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患者中心のアクセシブルな医療をめざして

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年11月号掲載

病院の敷地にある緑あふれる広大な庭園

 2002年9月6日、静岡県の富士山の裾野に新しく県立のがんセンターがオープンした。総額580億円かけ、様々な最新設備を備えている。がん治療専門病院としてこの病院が目指すのは、がん治療における世界のトップのみならず、「患者中心の世界一のがんセンター」である。今回は高齢者・障害者に考慮したこの病院の工夫に焦点をあてて紹介していく

3本の柱

山口建総長は、静岡がんセンターの3つの柱、いわば、“患者との約束”を明確に語る。1つは「がんを上手に治す」こと。迅速に、苦痛を少なく、身体機能を損なわずにがんを治すこと目指す。世界でも最新の陽子線治療施設を別棟として建設した。2つめは、「患者と家族を支援する」こと。後述する様々な配慮はこの約束によるところだ。また、がん摘出などの手術の結果、障害が発生した方々の心のケア、リハビリ、社会復帰支援に力を入れる。山口総長は、「私たちは、がん治療の目的から、時にはやむを得ず障害者を作り出す立場にあります。しかしながら、その程度を軽くし、残存機能を十分に生かし、退院後の生活の質を高めていくのが、私たちの重要な役割です」と語る。また、リハビリテーション科部長の辻哲也氏は、「リハビリのみならず、退院後の社会生活をスムーズにするために、患者さんの学校関係者と面談を持ち、障害を理解してもらう機会を持ち、協力して患者さんのサポートについて話し合います」と地域と連携して支援を行うことの大切さを訴える。3つめは、「成長と進化」。最高のがん医療を行う病院として、常にスタッフが向上心を持ち続け、最先端の診断・治療法の開発、がん免疫療法や看護技術の研究に力を入れている。

徹底したユニバーサルデザイン

バリアフリーな建築は言うまでもないが、真のユニバーサルデザインを追及するこの病院では、病院を訪れる方々への徹底した配慮を心がけている。病院に着くと入り口の前でにこやかなボランティアが誘導してくれる。ボランティアの数は、70名。全員、8日間のトレーニングを受けており、病院内で適切に患者さんに応対し、案内をする。また、ガーデンホスピタルの異名を持ち、イングリッシュガーデンや、1600本が植え込まれたバラ園、池や緑あふれる庭園が生命のいぶきを感じさせ、患者さんに心の癒しを与え、治療への意欲を高める。病室のデザインには看護師の意見が生かされ、機能的であるばかりではなく病室を感じさせない温かみのあるつくりになっている。また、廊下の壁に描かれたアート作品はすべて自然の染料を使って仕上げられ、心をなごませる。

ホールの壁にかかっている植物をモチーフにしたアート作品
広いホールに置かれたグランドピアノ

IT活用

ITを利用した病院情報システムを導入し、最善の医療を医師、看護師など総合的なチーム医療によって提供する。紙のカルテは排除し、電子カルテに1人の患者の治療にまつわる情報を書き込む。ここには患者本人や家族からの訴えも入っている。電子カルテの中には掲示板もあり、医師、スタッフが書き込み、情報を交換の場にもなっている。また、患者の許可があれば、開業医とがんセンターで、電子カルテのやりとりができる。また、1人1台あるタッチパネル付のベッドサイド端末によって、患者はさまざまな情報を得ることができる。血液検査の結果や、治療の説明、疾患別情報を見たりできるばかりではなく、食事のメニューオーダーを変更したり、病院内図書館の蔵書を検索したりすることができる。また、ラジオやテレビとしても利用できる。

よろず相談

 病院が市民に提供するサービスのひとつに「よろず相談」がある。病気に関してどんな小さな悩みも気軽に話せるよう無料電話相談窓口を設置している。相談の内容に応じて、医師、看護師、薬剤師、栄養士、福祉関係者、リハビリテーション関係者などが答える。また、Eメールでのやりとりや、予約をしてセカンドオピニオンを得ることも可能だ。

患者図書館

 もうひとつ特筆すべきことは、日本で初めて、病院内に専任司書つきの患者図書館を設置したことである。2000冊の図書のうち、500冊は医学書で、病気のことを自分でも調べたいという患者や家族のニーズに対応している。視覚障害のある人のために、大活字本も備えている。リクエストがあれば、図書を仕入れてくれる。蔵書検索用パソコン2台、インターネット用2台を備え、2つのビデオ室があり、ここでビデオを鑑賞することができる。

病院内のあすなろ図書館

図書館内にはセミナー室もあり、医師や専門家が患者や家族を対象に勉強会を開くことができる。総ての人に開かれた図書館で、外来患者や、病院職員、一般の人も利用が可能だ。病院がオープンする3年前からこの図書館のアドバイザーを担当してきた菊池佑さんは、「これからますます蔵書を増やし、この図書館を訪れる方々に、医療情報とともに、文化をお届けしたい」と司書としての意欲を語る。

このようなすべての病院の機能が作用し、患者中心の医療が実を結ぶ。往々にして忘れられがちな患者本人、高齢者・障害者本人の心のケアの問題に、このような医療施設の取り組みが大きなヒントになるのではないだろうか。

静岡がんセンターのウェブサイト
http://www.scchr.jp/