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分科会SB‐3                  9月5日(月) 16:00~17:30

重度重複障害児・者への総合的サービス

COMPREHENSIVE SERVICES FOR SEVERELY MULTIPLY HANDICAPPED PEOPLE:CHILDREN AND ADULTS

座 長 Mrs.Anne Mellgren  President.International Cerebral Palsy Society〔Sweden〕
副座長 岡田 喜篤 札幌あゆみの園園長

人権に基づいた、意味ある生に向かって

TOWARDS A LIFE FULL OF MEANING BASED ON HUMAN RIGHTS

Anne Mellgren
International Cerebral Palsy Society.Uppsala.Sweden

この10年の間に,世界中の至るところで,ようやく重度重複障害児・者とその家族に対し関心が払われるようになってきた。彼らは非常に長い間我々の社会から無視されてきていた。もちろん,我々はこれらの障害 (handicap)を持つ人々を知り,理解すると同時に彼らを養護してきた。しかし,彼らは医療的ケアは与えられてきたが,その生活条件をどのように改善したらよいかについて我々は十分に理解しようと努めてこなかった。
今日,世界の至るところで,すべての領域におけるケアのモデル,つまり医学的のみならず,社会的,教育的,そして,工学的なケアを含むモデルを創り出そうとしている。
他の国々と同じように,スウェーデンにおいても,家族の中に障害を持つ者がいるとその家族全体が障害をもつことになるということが一般に言われている。不利は家族全体に及ぶのである。障害者を持つ家族が十分に人生を成就するためには,家族全員に対する援助を必要とする。その後,もし,家族内の男の子,または女の子が重度重複障害を持つことになったら,質の高い人生を達成するためには,家族のより強い精神力と努力が必要となる。社会からだけでなく,親類,友人,隣人たちからも理解と十分な援助が得られることが満足できる結果をもたらすために重要である。現在,世界のどこで,このような形が当然のこととなっているだろうか?
出産前の母親へのケアの改善や出生後の新しい医学的成果とケアのおかげで,多くの未熟児が救われ,健康な人生を送っている。出産時や生後まもなく,虚弱さのために早期に死亡していた子供たちは,今日ではそれらの問題を扱う技術上の進歩のおかげで,月足らずで生まれたかどうかにかかわらず生存できる。同時に,我々は不幸にも,障害を持った子供たちを多数増加させ,その中の多くが重度の重複障害を持っている。未熟な新生児が健康なまま生まれてきたとしても,人生の最初の1週間は保育器の中で辛い時間を過ごすのである。スウェーデンのBengt Hagberg教授は,1000 グラムで生まれた新生児の10%が重度重複障害を持つだろう,との意見を示している。世界の中の工業化した国々においては,これと極めて似通ったことが見られると考えられる。重度重複障害児が生み出される,この悲しい事実は環境汚染のせいだろうか,医学技術のせいだろうか,あるいは,他の何かが原因なのだろうか?
幸いなことに,現在では重度重複障害児・者においても,「全く希望のない事例」は存在しない。重度重複障害児・者であっても,肯定的な経験を与えられるような何かを行うことは常に可能である。
それぞれの小さな新生児はその障害の状況と同じように,人間としても個性的な存在なのである。我々すべてに求められているのは,障害者と我々との接触をはかるために,障害者と言葉や目,身体接触や,他の信号を通じてコミュニケーションを可能にするような双方向回路(two‐way‐channel)を見つけるように努めることである。十分な想像力と柔軟性をもってすれば何とかできる。重要なことであるが,しかし,いつも簡単とは限らない。
この意味でのコミュニケーションは,すべての人間にとって絶対的に必要である。それは我々の生命線である。多くの励ましと社会的,教育的,医学的,そして多分,技術的なすべての種類の援助によって,我々は力を合わせて重度重複障害児・者を,そしてその家族にもまた,より良い人生を成就させることができる。障害児・者の進歩はしばしば部外者には気づかれないが,しかし,これらの前進を目の当たりにした人は,それがどんなにささやかなものであっても,彼らにとっては喜びと幸福であることが確信できる。
我々がこのような障害者とともに共通の目標に向かう中では,しばしば難しい問題に直面し,時にはそれらが解決不能と思われることもある。しかしながら,その問題をチャレンジとして受けとめようではないか!諸々の研究や開発により,最も重度の重複障害児・者も人権に基づき意味ある人生を送ることができるよう援助が進められている。
扉を開くことが遅くなり過ぎてはいけない。我々の英知の不足から,それらはあまりにも長い間閉じられたままだった。
重度重複の障害者とともに意味ある生を求める方法は,文化,信仰,伝統の差違に従って世界中で異なっている。しかし,アジア,アフリカ,アメリカ,オーストラリア,あるいはヨーロッパのそれぞれのケアの方法がどうであるかということ以上に,いずこにおいてもそれが行われているという事実の方がより重要である。
Don Helder Camaraはその著作“A thousand rea sons for living(生きることの千の理由)”の中で述べている;

あなたの手によって,飛び立つことを
手助けすることは結構なことだ。
しかし,決して,それが翼になり得るなどと
思いあがってはいけない!

重度重複障害児のための総合的サービス

COMPREHENSIVE SERVICES FOR SEVERELY MULTIPLY HANDICAPPED CHILDREN

Mary Carella‐Canellopoulos
President,Hellenic Society for Disabled Children.Greece

30年間,種々の社会福祉およびリハビリテーション・サービスの仕事に積極的に深くかかわってきた者として,重度重複障害児のための総合的サービスを開設する件に関し私の見解を述べたい。私は専門家ではないので専門的な表現はできないが,教育を受け,その方面に興味をもち知識も経験もある一市民として意見を述べる。Salonica大学の精神医学の教授Dr.G.Manosがリハビリテーション・サービスを計画するにあたっての指針として次のような定義を与えられたが,大変適切なものと思う。「幸福とは仕事と愛と遊びに自分の時間を等分に使う技術のことである。」この考え方によれば,リハビリテーションは子供たちやその家族に目的達成の手段を与えるものでなくてはならない。

 重度重複障害児のための総合的サービス施設を設立するさいは,次の4つの原則に従うべきである。
  1.  サービスは人々のニーズにしたがって設け,それに合わせ,そしてそれに応えるものであること。従って,サービスは国の社会経済や教育や文化のレベルを反映するものなので,進歩,発展および成長のために融通のきくものでなくてはならない。他の国々の成功例を分析し,当該国の障害者たちのニーズや方策への効果を研究すべきである。他国の例のテストや採用は適切な調整を加えて後,注意深く行うべきである。現代社会における課題は,我々があふれる知識や情報を整理していかに能率的に情報科学を応用するか,その結果重複や無用のくり返しを避けて,教育や独創的研究の推進や現実に則した先駆的企画が考案できるかということだと信じる。
  2.  重度重複障害児には誕生から人生のいくつかの重要な時期を通じて一連のサービスがその子供と両親,家族に与えられること。各段階で異なった問題にぶつかるであろう。家族やその子供にとって最優先すべきことは,子供が幼児期,少年時代,思春期を経て成年期初期へと成長するに従って変わる。
  3.  このようなサービスを整えるには,障害児と家族の要望や必要とするものに常に注意深く耳を傾けなければならない。彼等はこのようなサービスの主要なターゲットであるから,専門家は彼等の要望を手引きとし,それによって目標達成のための新方針を工夫していかねばならない。それが社会への統合を成功させることになるだろう
  4.  これらのサービスは国の保健・社会システムに組み込まれ支えられるべきである。それは社会の他の人々をも巻き込むので,市民サービスにあたるすべての政府や民間団体と相互関連し,その影響を受けるであろう。
 プログラケやサービスや新しい事業を設定するために必要な事項を次にあげる。これらは概してもりだくさんな内容である。
  1. 客観的データ 量のパラメーターや地理的分布や要望やニーズなどによって対象人口を定める。ニーズの確定の次はすぐ役に立つと同時に必要な方策を調査吟味することであり,次のことがらを決める。
    1. サービスを実行するのに必要な専門家
    2. 必要な設備および用具
    3. 必要経費

    目標に必要かつ多用で詳細な客観的データをすべて集めて初めて,一定間問題のためのマスタープランの作成にとりかかれるのである。
  2.  マスタープランの立案には政府,民間およびボランティアの組織が,無用の重複や出費を避け,できる限り多くの人々のために,最上のサービスを供給するために一致協力し努力することが絶対不可欠であると思う。先駆性,独創性のある柔軟なものでなければならない。民間やボランティアの組織は専門的情報や知識や経験,熱意および策を持っていることが多い。これらのことはすべてマスタープランを組むにあたって話し合われ,結合・調整されるべきである。このような団体は善意のパートナーとして扱われれば,指導を受けて,熱心に実際的かつ重要な先駆的プロジェクトを作成し,テストするための助成金も受けられるだろう。政府と民間の組織は協力して対象となる人々の発展や成長に合わせて優先事項を設定し,融通性のあるサービスや方針を打ち出すべきである。20年近く前にはギリシャでは障害児の里親のニーズが大きかった。というのはリハビリテーション・サービスはすべてアテネとサロニカに集まっていたからである。また子供たちに食物・衣類・本・玩具等を与えることも必要であった。 最後に大切なことは,マスタープランを有効なものにするには一貫性と継続 性が重要である。議会の法規に基づいた組織のできるだけ広い範囲からの合意と協力を得ることが必要なのもこのためである。マスタープランは長い期間にわたる目標を定め,優先事項を設定するものだからである。
  3.  方策 現存の教育,保健および社会制度の下部構造により方策の計画が決まる。特に教育の枠組みの中では管理機関は,二つの絶対必要条件を満たす責任がある。
    1.  医師・看護婦・教育者および保健衛生関連の職員に必要な知識や近代教育をほどこすこと。障害児を受け入れる専門家のための,健全で高水準の基本的教育の確固としたバックボーン。そして何よりも必要なことは,これら専門職の基本的訓練を通じて障害者に対する関心とリハビリテーションの精神を育てていくことである。学校卒業後の訓練の機会が是非必要であり有益であるが,それはしっかりした基礎のもとにつくられたものに限る。さもなければ役に立たない「にせエリート」を造り出すだけである。
    2.  教育制度の中で,障害児のニーズに応えられるものを用意し,統合を進める。

家族の中に重度障害児がいることは深刻な衝撃である。それは突然やって来て致命的に生活をおびやかす。その苛酷さは子供にとっても家族にとっても同じと思う。そこで問題に立ち向かうために次のような形のサービスを計画することが必要である。

  1.  国の病院政策の中で地理的分布を考慮した診断および初期の治療施設の配置
  2.  外来患者にサービスを提供するリハビリテーション施設。このような施設が病院の一部としてあれば特に生後3歳迄の子供にはさらに効果が期待される。初期の段階で要求される専門的治療と診断上の問題は迅速かつ能率的に最小限の費用で,しかも親側の不安も少ないうちに解決される。本来の目的は彼等に残された可能性を維持し,最大限に活用させることなので,重度重複障害者の症状はどんなものでも軽く扱われ,治療がうけられないなどということがあってはならない。これがなされなければ我々はリハビリテーションと社会統合への目標を口先だけで唱えて終わることになってしまう。
  3.  必要な時には家庭での治療ができるようなリハビリテーション・センターに付属した移動サービス。
  4.  視覚障害,聴覚障害,情緒障害その他特殊グループ別の子供たちのプログラムを実施するのに必要な特別リハビリテーションおよび教育設備
  5.  家族のストレスを柔らげ楽しみや休養の機会を提供するプログラムとサービス。例えば,
    1.  両親,子供たち,若い障害者たちの支えになるグループ療法
    2.  家族に突発的事件が起きた場合あるいは両親にまとまった休養が必要な場合,重複障害児を宿泊させ世話をするための週末用あるいは緊急用の宿泊施設。両親は子供の世話をするために肉体的にも精神的にも休養し,充電する機会が与えられるべきである。
    3.  子供達と家族のための休暇やレクリエーション施設
  6.  最後に我々は子供たちの移動性を増すために社会の基礎構造を改良していかねばならない。建築上の障害を取り除き,輸送を容易にして彼等の身体的,精神的そして社会的限界を拡げねばならない。

これらすべてを実現させるにはすべての人々の献身的な,協調の精神による努力が必要となる。我々は熱心で賢く独創的で理性的で倹約を旨とし,誠実でなければならない。そしてまた謙虚さを忘れたくないと思う。我々は誤りを免れ得ない人間だからである。このことを認め再スタートするならばすべての人々に豊かな生活をしてもらえるようなサービスを準備する道を見出せるであろう。

重度重複障害児のための施設をべースとした地域ケア

REGIONAL CARE THROUGH THE INSTITUTIONS FOR THE PROFOUNDLY MENTALLY AND PHYSICALLY HANDICAPPED

末光 茂
旭川児童院

日本の障害者福祉は,明治年間の民間の手による施設建設によってスタートした。そして国レベルの制度に基づく全国的な施設整備等が進められるのは,第二次世界対戦後の昭和20年以降であるが,その充実のスピードは目覚ましいものがあった。精神薄弱施設の整備状況を例に挙げると,昭和30年代,40年代に急速な増加を見,現在では全国1800余りの施設に達している。その施設形態も,当初は収容中心の,それも軽度及び中度の障害者に重点を置いたものであったのが,その後,通園,さらには重度へと対象が広がり,昭和42年の児童福祉法改正に伴い,重症心身障害児(我が国独自の法的概念である)にまで制度の手が及んだ。
精神薄弱施設は主として,福祉及び指導に重点を置いた施設として運営されており,医療については嘱託医あるいは地域の協力医療機関との連携のもとに対応されるようになっている。欧米のいわゆる精神薄弱「病院」という形態とは異なっておりユニークである。
一方,最も医療ニードの高い重症心身障害児施設と肢体不自由児施設は,病院であり,かつ児童福祉施設としての役割を兼ね備えた施設形態となっており,医療福祉施設としての役割を果たしている。
このような障害種別,そしてそのニードに対応した施設形態とその整備状況には,日本独自の優れた点を持っている。ここでは,とくに重症心身障害児施設を取り上げ,施設をベースとした地域ケアの実践と課題について報告する。

1.重症児の生命の尊厳に対する実践
地域ケアの基本的な考えは,障害児・者と家族の重荷を市民がみんなの重荷として分けあう地域社会を築き上げ,障害を持っている人もそうでない人も,お互いをかけがえのない人として認め合い,尊重しあう立場で互いに交わり,助けあう社会を目指すところにある。
重症心身障害児施設での20年の療育実践により,最も障害の重い重症心身障害児も,リハビリテーション効果があり,成長,発達することが医療,教育,福祉に携わる関係者はもちろん,広く一般市民にも認識されるようになった。さらには,重症心身障害児施設に対するボランティア活動は,他の障害施設よりも熱心かつ活発であり,重症心身障害児の生命の尊厳から学んで帰るボランティアも多い。いわゆる一方的なボランティアサービスではなく,相互に学びあうボランティアの場となっている点は注目に値する。

2.在宅志向への対応
施設整備とともに,関係の医療サービス,さらには社会保障制度等の充実に伴い,重症児も可能な限り在宅でのケアを望む声が高まっている。但しその際,一定の援助体制が必要である。つまり,巡回療育訪問指導事業や,家族の疾病等の緊急事態に対応できる緊急一時入院,さらには重症児の急性疾患罹患時の入院治療(一般入院),さらには家族の休養,または家庭療育の在り方を集中的に研修するための療育キャンプ等のバックアップが必要である。ホームヘルパーなど家庭介護への直接的な援助(入浴サービス等も含む)も望まれる。その他,重症児以外の周辺の障害児・者の医療ニードへの対応や,心身障害児の早期発見,フォローのための地域療育活動の面でも重症児施設への期待は大きい。現実に,県域を対象とした地域のセンター的役割を果たしつつある重症児施設も増えている。旭川児童院での実践と成果について報告し,今後の課題にも言及する。

3.旭川児童院での地域ケア
  1. 早期発見,早期療育への援助,フォローアップ体制
    わが国では各市町村の保健所を中心とした生後6ヶ月,1歳半,3歳時点での乳幼児の発達の状態と障害の有無の発見を目的とした検診が制度として整備されている。このことは世界的に例の少ないものといえよう。保健婦と小児科医(内科医)の手によるスクリーニングによって障害が疑われる者をピックアップし,専門の医療・療育機関で精密検診をするシステムである。このことにより,治療可能な者や軽症化できた障害児は多く,精神遅滞や脳性麻痺の出現率の低下に寄与している。
    ところが,スクリーニングの段階での医師の力量の問題と精密検診後のフォローアップ体制に課題を残していた。岡山県下の各市町村は,重症心身障害児施設「旭川児童院」と委託契約を結び,医師,心理判定員,各種訓練士,指導スタッフから成るチームの派遣を得,地域内で総合的な第2次スクリーニングを行い,その後のフォローアップも旭川児童院の外来及び関係施設のフォローに委ね,効果を挙げている。つまり,早期の総合的,かつ一貫したフォロー体制を構築している。
  2. 巡回療育相談事業と外来療育
    在宅の重い障害児・者は,なかなか容易に外来受診や通園施設等を利用することができない。ややもすると在宅でひっそりと暮らしていることが少なくない。「旭川児童院」では,在宅重症児を中心に,重度・重複障害児に対する巡回療育事業を昭和45年より実施してきた。その内容は,医師,保健婦,各種訓練士,指導員,保母,検査技師等の専門スタッフで構成されるチームによる定期的な家庭訪問指導と,外来通園指導,家族と施設入所児・者一体となった各種の行事への参加,さらには電話による保健指導等である。この巡回訪問の実際と効果について報告する。特に対象児・者の療育効果,家族の療育意欲の向上はもちろん,緊急一時入院や外来利用への反映,在宅の継続を可能とする効果(施設入所抑止効果),そして経済効果などが認められている。
    とくに年少重症児を持つ若い家族での在宅療育への意識変革が顕著である。それに対応できる重症心身障害児通園への期待が高まっており,その実現に向け準備が進められているのは喜ばしい。
    一方,外来通院による治療,訓練もその対象者が増え,とくに年少児と高齢障害者,さらには周辺の障害児の受診が増えている。診療内容としては,てんかん治療,自閉症を含む行動異常への治療,機能訓練,言語訓練などのリハビリテーション,障害児歯科治療のニードが高い。
  3. 緊急保護入院
    家族の病気や冠婚葬祭等にさいし,重い障害児・者を一時期施設に預け,緊急事態の解除とともに自宅に再び引き取る制度が昭和54年頃からスタートし,全国に普及している。旭川児童院での実践を見ると,対象児・者の年齢幅は広く,1歳から50数歳に及び,保護理由は,母親や家族の病気,次子の出産,冠婚葬祭などが多い。このような一時的な施設利用により,家族の危機的状態を脱し,望ましい家庭ケアを続けることが可能となっている。

4.まとめ
重症心身障害児施設が単に入所者のみならず,在宅重症児に対しても,巡回訪問,外来診察,緊急一時保護,さらには健診活動などを通じ,地域ケアに寄与している実際を報告した。今後は,これらの実績の上に重症児施設がかかえる医療,リハビリ,検査機能等を生かし,県域を主な対象とした医療面の「障害児・者基幹施設」としての役割が期待されていることを強調した。

重度重複障害児・者のための総合的サービス

COMPREHENSIVE SERVICES FOR SEVERELY MULTIPLY HANDICAPPED CHILDREN AND ADULTS

Mithu Alur
The Spastic Society of India,Bombay,India

私は専門家として,また一個人としても障害者に関わり,さまざまな経験をしてきた。
専門的には私は特殊教育の専門家であり,1972年にボンベイで重複障害者を対象としたサービスを始めた。以来,サービスはインド各地に広まった。これは困難だが,やり甲斐のある仕事である。
個人的な話をすれば,私には22歳になる脳性麻痺の娘がおり,私はこの娘から多くのことを学んだ。娘は生きる喜びに溢れており,自分の重度の障害にも克服すべき課題として挑戦している。彼女の姿勢と哲学は私ばかりでなく他の多くの人々にも大きな影響を与え,生きることの意味を示唆している。
インドは広大な亜大陸で,その複雑さ,大きさ,多様性は他に比類がない。面積はヨーロッパの3分の2,人口はアフリカ,オーストラリア,ニュージーランド,イギリスを全部合わせたよりも多い。マーク・トウェインの言葉を借りれば,「インドは巨大な富と貧困,輝やきとみすぼらしさの共存する国である。」矛盾に満ち,混乱を極め,捕らえどころのないインドを容易に表現,分析することはできない。この入り乱れた状況の中にあって,障害者は大抵の途上国の場合と同じく軽視されがちである。障害者の数や統計はまちまちである。当協会や国連の調査によると,人口の10%,7,000万人近くが障害をもっているという。インド政府は5,000 万人と考えているようだ。いずれにせよ,膨大な数字である。
認識不足の他にも,宗教,文盲,大家族制度,カースト制度,貧困,資金不足から来るサービスの不足など,この広大な亜大陸にのしかかる要因は多い。地域の障害者の問題に取り組もうとすればこれらの要因のせいで問題が多面化し,状況がひどく制約されてくるため,これらの要因を無視するわけにはゆかない。
これに加えて,政府が障害者に与える優先度は低く,資金集めやサービス提供は民間の機関に頼っているのが現状である。
インド脳性麻痺協会は脳性麻痺など複雑な神経症だけでなく,筋ジストロフィー,ダウン症,ポリオ,運動失調性末梢血管拡張症,ミオパシー,関節彎曲症など他の障害をも対象とする包括的な専門組織である。ポリオの子供の多くは教育上の大きな障害がないため,脳性麻痺患者よりは扱いやすい。したがって,ごく幼い頃から入学を許され,必要な処置をうけて一般の子供向けの学校に配属される。
協会は診断と管理のための早期幼児クリニック,スラム協児童開発センター,特殊学校,雇用部門,教師やセラピスト,コミュニティー・ワーカー,両親,医師等のための訓練センターを運営している。また研究や情報の伝播,出版,新聞,地域教育,資金集め,政府や法人分野との連携,今日の行政上のニーズに応えるなどの仕事をする部門もあり,インド最大の慈善団体となっている。
我々が扱う子供や成人は主に脳性麻痺患者である。脳のいろいろな部分が損傷をうけているので,専門家が大きなチームを組んで対応する。現在では無論両親もチームの重要なメンバーとみなされている。脳性麻痺患者は一人ひとり全部違っている。その個人が全体としてとらえられ,包括的なアプローチがとられないと,各脳性麻痺患者に公平に正確に対処することはできない。

最初の2年間での早期発見と家族との連携

これは緊急に必要な事柄である。早期介入について 10年の歳月をかけた強力なキャンペーンをした結果,子供は6ヵ月という早期に来所するようになった。子供は家庭で集中的に刺激をうけ,それから就学前計画に入る。ドイツのDr.Vojtaとそのチームはセラピストを養成し早期段階での発達の遅れを診断するうえでご協力下さった。

カウンセリング

初期の評価期間中,私達のチームは家族との会話を通して家族ダイナミックスを知った。家庭の社会経済的レベルはどんなものか。家族の成員がどのようにして一緒に暮らしているか。家族のニーズを観察評価する場合,両親は子供のことでショック状態にあることを忘れてはならない。子供が一生涯身障者であることがわかった時は,両親にとっては大変な危機である。小児科医の言うように,「その親たちが我々の第一の患者であり」,直ちにケアと注意が必要である。苦悩の根は深く,我々にできるのはそれを和らげることだけである。だが,彼らの深い悲しみを完全になくすことはできない。したがって,感受性と理解,優しさは専門的な知識・技能に加えるべき不可欠の要素である。苦しみに直面している時,専門的な雰囲気は投げ捨てねばならない。1972年に仕事を始めた時,両親へのこの姿勢はインドの専門家の間ではまだ目新しいものだった。

治療と療法

基本的な考え方としては,できるだけ早く治療を始めることである。脳性麻痺をもつ子供は二人として同じでなく,療法を取捨選択する必要がある。ボバース,ボイタ,改良ペトの各療法は我々の治療計画の中に組み込まれており,過去12カ月間,「本質的開発」と呼ばれるボイタ療法を修正したものを採用してきた。

教育

子供は1歳半という幼なさで就学前プログラムに入る。教室で用いる教育手段は,ゴム・スタンプ,単純なアルファベット板,電動・手動のタイプライターなど高価でないものである。CanonCommunicatorと呼ばれる世界最小のタイプライターを用いて大学の講義をうけたり,学位試験をうけ,今までに4人の生徒が学位を取得している。

職業リハビリテーション

高等教育に進まない子供には,13~15歳から職業リハビリテーションが始まる。まず職業前教育に入り,それから作業訓練ユニットに入る。
Spastic Society U.K.とインドとの合同プロジェクトが設立され,EC委員会から建物の建設資金が出されて,建物は竣工した。プロジェクトはさらにインド政府およびNIDRR(ワシントン)の支援をうけ,Job Development Centerと呼ばれる。このJDCの基本的な目的は都市や地方に職業リハビリテーションのモデルを作ることで,これは全国レベルで再現できる。

人材養成

臨床サービスと平行して行われる重要なサービスに人材養成がある。1977年政府の全面的財政援助を得て最初の大学院レベル教員養成コースが設置された。英国のコンサルタント,Leslie Gardner,Klaus Wedell をはじめ多くの人が講演をし,西欧のモデルに沿いながらもインドのニーズに合わせたコースにする手助けをした。私の考えはサービスを分散させ,特殊教育の専門職化を図ることである。
インドでのサービス推進に努めてきたイギリスの理学療法士であり,かつ名誉書記であるPamela Stretch が2つのセラピスト養成講座を設立した。現在までに全国で300人以上の専門家が養成され,認識と経験を増すうえで大いに役立っている。

調査

処女地で仕事をするには,記録と情報の伝播が必要である。調査部門がこれを行い,またどこで新しいサービスが必要かを示す。例えば10,000家族を対象とした調査によると,障害児の63%は1ヵ月の所得が 1,000ルピー(70ドル)以下という極貧家庭の出身者である。また障害者が最も集中しているのはスラムである。

訪問サービス:スラムのリハビリテーション

我々はDharaviと呼ばれるアジア最大のスラムで働いている。スラムの住民は職を求めてボンベイにやって来た流民である。彼らの背景や宗教,カーストは多様で,病気が蔓延するなかで衛生上の配慮もなく,薄暗い貧民街に密集して非人間的な生活を送っている。盗みやけんか,ギャンブル,残虐行為の絶えないこのスラムの背景の中に,我々の障害児たちはいる。政治家や「ダダ」と呼ばれるスラムの主が飽くなき搾取を続けている猜疑に満ちた厳しい人間環境である。仕事を始める前にスラムの文化を理解する必要がある。家族に接する前にダダに勝たねばならない。平均的な家族の構成人数は5人から6人で,100平方フィート程度の家で料理をし,眠り,息をし,生きている。松葉杖から補助具,ブーツ,マットなど治療に必要なものは何でも我々の側から提供しなければならない。

農村地域のリハビリテーション

調査によると,サービスは農村の方がずっと困難なようだ。農村ではカースト制度が今だにその醜い頭をみせており,例えばバラモンという最高の階級は皮革に触れることが許されず,シャマール,シャンダルという最下層の者だけがその仕事をする。しかし,スラムや農村で知ったことだが,何百年も前からインドに存在する伝統や制度を決して変えることはできない。インド国内のへんぴな場所の障害児のために働こうと思えば,我々は不可欠の重要な資質として受容と忍耐を備える努力をせねばならない。リハビリテーションはその独自の環境の中でのみ考えられるものであって,その世界全体を変えることはできないのである。

社会的情緒的発展

私が過去の経験から得た重要な教訓は,我々のクライアントは生涯にわたる障害という困難に立ち向かうためには常に精神的なスタミナを必要としているので,彼らに情緒的社会的な安定感を感じさせることが重要だということだ。後に医者になった有名な脳性麻痺患者であるEarl Carlsonは,「成功は自分のもっていないものでなく,持っているものをいかに生かすかで決まる。」と言っている。宗教の研究や道徳学もカリキュラムの重要な部分だ。子供はある種の技能をこなすことはできなくとも他の技能は習得可能であることを教えられる。創造活動もカリキュラムの主な部分である。子供達は絵や劇,美術や工芸,スポーツなどで優れた才能を発揮し,自尊心の確立に役立つ。彼らのモットーは「自分にもできる」である。17歳になると学校を終え,大学に入って幸福感と自信を深める。
トルストイも次のように言っている。「人生で最も大切なことは人生を愛すること,苦しい時ですら人生を愛することである。人生がすべてであり,人生は神であり,人生を愛することは神を愛することであるから。」
この愛という要素は富める者と貧しい者,高い者と低い者を問わずインド全体に流れている。それが我々のサービスを異なったものにしている。私は世界中広く旅をし,専門家や高度技術設備を備えた世界でも最高と言われるセンターをいくつか見てきたが,情緒の欠けている場合が多い。リハビリテーションの過程で情熱,感情は欠かせないものである。深い苦しみの中にある者はその苦悶を克服するため愛による大きな慈しみが必要である。
サービスに一貫して流れるいまひとつの要素は道徳的・精神的なものである。現場の専門家は相応の給料を受け取ってはいないが,わずかな報酬で奉仕し働く精神を強く感じている。ここに述べたようなサービスは,感情と共感,それに専門性をもったリーダーが先駆者となってすべての主要都市で行われている。
障害者の福利のために奉仕し尽すためにこれまで数多くの人々が参加し,今後さらに多くの人々が加わっていくものと私は思う。
前途には苦難が待ち受け,道は遠いだろう。けれども孔子の言うように,「千里の道も一歩から」である。我々は既にその重要な一歩を踏み出したものと思う。

分科会SB-4 9月5日(月)16:00~17:30

先端技術と義肢装具の進歩

CHANGES IN PROSTHETICS AND ORTHOTICS WITH REGARD TO NEW TECHNOLOGY

座長 Prof.W.H.Eisma 第6回ISPO世界会議委員長〔Netherlands〕
副座長 澤村 誠志 兵庫県リハビリテーションセンター長

切断手術における最近の傾向

RECENT ADVANCES IN AMPUTATION SURGERY

澤村 誠志
兵庫県リハビリテーションセンター長

1 切断の発生原因
切断発生頻度やその原因疾患は,欧米とアジア諸国では,身体的な特性,高齢化,日常生活や栄養などによって変わってくる。欧米では切断の70%以上が血行障害,糖尿病による老人が中心であるのに対してアジア諸国では外傷によるものが多い。日本では血行障害による切断は1976年の日本リハビリテーション医学会の調査では僅か8.7%であったが最近増加の傾向にある。

2 切断部位
切断部位は,年令,性別,職業や日常生活などを考慮して選択する。近年血行障害における切断部位の選択が重要な課題としてあげられ,Xenonを用いて皮膚分散テスト,Dopplerテストなどが用いられている。老人切断の場合にはいかに膝関節機能を残して下肢切断を成功させるかがリハビリテーションの鍵をにぎっている。悪性腫瘍に対する切断術は,過去において悲観的な結果をもたらし,これに代わって最近では,腫傷を切除し,人工関節により置換する方向がとられつつあるのでその傾向につき述べたい。一般的な切断部位の選択は外科手術や義肢の適合の進歩によりできるだけ長く残存させる方向にある。特に大腿短断端は,深い全接触ソケットにより短い大腿骨のテコの長さを生かすことができ,大腿長断端では多軸膝とターンテーブルの適応により日常生活に対応することができるようになった。膝離断やサイム切断では,荷重性とテコの長さに生かした全接触型二重ソケットによりすばらしい歩行能力をもつことができる。下腿短断端で2cm以上の屈伸能力をもつケースでは,PTSやKBMソケットと大腿コルセットの適応により下腿義足としての能力を生かすことが可能である。

3 切断された筋肉をいかに生理的な緊張下に再び縫合するかが問題である。我々の家兎における血管造影,および組織学的検査による実験成績でこれを証明した。

4 術後のManagement
切断術後に断端に対してsoft,semirigidおよびrigid dressingが用いられており,それぞれの利点,欠点について述べたい。この中,どの方法を用いるかは,断端の血行障害,精神的な状態,感染,チームワークなどによって変わってくる。術直後義肢装着法,controlled environment treatmentを含めて我々の方針をのべてみたい。
上肢切断における術直後とくに,早期義肢装着法はその評価は高く,この方法の適用により義手の実際的な使用率は,著しく上昇している。

最近の義肢の発達

RECENT ADVANCES IN PROSTHETICS

田澤 英二
国立身体障害者リハビリテーションセンター学院

義肢の最終目的は切断者に快適で機能的で軽量なものを供給することである。それにより切断者が最小限の制約で,できる限り正常に近い生活が営めることである。最近の義肢の発達はめざましいものがあり,特に軽量で薄い新素材の導入,新しい哲学・概念によるソケット形状,ソケットデザイン等,また活動的でダイナミックなエネルギー蓄積型足部等がその代表である。

義肢の快適さを決定する要素としては,ソケットの形状,義肢のアライメント,ソケットやパーツの素材,パーツの機能等が重要なものとして考えられる。この中でも,切断者の体重と義肢パーツを介して床からの反力を支えるソケットが,義肢の快適さを決定するのにもっとも重要な要素である。ソケットの問題で言えば,新しい大腿義足のソケットの概念は,座骨結節で体重を支持するよりも,断端全体で体重を支持するという考え方である。この体重支持分散の概念では,体重支持面の拡張により軟部組織・筋組織での体重支持を行い切断者に一層の快適さを与えることが出来るとされる。

また,素材について見てみると,現在義肢を製作するのに使用される原材料は,従来の金属(スチール,鉄),木,皮革に代わり主にプラスチック,カーボン繊維,チタン合金,軽合金が用いられている。これらの新素材は軽量で,強度に優れ,また耐久性がある。
義足の機能には当然のことながら限界があり,多くの場合に介助を必要とせずに歩行ができる。が切断者は当然それ以上の活動の可能性を求めている。義足の限界の最大の点は歩行中のPUSH-OFFが出来ないことである。足の欠損とはPUSH-OFF機能の損失であると言っても過言ではなかろう。ここ近年において幾つかのメーカーによりEnergy Storing Foot(エネルギー蓄積型足部)が開発されている。これらのEnergy Storing Footの機能は,切断者により自然の歩行を与えるだけでなく,より活動的な動きを可能にしている。例えば走ることである。
これらの最近の義肢の発達により患者は快適で,機能的で,軽量で,外観の良い義足を使用することができるようになってきている。言うには及ばないが,常に新しい開発が行われ,切断者達に失われた機能を義肢の装着により補うことが可能である。そのためには当然のこととして新素材・新義肢パーツ・新ソケットデザイン等の開発が望まれるが,それと同時に義肢を製作する工程においての進歩が必要である。

義肢装具の製作のためには患者の障害部の二次元的,または三次元的な計測が必要である。現在の義肢装具の製作のための計測はテープメジャー,投影図,採型ギプスが主体であり,正確なデータを得ることは大変困難である。熟練した義肢装具士は機械的な正確さまで得られない情報・計測値を彼らの経験と勘で補っている。しかし,そこに到るまでに相当の年月と失敗が必要となって来る。
ここ近年において他の工業界で開発され実用化されているCAD-CAM(Computer Aided Design-Computer Aided Manufacturing)の導入が行われ,義肢装具の業界でも実用化されつつある。
患者への触診,接触なしに,機械による計測(シルエット計測,レーザー光線,超音波測定,物質測定等)を行いコンピュータで計算させて,その結果をコンピュータにより製作機に指示を与え製作するというものである。現在の時点では,いまだ一般的に使用されてはいないが,急速に進歩しているのが事実である。

今までに述べてきた例のように,障害者のより良い生活のための開発が,義肢装具の分野で日々進められていることを報告いたします。

側彎の体幹装具

SPINAL ORTHOSIS FOR SCOLIOSIS

M.K.Goel and A.K.Agrawal
Rehabilitation and Artificial Limb Centre.Lucknow.India

脊柱変形に対する意識の高まりとこれらの早期発見により,多数の側彎患者が若年の頃より治療を受けるようになった。
今日でもミルウォーキーブレースは骨成長期の軽度な機能的側彎の保存的療法として効果ある方法であるが,装着による不快感,患者の拒否,製作にかかる時間等の問題がある。しかし,頚椎,体幹の側彎については最良の体幹装具である。上記のミルウォーキーブレースの問題点を補うためにいくつかのプラスチック製のアンダーアームブレースが開発された。理想の装具は軽量で,美観的で,患者の受け入れがなければならない。空気の流通をよくし簡易で迅速に製作でき,しかも成長に合わせ簡単に調整できなければならない。また,適切に変形を矯正し保持できなければならない。
今は,パサデナのLexan Jacket,PVC装具,オルソプラストジャケットとか,ボストンブレースが存在している。これらの装具は強固な支持を持ち,腰椎カーブ,胸腰椎カーブの矯正にも役立つ。これは成長期の側彎のカーブの進行を防ぐ。この装具は前面では胸骨から恥骨結合まで,外側では腋窩より大転子近辺まで,また,後面においては上胸部より殿筋シワまでの長さである。これらのアンダーアーム装具T.L.S.Oは頚胸椎カーブには適していないし,また長期使用によって,すでに機能が低下している子供達の心肺機能を制限する欠点がある。

低温熱加塑性プラスチック体幹装具

近年,我々は体幹装具に低温熱加塑性プラスチックを使用している。このプラスチックは2~5mm厚で穴あきのピンク色である。このプラスチックは60℃の水を含むトレイの中で透明になり,軟化し,弾性を持つ。それにより脊椎の最大矯正位で簡単に直接モールドでき,矯正位を保った位置で冷却し硬化する。もしその後に修正が必要な場合,再加熱して修正することができる。この材料には弾性の性質がありモールドするために必要な長さまで引き伸ばす事ができる。また,加熱されたときに元の形状にもどるという記憶の利点がある。これにより成長期の患者に合わせ修正できる。また加熱された時にマジックテープ,テープ等が自動的に接着される利点もある。大変美観的であり,軽量,快適である。オス,メスの種型等を作る必要がなく直接体幹上にモールドできるので,迅速かつ簡単にできる。その他の大きな利点は内固定,骨癒合の手術後に Risserギプスジャケットの代わりに脊椎の固定に使用できることである。

観察

アンダーアーム使用の30例の側彎を注意深く観察した。2~16歳の年齢で女性16人,男性14人の患者である。先天性12人,特発性9人,麻痺性9人の矯正率は68%から37%の間で中間の矯正率は52.9%であった。治療期間は2。5年で頂椎T7-L2のメジャーカーブが最も良い結果であった。患者は装具を一日23時間装着する。水泳,ダンス,その他の運動活動時には,はずすことができる。成熟後しばらくは就寝にだけ装具を装着する。装具の離脱は骨成熟後で,頻繁なX線像の観察をした後である。部分時間装具装着はフルタイム装具装着と効果は同じようである。装具による矯正は回旋の矯正には特に効果がない。理学療法プログラムを組み込むことは体幹の筋力強化,アクティブな矯正を推進する上で必要である。

どんな装具が必要か?

胸椎,胸腰椎,腰椎のシングルカーブで頂椎がT7以下の場合にアンダーアーム装着される。頚胸椎,上部胸椎カーブの場合はミルウォーキブレースが効果的であり,また心肺機能への障害が少ない。

だれに装具をつけるか?

20°以下のカーブの場合オブザーベションにすべきである。20°以上で特に30°以上のカーブには装具が処方されるべきである。思春期で50°以上のカーブに対しては装具の効果は少ない。

装具は生涯的な矯正をするか?

アンダーアームブレースは使用されてから余り時間が経っていないので,長期結果はでていない。30°位のカーブの場合は装具離脱期にある程度保持されている。ミルウォーキーブレースは生涯的な改善があると考えられていたが,最近の研究では生涯的な改善はなくなったと示されている。
将来,我々は患者に受け入れられ,美観的で生涯的改善をする側彎用の装具を開発しなくてはならない。低温熱加塑性プラスチック装具は軽量で,美観的であり,カーブの矯正があり,直接体幹にモールドできる。もしこの見込みどうりであれば,このことは側彎の装具において大きく一歩前進したことになる。

義肢装具に関する作業療法

OCCUPATIONAL THERAPY IN PROSTHETICS AND ORTHOTICS

V。Angliss
Veterans' Affairs,Central Development Unit,Kew,Melbourne,Australia

義肢は切断者にとって最終的な問題解決法ではない。切断肢や,障害肢を持つ患者が義肢を使いこなし,独立ができ,最適な生活を得るためには作業療法(以下OTと略す)による訓練が要求される。このことを遂行するためにセラピストは義肢の最新の材料,その他の器具についての詳細と,人間関係を深く理解しなければならない。肢体不自由児とその家族が早期に専門家チームに紹介されることは重要であり,また不可欠である。
デビーは両側上肢無肢症(アメリア)と両側大腿骨近位限局性欠損症(P.F.F.D)という先天性奇形を持って生まれた。幼児期よりデビーと両親はOT部に通院し,デビーは両親の精神的なサポートといろいろな遊びの状況の中で足を使うことを奨励された。2歳時には,右の体内力源の義手を与えられ,OTにおいておもちゃを持ち上げる,楽器をたたく,義手をつっかえ棒として座る,また立つために自分自身を引き上げる等の動作の訓練を受けた。
5歳時には,左は体内力源,右は体外力源の義手を与えられた。デビーは通学中は義手を常時使用し,帰宅すると義手をはずし,足を手の替わりに使用した。学校の休み中はOTに通い,日常生活動作(ADL)における動作:髪を整えたり,生理の処理,お化粧,タッチタイピングを足で行う訓練を義手の装着時,脱着時の両方で受けた。彼女と両親はいつでも問題が起こった時はセラピストに気軽に相談する。デビーは現在,タイピスト兼受付業務をしている。また独立してアパート生活をし,足と肩コントロール付の車を所有している。
患者にとっての最適の補助装具(義手)の材質の選定,デザインは熱意あるOTにより各個人向けに作られた訓練プログラムによって大きく助けられるものである。小児の訓練プログラムは長期でしかも家族ぐるみである。両親は助けを得て,深い悲しみと“完全で生まれて来なかった子供”に対する喪失感を克服し,また自分達の子供が障害児であるが,義肢の存在により普通の子供として扱われることを受け入れられるようになる。
成人の上肢切断者,腕神経叢麻痺患者はすぐに専門家チームに見てもらわなければならない。成人の訓練を行う場合には必ず義肢が適切に処方され,チェックはそれぞれの専門家によって適切に行われなければならない。
また,患者は熟練したOTにより個々に訓練を受けなければならない。成人の義肢の訓練は明確に提示されており,コントロールは短期間でマスターでき,習慣的に訓練と使用が続けられなければならない。
義肢が効果的に使用されるためには,この訓練は毎日終日行い,最低2週間は必要となる。成人の場合,時としてリハビリテーション期間が長過ぎることがある。満足できる生活にできるだけ短期間で戻れることを強調すべきである。
下肢を訓練するOTはベッドより車いすへの移乗,トイレ・シャワーシート・シャワー椅子の使用,座位,起立動作,車いす作動,衛生管理,衣服の着脱,そしてバランスが要求され,作業耐性が増強されるような立位動作等。さらに,これらは家庭内,仕事場での調整が必要となる。
機器は手の代わりとはならないが,なんらかの機能の代償にはなりえる。しかし最大の欠点は感覚が得られないことである。

 上腕義手,腕神経叢麻痺,上肢スピリットフック使用患者のOTは以下のことが要求される。
  1. 仮義手を切断後早期に装着することにより,両手動作を続けることができる。さらに切断創傷の治癒,心理状態の援助,早期の本義手の装着
  2. 患者の義肢装着指導
  3. “訓練のコントロール”および“訓練の活用”により訓練の習慣付けをする。そのために障害児の各発達時期に合わせてミーティングをし,またこのミーティングを成人生活,仕事場へと引き続き行うことを含む。
  4. 義肢装具装着時,脱着時のADL訓練
  5. 適切な衣服をデザインする。
  6. プログラムに家族,親戚,雇用者,あるいは関連あるコミュニティサービスの担当者を参加させる。
  7. 患者の家庭,職場の調整
  8. 患者の社会心理的ニーズへの対応の援助
  9. レジャー,レクリエーション活動への参加を勧める。

目的は患者が日常生活,食事,排便,更衣,おむつ交換,料理,移動,スポーツ,レジャー活動,労働ができることである。
装具の装着なしでも出来る動作も教えられていなければならない。他の同様な障害を持つ人との接触も勧める。グループ活動により患者と家族は相互に助け合える。
訓練は患者が社会的,性的,そして個人的に発展的な活動ができるようになって完成するものである。
デビーにとって,それはオーストラリアの原野を6,000 km車で走り,12ヵ月の海外生活を送ることであった。

最近の装具の進歩

RECENT DEVELOPMENT IN ORTHOTICS

渡辺 英夫
佐賀医科大学 整形外科

最近我々が開発した装具について紹介する。

1.側彎症に対するunder arm brace(佐賀式)
側彎症の装具治療として,最近under arm braceが全世界的に用いられているが,我々は牽引圧迫装置を取付けたunder arm braceを考案し,臨床応用の結果を 1983年発表した。本装具はunder arm braceの内側に胸椎パッドがあり,ケーブルで牽引することにより,助骨隆起を間歇的に圧迫し,カーブを矯正する構造になっている。
この牽引圧迫装置付under arm braceの特徴は,1 under arm braceの矯正効果に加え,装着のまま助骨隆起部の間歇的な圧迫ができ,一層の矯正効果を得ることが出来る。2間歇的圧迫矯正は,日常の着衣状態で衣服のポケットを通して簡単にでき,外見を損なうことはない。
本装具の適応は,通常のunder arm braceの適応と同様である。

2.すぐ装着できる装具
現在の我が国における装具療法の問題点は,装具を処方してから製作・完成までに,1~2週間を要し,時には治療の最適の時期を逸することである。これに対し我々は,治療上装具が必要なときに,患者に直ぐ装着させることが出来る装具として,即席装具(医療用仮装具)と組立式装具を考案した。即席装具は,低温加工用熱可塑性プラスチックとプラスチック継手を主材料として,必要なときに主治医が簡単に製作するものである。我々は上肢装具,下肢装具,体幹装具を即席で製作している。組立式装具は,患者治療上装具が必要な時に,ユニット化した材料を組み立てて,直ちに完成させるものである。これは,調節性に富み,他の患者にも共同使用することが出来る。
考案した組立式装具は,膝装具,短下肢装具,体幹装具,手関節・手指装具である。臨床応用の結果,現在のところ好結果が得られている。

3.Saga platic AFO
プラスチック製短下肢装具は,世界的に多くのタイプが発表されているが,これらは大きく分けると,rigid ankle タイプとflexible ankleタイプがある。我々は装具歩行を生理的歩行に近づけるためにも,可能な限りflexible ankleタイプが好ましいと考えている。
この条件を備えたプラスチック製短下肢装具として,我々はSaga plastic AFOを考案し,種々の足関節機能障害を有する患者に用いた結果を1985年発表した。本装具はポリプロピレン製で,たわみ足継手が両側にあり,足関節は背屈・底屈の両方向に円滑に動く構造を有している。また,たわみ継手は破損を防ぐために,断面がコの字型の特別な構造としている。
本装具を脳卒中片麻痺,腓骨神経麻痺,脛骨神経麻痺などに用いたが,1装具の継手軸が生理的足関節軸に一致する,2装具の側方安定性が良く,Tストラップも取付けることが出来る,3背屈と底屈の両方を制御できる,4たわみ足継手の強さは,製作時に手加減できる,などの特徴がみられた。

〔参考文献〕

  1. 森永秀和,渡辺英夫:側彎症に対する能動的矯正装具。日本義肢装具学会誌,2,159-165,1986。
  2. 渡辺英夫:すぐつくれる装具《即席装具の試み》。別冊整形外科,No.4,南江堂,1983。pp.211-215,東京
  3. 渡辺英夫:下肢装具最近の進歩。整形・災害外科, 30,1305-1315,1987。
  4. 渡辺英夫:上肢装具の現状と問題点―手関節・手指装具について―。日本義肢装具学会誌,3, 145-152,1987
  5. 渡辺英夫,他:側方たわみ足継手付プラスチック制短下肢装具(Saga plastic AFO)について。日本義肢装具学会誌,2,27-33,1986。

分科会SB‐5 9月5日(月)16:00~17:30

東洋医学とリハビリテーション

ORIENTAL MEDICINE REHABILITATION

座長 丹沢 章八 七沢リハビリテーション病院脳血管センターリハビリテーション部長
副座長 Prof.Yang Wei Yi The Department of Medical Administration.Ministry of Puplic Health〔China〕

東洋医学とリハビリテーション

ORIENTAL MEDICINE HAS A DEFINITE SIGNIFICANCE IN REHABILITATION MEDICINE

丹沢 章八
七沢リハビリテーション病院脳血管センター

東洋医学とリハビリテーション医学(以下リハ医学と略)とは,本来全く関係のない独立した臨床医学であることは言うまでもない。発生の歴史は,前者は古代中国で経験医学が集大成されたものとして誕生し,後者は西洋医学を母体として近代ヨーロッパで誕生したものが,後に現代アメリカ医学に引き継がれて発展・体系づけられたもので,それぞれが次元を異にする独自の医学的世界を構築してきた。しかし臨床医学としての両医学には,意外にも多くの共通性を見出すことができる。
その一つは,それぞれが持つ基本的な医学的理念が極めて近似していることである。
リハビリテーションの対象は障害であり,リハ医学の対象は障害者である。そしてその障害のとらえ方は,部分的な障害にとらわれず,障害がどうして発生したかと言う原因の追究よりは,むしろ将来へ向けて,その障害者が持っている能力の可能性を探求することに重点を置き,絶えず障害を全人間的なレベルでとらえてゆくことが特徴である。
一方東洋医学における病態のとらえ方を見ると,個々の症状に固執することなく,症状の集合体を大きな症候群として把握し,その症候群を持っている人間個体の反応性―生活環境・習慣から体質にいたるまでの多くの背景要素を含む―を洞察し,常に全人間的なレべルから病態を眺め対処するという一貫した診断・治療体系に大きな特徴がある。
このように,両医学ともに病態に対する認識とそのとらえ方の姿勢は,個々の症状もしくは障害にとらわれず,それらを内に蔵した人間個体に重点を置くことであり,その姿勢を支える両医学の医の基本的理念には,とかく専門分化した現代医学にありがちな,人間あるいは人格不在の医学ではなく,いわば全人間的復興を目標とするところに強い近似性が指摘できる。
二つめは,病態(障害)に対する対策の考え方に近似性がある。
リハ医学の,障害に対する対策の基本的な考え方は,まず極力,障害の程度を軽減することであるが,不幸にして障害が残ってしまった場合には,障害をもった人間個体としての能力を最大限に高め,障害者として社会に対し人間的な適応が果たせることに重点が置かれる。つまり人間個体まるごとの機能向上が対策の考え方の主眼である。
東洋医学の病態に対する対策の考え方は,個々の症状ならびに症候群に対する対策と並行して,個体の抵抗力や活力を増大させることに,より重点が置かれる。前者を標治的,後者を本治的な対策と呼ぶが,この本治的な対策が標治的な対策と必ず並行するか,時には優先して行われることが特徴である。
つまり両医学ともに,病態あるいは障害に対する対策の基本的な考え方は,個体全体の機能の向上に重点が置かれていることに共通点が見出される。そして対策がめざすところは,人間個体が本来的に保有する自然療能力を賦活すると言うところに,近似性がある。
三つめは,対策の構造上(治療方法論)の近似性である。リハ医学の,障害に対する対策の構造は,理学療法―運動療法と物理療法―,作業療法等が大きな柱となって構築されている。
東洋医学の病態に対する対策は,身体の外部から主として物理的刺激を与える外治法と,内服薬による内治法(湯液療法)で構成されている。外治法はリハ医学の理学療法にほぼ匹敵するもので,広義の運動療法と物理療法を含む。運動療法には鳥・獣の動作をまねた体操(五禽戯)や太極挙,気功,他動運動とマッサージとが合体した推掌という手技等があり,物理療法は鍼灸療法が代表的なものである。
リハ医学の理学療法と東洋医学の外治法とでは,具体的な内容と手段には相違があるが,皮膚や筋肉に存在する末梢の感覚受容器を刺激して,運動神経系,知覚神経系や自律神経系に促通効果を期待するという治療方法論に近似性が見られる。
以上,幾つかの点について両医学の近似性を指摘したが,これらの近似性を基盤にして考えると,臨床場面での両医学の結合は新しい治療医学の創造に繋る可能性を秘めているといっても不自然ではない。今後両医学が接触の機会を多く持ち,お互いが影響しあうことによって,障害(病態)に対して有効な新しい医学的対策が誕生することが望まれる。
東洋医学とリハビリテーションというテーマは,リハビリテーション世界会議には始めて取り上げられたテーマであり,日本での本会議に,このテーマを討議する分科会が設けられたことは誠に意義深いものがある。本分科会の位置づけは,障害に対するアプローチの充実に向けて,活用の可能性があるさまざまなメディアの統合を目指す一連の作業の流れの中にあるものと考えられる。その流れの中にあって,演者の方々からは,リハビリテーションに対して果たしうるであろう東洋医学の貢献度の現状と将来の可能性等につき,示唆に富むお話がいただけることを期待している。

リハビリテーションへの鍼灸の応用

APPLICATION OF ACUPUNCTURE FOR REHABILITATION

西條 一止
筑波技術短期大学 筑波大学理療科教員養成施設

1.物理療法としての鍼灸の位置づけと特徴
物理療法としての物理的エネルギーを身体のどこに与えるかによって,以下の分類ができる。
  1. 全身療法:全身に物理的エネルギーを与える。
  2. 局所療法:訴えの部に与える。
  3. スポット療法(鍼灸など):軽微な物理的刺激を用いて,経験的な知恵をも含めた生体の種の機構を活用し,効果的な生体反応を期待しようとするものである。局所療法との違いは,治療の部位が必ずしも訴えのある部とは限らないことである。
2.鍼灸の効果と限界
  1. 器質的障害に対して
    血液循環を改善する,筋緊張を緩和する,などのことによって障害を起こした局所における細胞自身が持っている再生力を発揮しやすい環境をつくり自然治癒を高める。従って,再生力を超える病気の悪化力を持つ状況では,これだけで改善を期待できない。
  2. 機能的障害に対して
    鍼灸は,刺激として作用し,生体機能に変化を生じさせる。鍼灸によって生起された生体反応は,多くの場合,恒常性保持機能によって調節されていると考える。従って,恒常性機能が低下している時には刺激の与え方に高度な技術が必要となる。
3.鍼灸の効果の具体例
  1. 運動器疾患
    日本において鍼灸治療を受けている患者は,運動器の痛みを主訴とする者が圧倒的に多く,およそ90 %と考えられる。腰痛症は第1位である。昭和60年度の国民健康調査の資料では,腰痛症の患者の24%が鍼灸,マッサージなどの治療を受けている。
    治療効果は,1970年代の10年間における我が国の雑誌に報告された腰痛症に関する研究論文20編のものを総合すると,治癒,著効,優など著しく良い効果があったと考えられるもの46.8%,有効,良好などまで含めると81.6%に効果があった。
  2. 内臓器疾患
    ・習慣性扁桃炎の発熱予防に対する鍼電極低周波通
    電療法
    図に示す部位(合谷,孔最)の左右4カ所に電極としての鍼を刺し,1Hzの低周波通電を20から30 分間行う。1週間に1回で3週間連続で行う。発熱の予防については80%に効果を認める。治療の直後効果としては,咽の痛みには著効があり,治療直後に牛乳やジュースを飲めるようになる。

    図 電療法(合谷,孔最)

  3. 体調を整える
    体調を整えることが鍼灸治療効果の基本であると考えている。ここに健康の維持,増進,スポーツ分野におけるコンディショニング,リハビリテーションにおける基礎療法などとしての意義がある。そこで鍼の自律神経機能への影響を検討した。
    ・鍼と自律神経機能
    刺鍼時に心拍数が減少する。およそ心拍数の10%前後の減少が見られる。全身各所への刺激で減少する。個体差,季節差がある。
    この刺鍼による心拍数の減少は,自律神経機能とどのようにかかわるのかを自律神経遮断剤を用いて検討した。アトロピンにより副交感神経を,プロプラノロールによって交感神経を各々遮断した。
    交感神経機能を先に遮断し,続いて副交感神経機能をも遮断した。遮断剤を用いる前に見られた心拍数の減少は,交感神経機能遮断時においても見られた。しかし,副交感神経機能をも遮断すると心拍数減少は見られなかった。このことは,交感神経機能のみ遮断した時の刺激による心拍数減少は,副交感神経機能の高まりによって生じたことを示している。また,先に副交感神経機能を遮断した実験での心拍数減少は,交感神経機能の抑制によって生ずることがわかった。
    以上のように刺鍼による心拍数減少は,交感神経機能の抑制と副交感神経機能の高進によることがわかった。このような刺鍼の自律神経機能に与える影響が体調を整える効果の基調となっているものと考えている。

4.まとめ
鍼灸はリハビリテーション分野において,種々の運動器の障害を予防,治療し,内臓器の機能を整え,リハビリテーション効果を高める基礎療法としての価値が高いと考える。

脳卒中リハビリテーションにおける東洋医学の応用

―日本における針治療について―

APPLICATION OF ORIENTAL MEDICINE APPROACH TO REHABILITATION OF CEREBROVASCULAR ACCIDENTS PATIENTS:MAINLY ACUPUNCTURE IN JAPAN

福田 道隆,松本 茂男,近藤 和泉,荒井 久典,安田 肇1)
丹沢 章八2) 目時 弘文3) 永山 隆造4)

日常の各種疾患に対するリハビリテーションの中で脳卒中を取り扱うことが非常に多い。日本における1987 年人口動態統計では3大死因として悪性腫瘍158.4(人口10万あたり),心疾患117.8に次いで脳卒中106.9と報告され,脳卒中は依然として死亡の大きな原因となっている。特に東北地方は従来脳卒中の多発地帯といわれてきた。
例えば青森県では1986年の調査で人口1,524,442では脳卒中患者は14,899(0.98%)で102.3人に1人が脳卒中患者ということになる。そこで今回は脳卒中リハビリテーションにおける針治療の応用について日本の実情について報告する。

1)弘前大脳研リハビリテーション部門 2)七沢リハビリテーション病院 3)黎明郷リハビリテーション病院 4)常磐会病院

1.脳卒中リハビリテーションに対する針治療の臨床応用
脳卒中発症の結果一次症状として運動麻痺,知覚麻痺,膀胱障害,失語症,知的精神障害,二次症状として各種の過動および寡動に伴う合併症,例えば疼痛,拘縮,変形などがある。これらの機能障害の治療手段として物理療法,運動療法などがあるが,針治療も用いられている。
現在リハビリテーションにおける針治療の果たす役割について種々の考え方があるが,要約すると,

(1)針治療の方法

A B
体針、頭針 体針、TENS、電気針、灸、その他

(2)対象症状と病院

A(118) B(639)
片麻痺         46 麻痺           122
肩関節痛 27 肩痛 193
排尿障害 14 頻尿 5
失語症 13
異常知覚 10 異常知覚 75
頭痛 4 頭痛 10
三叉神経痛 3 三叉神経痛 1
麻痺肢痛 1 四肢痛 81
腰背痛 55
膝痛 19
項部痛 12
その他 66

(3)主な成績

著 効 効あり 無効 悪化
A B A B A B A B
運動麻痺 4.9% 13.0% 56.4% 80.4% 58.4% 6.5% 1.0%
肩関節痛 2.4 55.6 77.2 37.0 20.7 7.4
排尿障害 23.1 29.6
失語 30。8 69。2
異常知覚 38。7 10。0 58。7 90。0 2。7
頭痛 2。5% 50。0 25。0
三叉神経痛 66.7 33.3
四肢痛 2.5 74.1 10.0 23.5
腰背痛 7.2 78.2 14.5
膝痛 5.3 68.4
  1. 運動麻痺そのものを回復させるため
  2. 物理療法やマニピュレーションと同じような治療の一手段として用いる
  3. 疼痛の軽減を図り,後に行われる運動療法を効果的にさせる
  4. 痙性麻痺のファシリテーションなどである。

今回の共同演者の丹沢(七沢リハビリテーション病院:A)目時(黎明郷リハビリテーション病院:B)が報告した針治療成績を中心に述べる。
(4) 以上の結果から丹沢は疼痛に関連症状に対して 78.3%,片麻痺関連症状は46.2%に有効であると結論づけている。
(5) 臨床応用に関する考察
脳卒中リハビリテーションに針の役割として前記の4つがあげられているが評価を正確にするためには脳卒中の機能障害をはっきり分類する必要がある。

機能障害 陽性微候 陰性微候
四肢運動障害 痙性 強剛 失調 不随意運動 弛緩
四肢知覚障害 異常知覚 脱失、鈍麻
膀    胱 頻尿 失禁 排尿困難
失    語 ジャルゴン等 運動性失語
高次脳障害 過剰覚醒 覚醒低下

陽性徴候には抑制が,陰性徴候には促痛刺激が必要である。

 針治療もこのどれに有効であるかを検討する必要がある。また
  1. 針治療の開始時期,終了時期
  2. 手技(方法)
  3. 針治療の施行する場所(患側,健側のいずれか)
  4. 効果の判定(何回で判定するか,終了後いつ判定するか)
  5. 効果の評価基準の統一

など考慮する必要がある。

2.日本における脳卒中針治療に関する研究
EMG,SEP(Somatosensory Evoked Potential), CNV(Contingent Negative Variation),サーモグラフィ,SPECT(Single Photon Emission CT),S SR(Sympathitic Skin Response),関節造影,生化学的研究と針治療との関係についての研究が行われておりそれらについても報告する。

漢方薬の薬理

―高齢者の全身状態―

PHARMACOLOGICAL BASIS OF KAMPO-HERBAL MEDICINE-GENERAL CONDITION OF ELDERLY PATIENTS-

丁 宗鉄(J.C.Cyong)
北里研究所附属東洋医学総合研究所

目的

今日の西洋医学の立場からは,すべての医薬は科学的に薬効評価されるべきである。漢方薬とて例外ではない。いくら長年臨床的に使われてきたからといってもそれだけでは治療薬としての基準をクリアしたことにはならない。そこで漢方医薬の有用性を高齢者の免疫能,精神障害の観点から検討し直してみた。

対象

漢方薬の老人疾患,特に非特異的免疫能での影響をみるため3つの処方を選び検討した。64歳以上の264 人の志願者を老人ホームから募り,任意に4つのグループに分けた。それぞれのグループに八味地黄丸,小紫胡湯,抑肝散,八味地黄丸の10分の1含有する偽薬を投与した。
これらの処方は正常ではほんの弱い作用しか示さないことがすでに知られている。そこで,免疫系を刺激するためインフルエンザワクチンを接種し,血液生化学以下諸検査を服用直前,ワクチン接種後1ヵ月,2ヵ月目にそれぞれ行なった。

結果

総血清免疫グロブリン値は対照と抑肝散では1ヵ月,2ヵ月と下がり続けるが,八味地黄丸と小紫胡湯では2ヵ月目には元の値に近く回復した。
血清総補体価は溶血活性を検討した。抑肝散と対照では2ヵ月後に有意に高まり,2ヵ月目には対照よりも高くなった。
補体系は生体防御に重要な役割を担っている。たとえば,免疫複合体の処理や炎症など特異的,非特異的免疫反応に関係する。従って活性のあった2つの処方は生体の免疫学的監視機構に影響を及ぼすものと考えられる。

ADL評価

本試験中日常生活の評価を行なうと,八味地黄丸服用者などの間で改善がみられた。八味地黄丸の日常生活評価点数は安定しており,次第に低下してゆく対照グループとは明らかに差が認められた。
日常生活の総合評価は,医療スタッフによって評価される以下の諸項目の総合である。排便,排尿,入浴,会話,更衣,食事で,これらの評価は介助の程度によって点数化される。これらのうち,排便と会話に特に八味地黄丸は有効である。
免疫系の異常が痴呆の進行に関係しているとの報告がある。八味地黄丸も免疫系に作用をもつことが明らかで,しかも老人性痴呆の改善に有効であることが示唆された。

考察

この25年間,多くの抗生物質の投与にもかかわらず,日本における70歳以上の老人の肺炎による死亡率は減少していない。これは,抗生物質にたよる治療に限界があることを示している。
老人の感染症の一つの特長は免疫能低下に伴ういわゆる日和見感染である。
漢方薬には抗体物質としての活性はほとんどみられないが,それでも感染に有効なことがあるのはそれは宿主の免疫系に作用するからと考えられる。
また,漢方薬が病的状態ではじめて作用を示すことも特記すべきことである。異常でも正常でも一定の作用を示す西洋薬とのちがいはここにある。
西洋薬は強力で生体の恒常性の悪化を食い止める強いモーメントになったり,また悪化のつっかい棒になる。しかし,それは副作用をもたらすことがある。一方,漢方の作用は緩和と生体の本来備わっている自然治癒力を促進活性化する方向で作用する。
従って,漢方薬は老人の全身状態の改善に有用と考えられる。

リハビリテーションにおけるヨガの応用に関するチェコスロバキアの経験

CZECHOSLOVAK EXPERIENCE WITH APPLICATION OF YOGA IN REHABILITATION

Jiri Votava
Clinic for Rehabilitation Medicine,Czechoslovakia

先進国ではこの数十年間,ヨガへの興味が着実に伸びてきた。ほとんどの人は健康上の理由からヨガに出会う。チェコスロバキアでは,医学界でヨガに興味を持つ人々が協力して,1977年にチェコスロバキア・リハビリテーション医学会の一部としてリハビリテーションにおけるヨガ応用委員会を設立した。この委員会の設立が適切であると考えた主な理由は次の3つである。

  1. 我々自身がヨガの訓練で得た好ましい経験
  2. ヨガと現代のリハビリテーション医学の原則や目的の中に驚くほどの類似点が認められること。つまり,
    • イ)ヨガもリハビリテーションも患者(信奉者)の積極的な参加が必要なこと。患者は少なくとも自分の健康にある程度責任を持たなければならないこと。
    • ロ)ヨガもリハビリテーションも患者(信奉者)の全身に影響を与えようとすること(体の一器官ではなく)。
    • ハ)どちらも治療より予防を優先すること。
  3. 委員会を設置した3番目の理由は,従来の医学の治療では完全に治癒させたり,また積極的な満足できる生活に快復させることが出来ない患者の割合が高いことである。

委員会の350人の委員は主に医者と理学療法士であるが,我々と共同で研究することに興味を持っている経験のある選ばれたヨガ教師も含まれている。医師の中にはリハビリテーション医学の専門家だけでなく,ヨガ体操のメカニズムに関する研究を行っている生理学者や精神科医,その他の専門医師も含まれている。過去11年の間に,委員会は4つの国際会議と数多くの講座および研究会を開催した。我々はインドや中央ヨーロッパのチェコ周辺諸国,北欧,その他海外で同じような問題に興味を持っている人々とも連絡を取ってきた。委員会に属する会員は,ヨガ体操またはヨガの要素を患者の治療に応用している。
我々にとって,ヨガは有機体の肉体的,精神的機能をよりよく管理するための経験に基づいた方法である。そのため,神秘主義や宗教と直接結びついてはいない。古代の教典に書かれたヨガの伝統を利用したり,有名なヨガ教師(主にインド人)の経験を学ぶこともするが,我々のヨガ体操のシステムはリハビリテーション医学に実際に利用するために,また現実の医学的アプローチに合うように修正されている。この2つのシステムの主な違いは,医学は解剖学的検査結果が起点となり,ヨガは主観的感覚がすべての起点となることである。
そのために,それぞれのヨガ体操(正確にはハタヨガ)のメカニズムを客観的に分析することが非常に重要である。それによって得た結果に従って,その後の治療に異なるテクニックを利用することが出来る。この分野で最も活躍している研究グループは,チェコスロバキア科学学会のC。Dostalek他(Lepicovska,Rol dan)である(1982,1984,1987)。彼らはヨガの達人を研究に採用して,腹部と呼吸器の運動の間の心電図 (EKG),脳波(EEG),および呼吸運動の変化を記録している。「ナウリ」体操の間に脈拍数が低下するのは,訓練の結果身についた相対的交感神経遮断術と調節過程の高度な安定性によるものと解釈されている。ハタヨガを行っているときに,Xiリズムと呼ばれる脳波の新しい現象がみられるが,これは意識の状態が変化したことと関係があろう。

リハビリテーション医学診療所で,我々はヨガ技術の一部を選び,筋電計(EMG)を使用してその分析を行っている。ヨガのポーズ(アサナス)はEMGの記録から,イ)完全な弛緩,ロ)筋肉の部分的な収縮,ハ)筋肉の最大限の収縮の3つのグループに分けられる。ヨガ体操を行ううちに筋肉をよりうまくコントロールする方法を身につけることができ,EMGバイオフィードバックとして知られるものに似たメカニズムをヨガの練習の中に見い出すことができる。それぞれの練習の生化学的分析から,ポーズ時におけるさまざまな力のバラスンと,筋肉の伸張の効果,および姿勢が細かく変化するのに伴う重力の変化が分かる。また我々は,からだの重心の変化を測定し,この方法によってそれぞれのポーズの安定性を評価した。ヨガの特徴は筋肉の弛緩にあるが,それを記録するのはもっと難しい。
ヨガ体操の伝統的な分類法では,異なる正確のテクニックを一つのグループにまとめているが,我々の新しい分類は,生理学的方法を基にして次のように分けている。

  1. 準備体操:ゆっくりと抑制した動きが止まることなく続くのが特徴。
  2. ポーズ(アサナス):必ず静止状態が入る(静止段階)。これがさらに弛緩アサナス,瞑想アサナス,矯正アサナスに分けられる。
  3. 単純な呼吸運動:呼吸の休止は入らない。
  4. プラナヤマ:伝統的な体操,呼吸の休止が必ず入る。
  5. 部分的体操:新しく提案されたグループ。伝統的にはムドラスとバンダスと呼ばれる体操がこれに含まれるが,一部のクリヤスもこれに含まれる。さらに使うからだの部分によって,イ)口と喉,ロ)腹部,ハ)会陰部,ニ)目,ホ)手と細かく分けられる。
  6. 浄化手続き:クリヤスがこれに含まれるが,身体以外の材料(水,布,cateter)が使われた場合に限られる。
  7. 精神の体操:弛緩,集中,瞑想に分けられる。

倫理的アプローチと食餌療法もヨガの伝統の重要な部分であるが,通常はあまり強調されていない。
修正されたヨガ体操は,チェコスロバキアの一部のリハビリテーション部門,温泉サナトリウム,その他の医療機関での治療に利用されている。そのような機関では,医師または理学療法士がこの方法を実地に知っており,通常は,患者を小グループに分けて治療を行っている。その他の医師は個々の技術を患者の健康問題に合わせて推薦している。
個々の体操の治療効果を客観的に証明することはたやすいことではない。効果は複雑であり,言い替えれば身体のいくつかのシステムに影響を与えている。ヨガ体操は多くの体操からなり,それぞれの体操の効果が互いに補完し合っている。運動を行う人はヨガ体操に対して積極的な姿勢をとらなければならず,それがその人の評価の客観性を左右することもあるからである。
体操が個々の器官にある程度明確な影響を与え,また身体全体と精神に漠然とした効果を与えていることは疑いない。ヨガから得られる特有の壮快さは,筋肉と精神の弛緩,求心性の変化,自律神経の調子の変更等から生じる漠然とした効果から生じるものである。そこで,ほとんどの慢性病患者や障害者に,適当に修正したものが推薦できる。その複合性,積極的な内的動機付け,およびほとんどどこでも練習できるという点から,行動療法における有効な方法となっている。
我々は慢性の腰痛患者や神経症患者のグループ,および心臓病患者のための二次的な予防法としてヨガ体操を利用している。またアルコール依存者やその他の薬物依存者の治療の補助的手段にもなっている。多発性硬化症患者の自助グループでも一般的に利用されている。また喘息患者,癌患者,および車いすの障害者グループにも応用されている。
高齢者もヨガの練習を続けることができるだけでなく,易しいヨガの技術から習い始めることさえできる。我々は微細脳損傷児に修正したヨガ体操を行うことも長年経験してきており,よい結果を得ている。

〔参考文献〕

  1. M.V.Bhole:Abstracts and bibliography of articles on yoga from Kayvalyadhama.192pp, 1985,Kaivalyadhama,Lonavla,India.
  2. Dostalek C., Lepicovska V.: Hathayoga‐a method for prevention of cardiovascular dis eases.Activ.nerv.sup.(Praha).1982,24,Suppl. 3pp 444‐452.
  3. Dostalek C.,Roldan E.,Lepicovska V.:Agnisara and Xirhythm in the EEG.Yoga Mimamsa,22, 1983‐4,pp 42‐50.
  4. Lepicovaka V.,Dostalek C.:Effects of nauli upon cardiovascular system.Yoga Mimamsa, 26,1987‐8,pp 25‐42.
  5. Votava J.:Evaluation of muscle relaxation in EMG recording of some yoga exercises,EEG Clin Neurophysiol.66,1987 p.S110.
  6. Votava J.et al:Yoga seen by physician.(in Czech)140 pp 1988 Avicenum,Praha.

分科会SC-1 9月6日(火)14:00~15:30

障害者の職業評価

―革新的技法―

INNOVATIVE METHODS OF VOCATIONAL ASSESSMENT OF DISABLED PERSONS

座長 池田 勗 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター職業評価指導部長
副座長 Mr.Gerlof Hoekstra Director,Dutch Council of the Disabled〔Netherlands〕

障害者の職業評価―革新的技法―への導入

INNOVATIVE METHODS OF VOCATIONAL EVALUATION OF DISABLED PERSONS

池田 勗
国立吉備高原職業リハビリテーションセンター職業評価指導部長

障害者の職業リハビリテーションに関する国際労働機関(ILO)の勧告99号は,長年にわたって多くの国々が職業リハビリテーションサービスを設定する際の国際的標準であった。また,ILOの印刷物「職業リハビリテーションの基本原則」は,職業リハビリテーションのプロセスの各局面に関して,あるべきサービスを設定する際の概念を説いている。その後約30年間を経て,時代の変遷に対応して新しいILO勧告168 号が採択されている。既存のサービス手段の向上と並んで,新しいニーズに対応するサービスを作り出すことが要請されてきているといえよう。
一方,実際の職業リハビリテーションの状況とその成果は,国によって大変異なっているであろう。それは,職業リハビリテーションは社会的環境に大きく左右されるためである。この社会的環境は,人間性の認識,経済環境,産業事情,労働市場,国の政策とサービス制度等多くの要因によって構成されているものである。また,障害の種類によっても大きな違いがあろう。これらの諸事情もまた,我々の前に不断の課題を投げかけているといえる。
これらのすべてのことは,職業評価に関しても当てはまるのである。

職業評価の技法の発展について少し付け加えるならば,学際的アプローチの効果を抜くわけにはいかない。よく知られているように評価の方法にはかなり早くから心理学的検査法が導入されていたが,その後の行動観察には作業療法の関与が大きな役割をしているし,また,最近では人間工学などのいわゆるインダストリアル・アートの導入によって評価技法の幅は広がっている。

もうひとつ,わが国での発展を振り返ってみると,ここ20年から30年の間は欧米に学ぶことへの依存が大変に強かったといえる。事実,多くの技法が紹介され,技法に関する知識・情報はかなり豊富になっている。しかし同時に,異なった文化の中で開発された技法をそのまま実用に導入するのでなく,自分の目の前のニーズに対応するように応用することの重要性も実感されている。
貿易においてはわが国からの輸出があまり歓迎されない状況にあるようだが,職業評価の方法に関してはその逆であるように思われる。お互いの経験を知り合い,応用することが相互の発展につながるのであろう。

産業・文化の違い,また,障害の種類の違いなど,いろいろ違った背景での経験を情報交換することは,これからのサービスについて考え,開発するために役立つであろう。
なお,ここで話題にする「革新的技法」には,特定の評価技法だけでなく,職業評価のためのシリーズとしてのセットや,地域の社会資源を活用した評価システムをも含むと考えてよかろう。

職場での評価

ASSESSMENT IN THE WORKPLACE

Jouko Waal
The Social Insurance Institution,Rehabilitation Dept.,Helsinki,Finland

肯定的な意味での障害者の能力の評価は,リハビリテーションの出発点である。近年診断法がより精密で正確になり,とりわけ環境の問題としての障害の意味が受け入れられるようになって,評価段階の重要性が増してきた。障害は人の中にあるのではなく,人とその環境の相互関係の中にある。したがって私たちは障害者の能力を評価するだけでなく,環境や,人間と環境の適合の総体を評価しなければならない。
リハビリテーションの方法や勤労生活における技術の発達により,新しい評価方法の発見,リハビリテーションの立案,そしてその実行が急務となっている。
私たちが職場での評価について話し合うとき,人間工学(ergonomics)と成人教育におけるすべての新しい方法を役立てなければならない。私たちは労働市場の問題や成人の問題を扱っているということに留意すべきである。
これら二つの要件から,リハビリテーション分野における有効な評価には,背景となる条件が必要となってくる。リハビリテーションのゴールは,障害者を現存の労働環境へ統合することである。仕事の技術的要求は単に要素の一つであって,その他多くの要素がある。職場の配置,同僚や職場主任の態度,職業共同体の規範と役割,昇進の可能性,職業教育などである。
しばしば忘れられることの一つは,障害を持つ個人である。私たちは通常,機能障害や能力障害そしてそれらが原因の社会的障害にのみ目を向けている。しかし,障害者が彼ら自身の新しい知識や技能を身につける方法をもっている成人した個々のパーソナリティであることを忘れてはならない。私たちはこれまで以上にリハビリテーションを成人教育として考えなければならない。
フィンランド社会保険協会は,障害を持つ若い人たちや,勤労生活の経験を持つが長期間の病気や何かの機能障害のため困難にあっている人たちに職業リハビリテーションを提供する。
そのリハビリテーションの主な方法は,あらゆる形の職業専門教育,障害者が所有し経営する零細企業への経済援助,そして被雇用者への技術援助の提供である。リハビリテーション計画は全国の社会保険協会(450 以上)の地方事務所で,クライアントと共に立てられる。リハビリテーションの可能性の評価―人とその環境の―はこの過程の非常に重要なステップである。
リハビリテーションの計画と実行に必要な評価は,さまざまな方法で行われる。伝統的な方法の職業指導,特別なワーク・クリニック,医学的・心理学的評価が用いられるが,それらは不十分であることが分かってきた。新しい方法は,実際の仕事場で実際に働くという状況での実地労働の評価も含んでいる。このような状況の中で,ビデオ技術はその人自身の体験として実際にフィードバックする感覚を提供するので大変役に立つ。
段階的ビデオ技術を用いて,リハビリテーションを成人教育や職業技能訓練と結び付けることが出来る。その大変好運な結果は,リハビリテーションが障害者への特別な方法としてでなく,(非障害者への)実地訓練や昇進についての最も進んだ考えと多くの共通点をもつものとして見られるということである。
リハビリテーションは,いろいろな意味での学習の経験である。評価段階は,その状況にある可能性と障害に関する重要な情報をすべての関係者に与えるだけでなく,個人とその人の環境から,新しく学んだものの全体像も与える。
私はこれから,現代のコンピュータ技術を利用して状況の広範囲な評価とリハビリテーション・プログラムの計画とを実施に組み合わせている二つのケースの概略を紹介しようと思う。
先ず最初は32歳の盲目の女性のケースで,彼女は電話交換手として10年間働いたが,今度技術改革によって過剰人員とされてしまった。フィンランド視覚障害者連盟と視覚障害者のための職業訓練校との協力を得て,社会保険協会が適切なコンピュータ設備の設計,ワークステーション,そして技能の適切な訓練からなるリハビリテーション計画を作り上げた。そのプログラムの総費用は1万4,000ドルであった。
二番目は学位を目指して建築学を学ぶ37歳の学生のケースである。彼は水泳の飛び込み事故で全身麻痺となった。ある研究開発プロジェクトで,コンピュータ技術を使って彼の周囲の環境に適応するために必要なコンピュータ設備が企画された。彼の将来の計画は,妻を助手にして個人で設計事務所を始めることであった。この計画の総費用は2万4,000ドルであった。
リハビリテーションの必要性の評価と適切なプログラムの計画は,職業生活の要件にあったものでなければならない。障害者の将来の職業が,リハビリテーション活動の方向を決定すべきである。最も柔軟な解決法は,個々のリハビリテーション・プログラムを企業規模の訓練プログラムと結び付けることである。国あるいは企業でのあらゆるマンパワープログラムは,より広い意味でリハビリテーションの色彩を強く持つべきだと言えよう。

能力と要件プロフィール

―エルトミス評価システムの最近の発展―

RECENT ADVANCES IN THE ABILITY AND REQUIREMENT PROFILES:EAM SYSTEM(ERTOMIS ASSESSMENT METHOD SYSTEM)

E.Mittelsten Scheidand K.A.Jochheim
Ertomis Stiftung,-Gemeinnutzige Gesellschaft zur Forderung von Wisenshaft,FRG

1900年頃の初期段階のリハビリテーションは,筋力や持久力の要求は少ないが手先の器用さや知的能力を十分に必要とする職業によって障害者が雇用へ復帰することを目的とした。ヨーロッパのいくつかのモデル施設は,整形外科病院,特殊学校あるいは適切な職業につくための職業訓練センターを併設していた。それらは第一次大戦後,復員軍人の雇用のためのセンターとしても役に立った。障害者の残存能力の評価方法は,学際的アプローチにより発展してきた。
伝統的に治療重視の医師は,残存能力でなく,機能障害とそれによる限界について述べ,その結果として能力プロフィールができ,それが仕事の必要条件プロフィールと比較される。米国とヨーロッパにおいて慎重な調査研究をすすめたところ,少数ではあるが,後者のアプローチが実際に適用されて成功していることがわかった。
1944US-Manpower Committee Report-1946 USA Clark D.Bridges-1964 FRG T.Hettinger-1972 USA US-Handbook of Analyzing Jobs - 1980 Geneva CH P.Wood lnernational Classification of Disabilities and Handicaps-1981 FRG K.A.Joch heim/E.Mittelsten Scheid“Abilities and Require ment Profiles"-1985 FRG Bavarian Motor Fac tory,Munich-1982 USA Fleishman's California Report“Human Performance and Productivity"- 1985 NL Timmer,Dutch Social Insurance System.いくつかのシステムには一貫性に欠けることと,能力の全領域を網羅していないという欠点がある。
最も総合的なシステムは,K.A.JochheimとE.Mittel sten Scheidおよびその他の人々の各分野にわたる研究によってつくられた。続いて1981年に,管理者の能力と,するべき仕事の必要条件の実際的な評価が行われ,学際的アプローチによって64項目が慎重に選択され,詳細に定義づけられた。そのシステムがさまざまな工場,リハビリテーション・センター,職業訓練センターなどでテストされた。そして現在,およそ2,000人の障害者を含む2万7,000人が働いている179の企業があるドイツの工業地域の産業医センター(occupational physicians center)においてテストされているこのシステムと最近の成果をご紹介する。
障害者の雇用への復帰を顧慮する職業的統合には,障害のある就職希望者に最適の仕事を見つけることが出来るように,入念に選ばれた基本的能力と必要条件を基にしたシステムが必要である。エルトミス評価システム(EAMシステム)は,各々が基本的必要条件である一連の基本的機能について工夫されたものである。このシステムは,リハビリテーションの専門家と同様に,雇用主,被雇用者,労働組合によっても容易に理解され,これら当事者間の相互理解を深めた。このようなシステムの欠如が,往々にして障害者の求職の妨げとなっていた。
医師,心理学者,職業訓練指導員,工場の人間工学研究者の4つの専門家グループは,障害者のもつ行動パターン(能力),そして仕事に要求される行動パターン(必要条件)に対応するような「基本的機能」の評価のために,それぞれが一連の項目を選んだ。その4つのセットは,慎重に「等級化」され64項目でなるセットにまとめられた。医学的セットの項目と等級化のシステムは,できるだけICIDHに一致するように修正された。WHO‐ICIDHシステムには障害と日常生活に関するいくつかの項目が含まれている。EAMシステムの項目はあらゆる障害と職種に適用する障害と仕事の関連の項目に限られている。
64項目は,次の7つのグループに分けられている。1)上肢,下肢の機能 2)基本的姿勢と動作 3)感覚器官の機能 4)基本的な能力と行動パターンをベースにした心理学上のこと 5)情報伝達機能6)環境要因への耐性 7)その他
各項目は,研究者と生産,サービスおよび行政の分野に実際に携わる人々の両者が理解できるように慎重に定義づけられた。それらは英語とドイツ語で書かれている。その定義に従い,各項目はファイル1により「能力プロフィール」と「要件プロフィール」の両方について慎重に「評価」され,5段階の1つに「等級化」される。大部分の「等級」は,熟練した専門家の「判定」によって評価されるべきもので,「測定」することはできない。評価は要求に応じる能力が「正常/十分ある」から「やや不十分」,「中位」,「かなり不十分」,「ほとんどない」というような一定の概念を求めている。すでに言った通り,これはリハビリテーションの専門家だけでなく工場,サービス,行政の現場にいる人々にも容易に理解できるものである。
能力プロフィールは,現在の社会状況や健康状態ばかりでなく,教育的,職業的背景を含めたクライアントの履歴の徹底的な評価と共に医学的調査が基本となっている。身体検査は,視力・聴力を含め,産業医 (occupational physician)によって決まった手順で行われる。そこで重量挙げや階段上りや自転車乗りのような持久力など,いくつかの機能は実地によって容易に評価される。精神や行動パターンに障害がある場合,標準テストを使って,より総合的な心理テストを行わねばならない(知能,記憶,集中力,反応時間並びに性格の測定)。
作業行動の面では,専門的に熟練した観察者―リハビリテーションセンターでは作業療法士により標準作業サンプルを使用して―により長期間にわたって注意深くクライアントを観察することが要求される。企業の場合は監督,あるいは人事課長がクライアントの行動を評価するのが適切であろう。
以上3つの観点が,能力プロフィール(AbP)の64 項目の中に統合される。心理学者,産業医(occupational physician),人事課長,人間工学者(ergonomist)による評価のずれは,関係専門家の間で討議され,修正されなければならない。
必要条件プロフィールの評価は仕事をしている人でなく,作業そのものだけを観察しなくてはならないので仕事の手順の分析と評価に経験豊かで抽象的思考のできる人が行う必要がある。分析者は作業過程を慎重にあらゆる細部にわたって見なければならない。さらに,環境状況については,常に目に見えるとは限らないので同僚や監督に相談すべきである。能力と必要条件の定義に従い64項目の全項目を分析し,等級づける。

等級 0 障害なし 完全な能力 有効-必要
等級 1 やや減少した能力 有効-必要
等級 1.5 中程度減少した能力 有効-必要
等級 2 かなり減少した能力 有効-必要
等級 3 全く能力なし 有効-必要

すべての作業の流れを観察することは非常に重要なことである。流動性,筋肉の強さ,反復性の要素を考慮する。補助具の使用による障害の補正,危険物に対する耐性などの特殊な問題は,用紙の下部の「コメント」の中に記録される。
「能力プロフィール用紙」と「必要条件プロフィール用紙」はほとんど同じものである。ともに同じ64項目からなり,等級とコメントのための空欄がある。能力プロフィール(AbP)は透明ファイルに印刷されており,必要条件プロフィール(RqP)は白い紙に印刷されている。AbPとRqPの比較はAbPとRqPを重ねることで簡単にできる。等級はAbPでは×で記入されるのに対し,RqPは○で記入されるので,次のように容易に見られる。1×と○が互いに全く重なり合うかどうか,2×が○の左に来て「要求以下」を示しているか,3「要求過剰」×が○の右に来て,すなわち能力以上の要求であるということを示しているか,能力と必要条件プロフィールを「視覚的に比較」することは単調な作業なので,エルトミスがコンピュータによって比較し,結果の処理をするソフトを開発した。等級1以下の過剰要求については,雇用担当責任者が再考しなくてはならない。
EAMシステムの妥当性,信頼性とinterrater‐ reliabilityのテストとしての上記の実地調査は,エルトミス基金により支えられている西ドイツのSiegenにある産業医センターで実施されている。このセンターは普通179の事業所で働く2万7,000人の従業員―特に約2,000人の障害者(彼らは法的割合の6%と比較すると7.4%の割合になっている)が雇用されているが―の健康管理をしている。その企画では約2,000人の障害を持つ従業員を対象にしたAbPの定期検査の結果と,その検査時に障害者が従事している仕事のRqP 検査を比較する。
同時にセンターでは「問題ケース」,すなわち仕事中何らかの健康の問題を持つ(ほとんどが非障害者であるが)障害者も含む被雇用者に通常の検査を続けて行っている。「問題ケース」だけでなく「普通のケース」の結果は,AbPとRqPを比較するためにコンピュータにかけられる。最終的に2000~3000ケースのAbPと RqPの比較ができるであろう。
これまで私達は148の「定期的ケース」と156の「問題ケース」を処理した。
156の問題ケース;問題の中25%は職業に関係がない。14.7%は他の仕事に代わるよう勧められ,87%が成功。9%が職場適応を助言され,成功。25.6%が仕事の手順変更を助言され,成功。
148の定期的ケース;35.1%は過剰要求ではない。 21.6%はさまざまの測定法により過剰要求を避けられた。40.6%は過剰要求にかかわらず今までの職場に残りたいとした。

実地調査の結果
1)仕事に関する苦痛は,もしEAMシステムが雇用の最初から利用されていたら,避けることが出来たであろう。2)障害者の雇用を最も効果的なものにする。3)現在の適職にできるだけ長くとどまるようにする。4)病院やリハビリテーションセンターで,個々の障害者のためのリハビリテーション・プログラムを作成する。5)職場構造の改善をする。6)その他
総合的なEAMシステムは障害者が最も望んでいること―雇用への道を探すこと,私的公的援助から経済的に独立すること,そして最終的には社会的に独立すること,そしてもはや「社会的」にも,その他の意味でも「障害者」ではなくなること,―のために大変有用である。

エルトミス
能力プロフィール 所要能力プロフィール
の評価項目

指の運動 片方 歩く 抽象的思考力
指の運動 両方 登る 独立心
手の運動 片方 持ちあげる 問題解決力/創造性
手の運動 両方 運ぶ 協調性
前腕の運動 片方 身体的耐久性 自制力
前腕の運動 両方 責任感
上腕の運動 片方 視力 精神性ストレス耐性
上腕の運動 両方 遠近 精神的持久性
足部の運動 片方 色の識別 反応速度
足部の運動 両方 視野 作業テンポ
下腿の運動 片方 聴力
下腿の運動 両方 音源定位 話す
大腿の運動 片方 嗅覚 書く
大腿の運動 両方 味覚  
頭の運動 触覚 片方 光/照明
体幹の運動 触覚 両方 気候
両手の協応 平衡感覚 騒音
両足の協応 ガス/蒸気/ほこり
心理的誘因 液体/湿度
椅子座位 動機づけ 機械的振動
立位 注意力 気圧変化
しゃがむ/ひざを折る 理解力 イオン(被曝)
前屈姿勢 集中力
記憶力       指動性 有 無

日本における障害者職業センターの「職業試行法」について

ON-THE-JOB EVALUATION SERVICES BY EMPLOYMENT REHABILITATION CENTERS IN JAPAN

山田 文典
日本障害者雇用促進協会職業リハビリテーション部

日本における職業評価の現状

日本において障害者の職業能力評価は,企業や職業リハビリテーションの分野のみならず,身体障害者更生相談所,精神薄弱者更生相談所等,福祉,衛生,教育の分野でも広く行われている。職業評価を主たる業務とする専門的機関としては,職業リハビリテーション分野の地域障害者職業センター(以下「職業センター」という。)がある。ここでは,面接法,書類審査法,各種の検査法が従来から行われた主要な職業評価の方法であったが,比較的最近になってワークサンプル法,場面設定法,職務試行法等も導入されるようになってきた。

職業センターの概要

日本で最も一般的な職業評価サービスを行っている専門機関は,職業センターである。職業センターは, 1972年から1982年の間に設置された比較的新しい施設であり,現在47カ所(各都道府県に1カ所)が日本障害者雇用促進協会によって運営されている。職業センターは,公共職業安定所等の関係機関と密接な連携を保ちながら主として次の業務を行っている。

  1. 障害者に対する職業評価,職業指導,職業準備訓練及び職業講習
  2. 事業主に対する,障害者の雇用管理に関する事項についての助言その他の援助

職業センター全47ヵ所における1987年度の障害者の取扱数は,約5万3,000件である。内訳は,身体障害者約1万1,000件(21%),精神薄弱者約3万5,000 件(66%),精神障害回復者等約7,000件(13%)となっている。また,事業主等の取扱件数は,約1万6,000 件となっている。最近の傾向としては,精神薄弱者の取扱比率が高くなってきている。

職業センターにおける職業評価体系

図 センターにおける職業評価法の体系
図 センターにおける職業評価法の体系

 職業センターにおける職業評価法の体系は,図のとおりである。
  1. 面接・調査は,最も多く用いられる基礎的な職業評価法である。
  2. 心理的・生理的検査は,その多くが標準化,数量化されており,短時間のうちに客観的な情報を得ることができるため,頻繁に用いられている。
  3. ワークサンプル法は,現実の作業または模擬的な作業を用いて評価する方法である。現在のところ,職業センターには2種類のワークサンプルシステムが導入されている。1つは日本版マイクロタワー法であり,もう1つは日本障害者雇用促進協会版ワークサンプル法である。
  4. 職務試行法は,最も直接的な作業評価法であり,実際の職場の中で現実の作業を通して障害者の職業能力を評価するものである。

職務試行法の概要

 従来の職業評価は,面接とテストを中心を行われていた。しかし,これらの方法だけでは重度障害者の職業能力を十分に評価しきれないことから職務試行法が導入されることとなった。職務試行法は,次の方法に従って実際の事業所の中で実施されている。
  1. 対象者……職業センターが職務試行による評価を必要と認める障害者(障害の種類に関係なく実施されるが,現実には精神薄弱者の利用が多くなっている)。
  2. 評価……協力事業所の職務試行補助者の観察評価結果を勘案の上,カウンセラーが行う。
  3. 実施期間……3週間以内。
  4. 給与・利用料……障害者に対して給与は支給されない。事業主に対しては,1日について780円の施設利用料が支払われる。

職務試行法の現状と課題

 職務試行法は,1982年から導入され,障害者自身にとっては作業体験が得られること,カウンセラーにとっては職業現場に即した妥当性の高い評価を行うことができることから,職業センターにおける最も効果的な評価方法として活用されている。1987年度における実施状況は,47カ所合計で約540件(1カ所あたり11 件)である。今後さらに効果的な評価方法として職務試行法を育てて行くために,私は次のことが必要であろうと考える。
  1.  協力事業所の育成 職務試行法が成功するか否かは事業所の協力にかかっている。障害者の状況に応じていつでも職務試行法を実施できるように,多数の協力事業所を職業センターの近くに確保することが必要であろう。
  2.  カウンセラーの評価技能の向上 職務試行法は,評価のための1つの手段である。これを,いつ,どこで,どのように活用するかによって効果は異なってくる。したがって,カウンセラーの評価技能の向上を図るための不断の努力が必要であろう。
  3.  実施方法の検討と工夫 職務試行法実施期間中,担当カウンセラーは,1週間に1回以上事業所を訪問して評価を行っている。ところが,職業センターは,少ない人数でさまざまな業務を行っているため,職務試行法のための時間を十分確保することが難しい状況にある。限られたスタッフや予算の下で最大限の効果を上げるにはどのような方法がベストなのか,についての検討と工夫が必要であろう。

障害者の職業評価

―自己評価と実際的基準に基づくアプローチ―

SELF EVALUATION AND CRITERION REFERENCED APPROACHES TO VOCATIONAL ASSESMENT OF ADULTS WITH DISABILITIES

Donal F.McAnaney
Principal Psychologist/Rehabilitation Officer,Rehabilition Institute,Ireland

はじめに

リハビリテーション研究所は1983年に,障害を持っていてもより高度な訓練を受ける能力のある人のために国立訓練大学を設置した。この大学では,電子工学,設計,コンピュータ操作や実務教育を含む広範囲の教育を行っている。対象者として身体および精神障害者を共に含んでいる。その大学に対してサービスを提供するために職業評価担当部門がつくられた。この部門で採用された手続きは,他の職業評価方法とは二つの点で異なる。第1点は,判定方法として集団標準値(ノーム;特定人間集団の典型的行動様式)に基づいた方法(normed instruments)ではなく実際的基準値に関連づけた方法(criterion referenced)を使ったこと。第2点は,クライアントの自己評価がその過程において重要な役割を果たすということである。この評価および訓練に参加したクライアントグループの分析をすることにより,こうしたアプローチが他の手続きと同様に効果的であるばかりか,障害者の要求をより完全に満たすものであることが明らかになる。

理論上の前提

集団標準値に基づいたテストは,本来,多くの異なる種類の障害者を対象とする場合にかなりの欠点がある。第1に,標準グループが障害のない人々であるということと,通常他の国からのものであるという点で,また速度と正確さを混同して一つの総合点として見ることにより障害者グループを差別する項目が使われている点で偏りがある。このタイプのテストのよい例は,一般職業適性検査(the General Aptitude Test Bat tery:アメリカ労働省,1982)である。第2に,脳性小児麻痺から中途の切断,さらに精神分裂病まで,幅広い障害における個人的な差異が,同質とは考えられない集団をつくっている。従って,集団標準値を参考にしたテストの重要な基本前提はひどく損われている。第3に,集団標準値テストの結果は概括的であり,その項目の選び方は短期間の変化に対して有効でない。従ってその結果を使って,特定のリハビリテーションの目的を設定したり,リハビリテーションの期間を通して進歩の経過をモニターすることが出来ない。第4に,最も大切なこととして,市販のワークサンプル (Bottrebusch,1980)を含めて,集団標準値に基づいた方法には,リハビリテーション終了時点における就労可能性に関しての予測の妥当性がない。これは特に精神病の人に対し当てはまることである(Watts,1983, Griffiths,1977)。これら集団標準値を参考にする方法の弱点はPophamがはっきりと立証している(1978)。結局,集団標準値によるテストの結果は,クライアントの立場からはあまり意味をなさないのである。25歳の人にコンピュータマニュアルが読めるかどうかということが問われている時に,その人の読書年令が8歳であるということ自体はあまり意味がない。素人の人にとって百分位数を用いた結果を解釈するのは同じように難しい。
実際的基準値を参考とした方式は,個人の成果を,他の人々の成果ではなく,特定の仕事や仕事の分野が要求するものと比べるので,標準値テストでおきる問題の多くを避けることが出来る。そこには文化的偏見や一つひとつの項目に対する偏りはないし,分散を一様のものと仮定しない。短期間の変化を見逃さないし,リハビリテーションの必要性を明確に指摘し,そしてその結果はクライアントに解釈しやすい。徹底的なしかも妥当性のある課題分析を基にしてよく構成された規準値テストは,標準値が参考となっているテストより,おそらく障害者の職業評価には適切であろう。
また規準値を参考としたテストには,クライアント自身が,評価により多くの関わりを持つ機会がある。クライアントが自分達の成果を多くの項目に従って評価し,その評価をテストの結果とそのまま比較することができる。これにより,クライアントは自分達の成果について直接関係のあるわかりやすいフィードバックが得られるのみならず,自己評価がどの程度現実的なものであったかを知ることができる。これら2つの評価方法上の効果を評価するために,Roslyn Park National Training Collageでの評価結果と訓練への参加者の中から任意に抽出した人々が選ばれ,そして判定結果は,リハビリテーションの最終的な成果と比較された。

対象者

1985年の1月から12月迄の間に職業評価担当部門にやって来た50名のクライアントが,分析のために選ばれた。29名が中等教育を終了しており,その他は15 歳までに学校をやめていた。25名は英語の矯正教育が必要と見なされ,28名は数学の教育が必要とされた。 Ravens Standard Progressive Matricsによれば,全対象者が少なくとも平均能力を持ち,そのうち24名は間違いなく平均以上であった。この対象者の中,21名は身体障害者,12名は感覚障害者,18名は精神障害者であった。これらの割合はこの大学全体の学生のそれと大まかに対応しており,予備的分析においてもこれらの変数が,雇用およびリハビリテーションの効果を予測する上で,有意性を示さなかった。

方法

Roslyn Parkで行われる評価には3段階ある。第1段階では,クライアントの職業への関心と共に,教育や知的要素に関する情報が集められる。第2段階はクライアントの技術的,社会的能力に焦点を合わせており,各コースの内容を表わしている一連のコースサンプルを基にしている。第3段階は,第1,第2の段階で適切な規準に達したクライアントが試行的期間としてコースに全面的に参加する確認のための評価段階である。
今回の分析の中心は第2段階である。第2段階で,クライアントは自分の成果をたくさんの項目に従って評価する訓練を受ける。その項目に速度(Speed),正確さ(Accuracy),論理的な作業方法(Logical Work Method)手先の器用さ(Manual Dexterity)といった技術的な面と,社会的統合,自立,環境との適合性のような非技術的な分野のことが含まれている。(1) 不適切(2)問題あり(3)適切の3段階の評定尺度で評価する。コースのインストラクターもクライアントの作業成果を同じ項目で,類似の尺度を使って評価する。また非技術的領域については彼らの主観的な感想を報告する。このようにして,クライアントらは自分達の行った評価がコースインストラクターらのそれとどのように異なるかを知ることができる。この分析の従属変数は次のとおりであった(1)規準値との照合:コースサンプリングの実施の後問題ありと報告された領域の数の平均(2)自己評価:コースサンプリングの実施の後クライアント自身が問題ありと報告した領域の数の平均(3)評定間の差:規準値との照合結果と自己評価の間の差異
この分析の独立変数は次のとおりであった。(1)リハビリテーションに対する反応:これはコースの有効性に対する評価から得られ,2つの水準がある。1少しまたは疑わしい反応2適切な反応。(2)退所時の評価:これはその後の措置状況に関する情報から得られ,2つの水準がある。1雇用または教育の継続2医学的措置その他(失業も含む)
この分析には2つの共変量が利用された。グループ・ディスカッションから得られた社会的機能の推定値で,自己評価とfacilitatorによる評価である。社会的機能は他の変数の影響をおおい隠してしまう可能性があるので,これらの変数の分散の影響を取り除くこととした。

結果と考察

2つの従属変数つまり規準値との照合結果と自己評価を使って2度の共分散分析を行った。独立変数はリハビリテーションに対する反応と退所時の評価である。
第1の分析ではこれら2つの従属変数が,リハビリテーションに対する反応をかなりはっきりと予測していた(多変数F5。500,P<。01)。第2の分析では有意な結果は得られなかった。このようにリハビリテーションについては基準値との照合結果と自己評価がかなりはっきりした関連をもつことが認められたが,最終的な措置との間には関連がなかった。
この結果を詳しく見るために従属変数は技術的な面と非技術的な面のものに分けられた。さらに,分析に評定間の差,第3段階でのインストラクターの評価および健康調査書の結果も使用された。その結果は表1のとおりである。この表から,クライアントの自己評価は,彼らのリハビリテーションに対する反応の仕方の指標になるが,再雇用されるかどうかの指標にはならないことがわかる。また,非技術的な面の評価の方が,作業技術的な面のそれよりも雇用の予測に役立つようである。このことは,健康調査書と雇用の間にはっきりした関連があることで確認される。最後に,評定間のズレとリハビリテーションに対する反応の間に最も強い関連があることは,インストラクターとクライアントの相互作用が考慮されるべき重要な要因であることを示唆すると言えよう。

表1 集団標準に基づかない用具とリハビリテーションに対する反応および退所時の評価との関連

従属変数 独立変数
リハビリテーションへの反応 退所時の評価
作業技術的基準 P=.053 Ns
自己評定 P=.026 Ns
非技術的基準 Ns P=.039
自己評定 P=.038 Ns
評定間の差 P=.020 Ns
一般的健康調査 Ns P=.044
STAGE IIIの評価 Ns P=.045

結論

Roslyn Parkの評価プロセスを非常に適切であるとしたクライアントが有意に多かったことは重要なことである。(x2=21.00P<.001)。また,集団標準を基にした評価法や標準テストを採用していたら,この程度までクライアントの関与を得ることはできなかったであろう。他方,この方法はリハビリテーションによく反応するクライアントを見分ける上でも有効である。非技術的な要素は雇用される可能性の高い人を見分けるのに役に立つので,これを評価のプロセスに含めることは重要である。このように規準値を基にした用具と自己評価の技術を用いることにより,組織と障害者のニーズの両方を満たすすぐれた効果的な職業評価の手続きを進めることができる。

分科会SC‐2 9月6日(火)14:00~15:30

技術改革と障害者雇用の新しい展開

NEW APPROACHES TO THE EMPLOYMENT OF DISABLED PERSONS AND THE IMPACT OF NEW TECHNOLOGY

座長 Herr.Dir.Hubertus Stroebel Bundesarbeitsgemeinschaft fur Rehabilitation〔FRG〕
副座長 横溝 克巳 早稲田大学理工学部教授

技術革新と障害者雇用の新しい展開

NEW APPROACHES TO THE EMPLOYMENT OF DISABLED PERSONS AND THE IMPACT OF NEW TECHNOLOGY

Hubertus Stroebel
Bundesarbeitsgemeinschaft fur Rehabilitation,FRG

私は先達に深く感謝する。私達は彼らから豊かな知識と多くの新しい発見を引き継いでいる。火の支配,印刷,さらにマイクロ電子工学の発見までその業績は多い。科学技術が私達の生命を定める。
障害者の雇用に対する科学技術の影響を考えると,科学技術が障害者雇用を促進するということがわかる。機械化は肉体的重労働を軽減し,科学技術の助けによって身体機能の損失を補うことができる。しかしすべては未だ流動的であり,私達は現在,科学技術の変革の中に生きている。それは,障害のある人もない人もすべての人に影響を与える。仕事の世界は,大小のコンピューター,自動装置,マイクロ加工技術やそれらによって発達してきた方法で,いつも変化している。障害者の雇用機会の上でのチャンスやリスクを明確にしなければならない。第一に,一般労働市場において労働条件のためにおこる障害者差別を撤廃することが問題である。この解決のためには,職業訓練が労働市場の技術革新に適応するものでなければならない。労働市場側の要求に合わせた条件は,雇用への最高のパスポートであったし,今も開発途上国では現実である。しかし,専門分野での増大する要求を,あまりに多くの障害者に要求すると,障害者の能力の限界に達してしまう。この点で,科学技術の進歩は労働市場での障害者差別の撤廃を妨げる。こうした状況の中で政治的解決は,守られた条件の下で障害者雇用 を実現する方法である。守られた仕事がなくては,将来においても仕事や専門職種において,障害者の差別撤回を達成することはできないであろう。

保護雇用の新しいモデル

A NEW MODEL TO ORGANIZE SHELTERED EMPLOYMENT

Gerhard Larsson
President,C.E.O.Samhall,Sweden

800万以上の人口を持つスウェーデンは,長い間高雇用率を目指してきた。労働年齢にある20歳から60歳の,スウェーデン女性の79.2%は仕事を持っている。同年齢の男性については,86.0%である。失業率は低く,近年は約2%である。このことは,障害者も仕事を持つべきであるということにつながる。仕事を持たないと,コミュニティからもはみ出てしまう。身体障害を持つと,一般のコミュニケーション手段は使える範囲が限られ,精神薄弱があると一般の人々と一緒のグループに参加することが難しい。つまり,仕事とは,生活費を得るための手段であるだけでなく,コミュニティの中で役割を持ち,他者とのかかわりの中で生きていくための方策である。
スウェーデン政府は,職業上の障害を持つ人々(以下職業障害者と訳す)の就労のために2種類の援助を行っている。一つは賃金補助である。4万3,000人の職業障害者が,政府の賃金補助(25-90%)によって,民間企業および公的機関で働いている。政府の援助政策のもう一つは,80年代に実現したもので,賃金補助策によってもなお一般労働市場での就労の機会がない職業障害者に,仕事を提供することを目的とした特別会社,会社グループである。サムホール(Samhall)という会社グループで1980年からスウェーデンのすべての保護雇用工場(sheltered workshop)を統括している。
それ以前は保護雇用工場は,州議会,地域社会,全国労働市場委員会,民間団体など100以上の組織に分散していたため,新しい組織を作って連絡調整を図らねばならない数々の理由があったのである。地理的分布をより平均化すること,重度障害者の就労を図ること,内部の競争を減らすこと,ビジネス感覚を強めること,生産と販売のバランスを図りコストダウンを図ること。
このような状況のなかで,スウェーデン議会は通常の親会社と子会社からなる企業グループと同じような新しい組織,サムホール・グループ(Samhall Group)を設立することを決めた。サムホールは,他の機関とは関係を持たない独立した組織である。子会社は24州全部をカバーしており,国内のすべての保護雇用の責任をもっている。親会社のサムホールはグループ企業の全体の経営,財務および調整に責任を持つ。

サムホール・グループの任務は,必要のあるところに障害者のための有意義な開発的な仕事を作り出すことである。3つの目標をもってこの仕事を行っている。この3分野は等しく重要であり,定期的な検討が行われている。

  1. 職業障害者の就労機会の数
  2. グループ内の雇用者のうち,能力開発の結果,一般労働市場で仕事を見つけることができた人の数。
  3. 経済的目的:国家の賃金補助負担を減らすこと これらの目的を達成する方法は,製品とサービスの生産である。

新規雇用は国の雇用サービスの責任となっている。特に労働能力の最低限度についての規定はないが,サムホールの従業員は規定労働時間の半分は働かねばならない。
私の知る限り,一つの組織が国内のすべての保護雇用の責任を持つというのは,世界でもユニークである。また,賃金についてもユニークである。他の企業と同じく,サムホールは全国レベルで労働組合と条件について協定している。出来高払いではなく,簡単な職業評価システムに基づいた基準によって賃金が決まる。賃金レベルは一般のスウェーデンの企業の通常90%である。
私達は有意義な,発展性のある仕事を提供したいと願い,主に異なるいくつかの産業部門で商品を生産している。それは決して治療ではない。例えば,私達はスウェーデンの中では家具の最大生産者であり,織物産業では最大の雇用者である。今日の仕事の約10%は,情報プログラミング,観光事業,商店,情報サービスである。
私達の提供する商品やサービスは,市場の要求に対応しなければならない。他企業との自由競争の中で商品やサービスを提供する。価格はビジネスの原則に従って決定される。国庫補助金は,他企業と比べて割高になる価格をカバーするために必要である。生産のかなりの割合(65%)が他の工業会社の下請けである。私達は他企業と同じ期間で競争する。総売上高の20%以上は,直接,また間接に輸出品によるものである。販売会社を4カ国に持っている。代表的な輸出品は,室内家具,職場の備品,スポーツやレジャー用品である。日本には松の木でつくった家具,ローラースキーや贈答品を輸出している。

今のところ,仕事を組織するとき,3つの方法をとっている。第一は,330の自営工場であり,他の企業のあるところに設置されている。第二が,エンクレーブと呼ばれる企業内作業所であり,今後増やしていく予定である。エンクレーブは,サムホールと通常パートナーと呼ばれる民間企業との協力で作られる。サムホールが雇用主となり,被雇用者はパートナーの作業所で働く。サムホールが人事開発および保健サービスの責任をもち,通常は作業管理も行う。パートナーは,被雇用者の能力に合わせた仕事を提供する義務がある。パートナーは,原料を買い製品を市場に販売し,利益から,労働コストの比率に応じてもしくは生産に応じて支払う。第三は,請負である。パートナーの作業所で,サムホールの被雇用者が働くという点では,エンクレーブと似ているが,請負の場合はサムホールが生産目標達成の責任も持つ。被雇用者の数,種類などはサムホールが決める,現在請負で行っているものには,クリーニング,包装,レストランのサービスなどがあり,請負に従事している被雇用者は400人である。
サムホールの目的は,周知のように通常の企業やサービス業と同じ普通の職場の条件を整えることである。障害者はその能力に応じて働くが,通常仕事のスピードが遅い。サムホールでは,補助具を用意するなどの技術的援助やその他の援助を行うが。他の企業と同じ装置で,可能な限りおなじ作業場で製品やサービスの生産を行おうとしている。
今日サムホール・グループには3万4,000人の被雇用者がいるが,内2万9,000人はさまざまな障害を持つ。およそ48%が身体障害,32%が精神薄弱,そして 20%が社会医学的問題を持つ人々,例えばアルコール,薬物などである。この最後のグループを障害者の中に数えるのが,スウェーデンのユニークなところであろう。サムホールのすべての工場およびエンクレーブではさまざまな障害者が一緒に働いている。
個人の能力開発はサムホール・グループの基本的運営方針の一つである。被雇用者が自信,自尊心を高められるよう考えられている。グループで行われている能力開発手段のなかには,個人別能力開発計画,導入訓練,基本技術訓練,全被雇用者が企業の運営に意見を述べ,参加できるようにする方策としての共同職場計画,計画的仕事のローテーション,管理能力とリーダーシップ開発,作業環境職場保健,被雇用者同志による協力活動,障害別プログラムなどである。

冒頭で言及したが,他の職場へ移行することも目的の一つである。つまり,サムホールは職業障害者に職場を提供することだけを目的としているのではない。それぞれが他の職を見つけるようにしなければならない。1980年にサムホールが始まったときには年間の他への就職者は300人,約1%だった。以後年々増えており,今年は1100人,4%を超えている。これは,グループの能力開発重視の結果といえよう。
1987-8年のグループの総取り引き高は10億ドルと予想され,収入の48%は売り上げであり,52%は政府の補助金である。これは,職業障害のある被雇用者の一人当たり売り上げ収入は1万5,000ドル,国の補助は1万6,500ドルとなる。1980年来固定価格のなかで,国の補助金を5000ドル減らすことができ,議会の支持も増大した。毎年,政府に対して雇用見込み障害者数と仕事毎の予定価格を提出する。政府は意見を付けて議会に提出し,議会が翌年の上記に関する条件を決定する。
1980年以来スウェーデンの全保護雇用に関して責任を持つ会社グループという新しい組織ができた結果,1)以前に比べて全国の保護雇用の分布が平均化した,2)障害者の収入が良くなり安定した,3)重度の障害を持つ人々の仕事が増え,有意義な仕事を提供できるようになった,4)ビジネス感覚が高まり,スウェーデンの他の会社との良い協力体制ができた,5)サムホールでの経験のあと他の企業に移る障害者が増え,現在は年1100人になった,6)生産と販売の調和がとれるようになった。このことは政府の立場からいえば, 1980年以前の組織を継続した場合よりも総計で30億スウェーデン・クローネ倹約できたことになる。

全国の全保護雇用に責任を持つ一般企業に近い組織というスウェーデンの新しいモデルは,働きたいと望み,働く能力のあるすべての障害者の権利を充たす方向に向かって重要な前進であったといえよう。またこの新しいモデルは,一般労働市場に仕事が見つからない重度な障害者に対して,以前に比べてずっと統合されたノーマルな形で仕事を提供する方法でもある。スウェーデンでは賃金補助をはじめとする雇用サービスによるいろいろな援助によって,一般労働市場における就労の可能性開拓のためにまず資源を利用している。しかし,これでは十分ではない。すべての障害者に仕事を提供したいと考える社会には,他企業の諸条件とよく似た状況のもとで,障害者が重要な望まれている仕事をしていると感じられる場を提供するサムホールのような補助策が必要となる。しかし,この人々も,もし他の一般企業に仕事が見つかる可能性があれば,もっとニーズの高い他の障害者のために場を譲ることが必要である。障害者の職業に対するニーズは将来増えることは確実である。教育を受けた障害者が増えたのも一因であるが,それだけでなくスウェーデンの文化では仕事を持つことが収入源としてだけ でなく,地域社会への所属感としても重要なのである。同時に,知的,および社会医学的障害に対する雇用主および他の被雇用者の態度は否定的である。さらに90年代に向かって企業の要求する能力は高くなっている。したがって,90年代に向かい,障害者に意義ある仕事を生み出すにはかなりの援助が必要である。サムホール・グループはその一つの解答,モデルといえよう。

医用サービスロボット研究室

HEALTH AND HUMAN SERVICES ROBOTICS LABORATORY

K.G.Engelhardt
The Robotics Institute.Carnegie Mellon University.USA

医用サービスロボット研究室(HHSR Lab)では,ロボットおよびAI技術を基礎としたシステムの調査研究を行っている。本研究の最終的な目的は,人間とシステムがうまく融合するための基礎知識を得ること,サービス業務を行うロボットの発展のための基礎となること,先端技術を応用することにより健康管理のサービスの質を向上させ,また新たなサービスを展開する一助となること,最後に患者と介助者の両者の自立を高める新しいシステムを作り上ゲることである。
人間側の要因,すなわちこれらのシステムの対象となる人々の帰能や認識の能力がHHSR Labにおける研究の中心となっている。
現在の研究室の活動は,複合化したシステムの設計・開発および相互評価に関連した研究に主眼をおいている。

-快適な家庭
AIやロボット工学は暖かな家庭環境を,障害を持った人々にも作り出すために使われてきている。障害者や老人といった弱者が自立し,より長く自分の家にいられるようにするためにこの研究は行われている。この「快適な家庭」の研究による環境は年齢や障害に関係なく,治療およびリハビリテーション上も優れた生活環境を生み出すであろう。この環境はフレキシブルな「自動栄養管理システム」(ANS)を含む。このANSはロボットマニピュレータを用いて,食物の貯蔵,補給,配達,準備および医療的栄養管理を行う。

-ロボット・音声ワークステーション(RVW)
音声命令で動かすロボットを含むワークステーションを作り,上肢に障害を持つ人がさまざまなことをできるようにして,就職の可能性を増やそうという研究を行っている。このRVWによって障害者は,記録,書類作成,プログラミング,電話の応対その他多くのことを一人で行うことができるようになるであろう。このワークステーションはパーソナルコンピュータ上のソフトウェアだけでなく,遠隔地のデータベースやコンピュータ通信の電子掲示板等も利用できるであろう。

-移動ロボット用言語:人間機械等のインターフェースに関する基礎研究
移動ロボットの操作において,音声入出力の効率を最適化するための研究である。人間の嗜好,自然言語とのインターフェース,計画,誤り修正機能の方法が,自動運転または人間が操作する車の命令コマンド体系を開発することにより,研究されている。

-認識力の再訓練と記憶の回復
認識に関する仕事において,会話式システムは記憶に障害を負った人々を助けるために研究されてきている。これらのシステムは,脳出血や記憶喪失を持った人々の助けとなり,またその近くの脳の部位に外傷を負った人々にも役に立つ可能性がある。

-触診情報
人間の「動的知覚」の基本的研究は現在行われている。健康管理の専門家の知覚は,実験を通して分析されている。

技術革新と障害者

TECHNOLOGICAL INNOVATION AND DISABLED PERSONS

三輪 紀元
富士通株式会社 ソフトウェア開発本部 ソフトウェア事業部

1.日本経済の特徴
日本の経済は変化している。産業構造が変化しているのである。技術革新を積極的に採り入れている日本の会社は,低付加価値品は海外にシフトし,開発・設計は日本,製造は海外と国際化が進展している。
これに伴い,日本の企業の中の職務が再編成されている。一方,日本の企業は,終身雇用制度が守られており,企業内の職務に変化があれば,不要な職務に従事している社員を,不足する職務へ配転することが多い。
欧米や米国のように不要な職務に従事している社員を解雇し必要なスキルを持つ社員を採用することはしないのである。
また,日本の企業は,学校を卒業する新規学卒者を採用し,企業内で,スキルを与え,スキルの上昇に伴い,それに見合った職務に配置している。

I.日本の産業構造の変化

技術革新
給与世界一
高学歴化
低付加価値品海外生産  政府予測
高スキル者-不足
低スキル者-余剰
国内-開発
海外-製造

II.

余剰 不足
欧州・米国 レイオフ・解雇 採用
日本 不足部門へ転換 余剰部門より受け入れ
更に不足すれば採用

III.日本企業

NON Skill
労働者 採用
[新規学校卒業者]
企業が教育
スキルアップ
スキルアップの度合
により職務を変化
終身雇用

障害者も同様で,企業内での職種転換プログラムを受ける。しかし,非障害者の職種転換プログラムだけでは,必要なスキルが身につかないことが多い。このため,職種転換プログラムを受けた際,障害の部位度合いに応じた個人毎のOJTを受けることにより,ジョブ・エンリッチメントが図られて技術革新を積極的に採り入れている日本企業では,障害者の雇用・職種転換のノウハウを有する企業が多い。

IIV.非障害者

職種転換教育 ジョブ・エンリッチメント

障害者

職種転換教育 個人毎OJT ジョブ・エンリッチメント
Development & Engineer
2.技術革新によるメリット技術革新に伴い障害者の雇用拡大や社会参加が実現したケースがある。
  1. 在宅勤務
    ネットワークとワークステーションの出現により,通勤しなくてすむ在宅勤務が可能となった。 日本の場合,人口が多く通勤事情が悪いが在宅勤務により肢体不自由者や脳性麻痺者を中心に雇用の機会が拡大する。
  2. 音声入力/出力
    障害者向けのソフトウェアも出現している。日本では,入出データーを音声で読み上げる音声化ソフトウェア「OS-TALK」が,福祉団体だけでなく日本のコンピュータのトップメーカー富士通が販売を予定している。
    これだけでなく,音声入力や音声出力は,大容量のメモリ機能を持つ超LSIの出現により,安価に提供できるようになった。肢体および視覚不自由者への福音である。
  3.  電子機器アクセシビリティ指針対応機器 障害があっても,エレクトロニクス機器を使えるようにするため,アメリカ政府が制定した基準が「電子機器アクセシビリティ指針」である。 まだ,日本の政府の動きはないが,民間ベースでは同指針に対応させる動きがある。前述の「O S‐TALK」などもその一例である。

3.技術革新によるデメリット
日本経済の変化に伴い,低スキル者の新規雇用よりも,まず,現在雇用されている人の高スキルへの転換が重要視された。
当然,低スキル者の新規雇用の動きは鈍い。しかしながら,公共の職業訓練校や学校で,企業が望む高スキルを修得した障害者の雇用は順調である。
職業訓練制度も技術革新によって,カリキュラムの見直しが急務である。
また一方で,企業内の職務転換教育を受けてもなお,高スキルへ転換できない障害者対策も必要である。企業内ではなく,公共の職業再訓練のレジームが必要となってきている。

4.結び
今後とも,技術革新は続き,絶えることはない。この技術革新を障害者雇用にメリットをもたらすようにとり入れることが必要で,ハンディキャップに手を差し伸べる可能性がエレクトロニクスを中心とした技術革新には存在する。

V.技術革新による障害者雇用
メリット→雇用拡大、障害者の社会参加

在宅勤務
音声入力

  • ネットワークとワークステーション
  • 通勤不可能者の雇用拡大
  • 障害者向け専用ソフトウェアの出現
    ex.入力データーを音声で読み上げる音声化ソフト「OS‐TALK」

アメリカ政府制度
電子機器アクセシビリティ指針 対応機器の出現

(障害があってもエレクトロニクス機器を使えるようにするための基準)

VI.デメリット

低スキル者の雇用困難 職業訓練の充実
高スキルへの転換不可者

主題:
第16回リハビリテーション世界会議 No.5 185頁~222頁

発行者:
第16回リハビリテーション世界会議組織委員会

発行年月:
1989年6月

文献に関する問い合わせ先:
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone:03-5273-0601 Fax:03-5273-1523