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セミナー「ディスレクシアへの支援 デンマークでの活動から」

「DAISYを利用したディスレクシア支援」

河村宏氏
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所障害福祉研究部長

皆さん、こんばんは。今ご紹介いただきました河村です。

先ほど、ギッダさんからはデンマークにおけるディスレクシア支援の歴史的な展開、そして現在のさまざまな図書館が中心になって、資料提供というサービスを通じてディスレクシアの皆さんの社会参加を支援している、そういう様子をご紹介いただきました。加藤先生の方からは、診断という立場からさまざまな読み、あるいは読み書きの障害についての整理をしていただきました。私は、アメリカとそれからちょっとスウェーデン、さらにイギリスでそれぞれどのような特徴のある、いわゆるプリント・ディスアビリティーズという範囲に広げさせていただきますが、今何がDAISYの周辺で進行しているのかということを補足させていただきたいと思います。

最初に、画面の上に、これはアメリカで作られております、今法律に基づいて幼稚園から12学年、義務教育が終わる、高校くらいまでですかね、12学年ですから6・3・3の日本で言うと高校卒業くらいまでの教科書と教材は、すべて出版社がケンタッキー州にあるAPHという、American Printing House for the Blindという団体がありまして、そこにDAISYフォーマットのファイルで納めなければいけないという法律を作りました。ブッシュ大統領が既に署名をしておりまして、連邦法です。さらに、これが実際に発効するのは2007年中ということになっています。ですから今はその猶予期間であるわけです。従いまして、アメリカの出版社、特に教科書出版社の間ではこれにどう対応するのかということが非常に熱い話題となって議論をされております。

ごく最近の情報によりますと、8月14日に新しいファイルフォーマットの改訂版というものが出されました。そして、8月14日ですからまだ2週間くらいしか経っていないのですけれども、その改訂版に基づいていよいよ執行される、施行されるということで出版社は今までですと、著作権者に対してDAISYフォーマットにしていいですか、あるいは録音図書にしていいですかという許諾を求めていた団体が、今度は逆に出版社が法律でそのファイルフォーマットにしなければいけないのだけれども、おたくでやってくれますか、というふうに頼まれる存在になってきている。

そして、そのファイルフォーマットの「変換」と言うのですが、印刷用の版下をまず最初に作る場合には、そこから変換をして、そしてDAISYフォーマットにしなければいけないのですけれども、この変換をする専門の業者さんのリストは、こういうところがやっていますよ、ということをウェブサイトに公示している。そういう状態になっています。自力で変換できるところは自力で変換して、それをAPHに納める。自力では変換できないところは、どこかに委託して変換をする。いずれにせよ、教科書あるいは教材として、それぞれの州で採択されようということを考えるならば、必ずこのファイルフォーマットでファイルを納めなければいけないという状態になっております。

アメリカでちょっと前を振り返りますと、放送に使われる字幕、これを昔は字幕を入れる人たちが、特に聴覚障害の方たちのために字幕を入れたい、許可してくださいと言っていた時期がずっとありました。ところがADA=障害のあるアメリカ市民に関する法律、これによって障害者に対する差別はいけない、公民権法違反であるという連邦政府として障害者に対する差別の解消を積極的に進める法律を作り、それに沿ってそれぞれの法律、たとえば放送法とかコミュニケーション法とか、そういう法律をずっと整備するなかで、放送についての字幕というものは必ず付けなければいけないというふうになっています。従って、昔はお願いして「付けさせてください」と言っていた団体に、放送局が「委託料を払うから字幕を作ってください」というふうに変わる大きな転換がかつてなされています。

その一つの重要な転機というのは、確か13インチ以上だったと思いますが、アメリカ国内で発売するテレビにはすべて字幕を映し出すオン・オフスイッチがありまして、クローズド・キャプションといいますが、字幕を表示する、あるいはしない、そういう選択肢のついたクローズド・キャプションの装置を内蔵しなければいけないというふうにテレビの規格が法律で決められまして、それ以来アメリカの本土で使われている確か13インチ以上のテレビはすべてそのクローズド・キャプションのシステムを内蔵する。そのことによって、1台あたりのキャプション・デコーダーという仕組みが必要なのですけれども、そのコストを従来の二十分の一くらいにしてしまうという大きな社会的な変革が行われました。その結果が、今アメリカの放送はきちんと字幕がついているというものになっています。

それでは、アメリカの教科書が必ず、普通の印刷物は読めない生徒が教室にいたときには、授業の始まるまでに読める形で手に入れられる、そういうふうなことがいよいよ来年からアメリカでは施行されようとしているということです。ちょうど字幕のときと同じように、今までお願いしていた側が、逆にそれが専門的な仕事になって、社会的に当然の産業としてそこに新しく登場してくる。そういう形でファイルフォーマットの変換という産業が立ち上がろうとしているという時期に今あります。これが、DAISYを私どもが日本で、あるいはどこの国でもそうですけれども、技術として非常に展望があるからディスレクシアを始めとするさまざまな障害のある人たちの読み物として使いたいというときに、常に著作権が壁になってきているわけです。それを、アメリカの場合には逆転するということがいよいよ教科書、教材について起ころうとしている。そのことをまず皆さんと一緒に確認させていただきたいと思っている次第です。

今画面に映しておりますこの絵は、ちょっと説明させていただきますと、今までですと紙に印刷した教科書、教材というものがありましたが、そこからそれをアメリカン・プリンティング・ハウスの方にファイルを集積するサーバが設けられまして、そこにみんなが納める。この納めるときのフォーマットはDAISY形式と決められております。DAISYの3、それの最新版です。細かく言いますと、ANSI/NISO Z39.86-2005というものです。これは実は、DAISYコンソーシアムがDAISYの規格として開発した最新バージョンです。それをそのまま、アメリカのANSI規格という、日本で言うとJISにあたるような規格になっています。そしてさらに、DAISYコンソーシアムはこのアメリカのANSI規格を管理する団体になっています。つまり、今まではわりとよその国で作った規格というのはアメリカは採用しないということが多くて、なかなか国際標準にさせるのは難しかったのですけれど、このDAISYフォーマットに関しては、DAISYコンソーシアムはDAISYと呼んでいます。アメリカの規格の方ではANSI規格と呼んでいて、中身は全く同じものになるという仕組みになっています。 ですから、安心してこれは国際標準ですと言うことができる。なぜなら、DAISYコンソーシアムがそのANSIのZ39.86の規格を公式に管理する団体になっている、という仕組みによるものです。

これのメリットはどこにあるかと言いますと、この絵の真ん中の下の方にありまして、そこに英語でalternative formatsというふうに書いてあります。印刷された本に代わる、違う形式のもの、ということなんです。そしてどんなものがあるかということでそこに書かれているのは、最初に点字ですね。その次に録音、デジタル録音図書。そしてその次に出てくるのは大活字図書、等々となっています。この等々のなかに、実は普通の印刷で出すというのもあるわけですし、字は大きくないけれども行間だけ大きくするとかですね、いろいろなバリエーションが最初に電子ファイルで作っておくと可能なんですね。特に弱視の方なんかですと、あんまり真っ白と黒だと読みにくいという方もいますね。これはディスレクシアの方の中にもいると思います。つまり、カラーコントラストを変える。ちょっとグレーがかったバックにするとか、いろいろなことができるようになる。これが電子ファイルとして最初に、ある規格で作ってしまう。それで集積しておいて、リクエストに応じて、個人のニーズに合わせて提供するということのメリットです。

逆に言いますと、なんでそうやって最初から出版しないんだろうと思うわけです。実は出版社も今、そう思い始めているようです。アメリカの教育図書の出版をする団体のウェブサイトの最近のニュースでは、これがどういう衝撃を与えるのか、我々出版業界にどういう衝撃を与えるのかという記事があります。それの一番最後の方に、「この要請に応えるためには、逆に最初からどのように電子出版するのかを考えたほうがいいかもしれない」と書いてあります。そして、実際にこれを今後どういうふうに、「等々」という部分が展開されるのかということで、アメリカでサンプルとして出されている提案がいくつかあって、もう既にナショナル・サイエンス・ファウンデーションというアメリカの文部科学省に相当するところが助成している研究開発をする団体があるのですが、そこが資金を出して研究したもののなかに、目の動きをずうっとトラッキングする、追いかける、追跡して、学習のときにどういうふうに目を使って読んでいるのかということを特に研究を奨励したり、新しいタイプの学習形態、それに合わせた出版形態というものを研究しております。

いくつか、カスタマイズするというのはどういうことなのか、ヒントになるようなことがありますので、ちょっとお見せしたいと思います。

本が、自分で絵があり、テキストがあり、喋ってくれるという概念でいくと、いろいろなものがあるよということのなかで、たぶん一番わかりやすいものは、次のようなものだと思います。これは、シンキング・リーダー、考える読み上げ機と言うのでしょうか。フォー・デフ・ラーナーズ、これは手話を使う学習者のための考える読書プログラム、というようなものだと思います。画面の左側にテキストがあります。右側に、全く大きな字でアニメーション的に手話が出る。ほぼ大きさは対等で、見開きになっているんですね。右側には手話の動画が出てくる。左側はテキストがある。おそらくこれは、今どのセンテンスの手話をやっているのかということがハイライトされるのだろう。あるいはハイライトしたほうがいいな、と思います。つまり、全体のなかで今どこを手話でやっていますよ、そのときに音声もついて再生されていれば難聴の人にもわかりやすい。そしてテキストも同時に見られるというようなものができるわけです。この動画が同時に見られるというのは、今のDAISYの規格そのものではできません。これからの開発課題です。しかしながら、 こういったものも手の届くところにバリエーションとして展望できる、そういうところまでDAISY規格は最も有望なものとして採択されたと考えてよろしいかと思います。

アメリカではこのようにして、来年それこそアクセシブルな教科書元年を本当に迎えることになります。各州でそのための法律整備が一斉に行われております。すべての州でこれが実践されます。というのは、連邦法で決めてありますので、連邦から補助金をもらっているところはこれに違反していると補助金をもらえなくなるということなのです。調達に関わる強制力があります。ですから、もう必死でこの基準を守らなければいけないということが、各州レベル、あるいは個々の出版社で起こるということが予想されています。

それでは、次にスウェーデンで今どういうふうになっているかをちょっとお話したいと思います。スウェーデンでは今画面の方にはTPBというところの、先ほどギッダさんのお話にもありました国立の録音・点字図書館がウェブサイトを設けて大々的にDAISYを普及する活動を今やっております。そのなかで注目されるのは、障害のある子どもたちに本格的にDAISYを提供していこうということで、ちょっと今時間がないのですが、皆さん時間がありましたらこのウェブサイトへ入ってみて、子ども用のページという、マンガがたくさんあるページがあります。そこへ入ってみてください。それは、主にディスレクシア等の子どもたちに向けてDAISY図書を普及するための戦略的なウェブサイトとして開発されております。そういう意味で、スウェーデンでは一つには大学生にDAISY図書をインターネット配信でダウンロードできる、そういう配信をする。もう一方で、子どもたちに狙いを定めてできるだけ早い時期から読書に親しむように、その両面作戦を展開するということを本格的に始めています。特に、ボイスシンセサイザーですね、合成音声を使って早く専門書を作ろうということで、 図書館なのですが、開発費をもらってスウェーデン語の非常に質のいいシンセサイザーを作りなおす。それでどんどんどんどんテキストを合成音声で早くDAISY化して、それで提供するということを計画しております。

次に、イギリスです。イギリスはディスレクシアに関してはデンマークやスウェーデンと比べると少し後から取り組みが始まったと考えられます。特に著作権法においては、イギリスは日本とあまりかわらない状態にあるはずなんです。ところがイギリスではかなり本格的にDAISYを使って、学校の教育現場に情報を、ディスレクシアの子どもたちをターゲットに提供しよう、同時に読むこと、書くこと、両方をサポートしようということで、ソフトの開発をしております。ドルフィンという会社がありまして、イルカのドルフィンと同じ綴りです。このドルフィンという会社は、もともとは視覚障害者用のスクリーン・リーダーを開発しておりました。その会社がスウェーデンにあったDAISYの制作ツールの会社を統合いたしまして、今はDAISYの専門デベロッパーとして大きく展開をしております。

これからご紹介しますのはドルフィン・プロデューサーというものです。ドルフィン・プロデューサーというのは、今実際にちょっとお見せしたほうがいいかなと思うのですが、メニュー画面でご覧になれる方はおわかりかと思いますが、マイクロソフト・ワードの上にちょこんと乗っかるソフトなんです。アド・オンといいます。マイクロソフトのワードのうえにプロデューサーという新しいプルダウン・メニューが付きます。そこをプルダウンしますと、プレイから始まって、ストップ、プレビアス、ネクストというふうに、なにかプレイヤーのようなメニューが出てくるんですね。そこから先に行きますと、save as DTBというふうになります。これは、デジタル・トーキングブック、DAISYのことです。DAISYとしてセーブするというオプションです。つまり、これでsave as DTBとやると、ワードの文書がごく簡単な、ちょうど先生が教室で配るプリントというものがありますね、これは半分使い捨てのようなものです。でもそのプリントがアクセスできなければ生徒にとってはたいへん困る。それを、先生がワードで作ったものをsave as DTBにすると、デジタル・トーキングブック・フォーマット、 DAISYフォーマットになってそのまま「はいっ」と渡せる。あるいは、そこでDAISYプレイヤーで再生できるというものです。ちょっとやってみましょう。

元々、このワードにはスティーブン・ショアさんという自閉症の、アメリカオーティズム協会の私どもの研究協力者の方の書いたものがちょっとロードしてあります。部分的なので怒られないと思いますけれども、それをこれからDAISYフォーマットにセーブするとどうなるかということで、皆さんに実演をお見せしたいと思います。ではsave as DTBというところをクリックします。そうするとメッセージが出て、これでそのまま進めるか、と聞いてきますので、yesで進めます。ちょっと時間がありますので、待っている間にちょっと違うものも紹介いたします。

DAISYのプレイヤーなのですが、今までは専用のフレックス・トークとかビクター・リーダーとか、世界中でプレイヤーでしたら20種類くらい、ソフト、ハード併せてできています。いろいろな国で。近くはインドで、だいたい2万円以下くらいではないかとインドの方では言っているものがまたできるそうです。そういう専用プレイヤー、そして日本障害者リハビリテーション協会が中心になって作ったAMIS、あるいはLDプレイヤーという無償でダウンロードできるプレイヤー、そういったものと並んで、いよいよPDAですね。今私の手許にあるのは普通のPDAで、別にこのメーカーのものではなければいけないというものではなくて普通のPDAなのですが、このPDAでもってDAISYが再生できるようになりました。まだ試作の段階ですけれども、これで再生できるようになりました、ということをご紹介いたします。

そうこうする間にできあがったようですので、ちょっと聞いてみましょう。

(機械音声、英語)

ボイスシンセサイザーなので、しかもシンクロナイゼーションをワード単位、単語単位でシンクロナイゼーションしたので一語一語区切って発音しているんですね。これは実はセレクションがあります。ワード単位でシンクロナイズするか、センテンス単位、文章単位でやるか。たぶん文章単位でやるともう少し滑らかに読むはずです。ただ、本当にこの一つ一つの単語はなんと読むのだろうというときは、画面上でちゃんとその単語にハイライトが当たって、それをそのときに同じタイミングで読み上げてくれるというのは、それなりの使い途はあるかと思います。調整あるいはシンセサイザーの選び方等、いろいろなノウハウがあるかと思うのですが、うまく使えばこれはかなり使えるという結果が、イギリスの方のレポートではでております。具体的なドルフィン・プロデューサーを使ったものというのはこれからでてくるところですが、DAISYフォーマットで普通の教室に教材を提供した結果のレポートというのは既にほぼ確立したものがでております。イギリスでの教室での評価では、一言で言って、他の生徒たちが、障害のない生徒たちが「なぜ僕たちにはこれを使わせないんだ」 というふうに文句が出た、それくらい使った生徒たちには強力な支援になっていた。どうも、他の生徒たちも使ったほうがいいかもしれないというレポートが聞こえてまいっております。

このように、イギリス、スウェーデン、そしてアメリカと、それぞれDAISYを中心に、DAISYフォーマットという電子ファイルの規格を中心に、その回りに多様な取り組みが今分厚く取り組まれております。これから私たちが日本で本格的に発達障害者支援法、あるいは特別支援教育の内容を構築するときに、これらの諸外国での取り組みを、デンマークでの取り組みの今日のお話とともに充分参考にしながら取り組むということが、今後の私どもの展開にとって非常に意味があるのではないかというふうに考える次第です。

以上をもちまして、私の補足を終わらせていただきます。