日本型ソーシャルファームの推進に向けて
参考資料 日本におけるソーシャルファームの現状と今後の方向
ソーシャルファームジャパン理事長
恩賜財団済生会理事長
炭谷 茂
1 ソーシャルファームの必要性
(1)自分に合った適切な仕事に就くことが困難な人が多数の存在、増加も。
障害者、難病患者、高齢者、母子家庭の母、引きこもりやニートの若者、刑務所出所者、ホームレスなど
(2)現在の2種類の就労先
① 税金の投入された公的な職場
商品の競争力が乏しく、給料が低い。やりがいを感じない場合も定数、所在地が限られているうえ、障害者のほかの対象者には一般的にない。
② 民間企業
当事者の能力等から雇用先を得ることが困難なことが多い。
(3)第3の職場として「社会的企業」が必要
社会的目的をビジネス手法で果たす組織
当事者の雇用を目的とするソーシャルファームは、その一種
2 ソーシャルファームの沿革
(1)ソーシャルファームは、1970年代末にイタリア・トリエステで誕生。
精神病院入院患者が病院職員とともに地域で就労する施設を設立
(2)その後精神障害者だけでなくすべての障害者、刑務所出所者、DV被害者、ホームレスなど一般の労働市場では就労することが困難な人を広く対象にイタリアのほかにドイツ、イギリス、フランス、オランダ、フィンランド、スウエーデン、ポーランド、ギリシャ、リトアニアなどヨーロッパ全体のほかオーストラリアなどにも広がる。
(3)今日ではヨーロッパ各国で障害者、刑務所出所者等一般の労働市場では就労の場を見つけることが困難な人に対し、一般の労働者と一緒に仕事をする場を提供するために必要な組織として発展。
さらに単に当事者に就労する場を提供することだけでなく、
① ビジネス手法で経営することにより市場で競争できる優れた製品・サービスを生産
② 当事者が給料、労働時間等の労働条件で一般の労働者と同一の処遇を受けるという特徴を有することにより当事者の「働き方」が変わり、働き甲斐や誇り、自尊心を得、地域の一員となってソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の実現に大きな役割を果たしている。
3 ソーシャルファームの要点
(1)障害者等労働市場で就労の機会を得ることが困難な者や不利な立場に置かれている者が働く場を創設する。
対象者として障害者、難病患者、高齢者、長期失業者、引きこもりやニートの若者、母子家庭の母、DVの被害者、刑務所出所者、薬物依存症、ホームレスなど多種多数に及ぶ
(2)障害者等当事者と健常者が一緒に対等の関係で働く。
国よって基準を定めている。
ソーシャルファーム・ヨーロッパ(CEFEC)30%以上
ドイツ最低25%上限50%イギリス25%以上
フィンランド30%以上
(3)給与、労働時間等の労働条件は、原則として一般の労働者と同一の基準が適用
(4)一般企業と同様のビジネス手法を基本とする。
一般市場で販売できる優れた商品・サービスの生産・提供
利潤を上げ、再投資する。
障害者の場合は、障害程度に応じて助成金が支給される国が多い。
(5)当事者の生活適応訓練機能や職業訓練機能を持つ。
(6)業種として
リサイクル、リユース、レンタル、農業、清掃業、住宅修理、コンビニ、レストラン、ケータリング、ホテル業、観光事業などあらゆる分野にわたっている。
(7)国の関与は、各国によって差がある。
ソーシャルファームに関する法律の制定(ドイツ、フィンランド、イタリア、ギリシャ、ポーランド、リトアニアなど)
経営主体
① イタリア、ポーランド、ギリシャ
専らソーシャルファームを経営するための社会的協同組合を設立
② ドイツ、フィンランド、リトアニア
企業等が一定の要件に該当すればソーシャルファームとして認定、登録することによってソーシャルファームと称し、特典を受ける。
支援制度
① 助成制度
設備費等設立に要する費用
設立に当たってのコンサルに要する費用
当事者の人件費の一部など
② 税制優遇措置
法人税の減免
消費税の軽減など
③ 国や地方自治体による優先購入、優先契約
経営指導、研修、情報提供
4 各国の状況
(1)ドイツ 「ソーシャルファーム法」を2001年に制定
設立時にコンサル、設備費を補助
設立当初3年間は人件費について手厚い財政援助
法制定後、国は大規模な社会福祉団体にソーシャルファームを設立するように強力な行政指導
規模の大きなソーシャルファームが多数活動
(2)フィンランド 「ソーシャルファーム法」を2004年に制定
設立に要する費用を補助
運営費については当事者の人件費の援助
職業訓練の機能を持つものもある。
(3)イタリア 「社会的協同組合法」を1991年に制定
ソーシャルファームを社会的協同組合で設立
当事者の社会保険料の免除で援助(人件費の約3分の1に相当)
国、地方自治体による製品・サービスの優先購入
比較的小規模なソーシャルファームが数千のレベルである。
(4)イギリス 全国団体であるソーシャルファームUKが1999年に発足
有限責任会社、チャリティ等の法人格でソーシャルファームとして活動
政府は、情報提供、職員の研修等で援助
5 日本での状況
(1)日本においては地域の障害者等のニーズに応じて、ソーシャルファームと同様、または類似した団体の設立が進められている。
形態、財源、規模等は、かなりの差異
(2)2008年に「ソーシャルファームジャパン」を発足させ、日本においてソーシャルファームの設立を推進
ソーシャルファームの設立・運営の方法の研究、海外との情報交換などを行う。
一昨年から「ソーシャルファームジャパンサミット」を年に1回開催(2014年北海道新得町2015年滋賀県大津市)
2016年は10月8日、9日つくば市つくば国際会議場でフランスのソーシャルファームの実践家を招いて開催
(3)2016年4月超党派のソーシャルファーム推進議員連盟が発足
会長 小池百合子元環境大臣 事務局長 木村弥生衆議院議員
各党から多数の国会議員が加入
すでに2回の会合
(4)設立実例
① 「共働学舎」(北海道新得町)
障害者、引きこもりだった若者、ホームレス等約70名が共同生活
日本で最高水準のチーズを製造、販売。年商2億円
NPOとして運営
② 「エコミラ江東」(東京都江東区)
知的障害者が江東区内で発生する廃プラスチックのリサイクル事業に従事。
NPOとして運営
③ 「たんぽぽ」(埼玉県飯能市)
精神障害者等に健常者が加わり自然農法で野菜作り
収穫した野菜を食材としたイタリアレストランを飯能駅前に
NPOとして運営
④ 「がんばカンパニー」(滋賀県大津市)
知的障害者がクッキー製造
東京、名古屋のデパートで販売。年商2億円
社会福祉法人として運営
⑤ 「ハートinハートなんぐん市場」(愛媛県愛南町)
精神障害者によるシイタケ、アボカド栽培、レストラン、ドッグラン、温泉の経営。
地域住民の就労先にも
NPOとして経営
6 日本におけるソーシャルファームの主な課題
~日本型ソーシャルファームの確立を求めて~
(1)法的、財政的整備
① 法人格
社会福祉法人、公益法人、NPO、株式会社等との関係
② 財政援助
立ち上げ時の費用援助
運営費
→ ソーシャルファームの本質との関係
③ 税制
優遇措置
④ 優先購入制度
⑤ 基本法の制定
(2)他制度との調整
障害者雇用促進法
特例子会社
障害者総合支援法
就労継続支援A型など
生活困窮者支援法
(3)競争力のある商品等の開発
(4)販売の拡大
認定制度の活用
ソーシャルファームジャパンロゴの添付
(5)指導者の養成
研修制度
(6)採算の確保