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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【実践報告2】:その人らしい生活を地域で築くために
-地域支援センターの活動を通して-

江上 直子
麦の郷 

三ツ木/それではチャンピオン・レポートその2を始めます。
 2番目の報告者は和歌山県麦の郷の江上直子さんです。私は残念なことに麦の郷さんには一度もおじゃましていませんので、うまい紹介ができません。皆さんとご一緒にお聞きしたいと思います。後半スライドをお見せくださるそうですので、楽しみにしています。では江上さん、お願いします。

 はじめに

 地域で生活する障害をもつ人たちとともに取り組む「麦の郷」を紹介する機会を与えていただき感謝しています。あとでスライドをたくさん見ていただきます。
 私自身、両足に障害をもっています。私自身が麦の郷で生活するなかで、障害者観を変えてきた一人です。
 障害をもっていると、どうしてもダメなんだというか、長い間そう思ってきている方は多いと思います。私もそういうところがありました。麦の郷では、そういう考え方ではなくて、やれることのほうに目を向けていく考え方を大切にしています。私自身、和歌山から東京まで出て来るのに、移動に障害があって苦労はないことはないんです。少し前から股関節に違和感があって、歩くのに、いつもよりしんどくて、今回も来るのが不安でしたが、なんとかやって来ました。
 来る間に、泣きそうな思いもしつつ、そこだけ見るとイヤなことで、遠出はイヤというイメージをついもってしまいますが、それを中心に思うんじゃなくて、やれるところをいかすために、いろいろな工夫をして、イヤなイメージを小さくするよう考えないといけないと思いました。
 麦の郷のしてきていることは、障害の部分よりも、健康な部分へ注目することです。
 環境を操作するといっていますが、環境を触って、人は変わらなくても、環境を変えることで、本人も思っていなかったような力が発揮できるように支援をしています。麦の郷ではそのようにして、さまざまな障害をもつ人が活躍しています。私のように肢体障害をもつ人もいますし、聴覚障害者、精神障害者、知的障害者、内部障害をもつ人もいます。

 麦の郷の施設

 麦の郷は社会福祉法人一麦会が運営していますが、それを紹介します。
 生活の場として、援護寮やグループホームが一つ。また、知的障害をもつ人のグループホーム、そして今年から身体障害者の福祉ホームができました。それから働くことを支援する施設として精神障害者の福祉工場、通所授産施設など、一か所には分場もできています。これは大人の施設ですが、知的障害の幼児の通園施設も去年始まりました。最近では高齢者の支援も手がけはじめ、子供から高齢者までのライフサイクルにわたった施設ができています。
 最近では、地域生活支援センターという、地域の小さな拠点が増えてきています。これは麦の郷だけでなくて、和歌山県下全域がそうです。麦の郷では地域支援センターとして、和歌山市を対象としたものと、那賀郡を対象としたものとで2か所。療育等支援制度でやっているセンターが一つ。また高齢者のセンターが昨年から。関連施設で精神科のクリニックが二つあります。今年から訪問看護ステーションも社会福祉法人運営で始めました。
 こんなふうにして麦の郷は、障害者との出合いいから必要なものを20年かけて作り続けています。

 プレハブ・廃品の回収から

 ではスライドを使ってお話を続けます。
・麦の郷の施設が集中しているところを外から撮ったものです。
・これは今のとうって変わって、小さなプレハブです。知的障害をもつ人の小規模作業所から始めたのですが、そこに精神障害者の人も入るようになり精神障害者の作業所を作ろうということでできたのがこれです。今は物置のように使っていますが、こんな小さなところで共同作業所を始めました。
・精神障害をもつ人のための共同作業所「憩いの家」、発足の式の様子です。精神障害者も入るようになりましたが、初めは1977年に「たつのこ共同作業所」という、学校を卒業しても行く場がなかった人のための作業所が麦の郷の始まりです。
・「たつのこ作業所」で仲間が資金づくりのために廃品回収をやっているところです。
・なかなか建物の全体がわかりにくいんですが、これもやっぱり一応二階建てですがプレハブ造りの建物で始めました。
・ここから先は、精神障害をもつ人たちへの支援ということに話がしぼられていきますが、精神障害について私たちみんな、何も知らないかったです。普通の市民として出会いました。で、専門家といわれる人たちからは、「どうせやれないんだから無理するな」とか、少し遠目から見られて、「やれるものならやってみろ」とか、そんな批判とか忠告をたくさんいただきました。精神障害について何も知らなかった私たちが一緒にやれている人たちがたくさん生まれてきてるんです。病院にいた人も多かったのですが、地域に出てきて、充分にやっています。医療のなかでだけしかやれなかったんではなかったんじゃないかと、私たちは答えを出せてきているんじゃないかと自負しています。

 資金集めから福祉工場第1号

 ・ この写真はJR和歌山駅の前ですが、精神障害をもつ人自身がこうやって襷をかけて、募金箱をもって、自分たちの働く場所がほしいということで、募金を訴えています。
 ・ これは、やはり和歌山駅前でいつも12月にやるんですが、クリスマスの寒い時期に4~5日間やります。路上で色紙をかいてくれる協力者がいて、その場で色紙をかいて、通りがかりの方に買っていただいて、それを集めて麦の郷に寄付をしてくれます。毎年ずっとやっています。
 ・ これもそうですが、こういう機会を利用して、自分たちも楽しみながらやっているんです。支援してくださる方もまわりにあって、笛、太鼓、そういうものを持ち込んで演奏する人たちが集まってきて、音を出しながら道を行く人の足を止め、支援をしています。
 ・ こうやって太鼓を叩くサークルも精神障害をもつ人がやって、お客さんをよんでいます。
 ・ そういうたくさんの方に訴えていく機会として、コンサートとかそういうのをときどきやっています。それのポスターなんです。
 ・ コンサートの様子です。地元の地域住民の方がたくさん座って来てくれています。その様子です。
 ・ 働く場としては比較的最近できた、精神障害者の福祉工場の前で、働くメンバーが写っている写真です。精神障害者の福祉工場では、全国ではこれが第1号になりました。
 ・ その福祉工場のところで撮ってるんですが、福祉工場が始まって1年たったときに記念の行事をしたんです。そのときに集まった人たちと撮った写真です。ここに写っているほとんどの方は、この麦の郷がある地域の住民の方たちなんです。自治会の方とか。こういうふうに、住民の方たちに支えられているという麦の郷の様子です。
 ・ その一周年の記念行事の様子です。右のほうにいるのは県知事なんです。左のほうにいるのは、麦の郷ができて、そこを利用するようになってから結婚した人たちが4組ほど出てきています。その人たちがこうやって結婚して、幸せにやってますということで、一周年のときに並んでいます。知事がその4組にお祝いみたいなことをやってくれたので、知事に今度はお礼の記念品を渡しています。
 ・ その結婚した4組の人たちが勢ぞろいしているところなんです。このなかには、左から2組目の人たちは、まもなく50才になろうかというときに、二人とも精神病院をやっと退院してきて、麦の郷の生活訓練施設に入りました。女性の方のほうは、何回か退院はしているんですが、退院している期間はすごく短く、通算すればほとんど約30年くらい、精神病院で過すごしてきたという人です。男性のほうは、麦の郷に来るまで8年も入院されていました。
 ・  これは、最初に結婚した二人の結婚をお祝いする会の様子なんですが、このときは、第1号ということもあって、みんなで手作りのお祝いをしました。

 ピネルにちなんで

 ・ 以前はプレハブがたくさんありました。これを福祉工場にするときに建て替えて、実はこうやって長い間、自分たちが自由に生きてこれなかったことから、自立へ向かい自分たち自身ががんばってやっているということを記念する言葉をここに掲げました。玄関のわきに位置しているところなんですが、いつもこれをチラチラと横目で見ながらみんな入っていきます。そこにこれを飾っています。
 ・ 福祉工場は、ソーシャルファーム ・ ピネルという名前なんですが、ピネルというのは18世紀のフランスの精神科の医師です。そのピネルという人は、精神を病んでいる人が鎖とかでつながれた状況を見て、その当時の治療に反発を感じて、その鎖を断ち切り、もっと違う治療をしようという試みを始めた医者です。それが私たちの活動に共通するので、ピネルっていう名前をいただいているんです。左はピネルさんが鎖を切っているところの絵を、地域の画家の方が大きく描いていくださり、それを飾っています。
 ・ これは、福祉工場の絵がかかっていたところの裏側のドアの下のところにおいているものですが、何だかわかりますか? 和歌山県内のある精神病院に使われていた鉄格子なんです。もうこうやって赤錆びていますけど、今はそれを外して、強化ガラスみたいな、なんかそんなふうな造りに替わったそうですが、これがずっとおいてあったそうです。福祉工場を作るときにそれを知っていただいてきて、こうやっておいてるんです。色々と考えさせられるものがこみあげてきます。

 広がる職種、クリーニングから

 ・ 福祉工場の休憩室。畳を敷いてあって、そこでお昼休みの休憩に、たばこを吸ったりお茶を飲んだりしています。
 ・ ここから先は、クリーニングの様子です。
 ・ 新聞の記事です。クリーニング士という資格に合格したということを載せた記事です。このとき二人が合格しました。もちろん精神障害の人です。このとき一緒に、精神障害をもたない職員も受験しましたが、その人は落ちました(笑)。合格したこの人たちの看板でクリーニングの仕事を続けることができています。
 ・ これは、配達をしているところです。出来上がった白衣をクリニックに運んでいるところ。配達も当事者がやっています。

 プレハブの頃

 ・ 比較的近代的な設備の様子でしたが、これが最初にやっていたプレハブの工場です。
 ・ これもそのときの、狭くて、ゴミゴミしたなかで長いこと作業していました。
 ・ これも当時、プレハブのときの休憩室です。さっきの休憩室より落ちるんですが。でもここで皆さん、仲間として、仲間意識を育てていく。休憩時間とかを通して、生活全体で仲間が育っていきました。
 ・ ここからは、印刷の仕事になります。印刷も、福祉工場の一つです。これは福祉工場になる以前の、やはりプレハブでやっていたときの様子です。

 ウエスつくり、一般の工場へ出勤

 ・ 仕事のところを見てもらっていますが、これはウエスといって、使い捨ての布の雑巾ですが、製造販売の建物です。ガレージというか倉庫みたいな建物を借りてやっていますが、自前で建てたものではないんです。青い屋根でつづいているなかには、2か所ほどウエス部で使わせていただいていますが、他にも自動車の修理屋さんやペットショップが入っていたりします。
 ・ これがそのウエス部の入り口です。
 ・ 作業しているところ。山の布がウエスになっていくんです。
 ・ これもそうです。ウエスに作ったものを袋詰めしているところです。
 ・ 白いのだけでなく、柄物も使って、ウエスとしては少し安くなりますが、この布だと、染め工場で使えなかった製品をただでわけてもらえます。これがウエスに変身します。
 ・ ウエス部の一角で、縫製のところです。最近始めた新しいところです。
 ・  ここから先は、麦の郷の施設から出て、毎日一般の食品会社へ出かけて行って仕事をしていますが、5人のグループで出かけて行ってやっています。その工場の様子。コロッケを中心に冷凍食品を作る仕事です。今までのところは精神障害をもつ人たちの働く場を紹介しました。

 知的障害者の就労 ・ 生活の場

 ・  これは知的障害者の授産施設です。パンを作っています。朝早い時間からパンをこしらえています。作ったパンを大きなスーパーにコーナーでおかせてもらっています。
 ・ これも授産施設のところで、お菓子を作っているグループです。
 ・ 今まで見てもらったのは、かなり本格的な仕事をしていましたが、なかなか初めて挑戦する人はたいへんで、こうした軽作業をして、ここで様子を見ながら、仕事をしたり、人と慣れて、次の仕事に移っていく、こんな場面も設けています。
 ・ これからあと、生活の様子を紹介したいと思っていますが、これは精神障害者の援護寮の建物です。
 ・ 個室です。
 ・ 食堂です。

 地域の自治会長役も

 ・ 玄関の自治会長の札です。地域に根ざしていくために自治会長をかって出て地域に入り込んでいこうという作戦でやり始めました。
 ・ 地域の自治会でやる溝の掃除に、援護寮のメンバーが、朝はやくから出かけてやっているところです。
 ・ これも自治会の班長の役で、ゴミ袋か何かを、地域の人に届けているところです。届けているのはもちろんメンバーです。
 ・ 自治会の地区でソフトボール大会。その打ち上げを、援護寮にみなさんに来ていただいて、交流をしているところです。
 ・ 地域との交流。お花見です。
 ・ この人は援護寮に精神病院を退院して入って来て、今ではこの援護寮のスタッフです。給食を主に担当しています。
 ・ これはグループホームの前です。
 ・ グループホームでの生活の様子です。グループホームを経て独り暮らしを始める人がどんどん増えてきています。アパートを借りて、暮らしています。
 ・ 独り暮らしの人です。

 地域生活支援センター

 ・ これは、ログハウスを建ててるんですが、地域生活支援センターの一つなんです。
 ・ ここでの取り組みの中心は、不登校になっている子どもたちの居場所です。
 ・ こじか園という障害幼児の施設です。
 ・ 私が仕事している、和歌山市地域を対象とする支援センターです。こんな、普通の建物でやっています。
 ・ 中の様子です。みんなが集まってこれる立ち寄り所というか、溜まり場の機能をもっています。
 ・ 食事の支援もしています。夕食の様子です。
 ・ たまにはこんなことも。同じ支援センターの続きなんですが、通りに面していたのがわかりましたか? 店構えになって、リサイクルショップみたいな、バザーの常設店みたいなのをやってるんです。地域のみなさんが買い物にきてくれるので、そういう形で地域との交流が続いています。
 ・ たくさん買ってくれています。パン工場が出ましたが、そこで作ったパンを持ってきてここでも売っています。
 ・ お弁当作りもしています。小さな建物ですが、やれることはなんでも仕事にしようと、メンバーが登場できる場面をたくさん作っています。
 ・ これはセンターから訪問しているところです。さきほどの一人暮らしの人です。
 ・ ここは当事者サークルの事務局があって、当事者活動の拠点になっています。そのグループが夏祭に参加しているところです。この活動のなかではピア ・ カウンセリングということで仲間同士の活動をやっています。
 ・ さきほどの建物の二階です。ここで、ミニ学習会みたいなことをやっているところです。

 高齢者にも対応

 高齢者の地域活動支援センターです。元は喫茶店だったところを借りています。
 ・ 訪問看護ステーションです。さっきグループホームとして紹介した一戸建てなんですが、その後、そこの具合が悪くなってきて、アパートを何室か借りてグループホームにしました。そこが今は訪問看護ステーションになっています。
 ・ 関連のクリニックです。もう1箇所、2箇所の関連クリニックがあります。
 ・ 和歌山高齢者生活共同組合というのが今年発足しました。6月でしたか、そのときの総会です。
 ・ その高齢者協同組合、詳しく説明できないんですが、麦の郷も一緒にかかわって発足しました。ホームヘルパーの養成をしていこうということで、これは私と精神障害者が講師となっています。高齢者協同組合で、どんどん事業を起こして、仕事を作っていこうとしています。その手始めに、養鶏の事業をしています。今はやっとニワトリの雛が入ったところなんです。ニワトリを育てて、よい卵をつくって仕事にしようということです。
 ・ 最後に紹介するスライドは、精神障害をもつ人の、和歌山県規模での当事者グループの連合会が結成されました。7月ですが、そのときの様子です。

 多くの小さな拠点

 こういうふうにして、最近では小さな拠点をたくさん増やしています。小規模共同作業所であったり、グループホーム、地域生活支援センター、そういう小さな拠点は麦の郷だけでなくても、和歌山県下に広がっています。地域のあちこちから今も新しい動きがどんどん興ってきています。家族会や共同作業所、また自助グループの活動も盛んになってきています。それをネットワークにしてつなげて交流を進め、その交流のなかでまたお互い元気になって、新しいグループが発足し、地域がいまどんどん生き生きとなってきています。

 受ける側から提供する側へ

 当事者活動のなかで、自分たちでサービスを受けるばっかりじゃなくて、自分たちが提供者になろうという試みも始まっています。自分たちで作業所を起こそうかということで、いまその資金をどうするかなども話が始まっているところです。
 こんなふうに、精神障害者の人も、充分地域で暮らせています。医療のなかに閉じ込められていた人たちが多いのです。けれども、専門家たちだけで囲まれていなくてもよかった人たちなんじゃないかなというのを、実感しています。
 医療といっても精神医療は一般科の医療にくらべてすごく低レベルです。そのなかに長い間社会的入院ということで、そこを生活の場にしてきた。地域でやれないのではないかと思われ、そういうふうにされてきたことに憤りも感じます。麦の郷の実践は、障害をもつ人自身ががんばって、人生を築いている実践です。
 スライドをたくさん見ていただきましたが、全体像や時間の流れなどお伝えできなかったかと思います。今度は、ぜひ和歌山にお越しください。
三ツ木/ありがとうございました。22年前のモノクロのスライドから、和歌山市周辺に点在するたくさんの事業所の近況までの迫力に圧倒されました。


日本障害者リハビリテーション協会
第22回総合リハビリテーション研究大会事務局
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