会の平等”と呼ばれているものも含む広い意味で―の原則に対する理解を促進するために,建設的な法律が立案されるべきであるという合意に達した。その法案の立案・管理・施行に当たって,政府は,障害者のための団体やサービスを供給する側の組織の意見を聴く義務がある。
障害者関連法制に関する第二回国際会議が,1978年にマニラにおいて開催され,第一回会議での討論結果を確認し,さらに進んで,各国で法律を制定して全国的な協議会を設立し,その構成は政府の担当省,民間団体,および障害を持つ人々の組織の各代表とすべきであるという勧告を行った。その中には,協議会の機能の中に 1 ニーズを明確にする,2 総合的な計画を提示する,3 あらゆる局面で政府に勧告を行う,4 サービスを効果的に行うことを検討する,などを織り込むことが明記されている。会議ではまた,「障害者のリハビリテーションおよび福祉サービスの究極の目的は,障害者の社会統合とは障害者が自信を持って自己の潜在能力を最大限に発揮する存在として地域社会に存在することであると,認識することである」とも勧告している。
1980年のウィニペッグでの会議では,「80年代憲章」が採択され,ローマとマニラにおいて制定された主要点を再確認し,障害者が自分たち自身の生活に関係を持つ決議に参加することが,基本的な重要な権利であること,また障害を持つ人々の力が社会のすべての面で保証されるべきであることを主張した。またさらに「障害を持つ人々やその家族が社会の中で自分たちの権利を遂行し,自分たちの役に立つサービスを受けられるようにするため,教育面や情報面で明確な努力が向けられるべきであり,かつその努力が啓発・発展されるべきである」とも述べている。
世界行動計画のなかで述べられていることであるが,障害を持つ人も持たない人も,共に同じ権利を持っているという原則は,あらゆる個人のニーズは等しく大切であり,それらのニーズを基盤として社会の計画をたてていくことが不可欠だという意味である。
1986年6月にウィーンにおいて,障害を持つ人々の機会平等に関する法律についての国際専門家会議が開催され,そこで上述のすべてのことが支持され,また,障害を持つ人々が,社会的にも経済的にもできうるかぎり最大限に,家族,地域,そして社会に統合できるようにすることを,法律は第一の目的とすべきである,と結論のなかで提唱された。また,家族に障害者のいる家庭が,社会の一般の人々と全く同じ法律上の恩恵を受けられるよう,法律で定めるべきであるとも述べている。地元,地方,国,そして国際的なあらゆるレベルの行政機関は,「障害者団体の一番大切な任務は,障害者問題,特に法律に関した問題について主張することである」ということを理解すべきである。政府は単に法律をつくるだけではなく,その施行を可能にするために,適切な予算や人材を配置すべきである。また,円滑な施行を促進するために,オンブズマンを新しく任命して,権利の履行やサービス改善の仲介の労をとる必要がある,かつてThomas Woodrow Wilson は,「法律は社会の習慣や思想の結晶体である」と言った。

法制―アフリカの状況

LEGISLATION-AN AFRICAN SITUATION-

Ephraim Magagula
Vice President for African Region,Rehabilitation International,Swaziland

アフリカの状況

私はアフリカにおけるこのテーマの権威者ではないが,アフリカ諸国の多くでこれまでに成し遂げられた事について多少の知識を得ている。これは,私が障害をもつ人々の問題に個人的に関心を持っていることと,国際リハビリテーション協会(RI)のアフリカ担当副会長として4年間経験を積んだことによるものである。
RI会長のOtto Geiecker氏は,「すべての人々に対する機会の平等化の達成を目ざす社会では,少数派が自らの権利を完全に駆使したり,義務を果たすことをも可能にするような方法を整えるため,必然的に法制が必要となる。」と述べておられる。
この点がアフリカの法制でも,また障害をもつ人々自身によっても十分に認識されていない。
障害をもつ人々の権利やニーズに関する法律は,おもに社会保障,教育,訓練,社会福祉,および彼らの文化的価値といった領域にわたるであろう。これらの領域はこれまで人道的見地からはとらえられてきたが,個人の基本的権利を,また社会保障等の機会やサービスを準備し供給するという社会の側の責任を意味するものとしては十分に明確化されていない。障害をもつ人々の人権を確立し保護するための努力において,アフリカは世界の他の地域のいずれとも異なってはいないし,異なってはならない。

法制の現状

そのアフリカにある手段のひとつが法制である。しかし,アフリカ諸国のこれらの法制は,その特性と効力の両面においてそれぞれ異なっている。
アフリカは,開発途上の国々から成る大陸で,それらの法律システムは,各国の独特な社会経済上のニーズや状況を映しだしている。法律は概してリハビリテーション政策全般を包含し,各国の社会,経済開発の一般政策と緊密に調整されてつくられる。

 アフリカは先進諸国とは異なり,障害をもつ人々の権利,サービス,利益という視点に立っての法制の根拠やタイプの明確化が進められていない。従って,さらに法制が以下を含んだものとなるようにしなければならない。
  1. 障害者を対象とした条項を組み込んだ一般市民向けの一般的法制。
  2. 障害をもつ人々のすべてのカテゴリーに当てはまる特定の法制。
  3. 障害をもつ人々の中の特定の集団を対象にする条項がもられた特定の法制。

官民双方の組織のリハビリテーション分野のソーシャルワーカーらは,いろいろな政治的,経済的理由や専門知識がないなどの理由のために,法的システムを通じて立法を押し進めることが困難であると常に感じてきた。このため,多くの場合,政策は特定の法制から外れて,あるいは法制なしに制定されてサービスの供給を促すだけである。
アフリカでは長い間,特に民間組織で働く人々の間には,法制なしというこの習わしを擁護する人々が多かった。これは習わしの方がより多くの余地,融通性をもたらし,法律による制限が少ないと考えられたからである。しかし言うまでもなく自然の理法により,他のすべての人々と同様,障害者の権利を彼らの利益と,彼らが住むコミュニティの人々の理解のために,適切に定義づけることが必要となった。
アフリカが障害をもつ人々のための法制を促進する上でこれほどの遅れをとった別の理由は,アフリカ諸国が長い間比較的小国であったことと,ほとんどすべての国に非常に強固な拡大家族の風習があったことである。現在では,3%という高い人口増加や教育の向上が,都市や工業地域への高率人口流入と結びついて,拡大家族の風習が急速に崩壊しつつあり,個人の権利が脅やかされている。
法律は一般的には各特定時期の社会経済上の要請に基づいて各国の一般政策の中に組み込まれている。そして国々により特に「産業関連」の法律で長年効力を保っている異なるタイプの法律があることを見失ってはならないと思う。これらの法制は広く職場に関連し,以下の規定を有している。

  1. 予防―職場での事故
    ―労働者の病気
  2. リハビリテーション―新技術を習得し再び雇用できるようにするための事故被災者の訓練
  3. 補償―自立生活能力の喪失に対して
    ―歩行器具その他の購入に対して
  4. 児童法―児童を労働者として雇用する場合
    ―障害を負わせる結果になりうる虐待
  5. 精神衛生―精神障害者は雇用できない
    ―患者として入院させることができる

これらの法律は当然職場外で生じる障害には全く関係がない。現在,いくつかの国々が,特定の集団を対象とする特定の法律を序々に開発している。

国際的な流れの中で

現在アフリカでは,関係官庁,障害をもつ人々の双方にある認識がある。この認識は,教育を通じ,また各国政府が尊重しているRI,ILO,UNICEFその他の国際機関が行っている継続的な広報と唱道を通じてもたらされたものであ。もちろん1981年の国際障害者年,それに続く国連の障害者の10年宣言,ローマ,マニラ,ウィーンで開催された法制化に関する国際会議,これらすべてがこの問題の重要性をいっそう強めた。
国際的な情報を通じて,障害をもつ人々は自らの権利に目ざめ,いかにしたら自らの権利の擁護者たりうるかを意識するようになった。社会の中で自らの権利を十分に駆使し,国の経済一般に貢献さえできるようなチャンスを障害をもつ人々にもたらすような法制を開発する必要性について,各国政府を納得させるための手だてが,「予防」と「リハビリテーション」領域のワーカーに与えられたのである。
以上,アフリカにおいては「法制化と機会平等に関する国際専門家会議」の結果が非常に有効で,助けになっており,今後も法制化の進展に関心を持つ諸組織にとってよき道案内となり続けるであろう,ということをもって結びとする。

日本の主なリハ制度の現状と課題

STATUS QUO AND PROBLEMS OF THE MAJOR REHABILITATION SYSTEMS IN JAPAN

調 一興
社会福祉法人東京コロニー

基本的な法制と障害者の範囲

日本国憲法第25条は「すべての国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とうたっています。この考え方を受けとめ障害福祉の憲法ともいうべきものとして,日本には心身障害者対策基本法という法律があります。ところが,残念なことに,この法律に対しては予算が伴っておらず,実効ある法律とはなっていません。
障害者福祉サービスの多くを現実に規定している大きな法律は身体障害者福祉法と精神薄弱者福祉法であります。さらに精神障害者に対しては精神保健法があります。このように,法律が障害の種別毎に作られていることが日本の制度の特徴のひとつです。このことから,行政の担当機関も障害種別に区切られており,公的なサービスの提供や迅速な対応が妨げられる原因になっています。
また,これらの法律のもとでは,障害者の範囲が制限列挙的であり,欧米諸国にくらべてたいへん範囲が狭いということも日本の障害者に関する制度の特徴のひとつです。そのため,てんかん,リウマチ,自閉症,原因不明または治癒困難な疾病による障害者などは公的サービスを受けることが困難な状況におかれています。
このため,リハビリテーション法というような包括的な法律を定め,障害種別の制度を,障害者のニーズに対応することのできる総合的な制度へと変えることが課題であるといえます。

国際障害者年以降の主な施策制度の動向

1。年金法の改正
障害者に対する施策の最も重要なもののひとつが所得保障です。1986年4月から年金法が大きく変わり,障害者に対する年金制度の改革が実現し,20歳以前に障害者になった者も含めて障害基礎年金が,障害の程度に応じて月額約52,000円(400米ドル)から約65,000円(500米ドル)給付されるようになりました。これらは長年にわたる障害者運動の成果ではありますが,なお,給付額や所得制限の方法,無年金者の問題などが残されています。

2。精神保健法の成立
最近のもうひとつの大きな変化は1987年4月の精神保健法の成立です。従来精神障害者への対策は医療の範囲でとらえられることが多く社会復帰,生活安定などの福祉的サービスはきわめて遅れた状況にありました。しかし,精神衛生法が22年ぶりに改正され,人権擁護と社会復帰促進を柱に,名称も改められて精神保健法として制定,本年7月施行されました。
法律改正は成りましたが,具体的施策はこれから始まるところです。しかも医療担当者や行政当局,さらには市民の間には精神障害者に対する根強い差別・偏見が存在しており,大きな社会問題のひとつでもあります。

3。雇用促進法の改正
障害者の雇用に関しても1988年4月から大きな変化がありました。日本には,障害者雇用のための割当雇用制度があります。これにより,一般企業はその従業員の1。6%,行政機関は2。0%の障害者を雇用しなければなりません。これを守らない時は毎月1人あたり40,000円(300米ドル)の納付金を支払う必要があります。従来この制度は身体障害者のみを対象としたものでしたが,法律改正により,精神障害者や精神薄弱者等も対象者に含まれるようになりました。法律の名称も,身体障害者雇用促進法から障害者の雇用の促進等に関する法律へと改められました。しかし,実際には雇用率は達成されておらず,雇用されている障害者の実数は減少しており,大企業ほど達成率が悪いという傾向になっています。

4。小規模作業所への公的サービス
障害者の就労に関連した問題のひとつに,全国で 1,800カ所(約2万人)を超すといわれている小規模作業所への公的サービスがあります。
これは通常の職業リハビリテーション機関では受け入れることが困難な主に精神薄弱や精神障害を伴った人々のために親・教師・ボランティアの手によってつくられています。しかし,これは法律に基づいた施設ではないために国レベルでの公的サービスを受けることが困難な状態になっています。認可された授産施設が950カ所しか存在しないことと比較してみるとき,障害者対策の在り方や貧弱さを象徴するものと関係者はこれをとらえています。

5。教育の問題
障害者の社会参加のために大きな役割を果たすのが教育です。日本では1979年以来すべての障害児に対する教育が法律によって義務化されました。このため全障害児に教育の機会が平等に与えられるようになりましたが,逆に普通学校における統合教育への取り組みは弱く,普通学校への入学を求める障害児やその親と教育委員会との間に摩擦や衝突が各地で起こっています。
また,障害児に対する養護学校の義務化は入学者の障害程度の重度化をもたらし,卒業後の進路も大きな問題になっています。さらに障害者の高等教育が保障されていないことが,障害者の社会参加を大きく妨げる原因ともなっています。

6。遅れている生活環境の整備
障害者の住居を含む生活の場に関する介助等のサービスはもっとも遅れている施策のひとつです。日本における住宅問題は障害者に限られた問題ではありませんが,とりわけ施設における住居部分は劣悪で早急な改善が必要です。最近各地でケア付き住宅への取り組みがみられるようになりましたが,まだ緒についたばかりで国の制度とはなっていません。
建物やとくに交通機関におけるアクセスもたいへん遅れていることは皆さん自身がこの会場とその周辺でご経験されたとおりです。障害者へのアクセスを保障した法律はありません。

7。急務なリハ専門従事者の養成
日本における医療水準は高くリハビリテーション医療を受ける際には,所得制限はありますが援助がなされます。しかし,大学医学部の教育課程においてリハビリテーションは必修になっておらずリハビリテーション医療従事者が不足しています。また,それと関連したPTやOTのような医療関連スタッフの養成も大きい課題です。
ソーシャル・ワーカーおよび介助者に対する資格制度を定めた法律ができたのは昨年のことであり,STにいたってはいまだに資格制度もありません。職業リハビリテーションも,その手法を体系的に教える場所はまったくありません。

8。国民の理解と障害者の参加
1981年の国際障害者年以来,当事者としての障害者の存在・役割の重要性が強調されています。しかしながら,高等教育や雇用機会の保障が不十分であり,社会や家庭の障害者に対する態度が保護的であることなどから,障害者問題を解決する過程において障害者自身の強力なリーダーシップが発揮されているとはいえません。ただ,街に出,地域で生活をする障害者が増え,政策決定過程に障害者の参加に対する配慮が少しずつではあるが,改善されつつあります。しかし,本格的にはこれからの課題であります。

ブラジルの新憲法と障害者の権利

BRASIL'S NEW CONSTITUTION AND THE RIGHTS OF THE DISABLED PERSONS

Hilton Baptista
Associacao Brasileira Beneficiente de Rehabilitacao[ABBR],Rio de Janeiro/RJ,Brasil

ブラジルは南アメリカ中東地域の半分を占め,850万平方キロメートルの面積と1億4,500万人の住民を有するラテンアメリカ最大の国であり,ソ連,米国,カナダ,中国につぐ世界第5の大きな国である。人口は,ブラジルの二大都市のある南東部の湾岸地域に集中している。リオデジャネイロの都市圏には700万に近い人が,サンパウロには,1,100万人が住んでおり,一方で,パラ,アマゾナス,ゴイアス,マトグロスなどの内陸の州では,人口密度が1平方キロメートル当り1人ないしはそれ以下である。大都市における不幸な過剰人口が,スラムのような劣悪な居住や不衛生の問題を起こしている。
著しいアンバランスと無尽蔵の資源をもつ国ブラジルは,10大経済市場の1つとして現在のところ位置づけられている(GNPによる)。しかしながら,経済危機は深刻である。対外債務の多い二番目の国として世界の注目が集められている。国の資源は,国際銀行の利子のため,まるで雪ダルマのように増え続ける巨大な対外債務の支払いに当てられている。その残りを,開発のために使うにしても誠に不十分であり,国民の生活状態の悪化を引き起こしている。
これらは,リハビリテーションに関しての国の現状を分析する際の重要な要素である。非常に多くの基本的ニーズがあり,人口の多くが貧困に近い状況であるため,リハビリテーションは,あまりにかけ離れたことであり,まず,住居,保健,栄養,教育が優先する。また文盲率の高さも複合した問題を起こしている。
経済危機にもかかわらず,政府はリハビリテーションに投資をしてきたといえるが,調整や計画が欠落していて,ある所ではサービスが二重に行われることがしばしばあったり,他では皆無であったりしている。
民間団体の存続への努力は個々別々に行われ,協力体制づくりや共同事業に向けてのグルーブ化の試みはいずれも失敗に終っている。

1986年11月,新憲法を詳細に検討する義務を負った議会が選ばれたが,これが,具体的な政策を決定する真の機会となった。
この新憲法は,現在のところ発布されてはいないが,障害者援助に関する章は既に承認されている。義務的な措置としての予防接種事業,事故の予防,すべての人を対象としたリハビリテーションセンター,特殊教育,職業訓練およびリハビリテーション,働く権利,民間と政府の仕事および給与差別の禁止,生計を維持できない障害者に対する最低賃金の保障等が設けられている。
公共の場や建物へのアクセスの配慮も交通機関と同様に扱うことが決められた。
ブラジルにおけるリハビリテーションの先駆者らは,本当に多くの困難を乗り越える努力を行っている。目的が設定され,目標に向かって少しずつ近づいている。
新憲法によって,ブラジルにおける障害者の統合を達成するために一つでも多くの要素を集め,より大きな力を得ることを心より希望している。

障害者の権利を守るための立法の必要性

LEGISLATION TO ENSURE THE RIGHTS OF PEOPLE WTH DISABILITIES

Estelita G。Juco
Congresswoman,House of Representatives,Philippines

立法の必要性

世界各国からいろいろな団体や組織を代表する人々がここに集まられたが,その共通の関心は障害を持つ人々が障害を持ちながら有意義な人間らしい生活を送れるようにすることにある。「障害者の10年」も後半に入ったが,多くの国で障害者の困難な状況に対する理解が深まり,世界の各地に広まりつつある。
社会のさまざまな分野における認識の高まりは,RIをはじめとする人道的使命を担ったいろいろな団体の組織力と協力によるところが少なくない。障害者の生活の質の向上と,可能性の広がりには多くの社会的要素が寄与している。医療関係者,保健福祉従事者,教育関係者,地域サービス機関,ボランティア,障害者を雇用している人々,そして障害者に情報を提供し一般の人々の啓蒙にあたっているマスコミの人々など。
しかし障害者の権利の確保と保護の重要な鍵となるものがある。法律である。法律によって,障害者の権利を規定し,保護し,そして高めていくことができる。国連障害者の10年が終わっても年月が立ち,たとえ社会の関心が他の問題に移っても,マスコミの広報活動が下火になっても,法律は障害者の障害によって奪われた生活を保護をし権利を守ることができる。
障害者の権利の保護,促進のための法案の準備には,当事者の意見を聞き,参加を求めることが必要である。残念ながら今まで障害者は自己の状況を判断し,分析し,自らのニーズや優先事項を明らかにし,文化的,経済的,技術的枠組みのなかで困難に立ち向かう方策を作り出す機会を与えられなかった。「開発」の名のもとにいわゆる開発専門家が,彼ら自身の認識と方策を押し付けてきた。

障害者自身の参加

Ted Bacanih司教がコミュニティ・リーダーの会合で述べられているように,当事者がかかわらない開発は開発ではない。開発を人に押し付けることはできない。当事者自身が積極的にプロセスに参加することが必要なのである。
障害者自身の考え方,希望を明確に語ることが,障害者を保護しその主張を促進する法律の力となる。地域への参加を妨げる困難,障害の前に立ちはだかる困難を乗り越え,地域の積極的,生産的一員として,人材となりうるより効果的な方法を,誰よりもよく知っているのは障害者自身である。
教育,職業訓練,移動,アクセス,機会の均等など,政府が立法のなかで重点をおくべき項目を的確に指摘できるのも,満たされないもどかしい経験を多く重ねている障害者自身である。
昔からある進歩と変化に対する強い抵抗への偉大なチャレンジである。今でも多くの国に,障害は道徳的罪に対する神の怒りが子供の上に表れたものだという考えが生きている。そのために障害を持つ子供は親の恥として世間の目から隠され,社会の除け者となる。

障害関連立法

情報が発達し教育が進むにつれて,障害児が生活していくためには教育が必要なことが理解されてきた。障害児によい教育環境を保障し,障害児教育にあたる教師が,障害児の潜在能力を積極的に開発していくような特殊教育法の整備が必要である。
技術教育に関する立法も必要である。障害者が一般の仕事に参加し,企業の利益に貢献できるようにするために,障害者にあった技術を開発するセンターに対する政府の援助を定めた法律が不可欠である。
障害者ができるかぎり普通の生活を送るためには,移動が大変重要な要素となる。障害者が自分の行きたい場所に行く,特に通学,通勤の足を確保するにはまだ多くの改革が必要である。この点では交通機関の関係者にもっと障害者の身になって考えて貰う必要がある。
それと同時に公共の場所の障害者の利用についても考える必要がある。これは政府民間を問わず言える。障害者の利用に便宜を図る法律は過去数年間受け入れられてきた。ただし,多くの場合その法律は守られていないのが現状である。そこでこうした法律を守らせるための法改正が必要になる。改正により法を守らない責任者に罰則を課し,民間企業がオフィスビルを障害者にも利用しやすくするための改造には税金の恩典を与えるなどのインセンティブを明示するべきである。
生活の安定のための雇用機会均等の供与は障害者に関する問題の中でも最も重要な項目で,緊急な法制化を要する。他の分野では障害者を助けようとする各方面からの協力で大きな前進をしたが,企業に働く人々の間にはあい変わらず「本能的ともいえる偏見」がある。そして製造業,サービス業を問わず障害者が一般の人と同様な貢献をすることができないと思っている。障害があるというだけで,利益追求にマイナスになると思うのである。障害者は実力を発揮するチャンスさえ拒まれてしまう。
従って障害者の雇用機会に関する法律は特に時間をかけ,慎重な討議がなされるべきである。障害者の側は,責任を持って仕事が十分にできることを実証する必要がある。と同時に障害者を雇用し,有効にその能力を組織のために生かした実績のある企業もしくは産業界の実例を紹介する研究がなされるべきである。これにより,ただ単に法律で規定して障害者の雇用を義務づけるのでなく,ケーススタディを通して障害者も利益に貢献できるということを企業の人々に納得してもらうことができる。
産業界へ受け入れてもらうための環境作りには,“障害を持ちながら活躍している人”―障害者でその分野で大きな成果を上げ,同僚はもちろん上司からも高い評価と尊敬を獲得した人―の事例を研究することが必要である。そうした人々は捜せば私達のまわりに大勢いるはずで,このような“障害を持ちながら活躍している人”を一般の人に紹介するにはマスコミが大変有効である。このような方法は雇用機会均等法を側面から支援し能力のある障害者の雇用を助けることになると思う。

障害者の役割

障害者の権利等に関する法律の制定には,障害者自身をはじめとする地域全体の強いネットワークによる支持が欠かせない。政府関連団体,民間団体,教育,労働,保健,医療関連機関,教会,利益団体,財界,産業界,マスコミなど,社会の各界からの協力が必要である。皆が一団となって人道的連帯のもとに,障害者のさまざまなニーズに取り組み,メインストリームの早い達成を図らねばならない。
障害者は,アドボカシーとしての役割を積極的に果たし,個人の体験に基づいて確信をもって要求を明確にし,権利を守る立法の推進にあたるべきである。実際,マスコミを通じた障害者の個人的証言は,投書や不特定の支持者による抗議などよりずっと説得力がある。また立法の緊急性を訴え,強調するためには,立法化運動を超えた活動が必要である。障害者の主張を推し進めるためには開かれた地域社会が必要なことを,さらに,政府がリーダーシップの手本を示せば一層効果があることを示すことである。
「でも,本当にこんなことができるのだろうか?」と思われるかもしれない。こうした問いかけに,無条件にイエスというのは難しい気がする。しかしこれらすべてのことは達成できる希望はある。目覚めた社会の援助があれば,障害者にとって物事はよい方向に進むであろう。

将来に向けて

私は,アキノ大統領によって憲法に基づく下院の女性および障害者問題担当代表に指名されており,障害者の生活にのしかかる多くの問題の解決を計る立法に力を注いでいる。社会福祉省およびその下の全国障害者福祉協議会の全面的協力のもとに,障害者の権利の保護と拡大のために努力している。障害に関する統計などのデータバンクをつくり,障害者の組織化を図り,障害者自身の活動を援助している。常日頃から,障害者とは連絡を密にし,“活躍している障害者”と各界のリーダーとの交流の機会を作り,互いに他の経験を学ぶ機会を提供している。このような活動の成果は,法案として下院に提出し,またマスコミや集会を通じてキャンペーンを行っている。
地方では,障害者自身が目標に向かって活動計画を作り,政府と協力して公共施設のアクセスを確保し,産業界のリーダーと会って障害者の仕事について協力を依頼し,教育機関や訓練機関とは障害者を徐々に地域の労働力にしていくための方策を話し合っている。
皆さん,障害者を保護する立法の制定とは国会議員が単独でできる仕事ではない。地域全体の善意と協力が欠かせない。それも一地域社会とか一つの国だけでなく,地球上のあらゆる地域との絶え間ない情報交換,支援があって初めて強力なものになるのである。一つの国での障害者の地位の向上は他の地域の刺激になり目標ともなる。これからもぜひ協力していきたい。お互いに励まし合いながら……。一人ひとりでは目標は山のように高く険しく,心細い道のりである。しかしみんなで力を合わせればやり遂げる勇気もわいてくる。そして障害者の権利が確立するまで法制化という目標に向かって進むことができるだろう。そしてそれが実現すれば,将来のよりよい社会をつくり上げる希望の明かしとなると思う。(抄訳)

分科会SB-2 9月5日(月)16:00~17:30

職員等の研修

TRAINING OF PERSONNEL

座 長 Dr。the Hon。Harry S。Y。Fang  Immediate Past President。RI〔Hong Kong〕
副座長 武間 謙太郎 アガペ身体障害者作業センター所長

リハビリテーション医のための訓練の現実に即したアプローチ

フィリピン―インドネシアでの経験

A REALISTIC APPROACH TO THE TRAINING OF ASIAN PHYSIATRISTS:THE PHILIPPINE-INDONESIAN-EXPERIENCE

T。M。Reyesand O。L。Reyes
Division of Rehabilitation Medicine,Philippines

現在,世界には5億人の障害者がいるが,2000年までに,この数字に更に約1億人以上が加算されると見積もられている。この障害者の80%は開発途上国に住んでいる。事実,今日1億4600万人いる障害児のうち, 8800万人はアジアに住んでいるのである。従って,世界の開発途上国,特にアジア太平洋地域において,この問題が非常に重要であると断言できよう。
最初に厳しい現実として受けとめなければならないのは,障害者の現代のニーズに見合うヘルスマンパワーが十分でないことである。また,医者やリハビリテーション専門職員の数も十分ではない。
我々の意見では,リハビリテーションを行なう人材の中で,医師の充実が,当然ながら,最も重要な要素となる。医師は,あらゆるケースに対して個々に責任のある管理を行なっているが,障害者の総数は,こうした個々のケースの集まりである。従って,数百万の障害者に対して,リハビリテーション医療のサービスを行なう医師達を訓練するためには,まず最初に,現実に即したアプローチ法を考慮すべきである。
アジア太平洋地域にある2つの開発途上国,フィリピンとインドネシアに対して行なったリハビリテーション専門医の訓練で,我々は大いに成功を収めたが,これは,プログラムの中で利用した,現実に即したアプローチ法によるものであったことを申し述べておきたい。
1974年にマニラのSanto Tomas大学病院でプログラムを開始するにあたり,我々は,次に掲げる問題を前もって確認した。1フィリピンでリハビリテーション医が深刻に不足していたこと:当時,フィリピンで勤務しているリハビリテーション医はわずか10人であった。2リハビリテーション医を充実させる過程で,国外への頭脳流出が持続的に起こっていたこと:外国,特に合衆国で訓練を受けた多くのフィリピン人医師は,フィリピンに帰国しなかった。その結果,合衆国で勤務しているフィリピン人リハビリテーション医の方が,自国フィリピンより多いという矛盾した状況であった。3リハビリテーション医の分布が偏っていたこと:当時,すべてのリハビリテーション医は,マニラ勤務であった。つまり地方で勤務している者はいなかったのである。4リハビリテーション医は先進国で訓練を受けたために西洋志向が強すぎたこと。勤務しようとした国に比べ,経済的にもずっと発展しており,かつ異なった心理,社会的背景を持つ国々でリハビリテーション医が訓練を受けたために,しばしば不都合が生じた。
フィリピンにおける最初のリハビリテーション医訓練プログラムの計画に対し援助を仰ぐ目的で,我々は,後援者にDr。Howard Ruskを選んだ。博士は,世界リハビリテーション基金の資金を運用し,援助してくれた。
このプログラムの特徴は次の通りである。1医学部の優れた理論を支柱とした大学病院をベースとしたプログラムであったこと。我々は,質の高い訓練生を生み出すプログラムを望んでいたので,早くから,量より質に重点を置いた。2外国で訓練を受けるために医師を派遣するという従来の形ではなく,当然のことだが,国内での訓練プログラムであった。1977年後半には,枠を広げ,インドネシア出身の医師も含めることとなるが,これは,当時インドネシアに訓練用のプログラムが全く無かったからである。3プログラム終了生は,患者のケア以外に種々の責務を負うことが予想されたため,次のような内容の訓練と実習も盛り込まれていた。すなわち,指導と訓練,運営,調査・研究,および広報活動である。4このブログラムは,一般によく見受けられ,実際に治療が行われているその地域の疾病や状態に重点を置くものであった。また,自国の社会,心理学的な価値も考慮されていた。
訓練生の選択基準は,次の通りであった。1 35歳未満であること。*2 英語力に堪能であること。(要 TOEFL)3 少なくとも1年間は,臨床分野に関する臨床訓練実習を受けていること。4 大学病院のインターン試験,および3ケ月間のインターン実習での臨床評価に合格すること。5 その任にある病院責任者の保証が得られたら,病院で,しかもなるべくなら,マニラ市外の病院で,必ず勤務に就くこと。
(注:*印はインドネシアの応募者に必要)
プログラムは成功した。フィリピン人19人,インドネシア人12人,計31人のリハビリテーション医が, 1974年6月から1988年5月までの間にプログラムを終了し,全員が両国の各地の異なる病院に職を得た。ちょうどこの時までに,フィリピン国内の全主要都市に,このプログラムが実際に行き渡ったことになる。インドネシアでは,少なくとも3人のリハビリテーション医が,それぞれの3市で勤務を命ぜられている。
31人中の29人,つまり,プログラム終了生の約95 %は,最初に割当てられた職に留まり,派遣された土地にそのまま滞在している。インドネシアは,今や自国の国内向け訓練ブログラムを開始しているが,これは,マニラで我々のプログラムを終了した人達によって進められている。
訓練プログラムの質は,「アメリカリハビリテーション医学会」によって作られた自己評価テスト(SAE)の結果によっても確実に判断できる。常に高い得点を出しており,年によってはアメリカ人の標準値を上回った。
我々が結果を分析したところ,次に示す要素が考慮される時,プログラムは,いっそう好結果を生むと思われる。1 応募者は,なるべく,勤務しようとする地域の出身者であること。このことの利点は,家族の継続的なサポートが受けられること,その地方の慣習をよく知っていること,土地の方言を話せることにある。2 地方の病院は,将来そこで勤務する見込みのある応募者に対し,その訓練とプログラムを完了するのに必要な実習を要請する病院であること。3 女子の応募者は,勤務を継続する点と,派遣された地方の勤務に留まる点からみて,男子応募者より,いっそう高い成功率を示すと言える。4 医師が,派遣先の病院で効果的に実習するためには,設備や用具の充実が必要となる。5 病院のスタッフが,患者をリハビリテーションに紹介する形での援助も非常に重要である。事実,終了生が,自分自身と家族を扶養するのに十分な報酬を得られれば,彼らにとっていっそう喜ばしいことであり,ほとんどが,派遣先の病院で勤務を続けることになろう。もしそうでなければ,彼らはもっと大きい都市へ移るか一般開業医になるであろう。6 母体となる病院のスタッフから,精神的な サポートが特続的に与えられるべきで,これには,日常のコミュニケーションをうまく保つことも含まれる。新聞,刊行物,重要な論文等を与えたり,引き続き教育が受けられるように,大学院進学の可能性を与える等,知的成長を続けさせるための援助も必要である。7 終了生達が,そこの土地にある複数の病院で勤務できるなら,成功の可能性は増すに違いない。彼らは,一般に,民営の病院勤務をベースに,公営,官営の病院で,コンサルタントとして働くことも望んでいる。
プログラムの今後の計画には,電気診断法,小児リハビリテーション,SCI,そして脳損傷リハビリテーション等,個別のフェローシップ訓練が考えられている。また,このプログラムは,訓練及び調査・研究機能を増強するために,他からの追加資金援助も募っている。
既に達成されたことは多いが,依然として,必要なことも多く残っている。フィリピンでは,リハビリテーション医の充実という観点において劇的な成功を収めた。今や,国内で勤務しているリハビリテーション医の数は,30人にも上る。インドネシアのプログラムも成功を収めたため,(彼らは,今や自国で終了生を生み出すまでになった)我々は,他のアジア諸国のために,同じプログラムを開始しようとしている。我々は,成功したこのプログラムが,つまり,当事国の実情に即した実際的なアプローチ法を利用しているこのプログラムが,世界における他の開発途上国でも,モデルとして採用されることを切に望んでいる。

職員等の教育

―地域社会のニーズに即したカリキュラムの準備―

TRAINING OF PERSONNEL:PREPARATION OF CURRICULA RELEVANT TO COMMUNITY NEEDS

C。Moreno and l。Contineli‐Telmo
Santo Tomas University,Portugal

今日では,現職の教師が訓練を受けるということが,教員免許状を取得しているかどうかの範囲に限定されないことは明白である。従って,選択肢となる訓練モデルが必要な理由を長々と述べること,すなわち,職場教育の理由づけをすることは,不要である。職場教育が明らかに重要であることを総括して,二つの理由を挙げることができる。すなわち,

  • ―教育の受け持ち範囲にある状況や反応が,絶え間なく変化していること。
  • ―教育専門家の用いる知識が,絶え間なく刷新されていること。

これらの確定的なもの以上に,感情面の要素を見落とすことはできない。複雑で絶えず変化する人間関係に影響を及ぼすのがこの感情の要素だからである。教師-生徒-クラス-学校-家族-全世界的なものの間の関係も,同様である。どのような教師でも,自分の教室に学習や協調性の面で問題のある児童を入れるよう要請を受ければ,まず確実に直面するのが感情面の要素である。
外部からの助言があったとしても,本来的に,統合のプロセスに失敗するか成功するかを常に余儀なくされているのが教師であるが,未知なものと直面したときの影響を少なくするためには,組織や計画の方法についてあらゆる情報を得ることが大切である。大局的に見てこれは専門教育を受けた教師の威厳を損なうものではなく,かえって,お互いが協調し共通の言葉を持つ上で助けとなり,両者共に知識を増す手助けもしてくれるのである。
しかしそれは,教師が今まで以上に数多くの多様化した状況を取り扱うようになることを意味するので,もしバランスのとれた教師の訓練プログラムを備えることが望まれるなら,これらの事情を考慮に入れねばならぬであろう。
どのような専門職グループでも,職場教育のニーズは,初期段階の訓練と実際の職業経験との関連で分析することが必要である。就学前及び初等中等教育の教師を訓練する場合には,あらゆる状況に適合する一つの要素を挙げることができる。その要素とは,〈多様性〉である。学問上の訓練においても,教育のためのリソースにおいても,地理的な状況にも,また,文化的,社会科学的な条件や,宗教的な影響の下においてさえ,多様性は見いだされる。
RI(国際リハビリテーション協会)教育委員会では,答えを出す一助となるよう,種々熟考して,有用な文書を作成する必要があるという結論に達した。
世界中の各地から寄せられたさまざまな専門知識や教育的意識のおかげで,世界に広く通用するような,利用しやすいマニュアルを作成するプロジェクトが開始された。
われわれの見解を確認するべく,1988年5月のユネスコの特別教育に関する中間年検討委員会において,勧告の二つは次の点に焦点が合わされた。
“加盟国は,あらゆるレベルの教師の職業前教育及び実地教育の訓練プログラムに特殊教育を必修として加えること。”“教師が,一つまたはそれ以上の特定の障害分野に対して精通すると同時に,あらゆる種類の障害の子ども達のために仕事ができるように,分類のない訓練プログラムを促進させること。”

〈児童の発達及び学習の過程〉
ここでは,人間の発達を,誕生から思春期/青年期へのさまざまな段階を通して取上げる。マニュアルに書かれている教師及び教育専門家向けの内容は,実際に利用する人が教材として使えるよう,それぞれの発達段階の定義に対して十分な理由づけをしている。つまり,各発達段階において,機能面及び情緒面の展開がそれらの相互作用と教育との関連において取り上げられている。
次の段階を理解するためには,幼児の発達の各側面を知る必要があることを考慮して三歳以下の幼児に関する資料が示されている。
本文での重複をさけるために,あらゆる発達過程の基礎となる基本概念が,序説で述べられている。次に,誕生から,団体生活に必要なものを習得する時期までの,児童の特性について言及されている。
就学前に関する章では,言語習得,社会化,記号理解の機能,および知的表象について扱っている。操作期前の時期の最も重要な特性の一つとして,“不可逆転性”と並んで,“符号化”過程についても触れている。
上記の資料につづいて,基礎教育年令の児童については,“前論理の時期”から,“論理を操作する時期”への移行の過程が記述されている。量,維持,重量,時間,空間,速度の各観念,とりわけ類概念とさまざまな分類に関して述べられている。児童は,自分のしていることを理解し,また働きかけができる関係を理解し,同時に,その反対のものも“見”ながら,ものごとができるようになる。
深く考えて抽象観念も理解し,大人のように論理的に考えるようにまで成長するのは,初等の基礎教育から中等の教育に移る時期である。もっとも,混合された自己中心的な思考が依然残っていて,すぐ姿を現わすのであるが。
このような状況で,教師は一人ひとりの生徒のレベルに即し,同時に能力を伸ばすような刺激のある学習課題を保証することが必要である。中等教育に移行する時期の定義づけは,抽象的なものを真実性をもって論じたり,現実と矛盾すると知っている仮説の基礎について論じることさえできるような青年期の能力が,漸次強くなることとしている。
青年期になると,正式な論理的思考が新しい複雑な学習課題をもたらし,彼はそれを喜びと,幾分の自己顕示さえ持って利用するようになる。
身体的及び心理的な変化の結果,青年期にはいくつかの順応の問題がおこってくるが,教育専門家はそれに気づいて,個々の満足のいくイメージを発展させる手助けをする必要がある。
第一章の終わりには,人間の発達の図表が入っており,この問題に対してさまざまな取り組みがなされていることを表わしている。しかしながら,社会文化的また経済的環境に関連した状況が,年令や発達に平行して存在する。

〈教師-コミュニケーション行動〉
満足のいく学習環境には,教師が,すぐれたコミュニケーションの達人であることが絶対に必要である。
マニュアルの第二部では,全体として焦点はコミュニケーションに置かれており,教師はその行為者として理解され,説明される。
次に,グループ参加の利点を利用したさまざまな方法の重要さに基礎を置いて,学校や社会における教育専門家の役割が提示されている。
すべての児童をまとめるためには,教育専門家は学校の事情に通じ,一人ひとりのニーズや,グループダイナミックス,また環境など,学習過程の条件要素となるものを承知していることが大変大切である。
教師はデータ集めを通して家族,社会経済環境に関する情報を完成させる方法を知っていなくてはならない。
同様に大切なのは,教師が自分自身(仕事のリズム,能力,限界など)について,また,一人ひとりの生徒に対する自分の感情について,完全に把握することである。地域社会における教師の役割の重要性に対しても,多少の関心を払うこと。
教師が児童をよく理解するために,その児童を知らねばならず,従ってどのように観察したら良いかが示されている。
ここでは,敢えて使い古されたものやいわゆる妙案を避けて,いくつかの観察法が指示されている。
一人ひとりの教師が想像力や知識を用いて,自分の個性,学校の事情,それぞれの生徒に合った新しい情報収集の方法を取り入れたり創りだしたりすることが勧められている。また,教師がコミュニケーションの伝え手として,いかに自分の行動に気をつけねばならないか,それがいかに生徒の態度や学習過程に反映するかが力説されている。
観察された状況をさらによく説明するため,教育専門家は,児童が過ごしてきた教育的環境や経験について,追加の情報を探すことが勧められている。
コミュニケーションの過程では,それが行なわれる際の状況が特に重要である。このマニュアルを読むと,教師は,いかに状況がコミュニケーションの過程を促進したり抑制したりするかを理解するようになる。文化の違い,健康状態,ハンディキャップの状態,処理方法などに言及している。これらの状況はすべて,あらゆる教師が,学校,同僚,他の教師や両親と関連して,集め方や取り扱い方を知る必要のある情報とみている。
また,教育上特別のニーズを持つ生徒を溶けこませるために,好意的な雰囲気を作り上げるのには,教師,専門家,両親,生徒,学校職員の間の協調が重要な要素であると強調されている。
教師は,個々の児童,グループ,そして学校の事情に関する知識をしっかり把握して初めて,学習過程をまとめる仕事に取りかかることができるのである。
マニュアルのこの個所では,どのようにして学校の空間や設備を,特別のニーズを持つ生徒たちに適用させ,また改善したら良いかについて提案がなされている。コミュニケーション用補助器具の改善についても提案されている。
カリキュラムとプログラムの相違がはっきり述べられ,また,どのようにして目標や内容や方法を進行させたり,これらを,個々のまた集団の児童や学校に合うように変え,置き換え,取り入れれば良いかが提示されている。
補助器具を使えばカリキュラムをこなせる生徒も,習得に問題のある生徒もいる。それぞれの場合に応じて提案がなされ,これらのいずれにも当てはまらず,全員のためのカリキュラムとできるだけ接点を保った特別のカリキュラムを必要とする子供達がいることについても言及している。
カリキュラムの実行を成功させるための方法が,学習や集団調整に必要な前提条件に重点を置いて述べられている。
評価もまた大切な事項であり,自己評価は個人の評価に含めることができる,と表現されている。いくつかの方法が述べられ,実例が挙げられて,個別的に配慮されたさまざまな評価の重要性を示している。
教育者,親,専門家の間のコミュニケーションや協力,共通の意見,調整された介入などがあると,学習結果は向上する。この個所ではさまざまな協力の達成方法が調査されていて,成功例が挙げられている。
児童が学校に溶けこむことは,社会に溶けこむことへの第一歩である。学校と社会の間に良い連携が確立されることが必要である。いくつかの具体的な提案がなされ,特殊なニーズをもつ児童に対する姿勢の変化をもたらすこの連携のために教師は重要な役割を果すことを求められている。それを容易にする方法も述べられている。

〈コミュニケーション障害〉
この第三部では章毎に,個人の教育に,言語,動作,視覚,聴覚,感情面の問題,そして学習問題がいかに大切であるかが力説されている。
次に,それぞれの障害に対し,注意信号の指摘が行なわれている。児童のコミュニケーション上の問題が,一見感覚またはその他の障害と関連しているようには見えない場合でも,教師はこれらの信号のおかげで,その原因の正体に気づき,発見することができる。
天分に恵まれた児童について触れた章には,この指摘は一切含まれていない。その代わりに,行動パターンについての資料が載せられている。知能の発達に障害をもつ児童に関しては,障害の程度に関連して存在する問題点と共に,注意信号の指摘がなされている。
すべての章において,神話的通念や偏見が非難され,そうしたことがいかに人間関係に影響を及ぼすかについて啓発している。
各章において,それぞれの障害,ハンディキャップ,問題点に適応した教育的かかわりについて実際的な話が書かれているので,教師は実態がはっきり見えて,不安が和らげられる。
このマニュアルは結局,“教育はすべての人に”という理念に立って編纂されており,教育をコミュニケーションを土台としたひとつのプロセスとみなしている点,また児童の類別を超えて,コミュニケーションの障壁から学習過程を解放させるにはどうしたら良いか,に焦点を合わせて考えている点に,新しさが見られる。

教育方法論

マニュアルの執筆及び検討には,ポルトガル文部省が全力を注ぎ,あらゆる教育レベルの教師,親,専門家がチームを作ってこのプロジェクトに協力をした。
RIの内部で討議された経験に基づく見解を,302人の教師有志が検討して,その95。5%の教師達が,読み易い,興味を持って読んだ,と報告している。
“なぜこのプロジェクトに参加を望んだか?”
第一に挙げられたのは,“学習に問題をもつ児童が学校で良い結果を得るのに,このプロジェクトが役立つため”であった。
続いて,“学校環境の質が向上するから”,“コミュニケーションが豊かになるから”,“対応姿勢の変化を願って”,“情報が増加するから”,“グループ作業の練習に”そして最後に“個人的な好奇心で”が挙げられた。

“このマニュアルはあなたの授業に役立ちますか?”
64。1%…はい
37。7%…非常に
1。2%…殆どなし
“どのように役立ちますか”
55。5%…活動を示唆
40。5%…理論と実行の橋渡し

この事前検討の後,最終的な見解が,実験グループの手で執筆され,検討された。性質の異なる三つの質問事項(内容・評価・教育を行なう上での姿勢と発展について)及び個人面接が,403人の教師(就学前,初等教育,中等教育及び特別教育の各段階)に行われている最中である。結果はまだ実地に利用されていないが,積極的な反応が寄せられている。

参加方式による研修

―アジア保健研修所の経験―

PARTICIPATORY TRAINING METHODOLOGY:PROGLAMS OF THE ASIAN HEALTH INSTITUTE

川原 啓美
アジア保健研修所〔AHI〕

はじめに

アジア保健研修所(AHI)は,1980年12月,名古屋市郊外の愛知郡日進町に設立された財団法人であり,アジアの開発途上国の農漁村や都会のスラムで働く,中堅医療保健ワーカーを養成するのを目的としている。
アジア諸国のほとんどは農業国である。人口の80パーセントは地方に住み,年収一人あたり200米ドル内外という極端に貧しい生活を送っているが,彼らのための医療施設やワーカーは,国全体の20パーセントにもみたないのが現状である。平均寿命は40歳から50歳代であり,日本が80歳にも近い世界一,二の長寿国として,その優れた保健・福祉の成果を享受しているのとは格段の相違がある。

国際医療協力について

従来,先進諸国からこれらの開発途上国に対して,さまざまな形での援助が行われている。金額的には政府間援助が最大であるが,このほかに民間団体(NGO)による働きが活発に行われている。医療援助として人的,物質的援助が行われており,日本からも1960 年頃から医療保健ワーカーの派遣,病院の建設,機材・薬品の贈与などが始められた。これらの援助のほとんどすべては,日本の人的,物質的資源を供与する,あるいは医療技術を導入するという形で行われて来た。
アジア保健研修所(AHI)は,従来医療ワーカーの派遣という形で行われた海外医療協力の経験を持つ数名の人びとにより,そのような働きの限界を超える全く新しい方向を目指して始められた協力活動である。それは,先進諸国からの技術・資源の導入ではなく開発途上国の人びとが,「自分たちの健康は自分たちで守ろう」という自覚に立ち,草の根の保健活動を推進するのに必要な人づくりを目標としているのである。
アジア諸国では,医師一人に対する人口比は数千人から数万人と極端に多い。また,それら数少ない医師のほとんどは都会に住み,ごく一部の比較的恵まれた人びとにのみ医療サービスを提供しているのが現実である。従って,国民の大多数に対し,最も必要とされている形で彼らの健康を守るために働くのは,医師よりも中堅保健ワーカー,治療医学よりも地域保健を中心としなければならない。

アジア保健研修所(AHI)の研修の概要

アジア保健研修所は,このような見地から1980年以来研修活動を開始した。当初,すべての研修コースを日本国内の研修会館を中心として行ったが,1,2年の経験の後,これらのコースの内の多くは,彼らの実際の働きの場に近い環境で行われる時,更に有効であることが判明した。1982年以来南インド,次に1983年よりフィリピン,ついでネパール,インドネシア,韓国で,それぞれの地域別,あるいは国別研修コースが開催されている。これらに対し,日本国内で行われる研修を国際コースと呼んでいる。
研修生は,地域保健や開発に少なくとも3年間以上従事し,将来指導者として活躍する期待の持てる人びとを,彼らの属する地域保健の団体からの推薦によって受け入れた。地域別,国別研修も,それらの団体の自主性を尊重しつつ,緊密な協力関係を持ちながら実施している。現在,AHIが関連,協力しているこれらの団体は,アジアの15カ国にある主としてNGOであり,タイなどのように,政府を通じて派遣してもらう場合もある。発足以来8年間に,AHIが日本とアジアの5カ国へ招いた研修生は,1988年7月現在550 名にのぼっている。研修に関する諸費用は,日本国内を中心とする約5000名の賛助会員の会費によって支えられている。
さて,それらの研修の内容はそれぞれのコースによって異なるが,すべてに共通な点は「参加方式による研修プログラム」に従って行われることである。コースの主題と骨子はあらかじめ決定されているが,その詳細は研修生自身によりデザインされ,運営されている。

「民衆劇」コース

一例として,今年(1988年)の5月下旬から5週間にわたって行われた国際コースについて述べる。このコースの主題は,「保健開発活動における民衆劇」であり,インド,インドネシア,フィリピン,タイ,スリランカ,バングラデシュ,そして日本からの13名の研修生によって行われた。最初,プログラムのほとんどは白紙であり,各人により,それぞれの国の保健の現状と自らの活動が紹介された後に,運営委員を選出し,全員の役割が決定された。
民衆劇が選ばれた理由は,アジアのほとんどの国で,特に地方に住む人びとの多くは読み書きができず,識字率は20パーセント以下であるが,そのような所で健康教育を行い,特に村人たちが,これは自分たちの問題である,と自覚するためには,彼ら自身も参加し演技する民衆劇がきわめて有効だからである。
研修第二週から,南インドのフェリックス・スギルタラージュ博士が講師として参加した。彼は南インドのマドラス付近の村で,実際に民衆劇による保健・開発教育を長年にわたって行っている。
研修の進行状況について,スライドによって説明するが,最初はことば(英語)の問題などで充分自己発表のできなかったメンバーも,演技などを通して次第に活発に参加し,よいグループ作りが行われるに至った。
三週目の終りには,日本各地から約70名の青年が参加し,アジアの問題,更には日本とアジアのかかわりなどについて研修生と語り合い,それぞれのテーマについてグループ別の民衆劇を作り,上演した。前後9時間にわたる熱気にあふれた会合となったが,研修生はもとより日本人参加者も,国際社会における諸問題,健康を阻害する社会経済的因子などについて新しい理解を得ることができた。
AHIが招く研修生はエリートではない。むしろ地方で村人たちを愛し,彼らのために献身的な一生を送ることに喜びを感じるような,保健婦,教師,ソーシャルワーカーなどである。彼らの多くは初めて国外に出て,外国の文化,習慣に接するわけで,そのような経験を通して得るインパクトは強烈である。
研修を終わりそれぞれのフィールドに帰った研修生たちは,彼らの得た新しいより広い視野で自らを再確認し,活発に働いているが,最近,彼らを中心としてAHI方式により,その地域での研修コースを実施することが始められた。今年の初めに中部インドで行われた,地方別研修コースとも呼ぶべきもので,地方語であるテレグー語が用いられ,人びとにより近い,土の香りのするような研修コースであった。

考察と結論

1978年秋,WHOとUNICEFはソビエトのアルマ・改善するための方法について協議した。世に知られる「アルマ・アタ宣言」がその結論である。それにより,「プライマリ・ヘルスケア」の概念が導入され,地域に根ざした草の根の保健活動がきわめて重要であることが強調された。そして「2000年までにすべての人に健康を」のスローガンがかかげられた。
以来10年,世界各国,特に開発途上国で多くの地域保健活動が展開された。しかし,その中での成功例は決して多くない。そして,たとえ地味であっても,地域住民の自発性を引き出すことが出来たプロジェクトが,数少ない成功例となっているといわれる。
日本は今や世界一,二の経済大国として,多くの国ぐにと経済的な関わりを持っているが,外国の,特にアジアの開発途上国の人びとの実状について,私たち日本人が知る所は少ない。海外援助額は増大しているが,それがどのような形で,何に用いられているかについての関心もうすい。
AHIは,金や物による援助ではなく,相手国の文化,伝統を尊重し,その中での「人づくり」に貢献するための保健研修を続けて来た。このような援助活動において最も重要なことは,働きの主役はその国の人びとであり,援助する側は触媒にすぎない,という思想に徹することであろう。それにより,初めて真の意味での「人間開発」が可能になり,人びとの健康を守るための恒久的な働きへのいと口がつかめると思う。

開発途上国の特殊教育の展望と障壁

PROSPECTS AND BARRIERS OF SPECIAL EDUCATION IN DEVELOPING COUNTRIES

Ture Jonsson
Department of Special Education,University of Gothenburg,Sweden

「全員就学」は世界中の多くの公文書に,スローガンや政策として,取り上げられている。教育や訓練を受ける権利は,国連によって,基本的人権とみなされ,国連の障害者の人権宣言の中にも含まれている。
しかし,政策として掲げても,こと障害者に関する場合,現実と理想が大いに異なる。従って,「全員就学」政策を実現するためにはいろいろな方策を講じなければならない。それにはまず,両親,学校,一般の人々の態度を変えること,および私がここで特に問題にしようとしている教育計画の変革も必要である。
多くの開発途上国では,民営の特殊学校が2,3建てられているが,これらは多少は,全体的に植民地風をモデルとしているものの,その地域の実情に合ったものとはいえなかった。これらの学校は大抵の場合,遠隔地にあるため,少数の生徒が適切なケアを受けてはいるが,両親や身内とはめったに会うことができない。つまり,彼らは身体障害という第一のハンディキャップよりも,多くの場合もっと大変な第二のハンディキャップ,つまり社会的ハンディキャップも受けているわけである。
従って,第三世界で,障害者のために全国的な規模の教育計画を立てる場合には,いくつかの基本的な問題面を分析議論することが大切である。

必要性-収容能力

第三世界では,教育が国家の発展にかかわる最も大切な鍵の一つと考えられ,国家予算の大きな部分を占めている。しかもこれまでの基本的な教育の需要と供給の間には,大きなギャップがある。ことに障害者の場合には,事態はますます深刻である。ほとんどの障害児が教育を受けておらず,ましてや特殊教育を受けている児童は,皆無に等しいといえる。事実,現在行われているサービスはごく限られており,例えばアフリカ諸国では障害児の1%にも達していないのが実情である。
例えば,エチオピアを例にとってみよう。特殊教育を必要としている障害児が,全国でおおよそ160万人おり(現在特殊教育を受けているのは,たった1,500人である),しかもその教育を行う場合の先生と生徒の比率は最低でも1:16程度といわれるから,特殊教育担当教員が10万人は必要である。計画中の特殊教育教員養成プログラムでは,毎年25人の教員が計画的に誕生するわけだが,これでは実現までに4000年もかかることになる。このことから,この問題の深刻さを痛感せざるをえないが,この計画があまりにも非現実的なので,現状に合った新しい代案をさがすことが,もっとも重要である。こうした背景のもとに,コミュニティー・ベースド・リハビリテーション(CBR)のモデルへの関心が増していくのは当然で,これが正しい方向への第一歩といえる。

質-量

開発途上国では教育の問題となると,質より量を重視する傾向がある。政府にとっては,何名の子供が就学しているか―特に,独立前の状況と比較して―を,国民や他国に,示すことが重要なのである。質の面となると,大抵の場合無視されることが多いが,それでも一応は,知識偏重のカリキュラムにそった形式的な植民地的な試験制度も行っている。この試験では,80 %の生徒が不合格という状況で,生徒達には失敗した挫折感と,卒業後の主な仕事となる農業には向かない不適切な技術しかのこらないというわけである。つまり教育の基本的なつとめとして,学科中心よりもむしろ生活中心のもっと真実味のある基本的な教育を行うこと,及び形式にとらわれないその土地固有の教育のように,人格の高揚と文化的価値の伝達とを考える教育を行うことが明らかに必要である。われわれは測定可能な知的活動だけを基にしたカリキュラムを受け入れる必要はない。人の生活は極めて複雑で,重要な事柄が多々あり,それらは測定することはできないし,またするべきではないが,学校のカリキュラムを作成するときには,考慮しなければならない極めて重要なものである。それは人間社会が存続する上で欠かせない基本的な人間の価値を包含しており,障害があってもその人々を平等な人間として受け入れるものである。

統合(Integration)

多くの開発途上国では,特殊教育は普通の学校制度と別に,民間機関によってとり入れられ,発達してきた。多くの場合,同時にこの分野を担当する特殊教育ユニットと,特殊教育担当主事もしくは職員を備えた公立の学校制度が設けられた。障害児を普通児の学校制度の中に統合しようとするとき,校長や地域の教職員から「この子たちはこの学校の児童ではなく,特殊学校の児童だ」という意見が出されることが多い。このことは基本的な誤りであり,併設特殊学校制度を設けたことの残念な結果である。
これら障害児は長いこと普通の学校制度から除外されてきたため,当然普通の社会人として見られず,社会も彼らに対してその責任を負わなかった。しかし,障害児の教育は普通の教育体系の中で,平等に行われるべきであり,全学校並びに全教員のごく当然の義務である。これこそが,この地域における全教育計画の出発点である。

特殊という見方

現在の障害児のための教育サービスがなかなか発達していかない原因の一つは,それがとても特殊なものだと信じられていることである。特殊教育とか,特殊教員というような呼び名がこの領域をあまりにも特殊なものにしてしまい,資格のある立派な専門家のためだけの分野として見られている。しかもその専門家は,特に第三世界ではごく少数しかいない。
「障害児の仕事にたずさわるのに必要な技術には,不明瞭なことが非常に多い。こうした技術の多くは―全部ではないが―家族やボランティアやコミュニティ・ワーカーや無資格のスタッフなどから比較的手軽に教えてもらえる。しかし,熟練の専門家はリーダーシップをとり,スタッフの養成を行い,援助するために必要である。」(Mittler‐Serpell,1984年)

障害の程度

教育計画の立案者や政府各省の最高責任者の多くは,社会で置きざりにされている障害者の人数の多さを提示されると,重荷に感じて無力になってしまう。私は彼らの気持がよくわかる。従って,人口の10%という概算―国連の統計による―を提示することは,賢明な方策とはいえない。障害者といっても複雑で,その障害の程度が軽度,中度,重度から最重度までのいろいろな人々がいるということを強調することが大切である。
障害の程度が重くなるほど,その人数は少なくなる。大多数の人々は,現在の普通の学校制度の中で,障害者の状況についての多少の訓練と知識を受けた普通の教員が,ごく簡単な工夫をすることで助けられる。このことは今後最も優先すべき点である。
中度の障害者は多くの場合,特殊なグループや団体の中で,もう少し広範囲にわたる援助と調整が必要であり,さらに有資格教員も必要となる。全盲とか全聾のような重度の障害者の場合には,数として3%以下と思われるが,特別の伝達技術はもちろんのこと,広範囲にわたるトレーニングプログラムのマスターを要する特殊技術を身につけた教員が必要である。このようにいろいろなカテゴリーの教員を養成するには,多種多様の融通性のあるトレーニングプログラムが必要である。

協力

障害者の教育とトレーニングには,いろいろな人々や,専門家および施設の間の協力と調整を十分に行うことが必要である。これは行政のみならず,地域についてもいえることである。障害児とその家族のニードは種々の面にかかわっており,積極的な協力は必須条件である。

包括的であること

この項は前述の協力という項と密接な関係があり,強調する点は,障害者をみる時にただその障害だけに注目せず,全人的にとらえなくてはならないということである。このことはまた,障害者のためのサービスを計画する場合には,その障害者(男女を問わず)の一生と1日24時間に必要なことを考えなくてはならないということである。従って特殊教育のサービスは,就学前から始めて初等中等教育期間を通じて行い,職業の訓練や紹介までを含まなくてはならない。応々にして小学校時代の教育の必要性のみが,問題として取り上げられがちである。しかし忘れてならないことは,障害児は7歳で生まれて,17歳で死ぬのではないということである。

特殊教育計画ロケット
特殊教育計画ロケット

結論

過去10年間の開発途上国の特殊教育アドバイザーとして,またRI教育委員会の委員としての私の体験を基にして,開発途上国における障害児の特殊教育活動を計画する場合のいくつかの大事な点について,ごく短く要約してお話しようと思う。
多くの場合,特殊教育は今まで,操縦機関が働かない船を走らせるようなものだった。つまり,われわれは何処にいるのか? われわれは何処に行こうとしているのか? 特殊教育について特殊とは何なのか? われわれがやってきたことは何だったのか?
私は本文の最後に,特殊教育を計画する人々のために,大事なピラミッドのモデルを掲示したが,さらにこれを,われわれがこれまで関係してきた多くの問題をぎっしり積み込んだロケットとして考えてみようではありませんか。このロケットも,強力な発射ロケットが背後になければ,空には決して届かないということを覚えておいて下さい。さあ,今日から始めましょう! いっしょに来ませんか?

〔参考文献〕

Mittler P。and Serpell R。 Services for persons with intellectual disability: An international perspective。 Chapter 21in Clarke A。, Clarke A。 D。 B。 and Berg J。 (eds)Mental Deficiency: The changing outlook。 (4th edn)。 Llondon: Methuen, 1984

太平洋地域ミクロネシアにおけるリハビリテーション専門技術者の訓練

THE TRAINING OF REHABILITATION TECHNICIANS IN MICRONESIA, PACIFIC BASIN

G。Okamoto, S。Kelly, M。Brown, H。Yee
Unlverslty of Hawaii and Rehabilitation Hospital of the Pacific,Hawaii,USA

太平洋地域では,北マリアナ連邦,パラオ共和国,ミクロネシア連邦(Yap, Truk, Kosrae, Pohnpei),マーシャル諸島及びアメリカ領サモアに居住する身体障害者に対し,国立病院がそれぞれの能力に応じたリハビリテーションサービスを提供している。例えば1985 年には5人の外国籍を持つ理学療法士及び作業療法士が小規模な設備の病院に配属された。ある2つの病院では,1978年に4週間のリハビリテーションの訓練を受けた2人のパートタイムの看護婦が患者の治療にあたった。4つの島の病院は,リハビリテーションのための施設やスタッフをまったく有していない状態だった。地域でのサービスを受けられるかどうかにかかわらず重度の脳及び脊髄損傷患者は,通常太平洋リハビリテーション病院(RHP)へ転送されていた。そこは,ハワイにおける先鋭的総合医療リハビリテーションセンターであり,近くの軍人及び民間人のための医療センターでの緊急処置を引き継いでいる。毎年4~6人のミクロネシア人,アメリカ領サモア人がそこに収容されている。
医学リハビリテーションは保健サービスにおける一つの大きなギャップとして認識されていた。ハワイ大学のJohn。A。Burns医学部がリハビリテーション研究・訓練センター(RRTC)を設立するために,国立障害・リハビリテーション研究所(NIDRR)から助成金を受けた際,諮問機関からは,RRTCが医療方針のもとに最低限の設備のある医療施設で働くリハビリテーション専門技術者を養成することでこのギャップを埋めるような意欲的プロジェクトを実行するよう勧告された。

方法論

初期のRRTCの訓練担当チームは経験豊富な作業療法士,理学療法士及び公衆衛生の専門家から構成されていた。このチームは訓練カリキュラム及び教材の設定にあたり5つの指導原理を明らかにした。第1に,訓練はできるだけ訓練生のいる病院や地域で行われるべきであること。第2に,カリキュラムでは,脳卒中,脳損傷,脊髄損傷,切断,背下部の痛み,関節炎,骨折,脳性麻痺,その他の筋骨症状による移動障害の回復に力点を置くべきであること。第3に,訓練担当者は文化的に受け入れられた指導法,治療法に敏感になること。第4に,設備や技法は文化に適合したものであること。第5に,訓練生は,それぞれの所属する病院が訓練生のために有給の身分や適切な医療施設の提供を保障し,他の医療従事者の参加を援助するなど,プロジェクトへの関与を明示した時にのみ訓練を受けるべきであること。
病院管理者はそれぞれの採用基準を適用しながら訓練生を選抜した。そして10人が訓練に入った。内訳は7人の看護婦と,従来の治療担当者であるMEDEXの医師助手,保健助手,歯科医師助手である。ある習護婦の訓練生は退職してPohnpeiの医療職員養成プログラムに入り,ある看護婦は他の病院へ転勤した。
訓練は3つの段階に分けられる。第1段階では,訓練生は基本的な技術や知識を学ぶ。6週間にわたる集中コースでは,まず筋骨解剖学,生理学,運動学が教授され,その後,経歴調査,身体機能の検査及び治療の実習を受ける。さらにその後,病院管理者の協力のもとに,訓練担当者と訓練生は病院の中で2週間を過ごすことになる。6人の訓練生はさらに5週間にわたり,RHPおよびShriners Hospital for Crippled Childrenにおいて筋骨の障害に関する集中的研修を受けた。
第2段階になると,訓練担当チームは学際的チームの考え方を導入する。このチームはそれぞれの地域の病院で,患者,クライアントあるいは学生としての障害者の処遇について議論するため定期的に会合を持つ。訓練プログラムには訓練生のほか,医師,病院の看護婦,保健婦,職業カウンセラー,学校の教師,老人担当ソーシャルワーカーが参加した。ここでは,在宅ケアや地域での訪問活動が強調された。
第3段階では継続教育及び専門訓練が行われる。例えば,8人の訓練生はグアムにある発達障害児のためのBrodie記念学校で6週間研修した。さらにこの段階で実際に患者の評価・治療にあたる訓練生は6ケ月~9ケ月毎に,島で行われる訓練で指導を受ける。
すべての医療施設は,マットプラットホーム,ホットパック,水治療(free weights),過流浴,歩行補助具,ゴニオメーター,外科用チューブ(surgical tubing), 及び資料室を準備した。牽引,滑車重垂運動器(wall weights),超音波,訓練用自転車等のさらに進んだ器具を備えた病院もある。

結果

現在,男性7名,女性1名のリハビリテーション専門技術者がいる。年齢は25~40歳である。すべて永住民であり帰化した者はいない。Yap,Truk,Kosraeの病院は新しい医療施設を開設した。Ebye(マーシャル諸島),Palau及びPohnpeiではフルタイムのサービスの拡大がはかられた。アメリカ領サモア,北マリアナ連邦では,一部にはアメリカ政府からの返還要求に応じるため契約の理学療法士,作業療法士の補充を続けている。サモアはサービスの継続性を確保するためリハビリテーション専門技術者を1名採用した。17年経って,帰化したアメリカ人理学療法士がマーシャル諸島のMajuroの病院を退職したが,リハビリテーション専門技術者及び経験豊富なアシスタントによるサービスの継続が保障されている。
臨床的能力は,訓練の前後に行われるテストでの満足できる結果と訓練担当チームにより記述された評価に基づくものである。長所,短所を明確にするため,関係した医師からの直接的な情報のフィードバックも求められた。
信頼できる利用患者数に関する報告では,問題となる点が指摘されている。3つの新しい医療施設では月間の平均利用患者数は1987年には35~84名であった。 Majuroの帰化理学療法士が去った後,利用患者数の平均は,517名(1986年)から370名(1986年)へと減少したが,1987年には483名に回復している。定時制の診療施設では,月間利用患者数は,189名(1985年)から233名(1986年)そして220名(1987年)に増加した。しかし,これらの報告には,重複ケース,グループ療法,家庭訪問,家族指導,チーム・カンファレンス,学校との連携,そしてごく少ない例ではあるが,病院の広いサービスの中に含まれてしまったものは数に入れていない。

考察

逸話的な所見や,専門的な証言あるいは病院管理者によって援助が続けられていることが示すように,リハビリテーション専門技術者養成プロジェクトは,ミクロネシアその他太平洋地域の国々のリハビリテーションサービスの提供に有益な影響を与えている。利用患者数は,地域特有のニーズに従った種々の取り組みをしているリハビリテーション専門技術者の生産性を必ずしも反映してはない。例えば,Yapでは,リハビリテーション専門技術者は在宅での患者治療に比較的多くの時間をかける。Majuroでのサービスは医療施設に集中する傾向があるが,リハビリテーション専門技術者とその医学的スーパーバイザーは遠く離れた珊瑚礁の島々を訪問するし,またマーシャル諸島では,1963 年に流行したポリオ後遺症患者のフォローアップに訪れた調査者を援助している。
地理的,人口的,文化的差異が,保健・人道的サービスの提供にとって大きな障壁となっていることは明らかである。この地域全体では,太平洋の300万マイル四方の地域が含まれ,何千という珊瑚礁や火山の島々があり,それぞれ人口が100人にも満たないところがあることを想起していただきたい。グアムとハワイを除けば地域全体の人口はわずか165,000人である。ミクロネシアの平均年齢は17歳である。第2次世界大戦後は,英語が共通語として広く認められるようになったものの,9つの異なった言語が使用されている。
外部への交通手段は,そのほとんどを民間航空に依存しており,主要な島の間を週に2~3回飛行している。飛行はグアムとハワイを起点としている。週1回から数ケ月に1回の小型飛行機と貨物船が離島や珊瑚礁の島々をつなぐ手段である。島内交通としては,小型モーターボート,自動車,あるいは利用可能な道路までの数キロにわたる徒歩が手段となる。
同様にコミュニケーション手段も,時間と費用の点からきわめて限定される。郵便も配達まで長い時間がかかることを余儀なくされる。電話,テレックス及び1バンドのラジオが利用されている。1986年まで使用が制限されていた人工衛星通信も,1990年には選択の幅が広がる見込みである。実際に,当初の訓練計画には,グアム大学で別のプログラムで実験された人工衛星使用の相談・指導も検討されていた。
訓練担当チームは次の5カ年のために,いくつかの重要な目標を設定している。それぞれのリハビリテーション専門技術者の臨床技術の熟達には現場での訓練や教育を通じての絶え間ない進歩が必要である。ミクロネシアの看護学校のカリキュラムや医療従事者の養成プログラムには,医学リハビリテーションやリハビリテーション専門技術者の持つ役割を学生に認識させるような内容が必要だと思われる。RRTCは,身体障害者に対する施設やサービスを改善するため病院を援助していくような積極的な役割を果たすことが望まれる。

結論

リハビリテーション専門技術者は,ミクロネシア及び他の太平洋地域における身体障害者に対するリハビリテーションサービスを向上させることが可能である。しかし,さらに高い目標として,地域に根ざしたリハビリテーションサービスの観点に立った総合的リハビリテーションシステムの確立が掲げられる。

リハビリテーション職員の訓練

―CUMBERLAND大学のアジア太平洋地域における経験―

TRAINING OF REHABILITATION PERSONNEL:EXPERIENCES IN ASIA AND THE PACIFIC OF CUMBERLAND COLLEGE

J。O。Miller
Cumberland College of Health Sciences,Australia

アジア太平洋地域のリハビリテーションにおける当大学の事業の概要を紹介することはまさにこの会議のテーマにかなったものである。現実的達成と将来的思考は我々の機関が高く価値を見出している二つの特質であり,ともに本稿に詳述した諸活動に反映されている。記述された諸活動のうちの多くが,大学自体の財源でまかなわれてきたことが理解された時,一連の事業はより重要性を帯びてとらえられるであろう。
当大学は約15年間にわたり高等教育機関として運営され,10年間にわたる海外プログラムを実施してきた。 1973年に,ニューサウスウェルズ州法に従って設立され,そのほとんどを連邦政府の財源により運営している。オーストラリアの他の高等教育機関と同様,独立と自治が運営上の特徴となっている。
当大学の海外への積極的取り組みを理解するため,次のような要素を考える必要がある。すなわち,事業の土台となる哲学,準拠している原則,開発された協力のパターン,そして計画を支える主要なパートナーである。

主要なパートナー

当大学の職員養成における主要なオーストラリアのパートナーはオーストラリア外務省のAIDABの援助を受けているCumberland大学財団である。これら2つのグループに加え,当大学は,WHO,特にその西太平洋地域事務所の信頼と援助によって支えられてきた。
これらの直接的連携の他,当大学はアジア太平洋地域の大学機関,あるいはアジア精神薄弱者連盟(AFMR)の加盟民間団体と数多くの長期的協力関係を築いてきた。AFMRとのかかわりは,IYDPの時から始まった。これらの関係を通じ,当大学も多くを学んできたし,幸いなことに多くの隣人のリハビリテーションのイニシアチブをとることに貢献してきた。
我々の貢献はささやかであったが,組織的かつ革新的なものであった。それは当大学に対する期待と,我々が応じることのできる能力,当面の実用性と将来への影響,危機的状況よりは長期的展望,そして地域の同志との接触を「継続」させるための「中核」をつくる必要性を検証してきた。

当大学の取り組みにおける哲学

当大学はその地理的位置,高等教育における地位そして学問への貢献に関してひとつの世界観を持っている。それゆえ,海外の仲間とのかかわりを我々の使命とすることは特に驚くべきことではない。当大学の考え方は,7月に開催された国際保健科学教育会議(Inter national Health Science Education Conference)でのWHOの事務局長の見解と似ている。中島博士は,技術や科学によって押しすすめられる,軍事から経済への「力」の大きな移行は必然的なものであると提議した。彼は,我々に,保健科学教育のネットワークの世界的リーダーとして,カリキュラム設定,訓練および教育の戦略を開発することを要請した。それにより,当大学卒業生がいろいろな地域におけるより良い保健や助言,あるいはサービスを求める要求に応える大きな役割を果たすことができるように。
当大学の教育への取り組みは,社会構造に適合し,それを尊重しており,継続性(安定性)の基礎となる人的資源開発の役に立つものである。そしてその安定は,軍事から経済への予期された勢力基盤の移行の土台となるのである。
これらの要求に加え,科学と技術の人的資源開発への応用は,必然的にアジア・太平洋の今指摘された地域に焦点があてられるであろうことを想起させるものであった。このような主要な地理的影響力の再配分や力の再集中といった問題にとどまらず,中島博士は,人的資源開発には3つの必須要件があることを気付かせた。すなわち,人間の技能,管理のスタイル,およびスタッフの養成である。彼は,科学と技術における新しい波が,保健の面において人的資源開発に正しく応用されるのなら,人的資源開発と教育は重要な要素となることを示してくれた。彼が現在認めている,経済成長に基づいた「力」の流れの継続性と人的資源の開発は,アジア・太平洋地域への注目と相まってCumber land大学が無視することのできない要求なのである。彼の提唱するものは,当大学の現在の哲学とぴったりと一致するのである。

協力のための諸原則

 仲間との良好な永続的な関係をつくり出すために,少くとも5つの要素が考えられる。すなわち,
  1. 協力プログラムの委細を決め,開発にあたる責任者間の個人的信頼関係。
  2. 開始された行動は,当面のあるいは「緊急」の課題以上に,単純だが明確な目標を達成することができるという共通認識を持つこと。
  3. 地域の援助資源を高め,組織化する「主たる(ホストの)」組織の下部構造が完全であること。
  4. 導入の際の基本点として,またその後の評価の焦点として地域の「ニーズ」についての主張を受け入れられるアプローチ。
  5. 「派遣される」グループが,予断なしにその地域の状況を受け入れることのできる能力。

協力のパターン

当大学は幸い,アジア・太平洋地域における多くのNGO(非政府間機関),大学及び政府から信頼を得ている。こうした支援的な同志的環境の中で,以下の5つのパターンの協力関係が形成されている。

(1) 大学等機関との協定―当大学とアジア・太平洋地域において指導的役割を果たしている機関と協定が結ばれている。(全部で9協定。Malaya大学とは現在交渉中。):中国医学アカデミー(北京),Sun Yat sen医科大学(Guangzhou),ホンコン理工学院,インドネシア大学(ジャカルタ),Mahidol大学(バンコク),フィリピン大学(マニラ),Queens大学(グラスゴー)及び南イリノイ大学(Carbondale)。
これらの協定を支えている基本的考え方は,保健教育の特定分野における相互利益である。そして,留学生交換,調査研究および正規の大学での研究を通じてのスタッフ養成を中心として運営されている。
これらの協定を通じ,当大学の事業は,WHOのリハビリテーションとプライマリー・ヘルスケア・ナーシングの共同研究センターという2重の役割から必然的に生じる種々の活動により補完されている。これらのセンターや他機関との協定を通じ,人的資源開発のための選択肢を広げる機会は実際的でありまた多くの可能性を秘めている。
(2) NGOとの協定―この分野における諸活動は,Cum berland大学財団の関心と援助により可能になってきたものである。財団は公式登録NGOとして同じ地域にある国々の発展を援助するため,AIDABからの後援を受ける資格がある。
1981年から,リハビリテーション職員を育成するため財団を代表する学際的な大学教授のチームを多くの国々へ定期的に派遣している。統計だけがその全容を明らかにするものではないが,その事実は興味深い。
(〔注〕参照)
(3) 政府または関連機関との連携―リハビリテーション職員の育成は,数多くの政府機関との契約によって促進されてきた。この中には,ある特定のワークショップの技術的向上のための援助やサービスの組織化に関する一般的助言等も含まれている。
(4) 各種機関のコンサルタント業務―WHO,UNICEF およびIDPとの契約やコンサルタント業務が当大学教授に求められた。加えて,当大学は上記機関の援助あるいはオーストラリア相互援助プログラムを通じ,多くの客員教授や学者を受け入れている。
(5) WHOリハビリテーション共同研究センター―このセンターにおいても数多くのすばらしい活動が行われている。現在第2次4年計画が進行中である。
基本的にこれらの事業は自発的,自助的に実行されている。オーストラリア政府からの資金援助は受けていないし,WHOも直接的な資金的貢献はしていない。このようなセンターの支援によるリハビリテーション事業は,大学の教授や臨床スタッフが行っているので,すべて大学の費用負担である。「リハビリテーションに関する西太平洋地域ブリティン」の創刊,出版,配布も大学の資金によるものである。WHOに認定されたセンターとしては,WHOの西太平洋地域加盟国への積極的支援や助言がその運営内容となっている。数多くのWHOのコンサルタント業務や特別研究員の配置は当大学の指示により実現したものである。ごく最近,当大学は看護の分野における新たなWHOとの共同研究センターの計画の任命を受けた。
さらにWHOの東南アジアや西太平洋地域加盟国のための将来の支援活動の可能性については多くを語る必要はあるまい。

将来展望

過去の経験及びWHOの共同研究センターとして当大学が2つの役割を担っていることから,既に完成させた事業をさらに発展させる絶好の機会があることは明白である。「新しい」冒険への取り組みは我々の戦略の2つの柱,すなわち機会と責任に基づいて進められるであろう。これらのアプローチ自体は世界的視野を持つものだが,行動の焦点を絞るため,我々の物理的位置づけを適切に認識している。上記のような形で海外協力活動にたずさわっているような第3の機関はオーストラリアには他に存在しないのではないか。アジア・太平洋地域の隣人が我々の取り組みを,真に支援的で彼らの要請に見合うものと受け止めてくれることを希望する。

〔注〕
1982年から財団は以下の国々にプログラムを提供している。インドネシア(7),タイ(7),パキスタン (6),シンガポール(1),ホンコン(1),ソロモン諸島(1)およびフィジー(1)。これら24プログラムに71人の教員が関わっている。財団としての費用は 343,521。27ドルである。

主題:
第16回リハビリテーション世界会議 No.4 143頁~184頁

発行者:
第16回リハビリテーション世界会議組織委員会

発行年月:
1989年6月

文献に関する問い合わせ先:
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone:03-5273-0601 Fax:03-5273-1523