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Community Dance for All

(財)日本障害者リハビリテーション協会

項目 内容
備考 Webマガジン ディスアビリティー・ワールド 2002年9月号掲載

 「コミュニティダンス」と聞いて、どんなものかを想像できる日本人はほとんどいないだろう。それもそのはず、一人の日本人女性が英国で学び、約3年前に日本での活動を立ち上げ産声をあげたのである。
現在、ダンサー、振付師として活躍している南村千里さんは、生後7ヶ月の時、髄膜炎の治療に用いたストレプトマイシン注射の後遺症のために、聴力を失った。ダンスは聞こえない自分には全く無縁と思っていたが、大学時代、英国より来日したコミュニティダンスのワークショップに参加し、踊ることの楽しさを実感したという。1998年、英国ラバンセンター(ロンドン)に留学し、コミュニティダンスについて幅広く学び、英国各地、オーストリア、ポーランドなどで実践を重ねた。

「コミュニティダンス」とは?

 演劇やダンスなどのアートは、限られた人たちだけのものではなく、もっと市民に開かれ、理解されるべきで、年齢、性別、ジェンダー、国籍、障害のあるなしに関わらず、どんな人でもアートを楽しむことができる、それがコミュニティアートの考え方であり、そのひとつが「コミュニティダンス」である。イギリスでは、第二次世界大戦の頃コミュニティダンスが始まり、現在は企業の社員研修に取り入れられたり、服役者を対象としたプログラムにもなっている。

日本でのコミュニティダンス

コミュニティダンスを練習する人々

 実際に南村さんが行なっているプログラムのひとつは次のようなものである。
参加者のほとんどは、言語療法および、非言語コミュニケーションを専攻している学生で人数は15名程度。2時間のプログラムは最初から最後まで2人づつのペアを組んで行なう。プログラムの間、何回かペアをチェンジした。最初の40分間は、お互いの身体のマッサージに費やした。背中、肩、腕を中心にゆっくりと時間をかけてマッサージしあう。最初はぎこちなく、なかなかリラックスできないが、そのうちに体がほぐれてくると緊張感が解けてくる。からだが十分に温まると、いよいよダンスがはじまる。ダンスといっても音楽はなく、ペアの一人は目を閉じて、相手のさしだした腕に軽く手をのせ、相手の動きに完全に身を任せて動く。南村さんの言葉を借りると、「ふれあっている手で相手に耳を傾ける」のである。ひとつの動きが終わると、必ず「何を感じたか」をみんなで語り合ってもらう。「私は相手にこうして欲しいと思って動かしているのに、相手は望んだように動いてくれない」「相手が私に身を任せているのが伝わり、こちらも一生懸命になった」など様々な率直な感想が飛び交う。南村さんは、指導したり、アドバイスをしたりすることはない。「話し合う」ことを大事にし、みんなが何を感じているのかを知ろうとする。2時間のプログラムでは、人間同士のコミュニケーションの原点に立ち返ることに重点がおかれている。すなわち、言語以外の方法で、相手に真剣に語りかけ、共鳴する、そこから生まれる信頼感を大切にしていくということを学ぶ。STの参加者は、「実生活において、相手とコミュニケーションする場合、自分をしっかり表現することが大事だと気づいた。とても自然に自分を表現する方法をこのプログラムで学んだ」と語る。

 このプログラムはからだを使って自分と他者と社会の関係を促す「コミュニーケーションプログラム」とよばれるもので、この他に学習をより効果的にするためにダンスと芸術を活用する「ダンスエデュケーションプログラム」やテクニックを磨きながら作品づくりを行なう「ダンスパフォーマンス」など多岐にわたるプログラムを提供している。コミュニティダンスはそれぞれの対象に応じたプログラムを個別に作っていくので、高齢者や子どもたちにも無理なく参加できる。2001年には、詩人の谷川俊太郎さんと地域の子どもたちのコラボレーションをおこなった。子どもたちが谷川さんの詩の中から好きな作品を選んで、ダンス作品を創り、谷川さんの朗読とともに踊った。

ベースはコミュニケーション

 南村さんは現在、参加する対象の要望に応じたプログラムをたて、各地でワークショップを行なっている。南村さん自身は、聞くことができないので、手話通訳が毎回同伴するが、南村さんは音声言語で語りかけ、手話のできない参加者の声を手話通訳者が通訳する。このようなコミュニケーションがはじめての人にとっては、最初戸惑いを感じる。しかし、この距離がかえって、お互いの意思を伝えようとするコミュニケーション能力を高めていく。「コミュニティダンス」は他者とのコミュニケーションがベースとなっているのだ。

これからのこと

 現在、南村さんが特にしたいと思っていることは、第一に、日本で「コミュニティダンス」を多くの人に知ってもらうこと。多くの日本人は人間関係でストレスを感じており、自己表現を苦手とする人も多い。バーチャルな付き合いではなく、相互に「からだ」を用いて、コミュニケーションすることにより、相手と自分の存在をよりリアリティをもって確認することができる。また、身体に障害のある人、ない人が参加する場合、お互いのできること、できないことを認識し、補い合うことができる。第二の目標は、「コミュニティダンス」をいろいろな場所で行なうことである。会社、学校、さらにはまだほとんど「コミュニティダンス」が知られていないアジアに行って異文化交流を行なうことも考えている。
「頭で考えることと、体の動きとは、全く違う。からだをつかって語りかけることにより、相手をもっと理解したい、理解されたいという意識が高まる」と南村さんは語る。
日本でどのように「コミュニティダンス」を知ってもらい、広めていくことができるのか、南村さんは現在模索中である。