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アートビリティ  ビジネスアプローチを障害者アートに

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年8月号掲載

ビジネスアプローチを障害者アートに

この記事はデイビッド・スタックバリー氏が取材、レポートを行い、(財)日本障害者リハビリテーション協会がディスアビリティ・ワールドに投稿しました。

アートビリティの戸原一男氏は、2つのことを明確にしている。ひとつは、東京アートビリティはチャリティを目的とした団体ではない、ということである。政府からの助成金は最小限で、基本的には営利団体であり、障害者のみのニーズを満たすのが目的ではなく、他のビジネスと同じように利益を追求している。良い作品であればアーティストの利潤となり、何よりアーティストとしての扱いを受けるということを保障しており、この点がアートビリィティをこの分野でのトップと位置づけている理由である。

アートビリティの親団体である社会福祉法人東京コロニー(1986年設立)はもともと印刷業に携わっていた。印刷物に必要なイラストを描く人が必要になり、東京コロニーで働くアートの才能のある障害者の作品を採用しようという発想が生まれた。

太田利三の絵「タイトルなし」
秦美紀子の絵画「フラワーショップ」

成功し利益を生み出すことができるかどうかは確かではなかったが、このアイデアに賭けた。東京コロニーではたくさんの障害者が働いていたが、このアート事業を始めるにあたっては多数の養護学校などにダイレクトメールを送って作品を集めようとしたが、はじめはうまくいかなかった。障害者の教育機関や施設は、雇用と教育は別問題であると考えていたため、めったに返事が返ってこなかった。

アートビリティは、才能のあるアーティストを惹きつけようと苦戦し、その歩みは必ずしも容易ではなかった。しかし、これはビジネスであり、お金をもうけ、得たお金がアーティストに支払われるという当初の理念を貫いたことが成功した秘訣だと戸原氏は語る。

東京コロニーはメディアとの関係が深かったこともあり、アートビリティの試みはテレビでも紹介され、今では100人以上の障害者アーティストを抱え、3000もの作品が出版物などに使用されている。

では、その作品とはどこが良いのだろうか?カレンダー、絵葉書、ワインのボトル、ジャムの瓶などなど、私の前に並べられたアート作品の数々。強い印象を与える明るい色彩、そして陽気さ、たとえば動物など…。人生にとって大切なことへの回帰、つまり、愛、友情、自然に溢れている。

太田きよしの絵「海を見たよ」

アートビリティのアーティストたちは様々な障害を持っており、それ故それぞれの作品の違う良さを引き出している。特筆すべきは、白血病患者の小池氏の作品である。非常に洗練された作品はダリの作品と比べることができる。長い間捜し求めている人生の意味を強調している。破壊された町、テーマパーク、母子像、理想の世界など小池氏の作品はよりアクセシブルで温かみのある描写となっている。作品の深みと想像力は、おそらくはかり知れない困難な歩みが反映されているのだろう。

別のアーティストは、交通事故の後遺症のため、遠近法を使って絵を描くことが困難になった。彼の描いた猫は、平面の池で泳いでいるたくさんの魚たちを見つめている。遠近法を使わずに書いた彼の作品は、それゆえにとてもユニークでいとおしいと思わせる。彼はもともと絵を描く人であった。「事故に遭い、厳しいリハビリを経て、よりわかりやすく、近づきやすい絵を描くようになった」と彼の妻は語った。しかし、彼は自分自身の作品にまだ満足しているわけではない。

さとなかちえの絵「赤い町ねこ」

アートビリティのシステムは、原画をフィルムにストックし、作品が様々なメディアで使用され使用料を得ることができるようにする。障害のためたくさんの絵を短期間に描けないアーティストにとっては、作品をギャラリーや競売で売るよりも利益が得られる。オリジナル作品を売ってもせいぜい5万円、カレンダーで2万円ほどの収益にしかならない。しかし、出版物に使用されると10万の60%が画家の利益となる。このように、作品が何度も使用されると、繰り返してアーティストの利益になることが特色である。

アートビリティは作品の使用目的に応じて、絵をセレクトする。また、アーティストやアーティストの家族(知的障害者の場合)とよくコミュニケーションをとる。審査会を2ヵ月に1度開き、作品を審査する。審査員は、活躍しているグラフィックデザイナーなどで、作品が優れているという点だけではなく、商業性があるかどうかを判断する。また、審査員はセールスにも責任を持っているので、審査する目はおのずと厳しくなる。アートビリティに送られてくる作品は1回の審査で100点くらいあるが、そのうち審査に通るのは10%くらいである。

小池誠の絵画「慈愛」

東京コロニーは、デジタルメディアセンター、障害者のワークショップなど8支部からなり、縫製・製袋・防災・安全用品等製造販売事業、メールサービス事業等を行なっている。現在は“e.com”という新たなプロジェクトに着手している。子供たちの作品の最大のデータベースを目指し、障害のある子どもたちの作品を、インターネットという新しい発表の場を通じて、公開することが特徴であり、将来的にはアートビリティのように商業ベースにしていく構想である。

アートビリティでは、ほとんど作品の展覧会を行なわないが、年に1回銀座で展覧会を開き、訪れた方々に作品を楽しむ機会を提供している。展覧会を訪れた人々の反応を戸原氏に伺うと、このような答えが返ってきた。「魂がいやされ、心が暖まったという方が多いです」

アーティストが描いた数々の作品を見せてもらいアートビリティをあとにしながら、私自身もその言葉に全く同意せざるを得なかった。