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分科会SC-3 9月6日(火)14:00~15:30

社会保障制度へのリハビリテーションの統合

INTEGRATING REHABILITATION WITH SOCIAL SECURITY SYSTEMS

座長 Prof.Monroe Berkowitz Bureau of Economic Research,Rutgers University〔USA〕
副座長 寺山 久美子 東京都立医療技術短期大学教授

社会保障制度へのリハビリテーションの統合

INTEGRATING REHABILITATION WITH SOCIAL SECURITY SYSTEMS

Monroe Berkowitz
Professor of Economics,Rutgers University,USA

最新の概算によれば,1986年度の米国の障害関係支出は1,694億ドルで,GNPの4%にあたる.この数字は18~64歳を対象とする公私両セクターの障害プログラムで使われている全支出についての我々のほぼ正確な推定である.
この合計は,全支出が985億ドルでGNPの3.6%であった1980年度から伸びており,GNPの1.9%を支出した1970年度からは相当な伸びを示している.
しかし,1970年の,いわゆる直接サービスと呼ばれる障害関係への支出は障害支出の5.4%であった.これらは現金給付やメディカルケアの基金ではなく,労働力への復帰を目的としたリハビリテーションや他の直接サービスなどの方法で援助するのに使われる金額である.
1970年から1980年,1980年から1986年にかけてリハビリテーションへの支出額は増加しているが,直接サービスへの支出は全障害関係支出において,年々その割合が少なくなっている.1970年度のリハビリテーションその他の直接サービスへの支出は障害関係支出の5.4%である.1980年にはこの割合が3.5%になり, 1986年には2.1%に減少している.
なぜリハビリテーションへの支出がこんなに少ないのかという問題を提起したい.
いくつかの答えが考えられる.
我々はリハビリテーションが採算の合うメカニズムであるとは実際には確信していない.あらゆる説明がなされているにもかかわらず,リハビリテーションへの支出の増加が1ドルでも節約につながるとの確信はない.
他の理由も考えられる.現金給付のプログラム,たとえば,労働者の賠償や,障害,傷病プログラムの受給者や申請者がリハビリテーションを受けたと見なすことは論理的に可能ではなかろうか.
国際リハビリテーション協会は米国社会保障行政からこの問題を研究するために助成を受けている.今日ここに,社会保険プログラムへのリハビリテーションの統合に関する幾つかの問題点を研究しようと集まっている.
世界中の国々を見ることによって,さまざまな歴史,文化,方針を持つ個々の国々が,この異なるシステムを統合しようとする作業にいかに取り組んでいるかを学ぼうと思う.これは容易な仕事ではない.いくつかの問題点の中でも特に次のものがあげられる.
受給の対象となる人を探し,申請を提出させ,選考せねばならない.
申請者は継続的給付―現金と医療―を受けられるならば就労したい,あるいは復帰したいと願う人でなければならない.
サービスは最小限かつ十分な期間提供されねばならない.サービスには医療サービスと平行して相談,訓練,教育,職業あっせんがある.
これらはどんなリハビリテーション・システムにも共通の問題点である.多くの国がこれらの問題を無視しているが,誰が責任をもって,リハビリテーションのための資源を探し活用を促進するのであろうか.
この場面には俳優が数人いる.人物の配役は当然,国によって異なるであろう.まず最初に病気をした人が登場する.この人は介在機関の援助なしにこれらのサービスを探すかもしれない.
いくつかの別々のリハビリテーション機関がある.社会保険当局は我々が最も関心をいだく俳優たちである.彼らの態度は給付を支給するためにだけそこにいるというものかもしれない.つまり,リハビリテーションは他の機関の責任であるという態度である.さらに,医療当局と労働当局があり,その双方がリハビリテーションに関心をいだいているかもしれない.最後に,リハビリテーションにかかわる民間の人々がいるかもしれない.
多くの国においては,これらの俳優の個々の役割はなんら互いに関係がない.一度に全部の俳優がステージに上がっていて,そしてそれぞれが違う劇を演じているかもしれない.我々のプロジェクトは,さまざまな国におけるシステムを調べ,リハビリテーションの組織や実際に行われているモデルのなかに刷新的なものがあるかどうかを確かめるために企画されたのである.これらのモデルは動機,労働評価,職業あっせんその他この分野に関するものである.

米国の社会保障プログラムにおけるリハビリテーション改革

REHABILITATION INNOVATIONS IN THE UNITED STATES'SOCIAL SECURITY PROGRAM

David A.Rust
US Social Security Administration,USA

はじめに

米国における社会保障プログラム,および現在我々が進めている障害手当の申請者あるいは受給者に対して雇用の機会を創出するための新しく革新的なプログラムについて述べる.最初に,社会保障局(SSA)に関して背景的なことを述べる.
障害プログラムは,毎月4,000万人以上に支払う退職者・遺族・障害者給付をまかなう米国社会保障プログラム全体の基本的な部分をなしている.また,障害プログラムは,労働者やその家族,あるいは総労働力人口としては限られた部分となっているような低所得層の人々に対する連邦障害保険も供給している.
1987年には,1億1,080万人の労働者,すなわち21歳から64歳の労働者の5分の4に社会保障障害保険が適用されていた.SSAには2種類の障害プログラムがある.社会保障障害保険(第2章)と補足的社会給付 (SSI)(第16章)である.

社会保障障害保険

障害保険プログラムは1955年に制度化され,1957年に最初の支払いが行われた.1億1,080万人が社会保険に加入しており,410万人(280万人の労働者と130万人の扶養家族)が社会保障法第2章による障害保険を受給している.障害をもつ労働者とその扶養家族に対するSSAの支払い額は20兆6,000億ドルに上る.一人当たりの月平均額は,約508ドルである.
社会保障法第2章に従い,人々は社会保険の適用を受ける雇用に就くか自営業により障害保険の受給資格を得る.
第2章の支払いは,連邦障害保険信託基金から拠出され,それは受給者の他の収入,たとえば民間保険・預金・投資から得るものとは関係なく支払われる.
加えて,8兆2,000億円がメディケアとして支給されている.これは,社会保険の受給資格がすでに2年以上ある者のために,健康保険の範囲で支払われる.

補足的社会給付(SSI)―第16章障害

従来の社会保険による障害保険は,受傷以前に一定の正規雇用についていなかった障害者に対する支給を含んでいなかった.これらの人々に対する支給は,1972 年,社会保障法改正に伴って創設された補足的社会給付(SSI)により開始された.1972年改正法は,従来あった65歳以上の人,視覚障害者,障害者のための連邦プログラムに代わるものであった.
SSI受給者は440万人であるうち,視覚および他の障害による者が290万人おり,彼らに対する連邦からの給付総額は94億ドルで一人当り月額平均は,287 ドルである.
SSI障害者プログラムは福祉プログラムであり,所得と財産を基にニーズテストによる受給資格が限定されている.これを受給する障害者は,障害プログラム受給資格基準を満たさなければならない.これら受給者は大体,メディケイド,すなわち経済的にニーズのある人々のための連邦健康保険の受給資格ももつ.

障害の定義

我々が所管するこの2つの障害プログラムの間には多くの相違点が見いだされる.しかし,社会保険による障害の法的定義は,双方の障害プログラムに適用される.
社会保障とSSIにおける障害とは,以下のような理由によりどんな実質的な収入活動にも従事できないこと,と定義されている.

  • ―医学的に明確にされたすべての身体的・精神的障害で,
  • ―生涯永続すると予想され得るもの,または,
  • ―少なくとも連続して12ヵ月間続くと予想され得るもの

おわかりのように,この定義は一時的な障害を認めていない.また,厳密な医学的判定でもないのである.

SSA職業リハビリテーション・プログラム

所得および健康の保障に加えて,社会保障障害者プログラムは,障害者が特に雇用を通じて自足できるように援助する目標ももっている.
多年にわたりSSAは,受給者を,各州で障害者へのサービスを提供している職業リハビリテーション機関に委託してきた.この州のプログラムは,連邦教育省の管轄下にある.このようにSSAと教育省は,障害保険受給者に職業リハビリテーションサービスを供給することにおいて協力し合っている.

障害者の雇用機会創出のための改革

医学リハビリテーション,職業リハビリテーション,そしてリハビリテーション工学技術の目覚ましい進歩が広範にわたったことにより,職場復帰をする障害者の数を増大させることができるようになった.進んだリハビリテーションや雇用サービスの発展のおかげで,SSAは,障害保険の受給を申請したり,現に受けている人々に雇用機会を創出する刷新的プログラムに着手している.
このプログラムは,申請者や受給者,官民のリハビリテーションや雇用サービスの提供者,事業主,労働組合,医師,およびSSAのスタッフが協力して障害者の雇用確保へ向けての効果的な援助を目指すものである.この新しいSSAの制度には3つの主たる戦略がある.

  • ―新たな就労奨励政策
  • ―就労奨励政策や利用できる職業リハビリテーションや雇用サービスに関する啓蒙の促進
  • ―社会保障受給者に対する刷新的,効果的,費用効果的方法開発のための,試験的プロジェクトを実施する国家的プログラム

これらの戦略は,より多くの障害者を雇用による自足へ向けて援助するための組織的プログラムを導くものである.成功した場合には,障害者の連邦負担への依存を軽減させるであろう.

就労奨励政策

最近の法令において,社会保障受給者に対する就労奨励政策が障害者にも広げられた.
障害保険を受給している者は9ヵ月間の試験就労ができる.その期間中に,毎月保険の全額給付を受けながら職業能力があるかを試みる.9ヵ月以上雇用が続けられた場合,39ヵ月間中において働くことができなかった月には受給権が生じる.この延期期間中健康保険も受けられる.
SSIにおいても,働きながら所得保障の一部を受けられる,という特別の規定がある.収入があるレベルに達するとその支給は打ち切られるが,健康保険は受けることができる.
SSIの受給者は,支給の期間中,自足への継続活動(PASS)中ということで所得の一部を差し置いて受給を続けることができる.
これらの就労奨励政策の拡大の結果,職業能力を試す人が増加し,さらなる奨励策が目下,国の試験的プログラムで行われている.

社会啓発キャンペーン

SSAは,その雇用政策に関する啓発キャンペーンを,受給者,多くの職業リハビリテーションや雇用サービス機関,医師,事業主,保険分野,その他の機関に向けて行っている.新しいマーケティング技術の使用によりこれらの人々に対する効果的なコミュニケーション・アプローチの試みも行っている.
全国1,200ヵ所の事務所にいる国および地域のスタッフや就労奨励専門官のための訓練プログラムを行っている.また,全国に配布するために,就労奨励政策や職業リハビリテーション・プログラムに関するあらゆる種類の印刷物やビデオを製作している.
地方の新しいプログラムが受給者を労働の場へ復帰させる援助策となることを願って,サービス供給者に,働きかけを行っている.

実験的プログラム

SSAは,革新的な職業リハビリテーションと雇用の戦略を試みるため,全国的な実験的プログラムを実施してきた.このプログラムは,法令による要求および全国障害者諮間委員会の勧告に従ったものである.障害者諮問委員会は,障害保険の受給者を雇用にむすびつけるための新しい援助策の必要性を強調した.
この実験的プログラムの実施については,複数の機関が,SSAが定めた調査実験の優先事項に基づいて計画書を提出し,全国公開で競われ決定される.計画書は,客観的基準によって評価がなされ,SSAの委員と行政官によって選択される.

主要領域

 SSAは実験的試みの実施にあたり,職業リハビリテーション・雇用プログラムの効果的継続を勧めるうえでさらに情報が必要とされる4つの主要領域に注目している.
  1. 早期介入
    障害の申請手続きの早い時期に職業リハビリテーション,雇用援助,就労奨励策の利用可能性と効果について情報を提供する.
  2. クライアント評価の向上
    リハビリテーションの有効性について迅速かつ的確な評価を提供する.
  3. 照会の能率化と統合
    障害者と適切な職業リハビリテーション提供者とを結び付け,雇用サービスへの照会を行う.
  4. サービスの介入と管理の調整
    サービスが目標を達成し,それが効果的かつ経済効率的であることを確かにする.

実験的プログラム計画

実験的プログラムを通して,全米27州で40のプロジェクトを実施している.また,近い将来さらに40から50ヵ所開始する予定である.
主要なプログラム領域のなかで情報を集積するための計画には以下のものが含まれている.

  • ―リハビリテーションと雇用の可能性を分析評価し,受給者に適切な雇用援助をするためのコンピュータ・システムの使用
  • ―照会と職業リハビリテーションサービスとの調整
  • ―民間の職業リハビリテーション機関への補助方法および経費の抑制策・管理策の使用
  • ―ケース・マネージメントを用いた総合的雇用サービス
  • ―受給者の職場復帰のための新しいリハビリテーション工学・技術の使用
  • ―高い水準の職務能力測定法 ―外傷性脳障害のような損傷の専門的な研究
  • ―当事者自身によるリハビリテーション・雇用プログラム
  • ―受給者と適切なサービス提供者とをよりよくつなげるための新しいコミュニケーション方法
  • ―完全雇用につながるような訓練を促進する方法

SSAは実験的プログラムを通じて,組織的かつ経済効率的プログラムの開発・実施や,障害をもつ受給者の雇用による自足への援助に必要な情報を得ることができるであろう.

結論

  1. SSAは,障害者の雇用を援助することを主要な目標としている.
  2. 新施策により,機会を拡大し,障害者が能力を最大限利用できるよう支援している.
  3. 新しい就労奨励政策,コミュニケーション戦略,実施中の試験的試みにより,受給者の労働市場への復帰援助に役立つ価値のある情報が提供されている.
  4. 我々の目標は,全米を通じ官民双方のプログラム,障害者の生活の質向上のために努力を続けることである.
  5. この目標遂行にあたって,我々は引き続き世界中の知識を参考にしたい.
  6. 同様に,我々が他国に供与できるような知識や経験を得たときに,それを,関心あるすべてのグループと分かち合いたい.

日本におけるリハビリテーションと社会保障

REHABILITATION SERVICES AND SOCIAL SECURITY IN JAPAN

板山賢治
日本社会事業大学教授

1 障害者リハビリテーション政策の目指すもの

  1. それは,障害者の「完全参加と平等」の実現にある.
  2. その実現のためにリハビリテーション政策は2つの機能を持つ.
    1. 1つは,当事者であり主人公である個々の障害者に対する医学的,教育的,社会的リハビリテーションの効果的実現に必要なプログラムの策定と推進である.
    2. その2は,障害者の「完全参加と平等」の実現を阻んでいる各種システムの改善のためのプログラム策定と推進である.

2 日本におけるリハビリテーション政策の展開

  1. 1940年代までは,障害者(戦争犠牲者を除き)は,一般貧困者として公的扶助の対象であり,専門的な対策は存在しなかった.
  2. 1949年,「身体障害者福祉法」が制定されてから各種リハビリテーション法制の実現を見ることになるが,その歩みは次のように区分できる.
    1. 障害別立法期(1940年代~1960年代)身体障害(1949年),精神障害(1950年),精神薄弱(1960年)を対象とする法の実現.
    2. 調整的立法期(1970年代)調整機能を持つ心身障害者対策基本法(1970 年),養護学校の義務化(1979年)の実現
    3. 総合リハビリテーション法整備期(1980年代)「完全参加と平等」の実現を目指しての総合的リハビリテーション法および専門職関係法が相次いで制定されている.

3 総合リハビリテーションの実現を支える社会保障施策の現状

  1. 「完全参加と平等」の実現を目指す総合リハビリテーション政策を支える社会保障施策
    1. 「障害者対策に関する長期計画」(1982年)の策定と「後期重点施策」(1987年)の決定
      • イ 啓発・広報
      • ロ 保険・医療
      • ハ 教育・育成
      • ニ 雇用・就業
      • ホ 福祉
      • ヘ 生活環境
      • ト スポーツ・レクリエーション・文化
      • チ 国際協力
      (注)政府は,障害者対策本部(22省庁)を設置してその推進に当たる.
  2. リハビリテーション各分野を支える社会保障
    • イ)保健医療的分野
      1. 一般疾病および特定疾病の治療等
        • イ 職域健康保険システム
          • 健康保険法(1922・法70号)
          • 労働者災害保障保険法(1947・法50号)
        • ロ 地域健康保険システム
          • 国民健康保険法(1958・法192号)
          • 老人保険法(1982・法80号)
        • ハ 特定疾病医療システム
          • 精神保健法(1950・法123号)
          • 結核予防法(1951・法96号)
          • らい予防法(1953・法214号)
        • ニ 公費負担医療システム
          • 生活保護法(1950・法144号)
          • 身体障害者福祉法(1949・法283号)
      2. 保健医療管理法制
        • 医療法(1948・法205号)
        • 保健所法(1947・法101号)
        • 理学療法士および作業療法士法(1965・法13号)
        • 義肢装具士法(1987・法61号)
    • ロ)教育的分野
      • 学校教育法(1947・法26号)
      • 盲学校,ろう学校および養護学校への就学奨励に関する法律(1954・法144号)
      • 日本育英会法(1944・法30号)
    • ハ)雇用,就業的分野
      • 職業安定法(1947・法141号)
      • 職業訓練法(1969・法64号)
      • 身体障害者雇用促進法(1960・法123号)
        (障害者の雇用の促進等に関する法律)
    • ニ)社会的福祉的分野
      • 社会福祉事業法(1951・法45号)
      • 児童福祉法(1947・法164号)
      • 身体障害者福祉法(1949・法283号)
      • 精神薄弱者福祉法(1960・法37号)
      • 老人福祉法(1963・法133号)
      • 戦傷病者特別援護法(1963・法168号)
    • ホ)所得保障分野・生活保護法(1950・法144号)
      • 国民年金法(1959・法141号)
      • 厚生年金保険法(1954・法115号)
      • 特別児童扶養手当法(1964・法134号)
      • 労働者災害保障法(1947・法50号)
    • ヘ)生活環境分野
      • 公営住宅法(1951・法193号)
      • 道路交通法(1960・法105号)
      • 交通安全施設等整備事業緊急措置法(1966・法45号)
      • 身体障害者旅客運賃割引規制(1952・公示121号)
      • 郵便法(1947・法165号)
      • 所得税法(1965・法33号)
      • 物品税法(1962・法48号)

表 障害者対策関係予算 (単位:百万円)

省別 1982年(A) 1988年(B) B/A
1 総理府 24 24 1.00
2 警察庁 86 94 1.09
3 総務庁 190,514 192,219 1.01
4 法務省 0 60 -
5 外務省 0 14 -
6 文部省 107,789 116,265 1.08
7 厚生省 1,000,924 1,611,119 1.61
8 通商産業省 599 275 0.46
9 運輸省 14 9 0.64
10 郵政省 1,327 294 0.22
11 労働省 17,060 39,625 2.32
12 建設省 448 400 0.89
13 自治省 0 5 -
合計 1,318,785 1,960,403 1.49

オランダの社会保障制度における新展開

―職業法の新しい流れから見た,社会的不利を持つ障害者の社会的立場―

NEW DEVELOPMENTS IN THE SOCIAL SECURITY SYSTEM IN THE NETHERLANDS:THE PLACE OF THE HANDICAPPED PERSON IN SOCIETY FROM THE VIEWPOINT OF THE NEW TRENDS IN VOCATIONAL LEGISLATION

Martin W.J.Menken
Ministry of Social Affairs and Employment,the Netherlands

はじめに

まず,課題が大きすぎることと,時間的にも制限がある発表だということをあらかじめご了承いただきたい.実際のところ,「己れの限界を認識する」というのは本世界会議のモットーであるともいえるので,障害者のみならず,社会全体にとって,特に法的見地からこのモットーが通用するものであるということをこの発表を通じて示したいと思う.
本稿に「限界」があるとすれば,それは以下の2点にしぼられる.
ここで取り上げる問題を,もし科学的方法で論じるとするなら,社会学者や心理学者といった人たちによって,複数の見解からも考察されるべきであろう.しかし,この発表では,私のみの考察に限られている.つまり,オランダの社会雇用省障害者雇用対策部長としての個人的経験に基づいた意見のみに限定されている.これが一つ目の「限界」といえる.
二つ目の限界は,発表を論題の最も重要な点にしぼらざるをえないことである.より詳細な論文が参考資料として役立つであろう.

「社会的不利を持つ労働者雇用法」の成立

1947年,障害者の労働市場における地位改善に向けて試みがなされ,1948年1月1日には「障害者雇用法 (Disabled Persons Employment Act)」が施行された.この法令に基づき,雇用主は,最低限2%の障害者を雇うように義務づけられた.しかし,この法令は,期待されたほどには効果を発揮しなかった.実施してみて,法律に定義されている「就労に不利な障害を持つ者(a less able-bodied worker)」の概念が,十分正確でも,融通性に富むものでもないことが明らかになったからである.また,この法令を主張したり,推進したりする機会がなかったことも,失敗の一因を担っていた.こうした理由から,この法令はまもなく「社会的不利を持つ労働者雇用法(Handicapped Workers Employment Act)」(WAGW)に置き換えられることになる.

雇用割当計画

このWAGWは,以前の「障害者雇用法」の中にうたわれたのと同様,5%の割当雇用を含む内容が当初盛り込まれる予定であった.しかしこれは,次のように修正された.
―障害者が,労働生活に統合または再統合されることを保証するため,雇用主(団体)と,被雇用者団体に対し,なるべく相互協議によって措置を講じることを義務づける.
―3~7%の雇用割当を一般行政規則によって義務づける.しかし,これが適用されるのは,WAGWの実施から始めの数年間に,障害者の労働生活への統合または再統合に関して,ほとんど,または全く何も成されなかった場合である.実施されるのは,WAGWの中に言及されたSER(社会経済評議会)とSVr(社会保障評議会)などの諮問機関によって,勧告が出された後である.SERは,判断基準の範囲が,産業の主要部分に及ぶ場合と,もっと全体的な問題を含んでくる場合にのみ,勧告を出す機関である.
修正案は,それが極端にならないようにチェックされた後,WAGWに対して出された.内閣は,産業にかかる負担を軽減するため極端ではない法案を採択するからである.このことは,産業の活性化をもたらしたといえる.たとえ改正が加えられても,この修正法案には修正前と同様に,特定の人ばかりが利益を得ることを防ぐばかりではなく,障害者の個人的成長と,機会平等に関する原則は維持されていることを指摘しておこう.
またWAGWは,単に強制的な割当雇用を意味するわけではないことを指摘するべきであろう.WAGWと歩調を合わせ,それに沿った形で,一連の調整のとれた対策と方法が用意されている.これらはいずれも,以下に示す三つの再統合方針にそったものである.

  1. 実際の,あるいは仮定される障害者自身に対する外的な障害を減じること.
  2. 実際の,あるいは仮定される障害者自身の障害を減じること.
  3. 既存する対策や方法,あるいはWAGWの下に改善された対策等を統合し,強化すること.

障害者にとって最も重要となる現実的な外的障害とは,仕事の不足である.この障害を取り除くため,前述のとおり産業を支える雇用主と被雇用者が,統合,再統合を促進するような措置を講じる義務がある.さらに,この二者が上述の内容を十分満たさない場合は,割当率を,一般行政規則によって義務づけることが提言されることになる.

他国の例

WAGWによって打ち出された雇用割当計画は,ドイツの制度と類似している.ドイツのものは,政府と産業に対して等しく適用力をもち,障害の種類や職業によって分類されず,徴税制を採用している.ただ,西ドイツのものは,6%に定められた基準割当が,官の雇用主に対しては上げられる可能性を持っている点で,WAGWと異なっている.この割当が満たされない場合,雇用主は,すべての求職に設けられた特別基金に,障害者一人につき月額100マルクを支払わねばならない.現在,この割当率を変えずに残す方法で,この法令の見直しがなされている.
参考のため,他の諸国における統合,再統合についても,ここで言及しておこう.
フランスでは,すでにかなり長い間,雇用割当制度を採用しているが,これには3%の基準割当と,戦争被災者のための追加割当が含まれる.この割当率を満たさない雇用主に対し,罰金が課せられる.この罰金は,生活賃金の割合で決められる.現在,この制度の見直し,および単純化がなされている.
イタリアにも割当制度の計画があるが,戦争被災者に関する特別の規定が含まれているため我々にとって,かなりわかりにくいものとなっている.
ベルギーでは,行政事務に新しく採用される人材に関して,3%の雇用割当があるにすぎない.その他には,結束を叫ばれている産業部門で共同労働協約に対して,組合協約ができる可能性がある.
アイルランドでは,障害者の3%雇用を推進しているが,これは,行政事務に適用されるのみである.スペインには2%,ギリシアには官職に対して7%の雇用割当がある.後者では,民間産業にもこの制度が採用されるように提案されつつある.
3%の雇用割当がイギリスに紹介された時期は,第二次世界大戦にまでさかのぼる.しかしこの制度の実施は,決してうまくいったと言えず,規定も,しばらくの間は強制力を持っていなかった.1984年の終わりになって,英国政府と雇用主団体そして被雇用者は,優れた実施規約に同意したが,これは,障害者の雇用に関しても役立てられると思われる.
機会平等と反差別が,より強調されてはいるが,合衆国にも,この分野で法令がある.日本には,産業別に小分けされた計画のより詳細な割当制がある.対象は,その数,障害の程度によってさまざまである.この協約を満たさない雇用主は,障害者の地位向上を図るための寄付金を支払う.その他,雇用主は,障害者の利益のために自分の負った費用に対して助成金が受けられる.
ここで,次の事実に是非とも注意を向けていただきたい.それは,EC委員会がある勧告書の草案を作成したことである.この勧告書は,ヨーロッパ会議と経済社会委員会による勧告が出された後,評議会で論じられるべきである.勧告書の中には,割当計画を制定することに直接関わる要求はないが,20人以上の被雇用者を有する企業が一定の目標の雇用率を達成するようにするための段階的措置を講じるように提言されている.つまり割当計画がうたわれる可能性があると言えよう.それ以外には,障害者の統合過程で達成された結果について,年間報告を出すように勧める計画も含まれている.

雇用割当制のゆくえ

こういった見地から,割当制度が広く普及して,世界中に受け入れられるべきであると結論できるかもしれない.にもかかわらず,前述のとおり,これらの制度については多くの議論も生まれている.そのような中,オランダでは,ごく最近になって新しい割当制度が制定されたのである.どのようにしてできたのであろうか.
すでに述べたように,以前の制度は1947年にまでさかのぼるが,あまり義務性を持たず,効果がなかった.他国の例でも,方針があっても効果的な手段が伴わなければ良い結果が生まれないことは明らかである.
繁栄している経済状況や低調な経済状況の双方の下で,障害をもつ者ともたない被雇用者がお互いに向き合うため,割当制度を必要としているのである.その時にこそ,労働過程において真の統合が実現されるのである.さらには,障害者の物質的側面以外に対する対策も大いに必要となってくるのである.
この雇用割当制度の大きな長所は,障害者の雇用に対する二つの障壁を一つの機能で一度に攻撃できることである.この二つの障壁とは,仕事の不足とリハビリテーション部門を支える資金の不足である.根本的なことは,この制度が重度障害者をも対象としていること,官民双方の雇用主に適用されるということである.
今のところ,EC加盟国がドイツの方針に則り,今までなかった雇用割当制度を採り入れる動きは見られない.あるいは,ドイツにならい,現在自国にある割当制度を強化,改善する計画を持っているという形跡もない.その上,多くの障害をもたない労働者でさえ雇用されない現在の経済状況下にあって,割当制を率先して採り入れることは非生産的であるという意見までしばしば聞かれる.イギリスでは,かなりの議論を重ねた結果,一般には不成功と見なされている割当制度を,廃止しないことに決めた.その代わり公式なものではあるが自発的な障害者の雇用に関する適正規準 (Code of Good Practice on the Employment of Disabled People)を作成している.これは,間違いなく今後の方針および実施のための礎を意図してのことと言えよう.

障害者雇用の促進と社会の努力

ところで,個人と仕事の関係を特徴づける言葉に次の三つがある.すなわち,義務(must),可能(can),許可(may)である.
個々人は働かねばならない(義務).したがって,労働過程への参加をすべての人に要求できるわけである.これには当然,障害者も含まれる.実際に,何ができるかはその人の能力による(可能).そして実際に人が働いてよいか,働くことが許されるか(許可)という点については,社会の中ではほとんど注目されず,労力に対して手当てが払われて,それでおしまいである.
リハビリテーションは,社会の情勢を考慮すべきである.そして有効な治療上の援助や,社会生活を営む上での技能を習得する機会を提供し,個人的,社会的発展を妨げる軋轢を減じることが,リハビリテーションを成功させるために必要となってくるのである.労働過程に参加したいと望んでいる人すべてに言えることなのだが,障害者の夢と現実の間には,法律上と現実上の障害が介在しているからである.
この理由から,いくつかのポイントを付け加えておきたい.すなわち,

  1. なにかに携わっているということ自体を,実際に働いていると見なすべきである.
  2. 障害をできるだけ早く受け入れられるようになることが必要である.
  3. 職業指導の必要性を重視するべきである.
  4. 障害者自身も,自分でものごとの決定に参加すべきである.特に年長の障害者は,自分たちの要求や希望を明確に言葉で表せないことが多い.
  5. 我々が真の意味でパートナーになろうとするなら,各自が自分の能力と限界を完全に認識することが,どんな問題に関しても最低限必要である.

これまでに述べてきたことから,次のことが明らかであろう.

  • イ)社会的不利としての障害は,相対的なものである.
  • ロ)能力障害は,家族の対応の仕方によって変わる.
  • ハ)家族と障害者が統合できるような方法を提供するため,オランダ社会がいかに努力しているか.

表現が曖味とすれば,ご容赦いただきたい.要約すれば,次に示すとおりである.
―すべての人は,生まれながらに平等であるという民主主義の原則から見ても,能力的な差異を越えた個人の尊厳と重要性という意味からしても,我々は,障害をもつ人々を始めから最大限に「人」として見るべきである.彼らを憐れみの対象や,恵まれない人として扱うのではなく.
―我々は,能力障害の本質と,その結果生じる限界とを十分認識すべきである.その上で,十分存在している才能を目覚めさせ,伸ばすよう,全力で努力すべきである.
―能力障害は,技能的というより,むしろ社会心理学的問題と言える.したがって,我々は能力障害をもつ人々の心理学的背景を,十分考慮すべきである.
―社会的に不利であるということは,存在に関わる現実である.つまり,その人の人生にとって固有のものという側面もしくは「問題」であって,絶対的には解決されない.この場合,一般に正常と見なされるものから逸脱したもの,そしてそれゆえに生じてくるさまざまな問題と共存しなければならない.
―社会的不利をもつ障害者に対する場合,我々は,極端に無関心な態度(あたかも何の問題もないような態度)と極端に気遣う態度(彼らが,人生でとても多くのものを失っていると考える)との間で,バランスのとれた態度で接する必要がある.

おわりに

すべての物,すべての人が,何かに駆り立てられているかのごとく慌しいのが,まさに現代と言えよう.そこでは,誰も他人のために時間を割こうとはしないし,あらゆる形において自己を過大評価することで,結局その犠牲者となるべく運命づけられているようである.こういう中にあって障害者は,我々の存在のあり方,つまり実体の限界を認識させる,とても重大な役割を持っていると思えてならない.
障害者が自分のできることを認識すべきであること,自らの価値規準を見失わないで生活すべきであること,さらに,自分の能力障害を現実のものとして受け入れるべきであること,これらが,彼らのパーソナリティを成長させるために最善の方法であると仮定する時,そこに,障害者のケアにあたるすべての人にとって,極めて重大な役割が生じるのである.つまり,自分達は能力障害をもつ人々を援助する特権を与えられていると考えたり,彼らの劣っている点ではなく,持っている特質や達成できるものに目を向けること,端的に言えば,人生は,障害者にとって有意義なものとなり得ることを彼らに教えること,そのようなことこそが,この上なく重要なのである.
こういった考えが,人生,特に労働市場において,ある意味で不利を持つ人々に対するより良い理解に寄与することを望んでやまない.

ニュージーランド事故補償公社におけるリハビリテーションと職場復帰の試み

THE NEW ZEALAND ACCIDENT COMPENSATION CORPORATION'S EXPERIENCE WITH REHABILITATION AND RETURN TO WORK

J.T.Chapman
Accident Compensation Corporation,New Zealand

事故補償公社(The Accident Compensation Corpo‐ ration)は法律に基づく組織で,不可効力による障害を負った人に対する総合的な無過失社会保障の施策を実施している.ニュージーランド国内で故意によらない傷害を受けたすべての人および一定の条件のもとに国外で負傷した人は,過失の有無,場所又は時間にかかわらず,24時間カバーされる.1974年4月1日よりその施策が開始されたが,不慮の事故による損害を訴える市民権は,一般の法律にも,またどんな規則のもとにもない.施策を実施する中で,公社は全国事故防止運動を行い,負傷した人にリハビリテーション援助と経済補償を与えることで,社会における権利をとり戻すよう援助している.
この公社が負傷した人のリハビリテーションを担当するわけではない.その役割は,負傷した人々が自らリハビリテート,またはハビリテートすることを援助することである.いろいろな理由からリハビリテーションにおける役割を遂行し,開発するために,実用的なアプローチをとってきた.

第1に,公社には事故による障害者を中心に考える義務があり,毎年約14万件にのぼる不慮の事故による申請を受ける.このうち約10%は何らかのリハビリテーション援助をそれぞれ異なる期間必要とし,その請求者の約半数は1年以内に援助が完了する.この事故による障害者は,ニュージーランド全体の障害人口から見ればごく一部である.1ヵ月もしくはそれ以上継 "続する障害をもつ人は,全国で約41万6,000人と推定" されている.この中で半分強の人が恒久的な障害,つまり,日常生活が著しく制限されるようなかなりの機能制限を持つと考えられる.さらに,7万人の人々が能力障害をもたらす精神障害を持ち,そのうち60%以上が社会的ハンディをもつと考えられている.
第2に,ニュージーランドのリハビリテーションは,互いにほとんど協力,連携することのない機関や組織の増加と国の障害者政策の欠如とに特徴づけられる. 100以上の民間団体が障害者に対し,個別のサービスや施設の提供を行い,一方,いくつかの政府機関と多くの病院当局がやはり重要な中心的な役割を果している.このようにさまざまな援助形態が存在するものの,負傷した人がそれらについて知り,最も適切なサービスが得られるという保証は何もない.さらにリハビリテーション・プロセスに供給側中心の傾向がある.それが,負傷した人々に,皆が彼らの「一部だけを見て」おり,誰も彼らを人間全体として見ようとしないし,リハビリテーションのプロセスについて彼ら自身の考えを聞くこともしない,またリハビリテーション・プロセスの全体像を彼らに示してくれることもない,という悲愴感を抱かせている.
第3に,事故補償法は,補償費の支払いに重点を置き,また申請方式をとっている.一般の人々は災害補償公社を,金銭給付の統括部門ととらえており,現にこの傾向は,公式の名称「事故補償公社」とか「事故補償法」にあらわれている.

こうした制約の中でも,公社はリハビリテーションの役割において十分な成功をおさめている.公社は本来は既存の資源とサービスを使う立場にある.しかし必要な場合には住居の改善,自動車の改造,再訓練プログラム,日常生活への特別な用具の提供のための経済援助を行い,また場合によっては,自営にむけての援助をする.
公社にいる50人のリハビリテーション・コーディネーターは損傷を負ったクライアントがそのニーズをよく知るのを助け,個人に合った賢明な選択ができるようにする.そしてそのクライアントを最も適した資源やサービスへ方向づける.もし必要ならばリハ・コーディネーターは損傷をおったクライアントとサービスを結びつける役目もするが,あくまでもクライアントの自助努力を援助することが重要とされている.個別のプログラムはコーディネーター,クライアントおよびその家族の協力のもとに遂行されるが,これにはいくつかの段階があり,最初に同意したプログラムに沿ってクライアントがリハビリテーションが完了したという確認をしてはじめて終了する.
リハビリテーションへの照会が早期に確実に行われるように,公社はクライアントサービスグループを24 の地区事務所すべてに設置した.これらのグループは,補償給付担当と,リハビリテーション担当の職員を備えている.そして各グループの上級クライアントサービス官およびリハ・コーディネーターが初めて照会されてくるクライアントの受付にあたる.スタッフは皆,優先順位をつけたクライアントのタイプ別に訓練を受けている.たとえば性的な被害,頭部損傷,脊損,やけど等々.訴えがあってから2日以内にリハビリテーションに必要な事柄を明らかにし,その個人に適したリハ・プロセスを決定するのが公社の方針である.リハビリテーション援助が要請されたところでは,受傷したクライアントに対し,援助が決定されて3日以内に個別の連絡をすることになっている.

職を探すことはクライアント自身の責任である.リハ・コーディネーターは,就職斡旋に積極的関与はしないが,公社から可能な職業リハビリテーション援助への道すじをつけることはする.その中には,クライアントの就職について雇用主と交渉したり,クライアントの「差額補償」費(“Make‐up"pay)の利用についてアドバイスすること,試験的に仕事をする計画をたてること,再訓練をうけるための援助,雇用主に作業場の改変に可能な援助をアドバイスしたり,雇用主と一時的な雇用形態をとる準備の調整をすること,クライアントに評価や再訓練のサービスを紹介することが含まれる.場合によっては,クライアントが自営を始めるための経済的援助をすることもある.
リハ・コーディネーターは,地方レベルでも,率先してクライアントの雇用の可能性を高める努力をする.そうした努力の一つがジョブクラブの設立である.
ジョブクラブのメンバーは失業者の中心的部分を占める傾向にあるため,約60%というその成功率は特筆すべき成果である.他の努力として,リハ・コーディネーターは「新たな方向づけコース」を2つの地域のコミュニティカレッジで設立する援助をした.それは 12週間のコースで,事故補償手当を12ヵ月かそれ以上受けとれるクライアントに的をしぼって,人間関係の技術やリーダーシップ,自己主張の技術を,小売りからコンピュータにわたる職業技術とともに教える.
こうした,地方での率先した取り組みは,時にもとの地域を越えて発展する.この草の根アプローチは,当局の国家レベルのプログラムよりも早くスタートさせることができ,地域に深くかかわり,そして当初目指した結果が達成されなければ,後回しにすることもできる.公社の経験から,クライアントのニーズに敏感に対応することの必要性がさらに明確になった.そして,そのためには,中央の統制を離れて,地域での取り組みと成果を奨励し発展させることが一番よい方法と考えられている.公社は,すでに中央集権的なものから地方分散的なものへと移行し,クライアントに対し,なるべく住居の近くでサービスを供給できるようにしている.地域責任者がプログラムを開発し,地域の資源をそのニーズに合わせて引きだすことを援助するために,公社は地域アドバイザーを採用した.これらのアドバイザーは国家レベルの資源を地域責任者に提供し,また彼らが地区責任者,リハ・コーディネーター,クライアントおよび地域のサービスとのつながりを作りあげる援助をする.

公社は,サービスの使用者として,率先して機関の間の協力とサービスの合理化を推進している.たとえば,最近の二つの成果は,社会福祉省とのジョイントアプローチで,すべての障害者に介助ケアを提供したこと,性的被害や虐待を受けた人々のためのサービスを支援する費用の共同負担の規準を決めたことである.労働省が受傷したクライアントを就職させたときには,その省に手数料が支払われるように考慮されており,また労働省と合同でパイロット計画をたて,私企業に受傷したクライアントを就職させる計画を検討している.公社は,より洗練された,質の高いリハビリテーションサービスの開発をすすめるために,経済援助制度を活用するよう努めている.最近の例としては,リハビリテーション関連の学科に資格コースを設立するための経済援助がある.その中には,大学にリハビリテーション医学のポストを設けること,人間工学,補助具,補装具関係の実験室を設けること,筋肉・骨格医学の資格コースを援助すること,高齢者および障害者の住宅設計推進の援助をすること,そして関連分野の調査研究を主導することが含まれている.
公社は補償費の範囲と構成を,リハビリテーションの向上を計る方策として考えているが,一般大衆に対して,この前向きの認識を定着させるのは困難でもある.公社は,クライアントが家庭の内外で受けた介助にかかった適正な費用,たとえば一般の交通手段を使えない場合の職場への移動費用といったものを支払う権限を与えられている.また,公社が支払うものの中には,広い意味での医療関係の費用が含まれている.医師や専門家へ払う費用,医師が患者を他へ紹介する場合には関連する専門家への費用が含まれ,その中には理学療法士,検眼士,カイロプラクティスト,作業療法士,足の専門医,精神科医師,臨床心理士,鍼灸師,整骨医がいる.個人病院でかかった費用の一定額も公社で支払われる.事故後の金銭保証としては,その人が働けない限りにおいて,それまでの給与を週単位ごとに算定した額に応じて支払いを受けることができる.もし,一生稼働できないとなったときには年金の支払いが用意されている.そしてその額は徐々に増えこそすれ減ることはない.最後に,働ける人にも働けない人にも,恒久的に体の機能を失ったことと,受傷のもたらす人生への影響に対する一時金が 支払われる.その補償金は他の労災補償費に加えて支払われ,クライアントは併給を受けることができるのである.

公社のリハビリテーションへの実用的なアプローチは,ニュージーランドで広く行われているリハビリテーションの実際の場面に対応してきたものといえる.公社が第一に目指したことは,すべてのクライアントのために国家が主導権をとることを促し,リハビリテーションサービスやリソース間のあらゆるレベルでのサービスのモレや重複がないようにすることである.
そこには,補償の構造それ自体に起因する問題もある.リハビリテーションへのどのような障壁をも最小限にするために補償が確実になされなければならない.同時に,生産的な仕事に戻ることを動機づける財政的な奨励策も必要である.この緊張関係はこの国における経済の現状の中でより目立ったものになっている.というのは,ニュージーランドの失業率が増加してきたのである.たとえそうでなかったとしても,公社は職業リハビリテーションを,それのみに目的があるとはみなしていない.総合的な補償の枠組みの中で,労働者や給与所得者は,家庭の主婦や高齢者,障害児と比べ,より重く扱われるわけでも,また逆に軽く扱われるわけでもない.職につくことのできない人も,注目され,よい自己像を得ており,社会リハビリテーションが単に二次的な目標であるとは考えられていない.
現行の法律は,再検討の過程にあり,願わくば,この固有の緊張関係が,何らかの改正を経て減少することが望まれる.最後に公社は,コンピュータと身体記録について,申請システムから個人ベースのアプローチに切りかえることが,リハビリテーションの取り組みを向上させると信じている.そうした切りかえのために必要な情報と政策上のかかり合いについて,現在検討中である.
公社のリハビリテーションへの取り組みは今後も,その役割は損傷を受けた人々が自ら社会復帰するのを援助することであるという前提に立って続けられるであろう.

分科会SC-4 9月6日(火)14:00~15:30

新しい情報工学

―障害者によるマスコミへのアクセスの改善―

THE NEW INFORMATION TECHNOLOGIES:IMPROVING ACCESS OF DISABLED PEOPLE TO MASS COMMUNECATIONS

座長 Ms.Barbara Duncan Rl Assistant Secretary General[USA]
副座長 山内 繁 国立身体障害者リハビリテーションセンター研究部長

新しい情報工学

―障害者が大量通信手段をもっと利用できるために―

THE NEW INFORMATION TECHNOLOGIES:IMPROVING DISABLED PEOPLE'S ACCESS TO MASS COMMUNICATIONS

Barbara Duncan
Rl Assistant Secretary General,New York,USA

現代社会において人々を社会に結びつけている主要な通信手段はマスメディアであり,本日はそれを障害者がより良く利用できるようにするため日本,スウェーデン,フランス,スペインにおいて開発中のプロジェクトについての話を伺う.
マスメディアというとき,我々は,新聞,ラジオ,テレビなどの通信手段を思い浮かべる.
技術の進歩によって,我々はマスメディアの概念を拡張し,ニュース,情報,教育,娯楽などの他の手段をも含めるようになった.
かつては一方通行だけであったテレビも,双方向となり,電話はコンピュータとつながり,我々の家庭や職場に情報やサービスをもたらしている.衛星システムは,最貧困の田舎の村々に遠隔教育の手段をもたらしている.
昨日は,障害者の参加の問題の中でも建築物と輸送手段における平等への要求を中心とした議論を行った.本日は,教育,情報,訓練等職場や社会生活において完全参加を達成するのに必要な技術の利用の可能性について議論していただく.
アメリカからの招待講演者がいないので,今夏成立した1988年障害者に対する技術関連支援法(U.S. Technology Related Assistance to Individuals with Disabilities Act of 1988)という法律について説明しておきたいと思う.これによって,国家的に重要な計画のみならず,各州に対しても障害者に対する技術関連の支援計画に資金援助を与えるものである.これは,コンピュータ等政府資金の援助によって購入した機器類は障害者にも利用可能でなくてはいけないとする最近の法律を補完するものである.これらの法律は,一体となって,アメリカの障害者の新技術の利用可能性を改善するものである.アメリカ障害者法というもう一つの法案は1989年に成立させようとしているものだが,とりわけて,聴覚障害者のテレビの利用に関して呼びかけている.これには,現在の文字放送の広範な拡張が必要となるであろう.
カナダ国会における障害者問題常任委員会の報告は,現在考慮中の放送法の改善を勧告している.「ニュースのないのは悪いニュースである」との名の下に,通信手段の利用とテレビの文字放送の拡張とを呼びかけている.
結論として,恐らく明白な事実ではあるが,障害者にとって有望と思われる事実について触れておこうと思う.それは,高度技術はもはや高価であることを意味しないということである.例えば,多くの国では大量生産によってコンピュータは車いすよりも安価になっている.
1970年代から耳にしてきた技術革命がいよいよ実現しており,障害者がその便益の正当な分け前を得るために行動することが,我々に課された責務である.

体の不自由な人のための電気通信手段

TELECOMMUNICATION METHODS DESIGNED FOR HANDICAPPED PERSONS

倉島 渡
日本電信電話株式会社[NTT]企業通信システム事業本部

体の不自由な人にとって,人と人のコミュニケーションは普通の人より要求が強いと思われる.
この手段は技術の進歩によりかなり進んでいると思われるが,ここで取り上げる内容は電気通信によるコミュニケーション手段である.
次ページの表に主要なものを挙げてみた.またNTTの商品または試作機ですでに存在するものを「 」内に示した.
これらの機器の必要条件として,

  1. 高齢化に対応して,高齢者でも使えるものであること―取り扱いが簡単であること.
  2. 一般の電気通信用機器と共通性があり,価格も安く,実績のある技術が使われていること.
  3. 安心して使えるもの―すなわちフェイルセーフを実現していること.
  4. 在宅でのリハビリテーション活動が多くなることと思われることから,在宅での使用にかなうものであること―安く,誰でも使え,コンパクトで安心できるものであること.
  5. 介護者,家族の人がいなくても,充分使えるものであること.

また,電気通信の機能は,単に外部とのコミュニケーションだけでなく,教育,訓練への利用により,リハビリテーション中の人の自立を助ける種々の活動に役立つ可能性もある.
だが,リハビリテーション中の個人が,訓練所以外の,例えば家庭で教育訓練を受けるために,ヴィジュアルな通信手段が必要な場合,現在のところかなりの負担を迫られよう.しかし,すでに始まっているISDN(総合サービスデジタルネットワーク)を使うと,ほぼ電話並みの料金により,簡単な映像通信も容易になるので,やがて映像による教育も可能になろう.
また,体の不自由な人達の在宅での緊急時の通報,健康管理,寂しさを慰める手段としても電気通信は欠かせない.
すでに多くの自治体は高齢者を含めた体の不自由な人のために簡単な,緊急時の押しボタン付き電話による緊急通信システムを導入している.
さらに健康管理,精神面での充実のために電話回線を利用することが検討され始めている.
例えば,毎日きまった時間にセンターから電話がかかり,簡単なお喋りができ,寂しさを紛らし,相談も出来るサービスが実験されている.
また毎朝トイレで用を足す時,便による健康分析を自動的に行い,血圧,体重も同時に測定し,センターにデータが送られて,健康管理をするアイデアも実用化に入りつつある.
また,リハビリテーションスタッフへ最新の情報を提供し,常に意欲的なリハビリテーション活動を行う一助を担えるものとして,例えば,

  • 最新リハビリテーション機器情報―(例えば:ビデオテックスの利用)
  • リハビリテーション催物情報―(例えば:ビデオテックスの利用)
  • リハビリテーション方法の教育―(例えば:ビデオテックス,衛星通信による全国教育(現在,河合塾が行っている)の利用)

といった利用方法も考えられる.

体の不自由な人の電気通信によるコミュニケーション手段(その1)

不自由
な箇所
不自由な
内容
通話 発呼 着信 ダイヤル操作
通常電話での
不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法
やや遠い ・相手の声が
聞きにくい
・拡声機能付き
電話機を利用
「めいりょう」
・ダイヤル信号,
呼出音または
話中音がききにくい
・拡声機能付き
電話 機を利用
「めいりょう」
・ベルの音が聞きにくい ・高重量ベルを利用
聴覚神経は正常
(鼓膜の機能はない)
・聞こえない ・彫伝導電話機を
利用「ひびき」
・ベルの音が
聞こえない
・フラッシュ(閃光)で
知る
「フラッシュベル」
全く聞こえない ・聞こえない ・筆効を行う
「ひつだん」
「ハウディメール」
「スケッチホン」
・ファクシミリ利用
・テレビ電話による
手話
・パソコンのキー操
作による文書通信
・ダイヤル信号,
呼出音または
話中音が聞こえない
・受話器を
あげてからの
タイミング:
(約5秒程度待って
ダイヤルする)
自分も
相手も
耳の不自由な
人の場合
互いに聞こえない 通話は出来ない 目にみえるメディアで
通信する
・筆談を行う
「ひつだん」
「ハウディメール」
「スケッチホン」
・ファクシミリ
・テレビ電話による
手話
・パソコンのキー操
作による文書通信
見えない 何処に電話機が
あるか分からない
・携帯電話

・リモート発信
自動ダイヤル
スピーカホン
何処に電話機が
あるか分からない
・携帯電話

・自動応答通話の
スピーカーホン
ダイヤルができない ・大きな
プッシュボタンダイヤル
「ふれあい」
・プリセットダイヤル番号
・ワンタッチダイヤル
(メモリダイヤル)
・盲人用ダイヤル盤

倉島 渡

体の不自由な人の電気通信によるコミュニケーション手段(その2)

不自由
な箇所
不自由な
内容
通信 発呼 着信 ダイヤル操作
通常電話での
不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法 普通の
電話での不便
対処方法
・その他ダイヤル操作を
助けるものとして,
ダイヤルを押すと,
その番号を音声で復唱
「てるてるボイス」
しゃべれない ・筆談「ひつだん」
「ハウディメール」
「スケッチホン」
・ファクシミリ
・テレビ電話による
手話
・キー操作により,
音声に変換するものを
利用
「トーキングエイド
(他社製品)」
・パソコンのキー
操作による文書通信
動きが不自由 ・受話器が持てない ・スピーカホン
・スタンド形送受器
「ふれあい」
・受話器が持てない ・リモートスイッチによる
発信
足,体の一部の動き,
呼吸等を利用
「ふれあい」
(その他,他社製品には
目のまばたきの
利用もある)
・受話器が持てない リモートスイッチによる
発信
足,体の一部の動
き,呼吸等を利用
「ふれあい」
(その他,他社製品には
目のまばたき
の利用もある)
ダイヤルが出来ない ・呼吸によるダイヤル
・フットスイッチによる
ダイヤル
・プリセットダイヤル
(メモリダイヤル)
「ふれあい」
動きが不自由 ・電話機の所へ
行けない
・常に電話機の
側にいる
・携帯電話機
・スピーカホン
・電話機の所へ行けない ・常に電話機の
側にいる
・携帯電話機
・リモート発信
自動ダイヤル
スピーカホン
・常に電話機の
側にいる
・携帯電話機
・自動応答通話の
スピーカーホン

倉島 渡

新しい情報技術を利用した障害者のためのスウェーデン調査プロジェクト

SWEDISH RESEARCH PROJECTS UTILIZING THE NEW INFORMATION TECHNOLOGIES FOR DISABLED PEOPLE

Jan-lngvar Lindstrom
Swedish lnstitute for the Handicapped.Sweden

我々は解決しなければならない多くの問題をかかえている.障害者の状況についていえば,最も重要なことは,統合,参加,平等の目標を実現させることであろう.つまり障害者と非障害者が出来ることの差異が少なくなるということである.
この目標に到達するためには,多くの方法がある.現代の科学技術を利用するという方法があるが,現代技術は問題も生み出す.技術それ自体でなく,応用された技術が―残念なことに―障害者の環境を考慮に入れていないことが多いためである.そこで,障害者のための研究開発は二つの方向に沿って進める必要がある.すなわち,[一般]技術を障害者のニーズにも適応させることと,現代の発達した種々の技術を特殊装具やサービスの開発に生かすことである.以下にその両方の例をあげる.

リハビリテーションサービスの消費者

知識,情報の伝達ができるということは,おそらく人類の最も重要な能力であろう.代表的な先進国において,コミュニケーションの障害をもつ人の数は決して少なくない.住民100万人に対し,少なくても約5,000人の視覚障害者,10万人の難聴者,1,000人の重度の聴覚障害者,150人の聴覚視覚重複障害者,5,000人の語障害者,5,000人の精神薄弱者,そして1万人の運動機能障害者がいるとされている.それだけではなく,弱視,難聴の人々あるいは知能上の問題のために各自の状況に対応できない人々の数はその数倍にも及ぶということを認識しておかなくてはならない―開発途上国ではこのグループの人数はさらに多い.

問題の技術的解決

最初の例は,バスや電車の中の停止のアナウンスシステムに関係したものである.公共輸送機関を利用している時に,適時に停止の情報を得るのは油断のならないやっかいなことである.その上難聴者や聴覚障害者は言語の情報を得ることは困難である.スウェーデンのいくつかの場所で,試験的なプロジェクトが行われており,そこではアナウンスは自動的に音声(録音された,デジタル的にコード化された音声)と目に見える表示(大きなLED表示板に)で行われる.これは先に述べたことの例で,障害者に有益なことはすべての人々に有益であることを示している.
第二の例は,番号のチケットを用いた順番システムである.この種のシステムはかなりよい視力を必要とするので視覚障害者には問題となる.現在,試験的な研究が行われている.この場合,番号札を発行するスタンドには特別なボタンが装備されており,それを押すと音声発生装置が働いてチケットのナンバーを告げる.そしてその番号になると音声合成装置がもう一度働き,番号とスタンドについての情報を告げる.
テキスト電話は聴覚障害,難聴,言語障害,そして聴覚視覚障害のユーザーの間で日常的に使われている.それらは一般の電話ネットワークに接続している.ネットワークにはいくつかの情報交換センター(ITC)が接続しており,可聴,可視の人々は一般の電話と同様にテキスト電話にアクセスする.その結果,メッセージはこれらのセンターを通じて通常の電話からテキスト電話へまたその反対に変換される.音声合成や音声認識機器による自動ITCサービスについての研究プロジェクトを検討中である.近い将来のためにITCサービスにおけるコードキーボード(chord key boards) と呼ばれるものの活用に関する研究が進行中である.
聴覚視覚障害者は,テキスト電話を通してブライユ式点字ディスプレイで電話することができる.試験段階では彼等のために次のような新しいサービスが提供されている.毎日のニュースは視覚障害をもたないオペレーターによってコンピュータに入力され,メモリーに蓄積され,モデムを通じて電話ネットワークに接続している.聴覚視覚障害者用のテキスト電話のユーザーはメモリーを呼び出し,例えば毎日のニュースのサービスなどの聴覚視覚障害者用情報を読むことができる.
ラジオネットワークはそれ自体情報の伝達のための興味深い手段であり,多くの目的に使用できる.既に日刊新聞の抜粋を読んで録音したものが毎日90分間ラジオネットワークを通して視覚障害者に提供されている.視覚障害者の家にあるカセットコーダー内蔵の特別なレシーバーは,例えば夜の間などに自動的に「新聞」を録音する.さらに進んだ技術により考えられることは,近代的な新聞印刷所でコンピュータシステムにデジタル的に蓄えられた情報の利用である.この情報,すなわち新聞の全内容は録音されたものと同じように自動的に引き出され,伝達される.1年前から約 30人の視覚障害者が“Goteborgs-Posten”新聞のデジタル版を定期講読している.このプロジェクトに関連して行動科学の分野での研究と,技術開発が進められている.
現在は,大火災,労働災害,ガスもれの事故のような特別の事態に非常警報が出される.これらの警報はほとんどいつも音であり,それでは聴覚障害者や時には難聴者にも知覚できない.このようなグループのため,触知できるレシーバーを組み合わせた電波信号を使った特別警報システムの研究が進んでいる.
情報検索とコミュニケーションのためのテキスト端末の利用が増えている.
どのようにして見るか,そして障害者が提供されている手段・設備をどのように活用できるかという目標の下に研究プロジェクトが進められている―ある特別プロジェクトは,一般のテレビ番組への視覚障害のためのアクセスに関するものである.翻訳会話の字幕やテレビの画像そのものの情報価値が検討されている.
将来の実現の可能性の大きいもののひとつは画像を基本としたコミュニケーションや情報提供を行うことである.聴覚障害者は上述のラジオネットワークを通しての視覚障害者用新聞の提供のように,TVネットワークによる放送を通して毎日配布する手話による新聞を望んでいる.技術的には,放送の行われていない時にTVネットワークを利用し,聴覚障害者の家庭のビデオカセットに自動的に記録することによって行うことができる.聴覚障害者はさらに,遠くにいる人との手話によるコミュニケーションの実現のために,ISDNスタンダードによる電話ネットワークを通しての画像電送も望んでいる.視覚障害者も,遠隔地リーディングサービスのような特別な人材が配置されたリーディングセンターを通じて,多種多様な文書の「リーディング」用の設備の恩恵を受けることができる.画像コミュニケーションに関するいくつかのプロジェクトが進行中である.

結論

上述のプロジェクトは,障害者も現代社会の生活に参加することができるようにするために,調査,開発,研究,評価などを通じて取り組んでいる問題や可能性の例である.発展を続ける開発途上および先進国社会の人々もこれに続くことが望まれる.

聴覚障害者によるコミュニケーションと公共情報サービスのためのミニテルの利用

THE USE OF MINITEL BY THE DEAF POPULATION,FOR COMMUNICATION,PUBLIC INFORMATION SERVICES

Rene Besson
Centre National d'Ehides Telecommunications〔CNET〕,France

1986年まで,聴覚,言語機能障害の人々が通常の電話通話を行うためには音響的に接続された機器が必要であった.このシステムは,同一の装置を装備し,限られた条件のユーザー間でのみ,すなわち「閉じられた」コミュニケーションの方法でのみ,情報交換が可能であるという不満足なものであった.ビデオテックスの成功により全国的な規模で10万台のターミナルが普及したため,どのような障害者もこの特別な機会に恵まれることになると思われる.相互対話を行うために,データベースアクセス用の端末を接続することにより,開かれたシステムの中で聴覚や言語機能障害を持つ人々が自由にコミュニケート可能になると期待される.フランスにおけるテレテルの開発はこれらの可能性を広げつつある.

フランスでのビデオテックス

1 一般解説
ビデオテックスはフランスで企業や家庭のユーザーに実際に毎日380万件も利用されている.さらに,世界中の通信会社で数千もの経済専門家も実際に利用している.
テレテルサービスは8年間続いており,長い経験実績がある.
データベースにアクセスするために使用する端末はミニテルと呼ばれている.ミニテルは無料で配布され簡単に使用でき,紙製の電話帳の代わりをする.
使用者は公共電話ネットワークや切り換えネットワ "ークを通して約8,500件のサービスにアクセスしてい" る.これは1ヵ月当たりの通話量約600万時間に相当する.
電子ディレクトリーは最も重要なサービスで,全通話量の17%を受けている.最初の3分間の通話は無料である.
キオスクサービスは公共サービスの開発促進のために,サービスを提供する側が面倒な手続きや経費なしでサービス利用の料金支払いを受けることを認可している.

2 テレテルサービス
(1) 電子ディレクトリー・サービス
ミニテルを利用すると,フランス本国や海外の省庁で一日中休みなく契約者(240万人)の住所と電話番号を調べることができる.専門的な情報やビジネス情報もフランスP and T(French Telecom)サービスの他の情報と同様に利用できる.

(2) その他のサービス
テレテルは一般大衆とビジネスユーザーの両方のために非常に幅広いサービスを提供している.

3 端末
構成は次のようなものである.
基本端末:ミニテル1(M1)およびミニテル1B(デュアルスタンダード)
テレテル40カラム,ASC1180カラム,この端末は無料で配布される.
ミニテル「ダイアログ」(M1D),これはコミュニケーションの障害を持つ人のために設計された.端末の貸し出し料は1ヵ月1.7ドルである.
レンタル期間中に利用できる他のミニテル端末の中には次のようなものがある.

  • ミニテル10-M1+組み込み型電子電話セット
  • ミニテル12-M1B+組み込み型電子電話セット+テレマチック機能
  • コントロールミニテル

その他のテレテルターミナル:

  • ミニテル周辺機器ディバイス
    スマートカードリーダー
    プリンター
  • フランス外仕様ミニテル
  • パーソナルコンピュータによる擬似ミニテル

聴覚または言語障害者によるミニテルの利用

ここで,聴覚障害者によるミニテルの利用について紹介したい.言語障害者も利用できる.

1 テキストメッセージによるコミュニケーション
障害者が電話連絡をするために4つの方法が可能である.

  1. 公共電話ネットワークを通じてのM1Dによる方法
    M1Dは特別な機能を持った基本ミニテルとまったく同じである.これらの機能はテキスト同士またはテキスト/声の間のコミュニケーションのどちらかを他のミニテルユーザーとの間で可能にする.
    M1Dはテキストメッセージ(約1,000文字)のオフラインでの予備的な処理が可能であり,電話がかかると自動トランスミッションの働きをする.スクリーン表示は,電話がかかって来た時と終わった時に経過を表示する.
    M1Dは1986年5月に利用が始まった.現在1万セットが使われている.現在の普及度は1ヵ月約400 台である.電話代は通常の電話代と同じでオフ・ピーク時間には同率の割引がある.
  2. 「3618」への通話
    どの種類のミニテルを用いても,自動的に通信相手(ミニテルを装備している人)に電話をかけ,相互通信モードでテキストメッセージの交換が可能なホストコンピュータ(電話番号3618)にアクセスすることができる.
    例えば,8コールの料金は1ドルである.割引率は電話のオフ・ピーク時と同じである.(平均1ヵ月6,000回通話が行われる)
  3. 電子郵便(メッセージサービス)
    ナンバーをダイアルして秘密コードを使うとメールボックスシステムを通してメッセージを送ったり受け取ったりできる(メールボックス,直接会話,会議).
    例えば,メッセージサービスを利用すると,フランスの聴覚障害者はアメリカのGallaudet大学に在学中の聴覚障害者と通信ができる.これらのメールボックスシステムは一般に聴覚障害者のユーザーによってつくられる.
  4. 聴覚障害者用電話交換
    パリ地区においてP and Tにより行われる電話交換は,聴覚障害者のユーザーとミニテルを装備していない個人の間のメッセージの伝達が可能である.これらの交換は専門のオペレーターによって行われている.

2 情報サービス
聴覚障害者のユーザーは当然ミニテルを使うことにより,そこに名前の表示されたテレテルサービスにアクセスできる.広範囲にわたる情報のリアルタイムアクセスは,かなり時間と料金の節約になる.

3 特別なサービス
障害者のユーザーの地域的な組織化と協力は,以下に示すような種々の特別なサービスに役立っている.

  • 救急番号アクセス:消防署,警察署.このサービスはパリ地区で行われている.
  • Savoie地区のSOSサービス(消防署,医師,病院)
  • ミニテルを利用したタクシーサービス
  • ミニテルによる電報の電送
  • 行政情報センター
  • 交通情報センター

4 聴覚障害者ユーザーのミニテルの評価
現在,聴覚障害者のユーザーはM1Dを電話に匹敵するコミュニケーションの手段と考えている.その主な利点は,聴覚障害者とだけでなく,非障害者との直接のコミュニケーションもできることである.
種々のメールボックスシステムも好ましい見方をされている.この明白な利点にもかかわらず,ミニテルは未だ聴覚障害者全員に使われているわけではない(たった15%の聴覚障害者が現在ミニテルを使っているにすぎない).
その理由は,次のようなものである.

  • 聴覚障害者の多くはそのようなサービスの存在を知らない.これは,彼らのすべてが地域の組織に所属しているわけではないため簡単に連絡が取れないことが原因である.
  • 複雑な新しい機器を使うことに対する恐れがもう一つの理由である(特に高齢者の世代で).
  • 書くことも困難な特定の聴覚障害者は嘲笑を恐れて話したがらない.
  • そして,中でも,電話料金が聴覚障害者のユーザー間へのミニテルの普及促進をさまたげている主な原因である.

5 展開
将来の基本ミニテルの開発に関する情報を得るために,現在調査が行われている.これらの調査は,障害者のユーザーの意見を考慮に入れている.
平板スクリーンがありポータブルな新しいミニテルM5を現在研究中である.それを使って聴覚障害者のユーザーが家の外でテキストコミュニケーションを行う実験が行われる予定である.
しかしながら,その利点はさらに多くのミニテルが使われるようになれば減少するだろう.
テレホンカードを使うM1Dのための公衆電話の導入も研究中である.
外国の特定の「テキスト電話」にかけられる可能性もある(ベルギー,オランダ,イギリス,フィンランドへ電子郵便を通して).

結論-所見

ミニテルは過去10年の間に,聴覚障害者のユーザーの生活に大変革を起こしている.次のような意見が,これが実現されつつあることを証明している.
ミニテルは「外の世界への出口をつくる」ことやユーザーに「生活向上の機会」を与える手助けになっている.
聴覚障害者は,現在非障害者と同様に電話番号案内へのアクセスがある.聴覚障害者のユーザーの大半が,ミニテルが彼らの受ける情報量を増加させたと確信している.また,ミニテルは彼らの書く技術(スペリングなど)の向上にも役立っている.しかしながら,通話料金の高さという根本的な問題が残っている.
最後に結論として,次の2点も役に立つことと思う.

  • M1Dを利用している言語障害者の数は非常に少ない.この理由は明らかではない.
  • 障害者に対するミニテルの利点は,聴覚障害者だけに限られない.運動機能障害を持つ人々も,音声電話システムにアクセス出来る.視覚障害者は,合成音声発生装置とブレイル式点字装置を接続することにより,テレテルサービスを利用できる.

コミュニケーション技術と障害者

―スペインのFUNDESCOの成果―

COMMUNICATION TECHNOLOGY AND DISABLED PERSONS:FUNDESCO'S WORK IN SPAIN

Ramon Puig-Bellacasa
Jefe Area Discapacidad,FUNDESCO,Spain

特定のニーズのための技術におけるFUNDESCOの歴史的意義を紹介するにあたっては,70年代にFUN‐ DESCO(コミュニケーションの社会的機能開発基金)が設立されて以来,障害者のための情報の利用活動がいろいろと行われてきたことを述べておかなければならないだろう.
FUNDESCOの一般的な目的のひとつは,調査や実験的研究を通じて先端的な情報技術の応用のための社会的目標を定め,普及させ,実現することである.
最初,我々は主に技術やテクニカルエイドを用いて機能障害や能力障害の補償が可能となる事柄についてアイデアや議論の普及促進に努めた.
1983年からは必然的に次の段階に進んだ.例えばコミュニケーションの分野での実際的なニーズの研究と解決を行う作業グループの設置,電話アラームシステム開発推進のための共同プロジェクト,相互コミュニケーションや環境コントロールのための実験的なセンターの設置など.我々がこの種の仕事を助成するための公的資金は増加している.
研究段階からサービスの実施に移るのが次の段階であり,これは特に1986年より開始された.
我々の資金はあまり多くはなく,チームは縮小されたが,現在は専門的組織として評価されており,種々の相談を受ける.過去数年間に行った「ブレーンストーミング」において,この分野への需要や,期待を増大させたことに大きな責任を感じている.しかし我々はこれを前向きに受けとめており,我々ばかりではなく,大学の研究グループやいくつかの企業や公的機関 (機構が繁雑で,官僚的すぎるようではあるが)もこの分野での責任を遂行している.北欧諸国と比較すれば未だ少なく,資金も限られてはいるが,スペインにおける障害者のためのコミュニケーションと情報技術の様子は1975年頃から大きく変化をとげてきた.

方法
 FUNDESCOは企業ではなく,治療のための公共施設でも国家機関でもなく,先端技術を利用してスペイン社会の進歩をはかるシンクタンクを目指している財団である.
我々は,安定したサービスを提供するのではなく,プロジェクトも常に期限つきのものであり,国内的に責任を持てるグループやセンターを見つけて,彼らの自覚を促し,彼らとの共同事業を開始し,確固とした経験的な基礎を築き,実際的な結論を得て,恒常的なサービスの設置を助けようとするものである.このための期間は,長い場合もあるが,対象を定め「ブレーンストーミング」を開始してからサービスの実施まで平均3~5年と言える.
この間の作業には以下のようなものがある.
最高技術水準に関する報告書,ワーキンググループ・委員会・専門家グループ・実験などの組織化と指導,研究開発の促進と調整,外部のR&D計画の支援,サービスと技術的な応用の分野における問題の解決のための研究と計画,セミナー・コース・会議・討論・その他の会合,展示会,国際的な委員会・ワーキンググループ・交流会への参加,要請のあった場合の種々の相談およびアドバイス.

まとめ
我々のすべての活動は,2つの面を持っている.

  • 検討=見通しの分析,促進
  • 応用=研究・開発結果の実行

現在,新大統領が決まり,秋の間に来年の政策優先順位が決まるだろう.我々は障害者と特別なニーズに関する活動が強化されることを強く期待している.新しい領域,すなわち「健康と福祉技術」の導入によって,活動の焦点が多少変わるであろう.このことにより今後,財団の他の同僚との緊密な協力と障害の問題にたずさわっているチームの拡大という2つの進展が見られるであろう.

分科会SC-5 9月6日(火)14:00~15:30

ニード別課題

乳幼児

SPECIAL NEEDS POPULATIONS:THE VERY YOUNG

座長 Dr.K.G.Gursu-Hazarli Hacettepe University Medical School〔Turkey〕
副座長 松井 一郎 国立小児病院小児医療研究センター小児生態研究部長

ニード別課題

乳幼児

SPECIAL NEEDS POPULATIONS:THE VERY YOUNG

K.G.Gursu-Hazarli
Department of Plastic and Reconstructive Surgery.Hacettepe University Medical School,Turkey

世界中のリハビリテーションに関わる有力な政策担当者や指導者達の多くが,特別な施策を必要とするグループ(Special Need Group)として,急性・慢性の疾患,事故,あるいは単なる高齢のために障害をきたした比較的高齢者層に力点をおいている.一方,精神的,身体的障害を持つ若年者たちは,過去20年前までは脳性麻痺とか,ポリオなどのようなわずかな例外を除いてこうした配慮を受けることがなかった.
障害者の中では年配者の占める比率が高いことから,リハビリテーション」とか「能力障害(Disability)」といった言葉は年長者の器質的疾患を思わすのが常であるが,この誤解は能力障害に至るまでの経過を明らかにするような資料に欠け,また十分な研究が行われていないためであると思われる.例えば,未熟児出産の減少によって脳性麻痺の発症がある程度防がれ,ポリオ・ワクチンの発明によって数百万人にのぼるポリオ後遺症の発生が防がれたが,一方,周知のように精神薄弱は人口の2%を占め,しかも死亡率の低下と,母子保健の進歩にともなって重度精神薄弱児の生存数が増加してきている.しかし,全精神薄弱児の25-30 %はダウン症であるから,妊娠中の羊水穿刺による細胞の染色体検査や酵素測定も含めた遺伝相談によってダウン症は防がれよう.妊娠中の栄養不良や環境の影響によっておこる障害と同様に,子宮内化学,遺伝学,ある種の先天異常の発生などをより詳しく知ることができれば,我々は一層効果的な予防とリハビリテーション活動ができるだろう.このことは,障害の予防にはより一層の研究と科学的知識が必要であることを示している.さて,この障害予防のキーワードとして2つの見出し語すなわち開発途上国と先進国とがあげられる.
第1段階の予防策は,開発途上国において特に重要な意味を持つものである.すなわち能力障害をきたす機能不全の主な原因として開発途上国では栄養失調,伝染病,低水準の周産期ケア,あらゆる種類の事故といった予防可能な条件が挙げられ,これらが全能力障害のほぼ70%の原因となっている.多数の幼児,児童がこうした原因による機能不全(impairment)となり,さらに生涯を通しての能力障害の主な要因となっているのである.したがって,障害予防策の中でも子どもたちに対する施策に最大の効果が期待でき,またそれだけに政府はこれらの諸要素を含めた予防策の履行を最優先とすべきである.加えて,障害を持った幼児や子どもたちは障害のない子どもたちよりも高い死亡率を示すので,障害予防施策の成果は死亡率の変化によって容易に判断されるのである.しかし,WHO障害予防委員会の報告によれば事態はなお満足なものではない.すなわち栄養失調は一部の国では改善されたが,他の国々,特に,食糧生産高の減少しているアフリカ諸国では悪化している.障害を残す伝染病のコントロールは最近10年間に改善されている.例えば,天然痘は根絶され,一部の国々ではポリオ,結 核,麻疹,破傷風,ジフテリア,百日咳に対し免疫を持つ子どもを増やす一層の努力が重ねられている.しかし,他のいくつかの疾患,特にマラリアについては状況はむしろ悪化している.また,開発途上国では周産期ケアがなおきわめて貧弱で,適切なプライマリー・ヘルスケアが住民に広くいきわたることによってのみ周産期に関係する能力障害の発生を減らし得るだろう.道路交通の増加と急激な工業化の結果として事故もまた増加しており,こうした問題に対処しようとするこれまでの試みは適切ではなかった.
開発途上国における状況を改善するためには今後一層効果的な一般的政策や特別な施策をより広く行う必要がある.一般的政策の中には今日なお絶対的貧困にある8億人の人々の社会経済的発展を促進し,また,その健康状寿を向上させる努力が含まれねばならない.また,特別な施策としては栄養失調や伝染病を減らし,周産期ケアの質を向上し,事故を減らし,またこれらが起こったときにはより良いケアが受けられるように図るといったプライマリー・ヘルスケアの中身を発展させることにある.既に指摘されているように,機能不全の予防(一次レベルの予防)が能力障害問題の対策に最も有効であって,治療,修復,機能回復などの試みでは完全に満足な結果を得ることはまれである.したがって,過去の試みが失敗し,また,今後同様の結果になろうとも,あらゆる国家機関,国際組織において一次予防が最優先されるべきである.
一方,先進国においては上記のようなことは能力障害の原因として重要でない.ただ,事故は特に比較的若年者層における能力障害を増加させる原因となっている.したがって,先進国では事故の予防が優先されるべきで,教育キャンペーン,進んだ安全方策,立法措置等を通して高度に効果的な施策が履行されている.事故以外に,リューマチ熱あるいは代謝異常といった疾患や遺伝的な機能不全が先進国での子どもにおける能力障害の主な原因になっている.
長寿を目指す近代医療がときには同時に能力障害の発生を増加させる.例えばAberddeen大学のCompbell 教授は次のように述べている.
「集中治療についても,これを制限することによって新しい極めて残虐な形の子ども虐待にならない限り,治療には限界が設けられるべきである.幼児の死を選ぶという判断は空恐ろしいものであるが,ときには取り上げざるを得ないこともある.赤ちゃんの命を救うべきか否かの決断をするにあたって,厳しく問いかけるべき問題は回復後に待ちかまえている生活の質ということである.近年,新生児死亡率はかつて不可能と考えられた水準にまで低下し,集中治療の成功は医学の勝利を象徴するものとなった.ハイテクノロジーを駆使した医学は“無情に,そして際限なく”広がっている一方で,親の希望とか,幼児の痛みや苦痛に対してはこれまでほとんど注意が払われなかった.専門家団体や病院倫理委員会から医師に対して示されたガイドラインは適切でないか不完全なものであった.」
ある見積りによれば,1970年に開発途上国には6,000万~7,000万人の障害児がいたが,もし既存の予防施策が行われず,また,新しい方法が開発されなければ,2000年には障害児の数は1億3,500万人~1億5,000万人に達する計算になる.先進国では同じ期間に障害児が増加して1,200万~2,500万人になると推定されている.結論として,若年者の能力障害について,高年齢者に対する以上の配慮と努力をとまでは言わないにしても,同一レベルの予防措置とリハビリテーションが行われるべきである.今日の能力障害児は明日の障害者となって,“Special Needs Community”を形成するということを忘れてはならない.

幼児期における能力障害の原因

THE ORIGIN OF DISABILITIES IN EARLY CHILDHOOD―RESULTS OF A LONGITUDINAL STUDY

Klaus-Peter E.Becker
Sektion Rehabilitationspaedagogik,Humbolt Universitat,GDR

東ドイツ政府保健および教育省は10年前に能力障害の実態と障害児発生の動態に関する資料を集めた.この資料は政府の長期計画のために極めて重要なものである.科学的調査に基づいた数字が既に1951年から 1955年に報告されているが,これは実際上役立つものではなかった.
期待に応えるにはどうすればよいか?これには次の2つの方法が考えられる.

  1. 既知の疫学的要素を考慮しながら障害児の発生頻度を計算する.
  2. 無作意に抽出した子どもの発達のレベルを判定して能力障害の原因となる要素を分析する.

方法論的理由から第2の方法を採用した.第1の理由として1955年以来社会政策,衛生学,臨床医学,教育といった分野で数々の変革があり,今日では障害の原因はもとより,平均的な発達のレベルについての知識が多かれ少なかれ変化していると考えられること.第2に,教育的リハビリテーションで対象とする人についてのパラダイムが,国際分野で定義するImpairments.Disabilities,Handicapsとは食い違うところがあるからである.
ここでとりあげる教育的リハビリテーションでの Disability(能力障害)とは単なる生物学的欠陥のみをいうのではなく,パーソナリティの状態も含んでいる.一般に,障害のある人は特別の援助なしには教育,職業活動,家庭生活,教養といった年齢相応の社会的期待に応えられない.
Disabilityはつぎの3つに関係がある.

  1. 生物学的器質欠陥(Deficiency).
  2. 特定のパーソナリティの構造
  3. パーソナリティ形成に必要な社会条件の不足

生物学的器質欠陥は能力障害を引き起こすのに必要条件ではあるが十分条件ではないと考えられる.能力障害は全人的なものであり,生物学的欠陥は生物学的発達条件に影響を与えるに過ぎない.極端な例を除いて,社会性が発達する条件は主として特定のパーソナリティの構造に関係がある.
能力障害はさまざまな領域すなわち,知覚,運動,言語/発語,認知/記憶および動作や社会的行動の背景となる情緒などの領域に表われた発達の異常で示される.

図1 教育的リハビリテーション論による能力障害の進展

教育的リハビリテーション論による能力障害の進展

我々はこのパラダイムに従って継続研究を行った. 1979年の研究開始時には3歳6ヵ月から4歳まで,終了時10歳6ヵ月ないし11歳になる636人の子どもが登録された.対象児の生活程度は統計学的な見地からみて東ドイツの標準的なものである.研究チームは教育的リハビリテーション,言語病理,医学,心理学,ソーシャル・ワークといった領域の経験豊富な研究者と学生で構成され,全例について1979,1981,1985- 1986と3回にわたり信頼できる確実な方法で観察した.また,追加調査を1985-1986に行った.集まった資料は統計学的に処理され,8群に分けられた.
1,2,3群は発達に異常所見を示した人たちで,群の番号が上がるに伴いその異常の程度が低くなる.4,5,6群は単一領域での異常が示され,7,8群では実際のパーソナリティの構造が平均ないしは平均以上である.群別にみると,能力障害の程度は言語獲得/発語,認知/記憶,運動性,社会活動,知覚といった分野の発達度に依存しており,障害の程度は図2に示すように,異常のみられる領域の数と,発達の異常にみられるc-valueの低さで確認される.
第1群ではあらゆる領域で非常に低いc-value値がみられる.
第2群は4領域のうち3つで異常を示し,第3群は6領域のうち2つで異常を示すことが特徴である.
第4,5,6群は認知/記憶,社会行動,運動性のいずれかの1つで所見を持つ.またこれらのどのグループにも軽度の視/聴覚障害が見られる.

図2 領域別発達異常の分布で示される第1群の能力障害の程度(第2次調査時)

領域別発達異常の分布で示される第1群の能力障害の程度(第2次調査時)

教育的リハビリテーション論によれば,能力障害は心理学的,生物学的および社会的諸要素の相互関係が原因になっている.この仮定にたてば,得られた医学的データと社会的データは2つの指標に集約される.すなわち医学的データは「脳障害指標」に,家庭教育関係は「家庭教育障害指標」にまとめられる.
表1は各群について,この2つの指標におけるc-value 相関関係を示している.第1-3群での関係は明白であり,群の番号が増えるに伴い,相関関係が弱くなる.
結論:この研究で能力障害に関する教育的リハビリテーション論のパラダイムが確認された.障害の予防と対策はこの研究結果から明瞭に導き出せる.

表1 脳障害、家庭教育障害と発達異常の相関関係

脳障害指標C-1~3 家庭教育障害指標C-1~3
1 20 19 95.00 17 85.00
2 26 19 73.00 15 57.70
3 52 23 44.23 30 57.70
4 17 6 35.29 9 52.90
5 86 23 26.74 36 41.90
6 30 10 33.33 6 20.00
7 158 27 17.09 31 19.60
8 190 27 14.21 20 10.50
579 154 =26.60 164 =28.32

〔参考文献〕

  1. International Classification of Impairments,Disabilities and Handicaps.World Health Organization,Geneva1980.
  2. Becker, K.-P. et al. Zur Genese und Phanomenologie physisch‐psychischer Schadigungen im Kindesalter.Humboldt‐Universitat zu Berlin,BERICHTE 1987,7(5).

日本における心身障害児の早期発見システム

EARLY DETECTION OF DISABILITY IN CHILDREN‐EXPERIENCE IN JAPAN‐

松井一郎1),黒木良和2)
1)国立小児病院・小児医療研究センター,2)神奈川県立こども医療センター

緒言

小児の心身障害が早期に診断されれば乳幼児早期から医療サービスやリハビリテーションを提供することが可能となり,発達や生活面における遅滞や不自由の予防と改善に大きく役立つ.小児の心身障害の主要原因は,かつては感染症(ポリオ,脳炎,結核など)が主体であったが,第2次大戦以降の日本では,顕著な乳児死亡率の低下がみられ,また小児期の疾病原因,死亡原因にも大きな変化が見られてきた.それは感染症や栄養障害等に基づく心身障害が大きく減少し,相対的に先天性や遺伝性の疾患の比重が増した点である.
この状況に対応して,日本における心身障害の早期発見の仕組みも新しい視野から整備され,その概要を紹介する.早期発見の施策は母子保健事業の中で進められている.

母子保健と医療の変遷

1965年公布の母子保健法が中心となり,妊娠から始まる母子の健康管理と医療が整備されてきた.時代の推移と共に新しい施策が加えられてきた.

  1. 妊娠時期:母子手帳の交付(1948),妊婦健康審査と保健指導(1948),母子栄養強化,妊娠中毒症対策(1962),B型肝炎母子感染防止事業(1985)
  2. 新生児期:未熟児養育医療(1958),先天代謝異常検査実施(1977),クレチン症 (1979),新生児訪問指導(1961),母子緊急医療充実(1980),周産期医療施設整備(1984)
  3. 乳児期:予防接種法公布(1948),乳児健診 (1948),精密検査公費負担制度 (1969),育成医療(1954),小児麻痺ワクチン(1961),はしか生ワクチン (1966),感染症サベイランス(1981),神経芽細胞腫検査(1984)
  4. 幼児期:1歳6ヵ月児健診(1977),3歳児健診(1961)
  5. 関連の研究費:心身障害発症予防に関する総合的研究(1971),小児慢性疾患治療研究(1974)

先天代謝異常のマススクリーニング

フェニルケトン尿症に代表される先天代謝異常の新生児マススクリーニングが定着してから10年を経過した.早期発見と精神薄弱の発症予防の実現は多くの支持をえて,わが国の新生児の実に99%がこの検査を受けている.1977年から実施されているマススクリーニングの概要は以下である.
年間4-500名の新生児が的確に診断され,医学的な管理の下で心身障害を免れて発育を続けている現状は誇りうるであろう.対象疾患の拡大が検討されている.

疾患名 主要症状 発生頻度 年間診断数
ヒスチジン血症 言語障害、軽い発達遅滞 1/6000 250
クレチン症 低身長、知能障害 1/8000 190
フェニールケトン尿症 知能障害、赤毛 1/70000 21
ガラクトース血症 発育不全、黄疽、知能障害 1/80000 19
ホモシスチン尿症 知能障害、骨格障害 1/160000 9
楓糖尿症 知能障害、昏眠、痙攣 1/460000 3

乳幼児期の健診による心身障害の早期診断

わが国では,妊娠-出産=新生児=乳児期=幼児期-…と一貫した健康管理がそれぞれの地域で進められている.この地域の健康管理システムは次の特徴がある.

  1. 乳児期前半(3-4月),乳児期後半,1歳6ヵ月,3歳に健診が用意されており,それぞれの健診受診率が70-90%と極めて高く,障害発見の契機となる.
  2. 異常の疑いがある場合は,公費負担による精密健診が行われる.
  3. 大学病院,小児専門病院,主要国公私立病院が高いレベルで精密検査を行う.
  4. 乳幼児期の健診を受診しない子供達に対して,地域の保健婦が家庭訪問を行い,健診の受診勧奨や健康相談を行っている.
  5. 以上の結果として,乳児期・幼児期に心身障害の多くが診断・ケアされている.

地域の母子保健システムを活用して,神奈川県逗子市で先天異常の悉皆調査を行い以下の結果を得た.
先天異常の自然発生率は5.5%と推定されてきたが,2歳以降の診断される発達遅滞や行動異常を加えると,出生の6-7%と考えられる.それぞれの地域で早期のケアが行われている.

出生―1歳6ヵ月の間に診断された先天異常の発生率

先天異常の区分 患児数
単独の先天異常(先天奇形) 289
複数の異常を伴う先天異常 11
症候群その他の重篤な患患 23
単純な精神発育障害 21
合計 344

この期間(1975-1982年)の逗市市出生数=5,719人(逗子市人口=6万人)
先天異常の発生率=344÷5719=6.0%

先天異常モニタリング

先天異常モニタリングは1960年を前後したサリドマイド事件の悲劇をどのようにして防ぐか,を中心にして進められてきた.わが国ではサリドマイド発売国の西ドイツの5,000人の患者,イギリスの700人に次いで300余人が認定されており,世界第3位であった.この事件への反省から奇形発生への監視体制を整備し,まず疫学調査から異常発生の多発をモニターする考えが1970年の頃から国際的に進められてきた.
具体的な内容は,新生児を対象として奇形の調査を行ない,その地域の発生頻度を算出する.約2年間調査を継続して奇形発生のベースライン頻度を決め,この値を奇形発生の基準値とし,以後経時的に,定期的に奇形発生頻度の統計処理を行ない,ベースラインを有意にこえた発生があるか,否かを検討する.もし,基準値を越えた奇形発生があれば,必要な病因・原因の調査を行ない,問題となる催奇形物質が社会に導入されるのを防止することを目的としてる.
対象とする奇形は,無脳症とか,目や耳など顔面の奇形,手足の奇形など身体表面の外表奇形を選んでいる.染色体異常の代表であるダウン症も含まれている.神奈川県,鳥取県,石川県,あるいは日本母性保護医協会,東京都立病院・都立産院,日赤病院などで進められてきた.今後は母子保健行政を基盤として多くの自治体で実施される方向が検討されている.
先天異常モニタリングで得られた情報は国内や国際的な会議で検討され,その情報が定期的に,それぞれの国のモニタリング・センターに還元されている.これまでのモニタリングでは,幸いにして顕著な奇形発生頻度の上昇や催奇形物質の導入を疑わせる異常事態は発生していない.

結語

小児の心身障害の多くは先天異常に起因する.その発生予防や早期診断のためには,妊娠-出産-乳児期-幼児期の一貫した健康管理のシステムをそれぞれの地域で充実させることが重要である.また,先天異常の多くは遺伝性疾患であり,これらの疾患のスクリーニング,モリタリング,遺伝相談,出生前診断なども関連の重要課題である.

開発途上国における障害児の早期診断と対策

A STRATEGY TOWARDS EARLY IDENTIFICATION AND EARLY INTERVENTION OF HANDICAPPED CHILDREN WITH SPECIAL REFERENCE TO DEVELOPING COUNTRIES

Kurt Kristensen
Kenya institute of Special Education.Kenya

WHOによればケニヤでは0-15歳の子どものうち多少なりとも社会的不利(Handicap)を負っている子どもは約百万人に達する.1984年にケニヤ政府はデンマーク政府の応援を得てEducation Assessment and Resource Center(以下EARCと略す)を作ることを決定した.この目的は全国41地区すべてに評価センターを置くことである.最初17か所にEARCが設置されたのを皮切りに,今日では41地区全部に作られ,約 "25,000人の子どもたちがそのサービスをうけた.
EARCができるまでは障害児たちの訓練と教育は早期どころか学齢期に達してようやく始められる状態であったことから考えても,EARCの設置が正しかったといえよう.以前は数ある養護学校に通っている全障害児のうち,3分の1ないし2分の1は入学前の判定がないために,受ける学校の教育が適切でなく,しかも,障害児のわずか1-2%が訓練と正式の教育を受けるに過ぎなかった.
ケニヤでは,障害児を早期に確認し,これに対応できるプログラムと正しい統合計画を緊急に作り上げる必要があったが,EARCはこうした目標を念頭に置いて設立されたのである.
EARCの活動内容は以下のとおりである.

0歳から16歳までの全障害児の評価:判定は評価教師(Assessment teacher)と,保健省,文化省,社会サービス省,その他民間組織の職員で構成された評価チームによって行われる.
親の指導:障害児がセンターで評価を受けた後行われるもので,親たちは子どもの育て方の指導を受け,援助を求めるべき他の機関を教えられる.この指導の継続として親たちを後日センターに再度招いたり,あるいは,センターの職員が家庭訪問することもある.
また親教室がセンターで開かれる.この教室で親たちは障害児の扱い方や簡単な補助具の作り方などの知識と注意を実例を通して学ぶのである.
近所同士に住む子どもたちのために互助のグループ活動も奨励されている.
障害児の統合教育:普通学校での統合教育も評価教師の応援があれば多くの場合可能である.この教師は障害児の通っている普通学校を巡回して子どもたちに特別の援助をするのである.この巡回サービスはEARC に拠点を置いている.
普通学校に障害児が多数いる場合には特別学級 (Unit)が設けられ,これは普通の教室であるが,一人の教員が15人以下の障害児を教えている.評価サービスの結果,すでに100クラスができている.
小ホームによる援助:普通学校や特別学級の統合教育を受ける能力を持ちながら家庭と学校が離れすぎている場合に備えて小ホームが用意されている.このホームは普通の家庭で,障害児たちは月曜日から金曜日まで,ときには一週間全部ここに住むことができ,ここでは一人のハウスマザーが子どもたちの世話をすることになっている.
障害児の特殊学校への通学はその子の障害が深刻で普通学校では受け入れられない場合に限定されている.
EARCの設備備品の一部はセンター付属の作業所で作られる.ここでは情報機器,教育用具,簡単な補助具等が作られる.センターには教育機材や運動補助具の見本が用意されてあり,親,地方の職人,若い工芸家,刑務所,他の作業所等で再生産できるようになっている.これらの用具や補助具は,入学の判定を受け周囲の学校に登録された障害児たちのために利用される.
多数の障害児たちが健康診断と治療をセンターで受けることができる.
教員その他を対象にするセミナー:教員管理者,保健婦,ソーシャルワーカーや地域社会の人たちを対象に障害児の療育を教える短期コースで,評価教師が行う.
障害児に関する情報を収集して特殊教育,調査,研究についての中央での計画作成の基礎に役立たせる.
メイン・センター:国内8つの各州でひとつずつの EARCがメイン・センターとして機能し,そこにはより高度の機材が整っている.
各地区のEARCは地域にある障害児の特殊学校や特別学級(Unit)と連携を持っており,この場合教頭が EARCサービスに対する全体の責任を持っている.作業は評価チームによって進められる.
41のEARCのもとには128のサブセンターが開設されて,障害児の親たちが子どもたちの評価サービスを受けるために長距離の旅行をする必要はない.
ケニヤでは障害児のための各種のサービスがあるが,必ずしも効果的な協力がなされておらず,EARCを通して受けるのが一つの方法である.EARCに関する情報は可能なあらゆる手段を使って公けにされている.住民たちはEARCを自由に利用できるようにその存在をよく知らなければならない.
結論として,EARCでは障害児の早期の確認と療育が強調され,その結果,障害を促進する無用の作用を防いでおり,最も経済的な障害児の特殊教育サービス機関となっている.
開発途上国では体系的な地方分散型の障害児対策プログラムを作る必要がある.統合計画はバラバラに実施したのでは十分なフォローアップが行えず失敗しやすい.大多数の障害者が家庭や地域社会である程度受けいれられてこそ統合が達成されるのである.もうひとつの統合達成の必要条件はどの普通学級でもその規模に関係なく障害児を受け入れることである.

〔参考文献〕

  1. Kristensen Kurt,The Special Pedagogical Centre for Education,Training,Research,Technical Aids Development and Information.Educational Rehabilitation,School Psychology,Hans Knudsens Plads 1A,2100 Cologne,FRG
  2. Kristensen Kirsten,Guidelines for the Establishment of Educational Assessment and Resource Centres.UNESCO,Ed.86,5‐January1986.

カナダ辺地におけるMcGill大学リハビリテーション活動のひろがり

A DIMENSION OF REHABILITATION SERVICES PROVIDED BY MCGILL UNIVERSITY IN A REMOTE AREA OF CANADA EASTERN ARCTIC‐N.W.T.

B.Destounis1) and D.MacLeod2)
1)McGill University Canada 2)Health and Welfare Canada,Canada

はしがき

1981年国際障害者年の終わりにあたり,国連の総会においてヨーロッパ委員会の代表たちは次のように述べた.「長期的にみて,障害の予防が最も重要な課題であることは明白である.全てのリハビリテーション対策は予防,早期発見,早期治療,そして医学的リハビリテーションから始まるのである.」(RENKER,1982).
工業地域では障害発生頻度の減少が報告されているが,開発途上国や農業地帯でのそれははるかに高い.信頼できるデータではこれらの国では全人口の15-20 %になんらかの障害があることを示しており(KAFKA. 1973),教育程度の低さ,衛生状態の悪さ,熟練の職員や情報・連絡の不足といったことが障害者の数を増やす要因になっている(INGSTAD.1983).
僻地でのリハビリテーション・サービスを発展させることは一つの挑戦である.そこでは文化・風習の違いが大きな意味を持っており,また,優れた専門家の継続的な確保と,その信頼性がリハビリテーション・サービスの発展を成功に導く主要な要素である.一般に,農業地帯や低開発地域で働く専門家は,孤独と専門的な刺激の不足に悩まされて,その交替が極端に激しく,これがサービス発展の大きな障害となっている.

背景

Northwest Territoryはカナダの中でも最も辺鄙で未開発の地域であり,独自の文化と極端な環境条件を持っている.この地域はInuvik,KewatinおよびEastern Arctic(Buffin島とその周辺の島々を含む)の3つの区域に分けられる.McGill大学は過去25年にわたって Buffin Regional Hospital(BRH)に対して専門医を定期的に派遣してきた.この35床の病院(BRH)は Eastern Arctic(以下EAと略す)の首府であるIqaluit に在り,EAの中で辛うじてプライマリー・ヘルス・ケアを行える唯一の病院である.この地域の人口は約8,500人で,Inuit族が85%,白人が15%である.
EAには12のSettlementまたはコミュニティがあり,これに属する住民数は150から700人まで幅がある.各Settlementには教師,ソーシャルワーカーおよび看護婦が常駐または提携している.Nursing stationが各 Settlementにあり,看護婦がそのコミュニティでの出産介助,子どもや成人の各種診療所の組織化,事故によるけが人の救護といった保健活動に責任を持っている.救急事態には,患者は唯一の輸送手段である飛行機またはヘリコプターでBRHに送られる.
EA地区には1978年以前は障害児がほとんど住んでいなかった.これは障害児たちは放置されて死ぬに任せられるか,南部カナダの施設に送られて,特殊教育や,リハビリテーションを受けたり長期に収容されるかのいずれかであったからである.しかし,子どもは環境が変わるとともに著しい文化の違いにさらされ,そこからさまざまの新しい問題が生まれた.すなわち,措置された子どもが成人に達したときとか,それ以上のサービスを必要としなくなったときには北部のSettlementへ帰されたが,元のコミュニティへの再統合は,本人にも家族にも惨憺たるものであった.青年はもはやInutituk語を話すことも理解することもできず,北部で生きるために必要な技術も身につけていなかった.障害を持った子どもを親元でと言われ始めたのは近々8-10年のことである.障害児を家庭で育てるように家事を整えることは家族にとっても不可能ではないが,これには公的機関や親戚友人の,あるいはその両者の実質的な援助があってはじめて可能となる(INGSTAD.1983).一人の子どものリハビリテーションには,親族が家族と同様にその介護や発達の過程で果たす役割が大きいのである(SCOTT.1984).

方法

子どもたちをSettlementで世話するためには,諸サービスが必要なことは言うまでもない.BRHはMcGill 大学と,サービスの開発と提供の責任を持つことについて契約を交わし,1984年から活動を開始した.リハビリテーション・チームは最初,コーディネーター―リハビリテーションのあらゆる面に精通し,責任者となる人―,理学療法士および整形外科医で構成され,以後4年間に神経学者,作業療法士,言語病理学者,小児訓練士,椅子技工士(Seating technician),ろう教育の専門家が加わるほどに拡大した.このチームは必要に応じて年2-4回の頻度で地域を訪問して,子どもの障害の判定をし,教員,ソーシャル・ワーカー,看護婦たちの相談に応じた.サービスを進めるに先立ち,障害の実態調査が必要だった.ここで問題は身体障害を持つ人の数,種類,程度,原因について信頼できるデータが欠けていたことである.障害者のためのプログラムを効果的に実行するには数量的な資料が必須である(GEHANDICAPTEN.1976).
Settlementの看護婦はBRHと連絡をとり,障害の危険がある子どもや,すでに障害を持つ子どもは全員リハビリテーション・チームで判定を受けさせるよう要請された.一人ひとりの子どもが整形外科医もしくは神経学者,理学療法士,その他の専門家による評価を受けた.

結果

4年間に80人の障害児が確認され,治療を受けた.いずれも中ないし重度の能力障害を持っていた.

  • 28%:身体的能力に影響を及ぼす神経学的欠陥があった.
  • 30%:発達が遅れ,同年齢のものよりも3年以上の機能の遅れがあった.
  • 26%:脳膜炎や脳炎のような感染症による二次的な神経障害があった(精神薄弱,身体障害).
  • 16%:外傷または心理的原因で神経学的,整形外科的障害を持っていた.

この結果は開発途上国での障害者の発生頻度が15-20%であるという世界的な統計値と一致する.

考察

80人の障害児が見つかったが,これは日常生活や動作に介助を必要とする子どものみである.ハンディキャップがあっても機能と関係のない場合には親たちは必ずしも救護所に連れて来ようとはしないので,障害の状態がはっきりと目に見えるような場合のみ確認されたと思われる.したがって,もし中軽度の障害まですべて含めるならば,20%という頻度は控え目な数字となる.また,調査結果では0-9歳での障害の頻度は9-18歳の場合よりもはるかに高い.
調査の結果,辺地のSettlementの専門家,教員,ソーシャル・ワーカー,看護婦たちは,専門的な刺激に欠け,孤独感を抱いており,地域の中で中,重度の障害児と家族ととりくんでいくためには,リハビリテーションの専門家の援助が必要であるとわかった.リハビリテーション障害の予防策そして障害児用機器などの領域についての知識は辺地の専門職の人々も一般の人々も限られている.また,Settlementにおける看護婦,教員,ソーシャル・ワーカーの平均勤務年数はわずか2年足らずであることも分かった.

結論と提案

4年間にわたる研究結果と得られた情報から,リハビリテーションの領域には継続性と専門性が必要であることが指摘された.これはこの要求に応える人的資源を持つ大学と契約することによってかなえられる.
プロジェクトを成功に導くために最も必要で有意義な要素は住民自身がこれに参画することであり,リハビリテーション・サービス発展の目標は地域住民であるInuitの人々が障害の教育,訓練,発見などの一翼を担うことである.地方の人々は,どの文化でも同じように,共通の文化をもつ人を信頼し,安心するものであり,通訳を介さずに,自分達の言葉で問題点を議論する方がより気楽である.そのコミュニティで何が受け入れられ,何が可能であるかをよく知っているのは住民自身である.彼らの素朴な改革案はその文化環境の中で実行可能であり,受け入れられるものである.
このプロジェクトのなかでInuitの人々が参加できることの例として次のようなものがある.

  1. 障害児の親が発達治療士,理学療法士,作業療法士から訓練を受け0~5歳児のために働くようになった.この幼児計画はIdaliut地区で始められた.この母親は病院から給料を貰い,家庭訪問をして子どもたちの発達を手助けするような特別な療育方法をその親たちに教えた.このやりかたは他のコミュニティでも応用できよう.
  2. 理学療法士は病院の職人に障害児に必要な器具のデザインの基本原理を教えたが,このことによって,南部のカタログから注文しなければならないような特殊な器具で,しかも結局使いものにならず,過度に高価につくようなものの数が減少した.
  3. BRHの保健婦はMcGill大学から派遣された聴能士に聴覚検査の訓練を受けており,コミュニティを巡回して難聴の疑いが持たれる子どもが見つかればこれをBRHに来る聴能士に照会する.
  4. McGill大学は付属病院からBRHに対して理学療法士のローテーションを組んでおり,これには最低3ヵ月,上限なしの滞在期間を設けている.これによって専門家たちは異文化に触れて,一般病院ではできない経験を積み,辺地サービスの発展に関心を抱くような刺激を受ける.
  5. McGill大学はBRHと契約して4年間同一の専門家たちに担当させて一貫したサービスを図ってきた.地域の専門家に対する相談員の役割は重要であって,孤立した地域で並外れた仕事をしている看護婦,教員,ソーシャル・ワーカーが専門の研修経験を積めるように計らった.辺地で働く人々には,とりくんでいる問題に対してフィードバックがあり,討論する機会があり,確信を得られることが必要である.
  6. 親を支援するグループがBuffin島ロータリークラブ後援の討論会から生まれた.親たちは討論したり質問したり,勉強をする機会を得,病院やリハビリテーション・チームの職員はこの会に加わった.
  7. McGill大学教育学部は小児介護特別講座をArctic Collegeに設けている.また,同学部ではInuitの人たちが教員になれるような特別のカリキュラムを組んでいる.また,理学・作業療法学部でも訓練計画が進められている.これらはSettlementが必要とする理学療法,作業療法サービスの需要に応えるものとなろう.

結語

Eastern Arctic地区の障害の発生頻度は高い.障害を予防し減少させようとするならば,今後の計画としては,Arctic地区で障害の要因を研究することが必要である.McGill大学は付属病院を通して,北部辺地の保健および教育サービスを実施し,推進しており,地域の人々の参加と職員の訓練を進めている―「ビジョンを分かちあおう」.

〔参考文献〕

  1. GEHANDICAPTEN,W.G.:Physically Handicapped in the Netherlands,1971‐1972,Netherlands Central Bureau of Statistics,Parts 1&2,1976.
  2. INGSTAD,B.:Assistance to Families with Handicapped Children.INT.J.Rehab.Research,1983,6(2),p.165‐173.
  3. KAFKA,Dr.:World Health Organization,letters from Dr.Kafka,1973.
  4. RENKER,Karlheinz:World Statistics on Disabled Persons,Int.J.Rehab.Research,1982.
  5. SCOTT,Gordon:Mentally Handicapped Children in Cornwall:Prevalence,Epidemiology and Use of Services.Research News‐Int.J.Rehab Research,1984,7(3)p.453‐454.

分科会SD-1 9月6日(火) 16:00~17:30

経済的制約下の障害者の職業訓練と就職斡旋の新しい現実

NEW REALITIES IN VOCATIONAL TRAINING AND PLACEMENT FOR PERSONS WITH DISABILITIES DURING PERIODS OF ECONOMIC CONSTRAINT

座長 永田 薩夫 国立職業リハビリテーションセンター所長
副座長 Dr.M.A.El Banna Council of Rehabilitation Research,Ministry of Social Affairs(Egypt)

経済的制約下の障害者の職業訓練と就職斡旋の新しい現実

VOCATIONAL TRAINING UNDER ECONOMIC RESTRAINTS FOR DISABLED PERSONS AND NEW FACTS ABOUT THEIR EMPLOYMENT

永田 薩夫
国立職業リハビリテーションセンター所長

日頃,我々が熱意をもって推進してきた障害者の「職業訓練と就業の確保」は,もともと多くの社会的経済的制約を当然のように受けながら展開されてきた分野である.今回,本分科会が特に経済的制約をテーマとして選んだのは,次のような理由によると私は考える.
社会的制約には,例えば社会的習慣,教育水準のように変化が緩慢であったためその影響が軽視されたり,医療水準のように急速に進歩発展する分野等であっても,その成果を現在まで直接我々が利用する体制を持てなかった分野が含まれている.
それに反して、経済的制約が我々の分野に持つ影響は計りしれないものがあり,すべての活動に関しているといえる.しかも経済的制約は経済の好・不況により間断なく変化していて,我々の対応を常に求めている.対応を怠れば,我々の分野は古い時代の姿のまま細々と生き延びる以外に道はなくなると私は信じる.

次に本日の分科会の運営が円滑に進行するよう、経済的制約のうち現在最も問題になっているのは何かを簡単に示しておきたい.
まず第一は,近代的労働市場が未形成な状態にとどまっており,高率の失業率に悩まされているような開発途上国,あるいは経済事情が最近特に悪化し,失業者が増加している国々における障害者の就労機会の確保および,そのための有効な職業訓練のあり方の問題である.
就労機会を確保させるために,施設を設けて1ケ所に集め共同作業を行わせるといった形態は従来から行われてきたし,現在も開発途上国においては障害者のための就労機会確保のための有効な手段となっている.
ただこのような場合,単純作業が多くあらかじめ作業に必要な訓練は行われていないことが多い.しかし,現在技能を必要とする作業が導入されつつあるので,就業前に専門の指導者による短期日の合理的な訓練がこれからは必要になってくるものと私は考えている.
また,経済事情悪化の状況下では,障害者の雇用機会は通常減少の一途を辿り,加えて職業訓練または就職斡旋に関する経費の節約を資金負担者から指示されるなど、真実の「経済的制約」を直接受けるようになる.この点については,皆さんと同様に私も全くのお手上げの状態である.
しかし,不況であればこそ企業側はわずかな従業員の採用の機会にあたって,より優秀な人材を雇用しようとするであろう.健常者に劣らぬ優秀な障害者も多い.要は,採用側の意向を把握するシステムをまず確立することである.さらに大切なのは,把握するだけでなく、当該企業への推薦予定者が定まったら訓練内容を企業側の要望に合わせて大胆に変更することであると私は考えている.このことは,精選された内容による必要な期間の訓練というシステムを生み,訓練関係者が抱いていた「この内容を満足させなければ職業訓練ではない.」という固定観念を打破するとともに,これははっきりと断言することはできないが,資金負担者にも喜んでもらえる方向に向かうのではないか.

第二は,従来ある種の障害者については就業不能と見なされていた職種への補装具・作業用自助具等の開発による就業機会の拡大、および技術革新に伴って出現する新たな職種に障害者は就業機会が与えられるという問題である.
最近,軽量・強度の新素材が開発され、補装具制作面では一段と進歩の見られるところである.また,ME技術の進展は,各分野で新たに自動機械の開発を成功させており,障害者が独自に利用して実作業に従事できる日も間近であろう.一方,医療面の進歩も著しいものがある.我々としてはこれらの分野と積極的に協力体制を確立する必要があると私は考えている.
なお,新しく出現した職種については若干の配慮は必要とするであろうが,障害者であるからといって怖がることなく,積極的にチャレンジすることを私は望みたい.

第三は,需要サイドの要求する技術・技能を付与するにあたっての新たな訓練方法の開発に関する問題である.需要サイドの訓練内容に対する要望を把握することの重要性は前に述べたところであるが,ここでいう訓練方法とは訓練内容となる各技術・技能を需要サイドの要望に沿って精選し,それを訓練しやすいように合理的に配列し,さらに対象者に理解・習得させるという一連の過程をさすものである.

第四は,障害者に対するリハビリテーションシステムの確立を望む開発途上国に対する援助についての問題である.「経済的制約下」にあるという現実が,最もぴったり当てはまるのが開発途上国であろう.
今後の経済援助は施設の設置,設備の供与などの拡大を図るのも大切であるが,技術・技能の転移を目的とした専門家による現地指導,リハビリテーション先進国への研修生の受入れなどが必要不可欠なことであると私は信じている.

経済的制約下の適切な訓練モデル

APPROPRIATE MODELS FOR TRAINING DURING PERIODS OF ECONOMIC CONSTRAINT

J.Albers and H.Geerdink
Centrum Beroepsopleidingen "Hoensbroeck",Netherlands

社会のマクロレベルの変化

社会がマクロ的レベルで変化する過程において,障害者の労働市場における地位も影響を受けやすい.そのような社会変化の過程が間接的に職業リハビリテーションサービスのあり方を変え,さらに促進方法や供給方法の再考をも促す.
このような観点から眺めると,社会的,人口統計的,経済的,制度的な社会変化のマクロ的過程が社会の中に見出されるであろう.この過程は相互依存関係にある1)2).制度的変化には,社会保障制度や関連のある障害者法,規則細則の運営上の変化などが含まれる.
経済の変化にともない労働力の質的,量的需要・供給も変ってくる.その上,工業技術の発達は労働市場にさまざまな波紋を投げかけている3).労働の質に関する条件が変化し,単位製品当たりの必要労働力は減少するであろう.
障害者の職業リハビリテーション訓練の形態の市場適正は,目標,組織の構造,対象集団の施設,資源,特徴を把握した上で,上記の関連のある背景要素の重要性を吸収することが出来るかどうかにおおいに左右される4).

雇用構造の変化

オランダの雇用構造も大きく変ってきた5).経済はポスト産業社会すなわち情報社会への移行の特徴を示している.1985年以降の経済発展と雇用拡大にもかかわ "らず,構造的失業は抑えがたいものとなっている.1985年には非障害者の失業者の40%は初等教育しか受けていないか,中等教育中退者であった.ところが1980年の調査によれば6),不適格保険法の適用を受けている障害者でもその約80%は小学校程度あるいは初級職業教育を受けているのである.
職場のオートメーション,複数の会社の組織化,仕事の内容やもとめられる技能により変化が期待されている.
オートメーションは,明らかに仕事に必要な資格やその資格の特性に,ある影響を及ぼすようである.高度の中等教育や高等学校程度の教育を受けている者,なかんずく工業技術訓練を受けている者の雇用は安定している.これに対し初等教育しか受けていない者の雇用は減少傾向にある7).実際の効果は仕事の構造に大きく左右されると思われる.大多数の企業は大勢として,生産指向から市場すなわち顧客指向へと組織を変更しているが,これには生産過程や組織,人事の柔軟性が必要である.そして企業は職場でもとめられる技術を上級(プログラミング,プランニングなど)と下級(オペレーション,制御,データ入力)に区別する傾向にある.
オートメーションの普及により,障害者の雇用の機会は減少する兆候が見られるが,これはストレスや消耗傾向にあり,教育程度の低いある程度年配の人たちにかかわる問題で,決定的な損傷はあるが高等教育を受けている少数の若年障害者の雇用の機会は増加している8)9)10).

障害者雇用

調査報告によれば11),オランダにおける健康で(働くことが出来る状態で)退職年齢に達する労働者数の減少は警戒すべきことである.不治の障害をもつ人の数の増加は,老齢者に限られたものではなく,若年層や中年労働者にもかかわることである.障害が1年続いた後に快復する(働くことができるようになる)のはまれで,実際には快復するにしても最初の2年以内,しかも若年層に限られている.
1986年のオランダの障害者雇用法では,障害者と非障害者の雇用の機会均等を促進し,仕事を障害者にあうように調整して,障害労働者が自分の能力の範囲で賃金を得られるよう改善することを,企業に対し義務付けている12).障害労働者の雇用割当制度の導入も考えられている.
さまざまな会社研究により13)14),大多数の企業では新たに障害者を入社させる積極的な意志はないが,障害をこうむった従業員を同じ職場に置いたり,社内で配置転換してやめさせないようにするという方針であることが分かってきた.これは,すでに失業している障害者の社会復帰を図るというよりは,失業防止を促進するであろう.いったん失業すると,障害者は非障害者より代りの仕事を得にくく,この点において,失業防止に関する方策は,いまも現役で働いている労働障害と失業の危険に身をさらしている人たちにとっては,有利なものとなろう.社会復帰に便宜がはかられれば,就職経験のない若年障害者だけでなく,社内での配置転換ができなかった労働経験のある障害者にも重要な意味をもつ.予防と社会復帰の方策は相互補足的な機能をもつべきである.
上述のとおり,職業リハビリテーションはニーズに応え,目標を調整し,的確に設定されるものでなければならない.これは社会復帰だけでなく予防についてもいえることであり,どちらの分野においても訓練とさまざまな組織形態に対する目標調整構造が必要となるであろう.

職業訓練

50年代,60年代の経済成長期において,雇用状況はかなり良好であった.準技能職や非熟練職のための短期のトレーニングプログラムや職業紹介策は,障害者の社会復帰にも大いに効果があった.将来は,低レベルの技能職の求人が減少するので,この分野での障害者・非障害者間の競争が激しくなるだろうとの予測がある.これに対抗するには,社会復帰のための訓練形態に,自由労働市場での競争において有利で適正な側面をもたせるような構造が求められると予測できる7)10).
すなわち,社会復帰のための職業リハビリテーションの訓練計画は,一定の条件を満たすものでなければならない.その条件とは,必要とされるより高度な技術レベルや公式の資格基準に沿った知識や技能に達するのに十分な訓練時間,各企業の基準にあった工業技術,できればモジュール形式の豊富な教材と新しい工業システムでの労働に精通した指導者などである15)16).労働市場の発展にともない,障害者の職業訓練機関の側も鋭敏な感受性を求められることになる.十分な情報収集体制に加えて,企業との協力が可能であること,そしてたとえばこのための研修制度があることなどが必要となろう.
労働市場で有利となるトレーニングや上級レベルの技能教育についていく力のない障害者にとっては,たとえば下級の技能を必要とするオートメーション作業などにおいて需要のある,低レベルの技術や単純な繰返し作業の訓練が有効であろう.仕事を捜し確保するには,この他の援助も必要となるかもしれない.職業訓練は,障害者が特定の作業や仕事の現場での複雑な実用的技術を獲得できるようにするような方法に編成することもできよう.このようにすれば下級技能レベルであっても柔軟性を拡大することができる.トレーニングプログラムには,さまざまな期間の企業内での実習訓練や仕事のオリエンテーション、または見習期間を含むこともできる.

失業予防

障害者の失業予防策は,社内での再訓練プログラム,段階的職場調整による配置転換,仕事場の改修,補助具などによって完成される.再雇用の場合に比べてこれははるかに有利である.職業リハビリテーションのプロセスがよい時期により直接的に行われるし,短期間ですみ,費用もかからず,仕事の現場により密接につながっている.社内の新しい持場に対しての再訓練にさらに多くの時間をかけなければならない場合には,合同医療サービス(G.M.D./社会保障)で職場保持の可能性について検討することができる.企業にとって労働災害の被災者の失業防止策は,企業内でどんな支持が得られるかによって,非常に効果的に行うこともできる.労働障害者に対する態度,労働環境や人的資源への配慮,職場保持計画のための経済的・組織的・人的便宜などの企業内の労働条件は重要な意味をもつ.以前の職場や仕事の内容に関連した職場調整,企業内・外での職業訓練の後に,以前の部署内で配置転換するか他の部署に移るか,等は簡単な問題であるはずだが,同時に,企業外からサービスを要請しなければならない時には,障害だけでなく,当人の性格や地域的要素もからんだ複雑な問題でも ある.コミュニケーションがよいこと,身分関係の平等,人物と仕事の現場の査定,仕事の量と処理能力,工程と結果の評価などが求められるであろう.訓練に関しては,企業内にどれだけの可能性があるか,地域の公的・民間の訓練施設や障害者専門の職業訓練サービスで行われる訓練はどんな時に必要かを判断しなければならない.

失業予防策や再雇用策にもかかわらず,適切な職の不足のために特定のグループの障害者の職場が確保されないと,ただでさえゼロ成長に直面している保護雇用のシステムにあらたなプレッシャーとなる.このような状況になれば,労働の代りになるものあるいは代りの職を開拓することが緊急な必要事項となろう.

〔参考文献〕

  1. Bax,E.H.Maatschappelijke verandering en arbeids‐ongeschiktheid ‐ de macro deter‐ minanten van W.A.O.‐toetreding en uittreding nader verkend.Ministerie van Sociale Zaken en Werkgelegenheid,Den Haag,1984.
  2. Petersen,J.;Sprenger,W.Maatschappelijke factoren die het reintegratieproces van gehandicapten beinvloeden.GMD cahier,Amsterdam,1983.
  3. Stein,A.J.;De Witte,M.C.Technologie en arbeid ‐ de tendens naar steeds hogere kwaliteits en kwalificatie eisen.Economisch‐Statische Berichten,Rotterdam,1985‐6‐1106‐1110.
  4. Kotter,P.Marketing Management:Analysis Planning and Control.Prentice‐Hall Intern,5th edition.London,1984.
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アフリカにおける個人・集団営業のためのトレーニング

TRAINING FOR SELF AND GROUP EMPLOYMENT CREATION IN AFRICA

R.Ransom
African Regional Advisor on Vocational Rehabilitation,International Labour Organisation

はじめに

最近のILOの研究によれば,今から2000年までの間に,アフリカの52ヵ国で推定8,000万~1億の職場を新たに開発しなければならない.さらに,現在すでに生まれていて将来労働者になる人口からみて,今世紀末までにはアフリカの経済活動人口は全人口8億7,100万人のうち3億1,800万人に達するであろうと推測される.1985年には推定総人口5億5,500万人中労働者人口が2億1,400万人であったのと比べれば,こ" の伸び率は世界一である.
現在何百万といる失業者や不完全就業者の生産的就業を果たす上に,このように大幅な労働人口の増加をも吸収するには,アフリカ各国政府は毎年7~800万もの職場を新たに作り出すという出来そうにもない過酷な仕事に取り組まわねばならない.こうした理由で,新たな職場の創造は,アフリカの多くの政府の国家開発計画の中でも第一にすべき最優先の仕事となっているのである.しかも実際には,すべてのアフリカ国家は現在,職場創造に必要な経済成長を果たすのに至難の苦労を味わっているところである.
アフリカにおける労働年齢人口の中には,身体・感覚・精神障害をもちながらも,経済的に生産生活を営みながら地域社会の発展に貢献出来,またそれを望んでいる男女がいる.概算値に幅はあるが,どのアフリカ国家においてもおよそ10人中1人が,病気,家庭や職場での事故または交通事故,出生時の処置の誤り,貧困,栄養不良,市民闘争,戦争などのために障害者となっていると思われる.労働年齢にある障害者のおよそ半数近くは就職しているか,もしくは自営で働いていると推測されるが,大多数は文盲で何の技能もなく,生計をたてる手段となる資力も乏しい.そして多くは乞食をしながら生活は家族や地域社会に依存するという状況が続いている.
アフリカ各国政府が,前例のない人口増加と労働者層の拡大による一大危機に適切に対処するのはもちろん,生き残ろうとするなら,新たな雇用対策をたて,実施することが急務である.同時に,現在アフリカにおいて数字の上で増加中の視覚,聴覚,その他心身の障害を持つ労働年齢にある若者や成人が,経済的自立を果たすのを支援する新たな方策が立てられ,行動が起こされることも望まれている.

現状

現在アフリカにおいて政府ならびに民間のさまざまな組織によって運営されている,障害者のための職業リハビリテーション,技能訓練,就業準備などのプログラムは,まだ,このような事業を必要としている人たちのごく一部に利用されているにすぎず,いかなるタイプにせよ生産部門への雇用に結びつかないことが多い.一般に職業訓練は施設中心で,職種ごとに1~2年間,木工,皮細工,金属加工,仕立て,秘書技術などの技能訓練を行い,終了証明書を授与し,できれば実際の企業や工場,作業所などで正式採用にこぎつけようとするものである.しかし実際に個々の職場で訓練を受けた非障害者との競争は激しく,就職出来る障害者はほとんどいない.自営を目標にかかげて,修了生には道具一式や原料を提供することにより,公式の障害者職能訓練プログラムに新たな方向付けをしようと試みている政府もいくつかある.残念ながら,こうした努力も,経済的に自立した障害者を数的に有意に増加させるまでには至っていない.
最近は政府も民間組織も,コミュニティ・ベースド・リハビリテーション(CBR)事業を地方分散的かつ非慈善事業として,多くは現存の外来,地域開発,あるいは社会福祉システムとの連携によって確立することに多大な関心を寄せている.しかし,アフリカにおける現行のCBRは若年・成人障害者の職能訓練のニーズにこたえるほどの成果はほとんどあげておらず,地域の資源をうまく活用して障害者の自営を助けることが出来たというわけでもない.
障害者の雇用のニーズに応えるためにアフリカの多くの政府が行っているもう一つのアプローチ,すなわち市民サービスへの直接雇用もすでに限界に達している.実際,多くの政府は現在財政危機に直面しており,“構造調整計画”の一環として職員の削減を行っているが,残念ながら最初に解雇される公務員は障害者である.

対策案

アフリカで障害者に生産的な生活を保証できるよう状況をうまく調整するために,どんなことが出来るであろうか? 以下の2件の対策案が提議されている.いずれもまったく新しい提案ではないが,アフリカの障害者たちの現状に沿っており,今後広範囲にわたる実施が待たれる.

対策その1―農村地域での自営農場のための訓練
アフリカの住民の70~80%が農村地帯に住み,零細農業で生計を立てている.特殊訓練計画はもとより,実際の農民訓練プログラム(盲人農民用訓練)に参加したり,現存の農業拡張事業やクレジット制度を利用して,農村地域の若年・成人障害者も農業経済に参加できるよう励まし,援助するべきである.訓練は地元市場の需要に基き生産物中心のもので,個々の能力に適合していること,そして生産から収穫,取引,経理にいたる個人の自立に必要なすべての技能訓練を網羅するものでなければならない.
アフリカの障害者の農園活動の成功例には,菜園,花,果物,現金作物(紅茶,コーヒー),養鶏,豚,兎,山羊,牛,蜂蜜,養魚などがある.またアフリカの障害者は,ジャム,ジェリー,蜂蜜,チーズ,スパイス,ろう,干物,ドライフラワーなどの農業加工品を個人またはグループで生産している.
農村における自営訓練は地方分散,施設中心的になるかもしれないが,個々の障害者が,自分の土地に定着,あるいは再定着して収入を得ることを目的とすべきである.農村リハビリテーションセンターは,農業や畜産により食物を自給することで自ら範を示すべきであろう.さらに,再定着を果たした訓練生の追跡調査は農村における自営訓練に不可欠な要素である.

対策その2―都市における民間セクターの個人・集団営業訓練
アフリカの障害者,とくに教育を受けている人々の多くは町や都市に住んでいるが,教育も,おそらくは職能訓練も受けているにもかかわらず,失業している.都市部では,障害者であるなしにかかわらず,公共機関での雇用の機会は限られている.これに対し,民間セクターにおける生産・サービス事業は,近年,大半のアフリカ経済において最大かつ最も成長の著しい部門であり,都市に住む障害者にとって,経済的に自立するための最大のよりどころともなっている.
このような都市における民間セクターの個人・集団営業訓練は,公式の職業検定を目指すのではなく,市場の需要や入手できる原料を考慮した生産物やサービス中心の訓練コースとすべきである.可能性のある生産物やサービスは枚挙にいとまがないが,アフリカの障害者が個人やグループによる生産活動で成功した例をあげると,マット,カーペット,バスケット,ロープ,布,衣類,靴やサンダル,セーター,家具,ドア,窓,家庭用品,ブラシ,ほうき,陶器,レンジ,三輪車いす,宝石,蝋燭,造花などの製造である.またアフリカの障害者が経営するサービス業には,靴修理,自転車修理,洗濯,タイプおよび秘書業務,コンピュータサービス,印刷,自動車修理,小売業などがある.
都市における民間セクターの個人・集団営業訓練とは,経営訓練のことで,適切な工業技術の基礎訓練に加えて,市場における需要の把握,事業計画,製品デザイン,製造および品質管理,マーケティング,経理,クレジットの利用などをひとまとめにした技能訓練が必要である.対策その1の場合と同様,障害者が収入を得て経済的に自立した生活をするという目的のためにフォローアップによる事業アドバイス,クレジット利用へのアクセス,採算性調査およびマーケティングの援助をすることが求められる.
障害者組織は,個人や集団経営の作業所や協同組合にたいし,貸付資金の運用を設置し,技術・経営用の援助をすることによって,会員の自営を助けるという役割をになっている.しかし,このような援助は,「生活において無料のものはない,従って,障害者といえども,非障害者の場合と同じく,物質,財政その他の面で受けるあらゆる援助に貢献し,支払うものとする」という基本原則を基盤とする.

ILO活動

現在ILOはアフリカにおいて,技術協力計画を実施中である.これは主に国連開発計画の資金により,エチオピア,ケニア,レソト,マダガスカル,マラウィ,ナイジェリア,スーダン,トーゴ,チュニジア,ザイールの10ヵ国の政府にたいし職業リハビリテーションの分野に関して行われており,対象をさらに10ヵ国増やそうと提議されている.このプロジェクトの大半は,農村,都市部のいずれに住む障害者にたいしても自分で収入を得る活動を開始するのを直接援助し,さらに/あるいは,本報告でもその概略を述べた障害者対策を導入しようというものである.加えて,過去4年間にILOではジンバブエのハラーレに本部をおくアフリカリハビリテーション協会との協力で,地域に根ざした職業リハビリテーションサービスを普及し,障害者が個人あるいは集団で行う収益活動を援助するための方法論の開発と実地検証をおこなってきた.
このようなアフリカにおけるいくつかの障害者雇用問題へのイニシアティブを評価するのは時期尚早であるが,ILOは,若年・成人障害者のニーズや願望のうち,経済的自立と地域の経済生活とその発展に生産的に参加することを最優先にあげることに成功した.このようなILOのかかわりは,1983年の国際労働会議で採択された障害者の職業リハビリテーションならびに雇用問題に関するILO協定第159号,および勧告第168号に現われている.そしてさらに,「アフリカの統合的な社会・経済的復活と発展への人間中心の歩みに向けて」という1988年3月の国連アフリカ経済委員会のカートム宣言において確認された.

結語

アフリカの労働年齢にある障害者の大多数は,有益かつ生産的生活を営むことが出来,またそれを望んでいる.しかし現在行われている職業リハビリテーションのための努力ではまだ不十分である.労働人口が拡大し,各国政府は現在経済的圧迫に直面している現状で,障害者が経済的自立を果たすべく調整,援助するための新たな方策が求められている.アフリカの障害者にたいし,農村における農場経営,もしくは都市における民間セクターの個人・集団営業,という2種の対策案が提起されている.どちらも技能訓練を地域社会で求められる商品やサービスの提供へ向け,地元で入手できる材料の利用,経営技術の取得,アドバイスシステムや技術援助,クレジットなどのフォローアップシステムの確立に主眼を置いている.ILOは現在,アフリカにおける技術協力計画に基づいてこの2対策案を導入している.しかしより多くの国において,労働人口の5~10%を占めると推測され,今も増え続けている障害者のために“自営訓練”計画が採用される必要がある.

〔参考文献〕

  1. Economically Active Population Estimates and Projections, 1950‐2025 International Labour Office, Geneva, third edition, 1986
  2. World Programme of Action Concerning Disabled Persons United Nations, New York, 1983,p.11
  3. ILO Jobs & Skills Programme for Africa (JASPA) “Recent Trends in Employment, Equity and Poverty in African Countries" United Nations Economic Commission for Africa, Addis Ababa, 1988, p.6

コミュニティ・ベースド手法による職業リハビリテーション

―アジアの試み―

AN ASIAN APPROACH TO VOCATIONAL REHABILITATION OF DISABLED PEOPLE THROUGH COMMUNITY BASED METHODS

lan F.Tugwell
International Labour Office, On Project Mission to Department of Social Welfare and Development, Philippines

1984年フィリピン社会福祉開発省は,コミュニティ・ベースド手法による職業リハビリテーションを始めた.目的は4ヵ所の政府の職業リハビリテーションセンターで対応していたリハビリテーションの対象者の人数を,飛躍的に増やすためである.これら4ヵ所のセンターでは毎年300コースを実施し,民間が提供しているサービスには目立った進展は見られていない.一方,職業リハビリテーションまたは類似のサービスを必要としている障害者はフィリピン全土で約100万人と推定される.
人の居住する7000以上の島が点在しており,地域格差が著しいフィリピンでは,地域レベルのリハビリテーション・サービスの開発が特に必要とされている.資金および技術援助を,国連開発計画(UNDP)と国際労働機関(ILO)が行って計画をスタートさせた.
当初から,コミュニティ・ベースド手法による職業リハビリテーションの一般的な,しかも極めて地域的なニーズや条件をとり入れた方法の開発を目標とした.まだ試験段階であるが,4年間の経験からいくつかの一般的指針となるものが見いだされ,この手法に不可欠と考えられる特徴が明らかになっている.

コミュニティ・ベースドという用語は最近あまりに広く使われており,この用語の定義をはっきりしておくことが必要である.フィリピンのこのプロジェクトでは,次の定義を用いている.「コミュニティ・ベースドとは,その計画的プログラムを実施しようとするコミュニティの中に,実施事業の主たる源泉も対象もそして資源もある場合のことである.コミュニティ・ベースドのプロジェクトとは,外から押し付けられたものではなく,そのコミュニティの多数にとって望ましいものであり,支持されるものである.」さらに,我々はコミュニティを,「バランガイ(村),市,もしくは自治体のすべての人々,特に障害者と地域リハビリテーションにかかわるボランティアが居住しているバランカイの住人」と定義した.

計画の段階では,政府の下部組織を通じて働きかければバランガイ・レベルの地域の力と関心を動かし,地域にある資源と民間の人々のボランタリーなサービスが得られると期待した.
事業の導入時には,まず啓蒙活動を行った.州知事をはじめとするその地方の役人との話し合いも必要だが,最も重要なのは村の住人全体との話し合いとなる.口頭による説明の他,その地方の方言で書かれた説明書やプロジェクトの写真が使われた.啓蒙集会の後,コミュニティ・リハビリテーション・ボランティア(以後ボランティアと略す)になってくれそうな人を改めて集めてその中からひとりを選び,その後5日間のトレーニングを行った.テキストはILOが用意したが,今後トレーニングはフィリピン人のスタッフが行うことになっている.
トレーニングが終わり次第,ボランティアは地域での活動を開始し,リハビリテーション・ニーズを持つ近隣の障害者を少数受け持つ.経験を積んだボランティアの場合,進行中のケース5例位が適当な量である.ボランティアが責任を持つ事項は次の通りである.

  1. クライアントの発掘
  2. クライアント及び家族と連絡をとり,また両者の間の関係を築く
  3. クライアントと家族がニーズを認識し,ゴールを設定できるよう援助する
  4. 地域資源を探し,動員する
  5. リハビリテーションが計画どおり実施されるよう見守る
  6. 地域の関心と熱意を持続させる

このような総合的役割をになうボランティアに対しての訓練は,基礎段階においても再教育段階においても実際的な問題,いかに仕事をするかというノウハウを中心にすべきである.
ボランティアは週9時間このために働く.ボランティアとして最適な人材は,仕事にあるいは家業に忙しい人で,インフォーマルなグループに属し,リソースを多く持ち,その地域で知名度もあり,自立した生活のモデルとなり得るような人である.職業としては,農業,漁業,主婦,エンジニア,籠製作,手工業,看護婦,小企業経営などがよい.フィリピンに多い大学卒の失業者は残念ながらボランティアとしてはあまり成功しない.見込みある人たちは就職と同時に地域を離れてしまうし,なかなか就職しない人というのは,ボランティアに不可欠な意欲に欠けるようである.
ボランティアの報酬については,実験段階にある.最初は,全員に月50ペソ(2.5ドル)が政府資金から支払われた.最近の新しいプロジェクトでは,無報酬であるが,両者の働き方や結果に差は見られない.

ボランティアに対して,当初は公務員のソーシャル・ワーカーがしっかりしたサポートと専門的スーパービジョンを行う.このようなサポートの質,存在,継続性がコミュニティ・ベースド手法の成功の鍵となる.しかし,ボランティアもコミュニティも自信をつけてくると,だんだん大きな責任も引き受けるようになり,自立してくる.理想的なサポートは,ボランティアが上から与えられると感じるのではなく,いつでも必要なときに栓を捻れば応えてくれると感じられるようなサポートである.ボランティアが行政の支配構造の末端の単なる補助者になったのでは,コミュニティ・サービスにボランティアが参加する意義がなくなる.
フィリピンのプロジェクトでは,それぞれの障害者の家族やコミュニティのもつ技術,労力,財源をリソースとして用いることに重点を置いた.ボランティアは,必要なリソースや責任を持つ人を探すとき,「まず第一に家族を,次にコミュニティを考えるように」指示されている.ボランティアはコミュニティの行動を導く触媒であって,たったひとりのサービスの提供者ではないのだから.
きょうまでに400人のボランティアが訓練を受け働いており,1500人の障害者にサービスが行われている.その内の多くが,新しい技術や役割を得て自立度を増している.400人は,生活の糧となる収入を得ている.このコミュニティ・ベースドのサービスを受けている障害者のうちかなりの人々は,障害が重すぎたり,家が遠かったり,家族と離れたくなかったりあるいは若すぎたり高齢だったりで,たとえあったとしてもセンター中心のリハビリテーションには不適であった.
ボランティアは,サービスを実施しようとする地域の住人から選ばれ,お互いに良く知っている地域の人々のために働く.地域の大きさのめやすとしては,ボランティアの近隣の家族で最大400位である.世帯規模平均6.5人として,2600人のコミュニティを対象とすることになる.この規模の人口に対しては50ないし60 人の職業関連のリハビリテーションを必要とする障害者がいると推定され,ボランティアにとっては十分に数年分の仕事量である.
農村や過疎の地域では拡大家族制度があり,ボランティアは対象地域のほとんどの人と関係を持つことになり,それ以外の人々ともなんらかの社会的繋がりを持っていることが多い.したがって,ボランティアはすでに「良き隣人」である.そしてこの「良き隣人」として地域のために役に立ちたいという心は,リハビリテーションの方法と考え方を学ぶことによってさらに強化される.
このような良い関係のコミュニティでは,ボランティアは極めて効果的に地域のリソースの栓をひねることができる.第一は,親切と関心のリソースでこれはクライアントの障害者を知っていて,リハビリテーションの過程にも参加してくる地域の人々がたっぷりと持っている.その次は,もっと実際的な特定のリソースの栓をひねる.たとえば,地域の技術,道具を借りること,必要な品物,移動の援助,そして最終的には生活の糧を稼ぐ場所などである.
このようにコミュニティ自身がプロジェクトになってくる.ただし,そのためにはコミュニティが常にリハビリテーションの過程を分かちあい,成功を一緒に喜ぶことが必要であり,これを可能にするためにボランティアは常に情報を提供し,参加を促し,励ますことが必要である.そうすることによって,近泊全体の力を動かすことができる.
メトロ・マニラの比較的貧しい,結合が強くなくあまり安定していない地域の農業社会で大変成功した方法が開発された.初期に受容の姿勢が見られ,成功が予測されたことが刺激となっている.

試行期には,プロジェクトの方法や計画の変更を数多く行った.興味深いことに,最も効果がないことがわかったアイデアは,プロジェクトの活動を支えるために考えられたものであった.たとえば下部構造のサービスとの交流を良くし,改善するために作った「活動チーム」や,障害者とボランティアの両方のニーズに応えるために地域のサービスセンターとなるプロジェクトの中心部を作るなどのアイデアは,どれもサービスの効果をあげることにはつながらなかったばかりでなく,やたら組織を複雑にする危険もあった.シンプルなサービスがシンプルな解決につながるということ,真のプロジェクトの中心は障害者の家と家族にあるべきということを学んだ.
成功か失敗かは,プロジェクト計画者,リハビリテーション専門家およびボランティアの,革新的,改革的であろう,個人のニーズに対応するために,標準的な中央行政府のプログラムを唯一の道として使うことをやめよう.そしてコミュニティ・サービスのプログラムを政府機関に引き戻して官僚的なものにしてしまうことに抵抗しようという能力と勇気にかかっている.
いかに職業リハビリテーションセンターが効率的であったとしても,アジアの多くの国々では数多く作ることは費用の点で無理である.しかし,リハビリテーションセンターがないところでも,コミュニティをリハビリテーションのセンターに変えてしまうことはできる.フィリピンで開発された方法は,遠隔地の農村,準都会地域,メトロ・マニラの貧困地域で試みられたものであり,キリスト教地区でもイスラム教地区でも受け入れられた.アジアの他の国々でも,十分適用できるであろうし,世界の発展地域でも,開発途上国でも利用できるであろう.

日本における障害者職業訓練のモデル

MODEL FOR THE VOCATIONAL TRAINING OF DISABLED PERSONS IN JAPAN

竹間 哲夫
国立職業リハビリテーションセンター

1 リハビリテーションとしての職業訓練
障害者の社会的自立の最終目標は職業的自立であり,健常者と共に社会経済活動に参加することである.障害者が健常者に伍して働くためには,健常者と同等,またはそれ以上に職業遂行能力を習得しなければならない.障害者の職業訓練の必要性はここにある.
従来から,障害者は病院で医学的リハビリテーションを,障害者福祉施設で心理的・社会的リハビリテーションを,職業訓練施設で職業訓練をうけてきた.それらの施設は,それぞれ独自の計画のもとで業務を実施しているため,サービスに重複や間隙がある場合もあり,障害者に必要以上の負担や心配を与えてしまうと言う懸念もあった.
国立職業リハビリテーションセンター(以下「職リハ」という)は,厚生省の設置運営する国立身体障害者リハビリテーションセンターと同じキャンパスのなかにあり,お互いの協力のもとに医療,機能回復訓練,生活訓練,職業訓練,職業指導,就職指導,就職後の職場適応指導等のサービスを,一貫して計画的かつ継続的に実施している.
2 障害者職業訓練をとりまく状況
我が国では,公立の施設が障害者の職業訓練を実施する上で,配慮しなければならない課題がいくつかある.
第1に,我が国の社会経済状況は内需型経済構造への急速な進展などにより,労働力需給関係の変化が急速に進んでいる.これに対応しなければならない.
第2に障害者の障害の重度化,多様化が進んでいる.カリエス,ポリオなどの外科的疾患による障害が激減し,脳性麻痺,脊髄損傷などの中枢神経系の疾患,人工透析などの重度の障害者が増加している.このため,日常の継続的な医学的健康管理が必要になってきた.
第3に公共訓練の予算や定員の問題である.国の予算は通常経費は節約が迫られ,またその事業に携わる職員の定数も削減の方向に向かうなど,厳しい状況にある.
3 職リハの職業訓練の運営
職リハの職業訓練の特徴をいくつか挙げると,短期の職業適応コース,長期の職業訓練コースが用意されているが,いかなるコースの障害者でも,入所から職業的自立まで継続して同一のカウンセラーがついて,個別に職業のカウンセリングを行うシステムになっている.そして,訓練生はいつでも入所させ,訓練目標に達した人はいつでも終了させる,随時入所,随時退所の制度をとり,実技中心の個別学習が行われている.
また,訓練にあたっては,最初から細かい職種を決定せず,いくつかの職種を包含した訓練系(グループ)に配属し基礎訓練の結果を見てから,細かい訓練目標を定め,モジュール方式による単位制とし,障害者の能力に合わせたカリキュラムを組んでいる.本人の訓練内容の消化状況などにより,カリキュラムの変更,訓練期間の延長等を行っている.
これらをサポートするため,個別学習システムの開発等の実践的研究が行われており,現場ではこれを活用した最新の技法,内容がサービスされている.
4 結果
8年間に1100名の訓練を行い,その修了生の就職率は90パーセントである.重度の障害者であっても,系統的なリハビリテーションによって職業訓練を受けることが可能になり,通常雇用の場に就く機会が確保できるようになった.
5 提案
職リハの障害者訓練の実績に基づき,障害者職業訓練について,次のとおり提案する.

  1. 可能なかぎり一貫したトータル・リハビリテーション体系の中に訓練を位置付けること.
  2. 訓練内容は障害者の能力を評価しながら,それに合わせて個別に組み立てること.
  3. 訓練内容は,企業のニーズに対応出来るよう,絶えず見直しする工夫をすること.
  4. 訓練組織は,訓練生の増減に合わせられるよう弾力的なものとすること.

障害者の職業訓練モデル

MODEL FOR VOCATIONAL REHABILITATION FOR DISABLED PEOPLE

M.A.A.El-Banna
Council of Rehabilitation Research,Ministry of Social Affairs,Egypt

障害者の職業訓練と雇用は,リハビリテーション過程において大変重要な部分である.世界のほとんどの国で,リハビリテーションは職業訓練として始まった.古代エジプトのファロス燈台が職業訓練システムを持っていたことは興味深い.彼らは精神薄弱者を押入れの衣類整理やビーズ細工に雇った.盲人は寺院の歌手として訓練された.
現代のエジプトでは,リハビリテーションサービスは社会省職業訓練部として50年代にスタートした.1950 年から1968年にかけてリハビリテーション事務所のネットワークができ,盲人,聴覚障害者,身体障害者,精神薄弱者のリハビリテーションのための四つの総合センターが設立された.ここでは人材育成も行われた.
今日,全国に56のリハビリテーション担当事務所と, 35の総合リハビリテーションセンターがある.専門的および総合的リハビリテーションとは別に,このシステムの主な機能は障害者を評価し職業訓練することである.職業訓練が終ってから,疾病状況,障害の種類や程度,受けた職業訓練プログラムや就業可能な職種を示したリハビリテーション証明書が各障害者に出される.
エジプトの法律によって,50名以上を雇用する公共機関あるいは私企業では,全職務の5%を障害者のために割り定てている.
エジプトでは,これは職業訓練のための公式のシス "テムである.1975年から1987年にかけて15,165名の障害者がこのシステムを通じて雇用された.仕事を得るのに1~2年待たなければならない非障害者に比べて,いったんリハビリテーション終了証明書を手にいれた障害者は,すぐに就職できうるということは注目に値する.
しかしながら,ここ数年の間に,このシステムが軽度,または中程度の障害者にとっては非常に適切であるが,重度障害者や重複障害者にとっては不適当であることが認識された.
そこで1974年にアメリカ政府の社会省と保健教育福祉省によって,重度障害者や重複障害者のリハビリテーションに関する調査が行われた.この調査の目的は,重度の障害者のために最適で満足のいく雇用確保であった.
この調査のため18歳から40歳までの,152名の重度障害者(男118名,女34名)が選ばれた.他の機能障害を併せもつ精神薄弱者と,脳性麻痺や多発性硬化症,筋疾患などの神経系の障害者がほとんどである.
この調査はリハビリテーション研究の専門家チームによって行われた.職業訓練プログラムは,カイロの6つのリハビリテーションセンターで行われた.これらのケースの中118例は次のような仕事に従事している.製本,敷物作り,竹細工,貝細工,編物,皮細工,織物,梱包,車洗い,自動車機械工,事務職,洋服仕立て及び販売スタンドのような小さな商売である.
職業適応,経済適応,対人適応そして社会適応をテストする項目で,これらのケースを追跡してみよう.
34ケースは,おもに,精神薄弱(低いI.Q.)と情緒障害のためにこのプログラムに適応できなかった.それらのケースは,就職はできなかったが,家族や地域の中で,自立を高め社会的適応度が改善された.
費用対効果を調査した結果,このプログラムが個人的また社会的効果だけでなく,経済的効果もあがったことが明らかであった.
この調査結果に勇気づけられて,リハビリテーション協議会は重度および重複障害者のため新しい職業訓練モデルの開発を行った.これは,ワークショップのような施設での訓練を避け,地域の資源を活用して,コストを減らし,同時に,家族や地域や労働環境の中での障害者の職業適応や社会適応を最大限にしようとするものである.
専門的な職業カウンセリングの知識,技術,経験を利用して,職業的潜在能力を持った重度障害者の能力を引き出し,他方ではアクセシブルな雇用機会を現実的に探す,というのがこのモデルの前提である.
それから適切な組合わせを行う.必要ならば,現場実習が雇用主の協力と参加を得て行われる.このモデルでの就職斡旋では,他りプログラムにおいて,重度障害者のリハビリテーションが失敗に終ったたくさんの問題点を避けたことが,注目される.たとえば,交通問題を避けるため家の近くや家族が利用しやすいところに職場を探す.仕事の調整や,建築上の障壁の排除はほとんど行わない.障害者に対する家族や職場の否定的態度を取り除くように,十分な注意が払われている.個別的,社会的,職業的な適応のために,カウンセリングを利用できる.
このプログラムのテストために選ばれたモデルは18 歳から60歳までの男子重度障害者253名である.このうち20~30歳が80%で,40~60歳はわずか3ケースであった.障害の原因は,身体障害と神経系疾患をあわせもつ人々であり,精神薄弱は3ケースだけであった.
このグループは次のような職業についた.秘書15名,管理事務17名,事務員及び助手28名,タイピスト4名,宣伝担当1名,会計31名,医者1名,電話交換手1名,教師7名,技術者1名,電気技術者2名.
このグループの社会適応率は81%で,職業適応率は 73%であった.平均収入は非障害者の全国平均と等しいか,時にはそれ以上であり,落伍者はいなかった.
医学リハビリテーション専門家,ソーシャルワーカー,心理学者等,パートタイムのスタッフの援助を受けながらも,たった1名の専門職のカウンセラーだけで責任を持ったということは注目に値する.
このモデルにより,職業訓練過程の経費50%を減らし,重度障害者に,より効果的な措置が出来るにようになった.特に経済不況のもとでは,革新的職業訓練モデルを試みる上で高度な専門的技術が必要である.つまり,開発途上国では,リハビリテーション・カウンセラーが障害者のために科学技術を利用できるように技能や知識を高める訓練を受けることが緊急課題である.

主題:
第16回リハビリテーション世界会議 No.6 223頁~266頁

発行者:
第16回リハビリテーション世界会議組織委員会

発行年月:
1989年6月

文献に関する問い合わせ先:
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1
財団法人 日本障害者リハビリテーション協会
Phone:03-5273-0601 Fax:03-5273-1523