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講演会「障害児に豊かな読書体験を」

講演「日本におけるバリアフリー図書の推進活動について」

撹上久子氏
日本国際児童図書評議会 バリアフリー絵本展実行委員長/臨床発達心理士

こんにちは、IBBYの日本支部、JBBY、日本国際児童図書評議会の撹上と申します。今日はIBBY障害児児童図書資料センター、これは私は世界の知的財産だと思っているのですが、この貴重な活動と連動してきた私どもJBBYの活動について皆さんにお話させていただきます。こういう機会を日本障害者リハビリテーション協会の皆様が作ってくださいましたこと、また日曜日の一時をこうしてここに集まってくださいました皆様に心より感謝申し上げます。

日本におけるバリアフリー図書の推進活動、というタイトルをいただいておりますので、そういうことでお話をさせていただきます。

日本は世界でも有数の出版大国です。絵本だけでも年間1,300から1,400タイトルくらい出版されていると言われています。けれど、本に溢れた国・日本にも、まだ本の楽しみが届かない子どもたち、本屋さんや図書館が自分たちが参加できる場ではない子どもたちがたくさんいます。本が楽しめないのではなくて、楽しめる本がない子どもたちです。どんな子どもたちでしょうか。絵や字が見えない子どもたち。字が読めない子どもたち。そのままの本では内容がよくわからない子どもたち。図書館や本屋さんに自分では行けない子どもたち。そうした読書環境にある子どもたちです。2000年の統計から推測すると、15歳以下で約21万から22万人くらいそうした子どもたちがいるのではないかと推測されます。決して少ない数ではないと思います。

さらに、今まであまり気づかれなかった、通常学級に通っていても、字を読むことに困難がある子ども、いわゆるディスレクシアとか学習障害とか言われる子どもたちですけれども、そういう子どもたちも文科省の調査で2.5%くらいの割合でいるのではないか、ということがわかってきています。

それらの子どもたちには、デザイン、言語、レイアウト、絵などがその子のニーズに合った、しかも文学的にも美術的にも質のよい要素を十分に持った本が必要です。これは私の言葉ではなくて、最近知った言葉なのですが、本というのは人にとって鏡と窓の役割があるのではないか。自分自身を知るための鏡、自分を映し出してくれる鏡としての役割の本、それと、人を知る窓。外の世界を見せてくれる窓。その二つの役割を果たしてくれるそれにふさわしい本、THE RIGHT BOOKをすべての子どもたちにと願って活動してまいりました。

障害児図書(バリアフリー図書)の種類

どんな活動をしてきたのか、の前に、少し障害児図書の種類についてお話をさせていただきます。

障害児のための本、私たちはそれをバリアフリー絵本とかバリアフリー図書と呼んできました。本にバリアがあるのです。本の側にバリアがあると考えています。これは決して世界に通用する英語ではありません。日本で私たちがこう呼んできました。このことは後でまた触れたいと思いますが、普及のために用語をはっきりさせていく必要がありました。

では、どんな本を言うのでしょうか。

バリアフリー図書というと、多くの場合、見えない子どもたちのために特別に作られている本を、特に点字が本についている本をイメージする人が多い。また出版界では、障害や福祉を学んだり、考えたりするようなテーマの図書をそう呼んでいる場合が多い。いろいろな分類のしかたがあるのですが、私たちがいろいろやってきて一番わかりやすかった分類のしかたが、そこに出ています分け方なので、これについて説明をさせていただきます。

3つに分けます。「FOR」、「ABOUT」、「BY」。Books FOR Children with special needs、子どもたちのために作られている本。ABOUT Children with special needs、子どもたちについて書かれている本。BY Children with special needs、子どもだけではないのですけれども、障害児者によって作られた本、という3つです。

「FOR」というのは特別に作られている本です。点字や絵文字が付いていたり、絵がさわれるようになっていたり、音声が付いていたり。今日リハ協さんが一生懸命説明してくださっているDAISY図書などもそうです。

「ABOUT」は「理解本」と呼んでいます。障害のことを学んだり知ったりするための本。点字や手話を学んだり、あるいはフィクション、ノンフィクションを問わず障害児者が主人公として描かれたりしている本です。日本でも実にたくさん出版されています。このジャンルの本が3つの中では一番多いのは、たぶん世界共通だと思います。

「BY」は作品集など、障害児者がイラストやテキストを書いている本です。

「ABOUT」、「BY」はたぶん、正確な数ではありませんけれども、千タイトルくらい、子どもの本だけでも出ているのではないかな、と思っております。

日本で出版される場合にはやはり日本の文化社会を反映し日本人の障害観というものを反映した本が出版されていると思います。また、学校で総合学習という時間が採り入れられたこともあって、点字や手話、あるいは福祉、障害の種類などを生徒に学習させるための高額なセット本などの出版も多いです。

一方、「FOR」の方はどうかといいますと、現在購入可能な本はたぶん20冊にも満たないのではないかと思います。いろいろな理由があります。コストが高いのに売れない、さまざまなバリアがあるから出版も普及も難しいから、出版されている本が少ないのです。実際の「FOR」をお見せしたいと思います。どんどん回しますので、どんどん見ていただきたいと思います。

始めに、「BY」、「ABOUT」は千タイトルも持ってこられませんのでほんの少しですけれども、持ってきました。まず、ちょっとだけ紹介させてください。『おかあさん』という、これは「BY」の本ですけれども、これは先ほどボイエセンさんから説明がありましたIBBYの記念展、43タイトル選ばれているのですが、その中に唯一日本から出版本として選ばれた本です。今日は作者の佐々木卓也さんが後ろにいらっしゃいます。いないかな? あ、いらっしゃいました(拍手)。この本を「BY」の代表的な絵本として回したいと思います。

それから、「ABOUT」、ADHDに関する絵本、それから先天性四肢障害児父母の会が作りました、これはきっと今までたくさん紹介されてきた本だと思いますのでご存じの方も多いのではないかと思います。これは「ABOUT」の本として回してください。

これから回すのは、「FOR」の本です。ここに、全てではありませんがほとんどの本を持ってきました。全部ではありません。『これ、なあに?』と『ちびまるのぼうけん』、これは日本の本ではなくて翻訳本ですけれども、日本を問わず世界でのバリアフリー絵本としての名作だと思います。これを日本でもいち早く偕成社が出版しました。1970年代後半から1980年代はじめのことです。この頃が日本のバリアフリー絵本の出版の歴史の幕開けと言ってもいいと思います。今日はこの編集者の鴻池さんもそちらの方においでになっています。

こうした本の出版は、1981年の国際障害者年の前後が今まででも一番活発だったのですけれども、その後は世の中の不況の影響を児童書というのは最初に受ける分野なのかなと思いますけれども、その中でもこうした分野の本は一番最初に影響を受けます。どんどんどんどん出版は尻すぼみになっていってしまったここ数年の動きでした。

次にご紹介しますのは、小学館の『よーい、どん!』。これは24時間テレビで作者の赤塚不二夫さんが「目の見えない子ってあまり笑わないね、もうちょっと笑顔が出るといいね」と訴えて、見える子と見えない子が一緒に楽しめる絵本があるといいねって、24時間テレビでおっしゃったおかげで、初版1万5千部、これはこうした本としてはすごい数じゃないかなと思うのですが、それが売れたということです。第2弾『ニャロメをさがせ!』はテレビでちょっと宣伝がされなくて、これもとても工夫があって、見えない子の方が絵が早く見つかるように、ちょっと隠し絵のようなものが入っているのですが、これはやはりテレビでは宣伝がなかったせいか、あまりそんなには売れていない。まだこの2冊は手に入ります。先ほどの『ちびまるのぼうけん』と『これ、なあに?』は品切れ中で買えません。

こぐま社『チョキチョキチョッキン』、これはご自身が全盲でお母さんの立場の岩田美津子さんという、大阪の方ですけれども、本屋さんや図書館に1冊くらい点字がついている本が普通に置かれていていいのではないかということで出版なさいました。点字や点字絵本というとあまり色がついていない場合も多いのですが、きれいな絵で見える子にも楽しめる絵本にしたい。また、この背表紙、リング製本にしてしまうことで背表紙に情報が入らないということが、これが一つ書店や図書館に置かれにくい一つのバリアになっているのですが、それもなんとかこう、背表紙に情報を入れよう、表紙もカバーもつけようとか、いろいろな願いと工夫をもって出版しました。これも現在品切れで手に入りません。

岩崎書店のバリアフリー絵本全3冊、この3冊はまだ書店で購入できると思います。一番、書店などではバリアフリー絵本として親しまれた本ではないかなと思います。

一般の出版社ではありませんが、ユニバーサルデザイン絵本センターさんが折り本形式にすることでコストを下げたり、いろいろほかにもコストを下げる要素はあると思うのですが、1冊600円で年に2冊ずつ、今年の秋で計10冊刊行されます。全部持ってきていなくて申し訳ないのですが、1冊むこうに展示してあります。これは現在購入できます。

それから、視覚障害の子どもたちの7割が弱視と言われています。ちょっと貴重本なので回せないのですが、今日は後ろの方に大活字本が1冊展示されています。大活字本も何冊か出版されています。

次は日本で手に入る手話付きの絵本です。自分流文庫の『みそ豆』。日本ではなかなか、手話をどうして絵本にとり入れなければならないのかということの理解がまだないと思います。もう一つ、これと同じシリーズで『初天神』というのがあります。あと、BL出版の『音のない川』、合わせて手話の入っている絵本は3冊ありますが、今手に入る本としてはそれが全てではないかと思います。『音のない川』は翻訳本です。自分流文庫の2冊はインターリーブ方式という、間に挟み込み式ですけれども、点字もついています。

ここからお見せするのは、日本でも数少ない知的障害の子どもたちというか若者に向けての本をお見せします。最初に2002年、まだ本当に最近です、スウェーデンのやさしく読める図書を翻訳出版しました2冊です。(愛育社『リーサの楽しい一日』『山頂に向かって』)

日本オリジナルの本がつい最近出まして、それは後ろの方に展示してあります。清風堂書店『まゆことひろみの二人だけのがいしゅつ』、職員さんと施設の利用者の方が一緒にお作りになった本です。

この他にマルチメディアDAISY図書があります。それについてはこの後詳しくご報告がありますので、私の方からは省かせていただきます。

以上が、全部ではありませんがほとんど今手に入る本だというふうにとらえていただきたいと思います。しかし、ここに日本独特の状況が、この本の分野にはあります。それが、手作り絵本です。ボランティアさんたちの努力、これは障害のある子どもを持つ母親たちが始めたことではありましたが、手作りの本がこの分野を支えてきました。

手作り絵本は大まかに分けて4種類あります。さわる絵本と言われるもの。それから、布の絵本。この2冊、今、回した絵本というのは後で説明しますけれど、私たちがバリアフリー絵本展をやってきた中で非常に人気のあった手作り絵本です。それから、点字絵本、点訳絵本というものもあります。それからもう1種類、拡大写本ですね。

こうした手作り絵本は、絵本作りのプロの人たちから見れば、また学校、特に障害児教育の専門家の方たち、また本というものの選定に厳しい図書館の人たちからは非常に厳しい批判を受けてきて、そうすぐに、受け入れられたわけではありません。でも現実に出版されている本がない子どもたちなのですから、こうしたボランティアたちが作ってくれる本にたいへん読書の楽しみを支えられてきたのが日本の子どもたちの現状ではないかと思います。

ここからは、私どもJBBYが活動してきたことをお話させていただきます。大きく二つに分けて、一つは絵本展を開催してきました。もう一つは、先ほどボイエセンさんからのお話にもありましたOUTSTANDING BOOKの協力ということがあります。

まず、絵本展の方のお話をさせていただきます。

バリアフリー絵本展の開催

JBBYでは2002年からバリアフリー絵本展という呼び方で、こうした図書展を日本全国で合計65か所、開催してまいりました。まず2002年春に、おそらく日本で初めてであろうと思われる規模のバリアフリー絵本展を開催しました。先ほどの3つに分けた分類というのも、本を集めてみて、そして整理していったわけです。このときは約200冊を展示しました。この絵本展は国内のバリアフリー絵本のまず現状を知ってもらうための絵本展でした。開催者自身が、到着した本の箱を開けて、ああ、こういう絵本を初めて見ました、というところからの出発でした。一方で、初めてこのバリアフリー絵本展を巡回しながら、いろいろな現状や課題に出会っていきました。まず、新聞などの取材が非常に多いんですね。関心は高い。それから開催者は苦労をしないですぐに見つかってしまいました。特に最初のころは、現状を並べた絵本展ですので、当然、視覚障害の子どもたちの絵本が多いのですから、視覚障害児のための絵本展、手で見る絵本展というような報道のされ方をすることが多かった。見えない子どもにとって本がバリアがあるということは、日本の皆さんもよく理解してくれます。 ですけれども、聞こえない子どもたちや、理解の難しい子どもたち、読むことが難しい子どもたちにも本がバリアを持っているということには、なかなか目を向けていただけませんでした。

また、各会場では手作り絵本への関心、人気がとても高く、特に布の絵本は大人気でした。一方、会場の隅に本当にわずかに置かれる出版本の質・量ともの貧しさは明らかで、会場を訪れた皆さんは驚かれました。最初の方の2002年に回した国内の現状を整理したバリアフリー絵本展に関しては、こちらのホームページを見ると会場の様子などが出てきますので関心のある方はご覧ください。 http://www.h4.dion.ne.jp/~ehon/

また、困った問題というのもありました。私も最初からいろいろなことがわかっていたわけではないのですが、著作権の問題にぶちあたっていきました。手作り絵本などは既成の本を変換していますので、どんなことが起きるのか、DAISYだけでもいろいろな変換の際の変更はあると思いますが、布の絵本やさわる絵本にしてしまいますと、非常に大きな、特に絵の変更が起きるわけですね。今、回しますのは、むつき会というさわる絵本では日本では本当に一番くらいにきちんと活動なさってきた会で、ここは当初からきちんと作者、出版社に著作権許可の承諾を得て作られていますけれども、非常に作者さんからしたら絵の変換の大きいこうしたものに対しての著作権の問題というのは当然あります。また、手作り絵本の会同士での著作権の問題というのも、あちこちでのぶつかり合いが起きました。今、こうした布の絵本などの著作権に関しては、どういうふうに考えられているかというのは今日の配布資料の中に少し参考になるものを入れてありますので、ご覧いただければと思います。

世界のバリアフリー絵本展

バリアフリー図書というものを考えていく中で、知的障害の子どもたち、若者たちにふさわしい本がないという問題意識を、私自身が当初から強く持ってきました。それが、次にお話する「世界のバリアフリー絵本展」を国内で開催した大きな動機でした。IBBY障害児図書資料センターが推薦図書として各国に巡回する絵本展をぜひ日本でも開催したいと思ったのは、この視点がはっきりとある絵本展の内容だったからです。IBBY障害児図書資料センターは立ち上げのころより、つまり20年前から、視覚障害ばかりではなく知的障害や聴覚障害の子どもたちの本のバリアに気づき、それを取り除くアプローチを紹介し続けてきました。招聘した絵本展は、Best of Books for Young People with Disabilities. IBBY Jubilee Selection 2002という原タイトルですけれど、これを日本で「世界のバリアフリー絵本展」というタイトルで回しました。2年間で45か所、巡回しました。43タイトルあるのですが、1冊、1冊に非常にずっしりとした内容があります。

私がここで日本の社会にぜひ紹介したかったアプローチは、大きく言えば2つあります。手話や視覚言語というものをとり入れているアプローチ、それから知的障害のためのアプローチ。やさしく読める図書というもの、それからマルチメディアDAISY図書に、私は初めてこの絵本展を通じて出会うことができました。

やさしく読める図書についても、先ほどちょっと飯田さんの方から『赤いハイヒール』、これはやさしく読める図書ですけれども、説明がありましたが今詳しく述べている時間がありません。これについては、国際子ども図書館のホームページ、最後、この絵本展の最後が国会図書館、国立国際子ども図書館での開催を一つの締めとしたのですが、そこでやさしく読める図書のスウェーデンのセンター長さんを招聘しての講演会やシンポジウムをした、このホームページ、「展示会・イベント」というところをあけていただいて、「講演会の記録」というところをあけていただくと、「シンポジウム バリアフリー図書の普及を願って -図書館と一般の協働-」、ここに詳しい内容が出ております、ご関心のあります方はこちらの方を見ていただければと思います。
http://www.kodomo.go.jp/event/evt/bnum/event2005-6.html

これらの絵本展は、多くが日本の子どもの本を支える母親ボランティア、文庫の力、それから図書館の力で開催がなされていきました。そのほとんどが、一般の場所での開催でした。そして絵本展は絵本を展示するだけではなくて、その地域に人と人との交流、人のネットワークを作り出していきました。図書館では障害のある子どもたちの読書を考えることや、具体的な活動につなげることに努力してくださいました。お話会を特殊学級や養護学校で始めてくれたところ、さわる絵本や点字絵本の講習会を開いてくれたり、なによりもこうした図書を図書館で買って揃えてくれるようになったりしています。そうしたことがすごく重要なのだと実感しています。

今日も会場にたぶん何人か、開催者の方がきてくださっていると思います。

推薦図書の選考

次に、もう一つの私どもJBBYの推進活動として力を入れていることに、推薦図書の選考、OUTSTANDING BOOKをIBBYが各国支部に募って、その支部の国内から推薦図書を出してくださいという要請が隔年でくるんですね。今年も2007年度の国内推薦を終えたばかりで、後ろの方に展示してありますのが今年JBBYで選考した本です。JBBYはIBBY障害児図書資料センターのOUTSTANDING BOOKSの国内推薦にずっと協力してきました。そして今年、それから2年前、2005年度の推薦に関しては国内選考会を実施しました。この選考会は作品の優劣を競いたいと思っているわけではありません。製作やアプローチのアイディアを紹介したい、どの本もたくさんの人の思いと手間と知恵が作り上げたものですが、それが社会からなかなか省みられるチャンスはほとんどありません。少しでもこうした本を支えている方たちへの励ましになりたいと考えています。

また一方、そうされる方はもしかしたら望んではいないかも知れませんけれども、こうした図書の、作品の客観的な評価を受ける場というのはなかなかないんです。専門分野での分断により全体的な評議の場がない。マニュアルというのは作るべきだとは思いませんけれども、本を作りながら気づいてきたことを共有したり、課題の確認などはどこか第三機関がやっていかなければならないのではないか、そうしたことを自覚してJBBYの方でやってきています。

時間の関係で、皆さんのお手元にパワーポイントがいっているのですが、次の二つは一緒にお話をさせていただきたいと思います。現状と、そしてこれからということをちょっとまとめた形でお話をさせていただきます。

出版・普及の現状

まず、出版社というのは、私も最初は「どうして出版してくれないんですか?」って、とても出版社に文句がたくさんありましたけれども、出版社というのは儲からなければ出版はできないということは、もうよくわかりました。出版社をただ出して出してと責めていても、出版は進まないと思います。出版社個々の努力には限界があるのだと思います。新しい出版システムというものをやはり世の中が考えていかなければいけないのではないかと思います。

それから、「FOR」の本ですね、特に。「FOR」の本が普及が難しいのか。図書館の一般貸出や書店に並ぶことの困難さをどうして引き起こしているのかということを少しお話させていただきますと、たとえば図書館で司書さんたちが、どの本を今年買おうかな、と選書の際に、とても嫌がられる本が二つあるそうです。それはリング製本、点字がついているとリング製本になるのですがそういったリング本と、しかけ絵本ということです。リングというのはやはり壊れやすいということと、怪我をしますよね、もしちょっとこう、壊れていたりすると。そうしたことで避けられてしまう。

それから先ほど「チョキチョキチョッキン」のところで説明しましたけれど、図書館で本を納本するときに、今日は図書館のかたいらしているのであまり私がお話してもなんなのですが、表紙・奥付・背表紙という3点の情報が揃っている本でないと、とても書庫に置きづらいとうかがったことがあります。そういう意味で、背表紙にリング製本などだと情報が入りづらいのですね。

それから、さわる絵本のような仕掛け的なものが入っているものは、ご存じのように図書館はブックコートというのをかけてしまいますので、そうしたことがしづらいということからちょっと避けられてしまうことが多い。

それから、リハ協さんと一緒に、鴻池さんたちと一緒に『赤いハイヒール』を作って、この本こそマルチメディアDAISYがついているやさしく読める図書、日本としては初めてだった本なのですが、これを図書館にもぜひ置いてほしいと思って勢いづいて図書館の方にお願いしていったのですが、なかなかやはり置いていただけないのですね。これの困難さの一つは、書籍版とCD版が一緒にくっついている。この管理をどうするか、ということがあるそうです。そのことへのマニュアル、何か共通のものがあるというふうにはうかがっていないので、各図書館の裁量に任されているようです。書籍版は普通の本の方に置けても、CD版は別のところに置く。では郵送貸出のときにはどうするか。CDの方はDAISYですので無料で届けられるのだけれど、書籍版が付いてしまうと無料では送れない。さまざまな思いがけないことがあるそうです。

今日、春日井図書館の方はいらっしゃっていますか? そこの図書館の司書さんの裁量というか、やはりなにか届けたいという気持ちがあると、なにか手だてを見つけ出して貸出を実行してくださっているようです。

それから、まだまだこうした本に対しての社会的な認知は足りていないと思います。絵本展や、今日のようなこうした機会がまだまだ必要なのだと思います。こうした本の出版は社会の義務なのだ、本を楽しむことはすべての子どもたちの権利なのだということが、まだ十分認識されていないと思います。THE RIGHT BOOKなのだということをみんなで確認しましょう。

それから、図書館の役割は、購買に果たす役割としてたいへん大きなものがあるのではないかと思います。障害というのはとても多様なもので、一つの本を出版したからといってその本ですべての問題は解決しません。アプローチの紹介ということで図書館がその購入を引き受けて皆さんに公開を請け負っていく。ですから、図書館がその本を購入するということになっていきますと、出版社の方も購買というものの確保につながって出版されやすくなっていくのではないでしょうか。初版が三千とか四千だったら、図書館の購買が確立していくと、それくらいは、初版くらいは売れるのではないかというふうに思っているのですけれども、そのへんはまた後のシンポジウムでもご意見をうかがわせていただければと思います。

それから、その図書館までまずこうした情報がいっていないという現状もあるようです。取次業者のところまで情報がいかない。先ほど私たちはこういう本をバリアフリー図書と呼んできましたと言いましたが、検索用語とかですね、なにかそうしたことの整備をしていく必要があると思います。

それから、こうした本の分野は出版社だけが頑張ったり図書館が頑張ったりということではなくて、各分野が連携していく、特に地域のボランティア、子育ての力などと連携していくことが非常に大きなヒントになっていくのではないかと思っています。

地域ボランティアと図書館の連携というのはけっこうありまして、大阪府立中央図書館さんと視覚障害児のための文庫活動の「わんぱく文庫」の連携、これは一般書架での点字図書、点字絵本の一般開架での貸出を実現して、しかもそこに必ずわんぱく文庫さんが子どもと本をつなぐ役割として入り込んでいて、そこがともに生きる場になっています。

練馬区立図書館、今日は練馬区の方で活躍なさっている「さくらんぼ」さんという布の絵本の会の方もお見えになっていただいていますけれど、練馬区ではそうした布の絵本を頑張って作ってこられているグループのおかげで、1984年から布の絵本が一般貸出されています。多くの図書館で今、布の絵本の貸出が始まっていますが、やはり限られた貸出になっているのですね。どの人にも貸していただける体制をとっている場所として、練馬区は少ないところだと思います。それから、大阪の市内の図書館では、点訳絵本を同じように一般開架で、同じように普通の貸出体制になっています。まだ数は少ないのですが、そうした地域ボランティアとの連携された図書館サービスというのもあります。

私はこの絵本展をさっき、お母さんたちの力でたくさん開催していただいたと言いましたけれど、制度や規則というのは固い固い壁なのですが、きっとそれを破ることができるのは親の愛情ではないかと思っています。こうした各地のお母さんたちの底力の持つ可能性は、私は絵本展の巡回で確かに感じてきました。

同じようにボランティアだけではなくて、こうした本をとりまくいろいろな分野の連携協力というのは不可欠だと思います。さわる絵や絵文字などは、アートの分野ではとても面白いものが開発されています。また、障害児教育の中では教材としては非常に驚くべき数の作品が生み出されています。図書館と出版界の連携、教育と出版界の連携、地域のボランティアと図書館の連携、そうした連携がバリアフル、図書のバリアをバリアフリーにしていくキーではないかと感じています。それには分野を越えて人と人とがつながってネットワークができていくことが何より必要なことだと思います。今日、この日がその実証ではないかと思うのは、私がリハ協さんと出会ったのも、今日この後お話してくださる山内さんと出会ったのも、この絵本展を通じて出会いました。こうして人と人とがつながることで、今日こうした場を設けることができたのだと思います。

それから、難しい分野ではありますが、日本でもこうした本の出版に公的な補助、支援を求めていくことも忘れてはいけないと思います。声は出し続けていかなければならないと思います。

そしてなによりも、ともに生きる社会というものがこうした本を生み出していくし、こうした本があることがともに生きる社会をまた生み出していくと思います。

最後に、IBBYの願いをもう一回皆さんにお伝えして私のお話を終えたいと思います。

IBBYは、1953年、ドイツの第2次世界大戦後の混乱の中で一人のユダヤ人ジャーナリスト、イエラ・レップマンが「子どもたちに食料だけではなく心の栄養を」、「子どもの本を通じての国際理解が世界平和を構築して、人類の未来を開いていく」と願って、世界各国に子どもの本を通じての国際理解の会議開催と、自国の子どもの本の送付を呼びかけて設立されました。

このイエラ・レップマンが構想して、ドイツの有名な児童作家のケストナーが作った絵本が『動物会議』という絵本です。この本を紹介して終わりたいと思います。

何度も会議を繰り返しても一向に平和のためにどうしたらいいのか決められない人間の大人に業を煮やして、動物たちが会議を開きます。そして動物たちは駄目な親から親の権利を剥奪して、世界中の子どもたちは忽然と親の前から消えてしまいます。大人たちは驚いて動物会議が提案する条約に署名をします。

その条約というのは、すべての国境をなくそう。国境があるから戦争が起きるんだ、という主張です。国境というのは人間が線を引くことでできます。障害児者ということも、連続線で存在する人間の状態の、ある箇所に線を引いて、ここから先は障害者だね、ということです。その線をなくすことを、IBBYは子どもの本を通じてしていきたいと願い続けています。戦争も差別も、人は努力してそれと向き合って、なくすことにはひとりひとりのこころの闘いも必要です。人は学習し続けなければ、平和や、ともに生きる社会を作ってはいけないのだと思います。本は国境を越えて、文化の違いを越えて、人種や障害を越えて、人々に理解の種をまき続けるられるものだと思います。読書の権利が、楽しみが、すべての子どもたちに等しく届けられますことを、一人の大人としてこれからも願い続けていきたいと思っています。

今日はこういった機会を与えていただきまして、ありがとうございました。