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日本でのADHD当事者の活動
―もう回り道はやめようー

白井由佳
NOP法人 大人のADD/ADHDの会 理事長

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年2月号掲載

コピーをとれば曲がってしまう、お茶をくめばこぼしてしまう。部屋は一年中散らかっていて、洗濯物も干すことができない。わたしは数年前までそんな、ダメ「OL」ダメ「主婦」だった。仕事も結婚も失敗し、鬱に苦しむシングルマザーとして毎日悶々と過ごしていた。そんな私を救ったのが「ADHD注意欠陥多動性障害」という診断だった。

「整理できない。」「忘れる。」「なくす。」「遅れる。」「気が変わる」「衝動的」「完了しない。」そんな性質は、専門医の診断によると、本人のせいでも心のせいでもなく神経化学的な障害で脳の情報伝達システムが安定していないため。システムが安定していないので、頭の情報のフィルターが開きっぱなしで、混乱しやすく疲れやすく、その結果モノも散らかってしまう。だらしがなくって、ぐうたらなのに落着きなくって、そそっかしいのも一度に沢山のことに手を出してどれも完成しないのもすべて脳の中でやりとりしている情報物質がうまく働いていないためだったらしい。診断がでると私は大きな安堵感と解放感が沸いてきて、これから先のことに再び希望が湧いてきた。

原因さえ分かれば後はそれを取り除けばいいだけだ。もう無駄な回り道的努力はしなくてもいいのだ。一気に鬱な気持ちも吹き飛んだ。

診断後私はADHDのウェブサイトを設立し、成人ADHDのための自助活動に乗り出した。それまでとは違って、自分の日常でもADHDという視点から苦手なことに対処した。その結果、少しずつだが、生活は円滑にまわりはじめた。気持ちにもゆとりを取り戻すことができるようになったのである。これは私だけではなく、WEBに集る多くの仲間たちにもいえることだった。

しかし、日本ではまだほとんどADHDについては認知されていない。ADHDの性質を「怠け病」「やる気がないだけ」「努力不足」として片づけている。ADHDを診断できる専門医の数すら日本では極端に少ないことに原因があるのだろう。東京のある専門医にかかるのは、予約から初診まで5-6年待ちといった状況もあるくらいだ。仕事や家庭や学校で、本人の生まれつきの能力に限界があり、並々ならぬ苦労をしている人間たちが大勢いるのに、我が国では、ほんの一握りの専門医しかいないのだ。行政への認知など、まだまだ暗黒の途上だ。

ADHDを免罪符として社会人としての役割を放棄するつもりは全くない。ADHDを足がかりにして、「本当の自分を知る努力」をして「潜在能力を開花」させ、社会貢献したいと考えている。私はその後、ADHDを持つ者として、当事者たちへの支援と社会認知のためのNPO法人を設立した。

現在NPOでの活動の中心は、自助活動グループの運営である。ミーティングやサロンなどの自助活動は、お互いの向上のために何よりも大きな助けになり、実際、回を重ねるごとに、その有効性は確認され、参加者たちからの反響も大きなものになってきている。今はまだ、一部でしか活動はしていないが全国各地にそれぞれカラーが異なる様々なグループがあるべきだと考えている。主婦グループ、学生グループ、お片づけグループ、シルバーグループ・・・・・・・等、

ADHDは多種多様な個性がある。自分が必要とするグループを、自分達の手で作り、そして、そこからお互い学びあい成長しあってゆければと思っている。

また自助活動から発展させて、ADHDの手による事業などににつなげられたら、当事者の能力を発揮することができるだけではなく大きく社会貢献、社会認知にもつながってゆくだろう。

私はそのような積極的な活動の輪を広げることを、今後の大きな目標にしてゆき、当事者が自分らしく生きることが出来る世の中を実現させて行きたいと思っている。

社会がADHDを認め、ADHDの能力が存分に生かせる世の中になったら、ADHD以外の障害者やマイノリティにとっても、生きやすい世の中になるはずだ。社会が変われば、障害ではなく個性になるのである。

NPO法人大人のADD/ADHDの会は、下記のホームページをご覧ください。

http://www.adhd.jp/