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JANNET研究会
ポストMDGsと障害で話題の「障害インクルーシブな開発とは?」報告書

◆CBID概要説明

NPO法人起業支援ネット副代表理事
鈴木 直也
JANNET研修・研究委員、日本作業療法士協会
河野 眞

今西 今回の研究会は今日はご出席いただけていませんけれども、国際開発学会社会連携委員会との共催となっております。

それではさっそくプログラムの内容のほうに入っていきたいと思います。まずはじめにCBID(Community-Based Inclusive Development)の概要説明を起業支援ネットの鈴木直也様よりいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

鈴木 皆さん、おはようございます。名古屋から参りましたNPO法人起業支援ネットの鈴木と申します。

私どもの起業支援ネットではCBRと近い概念の取り組みをしています。起業というマイクロビジネスみたいなものを立ち上げるお手伝いなのですけれども、私どもが支援している起業というのはコミュニティビジネスともいわれます。つまり、地域の様々な課題を解決するビジネスです。しかもそれほど儲かるようなビジネスではないため、様々な関係者を巻き込んでいきます。ボランティアや非常勤など、あまりお金をかけずに様々な人たちの手で包み込むようにしてコミュニティをつくりながら問題を解決していこうという、そんなことを名古屋でサポートしている団体です。

CBRとは

さっそくCBRの説明に入りたいと思います。皆さんの中でCBRという言葉を初めて聞くという方はいらっしゃいますでしょうか。いらっしゃらないですね。はい、大丈夫ですね。私から説明することもないかもしれないですけれども、確認の意味でお聞きいただければと思います。障害のある方と家族に対する支援が地域の中で不十分な場合、どうやって生活の向上を目指すのか。そうした活動を通して、地域自体を包摂的で持続可能なものにしていけないか。これを目指しているのがCBRであり、CBIDです。

(図1)
図1(図1の内容)

今日はこのCBRマトリックス(図1)というものを何度も何度も目にしていただくようなプログラムになっています。CBRマトリックスは障害のある方のおかれた状況が包括的であるかをチェックするためのツールとして使いやすいものであるというふうに認識しております。

(図2)
図2(図2の内容)

この図(図2)を見ていただきたいのですけれども、障害のある方のおかれた状況というのはどんな層に分かれているのかを示しています。中心に個人がいます。個人の方が人生をどれぐらい充足しているのかということですね。個人を包み込むように、個人に対してサービスを提供する事業所があります。事業所はどれだけ充足するサービスをもっているのか。事業所の活動が集まると全体で地域になります。そして地域としての包摂度がどうなっているか。このように3つの層があるのですけれども、今日はこの3つを順番に追いかけながらワークショップを進めていきたいと思います。何となくこのイメージを覚えていただければと思います。

本日の目的-CBRマトリックスを使ってみる

本日の公開研究会の大きな目的は、とりあえずCBRマトリックスを使ってみようということです。使ってみることで新しい発見があればいいのかなというふうに思っております。どんな使い方をすればいいのか、どうすればもっと使いやすくなるのか。使っていく中で、皆さんからも意見をいただきながら一緒に考えていければと思います。今日は「研究会」という名前にもあるように皆さんと一緒にここでチャレンジをして何か新しい発見があればいいなと思っておりますので、ぜひ皆さん積極的にご参加をお願いしたいと思います。

まず最初のチャレンジとして、皆様の人生の充足度をチェックしていきます。お手元の資料の中に「私の人生の充足度」と書いてあるもの(図3)はありますでしょうか。今からCBRのガイドラインの説明をしていただきますので、その説明を聞きながら、一つ一つの項目が満たされているかどうかをチェックしていきます。

(図3)
図3(図3の内容)

具体的には、充足していると思う場合は「○」印を書いていただきます。例えば小学校教育ですと、小学校に行きましたという場合は「○」、不登校であまり行けなかったという場合は「△」を付けていきます。項目が難しくわからない場合は「?」を付けます。「?」というのも結構大事なところです。皆さんの人生でちゃんと病院に行っているなとか、文化系でコンサートにも行っているなとか、そんなことを考えながら「○」「△」「?」を付けていただきます。よろしくお願いします。

ここからはCBRのガイドラインの説明についてお願いしたいと思いますので、マイクをお渡しします。

今西 鈴木様、ありがとうございました。それでは引き続きまして、CBRのガイドラインの簡単なご説明をJANNET研修・研究委員、日本作業療法士協会の河野眞さんにお願いしたいと思います。

よろしくお願いします。

CBRガイドラインの説明

河野 河野です。よろしくお願いします。「CBRガイドライン日本語訳概要版」という資料がお手元にあるかと思いますが、この内容を簡単に説明させていただきます。それを聞いていただきながら、鈴木さんからもお話がありました「私の人生の充足度」を埋める作業をしてもらえればと考えています。

CBRガイドラインは日本語訳の作業をJANNETの有志で進めていまして、翻訳自体はほぼ終わっています。おそらく年内か、遅くても年明けぐらいには公表できるのではないかと思います。ただCBRガイドライン本体をご覧になった方はご存知だと思いますけれども、とても量が多く、全体で500ページぐらいあるものです。それを最初から見ていくのは大変ではないかということで、JANNETの有志がCBRガイドラインの日本語訳を元に概要版というものを作成しました。それがお手元にあるものです。本体のほうはイントロダクションと別冊を含めて7部から構成されていますが、概要版のほうはCBRマトリックスのコンポーネントごとに冊子ができていますので5つのコンポーネント部分のみをまとめたものになります。

全体としての特徴をご説明しますと、目標であったり成果であったりという言葉が書かれていることは中を見てもらえればわかると思うのですが、それ以外に各エレメントでは具体的にどういう活動をするといいのかというようなアイディアが豊富に載せてあります。内容については読んでいただけるとすごくよくできていることがわかっていただけると思うのですが、ツイン・トラック・アプローチというものに則って地域での活動を進めていくという考え方が徹底されています。エンパワメントとメインストリーミングを地域の中でやっていくということです。あとは地域への働きかけとして家族といったミクロレベル、その外側の地域社会といったメゾレベル、さらに社会制度や政治環境といったマクロレベルを含め、人間を取り巻く環境にいろいろなレベルで細かく働きかけるような構成になっているのも特徴です。最後にもう一点は、政府や公式な機関などが準備しているフォーマルな支援と、そうではないインフォーマルな支援の両方を使って働きかけるような構成になっているところも特徴かと思います。

マトリックスのコンポーネントとエレメント

ここからはコンポーネントごとの説明を簡単にさせていただきます(前頁図3参照)。

《保健》

まず保健の部分ですが、これは比較的理解しやすい内容かと思います。保健の中には5つのエレメントがあります。上から、健康増進、原因の予防、医療、リハビリテーション、支援機器とあります。保健コンポーネント全体のテーマとしては、差別のない健康に関する権利をいかにして実現するか、です。この場合の「健康」とは、単なる身体的な健康ではなく、いわゆる「WHO的な健康」、社会的にも精神的にもよい状態であるということが健康として定義されている点がCBRガイドラインの特徴です。健康増進については、例えば日本でいうとメタボ対策みたいなものがこれに当たるのではないかと思います。原因の予防の部分は、具体的な例を挙げるとワクチンの予防接種というようなものを筆頭とした疾病予防です。

医療は医療そのものなので説明はいらないかもしれません。リハビリテーションも特に説明はいらないかと思います。

支援機器というのはわかりにくいかもしれないのですけれども、日本の法律用語でいうと福祉用具、福祉機器のようなものがこれに該当します。福祉用具というとどうしてもセルフケアであったり日常生活活動に限定した支援の道具というイメージがありますが、もう少し広く、社会参加を促進するような機器や道具も含まれているため支援機器という言葉を使っています。

《教育》

教育コンポーネントの説明に入ります。教育は、幼児期、小学校教育、中・高等教育までは理解しやすいところかと思います。CBRガイドラインの特徴は、インクルーシブ教育を推進するということを各コンポーネントで強く言っているところで、インクルーシブ教育推進のために何をしたらいいのかということがこの中に書かれています。

我々になじみの薄いところがあるとすると、ノンフォーマル教育という部分です。これはCBRガイドラインの中では小学校、中・高等教育のあたりの発達段階に該当する内容の教育ですが、政府の準備しているような公式の教育ではなく、例えば日本でいうとブラジル人コミュニティの中にブラジルの人たちが自分たちでNPOを立ち上げて学校を運営するという活動がありますが、そういうものであったり、もしかすると我々のなじみのある部分でいうと、予備校であったり塾であったりというのもここに入ってくるのかと思います。生涯教育という部分は、成人して以降の生涯にかけての学習のことです。

《生計》

次に生計です。これは、日常生活を成り立たせるための必需品をどういうふうに獲得するかという内容になります。

エレメントとしましては、まず、スキル開発。ここには、生計を獲得するための技能開発、職業技能の訓練というものが入ってきます。CBRのガイドラインの中で特徴的なのは技能の種類を細かく分けているところです。生計を獲得するための直接的な職業技術だけではなく、それ以前の「基礎技能」、「技術的・職業的・専門的技能」、さらに「ビジネス技能」ということで職業の技能を使いながらどうやってビジネスとして成立させるかという技能、あとは、「核となる生き方技能」という4種類がスキルとして想定されており、それぞれスキル開発の訓練をしていきましょうという内容になっています。

所得創出というのは所得を生み出す部分で、ここには自営も入っています。

賃金雇用は我々にはわかりやすいですが、給料をもらって働くという形の雇用です。ただその時に、CBRガイドラインは途上国のことをかなり大きな対象として挙げているので、いわゆるフォーマル経済だけではなく、インフォーマルな経済での活動による賃金の獲得という部分もここには入っています。

金融サービスというところは銀行や保険会社を中心とした内容ということで、預金、貸付、医療保険などの保険サービス、送金サービスなどが入っています。そういうものが利用できるかどうか、準備されているかどうかということです。金融サービスといった時には銀行だけではなく、インフォーマルな金融の支援として、例えば家族、親戚、隣人、友人、宗教団体、自助グループといったところからの金融支援も検討されているのがCBRガイドラインの特徴です。

社会保護はなじみのない言葉かもしれないですけれども、セーフティーネットのことです。病気や高齢といった理由で所得が無くなったり、あるいは貧困に直面したりした時に、保護の対策としてどういうセーフティーネットがあるか、そうしたセーフティーネットにアクセスできるかどうかが社会保護というところに入ってきます。

《社会》

社会のコンポーネントは、保健、教育、生計以外の社会活動への参加をどのように確保するかという内容になっています。

パーソナル・アシスタントというのはもしかすると耳なじみのない言葉かもしれませんけれども、これはいわゆる身体的な介助を含む個人向けの支援です。介助というとどうしても身体的なところ、あるいはセルフケアといった基本的な日常生活上の課題に対する支援というイメージがあるかと思うのですけれども、それだけではなく、社会参加の部分をどういうふうに手伝うのかという支援も入っています。そういう意味で通常の介助という言葉ではなく、もう少し広い言葉として使っています。

パーソナル・アシスタントについては、障害のある人自身がどういうパーソナル・アシスタントをどういう目的で使うかというところを企画、管理、運営していくことの重要性、あるいはそれに向けて障害のある人への研修や、障害のある人に支援を提供するパーソナル・アシスタントの訓練もするというところが含まれているのが大きな特徴です。

パーソナル・アシスタントというと、日本の場合はもしかすると介護保険やその他を使って公式なパーソナル・アシスタントを使うということがあるのかもしれないですけれども、途上国の場合は家族、親戚、友人といった人たちにパーソナル・アシスタントとして働いてもらうということが多いです。そういう非公式なパーソナル・アシスタントに対する支援や訓練ということも含まれているのが特徴です。

交友関係・結婚・家族というエレメントは、内容としてはこの通りなのでわかりやすいかとは思うのですが、性の問題、暴力の問題といったことも触れられているというのが特徴で、障害をもった方々が結婚されて、子どもをもち、親としての役割を果していく時にどのような支援を提供するか、あるいはそういう時にも支援を提供しましょうということが書かれています。

文化・芸術というところは、芸術はわかりやすいですが、文化というのは地域の儀式、地域の慣習といった活動にどういうふうに参加するか、参加できる環境を整えるかということが書いてあります。

レクリエーション・余暇・スポーツは文言通りです。

司法というのは、障害のある人に限らず、日本の場合は我々のように障害のない者も司法への意識というのは薄いかもしれないですけれども、司法へのアクセスがちゃんと保たれているかということになります。これも公式な司法制度に公正にアクセスできるかだけではなく、非公式な司法制度以外のもの、例えば地域の中にある既存の人間関係を使って、どのように公正さを確保していくかということも考えていきましょうという内容になっています。

《エンパワメント》

エンパワメントのコンポーネントは、他の開発分野よりも障害の分野で特に注目されるべきコンポーネントだと考えています。

アドボカシーとコミュニケーションということでは、セルフアドボカシーといいまして、自分でどういうふうに自分の権利や責任について知り、それを主張し、さらには自分の人生の選択肢としてそれらを使っていけるかということに焦点を当てた内容になっています。セルフアドボカシーをしていくにあたってのコミュニケーションの方法をどのように確保していくかという内容です。

コミュニティを動かすことというのは、CBRプログラムの成否の鍵を握ると書いてありますけれども、どういうふうにコミュニティを動かしてインクルーシブな開発を実現していくかという活動にかかわるものだと思います。

政治への参加というのは選挙などを含めた政治活動にどのように参加するか、参加していく条件をどう整えるかということが書いてあります。

自助グループと障害当事者団体は似たような内容に受け取られるかもしれませんが、自助グループのほうはCBRガイドラインの中ではどちらかというと相互支援的な目的のためのグループと捉えているようです。障害当事者団体のほうは相互支援、互助的な団体というよりは、政策決定者に影響を与えるために、権利擁護の活動をする母体として、障害当事者の人たちが組織立てられて活動していく団体として書かれています。

以上、ざっと説明した感じにはなりますけれども、インクルーシブな開発を実現するための方法論として出来上がったCBRガイドラインのごくかいつまんだ部分を説明させていただきました。今日のセミナーの中で何度もCBRマトリックスを見てもらうことになると思います。CBRマトリックスはCBRガイドラインの構成や内容に対応していますので、そういう照らし合わせを通じてこのガイドラインの内容の理解を深めていければと思っています。今のところは簡単な説明だけで失礼いたしますが、この後も引き続きよろしくお願いします。以上です。

今西 河野さん、ありがとうございました。