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だれでも楽しめる映画にするために

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年4月号掲載

 話題の映画をタイムリーに、しかも臨場感あふれる劇場で見たい。映画好きならだれしも思うことである。ほとんどの映画はビデオになり、自宅でも楽しむことができるが、映画館ならではの迫力をホームシアターで味わうことはできない。最近では、日本でもスロープで車イスが通れる入り口や車イス用のトイレがある映画館は増えており、中には2階建ての劇場を車椅子で移動できるように、エレベーター完備の劇場もある。
しかし、劇場内に車イス専用スペースを備えている映画館はまだ少ない。京都のある映画館では、車イススペースとして鉄パイプで囲んだスペースを場内に設けている。映画好きで、映画館によく通う車イス利用者、橋口さんは、「一緒に見る妻と私の間は、鉄パイプで邪魔をされてしまう。映画を観るということは、いっしょに驚いたり、泣いたり、共感すること。大きなポップコーンを2人でつっつく、これも映画の楽しみ方だと思うのです」と語る。障害者に配慮したバリアフリーな設備が大事なのは言うまでもないが、本来の楽しみ方ができる場所を提供していくことはさらに大事なことではないだろうか。
 視覚障害者で映画館に出かけていくという人は多くはないかもしれない。しかし、それは、視覚障害者が映画を鑑賞したくない、というのではなく、興味があっても実際にはセリフにたよるしかなく、場面の状況を想像でしか判断することができないという現実がある。洋画となるとなおさらだ。
試写会などで副音声ガイド付きのバリアフリー上映会が行われることもあるが、その数はとても少ないのが現状だ。
なぜなら、視覚障害者のための解説付き映画は、技術的な問題がある。字幕付き上映は字幕付きフィルムを流せばいいだけだが、解説は録音自体をやり直さなければならないので作るのに費用がかかりすぎる。
 この様な中で、バリアフリー洋画上映推進団体City Liimgtsは映画の良さ、面白さは“映像がすべてではない、「見ること」がすべてではない”と考え、視覚障害者に映画を楽しんでもらうためユニークな活動をしている。City Liimgt代表の稲葉千穂子さんは、自分自身が落ち込んだとき映画によって希望を与えられた。映画館にある、独特な雰囲気、みんなが感動を共有し、それぞれの想いをいだきながらエンディングテーマに酔いしれる、このような体験をぜひ、視覚障害を持つ人に劇場で味わって欲しいとの想いから、City Liimgts独自の方法でバリアフリー映画を実現させている。
 そのひとつが同行鑑賞で、事前に映画のキーワードや登場人物のキャラクター、時代背景などを調べておいて、映画を観る前に視覚障害者に説明し、映画が始まるとセリフのないところの状況説明をする。2001年の夏、爆発的にヒットした「千と千尋の神隠し」を15人の視覚障害者と観に行った。それが好評で、毎月やって欲しいという要望があり、「陰陽師」や「ハリー・ポッター」(日本語版)の鑑賞会も行った。最初は、ぶっつけ本番でやっていたが、それだと登場人物の名前すら出てこない。ある程度の予習とわかりにくい場面での解説が必要だと反省し、簡単なマニュアルを作成することにした。基本的にはマンツーマンでやりたいところだが、今のところ実際には視覚障害者2~3人にサポーターが1人でやっている。残念ながら、現在のところ、邦画か日本語吹き替え版でしかリアルタイムな形では観ることができない。旧作であれば、半年遅れで名画座などで上映するときに、あらかじめ作っておいた解説をMDで流しながら鑑賞することができる。このような形で上映にこぎつけることができたのが「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だ。しかし、大変な準備がいるし、上映中はずれの補正が必要なのでマンツーマンが鉄則である。
また、音声ガイドの研究の中で、「聴き心地のよい、わかりやすい」音声ガイドにするために、実際に視覚障害者にモニターしてもらったり、いっしょに言葉を考えてもらったりしている。音声ガイドは「うるさ過ぎず、わかりやすく、雰囲気を壊さない解説」、そして「作品に忠実で、想像(イメージ)を助けるに十分な解説」を目指している。
さらに、視覚障害者に映画への好奇心を広げてもらうため、家庭でのビデオ鑑賞のサポートや、映画関連情報の提供を行い、トータルで映画鑑賞のサポートをしたり、映画のバリアフリー化を推進するために、各地の上映会や映画際などに働きかけも行っている。
 調布映画祭で上映した映画のひとつ「風とともに去りぬ」は、実際に6人の全盲の方が字幕朗読に参加している。スカーレット役を演じた美月めぐみさんは、「ビビアンのキュートな雰囲気をできるだけ壊さずに再現するのに苦労した」また、メラニー役の永澤美智子さんは「たびたび楽しんできた作品にも関わらず、これまで全然気づかなかった面白いシーンや重要なシーンがたくさんあったことに気づき、この作品が数倍おもしろくなった。」と語り、二人とも字幕録音をとても楽しんでいる。永澤さんは、「適切な説明や字幕録音があれば、視覚障害者でもかなり映画鑑賞が楽しめることを実感した」という。また、美月さんは、「簡潔な音声ガイドと字幕朗読が一つのイヤフォンから流れてくるような仕組みが、どの映画を観にいっても用意していただける状況ができあがるとうれしい」と希望している。
 稲葉さんは、将来的にはバリアフリー映画館を設立したいという夢をもっているが、当面の目標はCity LiimgtsのNPO法人化。「いつまでもボランティアが担っていけばいいということではなくて、副音声の製作が、仕事としてプロ意識を持って取り組めるようにしたい。ビジネスとして確立させることで障害者へのサポートが広がるというのが日本の体質だと思う」と語る。