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ココ・ファーム・ワイナリー

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2003年4月号掲載

ココ・ファーム・ワイナリーは東京から車で3時間ほどかかる栃木県足利市山間部にある。ここは一般にも公開しており、訪れる人はウェルカムドリンクとして「NOVO」という本格的シャンパン方式でつくられたスパークリングワインを楽しむこともできる。NOVOは2001年7月の沖縄サミットで総理主催の夕食晩餐会のときに使われたものと同じだそうである。緑色のNOVOのボトルには視覚障害者の方にもわかるように点字でも標記されている。ボトルにつけられたラベルには次のような文章を読むことができる。

陽はのぼる。美しき泡、たちのぼる。

「のぼ」は、膨大な年月と手仕事から生まれた泡立つ美酒です。

1950年代、少年たちの手で開かれた急斜面のぶどう畑。

このぶどう畑の古い葡萄の木に実った粒よりの葡萄を原料に、山の熟成庫でビン内二次発酵やルミュアージュをはじめとする本格的シャンパン方式でつくりました。

NOVOを楽しみながらカフェテラスから見上げると、見渡す限りの急斜面がぶどう畑である。車などは使えない。このブドウ畑の世話をするのは、隣接するこころみ学園の生徒たちだ。こころみ学園は知的障害者の入所更生施設である。ぶどう畑は彼らの身体を動かす訓練の場所であり, 働く場所である。「園生にとってはとても良い訓練になると考えたわけです。」と、こころみ学園の園長先生である川田昇氏は語る。

1958年、当時中学の特殊学級の教員だった川田昇先生と特殊学級の子どもたちが2年がかりで急斜面3ヘクタールを開墾した。その10年後、手づくりのバラックで先生以下9人の職員が寝起きしながら、市・県・国の補助金を受けずに自分たちの手で学園の施設づくりを始めた。1969年、30名収容の社会福祉法人「こころみ学園」を設立した。設立のねらいは、知的障害者が山の斜面を使った機能訓練、質素な生活を通した情緒訓練、そして、ぶどう栽培、しいたけ栽培、植林、除伐、間伐、下草刈り等の作業を通じて助け合い地域になくてならない施設をつくることである。現在、職員が44名。17歳から84歳の生徒90名が共に暮らしている。

1980年、園生の自立のためにこころみ学園の考え方に賛同する父兄の出資により有限会社ココ・ファーム・ワイナリーを設立。1984年に醸造の許可を得てワインづくりをはじめ、その年12.000本を出荷した。こころみ学園の生徒たちは虫を避けるためにぶどうの房を包んだり、からすを追い払うためにぶどう畑をみまわる。収穫をし、ボトル詰めを手伝う。障害が比較的軽い生徒達は、ぶどうを押しつぶす機械の操作も手伝う。

1989年にはワイン用のぶどう畑2ヘクタールを佐野市に開墾し、カルフォルニアのソノマに5ヘクタールを確保した。また同年、ココファームでの質の高いワイン造りをめざした川田氏は、カルフォルニアのナパバレーの”ワインづくりの問題解決屋”ブルース・ガットラブ氏を6ヶ月間という約束で招聘した。

足利に来てみて、彼は日本のワイン造りの難しさを理解した。土地と気候に問題があった。主要なぶどう品種は日本の甲州産で、その味わいよりも病気に強いことで好まれていたことも知った。6ヵ月ではとても解決しそうも無く、今も挑戦を続けて今日に至っている。彼にとってのワインづくりとは、まずこころみ学園の生徒であり、そして次にワイン醸造であるという。来日以来、6年間をこころみ学園で生徒と寝食を共にしたこともあり、生徒の自立を助けようとする彼の強い信念を感じる言葉であった。

カットラブ氏は、川田氏をはじめ、川田氏の娘である越智さん、ココファームの専務である池上さんといった日本人チームと一緒に頑張り、ワイン作りの問題解決策を見いだしていった。その結果、1992年から甲州種のぶどうを使った本格的なシャンパン方式のスパークリングワインをつくりだし、それをNOVOと名づけた。そしてオークバレルワイン、甘口のデザートワインであるヴィン・サントなどすばらしいワインを造りだしていった。このようにして、ココ・ファーム・ワイナリーは知的障害者の自立とコミュニティビジネスとを結びつけて今日に至っている。

現在、ココファームは1年間に150,000本のワインを生産し、インターネットでのオンラインショッピングも可能である。以下のホームページでより詳細な情報が得られる。

http://www.cocowine.com