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平成17年度 国際セミナー報告書
「アジア太平洋地域における日本の障害者支援」

■基調講演 『障害と開発:なぜ今「障害のメインストリーム」
なのか?日本ができる貢献とは?』

国連ESCAP障害担当官 長田 こずえ

こんにちは。長田です。最初にちょっと外国のゲストの方にご挨拶をします。

皆様、ご存じない方は初めまして。私は国連の長田と申しまして、今、障害問題を担当しています。今日は私の前任の高嶺豊さん、手を挙げてください。私の前任者であり、私のメンター、先生でもあるかたです。

皆さん、来ていただいてありがとうございました。今日のタイトルはおもしろく大変タイムリーですが、障害と開発の関係として、なぜ今、障害のメインストリームなのかについて、簡単にお話します。

開発と障害について語る前に、最近の国際的な動きを追ってみましょう。

皆さんご存じかと思いますが、2001年WHO(世界保健機関)が新しい障害の分類と定義、WHO ICFを出しました。この中で、「障害」の認識、概念が変わりました。通常の医学モデルから社会モデル、つまり障害者自身が変わるのではなく、社会と障害者が一体となって変わらなければならない。あるいは社会がより変わらなければならない。そういう社会と障害者の相互関係についてのファクターが入れられた。これは大きな影響でした。障害という概念が変わりました。

今、国連のニューヨークで進行中の、障害者の国際権利条約がありますが、社会モデルから権利モデルへ、障害の概念が移行していることを確認してください。その中の一環としてアジアのESCAPはアジア太平洋障害者の十年を2003年から2012年に延長しました。その指針として、びわこミレニアムフレームワーク(これは私の前任者である高嶺先生がエンジニアとして構成されたものですが)、障害者をMDG(ミレニアム・デベロップメント・ゴールといいます)、開発のフレームワークに組み込んでいます。ご存知のようにアジア太平洋障害者の十年そのものが障害の開発への統合というか、組み込みというものをビジョンとしてやっている、これはあまり確認されていませんが、びわこミレニアムフレームワークというのは、これは障害の開発の組み込みをビジョンとしているということを考えてください。これがよい影響を与え、他の地域でも十年があります。アフリカ障害者の十年、2000年から2009年、そして、アラブ障害者の十年(2004年から2013年)など、やっとアラブの障害者十年ができるようになりました。

ですから開発と障害というのは、アジア以外にもいろいろなところで考えられるようになりました。国際的な動きの続きとして、皆さんご存じの障害者の国際権利条約の過程。2002年からはじまったのですが、ここでも国際協力と貧困と障害がかなり重視されています。昔ありましたような例えば、児童を対象にした権利条約や女性の差別撤廃条約、権利条約と比べると、国際協力というのが強調されています。この部分が特別、付録として権利条約の条文に組み込まれることはほぼ確実になっています。

今までになかったことです。今まで、国連の中では、人権というサイドと開発のサイドはあまり仲が良くなかった。そんなオーガニゼーションですから。はじめてそれをやめようと、この権利条約の中では、初めて、国際協力と人権の相互関係、関連をよくしていこうという動きが見られました。

1つとしては現在の国際権利条約の過程が、国連の中でも人権を担当するジュネーブではなく、開発問題を担当しているニューヨークの方の事務所で行っていることもあります。今まではだいたい主な権利条約はほとんどジュネーブの人権がやっていましたが、今は国連ニューヨークで行っており、人権と貧困、開発問題を権利条約は差別禁止だけではない、一緒に統合しようと思っています。

ESCAPは権利条約ではかなり貢献しました。その条文となっているのはバンコク草案で、私たちが作りましたが、アジアから出た条文です。今大部色合いが薄れてきて、バンコク草案の部分がちょっとだけ消えてきましたが、我々が書いたものには不足している。我々は差別禁止だけでは十分ではない。自由権と社会権を含む統合的なものにしたい。皆さんご存知だと思うのですが、社会権は貧困や開発と関係がある。障害者の権利条約は自由権だけで成り立つものではなく、教育をうける権利や貧困をなくす努力をする活動とか、そういうものも組み込まなければいけないと、社会権を我々ESCAPはかなり統合的かつ包括的なものと考えています。

2004年、国連のWHO(世界保健機構)がありますが、ILO(国際労働機関)、UNESCO(教育をあずかっているところ)など、3つの国連の特別機関が協力して、CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)に関する共同声明を出し、かなりダイナミックな将来性のある新しい定義を出しました。今までのCBRのようにメディカルモデル、リハビリテーションを中心としたものではなく、障害と貧困、むしろCBRは障害者の貧困をなくすために有効な手段であるということが、ジョイント・ステイトメントに入っています。ですから皆さん読んでいただき、コンセプトそのものが変わったことを理解して下さい。障害者の権利がCBRの中に入っています。

それからワールドバンク(世界銀行)とかそのような国際金融機関の中でも障害者開発におけるメインストリームの担当官を設置するようになりました。有名な所ではジュディ・ヒューマンさんがいますが、ほかのオーガニゼーションでも少なくても、障害に取り組もうとする動きがあります。担当者は今までは障害者問題を知らない人でしたが、担当官を設置することで、それなりのメカニズムができてきた。

JICAもそうですが、2カ国間技術協力でも、英国のDFID(国際開発省)も、ODA機関が障害者のメインストリームを提唱して、日本語ではツイン・トラック・アプローチと言っていますが、障害のメインストリームと障害者をエンパワーすることを両方しようというのが一般的になりました。アジアには、JICAもツイン・トラック・アプローチの1つとして、具体的な政策としてバンコクにAPCDを建てました。JICAの障害者のツイン・トラックに関する研究員リポートが出ています。久野先生のレポートだと思います。JICAの障害に対する指針も出ています。JICAの中では、ツイン・トラック・アプローチが明確にされてきた。

アラブの障害者に関するJICAのレポートも出ました。幅広く障害者に関する研究をしています。

ESCAPとしても、高嶺さんに聞かれましたが、開発のメインストリームで何をしているか、まず開発と直接関係なさそうに見えていますが、ESCAPの統計の活動の中で、WHOのICFを統計担当と一緒にやって、その中にメインストリームをやっていく。まず、政策を立てるには数がしっかりしていかなければならない、それにより財政が決まってきます。

あとで詳しく言いますが、最近ではメインストリームとしてはインドネシア、タイにおける津波の復興に関する通常のプロジェクにかなり強く障害をメインストリームにしています。今の段階でESCPAがおこなっているのは、インドネシアにおける津波の被害のプロジェクトに、障害をかなり強くメインストリームしています。有名なインドネシアのドクター・ホンドヨと一緒に津波のプロジェクトをしています。障害のプロジェクトではなく、津波のプロジェクトですが、かなり障害を強くメインストリームしています。障害者の当事者団体、自助団体の参加を促進すること。

話は変るのですが、国際協力とは何か。みんなJICAとか思うのですが、JICAも大事ですが、国際協力は、2カ国間開発形式だけではない。一般的なものとしては資金援助型、ローン型もあります(お金を返さなければいけないのがローン型です)。資金援助型グラント、G-G(ガバメント To ガバメント)。JICAなども主に行っていますが、このあたりは一般的です。

その他、人材開発、訓練、リーダシップトレーニングをやっていまして、APCDも、第三国訓練(サードカントリーです)を行っています。その人材開発のことも国際協力の部分でもあると考えてみましょう。

あと、技術移転、具体的には福祉器具、アクセシブルなICTなどの情報交換など、これらも国際協力です。

忘れがちなのは国際的なネットワークの設立です。大切なことだと思います。国連では、「ソーシャル・キャピタル」と呼んでいますが、国際的なネットワークの設立をすることは大切な国際協力だと思います。

国際協力というと、通常は、北から南、つまり資金のある国から開発援助をするということがあり、援助をするのが通常でしたが、最近になって南-南協力が重視されるようになりました。国連ESCAPとしては、今考えているのは、南から北への協力。貧しい諸国が北へどうやって協力できるか。貧しい国のグッドプラクティスから何を学べるか。あるいは、CBRの訓練にしても、我々が現地のいわゆる南の途上国に、担当者を送り、バングラディッシュ、インドネシアで勉強する。あるいは視察させてもらう。こういう南から北への協力を考えるときになったと思います。良い例として、インドネシアのソロの(CBR)センターやバングラデシュの、開発と障害をしているCDDというのがあるのですが(ノーマン・カーンさんがやっているところですが)、開発と障害をやっているセンターです。そういうところに我々が訓練に行く。訓練してお勉強させていただく。南から北への協力も考えてみればいいと思います。

国際協力というのは国際的基準設定になります。開発途上国でユニバーサルデザインを入れるのはいきなりは無理です。国際的な基準の設定がなければ難しいです。国際協力のインパクトの1つでもあると思いますが、権利条約ができると、更に国際的な基準の設定、権利条約のモニタリングも一つの国際的な基準の設定といえます。国際権利条約ができて、それに日本が批准した場合、ユニバーサルデザインは、海外で行うインフラプロジェクトも取り込んでいく、というのは確実に本当に起こることだと思います。その意味で国際的基準設定の意義があると思います。

誰が何をするのか。何をしたらいいのか。メインストリームとはいったいどのようにして推進するのでしょうか?

ODAのプロジェクトには、バリアフリーの考えを取りこむべきです。米国のUSAID(国際開発庁)はいい基準を持っていて(あまり実行されていないとも聞きますが)、実行されている国もあります。インドネシアでもそうですし、バリアフリーとアクセスをODAに組み込むこともしています。

ODAのバリアフリーとアクセスを保障するようなガイドラインが、そろそろ日本にもできていいと思います。いや、できなくてはいけないと思います。

人材に関しては、障害者を開発者として採用する。国連もそうです。「何で健常者のおまえがそこに座っているんだ」と言われることも多いです。これは個人の職員ができること、部署ができることではなく、採用の方針を決めるところにちゃんと決めてもらわなければ、どこのオーガニゼーションもそうですが、人事、大きな組織でも実際に派遣される人が決められる部分は小さいと思う。はっきりした、クォータ(割り当て)でなくてもいいけど、障害者をなるべく採用する方針を決めていかなければならない。それを政府なりで作っていく必要があると思う。こういった決議案を国連に作らせることに、障害者団体や障害者の働きかけは必要だと思います。障害の理解を促進させるために、開発の分野での普通の職員、障害を持たない職員の研修も必要です。これは障害者を開発機構の職員に採用するということと並行でやればいいと思います。

障害に関係ないプロジェクトでも、それが本当にこのプロジェクトは障害者の役に立ったのか、インパクト・アセスメントしていくことは必要です。インパクトアセスメントは強制的になっているところがあります。ジェンダーについてなどは、国連の中でも必ず組み込まれていますが、まだ障害者のインパクトアセスメントはできていない。参加者の頭数を取るのでもいいんです。簡単なインパクトアセスメントは、参加した障害者は何人かとかです。

ジェンダーでもそうです。女性が何人参加したか。それぐらいしか実際にはやっていません。国連の場合は女性が何人参加したか、などです。今はまだこのような段階ではありますが、そこから始めることが大事です。

また、レポートの意味。レポートを義務づける。インパクトアセスメントとレポートをとることは似ている。一つ一つの障害以外のプロジェクトを持っている担当者に、障害者に関して、障害者にはどんな恩恵があったのか、というようなリポートの義務をつける、これをしない限り担当者は、メインストリームは不可能。

そしてPRA(Participatory Rural Appraisal、参加型農村調査法)、参加型のようなプロジェクトを始めること。これは我々もやってはいる。ロジカル・フレームワークもあります。今までのプロジェクトプロポーザルを表に書き換えたもので、そこに本当に、障害者の方がそれに参加して活動してなかったら、何のために参加型のログフレームを使うのか。ログフレームの大事なことは、当事者が参加すること。ログフレームやPRAは使ってもいい(使わなければいけない)のですが、参加型が目的だということを忘れてはいけないと思います。

時間がなくなったので早く終わります。

国際協力の関係として、政府関係、NGOが参加することが大切です。

北から南への協力、二カ国間協力。国連のマルチ方式、南-南協力、これは第三国協力、APCDみたいなものとか、南から北への協力、インフォーマルな研修というのが特に大事です。南にいって勉強するというのもありますね。途上国でのCBRの研修。インド、バングラデシュなど。

途上国での参加型の研修。留学も、いつまでも米国とイギリスだけでなく、普通の人の留学も開発する人は開発する場所に留学したほうがいい。南は安くすみますし。安くて優秀です。北は高くて、貧しいってどういうことか知っている人が少ない。これはしょうがない。南には開発と貧しいことと障害について話せる人がいっぱいいます。人材派遣は南から北へも考えたほうがいいと思う。

誰が参加するか。いっぱいいます。まず政府。政府を忘れてはいけない。NGOだけではなく、政府。私は特に先進国、ODAの体系の中で始めることが大事だと思います。いわゆるGNPの0.7%。これをODAに回す。やっている国もあり、日本もやったほうがいいと思う。

国際協力機構、国連国際金融機関も、我々がもっとやらなければいけない。米国のNGOはお金がある。障害に特化するNGOと、「セーブ・ザ・チルドレン」のようなところ、一般的なNGOで障害に特化しないところもやらなければいけないと思います。

労働組合や消費者団体、政党、宗教団体、いわゆる市民社会で何かできるのではないか。

マスメディア、あとでケニーさんが話してくれます。マスメディアの影響は大きい。特に先進国での影響は途上国にきます。だからアメリカで障害者がどう描かれていくか、みんな真似をしてしまいます。いやだけどしょうがないです。アメリカでやると絶対に真似します。日本でもそうですね。ですからヘンなイメージを描かないで下さい。これも、ある意味では国際協力です。

企業の参加について。何かできるでしょう。何ができるか、あとで考えましょう。多国籍企業。障害者の雇用もやっていますので、やれると思います。特にアメリカで、ディズニーランドやマクドナルドは何かやらなければならない。そして国民一人一人の参加、寄付、慈善事業の参加、チェックブック(小切手)による国際参加。我々一人一人がお金を出すということ。チェックブックを切りましょう。簡単ですが、意外と大事ですから。日本って少ないんです。他の国と比べるとすごく少ない。簡単にできる事ですから。キリスト教系の強い国では、国民一人一人がチェックブックを切って参加するのが大きいです。日本はまだまだ低いと思います。特に津波の後に寄附金を集めるとき、私はそれを感じました。ヨーロッパの一人一人のチェックブックを切る割合(の高さ)。大事な大事な国際参加だと思います。それからボランティア活動。

メインストリームがどうして良いのか?他の障害に特化しないプロジェクトは規模が大きく、メインストリームするとそれだけに利点がある。たとえば障害に特化すると、APCDのようなものでもそんなにスケールが大きくないので、メインストリームに頼り過ぎると、従来の障害者に特化したエンパワーメントプロジェクトの代用になってしまう。リハビリテーションやリーダーシップの訓練、キャパシティ・ビルディングも同時にしなければならない。APCDのような障害に特化したものもすごく大事なんです。そのへんのバランスが大事です。

メインストリームですべての障害者に対応できるのか。「障害者」と言ってもいろんな人がいます。障害における差異、多様性は大切です。メインストリームですべてに対応できるでしょうか。メインストリームは実行が難しい、責任が明確でないから。メインストリームって何をしているのかわからないので、口で言っているだけで、強制力がない。私も障害のメインストリームなら真剣になるが、環境のメインストリームだと真剣じゃないこともあります。

ディスアビリティーのメインストリームなど。どうすれば我々が簡単に、有効に国際協力に参加できるのか、考えてみましょう。

◆ 資料

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