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報告書 フィンランドソーシャルファーム実態調査報告会

報告1
「フィンランドに学ぶソーシャルファームの今後の方向~「日本型ソーシャルファーム」像を求めて~」

ソーシャルファームジャパン 理事長 炭谷 茂

現在、日本障害者リハビリテーション協会の会長を務めております炭谷と申します。皆様、サンライズにお越し頂きましてありがとうございます。

今日それぞれお仕事がおありにも関わらず、会場いっぱいの人がご参加いただきまして、本当にありがとうございます。私の方からは、8月の下旬のフィンランドの調査について概括的なお話しをさせていただきたいと思います。私の後には、一緒に行っていただいた桑山さんが個別の施設の状況につきまして、説明していただきます。たぶん重複するところもあると思いますけれども、それはむしろ色々な角度から一つの施設を見た、ということで皆さん方のために宜しいのではないかなと思い、あえて重複もしてみたいと思います。

皆様のお手元にございますこのプログラムに沿いまして、お聞きいただければ有難いと思います。だいたい重要なところは全て活字として落としましたので、文字を読みながら聞いて頂けますと、理解をして頂けるのではないかと思います。

第1章 フィンランド訪問に当たっての問題意識

まず、何故このフィンランドの調査を行ったのか、私どもの問題意識についてご説明をさせて頂きたいと思います。この訪問にあたっての問題意識。第1章に書いてみました。まずは日本の実情。先ほど片石常務から話をさせていただいた様に、日本の障害者をはじめ、一般の労働市場ではなかなか仕事が見つからない人たちは大変多いわけですね。障害者、高齢者、難病患者の人たち、そして母子家庭のお母さん、また、ニートや引きこもりをしている人々、ホームレス、刑務所からの出所者。皆様、まだまだこんな人たちもいらっしゃるのかなという様なご指摘。例えば、DVの被害を受けた母親もそうだろうと思います。日本の社会には、今働いていても、なかなかこの仕事は自分に合わないと思って働いている人も含めると私は2千万人を越えているのではないかと思っております。もちろん、その中には、生活のために働かざるを得ないという人も事実だと思います。しかし、この数は増える一方でございます。

これに対する日本の対応はどうなっているのかと考えてみますと、まず国や地方自治体がお金を出して整備をする職場がございます。障害者総合支援法に基づく施設、例えば就労継続事業、また就労移行事業など色々な施設がございます。これはもちろん大変重要な職場でございます。それから、福祉工場などもその1つでしょうし、小規模作業所と称されるものもあろうかと思います。色々と公的な職場があるのですが、予算の制約上、希望を満たすにはなかなか揃わない、地域の差があることは皆さん方にもご案内のとおりでございます。一方、仕事の内容が限定されるために、もっと自分は高度なことをしたい、もっとユニークな仕事をしたいという人がいらっしゃると思います。それに合った仕事を見つけるのは出来ないということが、公的な職場の限界。また残念なことながら、手当てもなかなか増えない。もっとたくさんの手当がほしいという人もいらっしゃるのではないかと思います。このような公的な職場があるのは、主に障害者の分野が中心でございまして、例えば高齢者について整っていない。刑務所からの出所者についてはない。ホームレスについても特にない。むしろない方の種類の人が多いのではないかと考えております。

第2番目の職場として、一般企業がございます。現在障害者について言えば、障害者の雇用率は、一般企業は2.0%確保しなければいけないのですが、残念ながら日本の実情では平均1.8%に届かず、達成している企業は、45%以下になっているのが実情です。また、障害者の人は一般企業で働いても、また特例子会社に働いても、一般の本体の仕事と切り離されて障害者の方々だけが孤立して働いている場合もあるのではないかと思います。一般企業に働ければ、確かに給料は良いが、生きがいを感じないという人もいらっしゃるのではないかなと思います。このように障害者の法定雇用率が定められている同様なものはまだまだ少ないと思います。例えば、刑務所からの出所者についてはない。高齢者についてもなかなか整備されない。その他のものも同様だと思います。ですから、公的な職場と一般企業だけではどうも不十分だと、その2つを否定するものではなくてこれを補完するものとして、第3の職場として、ソーシャルファームが浮かび上がってくるのだろうと思います。

このソーシャルファームの特色というのは、労働することで収入を得るということは当然なことでありますが、むしろ他の従業員の方々、また地域住民の方々との結びつきを得る。これも大きな目的の1つであります。一般企業で、地域住民のボランティアとして働く。これはありません。ですから、ソーシャルファームの特色というのは、ボランティアとして参加していただいている地域住民の方、場合によっては労働者として働いている地域住民の方々、そういう人達の結びつきが得られる。これをソーシャルインクージョンの目的、手段として使えるわけですけれども、これを高められることも言えるのではないかと思います。

また、ソーシャルファームによってより生きがいのある仕事を用意できることが期待できます。このため第3の職場として、このソーシャルファームを何とか日本に広げられないかということで努力して参ったところであります。

そこでこれまで各種の調査をしてきました。昨年度はドイツに行って参りました。その前はイギリスに行って参りました。実地調査を行いましたのは今回のフィンランド、昨年のドイツ、一昨年のイギリスの3回でございます。でもその前には、日本に来ていただいて、イタリアやスウェーデン、その他もちろんイギリス、ドイツ、フィンランドの方にも来ていただき、日本の方に幅広く知っていただく機会を設けたわけでございます。

その中で私どもが進めようとしているソーシャルファームについて、色々な国を聞けば聞くほど、私どもはある意味、迷路に入っていくようなところがあります。国によって相当差があるなと。というのは、ソーシャルファームは未だ発展過程にある。成長過程にある証拠かもしれませんしソーシャルファームは国の経済、社会、文化などの影響を大変に受けて、いまだ一定の方向にいっていない感じを持っております。

まず一昨年前に行きましたイギリスでございます。イギリスの場合では、ソーシャルファームを行っているのは概ねチャリティー、慈善団体という法人格でやっているところがあるわけですね。また国のほうの援助は条件整備、環境整備を主にしていて、情報を提供する、また従事する職員の研修を行う。そのようなところで支援をしておりました。そしてイギリスでもソーシャルファームは発展し成長しているわけですけれども、どうも私の印象では、イギリスのソーシャルファームはどちらかといえば、だんだん民間的な色彩、経営に力を入れていこうと。ある意味、社会的企業、ソーシャルエンタープライズにだんだん類似してきた。更に言えば、社会的企業の中にソーシャルファームがのみ込まれようとしている。経営力というのを重視している、そして純粋的な民間的な経営力を生かしていこうというのがイギリスの流れです。言わば、アメリカの考え方に強く影響を受けているという印象を持ったところであります。

一方ドイツはどうか。イギリスは経験主義の国ですので、先程のようなことになりましたが、ドイツは論理を重んずる国で、ドイツの国民性らしいなと思ったのですが、ドイツはしっかりとしたソーシャルファームに関する法律をきちんと作っていて、論理的に体系をしっかりして、進めているということを知ったわけです。そしてドイツでは社会的統合企業と称して、法的地位がしっかりあります。ですから、ソーシャルファームとして経営しようとする人は、社会的統合企業という名を持っています。そして国の援助ですね、これは大変厚い。イギリスと比べて、例えば最初の立ち上げが苦労するだろうということで、相当手厚い財政援助をする。またソーシャルファームができた後も、障害者を雇用する場合、一般企業と、何らかの形で援助をしないと競争に勝てないということで、一定の不利益分の支援を続ける形の手厚い財政措置をしているというのを知ったわけでございます。更にドイツで何故これだけソーシャルファームが増えているか、また存在価値が高いかということに関して、ドイツ政府が大きな社会福祉団体、日本でいえば社会福祉法人に対してソーシャルファームをやれといったような非常に強力な行政指導をしたわけでございます。だいたい21世紀に入って、強力な行政指導で、財政力の余裕のある社会福祉団体のところは、準強制的というか、ソーシャルファームをつくらせた。当時の担当者の人は赤字になることが予想されることはやりたくないけれど、お上には逆らえないからなという形で、簡単に言えばしかたなく、と言ったほうが良いかもしれません。そういう形で最初は始めた人がかなりいらっしゃいました。しかし今は、やってみて良かったと。素晴らしいソーシャルファームとしてレストランを経営する、ホテルを経営する、またリサイクル事業をやる。色んな事業で大きく発展して、初めは渋々だったけれども、やって良かったということに今なっているわけでございます。そしてドイツの場合はソーシャルファームが今では社会的・経済的地位が一定の割合を占めているという風になっているわけでございます。したがって、例えばドイツで清掃業がある。もちろん一般の清掃業があります。そうすると、障害者が中心になっているソーシャルファームに対して、自分のライバル視はしない流れできたのですが、これからは我々のライバルになる、我々のシェアが奪われてしまうということに、今ではなりつつあるという話をしてくれました。

3番目の代表国は、ソーシャルファームの発祥地であるイタリアでございます。これは、直接、私どもは行かず、向こうから人を招いてお聞きしたところでございます。ここではイタリアらしく、協同組合方式をとっているわけでございます。そして、主な国の支援策は、国・地方自治体など公的団体がソーシャルファームでできたものを優先購入をするということで支援しているわけです。イタリアの特色は、規模が小さい。農業や小さいレストランをやったりしています。数は多いのですが、小さいものがたくさん存在するという状況です。

ここでお分かりのように、代表国であるイギリス、ドイツ、イタリア、みんな個性的で、一体どれがソーシャルファームとしていいのか、私どもの迷いがあるわけでございます。

そこで今回は、なぜフィンランドを選んだか。今から4年前くらいに、組織の代表者の女性がきてくれました。今回もその人にアレンジをお願いしました。そのとき、フィンランドではしっかりしたソーシャルファーム法があります、そして一定の役割を果たしていますといった説明をしてくれました。私どもは、ソーシャルファームは必要だけれども何かわからない時、フィンランドは比較的ドイツのようにしっかりと営んでいるという感触を持っていました。加えて、フィンランドは福祉国家でございます。福祉国家というのは、日本人の常識からすると、みんな国がやってくれる、国が手厚い福祉制度を持っているという前提の中において、障害者の方々が自ら働く、その就労というものをどのように位置づけているか、大変興味がありました。言わば、完成しつつある福祉国家において、働くとは何なのか、これの意味づけをぜひフィンランドで探ってみたいということで、フィンランドを選んだわけでございます。

これらの調査を含めてこれからは、ヨーロッパのことは大分勉強しましたので、その中において、日本型のソーシャルファーム、日本の経済社会の条件に合ったものを求めていきたいということが、私どもの問題意識でございました。これをもとにして、日本型ソーシャルファームを今日、ご出席の皆様と一緒に考えていきたい。そして作っていきたいという気持ちでございます。

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第2章 福祉国家としてのフィンランドの特色

第2章、福祉国家としてのフィンランドの特色を今回の調査を踏まえて、私の感想を含めてご報告したいと思います。まず1番目は経済の低迷です。福祉国家は、経済が充実してこそあるわけですが、残念ながらロシア経済が低迷しております。最大の貿易相手はロシアでございますので、ロシアがこければフィンランドもこけるという状況で、大変苦しい状態でございました。そして、フィンランドは農林業が主たる産業でございます。ですからあまり付加価値の高い生産はありません。かつて、ノキアという携帯電話で世界のトップをいった企業があるわけですが、今では、このノキアの携帯分野はマイクロソフトに売却してしまった。ですから今、工業は力がない状況でございました。

これらによって、失業率は9%を超えて、上昇している状況でございます。ですから、経済はフィンランドの状況は厳しいという印象をまず持ったわけでございます。こういう状態で、果たして福祉がうまくいっているのか、心配だと感じました。

2番目は、フィンランドは混合経済の国です。社会民主主義国といった方がいいでしょうか。国の役割、国の関与が大変強い。これは日本の感覚以上だという印象を持ちました。ですから、今回のソーシャルファームについても、国・地方自治体の政策の影響を大変受けていると思いました。

3番目。先ほど言ったことの結果ですが、長期失業者が大変多いのでそれが優先されている状況でございました。したがって、障害者の問題より、当面は長期失業者を優先せざるを得ないということを話してくれました。ですから、ソーシャルファームの対象は、長期失業者と障害者などがありますが、今のフィンランドの場合は、まずは長期失業者、次いで障害者という順番にせざるを得ないと感じたわけでございます。そして失業者対策、障害者対策として、職業訓練、就労施設の整備に大変力を入れています。

特に、4に書きましたけれども、教育や職業訓練を充実させることが、フィンランドの1つの国の大きな政策でございました。ですから、職業訓練が大変充実しています。ソーシャルファームにしても職業訓練を行うソーシャルファームが大変盛んであったと思います。大学院も無料、医学部も無料、お金がかからない。私どもが会ったソーシャルファームの代表が女性で、年齢は聞けませんでしたが50歳前後の人なのでしょうか。これから大学院で経営学を勉強するんだと。でも一緒にいた通訳の人に聞くと、これはフィンランドではよくあることだということで、大変うらやましかったですね。非常に向学心があるわけです。刑務所の受刑者も無料で大学院、大学に通っている人もいると教えてくれました。ですからフィンランドは教育水準が高い。従って、国際的な学力を調査するPISAでも世界で1、2を争う教育水準を保っているわけでございます。これがフィンランドの1つの大きな力です。質の高い労働者、この中には障害者の方々も高い職業訓練、密度の濃い職業訓練をして良い仕事に就く。これがフィンランドの特色だろうと思います。それは高い労働生産性を生み出している。先程話した通り、フィンランドの場合、農林業が主です。国の労働生産性が低いのかと思うと、そうではありません。労働生産性はかなり高い、この高さを維持しているのは、教育に力を入れているからだと思います。

5番目、環境政策が充実している。これはフィンランドの1つの特色だろうと思います。ヨーロッパで第1位の森林率です。それから豊かな水。特に今回行きましたタンペレでは2つの湖があって、高度差を利用して水力発電をしている。また、森の国ですから森から出るバイオマスによって、再生可能エネルギーにしている。再生可能エネルギーの電源構成率は3割になっている。日本に比べると段違いに多い。それから建物の高度制限。ヘルシンキでは、日本のような高い建物は1つも許されていない。中世の石畳を維持している。電柱は地中化をしている。このように環境に大変力を入れている国です。したがって、その環境が、福祉に対して大変良い影響を与えていると感じました。6ですが、他の北欧諸国、例えばスウェーデンとフィンランドを比べると遥かにスウェーデンの経済力は上です。スウェーデンにはボルボもイケアもあって、経済力も優れていて、桁違いに高い。しかしフィンランドは負けてはいません。なぜなら、それは教育と環境の2つの力によって国力を維持している。大変おもしろい国です。私にとっては、こういう国の行き方があるんだ、単に工業生産だけで勝つのではなくフィンランドのように環境と教育で国の力を維持・向上させている。これも非常に大きなことだろうと思います。

これが、ソーシャルファームの進め方に大変大きな影響を与えております。ちなみに、フィンランドとスウェーデンは仲が悪いと言いますか、対立関係にあるということを今回行って知りました。よく北欧4カ国と言って、お互い協力し合っているのかと思いこんでいましたが、スウェーデン語とフィンランド語は全く違う。スウェーデン人と例えばオランダ人が話し合うと、お互い違った言葉で話すけれども、なんとなく意味が通じる。それに対して、スウェーデン人とフィンランド人は、言葉が全く違うので、全く意志疎通はできない。そしてかつて、スウェーデンに侵略されたこともあります。この民族間の対立を今回強く感じました。7%のスウェーデン系の人が住んでいますが、自分たちの誇りをもっている一方、フィンランドの人はそれに対して反発している。お互いの民族間の反発がフィンランド国内であることも今回、知ったわけですが、フィンランドは非常に環境や教育が優れている。ですから、村上春樹が、よくフィンランドを舞台にして、読まれた方もいらっしゃるかと思いますが、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』。これも実はフィンランドを舞台にした小説だということであります。これは、フィンランドの人が「春樹の小説は、フィンランドが舞台になっている」と教えてくれまして、この時初めて知りました。

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第3章 フィンランドのソーシャルファーム制度の概要

第3章でございます。このような背景を受けて、フィンランドのソーシャルファームの制度はどのようになっているのか、ということでございます。まず、フィンランドにはソーシャルファーム法というものが制定されています。施行は2004年1月1日ですが、2003年に作られました。相当長い年月をかけてソーシャルファーム法をつくったということでした。できた当時の英語名は、ソーシャルエンタープライズ、社会的企業と翻訳したが、これは誤りだったと政府の人も言っていました。ですから、英語名はソーシャルエンタープライズ法となっていますが、中身はソーシャルファーム法として考えていいと思います。

法律の目的ですが、長期失業者と仕事に就くことの困難な障害者、仕事に就くことの困難な長期疾病者、大きく言ってこの3分野に分かれます。

まず長期失業者。これが入るのは、フィンランドらしいところです。定義としては、1年以上失業している人などとなっています。現在9%の失業率ですから、大変高い割合を示しております。そして、移民というのは、フィンランドにはあまり入ってきません。なぜなら経済力、働くところが少ない。移民は少ないんですけれども、それでもいる。それから元受刑者。そういう人たちが真っ先に失業してしまう。そのために長期失業者としてソーシャルファームの対象になっている人もかなりいらっしゃるという話でございました。それから障害者。本来のソーシャルファームの目的です。3番目に長期疾病者。これは、医師の診断を要します。精神疾患の方、慢性病の方となっています。そう考えると、もっとほかにたくさんのカテゴリーの人がいらっしゃるのではないかと思います。例えばホームレスはどうか。長期失業していない元受刑者の人はどうなのか。母子家庭のお母さんはどうなのか。いろいろ抜けているカテゴリーがあるのではないかと思いますが、現在は3つということでやっております。

(2)ソーシャルファームの登録ですが、登録する条件は3つです。対象者が30%あるということが1つあります。それから対象者と労働契約に基づいて通常の給与を払う。通常というのは、必ずしも健常者の給料と同じでなくてはならないという原則ではないようです。労働に合う給料ということで、同一賃金という意味でもないようです。労働に応じた賃金を支払うというわけでございます。それから、労働時間は、失業者の場合は一般に定められている労働時間の75%以上、障害者は50%以上を労働時間とするとなっています。所管省は雇用経済省でございました。そこに登録をする。そして登録をした企業のみがソーシャルファームの名称を使用できる。問題は、登録要件を満たさなくなると取り消される仕組みになっていました。次の財政援助措置でございます。まず設立するときには、資金が援助される。ただ、調査費やコンサルタント費用で、ソフト面が中心のようでした。これは1年間出される。費用の75%を上限にして支給されるということでございます。実際に立ち上がった後の主な援助は、給与の支援があります。ただ、少し気をつけなければならないのは、公的雇用サービス法に基づいて行っています。従って、ソーシャルファームだけが適用になるのではなく、長期失業者や障害者などを雇用している他の一般企業にも同様に適用になっていて、それを使っているということです。一般企業全体については、失業者に対して1年間、障害者については2年間支援することになっています。ソーシャルファームに限っては、失業者は同じく1年ですが、障害者については3年間給与の支援をする。しかし、障害が改善しなければ、ほとんどの人は改善しない人が多いのですが、その人は働いている限りずっと続くということでした。そして、ここで言い切るには自信がないのですが、この障害が改善しなければ、ずっと続くというのは、ソーシャルファームだけが適用になるのではなく、一般企業全体に対しても適用になるだろうと、そういうニュアンスで話していた。このニュアンスで話していたというのは、文書で確認しないといけないのでお許しいただきたいのですが、どうも、他の企業も同様に障害者を雇用している間は、最初は2年間で切れるけれども、障害を持っていたらずっと続いていくというようなことで話していました。あまりソーシャルファームになったからといって、この分野については大きなメリットはないということでございます。

援助枠の上限は、他の一般企業も同様に適用され、障害者失業者の給与額の半分、対象者1人当たり月1,300ユーロ(17万5,000円)が上限として出すということになっています。ですので、私の印象としては給与については、ソーシャルファームになったからといってメリットは少ないと考えた方がいいと思います。

それでは、ほかにどんなものがあるかと言えば、ソーシャルファーム支援機構というものがあります。機構というのは、こういう団体があるのではなく、ソーシャルファーム支援機構という機能を持ったものを、ある団体にやらせるというものです。よく、日本の指定法人という考え方がありますが、それと似ています。ソーシャルファームについて、経営上の助言をするという組織でございます。この費用は雇用経済省が負担していますけれども、2004年から2008年までバテス財団という我々のプログラムを作ってくれ、ソーシャルファームを推進していた団体が、指定を受けて、ソーシャルファーム支援機構としての役割を果たしていました。2009年からは、国立健康福祉支援機構がソーシャルファームの支援機構の役割を果たしています。

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第4章 フィンランドにおけるソーシャルファームの位置づけ

第4章。このようなことを前提にして、フィンランドではソーシャルファームがどういう位置づけがなされているか、ということでございます。フィンランドの就業促進政策の流れについて考えてみたいと思います。ちょうど良いことに、後ろのほうに、向こうの人が出してくれた資料がついています。これを見て頂ければ大変わかりやすいです。プログラム20ページをご覧ください。

これは、バテス財団からいただいた資料です。これを見るとわかりやすい。どのようにして、長期失業者、障害者を一般労働市場に引き上げていくかのフローです。一番下に、失業給付または年金受給を受けている。次にコーチングや訓練をする段階でございます。そして支援付雇用にもっていく。そして一般労働市場へという流れを描いています。そこで、ソーシャルファームはどの部分を担うかというと、私の理解では、矢印が少し不明瞭ですが、コーチング・訓練から支援付雇用、一般労働市場、この後ろの3段階をソーシャルファームが担っていくことだと思います。これが、ソーシャルファームの位置づけです。ですから非常に幅が広いんです。フィンランドにおけるソーシャルファームの位置づけです。3つの役割を持っていると考えていただければいいと思います。

今申しました通り、第4章の2に書かせていただきました。3つの役割があります。3に書きましたが、私の結論的な印象ですが、ソーシャルファームの政策としての位置づけがフィンランドでは明確に整理されていないのではないかという印象を受けました。これは、フィンランドは、法律をしっかり作ったけれども、どこかの国のものを真似たのではないかなという印象。厳密に哲学を持ってやったという印象は持たないですね。あまり言うとフィンランドの国の人に申し訳ないのでここでストップしますが。したがって、フィンランド政府としてソーシャルファームを何が何でも普及するという積極性がやや乏しいのではないかという印象を受けました。また先ほど言った3つの役割がありますが、一体ソーシャルファームは何だろうかという体系的な乱れというものも感じました。ですから先程、支援策を色々お話ししましたが、ソーシャルファームは一体何なの?と、皆さん方は思うと思いますが、私もそういう印象を持ちました。

現在のフィンランド政府は、政党も含めて障害者等の雇用促進に大変熱心です。そして5月に誕生した新しい総理大臣が大変熱心で、総理就任後、直ちに日本に来たそうです。日本は障害者や失業者の就労支援策がうまくいっているからといって、勉強されたと聞きました。ですから非常にやる気があると感じました。ただ、結論的には、バテス財団の見方は、新総理はどうもソーシャルファームだけに期待しているわけではなく、色々なところに役割をお願いしたいと思っているようです。ですからソーシャルファーム法の制定当時から、混乱している。これはソーシャルファーム法ではなくて、ソーシャルエンタープライズ法と誤訳したと言いましたが、そういうことも生じたのだと思います。

4。このために、国はどうも腰がしっかりしていない。我々が聞いてもよくわからないところがありますので、ソーシャルファームの要件には合致しているけれども、ソーシャルファームの許可、登録をしないで経営をしている企業がむしろ多いというわけでございます。ですから、一般企業で、実質的にソーシャルファームというところが多いわけです。なぜなら、一般企業でもほぼ同様な財政援助が受けられる。それから、ソーシャルファームになると、日本の役所以上に、向こうは国の力が強いですから、いろいろと指導される。こんなのたまったもんじゃないと面倒くさがる。特に労使関係が面倒くさくなるということで避けると言っていました。

ここが重要なのですが、ソーシャルファームをとっていないけれども、フィンランドにはソーシャルファームはたくさんある、という風に考えていただければと思います。その一方、ソーシャルファームを取得している団体にも会いました。なぜとっているかといえば、自分たちは社会貢献がしたい、それをはっきり位置づけしたい、ソーシャルファームのほうが企業のイメージアップになるということで、とっているということでした。

5。しかし、ソーシャルファーム的な組織の必要性、重要性は国も団体も認識しております。そしてスタート時点では体系が乱れたけれど、やはり何とか推進しなければならないというのが政府の考え方でした。我々行った最初のときも、わざわざ雇用経済省のアドバイザーの人、政府の高官が来て説明をしてくれました。その1つの方法としてジョブバンク、仕事バンクと翻訳しましたが、英語名ではジョブバンクと言っていました。そういうものもやっている。ソーシャルファームが普及しないから、何かできないかということで、もう一方の役所、社会福祉保健省が、障害者や長期失業者等の雇用促進を行うためにやっています。2009年に始めました。

当初は30のバンクを作ろうとしましたが、現在は15バンクでございます。ケータリング、クリーニング、家具製造、リサイクル、消費者調査など、非常に高度なこともやっています。これらの仕事を、ジョブバングというところがやっているわけです。2014年、昨年は約1,000人がここで働き、主に障害者や長期失業者が中心でございます。ここでは、就労の場を創出する。条件としては、国からの補助金が出るけれども、利益を上げてもらわなければ困る。そして従業者の30%以上は、障害者、長期失業者などの就職困難者である。そして運営資金を援助する。給料の補助、これは先ほどと全く同じですね。障害者等の補助金が出ますので、それを活用する。それに上乗せして3年間、月に1,500ユーロ、20万円程度、運営費として上乗せをする。更に対象者が例えば障害者が一般雇用になった場合、ボーナスとして報奨金を払う。その人の障害度に応じて、重い人が一般企業に行った場合は、よりたくさんのボーナスを払う、ということで幅がございますけれども、1,200~4,200ユーロの幅でボーナスを出す仕組みで、なんとかジョブバングで、ソーシャルファーム的な企業体を増やしていこうということがフィンランドの今のやり方でございました。

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第5章 フィンランドのソーシャルファームの現状と今後の方向

それでは、フィンランドのソーシャルファーム、実質的なソーシャルファームを含むところが重要でございますが、この現状と今後の方向についてお話を進めたいと思います。まず1、優れた経営成果を上げているソーシャルファームは、かなり存在しています。(1)。後ほど、もっと詳しく桑山さんからお話をしていただきますから、ポイントのみお話します。タンペレ市は、有名なムーミン谷の博物館があるところでございます。ヘルシンキから2時間程度かかるフィンランド第2の都市です。といっても人口が20万人ですから、フィンランドの人口規模が知れるだろうと思います。ティトリュ協会、発音が難しいですね。そこに行きました。ここは、私どもが見たソーシャルファーム的なものの中では一番優れていると思いました。ソーシャルファームは名乗っていませんでした。

なぜかというと、ソーシャルファームだと役人が来てうるさいだけ、自由にやらせてもらった方がいいからということでした。金属加工製品として1,700種類の製品を作っていますが、90%以上が輸出品です。製品の精度は高度なものを問われるわけでございます。さらに病院や役所に対して、制服や作業衣を製造する。賃金は、障害者の人もかなり働いていましたが、経営者は、ここはほぼ一般企業と同じだと言っていました。そして、経営者はもともと一般企業で働いていた人がこの協会の経営をしており、素晴らしい魅力ある人で、高い経営力を持っていました。そして、輸出先も開拓をしなければいけない。病院や自治体から注文をとってこないといけない。その仕事の開発力は凄いものがあったなと思うわけでございます。実際工場を見ても普通の工場に負けない最新設備を入れていました。食堂でお茶を飲みましたが、その食堂もなかなか大したものだったと思います。

次に(2)テュオホンヴァルメンヌス・ヴァルマ・リミテッド。市はラフティというところで、ヘルシンキから1時間ぐらいのところにあり、人口10万人の規模でございました。ここは音楽好きの人だったらご存じのように、シベリウスホールのあるところです。そこも訪れて、木材の大変すばらしいコンサートホールがある市です。ここも株式会社であるけれどもソーシャルファーム的でございました。本人たちも、自分たちはソーシャルファームという気持ちでやっているということでした。ここも大変製品に工夫をしています。フィンランドらしく、木工製品を得意として、特許を取得したゲーム、これは後ほど桑山さんから説明がありますが、特許をとってブランド力を持って、フランス、スペイン、オランダなどに輸出しているということでした。

ここは下から2つ目に書きました通り、長期失業者の訓練も大変活発です。その訓練手当も国から出るということです。そしてフィンランドらしく、自治体からの出資でやって、国や地方自治体が、相当関与している。これが一つのフィンランドの特色です。

(3)ヘルシンキ・メトロポリタン・エリア・リユース・センターです。ここは、ソーシャルファームなのですが、すごい規模ですね。ヘルシンキの中にあって、もともとはヘルシンキの清掃工場だった施設を借りてやっているものでした。家庭にある、あらゆるもののリサイクル、リユースをやっています。我々が行ったときも家具や電気製品、本、衣類、何でも集まっていました。こんな大規模なリサイクルセンターは見たことはありませんけれども、相当大きなものでした。

ここは事業収入7億4,000万円。働いている人も325名、この中には障害者や長期失業者も含まれていました。また、持ち込むのは市民の方ですが、無償で引き取るわけですが、我々が言った時も、積極的に自動車でどんどん持ち込んでいました。

(4)ポシヴィレ株式会社。ヘルシンキのソーシャルファームでございました。ソーシャルファームと言っても、ここは訓練をしているソーシャルファームです。障害者、長期失業者を、その人の特性で、病院や福祉施設に派遣して清掃や介護などをやっているところでございます。ヘルシンキ市が出資して作ったソーシャルファームです。経営は大変順調でございまして、この施設長がさっき言ったヘルシンキの大学に行って修士課程を取ると言っていた人です。以上が、フィンランドは、実質的なソーシャルファームを大変がんばっているという印象でございます。

2。ソーシャルファームにおいて、そこでの研修、教育の役割、機能を重視することがございました。これが1つのフィンランドらしいところで、ソーシャルファーム自身が教育や研修を行っている。タンペレのシルタ・ヴァルメンヌスはソーシャルファーム的なNGOで教育や職業、リハビリなどを実施しているとこでございます。別途、モニタという子会社を持っておりました。ここでは失業者、障害者、犯罪者、麻薬中毒者、不登校者などを雇っていました。大規模な事業規模で、毎日350~400人の訓練をして、高い水準の職業訓練をして送り出している。ほぼ8割の人が、しっかりとした訓練をして就業していくとのことでした。

3でございます。前からお話した通り、非常に自治体等の公の関与が強い。自治体は相当な応援をしていると。これがフィンランドの混合経済の一つの特色だろうと思います。出資をしている、補助金を出している。しかし、逆に地方自治体の景気が悪くなっていくと、もろに受けてしまう。ですから、先ほど私は給料の差額を補助してくれると言いました。日本であれば、給与の補助というのは財政が悪くなっても必ず補助をすると思うんですね。しかしフィンランドでは、財政が悪くなると、減額されたり、出なくなってしまうということを言っていました。障害者を雇用しても、フィンランドの国家財政が危ないから今年はなしよ、みたいなことがある。驚くことではないと言っていました。

4.市民、各種団体の積極的な参画・支援。これは大変感じました。
ボランティアとして働いている人もいました。特に環境の面で大変に熱心ですから、例えば自宅で余ったものをリサイクル製品として届けるというものもございました。これが、障害者等への配慮の形で現れている。こういう意味では、ソーシャルインクルージョンの実現になっているだろうと思います。

5.今後の方向。シピラ首相が今年5月に就任しました。この人は障害者等の雇用に大変熱心に取り組む方針を持っていて直ちに日本に勉強に来られたと、説明を受けました。ですから、新しい方向が打ち出されるのではと、皆さん期待をしておりました。そしてソーシャルファームについても、もっと力を入れなければと、新しい政策が出されるのではないかと期待がされていました。以上が、フィンランドの特色でございました。

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第6章 全国団体の役割

そこで第6章、私どもがお世話になったソーシャルファームの全国団体について、ご紹介しておきたいと思います。このプログラムを作っていただいたバテス財団は、1993年に設立されました。障害者団体が、現在は36団体がメンバーですが、お金を出し合って作ったものです。それに加えて、スロットマシーンという公営ギャンブルが導入されるとき、この収益の一部を寄贈するということを条件で公認ギャンブルが開始された。財政的に大変潤っているという話でした。ここでは、ソーシャルファームを進めるための色んな情報収集や職員訓練などを行っているということでした。

今は、新しい総理が生まれたこともあり、私もそういう印象を受けましたが、ソーシャルファームはどうも混乱していて、これをうまく進める方法がないかと検討が進められているとのことでございました。

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第7章 「日本型ソーシャルファーム」を目指して

第7章、「日本型ソーシャルファーム」を目指して。結局、私どもがフィンランドに行ったのは、「日本型ソーシャルファーム」はどうしたら良いかということでした。1、理念は各国共通で、全く同じです。今日の必要性・緊急性はいずれの国もきわめて強い意識を持っておりました。しかし、制度の組み方は、各国の経済・社会構造、文化、既存の制度等によって大きな差異が存在しています。ですからある意味、「日本型ソーシャルファーム」というのは、あっていいのではと思うわけです。

そこで、「日本型ソーシャルファーム」の重要な構成要素を、部門別に考えてみました。まず、働く人。(1)障害者、難病患者、高齢者、母子家庭の母、ニート、ひきこもりの若者、刑務所からの出所者、ホームレス、在日外国人といろいろです。通常の就労市場では適切な仕事が得られない人に就労の場を提供する。これが1つの重要な要素であるということは言うまでもありません。

(2)健常者もこのような当事者と対等の関係で働く。ですから、当事者だけが孤立して働くのではなく、このような健常者も一緒に働く。しかも当事者と同じ立場で働くということでございます。ここではボランティアも積極的に受け入れる。(3)これによって、本来のソーシャルファームの目的であるソーシャルインクルージョンの確立が図られるわけでございます。(4)経営の基本方針。これも重要です。事業内容は、従事者の適性にあった、生きがいを感じるものとする。給料は従事者にとって満足できる額を目標にする。なかなか難しいですが、目標としてそのようなことをする。(5)経営は、一般の市場での、経済活動を行う。したがって一般企業と同様なビジネスマインドを経営の柱とする。(6)公に依存することなく、公の制度があるからといって全面的に依存するのではなく、常に独立的な精神と方針を基本にして、経営にあたり、経営の安定・発展を期するということでございました。(7)ソーシャルファームといっても、日本の社会構造の1つです。日本の経済にも貢献できると思います。(8)活用できる支援制度は積極的に活用する。いろいろな国、地方自治体の制度があるので、積極的に活用していく。これは(6)の「公に依存する」とはまた別の次元の問題だろうと思っています。次に、以上を考えて現行制度との関係ですが、(9)日本におけるソーシャルファームには、上述の事項を履行されることを前提に、現行制度における、例えば特例子会社、障害者総合福祉法等を活用して、設立・経営することも考えられるだろうと思います。(10)いずれも、制度を利用する場合でも、究極的には完全に自立し、一般企業と同様な起業を目標にして日々前進する。達成は難しいと思いますけど、究極的な目標として掲げることは必要だろうと思います。(11)まちづくりとしては、孤立するのではなく、地域の住民、企業、団体、行政と連携して、地域全体のまちづくりを目指していくことが必要ではないかということで提案をしていたわけです。

これまでの外国の実情、また日本でこれまで努力されている方々の色々なご意見をもとにして考えてみたわけです。予定した時間を1分ぐらいオーバーしましたが、ご静聴ありがとうございました。

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