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国際セミナー報告書
インクルーシブな障害者雇用の現在-ソーシャル・ファームの新しい流れ

【講演2】「オランダとベルギーのソーシャル・ファームの動向」

バーナード・ジェイコブ
 保健ガイダンス地域間協会の戦略マネージャー兼コーディネーター
 ベルギー保健省メンタルヘルスケア改革プロジェクトマネージャー兼全国コーディネーター

講演要旨

非政府機関のソーシャル・ファーム・ヨーロッパCEFECによれば、ソーシャル・ファームとは、障害のある人々、あるいは労働市場において不利な立場にある人々を雇用するために作られたビジネスである。

ソーシャル・ファームは、その社会的使命を遂行するために、市場志向の商品の製造やサービスの提供を行うビジネスである。(収入の50%以上は商取引から得なければならない。)

ソーシャル・ファームの従業員の相当数(最低30%)が、障害のある人々、あるいはその他の労働市場において不利な立場にある人々である。

各労働者は、各自の生産能力にかかわらず、仕事内容に応じ、市場の相場に従って賃金または給料を支給される。

労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場にはない従業員とに、平等に与えられなければならない。すべての従業員は、雇用に関して同等の権利と義務を持つ。

今回の講演の目的は、この定義を踏まえ、オランダとベルギーにおけるソーシャル・エンタープライズの具体的な状況を分析することである。

オランダでは、ソーシャル・エンタープライズまたはソーシャル・ファームは、経済的目標と社会的目標をともに掲げる企業で、従業員の少なくとも35%は障害のある人々、またはその他の不利な立場にある人々である。ソーシャル・ファームは経済的に自立しており、他の企業と同様に、持続性と市場で優位に立つことを目指している。また、その特異な職員構成から、障害のある従業員と障害のない従業員の社会的統合も目標とされる。前述の35%という数字は、厳守すべき値ではなく、ガイドラインである。しかし、障害のある従業員が企業内で相当数を占めていることが重要である。

ベルギーでは、ソーシャル・エコノミーが議論の的となっている。ソーシャル・エコノミーとは、主として協同組合及び/または社会的目的を掲げている企業、非営利団体、共済組合、財団などが営む、商品の製造やサービスの提供を行う経済活動と理解されている。その倫理的価値観は、以下の原則に現れている。すなわち、利益の追求よりも、地域社会と地域の人々へのサービスの提供を最終目標とすること、自立した経営、民主的かつ参加型の経営、収入の分配において、資本よりも人と労働を優先することである。

講演では、これらの企業が経済的目標だけでなく、社会的目標も掲げていることを再確認し、実際に、経済的利益と社会的利益は両立できることも述べる。

また、起業スキルの開発、政府との関係、法律と規制、経営と人事方針などの課題を明らかにする。

さらに、オランダの「全国農業ケア支援局(the Landelijk Steunpunt Landbouw & Zorg)」やベルギーの「割引券制度」などのグッドプラクティスも紹介する。

最後に、メンタルヘルス予防、社会貢献活動、労働市場への統合、心理社会的リハビリテーション及びソーシャル・エコノミーなどにかかわる世界的なネットワークである「ガイダンス・アンド・へルス地域連携協会(Inter-Regional Association for Guidance and Health)」を開発したベルギーの特別なモデルを紹介する。

講演

スライド1
スライド1 (スライド1の内容)

スライド2
スライド2 (スライド2の内容)

ご紹介いただきありがとうございます。今日このシンポジウムに出席できることをとても名誉に思っております。初めて日本にまいりました。このように革新的な発想をもって日本の体制を改革しようというご姿勢に対して心から敬意を払いたいと思います。

ベルギーで私はこの3年間特別な任務をもってベルギーの保健省に仕事をしてまいりました。メンタルヘルスと精神医療の分野の大変革を起こそうということになりました。まずは数年で精神病院をすべて閉鎖することになりました。これは喜ばしいことです。というのはこのプロセスの中で重要事項として精神障害のある方々、あるいはコミュニティで問題を抱えた方々を社会にインクルージョンしていき、そして新たな雇用においてインテグレーションしていこうという試みが始まりました。従いまして、ソーシャル・ファームのような新しい取り組みの話ができますことは、私にとりましてはとても嬉しいことであります。

スライド3
スライド3 (スライド3の内容)

さて、私は今日、オランダとベルギーで行われている新しい実践についてお話をしたいと思います。まずは歴史から始めたいと思います。ソーシャル・ファーム・ヨーロッパCEFECというネットワークが結成されました。ネットワークが提案したソーシャル・ファームの定義をお話し、それからオランダにおいてのソーシャル・エンタープライズの話、そしてベルギーというのは政治的に難しい国ですが、ベルギーにおけるソーシャル・エコノミーのお話、さらにベルギーの一つの地域についてお話をしたいと思います。ベルギーのフランス語圏になるワロン地域においてのソーシャル・エコノミーのお話をしたいと思います。そして具体例として、私はベルギーの大きなNGOのディレクターをしていたわけですが、リエージュという小さい町で同僚とソーシャル・ファームを設立した事例をお話ししたいと思います。

スライド4
スライド4 (スライド4の内容)

スライド5
スライド5 (スライド5の内容)

ヨーロッパのソーシャル・ファームについてシュワルツさんから先ほどお話がありました。シュワルツさんはソーシャル・ファームのパイオニアの一人であります。イギリス、イタリア、ギリシャ、それからドイツでも同じような試みがなされています。80年代の終わりに私たちも最初のソーシャル・ファームのネットワークをヨーロッパで結成しようということになりました。ソーシャル・ファーム・ヨーロッパCEFECという名前です。ソーシャル・ファームのネットワークを作るということだけではなく、新しいやり方で不利な条件を労働市場で抱えている人たちへの雇用も創出していく新たな方法を試そうということになったのです。EUの15の加盟国の会員を集めましてネットワークは作業を始めました。

スライド6
スライド6 (スライド6の内容)

スライド7
スライド7 (スライド7の内容)

まずヨーロッパ各国が使えるようなソーシャル・ファームの定義を作ることにしました。EU各国間で法律、経済情勢、政治の立場も違うということで簡単ではありませんでした。ヨーロッパにおいて社会的な法律が存在しているのは、当時7つでした。話し合いをして、ひとつのグローバルな定義を作りました。ソーシャル・ファームは障害のある人々、あるいは労働市場で不利な立場にある人々を雇用するために作られたビジネスであるという定義です。重要なのは、ソーシャル・ファームは一つのビジネスであるということです。そして、ソーシャル・ファームはその社会的使命を追求するために市場指向の商品の製造やサービスの提供を行うビジネスで、収入の50%以上は商取引から得なくてはならないということです。そして、ソーシャル・ファームの従業員の最低30%は障害のある人々、あるいは労働市場においてその他の不利な条件を持っている人々であるというふうに定義しました。

CEFECというネットワークの運動は、いろいろな国の精神障害、例えばイタリアの協同組合というのも運動として起こり、イタリアも70年代の終わりに精神病棟が閉鎖されました。今回のネットワークに参加した人々もそのような背景を持った人たちがたくさん参加していたわけです。

定義をさらに続けます。各労働者は、各自の生産能力にかかわらず、仕事内容に応じ、市場の相場に従って賃金または給料を支給されるという定義にしています。最後の点ですが、労働の機会は、不利な立場にある従業員と、不利な立場にはない従業員とに、平等に与えられなければならず、すべての従業員は、雇用に関して同等の権利と義務を持つという定義です。

精神障害のある人が、例えば数年後にはソーシャル・ファームのマネージャーになるということは特別なことに聞こえますが、現実としてそのような可能性もあるのです。このようなことも考えてこの定義に入れました。このように全般的な定義についての合意が得られました。

しかし、具体的な細かい状況というのは国によって違います。そして国によって実践・適用の方法も当然違います。

スライド8
スライド8 (スライド8の内容)

私は例として、オランダのソーシャル・エンタープライズの話をしたいと思います。ソーシャル・エンタープライズと申し上げましたが、オランダにおいてはソーシャル・ファームとソーシャル・エンタープライズは同じです。この二つをオランダでは特に区別していません。

スライド9
スライド9 (スライド9の内容)

ソーシャル・エンタープライズというのは経済的目標と社会的目標をともに持った企業だというふうにオランダでは定義しています。そして先ほどのソーシャル・ファームの定義と同じように従業員の少なくとも35%は障害のある人々あるいはその他の不利な条件を持った人々というふうに定義しています。また、経済的に自立しているということ。そしてその他のどのような企業とも同じように継続性と市場においての収益性を目的にしています。そして障害のあるなしにかかわらず従業員を社会的に統合していくということを目指しています。

今、35%というパーセンテージを挙げましたが、これは厳格な数字ではなく一つのガイドラインです。けれども障害を持った従業員もその会社を構成しているということが重要なわけです。

スライド10
スライド10 (スライド10の内容)

このような定義に基づいて、現在オランダ国内では、経済と社会という二つの目的を持ったソーシャル・エンタープライズが270社存在しています。

スライド11
スライド11 (スライド11の内容)

スライド12
スライド12 (スライド12の内容)

このような企業は、経済的目標だけではなく社会的目標も持っています。従業員は障害のある人々、あるいはこれまで長期にわたって失業していた人、あるいはホームレスの人々などを対象にしています。実際、この経済目標と社会目標は両立が可能です。

スライド13
スライド13 (スライド13の内容)

ソーシャル・エンタープライズにはこのように二つの目標があるわけです。まず一方には自社の利益を上げてリスクに対して適切に対応し、持続性と収益性を追求するということ。もう一つの目標は、労働市場で不利な条件を抱えていた従業員とともに協力して社会的目標の実現に注力するということです。

スライド14
スライド14 (スライド14の内容)

オランダにおいては現在、ソーシャル・エンタープライズを支援したり促進するという具体的な政策はありませんが、徐々に開発が進められていますし、特に地方自治体ではそのような姿勢が見られます。現在、いくつかの地方自治体ではソーシャル・エンタープライズを促進させるビジョン、あるいは政策を持っています。

二つ例を挙げることができます。一つはヘンチェルという名前の町です。ここではソーシャル・エコノミーというのを2006年から2010年にかけての計画の目標の一つにしており、スローガンとして結束することによって存在感が高まるということを考えています。それからもう一つはアムステルダムにある町です。ここではソーシャル・エンタープライズが抱える経済と社会というハイブリッドの状況を支えていこうという姿勢を明確にしました。もっとソーシャル・エンタープライズをアムステルダムに増やしていこうとしています。

スライド15
スライド15 (スライド15の内容)

ソーシャル・エンタープライズやソーシャル・エンタープライズを始めるときには企業を立ち上げるときと同じようにいろいろな課題もあります。例えば適切なスペースを探すこと。そして、さまざまな起業に関わるスキルを発展させることも重要です。これは後ほど話をいたします。法的な要件に適応しなければいけませんし、行政とのリンクもまた重要なことです。そして、非常に難しいことは資金を調達しなければいけないということです。

スライド16
スライド16 (スライド16の内容)

しかし、経済目標と社会目標の両方があるのでさらに課題があるのです。例えば立ち上げ時の資金を獲得しなければいけませんし、経営技能を持ち社会的な意識も高い優れた経営陣を探さなければいけません。また、行政との良い連携も必要です。例えば被雇用者給付制度機構UWV(Institute for employment insurances)などの社会サービスとの連携が必要です。

特にソーシャル・エンタープライズで重要なことは、事業としてやっていくためのスタッフのリクルートと研修です。例えば精神障害のある人は、(一般の企業では)職を失うリスクは高いです。特定のグループにおける作業の生産性については不確実性が伴うものです。ですので、このような方々に適した形で働いていただく、雇用の機会を提供することはとても重要だと思います。

ソーシャル・エンタープライズには社会サービスを受けていたり、あるいは法的に保護されている従業員が多く働いています。そこで国の法律、規則も透明性と柔軟性が求められます。特別にビジネスを立ち上げるためには銀行そして行政に新しい事業立ち上げの支援を求めなければいけません。また、経営陣と人事方針も重要になります。二つの目標を抱えていることによって複雑になるからです。しっかりとした方針が必要です。さらに、三つの目標を抱える場合もあります。利益を出すこと。雇用に不利な方々に仕事を提供すること。社会的インテグレーションを提供することです。

そこで、政府の行政の支援がとても重要になります。そしてロビー活動を行うための強力なネットワークが必要です。シュワルツさんもおっしゃいましたように、この新しいシステムを積極的に推進していきながら、新しい形で障害を持った人たちとの仕事のあり方を考えていくことが必要です。

欧州でも当初は同じ状況でした。いろいろなネットワークがパイオニアの人たちによって作られて発展してきたわけです。

スライド17
スライド17 (スライド17の内容)

もちろん難しさが伴うのもソーシャル・エンタープライズです。まず労働の可動性ということですけれども、ソーシャル・エンタープライズのインタビューをしてみますと難しい点として挙げられます。一時的に雇用されているということ、また労働力の利用可能性が限定されている、ウエイティングリストがあるというようなことがあります。

また、持続性というのも課題の一つです。スタッフの継続性の問題があります。ヨーロッパでも例えば特定のプロジェクトのために雇われた人たちが、そのプロジェクトが終わってしまうともうそこで働けなくなってしまう。そして企業の方も経験のある人たちを失い、人々も失職するということです。そうしますと自信をなくしてしまって雇用市場でなおさら不利な状況に置かれるという悪循環になります。この問題は特にソーシャル・ファームの初期の段階でヨーロッパにおいて見られた状況です。

もう一つ難しいところは、競争力ということを挙げることができます。例えばソーシャル・ファームがしていることと同じ分野で再統合ビジネスがあったとして、クライアントがそれに対してお金を支払う必要がなければ、やはりそちらが選ばれてしまうでしょう。ですからパートナーシップを組むことが解決方法になります。

スライド18
スライド18 (スライド18の内容)

オランダでの好事例をご紹介したいと思います。フラマン語でThe Landelijk Steunpunt Landbouw & Zorgと言いますが、全国農業ケア支援局というものです。ここでは農業とケアを結びつけてビジネスとして成り立たせています。これは非常にユニークな組織です。福祉農園というものです。これは他の国にとっても例として採用できるかもしれません。この会員になりますと保険会社からも保険料を割引され、品質認証制度などもあります。そして政府に対しロビー活動をした結果、売上税を免除されています。障害のある人たちや労働市場で不利にある人たち、精神的疾患の人たち、ホームレスの方々が従事することができるということで、オランダにはこのような農園が100以上あります。

スライド19
スライド19 (スライド19の内容)

それではここでベルギーの状況を見てみましょう。説明したとおりベルギーというのは政治的にちょっと難しい国です。スイスのように徐々に連邦化してきました。例えば、メンタルヘルスの分野で何かを決定する際には7人の大臣がそれを所管しているという重複がありますので難しいところがあります。

スライド20
スライド20 (スライド20の内容)

ベルギーではソーシャル・ファームではなくソーシャル・エコノミーという考え方を採用することにしました。そしてソーシャル・エコノミーとソーシャル・エンタープライズは五つの原則を重視することとしました。まず第一は資本よりも労働を優先することです。二つ目は自立した経営です。三つ目は利益の追求ではなく地域の人々や地域社会へのサービスの提供が主な目的であること。また、民主的な意思決定プロセスを持つこと。そして環境に関しては持続可能な開発を中心とすること。これが重視する五つの原則です。

スライド21
スライド21 (スライド21の内容)

ここでワロン地域におけるソーシャル・エコノミーについてご説明します。ワロン地域というのはベルギーにおける三つの地域の一つです。ベルギーの国レベルで何が起きているのかを説明するのは難しさがあります。なぜなら、経済も文化も、北と南で違うからです。そしてソーシャル・エコノミーは地域ごとに特性があるからです。

スライド22
スライド22 (スライド22の内容)

ワロン地域はわずか350万人の人口で皆さんにとってはほとんど問題にもならない小さな地域でしょう。しかしベルギーは人口1,100万人の国ですから350万人というのは大きな意味を持っています。

スライド23
スライド23 (スライド23の内容)

ワロン地域のソーシャル・エコノミーの定義は、主として経済活動、すなわち商品の製造やサービスの提供を行う経済活動と理解されています。その主体となるのは協同組合及び社会的目的を抱えている企業、非営利団体、共済組合、財団などでありまして、その倫理的価値観は以下の原則に表れています。

スライド24
スライド24 (スライド24の内容)

まず第一に利益の追求よりも地域社会と地域の人々へのサービスの提供を最終目標とすること。二つ目は自立した経営。そして三つ目は民主的かつ参加型の経営。四番目は収入の分配において資本より人と労働を優先すること。

この定義は法律の中にうたわれている定義です。何かを発展させたい場合には法律が必要です。法律なくしてはなかなか新しい運動として受け止め推進していくことはできないと思います。

スライド25
スライド25 (スライド25の内容)

この定義はすべていろいろな事業者が関わっています。そこでまずご紹介するのが統合事業者です。このシステムはどのようなレベルで構成されているかと言いますと、企業内訓練支援会社、社会・職業的統合機関、社会的企業、そして適用労働企業といったさまざまなレベルがあります。経済活動を行っている統合事業者、すなわち協同組合もありますし特定部門、例えばリサイクル、家事代行サービスの事業者などもあります。そしてソーシャル・エコノミーの開発事業者、コンサルティング機関あるいは代替融資機関などがあります。

スライド26
スライド26 (スライド26の内容)

まず、統合事業者についてお話します。

スライド27
スライド27 (スライド27の内容)

これは社会職業的統合機関及び企業内訓練支援会社から成っています。そして法律もあります。2004年の法令がありますので、ベルギーでも比較的新しいものだということがおわかりいただけると思います。事業者との契約、助成に関する法律があります。

スライド28
スライド28 (スライド28の内容)

一般的な目標をここに掲げています。社会職業的統合機関及び企業内訓練支援会社の一般的な目的としては、まず受益者の社会職業的統合への準備を図ること。また職業訓練及び雇用へのアクセスにおいて受益者の機会均等化促進の支援を行うこと。そして各受益者が労働市場で直面する困難を踏まえて訓練事業者との連携に基づく統合的アプローチによる就労経路の最適化を図ることです。

スライド29
スライド29 (スライド29の内容)

我々はグローバルな形で可能性を不利な条件を置かれている人たちに提供したい。そして仕事の場を与える助けをしたいということで、単にソーシャル・エンタープライズということだけでなく、本当に就労できるような経路の最適化を図っていくということに重きを置いています。

このような企業におきましては全般的な目的としては、すべての事業に対して研修の機会を提供するということが重要になってきます。そして個人、さらに団体としての拘束や束縛からの解放ということも重要です。

スライド30
スライド30 (スライド30の内容)

使命ですが、各受益者がプロとしての態度と技術を身につけられるよう支援し、そして職業訓練能力を開発できるようにする。そして質の高い職業訓練を受けられるようになって、最終的には労働市場に参入できるようになるということ。そのために特別な事業もやっていきます。

スライド31
スライド31 (スライド31の内容)

自己の能力の評価結果を理解させるということも重要でありますし、また自己の職業計画を社会的に実行し、社会的な関係を構築できるようにし、社会的自立を促すということです。

スライド32
スライド32 (スライド32の内容)

2010年の時点でワロン地域には89の社会職業的統合機関がありました。そして1万2,300名以上の研修生を受け入れていたという実績です。さらに、企業内訓練支援会社としては72社、研修生の数は4,400名強という実績です。

スライド33
スライド33 (スライド33の内容)

もう一つのモデルがあります。適応労働企業というふうに呼んでおり、これも法令に基づいています。

スライド34
スライド34 (スライド34の内容)

2002年、ワロン地域政府が出した法令です。

スライド35
スライド35 (スライド35の内容)

この適用労働企業の主たる目的はここに書いてあるとおりです。障害のある人々の能力の最大限の発揮、継続的な職業訓練、職場環境の改善、適用労働企業内での昇進を可能にする評価プロセス、あるいは通常の職場環境における統合を確保すること。通常の職場環境に統合できるような状況を目指すということです。

スライド36
スライド36 (スライド36の内容)

この適用労働企業はまさに経済性と社会性の両方を持つ存在で、障害のある人々自身の利益につながっていくように、この二つが両立するということが重要です。

適応労働企業ですが、他の社会的企業よりも政府からの助成金が少なく、そして徐々に通常の市場において自立して活動することが期待されます。

スライド37
スライド37 (スライド37の内容)

ワロン地域においては2010年末の段階で58社の適応労働企業が存在していました。障害のある労働者7,000名が雇用されていたという実績です。これは平均で言いますと1社当たり120名の障害のある労働者が雇用されていたという実績になります。

スライド38
スライド38 (スライド38の内容)

スライド39
スライド39 (スライド39の内容)

スライド40
スライド40 (スライド40の内容)

このように徐々に統合が進んでいきますと、統合企業というのが次の段階に現れます。ソーシャル・ファームという名前では呼んでおりませんが、その使命というのはソーシャル・ファームの使命と類似しています。

この統合企業という段階にある企業というのは、社会的目的を宣言してはいるけれども、他の企業と同じような義務や困難、あるいは課題を持った企業で統合と経済という二つの領域の境界に位置しています。この企業においての雇用というのはもう職業訓練の域を超えたもの、そして一般企業においての見習い制度の域に達していて、収益の追求という制約を伴います。

スライド41
スライド41 (スライド41の内容)

2010年の段階でワロン地方には170社の統合企業が存在していました。2,500名の正社員が雇用されていたという実績でした。

スライド42
スライド42 (スライド42の内容)

以上、いろんな種類のソーシャル・エンタープライズを紹介しましたが、障害あるいはその他の種類の不利な条件を抱えた人々の雇用の機会として様々な受け皿があります。実際に研修の段階を進めますと、例えば最後の統合企業では本当に正社員として仕事をする、あるいは適応労働企業で仕事をするということが可能になります。シュワルツさんがおっしゃったように、福祉的就労からソーシャル・ファームなどいわゆる企業に近い状況の中で、障害のある労働者が統合されて働けるというようになってきました。

スライド43
スライド43 (スライド43の内容)

昨年導入された制度ですが、割引券制度というのがあります。皆さんに似たようなシステムがあるのかどうかわかりませんけれども、これも雇用創出をサービス部門において促進するところが目的です。すなわち個人はさまざまなサービス、例えば清掃サービスあるいは屋外サービス、例えば買い物などのサービスを受けたいとき、例えば私がそういったサービスを受けたいときに割引券を購入します。そしてそれを用いて障害を持つ人たちに仕事をしてもらう、買い物をしてもらう、庭を手入れしてもらう際に使います。興味深いことは、割引券は1枚21ユーロ程度で、公認サービス提供者に対して21ユーロ支払われます。しかし私が払わなくてはいけない負担額は7ユーロで、連邦政府が差額を支払ってくれるのです。

これにより、多くのソーシャル・ファームがその恩恵を受け、従業員たちが仕事をする場が得られる。ベルギーでは多くの経営者たちが障害を持つ人たちのために新しい仕事をどんどん作り出そうとするわけですけれども、それと同時にビジネスを立ち上げ、発展させるリスクはできるだけ最小限に抑えたいという希望があります。私の過去の経験で言いますと、ソーシャル・ファームをこのように実践した経験があります。

スライド44
スライド44 (スライド44の内容)

それでは次にもう一つの事例をお話しいたします。同じくベルギーの同じ地域ですが、これはガイダンス・アンド・ヘルス地域連携協会というNGOで、私はディレクターを務めています。かなり規模の大きいNGOです。

スライド45
スライド45 (スライド45の内容)

60年代から活動を始めました。60年代、私はまだここにおりませんでした。もっと後から加わりましたが、大きなネットワークです。様々な異なるサービスユニットを組織化しています。合計約700名の従業員を抱えています。そしてここで重要なことは、地方自治体と強い結びつきを持っているということです。地方自治体はそれぞれこのNGOの理事会に役員を送り込みます。それがビジネスを立ち上げる際に役に立ちます。まずは福祉活動から始まり、そしてそれをビジネスに発展させていくというものです。コミュニティケアのサービス組織で、毎年約1万5,000人の利用者や研修生がいます。

スライド46
スライド46 (スライド46の内容)

いろいろな活動をやっています。福祉活動、ヘルスケア、社会事業、社会的雇用、様々な予防活動、安全保安活動、そしてソーシャル・エコノミーも含まれます。

スライド47
スライド47 (スライド47の内容)

これまでかなりメンタルヘルスサービスを手がけてきました。大手の機関の外でリハビリテーションプログラムなども行ってきました。研修プログラムも行ってきました。

スライド48
スライド48 (スライド48の内容)

そして長期住宅供給ネットワークなど地域において様々な社会活動を行ってきました。

スライド49
スライド49 (スライド49の内容)

また、様々な職業訓練センターを特定の障害用に用意し、政府にも認められています。

スライド50
スライド50 (スライド50の内容)

例えばコミュニティキッチンの職業訓練センター、コンピューターグラフィクス、観光、語学、園芸、公園・庭園などに関わる部門、そして建物関連、イベント関連の運営、いろいろな知識が実は能力として構築され蓄積されています。それは福祉制度の中におけるものが主体となっています。地方自治体、市町村、そして公共社会福祉センターとも連携しております。

スライド51
スライド51 (スライド51の内容)

若者たちのための障害予防、アルコール依存症や軽犯罪の防止プログラムなどを運営しています。また、子どもたち、思春期の青少年たち、成人の人たちをも対象にしているということもありまして、非常に優れたネットワークが既にあります。

スライド52
スライド52 (スライド52の内容)

スライド53
スライド53 (スライド53の内容)

福祉制度として最初は補助金などで運営されていきます。あるとき我々は新しいモデルを模索していました。さまざまな困難に直面している人たちをどのように統合していけばいいのかということ。例えば精神的な障害、疾患を持っている人たち、障害を持っている人たち、ホームレスの人たち、いろいろな人たちが対象になるわけですけれども、ジョブコーチング、その他革新的なものを探していました。そしてある日、すべての人たちを訓練し職を提供するのは難しいということがわかったので、ある程度リスクをとって、そして本当のビジネスを立ち上げてみようと考えるようになったわけです。確かにこれは私自身にとっても難しいことでした。しかし、NGOのディレクター、ソーシャルワーカー、そして心理学の専門家にとって、今こそ跳躍の時期だと。そして新しい形での支援を提供し、また特定の人たちをターゲットとして職を提供すべきだと、それを手がけなければいけないと思うようになりました。

スライド54
スライド54 (スライド54の内容)

最初は政府から支援を受けており、ビジネスマンのことは知りませんでした。市場において活動することの難しさについてもあまり知りませんでした。しかし、やってみました。5年後に三つのソーシャル・ファームができ、そしてご覧いただくように100名くらいの人たちがフルタイムで給与を支払われている。そしてもちろん我々が知識を持っている分野、そして活動を既にやってきた、訓練を提供し得た、例えば清掃や庭園管理、公園管理、家事代行、ビール製造なども手がけてきましたが、しかし福祉制度から入ってきた人たちにとっては、ビジネスという現実の中で飛躍の機会を与えられます。

もちろんリスクはとらなければいけません。一般原則としてソーシャル・ファームを立ち上げる際の課題はもちろんあります。例えばいいマネージャー、経営者を選び、有能なスタッフを揃え、そして能力のある人たちを訓練してソーシャル・ファームで仕事をしてもらう。ソーシャル・ファームで雇用されている人たちの訓練をきっちりと継続性をもってやっていくということの重要性もあります。研修は続けなければいけません。ソーシャル・ファームは単独で仕事ができるわけではなく、もっと大きなシステムの一部です。そこにはさまざまな可能性が数多く存在するわけで、最終的には本当のビジネス活動に近いところにまで到達することができます。ビジネスで収益を得ることができます。もちろん我々がやっていることは、得た恩恵をNGOに戻して活用するということです。例えば建物を買って改修して、障害を持つ人たちのためのアパートに変換します。我々がビジネスで得た利益をNGOに再度戻し、そしてそれを活用していくということによってみんなを満足させることができるのではないかと思います。もちろんこれは一つの例です。

ここで発表を終えるに当たって、革新的であるためには、シュワルツさんもおっしゃいましたように、決して容易なことではなく、プロジェクトを選定するという作業も決して易しいわけではありません。事業として何がおもしろいかというのもわかりません。ベルギーというのはビール製造でもとても有名な国の一つです。多分、皆がガレージでこっそりとビールを作っているんじゃないかなと思います。皆が作っているがために900以上もの異なるビールがベルギーには存在すると言われます。ビールをいろいろ試すこともできます。そこで我々も決めたんです。ビールを作ろうと。ただNGOとしては人を助けたい、アルコール依存症の人たちの助けにもなりたいと思ってやってきましたので、同僚を説得してこのビジネスをやろうと納得してもらうのは難しかったんですけれども、やり遂げました。

そこで三つのビールを作りました。アルコール濃度もバラバラですが三種類作りました。いいビジネスです。成功しています。これは通常のビジネスだからです。あるビジネスを、例えば不利な状況にある人たちと立ち上げる際に、皆同じような方向でものを考えがちです。例えばメンタルヘルスの問題を考えている人たちは農業に従事しなければいけないとか、清掃に従事しなければいけないと思いがちですけれども、それだけではないでしょう。シュワルツさんもおっしゃいましたように、良い活動やプロジェクトができるはずです。そしてレベルの高い製品を作ることができるはずです。そしてビール製造しているエコディパールというソーシャル・ファームは、とても成功しています。

日本ではそういったものをまだ目にしていません。もしかすると可能性はあるかもしれません。交流を進めていくことができるんじゃないでしょうか。日本もベルギーと同じようにビールがお好きな方は多いですよね。ですからそこからワロン地域と日本との間で交流を始めてはいかがでしょうか。

ご清聴に感謝いたします。

スライド55
スライド55 (スライド55の内容)