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国際セミナー報告書
インクルーシブな障害者雇用の現在-ソーシャル・ファームの新しい流れ

【講演1】「欧州のソーシャル・ファームの現状と評価」

ゲーロルド・シュワルツ
 前国際移住機関経済開発局プログラムマネージャー
 社会起業コンサルタント

講演要旨

ヨーロッパのソーシャル・ファームは20年以上にわたり、障害のある人々と労働市場において不利な立場にある人々のために正規雇用を創出してきた。ヨーロッパのソーシャル・ファームは合計3,900社、雇用数は96,000件、そのうち43,000件は障害のある人々が対象と推定されるが、このことは重大な意義を持ち、ソーシャル・ファームと社会的協同組合が、最も弱い立場にある疎外されている人々のために、正規雇用を創出する大きな可能性を秘めていることを明確に示すものである。

今回は2011年のソーシャル・ファームに関する欧州調査の結果に基づき、話を進める。第一部では、最新のデータをまとめ、ソーシャル・ファーム・モデルを成功させる重要な要素について、特別な設立条件、法的枠組み及び公的支援プログラム、現在確立されている支援機構及びネットワークを中心に検討する。第二部では、ヨーロッパでソーシャル・ファームのインパクト評価に使用されている最も適切な方法を取り上げる。これらはおもに、社会的投資収益率(SROI)を使用する方法のバリエーションで、公共投資への財務リターンの算出が可能であるが、ほかにもヨーロッパ全土で使用されている方法がある。最近の動向と、ソーシャル・ファーム・セクターの成長をさらに促進する新たなモデルについては、普及しつつあるソーシャル・フランチャイズの概念を中心に第三部で論じる。ソーシャル・フランチャイズ方式により、これまでにソーシャル・エンタープライズ内で約13,000件の雇用が創出されたが、その一部は新規のソーシャル・ファームにおける雇用であった。

最後に、どのようにしてヨーロッパのソーシャル・ファームと日本が、より密接な連携関係を築くことができるか、また、情報交換や相互学習、共同開発のさらなる促進から利益を得られるかを検討し、締めくくる。

講演

今回は来日6回目でありまして、毎回来るたびにソーシャル・ファームがここ日本でどのような展開をしているのか興味深く学んでおります。ソーシャルファームジャパンも発足し、いい形で進展していることをとてもうれしく思っているところです。後ほどお話ししますけれども、もう少し我々と密に連携するには何を考えればいいのか、最後の方で触れたいと思います。

スライド1
スライド1 (スライド1の内容)

スライド2
スライド2 (スライド2の内容)

本日は、まず少し、我々が行いました昨年の調査結果をご紹介したいと思います。昨年、東京で開催された会議では、同僚とともに現在のソーシャル・ファームをめぐるヨーロッパ全体でのデータをまとめましたので、それを紹介しました。この場でも少し紹介したいと思います。その後で、評価及びインパクト分析のお話をいたします。ソーシャル・ファームはヨーロッパでは30年くらいの歴史がありますけれども、一体その効果や成功や地域の障害のある人々への影響は何であるのかを評価することはますます重要になってきています。したがって我々が使っているモデルについてもいくつかご紹介します。

また、最近のヨーロッパにおけるソーシャル・ファームの状況がメイントピックになりますが、それをお話しした上で、もう少し具体的にヨーロッパと日本の連携を進めるためには何ができるのかを考えてみたいと思います。お互い定期的に会って話をしたりシンポジウムを開催したりして意見を交わしている中で、お互いに学ぶことは興味深いわけですが、しかしもう少しお互いに具体的にできることがあるのではないかと考えています。

それでは始めましょう。

スライド3
スライド3 (スライド3の内容)

この表は現在のソーシャル・ファームの数を示しています。ちょっとギャップもあります。なぜかと言うと実はヨーロッパではすべての国でソーシャル・ファームのデータが系統立って収集されているわけではないという状況があります。イタリア、ドイツ、英国ではいいデータベースがそろっています。ポーランド、ギリシャは少しあります。しかしこういった国々はほとんどのソーシャル・ファームが活動しているところでありまして、モデルが最も発展しているところと言っていいと思います。代表的と言っていいと思いますが、しかしこれは最低限の数字でありまして、もっとある可能性があります。なかなかデータを収集するのが難しい状況です。

ご覧いただくように全体で大体4,000くらいになっています。社会的協同組合も含みます。そして9万6,000名ほどが雇用されている。そして半分くらいが重度障害の人たちです。重度ということが重要です。なぜかと言うと、ソーシャル・ファームにはいろいろな法律、規則といったものが歴史的にありまして、なかなか普通には雇用を民間部門で得ることができない人たちを対象にするということが重要です。炭谷さんがソーシャル・ファームが何であるのか先ほどご説明になりましたので、あまり私の方から追加で話すことはありませんが、ヨーロッパでは欧州のソーシャル・ファーム・ネットワークにおきまして、定義を出しています。バーナード・ジェイコブさんが後ほど話をされると思いますが、4,000ほどのソーシャル・ファームは実体のある企業で、主に立ち上げの際には国の支援を受けている可能性があります。例えばドイツでは最初の3年間、政府からの補助なども得て立ち上げることができます。しかしその後は市場で製品・サービスを売り、その収益で独立していくことが求められます。この4,000ほどのソーシャル・ファームが中核をなしています。もちろんそれ以外にも何万という雇用関連プロジェクトがあります。すなわち訓練を提供したり、あるいはパートタイムでの雇用の機会を提供したりしています。またはいろいろな形で職業的な活動を就業が不利な人たちに提供しています。

4,000ほどのソーシャル・ファームでは、十分利益を上げて事業が継続していけるように一生懸命働くことが求められ、政府からの補助は限られています。

平均的な売上は大体100万ユーロくらい。日本円で1億円くらいでしょうか。それがドイツやその他の国の平均です。市場で商取引をしてそれだけ収益を得ています。

どのようなセクターで活動しているかというと、炭谷さんが少し話をされましたが大体同じようなものです。ほとんどがサービス関連の仕事に従事しています。これは我々自身の決定ではなく、投資資本へのアクセスの問題です。ソーシャル・ファームで生産設備に非常にお金がかかるようなものは少ないです。ベルリンには例えばシーメンス、サムソンなどと協力して集積回路などを作っているところもあります。そして銀行からお金を借りて必要な設備を購入しているところもありますけれども、むしろそれは例外と言えます。従って、ソーシャル・ファームは例えばケータリングであるとか公的なデリバリーサービス、公園やガーデン場等のメンテナンス、あるいは清掃活動等に従事しているものが多いです。この10年くらいの間は他のセクター、例えば観光業にも展開してきていますし、ホテル、接客、ベルリンでは50件くらいをソーシャル・ファームが運営しています。レストラン等などいろいろなセクターがあります。

スライド4
スライド4 (スライド4の内容)

少し法的な枠組みについてお話をしますが、30年くらいたちまして多くのロビー活動が行われ、政府を説得してきたことで、政府自身も雇用を作り出すモデルとしてとらえています。そして今、EU7カ国において法律が存在しています。これはソーシャル・ファームを支援するやり方等を規定している法律です。法律の共通の特徴としましては、もちろんここに示すように最低水準を決めているわけです。どのようなターゲットグループを対象にするのか、政府の支援が必要ならばどのようなグループがターゲットとなるのか、そういったものの最低水準として決めています。

ソーシャル・ファームは、今は法律上、重度の障害者を雇用することを要件づけられています。他の場所では就労できる可能性がない人たちを中心に雇用するということです。また最低雇用率はイタリア、ドイツでは40%となっていまして、ソーシャル・ファームでは40%が最低でも障害を持っている人、あるいは他の就職困難者でなければいけないということです。

ソーシャル・ファームは公的な支援も受けています。後ほど詳しく話をしたいと思います。

スライド5
スライド5 (スライド5の内容)

我々がこの調査をした頃、ソーシャル・ファームのマネージャーや支援組織とも話をして、これまでの間、成功を後押しした主要の要素というのは何であったのかということを振り返って見る必要があるのではないかということになりました。

それには三つの分野があります。公的な支援、立ち上げ状況、そして支援機構の三つです。それぞれについて話をしていきたいと思います。

スライド6
スライド6 (スライド6の内容)

まず公的支援ですけれども、これは法律に関連しています。法律がある国においてはきっちりと組織立った形で運営されています。ソーシャル・ファームは、今ではこのような法律があって直接的なサポートがありますけれども、少なくとも10年くらいの間は日本と同じ状況だったかもしれません。炭谷さんがおっしゃいましたようにソーシャル・ファームに特化したファンドは存在しませんでした。ソーシャル・ファームはしかし自らクリエイティブに展開してきました。今でもクリエイティブにやっていまして、いろいろな資金を活用しています。例えば障害を持つ人たち、不利な立場にある人たちの職業的な統合支援するものなどが活用されています。イタリア、ドイツ、英国では民間企業は例えば障害を持つ人たちを訓練して雇用した場合には助成金を得ることもできるということもあります。ソーシャル・ファームは必要な資金を立ち上げ時に得ることができます。どのような資金があるのかを見回しまして、そして適切と思われるものを有利に活用していくという方法でこれまでやってきました。もちろん最初はとても複雑な状況でした。例えば国などから民間向けの資金を得ようとしますと、役所にも説得をし、そして資金を得るようにするわけですけれども、なかなか許可が下りないということもありました。

減税というものあり、これは重要です。ドイツ、イタリアの法律によりますと、ソーシャル・ファームは最低雇用率を満たせば利益にかかる税を免除されます。そして付加価値税が半分で済むということで、こういったところで競争的な優位が得られるということです。

そしてソーシャル・ファームのIPO(新規株式公開)に関してですが、ドイツではソーシャル・ファームは非営利ベースではありますけれども、法的に株主構成を持つことができます。非営利のステータスで株式を持っています。まだ、一つか二つ(のソーシャル・ファーム)ですが。このようなアイデアが始まったばかりです。取引できる株を持ち、非営利の立場で減税を受けることができます。興味深いモデルです。

また、もう一つ公的支援として重要なことは、新しい規制が公共調達に関して導入されています。最初にイタリアで始まりまして、多くのヨーロッパの国々と違いまして、立ち上げ時の投資はあまりなかったわけですけれども、しかしイタリアでは公的支援がかなり早くから始まり、地域の公的事業体と話をし、そして(社会的協同組合が)公的なサービスを提供する。例えば、数年前イタリアの同僚も話をされましたけれども、これが本当に社会的協同組合の重要なビジネスモデルになりました。ジェノバでは25ほどの社会的協同組合からなるコンソーシアムがあり、ここがジェノバ市と契約を結んでいます。例えば、学校への食べ物のデリバリー、公共の駐車場の運営、地域に代わってビーチの清掃、あるいはジェノバ二大博物館のカスタマーサービスなどです。これらは公的サービスの契約です。イタリアの法律ではソーシャル・ファームや社会的協同組合がこれらの契約の申請をしますと、民間企業よりも多少有利な条件を得ることができます。入札のプロセスにおきまして単にサービスを供給するだけでなく、同じレベルであれば質的にも価格的にも競争力がなければいけない。さらに、不利な状況にある人たちを雇用しているという社会的なインパクトがあり、契約を受注する確率が高いということです。

このような事例がとても重要になりまして、2000年頃、欧州委員会が指令を出しました。EUの加盟国に対して、いわゆる公共調達の条項を盛り込むようにという指令を出しました。このことは大変重要視され、ドイツもこれを採用しましたし、ほかのEU加盟国も次々とこの公共調達に対する条項を採用しました。

スライド7
スライド7 (スライド7の内容)

なぜこのようにたくさんのソーシャル・ファームがヨーロッパにあって、成功を収めているのかということですが、それを理解するために重要なのは、どういう形でソーシャル・ファームが立ち上げられたかということです。私の同僚はドイツのソーシャル・ファームの組織の代表をしていますけれども、政府に対してこのモデルが有効だということを証明するためにいろいろな調査を実施しました。ソーシャル・ファームの立ち上げ後に失敗したのは10箇所のうち1つだったということもわかりました。ソーシャル・ファームとして立ち上げ3年後は、10箇所のうち1つしか閉鎖に至っていないということです。3年間もたなかったものが10に1です。企業の場合と比較すると、ヨーロッパでは50%です。すなわち立ち上げられた中小企業の50%は3年後には残っていないということになるわけです。

どうしてこんなに大きな差が生まれたのでしょうか。理解しなければいけない大事な点としては、4,000ものソーシャル・ファームが完全に独立した事業として立ち上げられたということではないのです。誰かが自分の敷地で空いているところで、スペースがあるからやろうと勝手に一人でやったということではないわけです。ほとんどのソーシャル・ファームというのは大規模な包括組織による設立という形をとっています。ここにいらっしゃる方々の多くはいろんな関連組織にいらっしゃる方だと思いますが、ソーシャル・ファームの多くは包括組織による設立として作られていました。ほとんどの場合はNPOとして障害者や就労に困難な人たちを支援するような組織がまずあるわけです。例えばベルリンで1978年にできたNGOがありまして、障害者に対して住宅の支援や職業訓練を行い、そしてその後、その人たちの雇用を探さなければいけなかったのですが見つかりませんでした。そこで思いついたのは、我々が職場を作ろう、自分たちで会社を作ってこの人たちに働いてもらおうということになりました。そういう包括組織がまずあって、そのもとでソーシャル・ファームが作られるようになりました。

これが大事なポイントだと思います。ソーシャル・ファームの立ち上げの背景は重要で、正しい仕組みをまず持っておくことが必要です。

その後、独立した事業にしていくことが大事な点です。常に包括組織の傘のもとに置いておくのではなく、いずれかの段階で独立しなければならないのです。長期的な展望で見れば、今ソーシャル・ファームを運営している多くの組織の仕組みは、ソーシャル・ファームが利益を上げていくと、その利益を望めば包括組織に再投資することができます。社会的協同組合やソーシャル・ファームのコンソーシアムがあり、利益が上がっている組織があれば、利益が上がっていない組織もあります。利益が上がっているところは他の社会的目的のために再投資することができます。

スライド8
スライド8 (スライド8の内容)

では、支援の仕組みについて少しお話をしたいと思います。ソーシャルファームジャパンのように、ヨーロッパではさまざまなソーシャル・ファームを支援する目的の組織があります。とても早い段階からこのような組織がありました。そして非常に複雑で専門化した組織に発展していきました。支援組織はさまざまなレベルでの支援を提供します。例えばソーシャル・ファームをイタリア、UK、ドイツ、ベルギーで立ち上げたいという場合には、ソーシャル・ファームの支援組織の事務所があって、そこに行って自分のビジネスのアイデアについてアドバイスを求めるとか、どうやって人を雇うか、どういう仕組みにすればいいかという具体的な支援を得ることができます。これは普通の企業を立ち上げる時にサポートを受けるのと同じで、ソーシャル・ファームに対する知識や歴史などに熟知した人がやってくれます。私の同僚もそういう仕事をしています。まずビジネスプランを検討します。もちろん財務の計算、製品のマーケティング戦略など普通のビジネスコンサルタントがやるのと同じことをします。しかしその中に公的支援はどういう形で入れるのかとか、就労に困難のあるスタッフの研修・訓練のニーズを分析し、さらに障害関連の問題を職場でどのように克服すればいいのかというようなアドバイスを提供します。これは最初の段階、特に立ち上げ段階で重要です。こうした支援を求められる場所があるというのが大変役に立ちます。

次に、戦略的なビジネス支援と呼ばれている支援があります。ソーシャル・ファームの支援組織はソーシャル・ファームに対してより高いレベルでの支援も提供します。これは企業の業界団体のような仕組みと似ています。ソーシャル・ファームの団体が、ある特定の研究やマーケティングや税制面に関する研修セミナーを開く。それぞれのソーシャル・ファームが抱えている問題をもう少しみんなで取り組めるような場を提供します。それから、ネットワーキングという仕組みもあります。年次総会やワークショップ、セミナー、そしてソーシャル・ファームの知名度を上げるためのいろいろなイベントを行ったりします。

そしてアイデアの交流、国と国との協力など、ヨーロッパですともう随分前から欧州委員会から支援を得て、さらにこのモデルをヨーロッパのいろいろな国々で展開していくような支援を得ることができました。これも我々にとってとても役に立ち、重要なことでした。

スライド9
スライド9 (スライド9の内容)

主な特徴ということで、これは先ほどいくつか申し上げましたが、後でまた触れますけれども、評価及びインパクト分析、これが重要な点です。これを一つのトピックとして今日の発表の準備の中に盛り込んでいますが、ソーシャル・ファームを発展させる中で評価及びインパクト分析は重要でした。詳しくは申し上げませんが、そのやり方であるとか、結果をどのように使っていったかということも重要です。いろいろな方法が使用されましたが、そのいくつかをご説明したいと思います。

スライド10
スライド10 (スライド10の内容)

まず一つ、インパクトの測定の仕方。つまりソーシャル・ファームが成功しているかどうか。それが成功しているということを証明することによって政府や寄付をしようとしている人から資金を得られる。できるだけ具体的なデータや数字で証拠を示していくことが必要です。SROI(社会投資収益率)を使っています。これは企業において投資収益を計算するときに使っているもので、一つの規準になります。詳細についてお話はしませんけれども、いくつか具体例を出したいと思います。

スライド11
スライド11 (スライド11の内容)

まず普通の企業と同じようにソーシャル・ファームとしては財務報告を定期的にしなければなりません。収支報告というものを作らなければいけないわけです。経営者として検討しなければいけない。法律でも毎年報告をすることが義務づけられていますから、投資額やその収支はどうなっているかということを説明しなければならないのです。

スライド12
スライド12 (スライド12の内容)

さらにヨーロッパでは社会関連の投資がソーシャル・ファームになされたときに、その社会投資収益率を示さなければならないことになっています。

スライド13
スライド13 (スライド13の内容)

その結果をいくつかここに出しています。公的な資金援助に対してこのような数字を示すことが必要です。例えばドイツで1万ユーロの資本でソーシャル・ファームが立ち上げられたとします。それに加えて最初の3年間は給与に対する資金援助も得られます。最初の1年が80%、2年目が70%、3年目が60%という形で、それだけの資金援助が得られます。それを全部計算し、そして3年後に結果がどうなったかを見ていきます。まず最初に我々が公的資金を得て支援した人たちがまだ仕事に就いていられるかどうかを見ることが必要です。職業関連のさまざまなプログラムを展開した結果、どうなったかを見る必要があります。そして同時に財政面での収益が上がったかを計算する必要があります。ここでは1人当たり1年間に平均いくらが得ているかを計算し、そしてその人が税金を投入してソーシャル・ファームで仕事をしたことによってどういうお金を生み出したかを計算しています。

スライド14
スライド14 (スライド14の内容)

スライド15
スライド15 (スライド15の内容)

ここでご覧になっているのは、とてもシンプルな計算で、1人のために入ってくるお金、そしてその人が国に戻したお金です。ソーシャル・ファームで働くことによって国に返すお金というのはどういう意味かというと、通常の雇用契約で人が働いている場合、例えばいろいろな税金も払ったりします。そして間接税も払わなければなりません。比較的シンプルな方法を採用しているのですが、ドイツではこの手法が非常に成功しています。政府は明快でシンプルでわかりやすい、人に伝えやすい結果やデータを求めますから。こういう計算方式を導入したことによって、政府はソーシャル・ファームに対して大いに関心を示すようになりましたし、またソーシャル・ファームへの政府が投資をすることによって、どのようにプラスの効果が生まれているかがわかってもらえるようになりました。

投資収益率の計算と社会投資収益率の計算方法というのは、多くの組織で現在ヨーロッパで採用されている計算方式です。もし関心のある方がいらっしゃるならば見ていただけると思うんですけれども、この分野についてヨーロッパと日本で協力もできるのではないかと思います。

スライド16
スライド16 (スライド16の内容)

次は、非常に幅広いソーシャル・エンタープライズ部門についての最近のヨーロッパの動向をお話しします。

一番重要なポイントですが、30年前にEUの障害を持つ人たちに職業へのインテグレーションのためのファンドができました。30年の間、欧州連合からソーシャル・ファームやソーシャル・エンタープライズに特化した資金はありませんでした。しかし利用できるファンドはいろいろありました。しかし初めて欧州委員会が、ソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ファームはとても重要で、十分に発達したモデルであり、このモデルに特化した形で一定の資金を投じることは意味があると考え始めました。そこでEUとして来年8,000万ユーロをソーシャル・エンタープライズ・モデルに投資をしてその活動をさらに発展させようという取り組みがあります。ヨーロッパではとても重要なことです。各国の法律がありますけれども、しかし欧州委員会の側からも各国の状況というものを均一化していく取り組みが見られています。例えば、ソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ファームが各国でどのように資金を得ているのかというあり方を見ますと、複雑で、しかも各国それぞれ状況が違います。したがってEUでは、こういった資金調達の好事例をうまくいってない国やヨーロッパにどう展開していくことができるのかを見ることができます。それは大きなトピックです。そして、それによりソーシャル・エンタープライズ、ソーシャル・ファームに対する人々の認識を高めることができます。特にヨーロッパは今、財政危機の状態です。そんな中でビジネスのやり方も変えようとしています。ソーシャル・エンタープライズは現在の財政危機の対応として代替的なモデルとしてとらえられているわけです。だからこそこのモデルに対する意識向上のためにより幅広く資金を投じられようとしているということです。

スライド17
スライド17 (スライド17の内容)

来年、欧州委員会はこのイニシアティブについて法制度に目を向けていこうとしています。各国異なる法制度がありますので、それをもう少し調和を持たせていこうということで、必要があれば改善していこうという動きがあります。法律が非常に先進的な国もあれば、南欧、中欧はもう少し先進的な欧州諸国から学ぶことができます。欧州委員会やEUの機関がベストプラクティスを発掘し、それを広めていこうという考え方です。我々はこのことはとてもいいことだと考えています。8,000万ユーロというのは巨額だと思われるかもわかりません。実際そうではないと思いますけれども、嬉しく思います。

もう一つ申し上げたいのは、ソーシャル・ファームや社会的協同組合の統合的な効果をお話したいと思います。ソーシャル・ファームで仕事をすることの効果は何なのか。例えば失業している状態、あるいは民間企業で働いていることと比較してどうなのかということです。もともとこのモデルは資本主義経済において非常に冷たい民間企業の代替策として生まれてきました。資本主義のもとで仕事をしていると搾取され、どんどん健康状態や精神状態が悪くなるという受け止め方がありました。しかし、現在ではそうではなく、そのようなことを言う人はいません。民間企業もかなり理念が変わってきたと思います。しかしソーシャル・ファームでは民間企業とは違った形で一緒に働く方法を模索しようという考え方です。通常の民間企業で仕事ができない人たちに働く場所を提供しようということです。

10年前、ドイツ政府の委託を受け、障害者のインテグレーションプログラムについてソーシャル・ファームと民間企業の比較調査をしたことがあります。そのときにボッシュに部品を納めている企業の調査をしました。ここでは精神的な障害のある人たち雇用をしています。面接調査をしてみたところ、同僚には精神的な障害があるということを知られたくないと言っていました。このプログラムはこんなふうに始まったのです。例えば精神的な障害があれば居心地が悪く、職場ではどうしても隠そうとしてしまいストレスがたまります。ソーシャル・ファームのシンプルさは、もちろん重度の障害がある人たちは自分たちの話をすることができるということです。もちろん仕事が中心ですからおしゃべりはしている暇はないかもわかりませんけれども、隠す必要はないわけです。これはとても大事なことです。

また、他にもいろいろな利点がありました。ソーシャル・ファームで仕事をすることは健康向上にもつながるということがわかりました。それを我々は明確に政府に伝えました。本当にしっかりとした調査研究ではありませんでしたが。現在、ドイツでは同僚たちがそういった調査を開始しました。私は結果をとても楽しみにしています。ソーシャル・ファームで仕事をすることにおけるモチベーションは何なのか、民間企業で働くよりもモチベーションは高いのか、エンパワーメントはどうなのかということに興味があります。民間企業の場合にはこのようなことを評価する尺度が発達していますので、ドイツのソーシャル・ファームでも同じような尺度を利用して評価し、民間企業と比較などをしています。

社会改革ついてはあまり話をしませんが、後ほどフィリーダさんがふれるかもしれません。

スライド18
スライド18 (スライド18の内容)

ソーシャル・フランチャイズ方式について少しお話をします。なぜなら、日本とヨーロッパの協力にも関係しているからです。ソーシャル・フランチャイズ方式というのはシンプルです。成功しているソーシャル・ファームがあれば、同じビジネスを他の場所で展開したいときに広げていくということで、例えばイタリアのトリエステのホテルが最初のとっかかりとなったという経緯もあります。ホテル運営の最低水準を設け、どのように清掃するのか、カスタマーサービスをどのようにするか、マニュアルを作成し、ヨーロッパに展開していく。もう一つの例はドイツのスーパーマーケットのチェーン店です。大手進出で閉鎖に追い込まれている中小規模のスーパーマーケットを引き継ぎ、大手には競争力では勝てませんが、利益を上げる形で運営をしています。このようなモデルはますます重要で、ソーシャル・ファームセクターが大きく伸びる要因にもなっています。

数年前にヨーロッパ・ソーシャル・フランチャイジング・ネットワークができました。ヨーロッパに60のソーシャル・フランチャイズがあるということで、日本でもこういったネットワークにご興味があるのではと思います。日本の状況に合ったものも生まれるのではないかと思います。スーパーマーケットはかなりの投資金額が必要ですからわかりませんが。しかし例えば英国のグループでは、環境に優しい洗車の方法、顧客のガレージにやってきて環境に優しい形で洗車してくれるというようなビジネスもあります。こういった興味深いモデルを検討することによって、さらに連携を深めていくことができるのではないかと思います。

このネットワークは3ヶ月ほど前にワルシャワで会議を開催しました。このネットワークは現在60のソーシャル・フランチャイズが加盟し、そして1万3,000人を超える従業員が雇用されているということが発表されました。この数はソーシャル・ファームだけでなく、ソーシャル・エンタープライズまで広げた数ですが、多くはソーシャル・ファームでした。障害を持った人たちが雇用されてうまく機能しているということを意味しています。

昨年東京でのシンポジウムに、スウェーデンからル・マットというホテルのマネージャーもいらっしゃっていました。ル・マットはイタリアで始まったのですが、ネットワークを展開し、パッケージツアー、ホテル、観光業等でイタリア、スウェーデン、ドイツ、クロアチアがこのネットワークに参加しております。さらにネットワークは広がっています。

このたびはビッグ・アイに宿泊させていただきまして、すべての設備がとてもアクセシブルで感銘を受けました。やはりアクセス可能なツーリズムということを行っていらっしゃいますので連携可能なのではないかと思いました。

スライド19
スライド19 (スライド19の内容)

この発表を今回準備したときに、今回で来日が6回目になり、今までソーシャル・ファームの歴史であるとかモデルについて話をしましたので、今回はもう少しEUと日本の連携を考えてみたいと考えました。

今まで日本の方々といろいろ意見交換をして大変有益でした。ただそれだけではなくて、もっといろいろできるのではと思っています。日本のアイデアを学び、今度は具体的に協力ができる分野がどんどん出てきていると思います。

スライド20
スライド20 (スライド20の内容)

最後に日本とEUの連携についてのアイデアですが、後ほどディスカッションのときにさらに膨らませてお話ができればと思いますが、例えば、できるだけ少ないリソースで何ができるかということを考えても、いろいろなことができるのではないかと思います。昨日、東京で意見交換会がありまして、ソーシャル・ファームのマネージャーたちの研修の機会が必要だという話が出ました。これは日本、ドイツ、イタリア、スウェーデンどこでも共通の課題だと思います。最初はNPOとして社会的に仕事をしているところが、例えばソーシャル・ファームを立ち上げる場合、いろいろなものが必要になりますがそのうちの一つが良いマネージャーを持つことです。研修についてはヨーロッパでも長い歴史があります。非常に細かい、そして包括的な研修カリキュラムを作ってきました。適切な人材開発については連携できる領域ではないかと思っています。

それからもう一つは、私たちがさまざま違う環境にいるわけで、日本もヨーロッパも環境が違うわけです。その中で資金を出してくる人たちへの投資を促すためのロビー活動も重要です。これは環境が違う中でも方法やアイデアを共有できると思います。例えば社会的投資収益率という方法を私たちは財務のリターンを計算するに当たって使いましたけれども、もし日本の方が関心があれば連携できる領域だと思いますし、モデルを一緒に発展させていくこともできるでしょう。こうした議論をする過程において、さまざまなアイデアも生まれてくるでしょうし、評価方法をさらによくしていくことができる。私たちはこれを20年やっていますけれども、いろんなことを人と話をするとさらに新しい切り口を皆さんと見いだせるかもしれません。これが情報交流の興味深いおもしろい部分だと思います。

私は、ソーシャル・イノベーションに関する論文を今年の初めに書いていました。ヨーロッパではソーシャル・イノベーションについて関心も高まってきました。ソーシャル・イノベーションとは主に公共サービスをより新しいクリエイティブな形で提供するというものです。30年の歴史はありますけれども、ソーシャル・ファームそのものがそういう意味ではイノベーションだと言えます。そしてそれをさらに一歩前に進めて、社会経済的にソーシャル・ファームを見たときに、新製品あるいはサービスのイノベーションともつながってくるということだと思います。それゆえ、困難もあります。例えば製品やサービスとしてソーシャル・ファームが提供しているものは、それなりに非常にうまくはいっているんですけれども、通常の製品とあまり変わらない。ソーシャル・ファームから非常に革新的な製品というのはなかなか生まれていないわけです。そういうものを開発するということも連携の一つとしてできるのではないでしょうか。

新製品とか新しいサービスの開発。新しいものと言っても、例えば日本にあるようなもの、例えば緑茶など日本にはあってもヨーロッパではあまりないようなもの、それをヨーロッパの市場に持ってくるとか。または娘のためにピンクの羽根のついたユニコーンのおもちゃを日本で買おうと思い、東京中探したんですけれども、そうしたものはなかった。小さな子どもたちはピンクの羽根のついたユニコーンが大好きなんですが、日本ではそれは見つからなかった。ですから一つの地域のトレンドがあったら、それを別の地域・国に持っていく。こういうものがありますよということを別のところに伝えることによって、それが一つのチャンスとなって、全く同じものでなくても少しバリエーションを加えたものを他の市場に導入するということもできるのではないでしょうか。日本ではどういう製品をソーシャル・ファームが出しているのか、どういうサービスがあるか。そしてヨーロッパではどうかということでお互いに比較して、結果としてさらに一歩進んでお互いにどこかで協力できないかということも模索できると思います。

スライド21
スライド21 (スライド21の内容)

私の話は以上です。後ほどディスカッションの時間にまた質疑の場が設けられていますので、大変楽しみにしております。皆さまのご意見もぜひ伺いたいと思っています。ありがとうございました。