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第22回総合リハビリテーション研究大会
「地域におけるリハビリテーションの実践」-総合リハビリテーションを問い直す-報告書

【実践報告4】:地域におけるリハビリテーションの実践

成田 すみれ
横浜市総合リハビリセンター

三ツ木/4番目は、横浜市総合リハビリセンターの成田さんです。
地域におけるリハビリテーションの実践ということで、センターの代表として横浜総合リハに受けて立っていただく趣向です。では成田さん、よろしくお願いします。

 横浜リハビリテーションセンターの
 概要(機能・特徴)

成田/本日は地域におけるリハビリテーションの実施ということで、前者の3人とは異なる人口規模340万人の大都市での障害をもつ市民のための支援体制について少しお話をさせて頂きます。
 最初にOHPで若干お手許の資料を補足し、そのあと20分弱リハビリテーションセンターの紹介ビデオがご覧頂きます。最後の10分は、12年間センターで働いてきたなかで、私たちがいまどんな問題をかかえいるか、又今後より良いサービスを市民に提供していくためのいくつかの試みについて話します。
 まず配布したおりますお手許の資料を訂正下さい。文中「精神薄弱」という言葉がありますが、現在では使用されていませんので「知的障害」と訂正してください。
 それではOHPで。
 横浜市総合リハビリテーションセンターは、1987年4月に、横浜市における障害者施策の中核として開設されました。市の障害者福祉審議会の答申を受け、その構想から[ノーマライゼーション、インテグレーションの理念]のもと、地域の障害をもつ市民を支援していくことが目的です。
 従来の医療・福祉施設の合体による単なる大型施設とは違い、総合的機能、専門的機能、調整機能等々の複合的専門機能を中軸とすること特徴です。ここではリハビリテーションにおける各領域の専門職がチームで仕事をし、必要な支援をセンター内のみならず、地域の関係機関や施設との連携をはかりながら、総合的に提供するという意味で、真に総合的・専門的機能を充分発揮できるようにすること、またそのような保健、医療、福祉のサービスを総合的にという点で調整的機能を担っています。これらに加えて、更に通所型機能という特色があります。横浜リハビリテーションセンターの12年間の活動を振り返ってもこの点は重要な特徴といえます。
具体的にいえば、事故や疾病などの原因はいろいろあれ、障害を持ちながら人々に対してどう生きるかを支援すること、それが私たちのセンターであると言っても過言ではありません。

 地域のセンターとして

 具体的には、障害をもつ人の日々の生活、就労や就学といった社会生活、さらに生きがいや楽しみなどを含めた、障害をもちながらの新たな生活スタイルを構築すること、そして新たな障害とともにある生活スタイルの定着と継続を大切にし、それらのための方法や手だてや必要な情報提供を、リハビリテーションセンターの職員はともに考え、必要時には提案をし、ともに実践することが主要な活動です。その意味で地域・在宅での生活を担うべき課題をセンターとして支援することは『地域リハビリテーションに徹する』ということかもしれません。この実践活動の一環に併せて更なる特色として、障害をもつ子供の早期発見、療育の機能も具体的事業として用意されています。
 このような活動を担う私たちのセンターは、現在職員は26職種、332名が在籍し、新横浜にあるリハビリテーションセンター本体だけでも168名のスタッフが働いています。

 センターの組織機構と目的

 実践の具体的内容については、このあとのビデオを見ながらさらに理解していただきたいと思いますが、その前に若干センターについての解説をします。
 リハビリテーションセンターでのサービス提供の流れは、図のようになっています。組織的には総合相談部・医療部・福祉部という三部構成です。医療部がある診療所には19床のベッドがありますが、医療課、機能訓練室に分かれていて、障害原因となる疾患等の診断・評価、各種検査・医学的治療、機能訓練、言語訓練・心理治療などのいわゆる医療を軸とした、医学的リハビリテーションサービスを担っています。
 福祉部というのは、 法定施設の機能をもち、児童福祉法による三施設、障害者福祉法による成人施設(生活訓練課=更生施設、職能開発課=授産施設)ということで、五つの施設からなっています。
 これらは、この図でいうと、必要な訓練・評価、それらをさらに深め、地域に戻り、そこでの生活を担うための重要な基本的なサービスを、センターにおいて期間を限定し、目的を定め提供しています。
 三つ目の部門として総合相談部があります。総合相談部門では、障害者更生相談所も併設されています。相談部では、地域サービス室、企画研究室、そしてセンター全体の管理運営を担う総務課も含まれます。ここはいわばセンター利用の要となる利用者サービスのマネジメントを担う第一線の窓口でもあります。なお地域サービス室では地域に出向き、リハビリテーション・サービスを展開することが基本業務ですが、またここのワーカーや保健婦は障害者更生相談所のケースワーカーとともに「総合相談」ということで、センター利用の窓口や地域との連携調整も担います。
 地域サービス室は、地域への訪問によるリハビリテーション・サービスの提供を「在宅リハ事業」、保健所での乳幼児健診査後の発達の遅れやその不安のある子供たちへの早期対応で、療育の早期サービスを導入するための「療育相談事業」を基幹事業としています。また横浜市内にある数多くの民間福祉施設や、障害者の地域作業所、高齢者の関係の施設へリハビリテーションの専門的技術を提供することで、利用者の生活の質の向上に役立てるという「関係機関技術援助事業」も行っています。
 企画研究室では、リハビリテーション分野における工学的見地から障害者の生活を支える福祉用具、福祉機器などのこれら福祉用具の利用者に合わせた創作、改良、提供などの活動をしています。

 入り口(窓口)から出口まで

 それでは、ビデオをお願いします。
まず当センターの窓口としての総合相談部。ここでは障害者やその家族、広く市民がリハビリテーションや障害についての各種相談や照会が可能です。ここを担当するソーシャルワーカーは各種情報提供や、福祉事務所、保健所などと連絡を図り、最適なリハビリテーション・サービスが提供できるようにセンター利用の窓口としての役割を担います。
 次に医療部門では医師等による医療サービスが提供されます。医師をはじめ関係職種が診断や障害の医学的評価を行い、その後具体的に理学療法士、作業療法士なども加わり利用者に見合ったリハビリテーション計画や援助方法が検討されます。
  代表的な例は機能回復訓練です。運動療法は体の動きを通して機能回復するもの、理学療法士が担当します。作業療法はさまざまな作業を通して行われる機能回復訓練で作業療法士が担当します。より最適な生活のために装具や自助具を作ったり紹介したりもします。さらに、日常生活を可能にするため、障害に合わせた家事動作や日常生活動作訓練なども提供され、身体機能の回復とともに体力の維持と増進のため、スポーツを取り入れたリハビリテーション活動も行います。
 言語の障害のある人々に対しては、言語治療士が訓練を担当し、様々な症状のため個々人に合わせた訓練が行われます。このような訓練は通所のほか、入院や入所という形式で提供されます。
 またリハビリテーションの第二段階では、一定期間入所しての身体障害者更生施設での社会生活を送るうえでの必要な技術の習得訓練があります。
 週末には家庭での成果を確認するために帰宅訓練も行っています。訓練はセンターだけでなく、外出して電車に乗るための切符を買うなどごくありふれたことも学習プログラムに用意されています。
 日常生活に用いられる各種福祉用具は臨床の場でチェックされ、作成されます。医師、工学技士、装具士などが一人ひとりに合った対応をします。
 リハビリテーションのゴールの一つに、職業に就くことがありますが、授産施設では働く意欲と能力を育むために実際の作業を通して働くための基本的ルール、就労に必要な生活スタイルや習慣を獲得するための訓練をおこないます。
 また求職相談やどのような方向に進んだらいいかについての職業判定プログラムも用意されています。
 センターでの訓練の最終段階として、企業実習があります。実習を終え、就職にあたっては職業カウンセラー、職場責任者などで職場の受け入れ体制の準備など企業側との調整が慎重に進められます。
 障害やその原因を早期に発見して、可能な限りの回復と発達を促すことが重要です。
横浜市では、保健所において4か月、1歳6か月で検査をし、障害をもつ可能性のある子供を発見し、必要な早期対応をする療育システムを実施しています。センターでは、保健所や医療機関から紹介された児に対して、診断、評価、療育を行うとともに併せて家族への支援を行います。体の動き、姿勢の反応を確かめながら医学的診断をおこない、医師の診断結果に添って専門スタッフによるマン・ツー・マンの対応が図れています。
このほか、精神発達に問題のある児童にも臨床心理士などが行動評価をおこないます。
 子供の成長を促すのは医学的なものだけではありません。遊びや日常生活のなかで子どもらしい成長や発達が促されることから、センターではこうした療育の場に保護者の積極的参加を呼びかけています。
 聴力、言語に障害の疑いのある子供には、専門スタッフによる聴力検査を行い、さらに障害のある児に対して、難聴幼児通園施設で言語能力の獲得、コミュニケーション能力の拡大を行います。
 障害が重いため在宅生活を余儀なくされている人々には、センターの職員が訪問して、生活に必要な福祉用具の提供、家屋の改造など、様々な援助を行います。
福祉事務所や保健所、医療機関から紹介され、彼らとともに専門職員が合同で訪問し、対象者の障害の程度や住宅環境、生活上の課題等について評価します。これらに基づいて障害者個々人に見合ったリハビリテーションのゴールと援助計画が検討され、また各スタッフの役割も明確化されます。さらにこの合同のカンファレンスでの確認によって、理学療法士、作業療法士などが家庭を訪問し、身体機能の維持や改善のため、日常生活動作の訓練、家族への介護・介助法の指導などサービスを提供します。
 住み慣れた家庭や地域で、障害者が自立した快適な生活をおくるためには、また工学的な諸技術を家庭に導入することも有効です。センターでは新しい福祉機器の研究開発に力をそそぐほか、住環境整備の支援なども重要な事業です。住環境の整備にあたっては、センター建築士が一人ひとりに合った改築の具体的な相談に対応します。
 各種福祉機器の開発、活用は、文化活動やスポーツにも実用化されています。障害をもつ人々にとっても、文化活動やスポーツにチャレンジすることはあたりまえのことです。
 リハビリテーションは障害をもつ人々が専門職の技術や知識を上手に活かしながら、自ら人生や生活を主体的に築いていく人間的な営みです。今日もまた障害者の明日へのはばたきを援助するため、センターの活動は絶え間なく繰り広げられています。
 最後に、私たちの12年間の実践活動を通じ現在リハビリテーションセンターとして課題となっている 、また私たちが今後どうすべきかと検討しているいくつかの課題についてお話しします。
 OHPを。

 今後の課題

 私たちリハビリテーションセンターの活動と役割は、地域で市民一人ひとりが、障害をもつ児、高齢者など様々な支援を必要とする市民の後方で、そのような人々を支える専門機関の一つです。340万の市民に対して必要時に専門家の知識や技術が提供され、それが必要な生活の場面で有効に生かされるかどうかが、我々の成果を問われるポイントとです。
 横浜市ではこのような支援を地域ケアシステムということで、地域で要援護の人々を支える仕組みとして18の行政区ごとに作っています。そして、我々のような後方支援機関や施設は、全市を対象に児童から高齢者までを対象にさまざまな支援活動を担い、かつ一人ひとりの市民を支援しています。実際の日々の地域活動は、私たちもその一端を果たしていますが、むしろ身近な公的機関の福祉事務所や保健所(横浜市では福祉保健サービス課という一体的部門を設置)で、5年前からサービスを展開しています。地域のケースワーカー、保健婦の他に、地域では在宅介護センター、また障害をもつ人々のための地域活動ホームなどでは看護婦や指導員、コーディネーターなど他の福祉や医療関係者も日常活動をしています。
施設、支援グループ、そして当事者グループなど地域でさまざまな施設や機関、人々と一体的に、一人ひとりの生活に協力し、安定した生活を支える役割を持ちながら共に支え合っています。
 私たちが地域でのリハビリテーション活動をすることで、共に働いている保健所、福祉事務所、高齢者関係のケアワーカーなどの人材へも、広く実践を通して援助対象者個々人に最適な生活を考えていくための技術や手法をもつことが有効だという認識が、共有され、理解を深めることができました。このように私たちは具体的に共に働く地域の福祉・保健領域、また地域固有の(民間・非営利)団体でケアを提供する人々へも支援を同時に提供できるのです。
 この12年間で最も変化したことは、何よりも対象者の高齢化、障害をもつ人々の重度化・重複化です。このような経過でも援助対象者の生活支援を考えるには、やはり対象者の自立・社会参加・そして一人ひとりにあった質の高い生活を担っていける援助を有効且つ適切に提供していくことが基本と考えます。

 福祉機器サービスセンター

 340万規模の大規模人口エリアでは、私たちのサービスにも限界があり、またさらに一人ひとりへの きめ細かなサービスを提供していくのは、構造的な課題がありました。そこをどうにか乗り越え、もう少し利用者に見合った、その方たちが望む支援やサービスを必要時適切に提供する仕組みとして、地域の高齢者支援関係センターへの「福祉機器サービスセンター」併設をしました。昨年の12月と今年の5月、地域に開設することができました。福祉機器サービスセンターは、リハビリテーションセンターの地域サービス部門の地域分室として機能しています。ここではリハビリに関する専門職、特にセラピストを配置することで、併せて生活を支援する福祉用具や環境整備のシミュレーション、相談体制などを取り揃え、身近なところで必要な時に相談ができる仕組みとして用意しました。さらに、現在3か所しかありませんが、市内全域に全面展開するには、さらにあと2か所の検討が求められています。

 介護保険について

 最近皆さんが注目している話題の一つに、「介護保険」があります。介護保険の実施にともなって、私たちセンターが保有する『障害者の生活を支援する視点』を介護に関連する関係者にどう有効に使ってもらうかが急務と考えています。私たちリハビリテーションセンターは、介護保険に関連する例えば福祉用具や環境整備という生活を支える大切なサービスに間接的に情報提供や、共に提案する仕組みを訪問によるリハビリテーション活動で支援できるのではと思っています。そこでは何よりも地域での要介護高齢者を支える、たとえば訪問看護ステーション、ヘルパーステーションなどのサービス提供を担う人材に、私たちがもつ専門技術や知識を、上手に提供し連携することで、より適切なサービス提供が可能になります。  介護サービスの実施体制が本格的に動いたとき、私たちが今まで作ってきた、障害者の生活に役立つようなサービスの仕組み、障害者にかかわるケアマネジメント、障害者支援の新たな方法は、ぜひ役立ててもらいたいと思っています。また、私たちの技術や知識を利用者が体験し、主体的に、必要時いつでも求めてくださるような支援体制を形成していきたいと考えています。

 おわりに

 最後に、人生の高齢期まで必要に応じて、私たちは地域に存在し、ぜひとも地域の貴重な社会資源の一つでありたいと思っています。センター開設時に利用した子どもたちもいまや学齢期、すでに高校や社会に出て行く年齢となりました。私たちが最初に関わった障害児の療育や支援サービスが、その人の人生にどう活され、どのように人生を豊かにしていくか、私たちも地域の人々と歩みながら、点検する。そういう仕組みができると思います。
 必要な時に身近にあって、気付いたら手を差さしのべ、支えることができる、そんな専門機関として、新しい仕組みや視点をより豊かにしていくことが課題です。大きな仕組みのなかで、非常に専門的な、集中したサービス体系をもつ機関が、充分役立っていただけるよう日々職員が努力していることも、皆さんに併せて理解していただければ幸いです。
 終わります。ありがとうございました。
(拍手)
三ツ木/成田さんありがとうございました。  チャンピオン・レポートのご報告はこれで終わりますが、この熱っぽさをぜひ明日の分科会に引き継いで白熱した議論を展開していただきたいと思います。


日本障害者リハビリテーション協会
第22回総合リハビリテーション研究大会事務局
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