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JANNET研究会
ポストMDGsと障害で話題の「障害インクルーシブな開発とは?」報告書

◆講演【インドの実践】

モビリティ・インディア所長
アルビナ・シャンカー

今西 それでは本日のメインゲストスピーカーのアルビナ・シャンカーさんにお願いしたいと思います。アルビナさんの紹介については冊子の最後のほうにプロフィールを載せていますので参考にしていただければと思います。

アルビナさんはインドのバンガロールにありますモビリティ・インディアで代表をされています。2012年11月、インドのアグラで第1回CBR世界会議が開かれたのですけれども、その時には事務局長を務められました。CBRガイドラインの寄稿者でもあります。昨日、少しお話しさせていただいたのですけれども、障害のことやCBRについて本当に強いパッションをもっておられる方です。はるばるインドから来ていただき、直接お話を聞けるというのは非常に光栄で貴重な機会だと思います。今日はインドの実践をお話ししていただきます。どうぞよろしくお願いします。

なお、お手元に「アルビナさんからのお話しから」と書いた資料があると思いますが、アルビナさんのお話を聞きながらチェックしていただけると午後のワークショップの理解の助けになると思いますので、これを利用してお話しを聞いていただけたらと思います。逐次通訳でお話ししますので少し時間が長くなりますけれども、12時半までお聞きいただけたらと思います。なお時間の関係上、この講演の質疑応答は昼食後にありますのでご了解いただければと思います。アルビナさん準備はよろしいでしょうか。それではよろしくお願いします。

アルビナ おはようございます。今回はこのように日本にご招待くださいまして誠にありがとうございます。今日は皆様の前で私の団体がCBRに取り組んでいる様子をお話しさせていただくことを本当に嬉しく思います。そしてJANNET20周年、おめでとうございます。小さい時から日本に来ることは長年の夢でした。今日やっと夢がかないました。改めましてご招待ありがとうございます。

世界の障害のある人の状況

(図1)
スライスド1(図1の内容)

CBRというのは変化のためのマトリックスです。そしてインクルージョンをもたらすものです。現在、世界では10億人以上の人が障害を経験しています。このスライド(図1)をご覧になっておわかりのように、7人に1人の割合で障害をもっている人がいます。障害のある人々は世界の人口のおよそ15%を占めておりまして、10人中8人は途上国に住んでおります。貧困の中に暮らしている障害のある人の数は実に大きな数となります。その多くはさらに社会的排除を受けており、基本的なニーズにアクセスしようとしても障壁に直面し、例えば教育、保健医療、雇用、社会的保護、法的支援のアクセスを否定されています。途上国では障害のある子どもの10人のうち9人が学校に行っていません。また障害の出現率も増加しています。高齢化のため、2050年までには60歳以上が20億人になるといわれています。慢性の健康障害、例えば糖尿病、がん、心臓病、肥満なども増えています。交通事故、暴力、やけど、転倒などによる負傷も特に途上国において増えております。

インドにおきましても障害のある人々の大半は農村地域に住んでおりまして、リハビリテーションサービスや欠くことのできない支援機器へのアクセスの機会はごくわずかしかありません。こうしたサービスや支援機器というのは、家庭や学校、職場において効果的に学習し、意思疎通を図って、生活の質を高めていくためには決定的に重要な意味をもちます。自立した生活をしたり、生活の質を高めるためにリハビリテーションサービスは重要です。

モビリティ・インディアの設立およびその活動

都市には多くのリハビリテーションセンターがあるとはいいましても手ごろな料金で、適切なサービスの恩恵を受けられる障害のある人たちはわずかしかおりません。この問題に対処するため、モビリティ・インディアは1994年にバンガロールで設立されました。私たちは農村地域や都市スラムに住む貧しい人々がリハビリテーションサービスを利用できるように変化をもたらすことを目的として設立されました。

モビリティ・インディアは人権に基づくアプローチを取っており、障害のある人々、その家族、その他の恵まれない人々をあらゆる開発活動にインクルージョンできるように取り組んでいます。私たちモビリティ・インディアが信じているビジョンとは、障害のある人やその家族など、恵まれない人々が、教育、保健、生計、質の高い生活において平等の権利を有する、インクルーシブでエンパワーされたコミュニティを実現することです。私たちが優先すべきだと思う人々というのは障害のある人、貧しい人で、特にその中でも子ども、女性、高齢者です。私たちの活動の焦点は障害インクルーシブな開発です。これ(図2)がモビリティ・インディアの主な活動です。モビリティ・インディアは障害のある人・ない人、この両者

(図2)
スライスド2(図2の内容)

を融合させてきました。また真のニーズに取り組む能力とその責任のある革新的な組織です。

私たちはここ何年かの間に大きく発展しました。最初は2人で始めましたけれども、今ではスタッフは138人おり、そのうち44人が障害があり、女性は47%となっています。障害のあるスタッフというのは、障害のある人が雇用されているのを見ることがなかった対象地域の人たちにとってはとてもいいロールモデルとなっております。コミュニティの他の人たちに自分たちの潜在能力を示すことにより、コミュニティの意識を変えるのに役立っております。

活動の内容

モビリティ・インディアは恵まれない人、リハビリテーションサービスが利用できる所に居住していない障害のある人に支援の手を伸ばしています。それは貧弱な社会経済的状況、認識の欠如、適切なサービス・教育の欠如、基本的な保健医療の施設がない、という理由からです。モビリティ・インディアの主な活動内容の一つはリハビリテーションサービスの提供です。私たちは手ごろな価格で購入できるような義肢装具、支援機器、理学療法・作業療法サービス及び車いすを提供しています。

もう一つ、私たちが行っている主な活動内容の例としましては、障害リハビリテーション開発に関する研修があります。私たちは草の根レベルで仕事をする専門家を育成するための研修プログラムを始めました。義肢装具及びリハビリテーション治療、車いす修理に関しての長期研修や短期研修も提供しています。これらのプログラムは全てWHO、ISPO(国際義肢装具協会)のガイドラインに沿ったものです。私たちはISPOからインドで初めて認証されたNGO団体です。もう一つの活動は1999年から始めましたコミュニティに根付いたプログラムになります。これについては後ほどもう少し詳しくお話しいたします。

それ以外の活動としましては適正技術の開発と促進です。私たちは適正な技術が障害のある人たちに提供されることが重要であると考えています。私たちが提供している技術は国内だけでなく、他の途上国にも技術移転をしています。私たちが行っている活動の一つに義足(ジャイプール・フット)の製造部門があります。この部門は障害のある女性たちが運営しており、障害のある女性たちが義足を作るというこのユニークな特徴は南インドでは初めてのことでした。また1994年の設立時からやっている活動の一つに草の根団体の能力育成がありますが、基本的には治療設備の備わった義肢装具ワークショップ開設を支援するという形で行っています。

私たちはコルコタに地域資源センターを持っていて、インドの東部地域のニーズに対応しています。さらに連携を図ったりネットワークづくりも行っております。大学や国際機関、政府やNGOなど、様々なレベルと連携を取っておりまして、WHOのCBRガイドライン、世界障害報告書などにも協力をしています。また多くの調査研究も行っています。自分たちのサービスが障害のある人たちにどのようなインパクトを与えているのか、障害のある人たちの生活の質がどのように改善したか、例えば車いす、義肢装具などで生活の質がどのように改善したかというような調査をしています。

貧困と障害、アクセスへの障壁

(図3)
スライスド3(図3の内容)

これ(図3)はCBRについて書かれているものです。私たちはCBRを特にインド南部の農村地域で実施しています。この図でご覧いただけるようにインドでは貧困と障害の悪循環になっています。この写真の人は重度の障害をもち、非常に貧しい生活をしています。障害のある人は衣・食・住などの基本的なニーズに関するサービスへもなかなかアクセスできず、特に農村地域に暮らす貧しい人たちは厳しい状況にさらされています。

これ(図4)を見ておわかりいただけるように障害のある人たちは基本的ニーズへのアクセスで障壁に直面しています。まずはリハビリテーションサービスへのアクセスが制限されています。仮にリハビリテーションサービスが提供されたとしてもその質は非常に悪いものです。この中の写真を見ていただくと、プラスチックの椅子に車輪が付いていますけれども、椅子自体がこの女の子には大きすぎます。また、教育を受ける機会も少ないです。障害のある女児の場合はさらに少なくなっています。生計活動についても障害者、特に障害のある女性に対しては極めて制限されています。認識の欠如、文化的・社会的障壁が障害のある人たちがインクルージョンされることを制限しています。物理的アクセシビリティというのも大きな障壁の一つです。当然の権利や資格へのアクセスも乏しいです。こうしたことから障害のある人にとっては社会的インクルージョンや社会参加の機会が減少し、コミュニティや地方行政からも優先扱いされることが非常に少ないのです。

(図4)
スライスド4(図4の内容)

こうした障壁があると何が起こるのか(図5)。健康により大きな影響が出てきます。学業成績も低くなります。経済活動への参加も少なくなります。貧困率及び障害をもつに至る率も高くなります。そして依存心が強くなり参加が制限されてきます。この家族には重度障害のある子どもが2人おり、とても貧しい生活状況にあるということがこの写真(図5)からおわかりになるかと思います。頭にスカーフをかぶっている人はこの年配の男性の奥さんです。最初、私は娘さんかと思ったのですけれども、奥さんです。とても若い奥さんですね。

(図5)
スライスド5(図5の内容)

CBRガイドライン

先ほどCBRガイドラインとマトリックスについての概要説明がありましたが、これ(図6)がCBRガイドラインです。これは障害のある人々、その家族、コミュニティの生活の質を促進させる権利と開発を実現するためのツールです。それではこれらをどのように実行していったらいいのでしょうか。国連には障害者権利条約がありますし、新しいガイドラインもできました。CBRというのは障害者の権利を実現するためのツールです。また昨年、もう一つのツールとして国連のアジア太平洋社会経済委員会(ESCAP)が策定した「アジア太平洋地域の障害者の権利を実現するインチョン戦略」というものもあります。これが新たなツールとして加わりました。

(図6)
スライスド6(図6の内容)

これ(図7)はマハトマ・ガンジーの言葉です。「貧困は最大の暴力である」。それではこの貧困の問題をどう解決できるのでしょうか、どう取り組めばいいのでしょうか。私たちは障害インクルーシブ開発を通じて取り組むことができるのです。

(図7)
スライスド7(図7の内容)

これ(図8)はモビリティ・インディアが行っているCBRプログラムです。最初のプログラムを1999年に開始しました。バンガロールの都市スラム23カ所を対象にプログラムを提供しました。私たちがこのプログラムを始めた目的といいますのは、障害のある子どももない子どもも、とにかく子どもたちがきちんと学校に行って教育を受けられるように環境を整えることでした。しかしながら、最初はリハビリテーションサービスを提供することを期待されておりました。これは主に医療、慈善のモデルに則ったものでした。けれども、後に私たちはリハビリテーションサービスは障害者の生活に対してあまり大きな変化はもたらさない、なぜなら彼らの一番の問題は貧困だからであるということに気がつきました。そこで、その後2007年に農村地区で別のプロジェクトを立ち上げた時に私たちは目的を変えました。そして2008年、2013年にプロジェクトを開始した時には私たちのアプローチはこれまでとは大きく違ったものになりました。

(図8)
スライスド8(図8の内容)

モビリティ・インディアのアプローチ

モビリティ・インディアの戦略は非常にシンプルなものです。それは、第1日目からコミュニティ内の様々なステークホルダーの参加及びインクルージョンを確実にするということです。私たちのプロジェクトの目的は、障害のある人がコミュニティベースの介入を通して当然の権利にアクセスし、享受できるように、障害のある人とそのコミュニティをエンパワーすることです。障害当事者、家族、企業、NGO、政府、病院といったコミュニティのあらゆる人たちにステークホルダーとしてプロジェクトに参加してもらっています。

私たちのアプローチの基本は開発と人権です。先ほど申しましたように私たちの当初のアプローチはリハビリテーションサービスの提供で、基本的には医学・慈善モデルだったのです。しかしながら中核問題が貧困であるとわかった後は、自助グループを設立して所得創出活動を行うようにしました。そうすることによってコミュニティでの経済的な状況が改善するように取り組みました。医学・慈善モデルだった時は、障害のある人たちは自分たちの潜在能力を自覚していませんでしたのでとても依存的でした。自分たちの当事者意識、自分たちが何かを所有しているという所有意識というのがとても薄く、団体などに依存している状況でした。

その後、私たちは社会的、権利的なものをベースにしたアプローチにすべきだと分かりましたので自分たちのプログラムをデザインし直さなくてはいけませんでした。自助グループを設立して多くの若者や家族や障害当事者を巻き込むという形に作り直したのです。そして主に所得創出プログラムを促進しました。所得が増えれば子どもたちも学校に行けるようになります。この戦略には2つの面がありました。1つは貧困削減、もう1つは障害のある子どもの学校教育です。自助グループでは自分たちでセルフアドボカシーを行いました。自治体に出向いて、自分たちがアクセスできるプログラムを求めたのです。このアプローチによって障害当事者の参加が増えたのです。コミュニティの当事者意識も強まりました。

それでは私たちはどのようなアプローチをとったか。この写真(写真1)を見ていただきますとCBR職員が写っております。私たちがこのようなコミュニティのファシリテーターとしてCBR職員を採用する時には地元コミュニティから障害のある人たちを積極的に採用しています。Tシャツを着ている人たちが職員ですが、ほとんどが障害のある人です。またボランティアも多く採用しています。ここにいる女性や車いすを使っている人もボランティアです。私たちはこのようにコミュニティから積極的にボランティアを募ります。

(写真1)
スライスド9(写真1の内容)

そして彼らが何をやるかというと、第1日目から主要なステークホルダーに参加してもらい、当事者意識を持ってもらい、コミュニティ全体にこの活動のことを理解してもらうようにするのです。私たちのアプローチは、1日目から有力な公的な立場にいる人たち、鍵となるリーダーが誰かということを特定し、そういう人たちを動かしてプログラムに参加してもらうようにします。鍵となるリーダーというのは多くの人に影響を与え、コミュニティにとって恒久的な資源となる立場にあります。鍵となるリーダーたちは、保健、教育、生計といった異なる開発分野に対しても大きな影響力をもっています。

関係当事者およびコミュニティ全体に対する啓発、意識向上プログラム

私たちは様々な関係当事者と協議の場をもち、啓発、意識向上プログラムを行っています。こうした人たちには障害のある人がどのような問題に直面しているかということだけでなく、コミュニティ全体がどういった問題に直面しているかということも理解してもらうようにしています。時にはコミュニティ全体の問題も理解してもらうことが重要になります。コミュニティが障害者に対して否定的な態度を取るのは、多くの場合、障害に対する知識が限られていたからだと分かりました。

また私たちは教育の重要性を訴える意識向上プログラムも数多く行います。子どもにとって教育が重要だということを、子ども自身だけでなく、親も理解しなければいけません。障害のある子どもを学校に送り、教育を受けさせることの重要性を訴えています。保健に関する意識を高めるというプログラムもコミュニティ全体に対して行っています。

私たちは障害者に特化したプログラムを提供するのではなく、教育などコミュニティ全体のためになるようなプログラムを提供しています。ただし、障害者のための特別な技術的なサポートも提供しています。またそれと並行してコミュニティ全体のためになるようなプログラムも提供しています。先ほどもご説明しましたように私たちはコミュニティ全体に役立つようなプログラムを提供しています。CBRプロジェクトというのは、限られた資源の中で、障害者を含むコミュニティ全体に対して影響を与えることのできるプログラムをどのように提供できるか、ということだと思っています。

私たちは障害者を見る時に、彼らの能力に焦点を当てるようなポジティブなアプローチを取らなければならないと思います。子どもたちもコミュニティの一員となり、学校でインクルーシブな教育を受けるべきであると考えています。私たちはコミュニティの活動に障害のある人およびその家族が参加するように奨励しています。障害のある人およびその家族にコミュニティが関わるだけではなく、障害のある人たちも家族もコミュニティの活動に参加することが重要だと思うからです。コミュニティ全体に問題がある時に、障害のある人たちもそれらを解決するための話し合いに参加すべきなのです。

能力構築は私たちの活動の中で一貫して行われております。こうしたことをやった成果というものはどうでしょうか。私たちはまず障害のある人たちの問題を特定し、そこから解決策を見出していきます。この男性(写真2)はマジナートさんといいます。彼は自助グループに参加し、その後結婚することができました。こちらの女性が結婚相手の奥さんです。彼は重度の障害があるのですけれども、奥さんがサポートしてくれるので電動車いすに乗ることができます。そしてこの電動車いすで村に行き、DVDやテレビの修理をする自分の店に行くのですが、その店の近くまで行きますと、近くには働いているコミュニティの人たちがいますので、その人たちが彼を電動車いすから降ろして店の中に入れてくれます。どこに行こうとサポートの手があるような状況になりました。多くの人たちはマジナートさんについてとてもポジティブな見方をするようになりました。重度の障害があっても彼の生活の質がとてもいい、つまり重度の障害があってもこうやって参加することができるということでとてもいい例となっています。障害のある人たちも社会の平等なメンバーであると認識されるようになりました。マジナートさんの結婚式の時にはコミュニティ全体がマジナートさんを見守っていました。このように重度の障害のある人でも結婚することができるんだと周りの人たちも認め、受け入れるようになってきました。彼は障害のない女性と結婚し、今では小さな男の子もいます。

(写真2)
スライスド10(写真2の内容)

草の根のCBRマトリックス

これ(写真3)は私たちがコミュニティで行ったことの一つで、地方自治体のオフィスの前のボードの写真です。こうしたものを見ますとCBRマトリックスが草の根の地方自治体にまで下りていったということがおわかりいただけると思います。このボードにはコミュニティが利用できるサービスのプログラムが書かれております。CBRマトリックスの5つのコンポーネントが書かれていて、コミュニティの人々の目に触れるように地方自治体のオフィスの前に掲示されています。この地元の村議会でもCBRマトリックスの5つのコンポーネントを念頭に置いて障害のある人たちおよびコミュニティ全体のための具体的な行動計画を策定して、このように外に掲げたのです。それに対して予算もちゃんと付いているのです。これはコミュニティが当事者意識をもつということです。村議会でCBRマトリックスを理解し、受け入れ、自分たちが障害者とその家族のためにできる最善のことは何かということを考えるのです。これは最初、一つの村で始まりました。それがどんどん他の村にも広がっていきました。その際にメディアでも取り上げられるようになりました。メディアというのは重要でして、一つの村で障害者に対するプログラムとそれに対する行動計画ができた、ちゃんと予算も付いたということを書きますと、他の村にも広がっていきます。

(写真3)
写真3

このようにコミュニティの中で可視化が進むと彼らは多くのプログラムに参加するようになりました(写真4)。例えば障害のある人たちは12月3日の国際障害者デーにも参加するようになりました。今までは家の中にいた人たちがこのように外に出て来るようになり、コミュニティの中で以前より多く人の目に触れるようになりました。

(写真4)
スライスド11(写真4の内容)

(図9)
スライスド12(図9の内容)

次に保健と衛生状態、公衆衛生に関してですが、先ほども申しましたように農村部では基本的なニーズが満たされていることがほとんどありません。もしくはとても弱い状況です。その一つはトイレがないということです。私たちはこのように(図9)壁に「トイレを使うということが保健衛生状況全体の改善につながる」と書きました。インドではトイレよりも携帯電話の普及率のほうが遥かに高いのです。トイレという基本的な必需品であり、尊厳を守るものを用意する余裕がない人が非常に多く、障害のある人はなおさらそうであるという状況です。2008年は国際衛生年でしたので、その年に私たちは農村地域でのトイレの建設を始め、トイレの重要性について意識向上の活動を行いました。障害のある人たち、特に女性や少女の場合、トイレの問題というのは非常に大きかったのです。例えば遠くにあるトイレにはなかなか行けないということがありますので、障害者のいる家庭からトイレの建設を始めました。トイレを作ることにより障害者がトイレを使えるようになっただけでなく、その家族、近所の人たちも使うようになり、その重要性を理解する、そうすると近所でトイレを建設する家が多くなりました。このようにコミュニティは変わっていくことができるのです。まずは障害当事者の家から始まり、それが近所の人たちに、そしてコミュニティ全体へと波及していきます。

障害のある子どもの教育

次に障害のある子どもの教育です。先ほども申しましたが、途上国の障害のある子どもの98%は学校に行っていませんし、障害のある女の子の99%は読み書きができません。その理由は、障害のある子どもが利用できる水と衛生設備がないからです。それが障害のある女の子たちがドロップアウトする理由の一つにもなっています。私たちモビリティ・インディアのCBRプログラムとして、村の学校の改善を図って、障害のある子どもを含む立場の弱い子どもたち全てが学校に通えるように、インクルーシブにしようという取り組みを行いました。コミュニティ全体を巻き込んで教育制度を改善し教育が確実にアクセスできるように、そしてインクルーシブになるようにしたのです。

私たちはまた各地でコミュニティ補習教育センターの普及を促進しました。日中子どもたちは学校に行って勉強をするのですが、勉強が追いつかないという子どもたちが放課後に勉強できるように補習教育センターの普及を働きかけたのです。補習教育センターは障害のある子ども、ない子どもの物理的、精神的、社会的な発達を促進することを目的としています。ですから教室は障害のある子どもたちとない子どもたちの間の関係性を強化する場ともなっています。

センターの運営にはコミュニティから多くの貢献があります。場所、電気、教材などの貢献です。またセンターを支援してくれるボランティアをコミュニティから募りました。ではモビリティ・インディアは何を行ったかといいますと、障害インクルーシブ教育についての教員研修に投資を行うということでした。これでコミュニティの当事者意識が高まり、このセンターは自分自身が所有するもの、運営するものであるという意識が高まってきました。最初は私たちが先生や教える立場にいる人たちに謝礼を払っていたのですけれども、今では地方自治体とコミュニティが負担するようになりました。

子ども議会

またこれと並行して、インクルーシブな子どもたちのグループである子ども議会というものをつくりました。その目的は子どもたちの間に責任感を高め、リーダーシップを育成することです。これは障害のある子どもたちが自分たちのコミュニティにおいて積極的に社会改革を行うための大変重要な第一歩となりました。つまり、障害のある子どもたちがコミュニティで社会変革を起こすのです。どんな社会改革であれ子どもたちは偉大な資源であり、変化をもたらす最高の主体となります。インドでは子どもたちの声や意見を聞いてもらえることは非常に少ないです。先生や両親に対して意見を言うと反抗的だとみなされてしまいます。何か問題があったとしても子どもたちが参加して自分の意見を述べることはありません。特にインドでは学校に行ってより良い教育を受けるのは男の子なのです。しかし障害のある子どもたち、特に障害のある女の子たちは学校教育を受けられる機会が非常に少ないのです。そこでモビリティ・インディアが何をしたかというと、インド政府が「教育を皆に」という取り組みをしていますので、女の子たち、特に障害のある子どもたちを同じ教育プログラムに参加させたのです。私たちのCBRプログラムでは子ども議会という概念を導入し、子どもたちに自分の声を活用することを奨励しました。コミュニティに対し、子どもの権利を尊重し、特に地元学校におけるインクルージョンを促進することを働きかけるためです。

子ども議会では教育、保健、社会などの分野の大臣が選出され、子どもたちが提起した問題に取り組むための行動計画を自分たちでたてて、学校やコミュニティの問題解決を図るのです。この子ども議会のおかげで学校からの中退率が減少しました。例えば障害のある子どもが学校の勉強についていけず、中退したとしても、他の子どもたちがその家庭に行き、親または本人に教育がどれだけ重要かということを話し、障害のある子どもを学校に呼び戻す。そういうことをやりましたので、中退する率が減少しました。例えば車いすを使っている子どもを、親が車いすを押して学校に連れて行くことができなかった場合、他の子どもたちが車いすを押して学校まで連れて行きました。そうすると、親もその間働くことができるようになったのです。

子どもたちによる活動

保健、衛生状態、安全の促進の意識向上も子どもたち自身がやっています。来月にはディワリという盛大なお祭りがインドであるのですが、祭りでは盛大に爆竹を鳴らします。爆竹を鳴らすとやけどをすることも多いので、子どもたちは安全意識の向上のために各地に行き、啓発活動をします。

子どものグループが取り上げた問題の一つに、トイレにドアがないので女の子が使えないということがありました。子どものグループはトイレにドアを付けてほしいと学校の経営陣に訴えました。これは地方自治体が経営している学校だったのでこの問題は村議会にも上がっていきまして、その結果、トイレにドアを付けるだけでなく、新しく建築される学校のトイレにもドアをつけて、障害のある子どもにもアクセシブルなトイレを作るという約束を取り付けました。これを率先して行ったのが子どもたちのグループでした。

もう一つの問題は街灯です。村には街灯が無く夜になると暗くて歩きにくくなります。視覚障害のある人たちにとっては特にそうでした。子どものグループがこの問題を知りました。弱視の女の子が教育センターに行った帰りは非常に歩きにくいということで、子どものグループは村議会に対して街灯を作ってほしいと訴えました。その結果、街灯が設置されて弱視の女の子が歩きやすくなったのはもちろんですが、村全体の利益となりました。このように障害者だけでなく、村全体の利益になるということが非常に重要なのです。

また2011年の国勢調査の時には、子どもたちが集まり障害者も国勢調査に含まれなければいけないと話し合い、意識向上プログラムを実施しました。これが非常に素晴らしいイニシアチブとなり、2011年の国勢調査に障害者が含まれることになったのです。

様々な取り組みの結果

子ども議会や補習教育センターの結果、どうなったかといいますと、障害の有無にかかわらず女の子の参加が増加しました。MDGs(ミレニアム開発目標)の3を見てみますと、「ジェンダー平等の推進と女性の地位向上」と書かれています。学校に行く女の子の数が増えたので、結果として社会は改善しているといえます。MDGsの2には「普遍的な初等教育の達成」とありますけれども、これに関しては、多くの障害のある子どもがメインストリーム教育プログラムへ就学しましたし、中途退学を阻止したり退学者の復学を保証したりしました。これには子ども議会、補習教育センターのほか、地方自治体からの支援もありました。

障害のある子どもの参加は社会的インクルージョンの促進に役立ちました。モビリティ・インディアのプログラムは地方自治体やコミュニティ、企業などから多大な支援を受けられるようになりました。障害のある人たちやその家族は自らの権利を認識するようになりました。そして一緒になって力を発揮するのです。一人ではできないことも、グループのみんなが団結することによって力は大きくなります。このように一緒にやることの重要性を理解するようになりました。これもまたインクルージョンということになります。つまり、インクルーシブな子ども議会というのは、伝統的な信念や規範をより建設的でインクルーシブな社会へと変えていく理想的な取り組みです。特に農村地域には非常に多くの迷信があります。子どもたちはサマーキャンプでその迷信をどう打ち壊すかということを学びます。そして子どもたちは家に帰りキャンプで学んだことを家族に伝えるのです。

子どもたちが自分の権利と責任を知ることも重要です。権利があればそれに対する責任がある、常にこの二つが存在します。子どもたちが何をすべきかを自分たちできちんと理解すれば、自分たちのコミュニティの開発に貢献できるようになります。

またインクルーシブな自助グループも重要です。障害者の自助グループといっても子どもに障害のある親も参加します。インクルーシブなグループにすること及び持続的な発展をしていくことが貧困の削減につながっていきます。障害のある人たちは自助グループを通じて貯蓄や融資が出来るようになり、自分自身の所得創出プログラムを始めることができました。そうすることで子どもが学校に行けるようになったり、ヘルスケアサービスなども適切に受けられるようになりました。

障害のある人がディーセント・ジョブ、つまり適切で正当な職に就けるように、そしてその職に就くために必要な教育を受けられるように、私たちは労働及び雇用の見通しを改善することを目指しています。訓練と支援はずっと私たちのサポートの基盤となっています。私たちは雇用主に対して障害者を雇用するように、また職場では障害のある人の立場に沿って環境整備を促進するよう啓発しています。

(写真5)
スライスド13(写真5の内容)

この写真(写真5)をみていただくとおわかりになりますように、障害のある人たちも一緒にいろいろなことをやっています。つまり、コミュニティも障害者やその家族に対して肯定的な態度を取るようになりましたし、このような地元の取り決めなどに関して積極的に参加し、意思決定を行っています。障害のある人は全てのプロジェクトプログラムに含まれるようになり、障害に関することが地元自治体の議題に取り上げられるようになりました。

支援機器や援助サービス制度の利用へ確実にアクセスできるようにしています。これらはコミュニティの中に存在しており、特に支援機器というのはリハビリテーションサービスと同じぐらい大事なものですので、コミュニティの中で、障害のある人の身近なところで確実に利用できるようにしています。

これ(写真6)は障害のある女性がメインストリーミング開発において積極的な参加者となっているという写真です。多くの女性が写っていますが、このように男女平等に扱われるという事が女性の自信、自尊心を高めることとなりました。各コミュニティで自立した生活ができるようになり、インクルーシブな社会で尊厳をもって取り組んでいけるということです。

(写真6)
スライスド14(写真6の内容)

私たちは活動のプロセスにおいて2つのグループを作ってきました。一つは障害の当事者団体、もう一つは協同組合です。障害者団体のほうは、セルフアドボカシー、権利に関して取り組んでおります。協同組合のほうは、貧困削減、生計、雇用の機会に取り組んでおります。こうした2つのグループを設立してきました。様々なスキルの移転や能力向上の活動がこの両者に対して行われています。先ほど地元のボランティアということをお話ししましたけれど、こうした人たちが実際に協同組合のスタッフになり、共同組合のためにコミュニティで多くの活動を実施しています。活動の基本は地元のボランティアのスキルや能力を強化することです。こちら(写真7)にいる男の子はモビリティ・インディアのリハビリテーションセラピーの12カ月のトレーニングを受けました。トレーニングを受けた後は自分の村に戻り、障害のある子どもや障害のある人に対してセラピーサービスを提供しています。

(写真7)
スライスド15(写真7の内容)

障害の先を見る

私たちがいつも言っているのは「障害の先を見る」ということです。「障害者の能力を尊重する」、「メインストリームに取り組む」ということです。つまり、メインストリーム開発構想の全てに障害問題を含めるということです。またさらに「障害の先を見る」ということについては、非常に少ないかもしれませんが時には医療的なニーズなど障害に特定したプログラムも必要になります。重要なのは障害のある人とその家族をエンパワーし、その生活の質を高めるために障害に特定したプログラムを援助するということです。そうすることによって参加できるようになり、当事者意識をもつようになります。

次に、リバースメインストリーミング(逆統合)ですが、私たちは障害に特定したプログラムの中に他の恵まれない人々のグループ及びコミュニティ全体を統合するように、といつも言っています。プログラムがコミュニティ全体のためになるということを可能にしますと、コミュニティの参加と当事者意識が確実なものになります。

CBRは障害者権利条約を実現するための鍵であり、インクルージョンは全ての人に開発と人権を保障します。つまり障害のある人を含むあらゆる人の権利を実現するということです。人間の多様性、人間性の一端としての違いを尊重して障害のある人を受け入れていくことが大事です。

インクルージョンは容易にできるのです。コミュニティが参加することはCBRプログラムが成功する上で非常に重要です。コミュニティを動かすという戦略はCBRプログラムには不可欠な要素です。コミュニティのメンバーを関与させてエンパワーすることはコミュニティに存在する障壁を確実に取り除くことになります。かつ、コミュニティの姿勢の変化など生活のあらゆる面を網羅する多様なアプローチをとることによって、障害のある人とその家族をコミュニティ活動に積極的にインクルージョンする役割を確実に果たします。

そして最後に、障害のある人も含めて誰も取り残しません。

ありがとうございました。

今西 アルビナさん、ありがとうございました。

◆アルビナさんへの質問タイム

今西 少し予定よりも早く終わりましたので、昼休みを当初50分と予定していましたけれども、1時間とします。まだ5、6分時間があります。当初ですと昼休みの後にQ&Aのセッションを取っていたのですけれども、お昼休みの前に少し質問の時間を取りたいと思います。質問のある方、挙手をお願いします。質問をする時にはお名前を言っていただいて質問をしていただきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。

会場の参加者 笹田と申します。私自身は障害当事者、全盲です。今のお話しは非常に明解で素晴らしく納得できるプレゼンテーションでした。みごとに説明されていたのですけれども、その背後にある問題についての質問です。それは組織におけるトップダウンとボトムアップの場面、あるいは組織の指揮管理系統の調整がどうなっているかということです。

アルビナ 私たちの組織、モビリティ・インディアに関しましては先ほどお話ししましたように、障害のある方が43人います。この人たちは全てのレベルにおります。全体を運営する側にしましても、代表者自身も障害のある人です。また運営委員会の中心にいる7人のうち女性が4人、そのうち障害のある人は3人となっています。トップマネジメント、つまり政策決定レベルに障害のある人自身が参加しておりますし、それだけではなく、他のマネジメントレベル、例えば中間管理職レベルやファシリテーター、CBRレベルにおきましても全て障害のある人たちが参加しています。

会場の参加者 ありがとうございます。私自身の理解では、インドは組織はトップダウンのマネジメントがとても強力で、ボトムアップのシステムが非常に希薄ではないか。そういう中でCBRのシステムはボトムアップを非常に強力にサポートしているプロジェクトと理解しています。ずっとトップダウンで進んできた社会の中で、ボトムアップというのはそう簡単に受け入れられないのではないか。様々な問題も含みながら今に至っていらっしゃるのではないかということで、その辺りの具体的な葛藤や経緯をお教えいただけたら、非常に理解しやすいなと思いました。以上です。

アルビナ そうですね。お答えするのが非常に難しくはあるのですけれども、ただモビリティ・インディアは先ほどもお話しましたように、最初は2人で、非常に小さな部屋で始まったのです。そうした時から障害者や貧しい人たちの生活をより良くするためにはどうしたらいいのかということに取り組んできました。その後、徐々に組織も拡大してきましたけれども、モビリティ・インディアの活動はニーズをベースにしているということでは変わっていません。組織が大きくなるにつれて雇うスタッフも増えてきましたが、障害のある人や、そのプロジェクトを行う地域の人たちを雇ったりしてきていますので、常に草の根レベルの人たちが関わっており、私たちの方針も計画も実際にボトムアップで行われました。ニーズを集めて上に伝えるのです。そうした中で上からトップダウンのコミュニケーションがあります。

基本的にはやはりまずニーズをボトムアップで伝える、そして、草の根レベルからの意見をくみ取って、それを基本に運営しています。私たちの団体についてはそのように行われています。

会場の参加者 ありがとうございました。難しい問題がある中で非常に明解に説明していただきましてよくわかりました。

今西 ありがとうございました。それでは昼食前のセッションはこれで終了させていただきたいと思います。昼食後、予定通り13時20分からアルビナさんへの質疑応答を行います。

≪午後のセッション開始≫

今西 それでは午後のセッションに入ります。アルビナさんへの質問応答の続きです。ご質問のある方、どうぞ。

会場の参加者 AAR Japanの内藤と申します。素晴らしいスピーチをありがとうございました。子どもや障害のある・なしにかかわらず、いろいろな人を活動に巻き込むということでしたが、インドではカースト制度や女性に対する偏見というような障害があったのではないかと思います。そうしたことをどうやって乗り越えてこられたのか教えていただければと思います。

アルビナ そうですね。確かに多くの問題や課題というのはありました。インドというのは文化的にも習慣的にもとても多様な国です。特に農村地域には独自の習慣というものもあり、私たちにとっては活動が極めて難しいという状況です。けれども、私たちはローカルスタッフとしてコミュニティの人たちを雇っています。その人たちが自分たちのコミュニティの中で活動しています。このようにローカルコミュニティからスタッフを雇っているという事は私たちの強みの一つになっています。

コミュニティ・プログラムでの最初の活動はコミュニティの中に活動をしようという人たちのメンバーをつくることですが、それを行ってコミュニティの人たちの信頼を得て私たちのプログラムを受け入れてもらうのには時間がかかりますので、大きな課題となっています。しかしいったんコミュニティの人たちが、私たちの強みとしているリハビリテーションサービスなどを通して障害のある子どもや大人の生活が変わるということを実際に目の当たりにしますと、私たちの組織への信頼が生まれてきます。そうなると私たちにとっては自助グループやエンパワメント、参加などの活動がやりやすくなります。

人の生活が変わったという、なにか物理的な変化をまず実際に目にすることが必要なのです。そのために私たちは意識改革、人々の、特に女性スタッフの能力構築にとても多くの時間を費やしています。コミュニティの中で障害のある人がロールモデルになるとプログラムにとって大きな効果が生まれてきます。

今西 ありがとうございました。他にご質問のある方はいらっしゃいますか。

会場の参加者 AAR Japanの荒木と申します。いただいた資料の24ページのスライドで、ステークホルダーの中に企業というのが入っているのですが、具体的に企業とはどのような関係にあり、どのような活動をしているのかを教えてください。


スライスド16(スライドの内容)

アルビナ これは主に都市周辺のプロジェクトの一つです。都市周辺には多くの企業がありますので、そこには雇用や労働の機会があります。私たちは、障害のある人の自助グループをこのプロジェクトに関連する企業につないで職を求めるという活動をしています。これはインクルーシブのことが多いです。

例えばペンを作る会社があるのですけれども、障害者の中には実際に会社に行って作業できる人もいますけれど、重度でなかなか家から出にくいという人たちも多いのです。または障害のある子どもの親もいます。そのような場合は自助グループに対して外注してもらって収入を得られるようにしています。私たちはそのように企業とつなぐことによって障害者、もしくは他の立場の弱い人たちが仕事を得られるようにしています。つまり、企業という場合はそういうことになります。

今西 よろしいでしょうか。他にはいらっしゃいますでしょうか。では後ろの方、お願いします。

会場の参加者 再びありがとうございます。先ほど最初に質問した笹田です。先ほどとは別のことをお聞きします。今のお答えの中にもありましたが、モビリティ・インディアは非常に多様な人たちの集まりであるということですが、では共通語をどうしていらっしゃるかということについてです。モビリティ・インディアでは非常に斬新なアイディアで組織が運営されているということは、組織の中での話し合い、意見の共有化というのがとても大事なプロセスかと思います。多様な文化、言語をもつ人たちの集まりの中で、共通語をどうしていらっしゃるのか。議事録や年次報告というのは英語に統一していらっしゃるのでしょうか。その辺りの共通語の有り方について教えてください。

アルビナ 共通言語は英語ですけれども、スタッフの多くは地域の言葉であるカンナダ語も使っていますのでCBRプロジェクトの会議は主にカンナダ語です。議事録はすべてカンナダ語で作成されています。私たちの組織の発行物はすべて英語とカンナダ語の二カ国語で作成されています。また私たちは障害や様々な障害をもたらすような状況に関してのリーフレット、パンフレットなどは数種類の言葉で作成するように努力しています。といいますのは、私たちはインドのバンガロールに位置していますが、アンドラ・プラデシュ、タミル・ナドゥ、カルナータカからの人たちが多いので、よく使うのはカンナダ語、テルグ語、英語、タミル語になります。

コルコタにもセンターがあるのですが、そこで使用する資料にはベンガル語と英語がよく使われております。ただ会議ですと主に英語で行われます。多くの学生さんたちが私たちの所へ学びに来られるのですが、彼らはボランティアの人たちに英語を教えてもらっています。というのは、多くの書類を英語でも書かなければいけないからです。

会場の参加者 ありがとうございました。

今西 お二人、手が挙がっていますので、あとお二人でQ&Aセッションを終わりたいと思います。ドアの近くの女性の方、よろしくお願いします。

会場の参加者 お話しありがとうございました。私はNPO法人イランの障害者を支援するミントの会をしていまして、前のほうの席で車いすに乗っているのが理事長のパシャイという者です。私たちの団体は彼が日本の事故で車いすの障害になったので、イランの障害者を助けたいということでつくった団体です。日本からいろいろな技術や福祉用具をイランに届けたりしています。モビリティ・インディアではそういう海外のNGOの支援を受けているのかどうかということと、私たちのように海外から、例えばイランなどを支援をする場合にどういうことに注意したらいいのか、何かご助言があれば、よろしくお願いします。

アルビナ ご質問の技術的なサポートということであれば、私たちはISPO(国際義肢装具協会)から義肢装具に関して技術的な知識の支援を受けておりますし、WHOはCBRガイドラインを作成していますので、そこからも支援を受けています。車いすに関しましては私たちモビリティ・インディアもガイドライン作成に貢献しました。私たちは車いすのサービスを提供するにあたって多くの研修を実施していますが、その研修をどのように運営したらよいのか、ベーシックなものから中級の内容まで、私たちのスタッフがWHOから研修を受けています。ISPOからは、車いすの研修プログラムについても学んでいます。またインド国内におきましても様々な開発団体が実施しているワークショップがありますので、私たちのスタッフも積極的に参加し、知識やスキルを得ています。

会場の参加者 ありがとうございました。

今西 では最後に右奥の男性の方、よろしくお願いします。

会場の参加者 豊橋のNPOインド福祉村協会の三瓶と申します。私たちは15年前にインドのウッタル・プラデシュ州に病院を建設し、基本的に無料で貧困層の方々の病気を治しています。一つ質問があるのですけれども、インドの公立病院ではアシャ(Accredited Social Health Activist:ASHA)と呼ばれる方が障害者やケガ人を病院に連れていくという活動をしています。もともとは妊産婦のケアをしていたようです。南部でのMIの活動の中でもアシャとのかかわりはあるのでしょうか。また、既にコミュニティで医療系のことをしている人たちと協同で活動したことはありますでしょうか。

アルビナ はい。私たちはそうした人たちとも一緒に活動しております。アシャというのはインド政府のスキームで、実際にあちこちのコミュニティでそういう立場の人たちが働いております。そういった人たちに対しての能力構築のお手伝いもしています。例えばアシャになるには2日間のセラピーのトレーニングが必要なのですが、障害児にセラピーの介入をする場合は2日間は必要ないので、その場合、私たちモビリティ・インディアでは、アシャやヘルスワーカーに対して基本的なトレーニングを提供したり能力強化を図ったりするようにしました。

私たちは主に障害者の状況、障害を引き起こすような状況について教えています。政府から草の根レベルまで様々な人たちと連携して活動しています。実際にやり出しましたらそうしたワーカーに多くのニーズがあるということもわかりました。といいますのも、大学を出た方、医師などの専門家の方たちの中には農村地域ではどのようにしたらいいのかがまだわかってないという人たちが多くいたのです。私たちはセラピー、義肢装具に関しての知識や、障害者の状況についてCBRワーカーなどの草の根レベルのワーカーに対してトレーニングをするなど、密接に連携を取りながら取り組んでいます。

今西 よろしいでしょうか。ありがとうございました。アルビナさんへのセッションは全て終わりということにいたします。引き続き、アルビナさんにはこの会の最後まで残っていただいてワークショプ等でも皆さんの所へ回ったり、コメントをいただいたりすることがありますのでぜひよろしくお願いします。ひとまず、アルビナさん、本当にありがとうございました。