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自立生活 国際フォーラム 日本語版

第2分科会資料:当事者提供サービスは社会福祉に何をもたらすか
介護保険、社会福祉基礎構造改革の動向とその問題点をもとに

明治学院大学  茨木 尚子

 社会福祉制度が大きく変わろうとしている。一つは2001年から高齢者保健福祉に導入されようとしている「介護保険」である。そしてさらに、これまでの公的福祉中心の社会福祉サービスのあり方を根本的に見直そうとする「社会福祉基礎構造改革」についてその方向性が示された。介護保険にしても、それを支える基礎構造改革にしても、その目的には、「利用者中心主義」「コミュニティケア」がうたわれている。
 一見、社会福祉の今後はバラ色にも見える。しかし本当にそうだろうか。一方で介護保険、基礎構造改革の根底にあるのは、増大する保健福祉サービスの公的負担の軽減であることはまちがいない。サービスを利用する当事者としても、これらの改革の動きに敏感になり、積極的に意見を述べていく必要があるだろう。その意味で、まず公的介護保険について、障害者分野に適用された場合の問題点を考えてみたい。(これは高齢者にとっても十分に問題である部分なのだが…)今、介護保険では、ケアマネジメントをどうするか、だれが担うかという部分に論議が集中している。もちろん、サービスをいかに個々の利用者に提供するかの鍵を握るケアマネジメントを論議することは重要なことである。しかし、ここで確認しておかなければならないのは、介護保険のケアマネジメントは、すでに介護認定で決定している要介護度に基づいて支給される保険料をもとに行うマネジメントであり、イギリスのケアマネジャーのように、サービス実施の決定権をもってこの仕事にあたる訳ではないということだ。そしてケアマネジメントの前提となる介護量を決める介護認定の方法は、明らかに医療モデルである。そ れは、一個の人間としてADLがどう自立しているかを問題にしている。これまで自立生活運動が主張し、障害者保健福祉分野では国際的に認知されてきている、生活モデルに基づく障害のとらえ方はそこにはみられない。ケアとは何か。それは生きていくためのケアだけでなく、積極的に社会参加するためのケアも当然含まれるべきではないのか。何時間もかけて食事や身繕いを一人ですることより、その部分を介助に委ね、残りの時間をその人にとって最も意義のある活動に費やすことが価値があるのだと、これまで自立生活運動は主張してきた。我々は、その考え方に基いた障害者のコミュニティケアの基盤を介護保険といううシステムに委ねていいのだろうか。当日のシンポジウムでは、これを論議してみたい。
 障害者のコミュニティケアを考えていく時、施設に暮らす障害者をどう考えるのかということもまた大きな課題である。知的障害のある人々では、成人の3人に1人は施設で暮らしている。療護施設で暮らす障害者も年々増加しているのだ。社会福祉分野で働く人々の半分以上が「施設」職員なのも事実である。施設をどうするのか、そこで暮らす人々の暮らしをどうするのかを抜きにして、障害者のコミュニティケアは語れないであろう。施設で暮らす人々を視野に入れながら、これからの障害者福祉サービスはどうあるべきか、その中で専門家と障害当事者の果たすべき役割は何かを考えていきたい。