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日本型ソーシャルファームの推進に向けて

パネルディスカッション 欧州から見た「日本型ソーシャルファーム」への提言

パネリスト:炭谷茂
ユッカ・リンドバーグ
ゲーロルド・シュワルツ
キース・シモンズ

座長:寺島彰(浦和大学総合福祉学部 学部長 教授)

寺島●寺島です。よろしくお願いします。このパネルディスカッションでは、外国から来られたパネリストの皆様に、日本のソーシャルファームの制度化に向けてご助言をいただきたいということをお願いしておりますが、日本の状況について何もわからない状態ではなかなか話しにくいということもありまして、先週の金曜日に日本の3つの団体を見学していただきました。朝9時から夜の7時まで。時差ぼけのなか一日連れまわしたという、前日に来られたのにひどいスケジュールでしたが、日本人相手だからしようがないと思っていただこうと思っているのですけれども、パネリストの皆様は本当に眠かったそうです。

最初は、進和学園という社会福祉法人で、就労移行支援事業をやられています。A型だと日本の平均工賃の2倍、B型では3倍という工賃を支払われている、ある意味、ソーシャルファームと言っていいと思われるところです。今日は進和学園の方々に来ていただいています。非常にお世話になりどうもありがとうございました。短い時間にいろいろなところを見せていただきました。いろいろな事業をやられていてしかも採算がとれているという、社会福祉法人としては珍しいと言いますか、なかなかないケースだと思って見学させていただきました。

2番目はエコミラ江東です。先ほどご紹介がありましたけれども、江東区が事業を実施していて、それをNPOが委託経営している。これもA型だそうですけれども、平均賃金は12万円を超えているということです。ここが有名になったのは、知的障害の利用者さんが自分の両親を扶養しているという例があるということからです。賃金も高いし利用者さんの継続性も高いということで、そこも見ていただきました。

最後にスワンベーカリーです。ここも有名ですけれども、特例子会社だけで収益がきちんと上がっているということでしたので、日本の例として参考に見ていただきました。

パネルディスカッションは、せっかく外国から来ていただいていますのに十分お話しを聞くことができずに帰っていただいてしまうことがよくあります。そこで、本日は、質問の時間を十分とれるようにしたいと思います。そして最後にコメントをしていただければと考えています。先ほど質問票をお配りしましたけれども、いつもは質問が多くて大変なんですけれども、今回はそれほど多くありませんのでちょっと安心しております。

これまでのセミナーに参加していただいていらっしゃらない方のために、私が少しだけそれぞれのパネリストのお国のソーシャルファームについてお話をさせていただきます。

ドイツのソーシャルファームはソーシャルファームであっても、いろいろな助成金があり、日本に若干似ています。雇用率もありますし、助成金を活用しながら、雇用市場で就労しにくい人たちを雇用するというのがソーシャルファームの目的になっています。ドイツは、州にもよるそうですが、行政機関からの補助あるいは助成があります。

一方、イギリスは基本的には行政からの助成金などの支援はない。行政の支援としてどんなものがあるかと言いますと、例えば、CIC(キック)と言う特別な企業の形態を法律で定めています。この企業は、税金が安いとか、そういう企業形態をとることで寄付を得やすいとかそういう援助をしているだけで、国から助成金が何か出ているかというと、基本的には出ていない。もちろん国によって若干違っており、スコットランドなどは結構出ているそうですが、イングランドなどではほとんど出ていない。代わりにEUからはそういうお金が出ているということがあるようです。

先ほどWISEと言っていましたが、EUからの支援の枠組みの1つです。ヨーロッパの国々では、EUとのかかわりがあって若干わかりにくいのですけれども、そんな違いがあります。

ご質問がいろいろ来ていますので答えていただきたいと思いますが、先ほど言い残した部分があるようですので、先にパネリストの皆様に簡単にお話をしていただければと思います。キースさんは何かあると言っていましたよね。

キース●先に質問をお受けしましょうか。話したことについてもっと詳しく話したかったですが、話したかったことはなんとか全部話せましたので。

寺島●それでは、質問を紹介させていただきます。最初に炭谷先生あてです。

炭谷●私に対する質問について。あるIT企業の経営をされている方でございます。今、IT関係もソーシャルファーム的なものに関心を持っているというお話をいただきました。ご質問は、ソーシャルインクルージョンをうまくソーシャルファームの仕事の内容にした成功事例はあるのかというご質問でした。これはいろいろとあります。ただ、ソーシャルインクルージョンということ自身が大変広いですから、ソーシャルファームの業者がみんな当たると言っても過言ではないと思いますけれども、せっかくご質問をいただきましたので、あえて1つ、今私が取り組んでいるもので、大変うまくいっているものとして、「桑の葉プロジェクト」というものがあります。これは栃木県の野木町で展開しているものですけれども、野木町はもともと養蚕業、蚕をたくさん飼っている日本でも代表的なところでした。そこで、そこにある知的障害者施設パステルが桑の葉を利用してパウダー状にしてパンやクッキー、そば、さらには桑茶を作った。桑の葉っぱは生活習慣病によいということで、製品として売り出しました。そうすると、そこで何がソーシャルインクルージョンになるかと言えば、早速周りにいる、かつて腕に覚えありという養蚕業をやっていた人が、それであれば知的障害者を見ているとなんかちょっと心細いな、ということで、全面的に農家の人が助けてくれる。さらに農地も提供してくれる。初めは800本の桑畑でしたけれども、現在は2,000本近くになり、さらにどんどん増えていくだろうと思います。さらに製粉業者は、それであれば自分のところでこれをパウダーにしてあげようということで、製粉業者がまず支援を差し伸べました。さらに野木町の町長、女性ですけれども、芸術家です。それであれば野木町も応援しますよというふうになりました。そういう形で町がどんどんどんどん知的障害者に対して支援の手を差し伸べました。

そうすると日本商工会議所は、これは大変いいプロジェクトだ、町ぐるみの町興しになるということで、2014年の日本商工会議所が推進する日本まちづくり事業という形で採択をされました。さらに同じ年に栃木県における第1号の第6次産品としてこの製品が採択をされ、かつ、道の駅でこれが売られるまでになっています。そういうことで町ぐるみになる。

さらに去年の9月には、養蚕業を始めることにしました。本格的に絹を作っていこうという形で、繭作り、今度はですね、蚕を1万2,000匹、これを飼っております。知的障害者は大変喜んで作業をしていますし、かつて養蚕業をやっていた農家からも支援、それから昔覚えていた技のある人も一緒になってやってくれている。まさに社会の中に溶け始めている。そして既に製品を2回出しております。蚕は年に6回、繭をとりますけれども、既に2回採用し、その生糸が農水省関係の商品検査では一番トップの品質になっている。そういう形で本当に町ぐるみでソーシャルインクルージョンが果たせ、今、発展しているところでございます。

まだまだ成功事例はありますけれども、日本の話よりも外国の方がいいと思いますので、ここまでにしておきたいと思います。

寺島●どうもありがとうございました。同じ方からの質問ですが、株式会社トランシス代表のナカムラ様からです。ユッカさんにご質問です。障害者雇用と移民雇用はプロセス上、似ているのですが、7ページにあるような総量規制をした場合、健常者からの不満の声が大きくならないでしょうか。詳細な質問ですがお願いします。

ユッカ●はい、そうです。おっしゃったとおりです。私たちの雇用政策というのは、労働市場に入っていけないすべての人たちに対して同じです。障害のある人たちすべてがそのグループに入っているわけではありません。教育を受けていて比較的簡単に雇用される人もいますので。しかしおっしゃったように移民はこのグループに入っています。現在、特に交戦地帯の中東から来ている移民たちは、教育を受けていないとか言葉がしゃべれないとかもありますので、雇用されるのが難しいということがあります。けれどもフィンランドにおける移民の数は例えばスウェーデンやドイツと比べるとまだ非常に少ない数です。1万人から1万5,000人ですので、37万人という失業者からみると、割合はまだ小さいです。

寺島●質問された方、よろしいでしょうか。数の問題もあるだろうということです。

それからシュワルツさんに。ソーシャルファームが旧来のシェルタード・ワークショップと一緒に活動するのは難しかったということでしたが、どの辺りがシェルタード・ワークショップは反対だったのですか? 日本でも難しさがあります。

シュワルツ●やはり非常に難しかったです。ソーシャルファームが始まったとき、どうしてかわかりませんが、多くの団体から脅威としてみなされてしまいました。特に作業所からそう見られました。理由の一つは、もしかしたら助成金のことかもしれません。もしもっとソーシャルファームが増えて、そちらに助成金が使われると、作業所に払われる助成金が減ると思われたのかもしれません。

そしてまた、障害者の団体が、仕事について言っていたことですが、私たちが1994年にソーシャルファームに関する調査を行ったときに、障害者を代表する一番大きな組織とお話をしました。そのときに彼らが言っていたのは、作業所のシステムについてあまりよく思っていないということでした。つまり、作業所のシステムにおいて障害者のポテンシャルが完全に発揮されないのではないかということでした。この20年間でずいぶん変わったと思いますけれども、もしかしたら今よりも昔の方がもっと制約があったのではないかと思います。

ですので、障害者がここでどういうことをするのかについての議論もあり、障害者にあまりプレッシャーを与えすぎるのもどうかという話もありました。つまりソーシャルファームが提供する仕事が障害者にとってストレスになるのではないか、もっと体調を崩すのではないかということも言われていました。ということで、多くの難しい議論をしました。

イギリスのレンプロイのモデルが1つありましたけれども、政府がレンプロイに対しての財政援助をカットするということがありました。

ドイツの場合はクォータシステムというのがあるので、これが随分プラスにはなっています。状況がずいぶんよくなった理由は、これまでいろいろな議論がされ、たくさんの経験も経てきたからだと思います。今では一番よいソーシャルファームの1つは、元々作業所を経営していた組織が作ったものです。市場の機会をとらえ、小さな事業を始めました。グループがベルリンを訪れた時に1か所見ましたね。やはり最初はいろいろ大変で苦労もありました。資金の話、サービスの質はどうかという疑問もありましたし、あと、競争です。作業所対ソーシャルファームの競争ということで、今でもそれを問題視する人はいますけれども、状況は随分改善されました。

寺島●同じ方から同じようにシュワルツさんにあと2つあります。筑波大学の大村様です。2番目の質問は、障害のない従業員がソーシャルファームで約6割を占めるということになると思いますが、その人たちはどうやって雇用されるのですか? 障害者支援の専門性を持った人なのか、そうでないのか教えてください。3番目も言います。ヨーロッパのソーシャルファームの団体、CEFECとドイツ国内のBAGif(全国ソーシャルファーム協会)、FAFとの関係や、ドイツ国内のソーシャルファームとの関係を教えてください。また日本の団体もCEFECのアニュアルミーティングなどに参加できますか? フィーレン・ダンク・フュア・イーレ・レプレゼンタティオン、ということです。

シュワルツ●ソーシャルファームに雇用される場合、健常者、つまり障害のない人の場合は当然、ソーシャルファームのこと、4~5割の従業員は障害のある人だということを学びます。ですが、障害のない人が雇用されるときに何か資格が必要かというのは、特にないです。

もちろんFAF、ドイツのソーシャルファーム・コンサルタントから研修を受けることはできます。つまり障害者が多く働く職場は、どのような影響があるのかとかを学びます。でもそれ自体はあまり重要ではないかもしれません。最初にソーシャルファームを立ち上げには問題になりますが。例えば大きな社会福祉団体とか作業所、シェルタード・ワークショップなどがソーシャルファームを立ち上げるときは問題となります。立ち上げのときはとても関心を持って、このような研修を受け、学び、ソーシャルファームが実現可能だという自信をもちます。日々の仕事を考えますと、大きな問題ではないようです。やはりお互いに知り合う、今日はいい日だ、今日はあまりうまくいかない日だと、いろいろあると思いますし、これは障害のあるなしに関係ないと思います。

次の質問、ヨーロッパの各国の組織がCEFECとどういう関係を持っているかですね。私はマネージャーでしたが、以前はマネージャーに対しての給料も払えないくらいでした。ですので、最初はボランティアとしてマネージャーをやっていました。

これまでの歴史を振り返ると、CEFECがECから直接資金をもらって、ヨーロッパ圏内にソーシャルファームに関しての知識を広げていた時期がありました。たくさんのことを手掛け、非常に有効だった時期があります。そのような時期がありましたが、今はこのような資金はないので、CEFECは小さな組織を作り、常勤の職員を置かないことにし、主な活動としては、少なくとも年に1回会議を開催し、お互いのスタッフが会って各国のソーシャルファームはどういう状況なのか情報共有し、交流する場を作っています。実は来週か再来週、その会議がポーランドで開催されます。

ドイツの全国ソーシャルファーム協会とCEFECとの間の協力関係は、ヨーロッパの事務局がベルリンにあったときはとても強いものでした。私がそこで働いていた時期で、資金援助も受けていました。時がたつにつれ、ドイツの政府や当事者、そのほかの大規模な障害者組織、作業所組織、社会福祉組織といった関係団体との連携の必要性が非常に強くなり、その後、BAG(全国ソーシャルファーム協会)はドイツ国内に焦点を当てるべきと判断しました。こうして全国ソーシャルファーム協会の焦点は、ドイツ国内、ということになりましたので、ヨーロッパ全体とのかかわりは、少なくなってきてしまいました。ですが、まだメンバーですので、各国のメンバーとは今でも定期的に会っています。

それから日本の方たちがヨーロッパのCEFECのカンファランスに参加できるかというポイントについて。これももちろん問題ないと思います。オープンな組織ですし、日本の中でもCEFECのメンバーである団体もいらっしゃると思います。会議に参加されるかはわかりませんが、まったくオープンな会議体です。ウェブサイトもありますので、もしご存じなければ私からお伝えできますよ。

それに付け加えたいと思います。今、幾つかCEFECがかかわっているプロジェクトがあります。特に以前鉄のカーテンの向こう側にありました東欧の国々にかかわるものですが、助成金がもっと支払われています。例えばブルガリア、ルーマニア、そしてモルドバといったところに、助成金が多く使われています。私も、フィンランドからルーマニアに対していろいろ情報を提供したりしてきました。今のEUの焦点はそちらの方になっているということは確かです。

寺島●どうもありがとうございました。

CEFECはソーシャルファーム・ヨーロッパという、以前はそういう名前だったと思います。日本からも毎年参加されている方がおられましたね。最近は参加されていないようですが、以前はずっと参加されていましたので、実績もありますので大丈夫だと思います。

ご質問の回答はこれでよろしいですか?

それから、リハ協の松井先生からです。イギリスの状況についてですが、ミニマム・ウェッジからリビング・ウェッジという話があったようですけれども、ミニマム・ウェッジに対してリビング・ウェッジだと、それを切り下げることは難しいと思われます。企業の負担感はどういうものでしょうかという質問です。

キース●ご質問ありがとうございます。時間がなかったのであまりご説明できなかったところもあります。リビング・ウェッジですが、こちらは予算が発表されたときに生活賃金が上がるというふうに言われ、とても大きなショックでした。全国生活賃金は1時間で6.70ポンドから7.20ポンドに上がりました。これはインフレの率を考えますと、これだけ上がったことに多くの人たちはとてもびっくりしました。全国生活賃金というのは今年の4月、5月から適用されました。そのインパクトはまだ見ているところがあります。今は変わってしまいましたが、前首相のとき、2020年までに毎年インフレ率より高い率で全国生活賃金を上げていくということを言っていました。1時間に9ポンドというのが検討されていました。これは特に民間企業にとって大きな負担になっていきます。ですので、民間セクターとしましては、これについてとても歓迎しているとは言いづらいところです。これが雇用に対してどれくらいのインパクトがあるのかというのを今後見ていきたいと思います。

また、社会セクターやソーシャルファームもとても厳しい判断をしなければなりませんでした。というのはそれぞれの時給が上がっていきますと、それをちゃんと賄えるのかという話になってきます。結果として、仕事の数が減ってきています。来年、全国生活賃金が上がって1年経ったところで、そのインパクトがどれくらいになるか非常に興味深いところであります。

プレゼンテーションでも申し上げましたが、民間セクターにおきましてこの数年間、雇用が伸びてきたものの、この8月の末から成長率が減速してきました。全国生活賃金と関係するのか、イギリスのEU離脱と関係するのかまだわかりませんが、どちらにしても雇用の伸びが減速しています。

ソーシャルファームにとっても、民間企業にとっても、この労働に関するコスト、人件費のコストが上がっていくのは懸念事項です。企業は税金も既に払いすぎていると思っていますし、ビジネスに対して政府の介入が多すぎるというふうにも思っています。ですので、今は本当に興味深い時期だと思います。今後数か月、そして数年、どのようなインパクトがあるのかということを見ていかなければいけないと思います。初期の兆候として、ソーシャルファームセクターでもっと仕事を創出していかなければいけない時期に、仕事がカットされているというのはあります。質問の答えになっているといいのですが。

寺島●追加でご質問はありますか? よろしいですか?

松井●キースさん、ありがとうございました。日本では最近、安倍内閣が最低賃金をかなり上げていくという形になっています。ただ日本の最低賃金法では、生産性が低い障害のある人については最低賃金を下げることは可能なんです。これは障害を持った人たちからは差別問題として問題提起がありますけれども。しかしヨーロッパやアメリカなど多くの国には最低賃金を下げるということはやめようというコンセンサスができてきていると思います。ただ、さっきおっしゃったようにリビング・ウェッジは最低賃金よりはるかに高いわけですよね。働く立場から言えば当然、リビング・ウェッジは非常に望ましいことではあるけれども、さっきおっしゃったように、雇用の拡大につながっていくのかどうか。

これまで、最低賃金を下げるということはILO、国際機関では最低賃金を下げることによって雇用を広げるという理屈になっていたと思います。しかし、さっきおっしゃったようにリビング・ウェッジとなると、そういうことはできないので、リビング・ウェッジを払いながら、かつ雇用を増やすためにどういうことができるのか。

もう1つ、キースさんは事業性と社会性をどうバランスをとるのかということは、参加者方も恐らく同じ問題提起だと思いますけれども、例えばレンプロイはなくなりましたけれども、もともとは雇用機会の少ないところに雇用を作っていくという目的が大きかったと思います。それとの採算性というか、雇用機会が少ないところはなかなか採算ベースで仕事を増やしていくことができない。事業性を無視して社会性を考えるか。ソーシャルファームは確かにそのバランスが重要だと、それは理解できますけれども、しかし、先ほども言うように過疎地などなかなか雇用機会がないところで、ソーシャルファームが採算ベースで増やしていくことが可能なのか。そこはなかなか難しい問題だとは思いますけれども、特に非常に難しいところにソーシャルファームがどう出ていって、そこの問題解決につながっていくのか。そこはいろいろ苦労されていると思いますけれども、そういう意味でいい例があればぜひ教えていただきたいと思います。

キース●ご意見をありがとうございます。確かにビジネスとソーシャルとのバランスをとるのは難しいですね。イギリスのように、いわゆる文明社会になりますと、そもそも国家の生活賃金は、貧困ラインを上回る生活する上で必要な額ということで、定められますよね。7ポンド20という数字は、貧困ラインを上回るにはまだ足りないと思いますが。ですので、政府の方策としましては、9ポンドまでもっていきたいんですね。多くの家庭が手当てを受けるのではなく、仕事に就くことによって、貧困レベルから脱するようにする、というのは非常に魅力的に思われるわけです。なぜなら、収入があれば、税金も納めてもらえますので。でも、非常に難しい面もあります。国家生活賃金が発表されたときに、ちょうどEUを離脱するかどうかの国民投票が近づいていて、残ることになるだろう、と思われていたのが、離脱することになり、不安定な空気が流れていた時期でした。

一方でソーシャルファームの役割というのを考えてみると、発表でも申し上げましたけれども、市場先導型、市場志向の仕事をしなければいけないと申し上げました。特に人の少ない田舎の方、小さな町、村に関して言うと、地域と一緒に働く機会が多いと思います。金曜日にお邪魔したエコミラ江東がいい例だったと思います。江東区に根ざしてリサイクル事業をしていらっしゃる。そしてこのコミュニティの中で民間企業と協力して、機械が必要だったので、民間企業がそれを支援してくださったということも聞きました。さらに、民間企業がその最終生産物を購入する。もちろんエコミラ江東がそんなに田舎かというと、そうではないと思っていますけれども。やはりバランスをとるためにはソーシャルファームだけでなくて、みんなが納得できるソリューションを見つけるためにすべてのセクターが協働しなければいけないとしか言えないと思います。もちろん、みな収入が多い方がよいのでバランスを取るのは難しいですが。そのうち民間企業は製品の値段を上げるでしょう。そうすると生活賃金のコスト増を賄えることになります。ソーシャルファームにとっては、競争力を維持するのは難しいので、製品の値段を上げるのは、そんなにうまくいかないでしょう。使命に忠実であること、ソーシャルファームで雇用を増やすことは難しいでしょうが、なるべく多くの仕事を保持し、他の市場を探し出して雇用を創出できればよいと思います。それにはすべてのセクターと協働し、常に不利な立場にある人たちのための職場を創出する努力をすることがカギになります。今後の課題ではありますが。お答えになりますか?

シュワルツ●私もコメントを1つ追加させてください。ニッチなマーケット、いわゆる隙間市場ですね。このニッチ、隙間というのは、イコール隙間製品であってもいいし、あるいはそもそもあまり機会がない市場もニッチ市場と言えると思います。ソーシャルファームはニッチマーケット、隙間市場を狙うべきだという考えがあります。なぜなら、他の企業が利用していない機会があるのだから、それを利用しない手はないだろう、ということです。しかし実際には、隙間市場には隙間である理由がありますし、だれもそこに行かない理由もあるので、なかなかうまくいきません。その理由は、多くの場合、隙間市場で利益を上げるのは不可能に近いからです。ソーシャルファームが他の組織と協働し、ソーシャルファーム以上の何かを作り出せば、可能かもしれません。例えば社会事業や、コミュニティや他のパートナーと一緒にやるような、風力発電に使うタービンの関連のビジネスとか。

しかしソーシャルファームは最終的にはソーシャルファームです。狙いどころは他の人があまり着手していない部分に攻めていくというところだと思います。もしかしたら今まで他の方たちが思いつきもしなかったような特別すばらしいアイディアがあって、それに着手したら、それがうまくいく場合もあるかもしれませんが、でも実はドイツでまったくうまくいきませんでした。

ユッカ●私も追加のコメントです。フィンランドで労働コストに関しての議論をしてきましたが、ここ10、20年のコストの数字を見ると、労働コストの割合が継続して減ってきているのに対して、利益や配当金の割合は継続して増えてきています。大きな変化がみられるわけですが、ソーシャルエンタープライズやソーシャルファームは、地方自治体や他のNGOからの支援を得て、この分野で有利なのです。なぜなら、企業の経営者や投資家がより少ない収入でも受け入れてくれれば、賃金の支払いに柔軟に対応できるようになるからです。

私たちフィンランドの政府では、ここ少なくとも5~6年の間、企業に対しての税制を随分緩和しました。毎回、これは雇用を創出するため、と説明されました。しかし、政府が税率を下げたところで、雇用の創出にはつながりませんでした。単に企業の株主たちに支払われる配当金の割合を上げただけです。そこで、企業の利益はすべて株主たちだけにいくべきなのか、制限があった方がよいのではないかと考える時期に来ていると思います。

寺島●最後にこのシンポジウムのテーマであります「日本型ソーシャルファームの推進に向けて」のアドバイスをいただきたいと思います。炭谷先生のおかげで日本のソーシャルファームもやっと制度化される機運が高まってまいりました。日本は障害者雇用に関しては進んでいるんだろうと思います。例えば雇用率制度について言えば、イギリスも以前は雇用率制度があったのですけれども、障害者差別禁止法ができたときになくなってしまったんですね。レンプロイもなくなったりして、雇用がむしろ厳しくなってきたようなところがあるのですが、日本はそういうことはなく、どんどん雇用率も高まってきていて、障害者の雇用が進んでいるという意味では、障害者の方の雇用制度は、一応成功しているのではないかと思います。それ以外にも、国や地方自治体、民間の制度もかなりありまして、公的および民間の融資制度もそれぞれ持っていたりしますので、制度的には、かなり進んでいると思われます。そういう日本でさらにソーシャルファームをこの時期に作る意義と役割、位置づけに関してこれまでの自国の経験の中から何かアドバイスがあればいただければと思います。最初に炭谷先生の講演もありましたけれども、それも踏まえてお話ししていただけるとありがたいと思っております。

最初は順番どおり、ユッカさんからお願いします。

ユッカ●私のプレゼンの中でも少し述べましたけれども、やはり重要なのは、例えばフィンランドにおいては多くの人が割当制度には反対です。けれども既に社会にそうした構造があって、障害のある人たちを雇用するという制度があるのであれば、それよりもいいものが出ない限りは続けるべきだと思います。

また、ニッチの分野を探すということですけれども、大きな1つのソリューションというのはないと思います。どの分野がニッチでどこに入っていくことができるのか、会社を作ることができるか。そうしたことを見ていって、それをコピーしていくのも大事だと思います。例えばスワンベーカリーもうまくいったら、それをさらに発展させるというのも大きな点だと思います。それが正しい方法だと思いますし、私たちもそうしたところから学んでいくべきだと思います。また、政府からの助成金に関してもうまく使って、働く自由を保障されるようにと思います。

また、競争力があるかどうかということですけれども、ビジネスというのは競争力がないと続きません。常に頭に入れておかなければいけないのは、私たちソーシャルファームのターゲットグループは本当に多様です。それぞれのターゲットグループに関して、それぞれニーズが違いますので、それぞれのソリューションが必要です。例えば知的障害のある人たちにとってうまくいく方法が、他のグループには違ったりもします。ですので、日本のような国においては、多くのソリューションを用意しておくことが大事だと思います。そして、お互いから学び合い、既に存在しているソリューションから学んで新しいソリューションを作り出していくということも大事だと思います。

シュワルツ●難しい質問ですね。ここに何度もきているものの、答えるのは難しいです。でも私の印象としては、日本では既に多くのソーシャルファームが存在して、そして炭谷先生がおっしゃった基準を満たしているソーシャルファームが多くあるという認識です。

それからもう1つ思いましたのは、特別な例とはまた別に、恐らくソーシャルファームを運営している人や関わっている人たちは、お互いにコネクションや関係を持てていない、あるいは関係を構築できていないということで苦戦していらっしゃる、そういうところもあるのかなという気がしました。間違っているかもしれません。

でも、とりあえず日本のソーシャルファームに関しては、その多くが基準を満たしていらっしゃるという印象。そうだとすれば次のステップとしましては、多分、連合体のようなグループを作って、もうグループ自体はあると思いますが、お互いをサポートできるような仕組みを作るということをお勧めしたいです。例えばあるソーシャルファームでうまくいったやり方があった。それを他のソーシャルファームにも共有して試してみることを勧めるとか、そういうことです。

私の経験でいうと、焦点を絞るということがとても大切なことだと思います。ちゃんと焦点を絞るとコミュニケーションも楽になりますし、お互いの負担も少なくて済みます。ですので、既に日本にあるものを土台に、非常に実用的で具体的な焦点を決めることが大事だと思います。

法規制に関しては、どんな法律が必要なのかを絞って考えることが大切だと思います。もちろん話し始めればきりがないのですが、まずはソーシャルファーム同士が手を組む。そこから次のステップを考えていくということです。それから法的な枠組み。もちろん既にお持ちだとは思いますが、皆さんの仕事がこれ以上複雑にならないような形で次の段階に進めていくことが必要だと思います。

キース●皆さんがおっしゃったことの繰り返しにならないようにしますが、クォータシステムがないイギリスから来ますと、日本でのこのやり方というのは大切になさるといいと思います。私が日本での関係者だったとしたら、金曜日に拝見したソーシャルファームに関する数字を見ましたが、すべての組織が障害者の雇用率2%を満たしていないということがわかりました。その場合には罰金が科せられるということも聞いています。もちろん民間企業の中には2%を雇用するのも難しいというところもあるでしょう。だとしたら、例えばそういった民間企業がソーシャルファームと組んで罰金を払う代わりに、ソーシャルファームの立ち上げに対して助成をしますよ、支援金を出しますよというようなやり方もあるのかなという気がします。

あとは、各ソーシャルファームが政府とちゃんと連携をとっていくことが必要だと思います。日本の議員の方たちも前向きな方々が多いと伺いましたから。これはすばらしいことだと思います。

それから、これまで拝見したソーシャルファームは、割と成功しているので、日本ではソーシャルファームを立ち上げるにはよい土壌があるように思います。ただ、ソーシャルファームがあるからイコールそれで問題が解決されているということではないと思います。ソーシャルファームだけでなく、その他の組織も障害を持つ人たち、難しい立場にある人たちが仕事に就けるような取り組みをこれからも続けていくべきだと思います。このためにはコミュニティや一般社会にソーシャルファームとは何か、ソーシャルファームの精神というものを周知していく、難しいですが、2%の雇用を達成できていない大企業からではなく、ソーシャルファームの製品を買ってもらうようにするとか。今回、日本は初めてお邪魔していますが、既に非常に成功している組織もあるので、ここからお互いに学ぶことができたらいいのではないかと思いました。

寺島●いろいろと貴重なご意見をいただきました。また将来に反映できるのではないかと期待しております。

それでは最後に炭谷先生からまとめをしていただきたいと思います。お願いします。

炭谷●皆さま方、長い間、ありがとうございました。特に3人のパネラーの方、大変適切なご助言をいただいて大変うれしく思っております。一言で私の総括的な感想を述べさせていただきますと、大変勇気づけられた、というのが結論でございます。というのは、やはり日本にはソーシャルファームをもっともっと進めなければいけないと思いました。ドイツにしろ、イギリスにしろ、フィンランドにしろ、ソーシャルファームが経済的・社会的構造変化の中で大変必要になっている。そして役割を果たしているということ知ったわけであります。

例えばフィンランドでは残念ながら失業率がやや高い。そのためにもソーシャルファームというものが機能している。それからイギリスはまさに金融危機以降、リーマンショックのときだと思いますけれども、ソーシャルファームの役割が果たされてきた。

また、ドイツはむしろ障害者などの人権の拡大という社会的な要求ということで進められてきた。このような経済・社会の構造変化。日本もまったく同じなのです。日本にもソーシャルファームというものがないと障害者をはじめ問題を抱えている人たちの人間の尊厳性が十分に保てないのではないかなというふうに考えているわけでございます。

レンプロイモデルが崩壊をしたわけでございます。これは非常に象徴的で、これは別にイギリスだけの話ではないと思います。日本にも同じような状況が迫っているのではないかな、と思います。と申しますのは、やはり社会保障予算は抑制傾向になっております。私自身、肌で感じますけれども、例えば今年の1月から入りまして、例えば大変伸びているはずの介護施設がですね、倒産は昨年度の2倍のスピードで閉鎖をしているわけでございます。特別養護老人ホームも同様であって、特養がなぜつぶれるのかというふうに言われますと、特養についてもかつては待機高齢者がいっぱいいるのではないかと言われましたが、今は特養の定員に常に空きが生じるという段階になっていて、経営は大変苦しくなっております。半分以上は赤字に陥っていると。これも現在の社会保障予算がかなり厳しくなってきているからでございます。

このような状況で、本当に障害者や刑務所からの出所者、ホームレス、いろいろとたくさんの人がいらっしゃいます。今日は例えばユッカさんから、ターゲットはたくさんあるけれどもそれぞれに応じた対策をきめ細かにやらなければならないと。そのとおりですね。ひと括りに対象者としてまとめて対応するのは誤りだろうと思いました。

それからシュワルツさんからは、ネットワークの協調性。確かにそのとおりで、私どもソーシャルファームジャパンで何とかそういう役割を果たそうと思っていますけれども、まだまだ力不足なんだろうと考えております。

キースさんからは、政府や企業との連携が重要だと。確かにこのようなところとの連携があれば大丈夫です。我々日本でもいろいろな志さえ高ければいろんな企業が応援をしてくれます。既に私どももいろいろな大企業からいろんな援助をいただいているケースも多いんですけれども、さらに企業等の支援の輪を広げていきたいというふうに思っています。

このように今日は、総括すると大変、やはり頑張らなくちゃいけないなと。日本におけるソーシャルファームの設立に向けて励まされた、勇気づけられたというのが今日の結論でございます。

寺島●ありがとうございます。ではパネルディスカッションはこれで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。