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CBR公開研究会in名古屋「CBRマトリックスを使って考える」報告書

プレゼンテーション2
「日本の状況をCBRマトリックスで見てみよう。」

発表②:渡辺 ゆりか(一般社団法人草の根ささえあいプロジェクト代表理事)

上野 一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトの代表理事をされています渡辺ゆりかさんをお迎えいたします。

渡辺 皆さん、こんにちは。一般社団法人草の根ささえあいプロジェクトで代表理事を務めています渡辺と申します。どうぞよろしくお願いいたします。1週間ほど前に不覚にも風邪をひいてしまい、かなりの鼻声でお聞き苦しいかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。

草の根ささえあいプロジェクトは法人化して1年少しの新しい団体です。戸枝さんのような地域に根差した取り組みというのはまだまだこれからというところですが、今日はCBRマトリックスを使って、私たちの試行錯誤のチャレンジを発表したいと思います。どうぞお付き合いいただければと思います。

草の根ささえあいプロジェクトの概要

私たちは平成23年4月23日に任意団体として発足しました。去年の4月27日に一般社団法人となりました。本当にまだ生まれたての新しい団体です。名古屋市内に小さな事務所を構えて活動しています。

メンバーは様々です。例えば障害のある人の施設で働いていたり、行政の母子家庭の相談窓口にいたり、ホームレスの支援など、支援の仕事を持った者が出来ることを持ち寄って、仕事以外のところで、貧困、暴力、自殺など、あらゆる悩みや困難を抱えて孤立に陥っている人たちを何とか応援しようということで活動しています。

メンバーは86人です。写真(写真1)を見ていただくとすごく楽しそうで、なんだか順調そうに見えるのですが、実は私たち悶々としています。世の中には福祉サービスというものがありますが、その制度と制度の狭間で、誰の助けや応援も届かず、複数の困りごとを抱えている方がいらっしゃいます。それらの方を自分たちの支援現場や近所、地域の中でどのように支えていくのか。その答えがわからずに、悶々と勉強会を始めたところからこの活動はスタートしました。

(写真1)
写真1(写真1の内容)

「穴にいる人」

私は5年前に起業支援ネットの主催する起業の学校を卒業しました。そして2010年に戸枝さんが開催されたふわりんクルージョンというイベントで湯浅誠さんと出会いました。私たちが日々考えていた、制度と制度の狭間にいて誰の応援の手も届かない人たちのことを、湯浅さんは「穴にいる人」と表現し、「穴にいる人」のことを考える分科会をされていました。私はその分科会に参加し、これは分科会で終わらせてしまうのではなく、継続して考えていきたいということで皆さんに呼びかけて始まったのが「穴を見つける会」です。草の根ささえあいプロジェクトはこの「穴を見つける会」からスタートしています。ですので、先ほどご登壇された戸枝さんとファシリテーターをされていた起業支援ネットの鈴木さんは、草の根ささえあいプロジェクトの生みの親ということになります。それもあって緊張しながら話をさせていただいています。

ふわりんクルージョンの分科会では、湯浅さんが「穴にいる人」というのはどんな人かを書き出すワークをしたのですが、その時にはじめはみんな書くことができませんでした。皆さんは思い浮かぶでしょうか。ワークラベルを書くのに戸惑っていた時に、湯浅さんは「じゃあわかりました、質問を変えます。あなたたちの身の回りに、わかってるんだけど仕方がないと放置されている人はいませんか」とおっしゃられました。そうすると支援現場のメンバーは次々と書き出していきました。あの人のこと、この人のことということで、具体的な人物が浮かんできたのです。

自分のところのサービスでは彼らの困りごとを全部解決できず放置してしまっている人、あるいは来てもらってもなかなかコミュニケーションが取りづらく、すぐ怒って帰ってしまう人。そうしたちょっと面倒だねといわれているような人たちのことを私たちはわかっているのに、仕方ないと言ってしまっている。その「わかっているんだけど仕方がないよね」という言葉を言わずにいこう、言わなくて済む方法をみんなで摸索しようということで、今も日々試行錯誤しているところです。

草の根ささえあいプロジェクトの事業

草の根ささえあいプロジェクトの事業を紹介します。「寄り添いホットライン」は、24時間365日の何でも電話相談です。今日も動いています。「今から死にます」というお電話があったり、「30円しかお金がないのですが明日からどうやって暮らしていけばいいですか」、という相談があったり、「入れ歯がないのだけどどこにあるか知りませんか」、というお電話があったりします。悩み事は様々ですが、共通しているのは、皆さん孤立しているということです。入れ歯がないという方も、入れ歯をなくしたということを寄り添いホットラインにしか言えないからお電話をしている訳です。日常で困難を抱えながら、それがケアされず、一人ぼっちで解決の手立てが見つからないという人からお電話をいただいています。

「子ども・若者総合相談センター」は先月6月25日に名古屋市の委託を受けてオープンしました。貧困に陥っていくプロセスの中で、誰にも手立てを打ってもらえなかった人たちに対し、もっと早期にアプローチしたい。不登校や引きこもり、あるいは家庭内で暴力が始まる前に相談してもらおう、ということで活動しています。

「寄り添いホットライン」、「子ども・若者総合相談センター」はいずれも問題解決型の事業です。お電話を聞いて終わるのではなく、困っている方々を地域の支援機関につなげ直すという役割を担っています。

社会で孤立している方は、社会資源が見つからないような多様で複雑な困りごとを抱えていたり、あるいはいろいろな人に無視され続けてきた結果、そうしたものを頼るのは嫌だということでなかなか制度に乗ってくれません。そうした制度に乗らなかった人たちを、地域の支援者のできることの持ち寄りで、重複した困り事を複数の支援者のネットワークで解決しようというのが「インフォーマルネットワーク」です。

そこでも解決できないような「穴」に対しては、「猫の手バンク」という困りごとささえあいバンクで対応しています。これは制度に乗らない身近な生活面での困りごとをご本人の生活圏まで出向いて、同行訪問する取り組みです。例えば部屋が散らかり過ぎてごみ屋敷になって困っていると言われれば、一緒にお掃除をします。単身で入院するんだけど誰もお見舞いに来てくれないと言われれば、ちゃんとお見舞いに行きます。そういうような寄り添い支援をしています。

CBRマトリックスと「猫の手バンク」

今から私たちがメインでやっていて一番特徴的な「猫の手バンク」を、CBRマトリックスに当てはめてみたらどうなるのかということをご覧いただきたいと思います。皆さんのお手元にご自身の事業や取り組みについて書いてみようというCBRマトリックスの用紙があるかと思いますが、自分ならどうするだろうかと考えながら聞いていただけると嬉しいです。

私たちは「猫の手バンク」でできていることを書き出してみたところ、あ然とするほど少ないことがわかりました(図1)。アドボカシーとコミュニケーション、パーソナル・アシスタント、スキル開発の3つしか埋まらないのです。私たちはパーソナル・アシスタントは大前提だと考えています。ご本人の困りごとを中心として、ご本人を主体として、そこに出向いて行くということをしています。そうすると、ご本人は制度に乗ること、乗らないこと、様々な困りごとを語ってくれます。

(図1)
図1(図1の内容)

ただ、私たちのもとに相談に来る方は、先ほどもお伝えしたように、孤立が長い方が多いですので、社会とコミュニケーションを取るのがあまり上手ではありません。なので、私たちはそうしたコミュニケーションの仲介役をしています。ご本人の困りごとも一緒に仲介します。その困りごとは自分のせいではなく、こういう特性からきているので、こういう支援機関を頼るといいというようなことをお伝えし、コミュニケーションによって社会とつなげる役割をしています。その中で私たちが何気なく身につけている日常のやり取りをスキルとして開発しています。この3つをやっているだけだというのが、CBRマトリックスをやってみてすごく面白かったところです。

パーソナル・アシスタントとしてご本人のおうちに出向いて行き、ご本人の困りごとをお聞きするということは、ご本人を中心にして支援をアレンジするので、たくさんの社会資源が必要になります。私たちはそれをどうしているかというと、それぞれの支援機関や支援者のもとにご本人と一緒に出向いて行き、ご本人と支援者との間をつなぐ仲介をしている-ということが、CBRマトリックスからわかりました。

例えば、医療ということでは、ドクターとケンカをして病院に行かなくなってしまった人に対しては、どうしてケンカをしたのかをお聞きし、ドクターの説明がわかりにくければそれを要約したりもします。あるいは、自分が眠れないことを言えずにずっと同じお薬を飲んでいて、眠れない期間が長期化してきた方には、ご本人のことを代弁して差し上げます。

社会保障のところでは、生活保護の窓口に一緒に出向くなどしています。「生活保護が駄目だということで我慢していたら、所持金が30円になってしまいました。ご飯は3日間食べていません。この方は40歳で若くて健康に見えますが、実はこんな生きづらさを抱え、とてもメンタル不調でいます。半年ぐらいお休みをいただければ就職活動を再スタートできます」、というふうに仲介し、生活保護等につなげています。

(図2)
図2(図2の内容)

青色(図2)は支援機関とご本人と我々の3者のチームで取り組んでいるものですが、黄色はリファーと私たちは呼んでいるものです。1~2回おつなぎしたら後はお任せするという項目です。

政治への参加、司法に黄色(図2)が付いていますが、例えば娘さんの学校のいじめ問題で先生の対応が納得できないという時には、弁護団を立ち上げて、学校に第三者委員会を入れるといった案件も出てきています。弁護士さんのもとに我々が同行してご本人のお悩みは伝えますが、弁護団が立ち上がったら後はお任せします。専門性にお任せするパターンです。

CBRマトリックスに取り組んでわかったこと

これら(図1、図2)を見ていただくと、私たちは3つの赤色の部分しかしていませんが、その他の部分もまあまあ埋っていることがわかります。今回、CBRマトリックスに取り組んでみて大発見なこと(図3)でした。ご本人の身近な課題を解決するためには、まずはご本人が一番したいこと、かなえたいことに駆けつけ寄り添うことです。ごみを掃除する、一緒にお買い物に行く、お話し相手になるなどです。

(図3)
図3(図3の内容)

次にしていることは、支援者や地域の人たちとのコミュニケーションの支援です。先ほどもお伝えしましたが、ご本人が社会に上手につながれないが故に今まで孤立に陥っているので、支援機関に行って来てくださいとか、こういう工夫をするといい、ということだけでは駄目です。本人が社会とつながるための効果的な関係性を探り、私たちが工夫しながらつなぐ支援をしていくことです。

最後にスキル開発です。ごみ屋敷になってしまう人はまたごみ屋敷にならないように、例えばものを捨てられないという特性があるのだとしたら、捨てるか捨てられないかの判断ができないものは箱に入れておいて、1ヵ月後に捨てるか捨てないかをみんなで話し合おうということをしてみたりしています。不安になると何十回も他人に電話をしてしまうという人は、それだけで人に嫌われてしまいます。すごくいい方なのにもったいないので、携帯メールの使い方を教えて差し上げました。1日に1本、「こういう要件がある」とか「寂しいんだ」というふうにメールをすれば、そのメールは必ず返ってくるということをお伝えします。暮らしやコミュニケーションのコツ、私たちが自然に身に着けている生きるためのコツをお伝えすることで、社会とのつながりを自分で維持したり、あるいは拡大したりということをしています。

この3つを丁寧に取り組んでいくと、ご本人を取り囲む社会資源というのは急速に広がっていきます。ご本人の周りにたくさんの応援者やたくさんの応援の資源が取り囲むと、ご本人自体がコミュニティを自分で動かしたり、増やしたりしていけるようになります。マトリックスにある「コミュニティを動かすこと」ですね。自分で仲間を増やすこと、コミュニティを自分で頼ることができることができるようになります。私たちはこれが「猫の手バンク」のゴールだと捉えています。そうはいってもそんなに簡単にいかず、成功している事例が多い訳ではありません。そんなふうにマトリックスを使ってみました。

Aさんの事例

ここからは、私たちがかかわっている方の事例をもとに、CBRマトリックスを使い、もう一度私たちの取り組みを見ていけたらと思います。先ほど自分の人生のマトリックスをお書きいただきましたが、それと比較してみてほしいのですが、今からご紹介するのはAさんの事例です。出会った時は1つも「○」が付かない状況でした。こういう方の事例を私があえて選んで持ってきたのかというとそうではありません。草の根ささえあいプロジェクトにご相談にいらっしゃる方の多くは白紙からスタートしています。その中で今回話してもいいと許可をいただいた方の事例を一つ持ってきました。これは私たちの中では特殊な事例ではないということを皆さんにお伝えしておきます。

ここに参加された皆さんの中には真っ白というのはいらっしゃらないと思いますが、この方は真っ白でした(図4)。20代半ばの方です。お父様には精神障害があり、息子さんは幼少時から暴言をはかれていたそうです。お母様は優しく素敵な方だったそうですが、彼が15歳ぐらいの時に脳卒中で倒れ、半身不随になり、今は車椅子生活をされています。ご本人にはどうも学習障害がおありなのですが、それを誰にケアされることもなく、逆に小学校、中学校では辛辣ないじめを先生から受けていました。でも学校を休むと両親が心配し、お父様は余計精神状態をきたすので頑張って登校していたそうです。なので私は中学校のところにはマイナスを付けたいぐらいです。中学を卒業しましたが、高校に行けるはずもありません。中卒で就職をするのですが、中卒のLDの子が自分で就職活動をするというのは本当にいばらの道で、案の定散々いじめられて引きこもり生活を送ることになりました。

(図4)
図4(図4の内容)

私が出会った時は引きこもり5年目でした。その5年間は誰にもケアされていないのでマトリックスのマスは一つも埋まりません。酷い幻聴をかかえていらして、女子高生が自分の顔について罵倒するといいます。それが幻聴だとは思っていないので、かなり苦しい生活をされていました。その中で、ご縁があって私たちの「猫の手バンク」が呼ばれたのです。ご本人に何とかしたいという気持ちが残っていらしたというのは素晴らしいなと思います。

パーソナル・アシスタントとして

私たちはパーソナル・アシスタントとして、彼の家に何度も出向くことになりました。出向いていく中でできることは、彼のしたいこと、かなえてほしいことを実現することしかありません。両隣や近所に女子高生が住んでいるはずだから調べてほしいと言われると、女子高生がいないか本当にちゃんと見てきて報告したりしました。病院に行く気になってくれそうになると、お父様がお見舞いに来られる距離で、入院させてくれるところを一緒に探しました。彼の気持ちを聞くというような家庭訪問を繰り返しているうちに、彼は意を決して医療とつながってくれることになりました。自分はやはり病気かもしれないという思いに至ったのです。これはチャンスだと思いました。

入院期間が長いということで、その間に「猫の手バンク」の人たちに何人も病院に出向いてもらい、会ってもらいました。社会にはいじめをする人もいるかもしれないですが、こういう人も待っているから早く出ておいでということを何度も繰り返しました。そのうちに彼のしたいことが明確になり、病院を出てからはデイサービスに通えるようになりました。本当に活動の場が広がってきました。

社会保障ということでは、彼の自宅は生活保護を受けていましたが、自分の権利としてそれをどう利用していいのかわかりませんでした。マトリックスの項目で言うとアドボカシーとコミュニケーションになるのですが、自分が引きこもりだった時にボロボロにしてしまった住宅を直すお金が生活保護で出るということで、自分でそれを生活保護の担当者に申し出ることができました。業者を入れる時も、普通の業者さんを入れると彼は怖がってしまうので、引きこもりであっても軽く明るく迎えてくれる業者さんに入ってもらいました。案の定、その業者さんはその子が可愛くなってしまい、部屋を改修した後もしょっちゅう家庭訪問に行ってくれています。

彼の部屋を掃除していると、彼が昔描いていた絵がいっぱい出てきました。その絵が素晴らしいので、その業者さんは自分が仕事を休みの日に、地域の活動センターでアートに取り組んでいるところを探して、彼に紹介したりもしています。まさに彼はコミュニティを動かし始めています。それをやっているうちにだんだんと彼もコミュニケーションが上手になってきました。今までケンカばかりしていて、殺すか殺されるかぐらいの親子関係だった彼が、お父様を怒らせないで自分の気持ちを伝える方法を編み出したのです。紙に書くこと、そして本当に怒った時はお互い別々に散歩に出るとすっきりするなど、そうした生活のコツを覚えていく中で、家族関係が修復されていきました。人と付き合うのも悪くないというふうに思ってくださるようになりました。そうすると後は話が早く、自分から同じ病院に入院していた子の面倒を見たり、お話をしたりということが起こり始めました。

今の彼の希望は、迷惑をかけた両親に親孝行がしたいということで就労をしたい、働きたいということです。以前は働くのが怖いと言っていましたが、収入を少しでも得るために、訓練をする事業所に通って一般就労をしたい。中学校しか出ていないので少し勉強もしてみたいという希望も語ってくれるようになりました。白紙の状態(前頁図4)だった時から今はこんなに豊かにマトリックスを埋められるようになりました(図5)。

(図5)
図5(図5の内容)

私たちのミッション

事例の紹介はこれで終わりです。私たちはこれを全ての相談者の方にできているのかと言われたらとんでもないことで、10人、20人の中の1人ということで、あとは試行錯誤の状態です。日々失敗しているといってもいいぐらいです。何もできていないです。だけど、本当はこの方に限らず、ここにあるマトリックスは全ての方が当然受け取るべきギフトだと思います。彼が困難の中で頑張って、私たちも利用しながら自分の力でここまで埋めたというのは本当に尊敬に値します。でも本当は、ここまで苦労をしなくても、何かをそれほど犠牲にしなくても、何の引け目もなく、何も誇張された権利意識もなく、誰もがこれらのことを受けとれる世の中であってほしいというふうに思っています。

私たちは今困難にある方々、一つもマトリックスが埋められない方のマトリックスを増やすために、その方の周辺に受け取りやすい資源を提供したり、社会資源と思っていないようなものを社会資源に変えたりというような試みをしていくべきだろうと思います。それはすごく難しいことだというのはわかっていますが、それらのことを繰り返し、試行錯誤をご一緒していく中でご本人と一緒にコミュニティを動かしていくというのが私たちのミッションだと思い、毎日活動しています。

以上、つたないご報告でしたが、ありがとうございました。

上野 渡辺さん、どうもありがとうございました。渡辺さんが仲間の皆さんと発見されたことというのは3つしかないとおっしゃっていましたが、その3つというのはもしかしたらいろいろなつなぎの原点なのかもしれないというふうに思いました。ではバリさん、コメントをお願いします。

バリ 渡辺さんのところには実際に伺うことができませんでしたので、今回のお話からコメントさせていただきたいと思います。

先ほどのお話の中では、まず3つの要素に取り組んでCBRを実行しようとしていらっしゃることを、とても興味深く聞きました。スキル開発、パーソナル・アシスタント、アドボカシーとコミュニケーションですね。この3つに力を注ぐことによって、マトリックスの他の項目にいろいろな波及効果を及ぼしています。

CBRマトリックスにはいろいろな項目がありますが、これを全て一遍にやらなければならないとは言っていません。どの項目から始めてもいいのです。そして、これは障害のある人のニーズに対応する項目で出来ていますので、やがてはすべてにあてはまるように、というものなのです。さらに、一つの機関が全部をしなさいというものでもありません。今のお話しで勇気付けられるのは、他の機関と連携を取って既存の資源を活用して活動を進めていらっしゃることです。他の機関が他の項目に取り組んでそれぞれの役割を果たしているのです。

それからとても面白いと思ったのは、一人の個人に対して、自分たちがやっていることをマトリックスを使って分析したということです。そこから自分たちの活動を計画したのですね。以前NPOについて書かれた文書を読んだとき、雇用創出、人格形成、コミュニティの一員になること、これらが戦略的であるという事が分かりました。

障害をもった人がビジネスをスタートさせた後はフォローアップが非常に重要だという意見に強く同意します。コミュニティの人たちや様々な機関の人たちは、障害をもつ人は成功しないという否定的な見方をすることが多いのです。ですからフォローアップという支援があっても、障害のある人が失敗した場合は、失敗する理由が他にあるという事です。そして、この失敗の原因は、もちろん、人々の障害をもつ人に対する否定的な見方なのです。

最後に、変化が小さくても限定的でもそこから始まるという、渡辺さんの信念を高く評価します。変化は一旦始まれば明るい未来へとつながっていくのです。

ありがとうございます。そしてこれからも頑張ってください。

上野 どうもありがとうございました。変化は小さなことから始まるというお言葉がありました。

それではここで休憩に入ります。