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日本型ソーシャルファームの推進に向けて

報告3「イギリスのソーシャルファームの現状と課題」

キース・シモンズ ソーシャルファーム・ウェールズ 業務部長

皆さん、こんにちは。キース・シモンズと申します。私はソーシャルファーム・ウェールズで働いておりますが、今日はすべてのイギリスにおけるソーシャルファームのサポート団体を代表してお話しさせていただきたいと思います。私のプレゼンを始める前に、まず皆さまに感謝を申し上げたいと思います。日本への旅をこんなにも充実したものにしてくださった方々、特に日本障害者リハビリテーション協会の皆さまには、日本を訪れ、お話しする機会をくださったことに心からお礼申し上げます。私にとっては初めての来日ですが、呼んでいただいて大変光栄です。日本のさまざまな障害のある人のための真の雇用機会創出に向けてのすばらしい活動を拝見することはとても興味深く、日本で行っていることに関して私も学びたいですし、皆さまもヨーロッパのことから学んでいただければと思います。

次に、ヨーロッパから訪れた私と同僚たちは、金曜日にソーシャルファーム分野におけるすばらしい活動を直に見ることができました。社会福祉法人しんわルネッサンス、NPO法人エコミラ江東、そしてスワンベーカリーを訪問させていただきました。これに関して私とヨーロッパの同僚たちに日本においてソーシャルファームでどのような活動をしているか、見せてくださいましてありがとうございました。

これら3つの団体はそれぞれ違う構造で違う活動をされていました。けれども障害のある人たちに有給の仕事を提供しているということでは同じでした。ですので、この3つ、すべてソーシャルファームと言えると思います。

その中でエコミラ江東が1番イギリスのソーシャルファームに似ていると思いました。つまり、コミュニティとのつながりもしっかりしており、民間セクターからの投資もありますし、商品のマーケティングもイギリスのソーシャルファームがやっているのと非常に似ていました。

また、炭谷さんのプレゼンを非常に興味深く聞かせていただきました。日本がどのようなソーシャルファームのモデルを作っていくのか、非常に関心を持っています。そして日本の今の状況というのはイギリスと大きな違いがあるとは思いません。2008年の金融危機以来、ソーシャルファームに対するニーズはかつてないほどに高まっています。イギリスでは、日本もそうだと思いますけれども、公共部門、日本ですと国営部門が大いに削減されて、その結果、不利な立場にあり仕事を見つけることができないと分類されている人の数が増えています。これには就労可能と再評価され、福利厚生を奪われた障害のある人が大勢含まれています。日本においては障害者年金と言っているかもしれませんが、私たちはベネフィットと呼んでいます。

レンプロイ公社のことはご存知かもしれませんが、2009年から2014年までに障害のある人のために10万件以上の仕事を創出しました。多くの人は、レンプロイの工場で働く障害者たちでした。こちらはイギリス政府から多額の補助金を受けていましたけれども、2013年以降、障害のある人も一般就労すべきだという考えが始まり、資金援助の大部分が段階的に削られていきました。

レンプロイの主な課題の1つは、先ほども言いましたけれども政府からの支援をとても受けていましたので、市場先導型ではなかったということです。これがレンプロイモデルとソーシャルファームの違いを際立たせると思います。

ソーシャルファームは労働力の大体25~50%が不利な立場にある集団となっています。けれどもレンプロイは大体90%がそういう立場の人たちでした。ですので、今イギリスでは非常に困難な時期とも言えます。民間部門は新たな雇用を多数創出していますが、非常に競争の激しい国際市場で、障害のある人や不利な立場にある人にはほとんど開かれていません。

先ほど申し上げたように私はソーシャルファーム・ウェールズで業務部長を務めています。イギリス全土のソーシャルファームに関する概要を紹介しようということでお話ししています。日本とイギリスを比較する際に、広い視野で眺める助けとなれば幸いです。

イギリスは4つの国から成り立っています。5,390万と一番人口の多いイングランド、300万ちょっとの人口をもつウェールズ、これが私の出身のところですが、それから500万ちょっとの人口のスコットランド、そして200万弱の人口をもつ北アイルランド。最近の調査で言いますと、1,100万人が障害や機能障害、長期疾患を持っていますけれども、これは人口の17%に相当します。もちろん就業可能な年齢の方たちだけを考えるとまた数字は違ってくると思います。人口に関しては、イギリスは日本の約半分とお考えください。

スコットランドの議会、ウェールズの国民議会、北アイルランド議会が権限を委譲されまして、1999年以降、イギリス全土のヘルスケアやソーシャルケアの資金調達が急速に変化しました。現在、大部分はそれぞれの政府に移譲されていますが、手当や社会保障については北アイルランドを除いて委譲されていません。政治環境の変化とともにソーシャルファームUKは一度解散し、その後、各国に関連のある課題に取り組むソーシャルファーム・イングランドとソーシャルファーム・ウェールズ、ソーシャルファーム・スコットランド、そしてソーシャルエンタープライズ北アイルランドという4つの組織が設立されました。

ヘルスケアとソーシャルケアの資金調達に関しては、イギリスの地方自治体にさらに委譲されました。一部法令で定められたサービス以外は、地方自治体は管轄する地域の人々のニーズを満たすサービスを自由に提供できます。法令で定められたサービスの中には、障害者に関するものが含まれていますが、受け取ることができる資金がどんどん減少しているため、地方自治体はその運営に悪戦苦闘しています。

レンプロイの解体については前に述べましたが、その外にも障害者の多くの人たちが再評価されて、就業可能、あるいは仕事ができるだろうというふうに評価されてしまい、その結果、実際の雇用に就けるのが難しくなっているという状況があります。

炭谷先生が先ほど日本においてのソーシャルファームの定義についてお話ししていました。イギリスではどんな定義かというと、こちらのとおりで、それほど異なるものではありません。ソーシャルファームとは社会的排除と経済的無活動に対する解決策を、特に障害のある人など不利な立場にある集団の労働市場への統合を通じて提供するために作られたビジネスです。

このソーシャルファームには3つの中核をなす原則があります。企業と雇用とエンパワメントです。まず企業は、ソーシャルファームは存続可能で市場先導型でなければいけないということです。しんわルネッサンスがまさにこれでして、ホンダと協働し、トマトジュースを作る工場を作って市場を拡大しました。とても美味しいトマトジュースです。また、熱帯低気圧に耐える、塩害に強い木を育てていこうという活動もしていて、私たちはそこの温室も見学することができました。まさにそのように、収入の50%以上は商品やサービスの売り上げを通じて生み出そうということを目指す、そういう企業がソーシャルファームであります。そして最終的には補助金への依存を減らしていこうということです。イギリスの場合には、80~90%の収入を、商品やサービスの売り上げが占めるソーシャルファームが多く出てきている状況にあります。まだ100%にまで至っていないというのは、まだまだ補助金が必要なところがあるということです。

それから、雇用というもう1つの原則です。イギリスの場合、ソーシャルファームは、従業員の25%以上が障害者、あるいは別の点で不利な立場にある人とすることに同意しています。多くのイギリスのソーシャルファームは、不利な立場にある人を50%雇用しています。そしてすべての従業員はきちんと通常の人たちと同じ権利を有していて、全国の生活賃金以上の賃金を受け取り、雇用契約を結ぶ個人として扱われています。

そしてエンパワメントという言葉。これがもう1つの原則です。ソーシャルファームはすべての人による完全参加をもたらします。そして本当の職業体験を提供して自信と自尊心の構築を助けます。それからソーシャルファームはさらに進んだ次の雇用への足掛かりと考えることができて、そのようにみなされています。

またさらに有給の仕事を提供するとともに、有給雇用への移行の準備ができていない人がいますから、その人たちにとっての研修やボランティアの機会を提供することにもなります。イギリスのシステムが日本のシステムと大きく異なる点についてですが、障害のある人が有給の仕事を得た場合、手当に反映され、ある程度の収入を得られるようになると、理論上、手当を受け取れなくなるというのがあります。この部分に関しては金曜日にちょっとお話ししましたが、エコミラ江東の皆さんたちは、例えば年金や資金援助が減らされることなく収入を得ていますというお話を伺いました。

イギリスの場合にはソーシャルファームを非営利団体とは呼ばず、個人的な営利のためではない、というふうに考えます。ですから最終的に利益が出たら目的を達成するためにまたそのソーシャルファームに再投資される。一般企業と違い、利益は株主には配分されません。

さて、こちらのスライドは、ソーシャルファームのマッピングです。どれだけのソーシャルファームがあるのか、ソーシャルエンタープライズがあるのか、きちんとモニターしようとしても、実は極めて困難であるということがわかりました。なぜかというと、ソーシャルファームとソーシャルエンタープライズの定義を満たすビジネスは多いのですが、必ずしも自分たちをそのように見ていなくて、マッピングのエクササイズに参加しないケースがあるということです。ソーシャルファームに関する法律がイギリスにはないため、組織のマスターデータベースのようなものがなくて、従来はソーシャルファーム・ウェールズ、ソーシャルファーム・スコットランドなどといった支援組織の会員のみがエクササイズの対象となっていました。また、複数の支援組織に属していると、重複して数えられてしまう可能性もあります。

また、多くの慈善団体は自らをソーシャルエンタープライズとかソーシャルファームというふうには、考えてはいるものの、実は定義を満たしていないケースが多いということです。しかし2005年のマッピングの結果を見ますと、イギリスには55,000社以上のソーシャルエンタープライズがイギリスにはあることがわかります。現実的にはソーシャルファーム自体は1,500社ほどだと思いますが、ここ数年で資金の減少に伴って、数も減っているかもしれません。

さて、次のスライドです。ソーシャルファームの現状と可能性ということでいくつかまとめ的なお話をしたいと思います。

ソーシャルファームというのは市場に存在しているさまざまな隙間を埋めて、最善の成功のチャンスをもたらすことを思い描いて設立されなければいけません。もちろん一般企業にとっても同様で、やはり立ち上げのときは大変です。ですから特に設立時にはいろいろなサポートが必要になるかと思います。ドイツもそうだと思いますけれども、ソーシャルファームが民間企業の一部として見られることがあり、そうなるとソーシャルファームならではの援助がなかなかされないというケースがあるかと思います。イギリスもクォータシステムがないので、もちろん障害者差別禁止法というのはあるのですが、クォータシステムがないので各企業に負うところが大きくなっています。2008年には金融危機があり、それによって障害者を雇う企業も減ってしまっています。ですので、ソーシャルファームの失敗というのは立場の弱い人にとって大きな影響を及ぼします。

また、企業と雇用の原則を満たせるようになるまで、通常3~5年かかります。その間、最初の数年間は助成金に大きく依存するところがあります。ですので、最初は商取引より助成金の方が50%以上占めることになります。また、障害のある人たちは、最初の頃は働ける人が少なくて、徐々に大きくなっていくということがあるのではないかと思います。そして、ソーシャルファームはスタッフ15人未満の比較的小規模なものになっています。

今イギリスにありますソーシャルファームの業者リストですが、マッピングエクササイズで示されたたものですけれども、本来はもっといろいろあると思います。けれどもゲーロルドさんが先ほどお話ししたように、ソーシャルエンタープライズの業種やセクターが成功するためのカギとなっているのではなく、経験に基づいて話しますと、いろいろな役割が混在するものが成功するのだと思います。何らかのスキルの低い仕事を伴い、有給の仕事と研修やボランティアの仕事も提供するものだと思います。このリストを見ていただければわかりますように、すごく多岐にわたる業種になっています。イギリスにおけるソーシャルファームを見てみますと、イギリスのソーシャルファームの定義を満たすには、25%を不利な立場の人にすればいいので、市場が存在すれば、ますます多くのビジネスがゆくゆくはソーシャルファームになっていくと思います。

忘れてはならない重要なこととして、このソーシャルファームモデルは、より複雑な仕事を健常者に担当してもらえるということがあります。これは後ほど、事例紹介でご紹介します。

ここでもう一度、ビジネスを市場先導型にすること、つまり仕事の種類を検討するのではなく、市場の隙間に注意を向ける方が重要だと強調することは間違っていないと思います。過去の経験によりますと、市場の隙間を埋めるのではなくて雇用創出のためにビジネスを立ち上げたときの方が失敗する確率が高いことがわかっています。レンプロイもそうでした。それは実際の市場を見ていなかったということと、また競争力が伴わなかったことがあるかと思います。まさに一般企業と同じで、これまで50%が最初の2年以内に失敗しています。

イギリスにおけるソーシャルファームの発展には、これまでさまざまな方法が採用されてきました。4つの分野についてお話ししたいと思います。

まず1点目は、外部委託です。こちらは既存の公共部門、デイケアサービスや雇用関連サービスが公共部門の管轄から離れてソーシャルファームに転換されたものです。ソーシャルファームがサービス利用者、従業員に焦点を保ちつつ運営費の効率化を図ることができるため、ここ2~3年間、公共部門はこのアプローチに魅力を感じています。製品の売り上げを伸ばすために事業部長を導入することによって、地方自治体は節約を実現でき、従業員、ボランティア、研修生は何らかの職業体験を得られるのです。こうしたわずかな変更でサービス利用者は研修生になることができ、そして最終的には従業員になることができます。

そして2点目は、慈善プロジェクトの転換です。ここ最近、慈善団体が慈善事業と並行して、ソーシャルファームやソーシャルエンタープライズ事業に参入してくる例が多くみられるようになってきました。これは、ソーシャルファームなどの方が、慈善事業より商取引を行いやすいからです。イギリスでは、慈善団体が商取引を通じて資金を調達する方法が限られているのです。多くの慈善信託が慈善事業に利用できる資金の額を減らしていることから、これが一層広まりつつあります。ソーシャルファーム、エンタープライズは余剰資金を親団体であるまた慈善団体に戻すことが可能ですし、法人税がかかりませんので、そうしたことからも多くの慈善プロジェクトがビジネスを始めるに当たってソーシャルファームに魅力を感じています。

3点目として、新規ソーシャルファームの立ち上げです。新規のビジネスをゼロから立ち上げるケースで、時には国内の別の場所で成功したアプローチを模倣するということもあります。多くの場合、これらは公共部門とのサービスレベル合意書や契約を伴っていまして、これまで慈善団体や地方自治体によって行われていたサービスを提供するものです。企業として成功するに当たっては、最初は資金援助が重要です。従来ですと、このような事業は慈善事業として立ち上がるものですが、大きな制約もなく商取引ができることから、今ではソーシャルファームやソーシャルエンタープライズという形で立ち上げるところが増えてきています。

4点目がソーシャル・フランチャイズです。既に成功しているソーシャルファームのライセンス、フランチャイズ権を個人や組織が獲得して成功を模倣するケースです。私たちはちょうどスワンベーカリーを訪問いたしましたが、スワンベーカリーがこれのよい例にだと思います。確か29あるベーカリーやカフェの中で、25くらいがフランチャイズであると聞いています。すばらしい成果で、イギリスにもどりましたら是非共有したい情報です。ソーシャル・フランチャイズはイギリスにおきましては数がまだとても少ないです。ですので、私としてはどのようにやっていけばいいのか、さらに興味深く見ていきたいと思っています。

また、日本でもきっと同じだと思いますが、イギリスにはソーシャルエンタープライズの支援機関が数多くあります。しかし今日ここではイギリス全土のソーシャルファームの支援についてお話しします。なぜなら次の3つの中核を持つ原則に同意しているのはソーシャルファームだけだからです。この3つの中核というのは、企業、雇用、エンパワメントです。

一方、ソーシャルエンタープライズというのは社会問題に取り組み、地域社会、人々のライフチャンス、あるいは環境を改善するために商取引を行います。ですので、ソーシャルエンタープライズは障害のある人や不利な立場にある人のために雇用を創出することには必ずしも貢献しておらず、この点がイギリスにおいてソーシャルエンタープライズとソーシャルファームの主な相違点のひとつとなります。収入の最低50%を商品やサービスの売り上げで得るということも必須事項ではなく、助成金に依存していることも特徴です。これでソーシャルエンタープライズとソーシャルファームの微妙な違いをお分かりいただけましたでしょうか。ソーシャルファームのみが障害者や不利な立場にいる人たちのために雇用を創出すると言えると思います。先ほども申し上げましたが、一般企業同様、両方とも利益を追求しますが、一般企業と違うのは、両方ともその利益を株主に分配するのではなく、組織に再投資するのです。実際、すべてのソーシャルファームは一種のソーシャルエンタープライズですが、ソーシャルファームの定義に合致するソーシャルエンタープライズは非常に少ないのです。そして、イギリスのソーシャルファームは、その定義に誇りを持っており、その定義を変えることなく維持したいと思っています。

これらの組織、ソーシャルファーム・イングランド、ウェールズ、スコットランドなどは、それぞれ分かれて活動しています。それぞれ異なる方法で運営されていますが、その活動の場である市場に適応してきました。スコットランドとウェールズは、どちらの組織も少額の基礎的組織運営費の助成金を中央政府から受け取っていますが、年々減少していますので、自力で収益を生むことに力を入れています。スコットランドとウェールズ政府とはよい関係を築いていますし、政府もソーシャルファームを支援したいと思っています。なぜなら障害のある人に仕事を作るいい仕組みだと思っているからです。どの組織も非常に少ないスタッフによって運営されています。全力で貢献してくれるスタッフと、各組織の満ちあふれている情熱によって可能になってくるわけです。ご覧のように、4つの組織でフルタイムのスタッフは合計10人しかいません。

さて、それではイギリスにおけるソーシャルファームへの支援についてお話ししたいと思います。4つの組織、ソーシャルファーム・イングランド、ソーシャルファーム・スコットランド、ソーシャルファーム・ウェールズ、それからソーシャルエンタープライズ北アイルランドによる支援についてお話しします。

まず事業開発の支援です。ソーシャルファームグループは、どこも最初のアイディアを生み出すところからソーシャルファームの成長の支援に至るまで、事業開発のあらゆる段階で支援を提供します。長年の経験を踏まえて私たちは継続して会員組織を支援し、必要に応じてアドバイスを与えたり学びを共有しています。そして会員組織の活動のインパクトはウェブサイトやニュースレターで定期的に宣伝しています。

次は政策支援と意見表明。各国におけるソーシャルファーム部門からの意見として、さまざまな機会をとらえてソーシャルファームの活動を擁護しています。ソーシャルファームの開発と成長がきちんと行われるように、政策分野の変革や改善に向けてキャンペーン活動を行います。現場に影響を与える重要な課題についての指針は、会員組織に依存してはいますけれども、関係官庁との協議やいろいろなやりとりなどは、常に私たちからも促しています。

それから、ソーシャルファーム・ウェールズとソーシャルファーム・スコットランドが受け取る資金について、それぞれウェールズ政府やスコットランド政府と四半期に一度モニタリングミーティングを持って、政府を説得して私たちの要望を聞き入れてもらったりしています。

また、会員組織には先を見越した迅速な情報やアドバイスを提供するようにしています。一般的な問い合わせから宣伝、時には投資の機会についての相談を受けたりもしています。それから定期的に電子版の会報を発行していまして、ソーシャルファームに関するアクセシブルな最新情報を提供しています。特にスコットランドでは、スコットランド全域のソーシャルファームに見ていただけるような会員向けのパンフレットを特別に作成しています。これを見ると、政策や投資関連の簡潔なニュースなどいろいろな課題に関する最新情報に確実にアクセスできます。

私たちの役割として重要なことが1つあります。部門内での連携とネットワーク構築を促進して、会員組織が経験を共有し、互いに学び、商取引を行えるようにすることです。具体的には、部門別・業種別の販売マーケティング、顧客サービス、さらにはグッドガバナンスと財務計画に関する研修の実施なども含まれます。

そして、ソーシャルファームを立ち上げるというのは、ある意味今では一般企業を立ち上げるのと同じようなものだという認識に立って、そのために必要なトレーニングや研修などを行えるようにしています。

各組織では、毎年総会を開催し、各会員組織や政府の大臣などをお招きして基調講演をお願いしたり、活動報告を行ったり、会員組織のソーシャルファームによる成功事例とか、どんな影響があったかといったことも紹介しています。

それではイギリスのソーシャルファームの分野がどんな課題に直面しているかをお話ししたいと思います。基本的に課題の多くはイギリス国内に限ったものではないと思います。

まず従来の資金調達についてです。ここ数年、イギリス政府は緊縮財政計画を打ち上げ、これに従っています。当然、各政府に譲渡される資金はどんどん減少しています。そして当然、ヘルスケアやソーシャルケアを提供している地方自治体への資金というのも減っているということを意味しています。ソーシャルファームを対象とした契約や資金援助が減っているということです。1つの例として、ある地方自治体が資金援助を受けている団体すべてに、たった2か月前になって翌財政年度では、援助が10%減らされることを知らせました。このような慣例は資金調達状況がきつくなるにつれ、増えてきています。

イギリスにおいて一部の歴史の長いソーシャルファームでこんな課題が見られています。つまり事業性対社会性をどうバランスをとるかというところです。よりよい製品、よりよいサービスの需要が高まるにつれて、事業性と社会性のバランスをどこでとっていくかというところが問題になってきています。売り上げ増大とさまざまなレベルの能力を持つ従業員の維持を保つ。すばらしい有給の仕事やトレーニングを障害のある人たちに提供することを儀税にして、もっと早く製品を製造し、もっと早くよいサービスを提供できる、より有能な労働者を雇用したり最新技術に投資して、障害のある人たちを置き換えることは簡単です。ソーシャルファームの構想と使命を達成して事業性と社会性のバランスをちょうどよく保つには、強力な理事会が必要です。大きなソーシャルファームやソーシャルエンタープライズで崩壊してしまった例もあります。民間部門より少ないでしょうが、多額の助成金を得ているからそれだけ注目されてしまいます。ソーシャルファーム・ウェールズ、私の組織では、ボランティア理事になる人に、その役割に関する研修を行ったり、彼らの多様性やスキルを高めるために今、宝くじ事業からの資金を確保しようとしています。そして理事が役割や責任を全うできるよう、トレーニングや支援を提供しています。

それから、新しい生活賃金もイギリスのソーシャルファームにとって課題となっています。新たな生活賃金というのは、2016年にイギリスに導入されたもので最低賃金に代わるものです。生活賃金はずいぶん引き上げられ、それはよいことなのですが、ソーシャルファームは民間企業より労働集約型であるために、ソーシャルファームへの影響はこれまで以上になります。生活賃金はここ4年の間にインフレより速いペースでさらに引き上げられる予定ですので、どうなるか、注意深く見守りたいと思います。

不利な立場の定義というのは、資金調達と関係してくるかと思います。欧州連合から資金援助を受けていますが、これによってここ数年で不利な立場にある人の定義が拡大されました。例えば50歳以上の人、18~24歳の人、長期失業者、刑余者、ホームレスの人、職場復帰する母親、障害のある人、メンタルヘルスの問題がある人です。

欧州連合が行っているこの資金援助ですが、理論上はソーシャルファームに極めてふさわしい雇用創出に関連しています。ですが当然、定義が拡大されれば資金援助に対する需要も高まります。不利な立場にあるとされている集団の人たちが就職しやすくなるのはいいのですが、ある意味、障害のある人、特に知的障害のある人や両方に関連がある資金援助が実質的には落ち込んでしまいました。

そして多くの場合、イギリスでは長年ソーシャルファームが存在しているにもかかわらず、慈善と誤解されているケースもあります。サービスや製品は無料でしょ、とか、あるいは一般企業と比較して当然安いでしょと思われていることもあります。これは理解不足ということだと思います。ソーシャルファームの製品やサービスは劣っていて真のビジネスではないという考えがどこかにあるわけです。ここが私たちの課題となっていまして、通常の価格にする、あるいは社会的な影響があるのだから、通常の値段よりももっと高く設定してもよいのではないか、と思っています。

さて、私がここで取り上げなかった困難な課題や、時間の都合で触れていない課題も数多くありますけれども、そのような課題を克服できるソーシャルファームには、ここに書いてあるような大きなチャンス、機会もあります。以前は慈善事業にしか資金援助をしなかった慈善団体も、今ではソーシャルファームやソーシャルエンタープライズに提供するようになりましたし、新たな資金調達源として先ほども言いました宝くじの事業もあります。毎週平均3,600万ポンドを慈善事業などに提供している宝くじ事業もあり、一部はソーシャルファームやソーシャルエンタープライズにもわたっていますが、この資金を得るためには申請し、他の組織と競わなければいけません。

先ほどユッカさんが言いましたけれども、クラウドファンディングも1つです。これはフィンランドでも行われているようですけれども、イギリスでも急速に増えつつある現象です。ソーシャルファームとしても自分たちがやっていることをクラウドファンディングで訴えれば資金を調達しやすいということがあります。

また、ソーシャルインパクトボンドというものもあります。現在、イングランド、スコットランドで利用でき、ウェールズでも程度に差はありますが、利用できます。これは社会投資家がサービスの初期費用を提供するものです。ソーシャルファームや他の団体はそれで事前に合意されたサービスを提供することができます。この利点は、社会問題に関する早期予防活動に民間の投資家をひきつけ、また、サービスを委託されたものは、新しいサービスを試すのに、うまくいかなければお金を出さなくてよい、というところです。

また、市場先導型組織についても前に説明しましたけれども、ソーシャルファームは市場先導型の組織であります。そこがソーシャルエンタープライズとは違うところです。

次に公共部門との契約ですけれども、公共部門が費やせる資金が不足している中、ソーシャルファームは資金を補うために商業収入を利用していることから、自分たちは慈善団体よりも有利で、このような削減に耐えられると考えています。また多くの場合、有給雇用に関して比較的道が開かれているため、1年目に高額の契約を結び、その後の数年間で契約額を減らして、公共部門も節約を達成できるようにすることもできるため、公共部門もソーシャルファームに対して魅力を感じています。

また、企業の社会的責任というところも見ていきたいと思います。民間部門のビジネスはますます企業の社会的責任を向上させて自らが与えるソーシャルインパクトを実証し、イメージを上げようとしていますので、この分野でソーシャルファームが民間部門と手を組むことができるとよいと思います。例えば最近イギリスで行われたこととしては、ソーシャルエンタープライズUKと内閣府が、内閣府のバイ・ソーシャルコーポレート・チャレンジというものを立ち上げました。これは有名な企業に2020年までにソーシャルファームをはじめとするソーシャルビジネスに10億ポンドを費やすという努力目標を設定するよう促すものです。

社会起業家の学校とロイズ銀行社会企業家プログラムというものがあります。前者の社会起業家学校というのは、社会起業家の育成プログラムです。プライスウォーターハウスクーパース、ロイズ銀行などと連携しています。

次にソーシャル・ビジネス・ウェールズは、この4月に始まったもので、ウェールズ政府、欧州共同資金援助のプロジェクトになります。5年間にわたってソーシャルファームを含むソーシャルビジネスに1,120万ポンドの資金援助を提供するものです。これは拡大とか多様化、協力、転換といったものに利用することができます。5年間で500の新しい職を生み出すことを目標としています。この数はそれほど大きいものではありませんが、少しでも増えるのはよいことです。税金や、法律上のアドバイス、財務企画、ICT、経営計画の策定などの面で資金のサポートが提供されます。これが今後どのように展開していくか、非常に興味深い点だと思われています。

次に、ウェールズ社会福祉・厚生法及び公共サービス法を見ていきたいと思います。これについてはソーシャルファーム・ウェールズとソーシャルファーム・イングランドはとても積極的な関与を行いました。イングランドとウェールズでこの2つの重要な法律が可決されました。地方自治体がその管轄地域において、ケアや支援、介護者に対する支援、予防サービスを提供する、私的利益を追求しない組織の開発を促進する義務が導入されました。

レディー・フォー・ビジネスは、スコットランドで行われている、やはり調達に関係するもので、KPMGと協働して、調達面でサポートを提供しています。

そのほかにもソーシャルファーム・スコットランドでは、2025年までのスコットランドにおけるソーシャルエンタープライズの展望を策定し、今後のソーシャルファームに対するサポートなどについて積極的に活動しています。

ここで皆さまに事例を2、3ご紹介します。

最初の事例はモン・ソーシャル・エンタープライズで、ウェールズ北部アングルシーに基盤があります。私は、2008年からアゴリアドーという慈善団体とともに活動していますが、この慈善団体はとてもソーシャルファームに関心を持っています。アゴリアドーのCEOのアーサー・ビーチーは長年にわたってソーシャルファームの賛同者で、このモン・ソーシャル・エンタープライズをソーシャルファームとして設立することに尽力してくれました。当初の計画はホリーヘッドにあるカントリーパークの中のある古い管理人の建物にカフェ施設を作るというもので、ゆくゆくは他のアクティビティもこのカフェで行おう、と考えていました。このカントリーパークには、年間10万人が訪問するということでしたので、既に市場が存在していました。カフェを作る意志もありましたので、ソーシャルファーム・ウェールズはこの組織をサポートすることにしました。収入は食事と飲み物から得ることになっており、このパークへのビジター10万人が顧客のターゲットになります。また、9人の学習障害者をサポートする、というアングルシーの議会との契約もありましたので、ソーシャルファーム・ウェールズは経営計画を策定する手助けをし、慈善団体とのコミュニケーションを担当しました。これは建物が廃屋だったこともあり、リスクを伴いますので、なかなか難しかったです。ですが、このカフェは成功していまして、今ではアングルシーで3店舗を展開しています。彼らが作った雇用の数はどんどん成長していますし、今年の売り上げは3,900万円を見込んでいます。

また、レンタサイクルにも事業を拡大し、将来的にはキャンピングパークやフェリーターミナルの近くですので、宿泊客を受け入れる施設の建設も検討されています。このように事業が発展していてうれしく思います。

次に、ダブル・クリックの事例を紹介したいと思います。ダブル・クリック・デザイン&プリントですが、メンタルヘルスの問題を持つ人を支援するソーシャルサービスの事業計画として立ち上げられました。こちらのモデルは、モン・ソーシャル・エンタープライズとよく似ています。収入源はグラフィックデザインや印刷サービスを顧客に提供するデザインスタジオという形をとった営利事業からの収入。小企業向けのプリントサービスを提供する隙間市場を狙っています。また、手作りのグリーティングカードも作っています。研修生とボランティアはウェブサイト開発、コンピュータスキルやグラフィックデザインなどの分野に関しての研修を受けますが、より複雑なグラフィックデザインは、健常者に委ねられています。売上高については、既に事業計画の2倍になっており、ダブル・クリックは2016年1月に独立法人となったばかりながら、明るい兆しが見えています。ソーシャルファーム・ウェールズは事業の実現可能性を探り、経営計画の策定を手助けし、元々地方自治体が経営していたので、地方自治体とのリエゾン役を引き受けました。

また、イギリスにおけるソーシャルファームの将来としましては、イギリスにもどったらウェールズ政府と障害のある人たちの雇用を大幅に創出するために、レンプロイの小型版の可能性について検討する話し合いをすることになっていますが、多額の補助金を拠出するのではなく、市場先導型の事業にすることを重視することになると思います。これは今後が楽しみな取り組みです。

さらに、よりよいガバナンスや、よりよいトレーニングを受けたボランティアの理事を育て、ソーシャルファーム内の生産能力を拡張しようとする動きも活発に行われています。ここでもまた、ソーシャルファームが必要とするすべての商業的なスキルを持ち合わせている民間企業との連携が大事になってきます。

調達についてはなかなか難しいものがあります。調達の機会もどんどん増えていくと思いますが、入札に必要な書類をまとめるのは多大な時間と労力が必要ですので、普段の事業運営とのバランスをとらなければなりません。今後どうなっていくか注視したいと思います。

さらに、協力というところですよね。すべての部門と連携することが必要だと思いますので、次のセッションでこれを取り上げてもらえればと思います。不利な立場にある人たち、そして雇用に関係してくることですので、1つの解決法というのはないと思いますが、みなさんと緊密に協力し合えば、もっとたくさんの成果を上げられると思います。

今日は時間の関係で最後の方を急いでしまって、話していることとスライドが必ずしも一致せずに申し訳ありませんでしたが、本日お招きいただいて大変光栄に思います。イギリスで私たちが何をしているのか、少しでもご理解いただけたらうれしいです。また、今日、皆さんから伺うお話、伺ったお話をイギリスの仲間にも伝えたいと思います。ソーシャルファームの目的や目標というのは、世界のどこに行っても同じだと思います。そしてソーシャルファームのモデルには、課題が常についてくるものの、今後とても楽しみな将来が待っていると思います。次のパネルディスカッションの中でもっと細かいお話ができたらうれしいと思います。

日本語で最後にお礼を申し上げて終わりとしたいと思います。どうもありがとうございました。